判例検索β > 平成31年(ネ)第10005号
特許権侵害行為差止請求控訴事件 特許権 行政訴訟
事件番号平成31(ネ)10005
事件名特許権侵害行為差止請求控訴事件
裁判年月日令和元年7月24日
法廷名知的財産高等裁判所
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成29(ワ)18184
裁判日:西暦2019-07-24
情報公開日2019-08-07 14:00:19
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令和元年7月24日判決言渡
平成31年(ネ)第10005号

特許権侵害行為差止請求控訴事件(原審・東

京地方裁判所平成29年(ワ)第18184号)
口頭弁論終結の日

令和元年5月27日
判控訴決人
HOYATechnosurgical
株式会社

同訴訟代理人弁護士

控訴人原潤梶被北一並
彰一郎

オリンパステルモバイオマテリアル
株式会社

同訴訟代理人弁護士

古城春実堀籠佳典岡田
健太郎

主文1
本件控訴を棄却する

2
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由

第1

控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
被控訴人の請求をいずれも棄却する。

第2

事案の概要等(略称は,特に断らない限り原判決に従う。)

1
本件は,名称を骨切術用開大器とする発明に係る特許権(特許第4736091号)を有する被控訴人が,控訴人が製造,貸渡し及び貸渡しの申出をしている原判決別紙物件目録記載の骨切術用開大器(被告製品)は,上記特許権の請求項1及び2に係る発明(本件発明)の技術的範囲に属するとして,控訴人に対し,特許法100条1項に基づく被告製品の製造,貸渡し及び貸渡しの申出の差止め,並びに,同条2項に基づく被告製品の廃棄を求めた事案である。

2
原判決は,被控訴人の上記各請求をいずれも認容したところ,控訴人がこれを不服として控訴した。

3
前提事実
前提事実は,次のとおり補正するほか,原判決事実及び理由の第2の2(原判決2頁8行目から7頁5行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。


原判決2頁24行目の発出し,を発出し,以下のとおり指摘した上で,と改める。


原判決4頁12行目の特許請求の範囲を特許請求の範囲における
と改める。

4
争点及び争点に関する当事者の主張
本件における当事者の主張は,後記5のとおり当審における補充主張を付加するほかは,原判決事実及び理由の第2の3(原判決7頁6行目から同頁14行目まで)及び第3(原判決7頁15行目から22頁2行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決18頁19行目の本件発明1を本件発明と改める。)。

5
当審における当事者の補充主張


争点1-3(被告製品が構成要件Eを充足するか)について
(被控訴人の主張)


構成要件Eにいう係合とは,係り合うこと,具体的には,2対の
揺動部材が同時に開くように係り合うことを意味し,そのように係り合うことを可能とする部分が係合部である。係合部は,特定の形
状のものに限定されず,また,いずれかの揺動部材と一体形成されることも構成要件Eにおいて規定されていない。


控訴人は,特許請求の範囲記載の文言,本件明細書における突起9の態様,本件明細書で部と部材を区別していることなどを理由
として,係合部は揺動部材の一部を構成するなどと主張する。
しかしながら,構成要件Eには,係合部が前記2対の揺動部材の一方の一部分として設けられるとの限定は存在しない。設けるとは,設置することを意味し,対象物の一部分であることまでは意味しないから,係合部が揺動部材の一方の一部を構成する必要はないと解するのが自然である。
また,本件明細書の

第2対の揺動部材3a,3bには…突起(係合部)9が備えられている。

との記載(段落【0015】)は,あくまでも本件発明の一実施形態を示したものにすぎない。
更に,本件明細書に,本件発明の一形態として,楔形部,凹部,ヒンジ部が揺動部材の一部分である形態が記載されていることは,部がすべて部材(揺動部材)の一部分でなければな
らないことの根拠とはならない。また,本件特許請求の範囲における2対の揺動部材の記載は,当該2対の揺動部材が部材とし
て別個のものであることを示しているのに対し,係合部は,揺動部材とは次元の異なる構成要素として規定されているから,本件特許請求の範囲における揺動部材と係合部との記載そのものからは,
相互の関係は何ら導かれない。
したがって,構成要件Eは,係合部がいずれかの揺動部材と一体

形成されることを規定するものではない。

また,控訴人は請求項4の記載を参照して請求項1においても係合部がいずれの揺動部材に設けられているか区別できることを要するなどと主張する。しかしながら,請求項4は,請求項3の限定を前提に,内側に係合する係合部が設けられている側とそうでない側を区
別する記載となっているだけであって,内側に係合するの限定のない請求項1の係合部の解釈とは関係のないことであるから,請求項1の係合部の解釈に請求項4を参酌することは相当ではない。


そうすると,被告製品では,角度調整器のピン及び留め金の突起部がそれぞれ揺動部材1の上側揺動部と下側揺動部を押圧して,揺動部材2と一緒に開く(構成e)から,構成要件Eを充足する。

(控訴人の主張)

被告製品は,構成要件Eを充足せず,文言侵害は成立しない。


まず,構成要件Eの係合部それ自体の解釈如何にかかわらず,請
求項1で係合部が設けられる側の揺動部材を特定し,下位クレームである請求項4で前記係合部が設けられていない側の開閉機構を限定することで請求項1に記載された骨切術用開大器の構成をさらに限定している。そうすると,対象製品が揺動部材の一方に…係合部が設けられている(構成要件E)との構成要件を充足するためには,係合部がいずれの揺動部材に設けられているかを区別できることを要する。被告製品の角度調整器のピン及び留め金の突起部は,いずれの揺動部材に設けられているのか区別できないから,構成要件Eを充足しない。

また,構成要件Eの係合部それ自体の文言解釈からも,被告製品
は構成要件Eの係合部に該当する構成を有さず,構成要件Eを充足しない。すなわち,構成要件Eにいう係合部の意義について,特許請求の範囲に記載の文言の一般的な意味や,本件明細書における係合部の唯一の具体的な記載である突起(係合部)9の形態,同明細書において,部及び部材という用語について,部は部材の
一部を構成するものとして,部材は独立した部分を意味するものとして,それぞれ使い分けられていること,本件特許の出願経過において,被控訴人は,

本件発明は,…揺動部材の一方に,他方に係合する係合部を備える点において,引用文献1に記載された発明…と相違しています。

(本件意見書)と述べて揺動部材の一方に他方に係合する係合部を備える点を公知文献との差異を決定づける本件発明の特徴的部分として主張し,揺動部材の一方の一部分として構成されている係合部という場所的限定を付加したことなどによれば,構成要件Eにいう係合部は,揺動部材の一部として構成されることを要すると解釈される。しかるところ,角度調整器のピン及び留め金の突起部は,いずれの揺動部材からも独立した部材であって,揺動部材の一部として構成されていないから,被告製品は本件発明の係合部に該当する構成を有しない。

また,構成要件Eにいう係合部は,本件明細書中の課題解決手段
の記載や実施例についての記載から,一方の揺動部材を閉じていくことにより他方の揺動部材との係合が解除されるようなものであると解釈される。しかるところ,角度調整器のピン及び留め金の突起部は,ピンを抜去又は留め金を揺動部材から取り外さない限り,いずれか一方の揺動部材を閉じることはできないから,結果として,本件発明のように,一方の揺動部材を閉じることによって,これと他方の揺動部材との係合を解除することはできない。よって,この点を理由としても,被告製品における角度調整器のピン及び留め金の突起部は,構成要件Eの係合部に該当しない。



争点2(被告製品による均等侵害の成否)について
(被控訴人の主張)

本件発明と被告製品との相違点は,原判決が認定するとおり,本件発明では,係合部が一方の揺動部材の一部分を構成するものであるのに対し,被告製品では,角度調整器のピン及び留め金の突起部が揺動部材とは別部材である点である。
そして,仮にこの点を理由として被告製品に文言侵害が成立しないとしても,次のとおり,均等侵害が成立する。

第1要件,第2要件について
これらの要件に関する原判決の認定判断は正当であって,控訴人の主張は当たらない。


第3要件について
控訴人は,第3要件については,独自の作用効果を奏する被告製品の具体的な構成の容易想到性を検討すべきであるなどと主張する。
しかしながら,控訴人は,先に取り外す揺動部材を選択できることを独自の作用効果として主張するが,ほとんどの場合に後方(膝裏側)の揺動部材を先に取り外すという高位脛骨骨切除術の実態を無視しており,そのような作用効果はないか無視できる程度にすぎない。控訴人の主張は失当である。
また,本件において問題とされるべきは,本件発明と被告製品の相違点について,一方の揺動部材から他方の揺動部材に力を伝達する部分(係合部)を,揺動部材の一部分とする構成(本件発明)から揺動部材とは別部材とする構成(被告製品)に置き換えることの容易想到性であって,係合部を,開大角を計測する機能を有する角度調整器や打撃用ブロックとしての機能を有する留め金に変更することの容易性ではない。したがって,控訴人の主張は当を得ない。
なお,控訴人が被告製品の製造・貸渡しを開始した時点で,本件発明の被控訴人による実施品(以下被控訴人製品という。)は,角度調
整器と打撃用ブロックを含めた一式として医療機関に提供されていた(甲2)。このような状況下で,被控訴人製品の係合部と同様の係合の機能・作用を実現する構成を得ようとした場合,一方の揺動部材から他方の揺動部材に力を伝達する係合部を被控訴人製品と同じ突起
状のものとし,他方の揺動部材に突起に対応する凹部を設ければよいことは自明であるし,その突起状の構造を形成する手段として,開大器に使われていた既存の角度調整器や打撃用ブロック(留め金)の一部を利用することも,当業者であれば容易に想到できる。したがって,仮に,角度調整器の角度を計測する機能や留め金の打撃用ブロックとしての機能まで含めて考慮したとしても,置換は容易に想到できる。

第5要件について
控訴人は,本件補正によって,揺動部材の一方に係合部を備える(すなわち,係合部が揺動部材の一方の一部を構成する)もの以外の構成については意識的に除外されていると主張する。
しかしながら,本件意見書には,係合部を,揺動部材の一部として構成するか,揺動部材とは別の部材により構成するかを意識又は示唆する記載は存在しない。
また,第5要件は,特許出願人が出願経過において先行技術に基づく拒絶理由を回避するために技術的範囲に関する限定的陳述をし,これが功を奏して特許査定がなされた場合,侵害訴訟に至って前言を撤回し技術的範囲を広げる主張をするのを禁止するものであって,単に補正がされた事項に関連しているというだけで,意識的除外等の特別事情を認めることを意図したものではないというべきである。そして,第5要件が禁反言に基礎を置くものであることから,特許権者が,外形的に除外されるものとして明確に認識していない構成は意識的に除外したことにならない。本件において,被控訴人が,補正にあたって,係合部が2
対の揺動部材の一方の一部分でなければならないか否かにまで細かく着目したことや,係合部として2対の揺動部材の一方の一部分である形態と他の部材である形態が考えられることを認識していたことを示す記載は一切存在しない。
したがって,構成要件Eを追加する補正において,被控訴人が,被告製品のピン(ピン用孔),留め金の突起部(揺動部材の開口部)といった構成を明確に認識したうえで,これを特許請求の範囲から除外したと外形的に評価し得る行動がとられたとはいえない。
(控訴人の主張)
被告製品について,次のとおり,均等侵害も成立しない。

第1要件について
本件明細書(段落【0005】ないし【0012】)に記載された本件発明の技術内容に照らせば,本件発明の本質的部分には,①係合部が揺動部材の一方の一部として構成されているものであって,かつ,②一方の対の揺動部材を閉じていくことにより他方の揺動部材との係合が解除されるようなものとして構成されていることが含まれる。
しかるところ,被控訴人が本件発明の係合部に対応すると主張する被告製品の角度調整器のピン及び留め金の突起部は,いずれの揺動部材に設けられているか区別ができず,また,被告製品の角度調整器のピン及び留め金の突起部は,ピンを抜去又は留め金を揺動部材から取り外さない限り,いずれの揺動部材を閉じても,これと他方の揺動部材との係合が解除されることはないから,本件発明と被告製品とは本質的部分において相違する。
よって,被告製品が第1要件を充足するとはいえない。


第2要件について
本件明細書の記載(段落【0005】ないし【0012】,特に【0
007】)に照らせば,一方の対の揺動部材を閉じていくだけで他方の揺動部材との係合が解除されることも,移植物の挿入を容易にすることができるという本件発明の作用効果に含まれる。
仮に,一方の対の揺動部材を閉じていくだけで他方の揺動部材との係合が解除されることが本件発明の作用効果に含まれないとしても,被告製品の使用者の立場から見て,被告製品が移植物の挿入を容易にすることができるという本件発明の効果を奏するとはいえない。すなわち,被告製品においては,移植物の挿入の前提として2対の揺動部材のうちの1対を骨の切込みから取り出すためには,いずれか1対の揺動部材に設けられた開閉機構を操作するだけでは足りずに,角度調整器及び留め金を取り外さなければならず,しかも,角度調整器及び留め金を取り外すことに伴うデメリットも存在する。したがって,被告製品は,本件発明と同程度に移植物の挿入を容易にすることができるとはいえないから,被告製品は本件発明と同一の作用効果を奏するとはいえない。よって,被告製品は第2要件を充足しない。

第3要件について
本件において,均等侵害の第3要件で検討すべきは,本件発明の揺動部材の一方の一部に係合部を設ける構成に代えて,被告製品における角度調整器のピンと留め金の突起部とを組み合わせた構成を採用することの容易想到性である。
そして,被告製品は,揺動部材のいずれか一方に設けられることなくいずれの揺動部材からも独立した角度調整器のピン及び留め金の突起部という構成を採用することで実現される,先に取り外す揺動部材を前方(膝蓋骨側)又は後方(膝裏側)から選択できること及び開大角が小さい場合でも使用できることという独自の作用効果を有するところ,本件発明の係合部を,かかる独自の作用効果を有する角度調整器のピン及び
留め金の突起部へと置換することの容易性は立証されていないから,被告製品は第3要件を充足しない。
なお,被控訴人は,上記の先に取り外す揺動部材を選択できるという作用効果につき,実際には存在しないとか無視できるなどと主張する。しかし,骨の切込みの前方(膝蓋骨側)の揺動部材から先に取り出す手順も行われている上,その点を評価する医師も存在するから(乙13),被控訴人の批判は当たらない。
したがって,本件発明にかかる係合部を,被告製品における角度
調整器のピン及び留め金の突起部に置換することを当業者が容易に想到し得たとはいえず,被告製品は,第3要件を充足しない。

第5要件について
構成要件Eは,①係合部が揺動部材の一部として設けられていることだけでなく,②揺動部材の一方に設けられていることも要件としているところ,被告製品は,いずれの点においても構成要件Eを文言上充足しない。
したがって,均等侵害(第5要件)の判断においても,①及び②の両方の点が検討されなければならないところ,原判決は,①の点のみに焦点を当てて別の部材が意識的に除外されたとはいえないと判断し,②の点の判断を欠いている点において,理由不備といわざるをえない。そして,①については,本件意見書の

本発明は…揺動部材の一方に,他方に係合する係合部を備える点において,引用文献1に記載された発明…と相違しています。

との記載から,本件発明が揺動部材の一方に係合部を備えるもの,すなわち,係合部が揺動部材の一方の一部として構成されているものに限定されていることは明らかである。このように,本件意見書には,係合部を揺動部材の一部として構成することを意識又は示唆する記載が存在する。

また,②の点については,特許請求の範囲の記載上,前記2対の揺動部材の一方に,他方の揺動部材と組み合わせられたときに,該他方の揺動部材に係合する係合部が設けられているとの文言が本件補正により追加されたこと,すなわち,本件補正それ自体から,本件発明が揺動部材の一方に係合部が設けられている構成の骨切術用開大器に限定されたことは,一義的に明確である。これは,本件意見書や本件明細書からも明らかである。そうすると,被控訴人は,本件補正により,外形的にみて,本件発明を揺動部材の一方に係合部が設けられている構成に限定し,揺動部材の一方に係合部が設けられていない構成は特許請求の範囲から除外されたものと解される行動をとったものというほかない。
したがって,被告製品は,第5要件を充足しない。


争点3(無効の抗弁(サポート要件違反)の成否)について
(控訴人の主張)
原判決は,あたかも本件発明の技術的範囲が当然に本件発明の作用効果を奏する構成に限定されると解釈するようであるが,サポート要件違反の判断において特許請求の範囲に記載のない発明の作用効果を読み込んで,特許発明の技術的範囲を当該発明の作用効果を奏する構成に限定解釈することが許されるならば,およそサポート要件違反が成り立つ余地が無くなり,不合理である。したがって,少なくとも特許請求の範囲に記載された文言及び発明の詳細な説明から通常直ちに想定される権利範囲の中心部分といい得る構成が当該発明の作用効果を奏しない場合には,特許発明にかかる特許請求の範囲には本件発明の解決課題が解決されない構成が含まれているから,サポート要件違反を理由とする特許無効の抗弁が認められるべきである。
次に,揺動部材2の下側揺動部にのみ突起を設けた構成(以下本件樹脂モデル1という。乙7)及び揺動部材の下側揺動部に突起が設けられ,これに対応して揺動部材の1の下側揺動部に突起が嵌合して収容される孔が設けられた構成(以下本件樹脂モデル2という。乙21)は,いずれも本件発明の技術的範囲に属することが明らかである。しかし,これらはいずれも,揺動部材2の上側揺動部に突起が設けられておらず,揺動部材2のネジ機構2を操作して揺動部材2を開いても,揺動部材2の上側揺動部から揺動部材1の上側揺動部に力が伝達されないため,揺動部材1の全体と揺動部材2の全体が同時に開いていくことができない。このように,本件発明にかかる特許請求の範囲には,本件発明の解決課題が解決されない本件樹脂モデル1及び2のような構成が含まれるから,この点において,サポート要件に違反する。
さらにいえば,揺動部材2の上側揺動部及び下側揺動部にそれぞれ突起が設けられ,これに対応して揺動部材1の上側揺動部及び下側揺動部にそれぞれ突起が嵌合して収容される孔が設けられた構成(以下本件樹脂モデル3という。乙21)も,本件発明の技術的範囲に属することは明らかであるところ,かかる構成では,ネジ機構2を操作するだけでは突起を孔から抜去することができず,2対の揺動部材を幅方向に分離しない限り係合を解除することができないから,移植物の挿入を容易にするという本件発明の解決課題を解決できない。したがって,やはり本件発明は,サポート要件に違反する。
(被控訴人の主張)
争う。原判決が,本件発明の技術的意義を踏まえて,本件発明の前記2対の揺動部材の一方に,…該他方の揺動部材に係合するとの記載を,2対の揺動部材が同時に開くように係合することであると解釈していることは,その判示内容から明らかである。
第3

当裁判所の判断

当裁判所も,被告製品は,本件発明の技術的範囲に属し,本件特許に無効理由があるとはいえないから,控訴人に対する差止め等を認めるべきであると判断する。
その理由は,次のとおりである。
1
本発明の内容
次のとおり原判決を補正するほかは,原判決事実及び理由の第4の1(原判決22頁4行目から31頁3行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。


原判決27頁5行目から6行目にかけての『」(段落【0022】)

』を削除する。⑵原判決27頁12行目の末尾に『

(段落【0022】)』を付加する。


原判決27頁13行目の冒頭に『』を付加する。⑷原判決30頁17行目から31頁3行目までを次のとおり改める。『⑵他の請求項の記載特許請求の範囲における請求項3及び請求項4(本件発明に係らない請求項)は,以下のとおりである(以下,それぞれ単に「請求項3,請求項4という。下線部は本件補正により補正された部分である。)。
【請求項3】前記係合部が,前記他方の揺動部材の開閉方向の内側に係合する請求項1または請求項2に記載の骨切術用開大器。【請求項4】前記2つの開閉機構のうち,前記係合部が設けられていない側の開閉機構が,ヒンジ部により連結された一方の揺動部材に設けられたネジ孔と,該ネジ孔に締結され,他方の揺動部材を開方向に押圧する押しネジとにより構成されている請求項3に記載の骨切術用開大器。⑶

本件発明の意義
以上によれば,本件発明は,①変形性膝関節症患者の変形した大腿骨又は脛骨に形成された切込みに挿入され,当該切込みを拡大して移植物を挿入可能なスペースを形成する骨切術用開大器を技術分野とするものであり,②拡大器を用いて切込みを拡大した場合,拡大器が移植物の挿入の妨げになり,また,挿入時に拡大器を取り外した場合,切込みが拡大された状態が維持されず,移植物の挿入が困難になるという課題を解決するため,③請求項1及び2に係る構成,すなわち,開閉可能な2対の揺動部材を着脱可能に組み合わせるとともに,揺動部材が組み合わせられた状態で一方の部材が他方の部材に係合するための係合部を設ける構成を採ることにより,2対の揺動部材が同時に開くことを可能とし,2対の揺動部材で切込みを拡大した後,一対の揺動部材により切込みを拡大した状態に維持しつつ,他方の一対の揺動部材を取り外して,切込みに移植物を挿入可能なスペースを確保することを可能にし,④これにより,切込みを拡大した状態を維持しつつ,移植物の挿入を容易にすることができるという効果を奏するものであると認められる。』

2
争点1(被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか)について


争点1-1及び争点1-2について
争点1-1(被告製品が構成要件Cを充足するか)及び争点1-2(被告製品が構成要件Dを充足するか)については,原判決事実及び理由の第4の2⑴(原判決31頁5行目から同頁22行目まで)及び⑵(原判決31頁23行目から32頁16行目まで)を引用する。



争点1-3(被告製品が構成要件Eを充足するか)について
構成要件Eは,

前記2対の揺動部材の一方に,他方の揺動部材と組み合わせられたときに,該他方の揺動部材に係合する係合部が設けられている骨切術用開大器。

というものである。ア
係合部の意義
まず,特許請求の範囲における係合につき,その一般的な意味は,係りあうこと(特許技術用語集・甲5)であるところ,本件発明に即した具体的な意味は,特許請求の範囲からは明らかでない。
そして,本件発明の技術的意義は前記1⑷において改めた原判決の引用部分⑶のとおりであるところ,これを踏まえて係合部に関する本件明細書の記載を検討すると,同明細書には,①課題を解決するための手段として,係合部が設けられている側の一対の揺動部材に備えられた開閉機構を作動させて,当該一対の揺動部材を開いていくと,係合部が他方の揺動部材に係合して押圧するようになるから,一方の開閉機構のみを操作することにより,2対の揺動部材を開いていくことが可能となることが記載され(段落【0007】),また,②発明を実施するための最良の形態の説明において,一方の揺動部材を相対的に広げるように外力を加えることで,係合部に該当する突起9を介して,他方
の揺動部材に外力が伝達され,他方の揺動部材が相対的に広げられる構成が記載されている(段落【0016】)。また,請求項1においては,係合部が設けられている揺動部材と他方の揺動部材が,それぞれ開閉機構を有することが規定されるのみで,いずれの開閉機構をどのような手順で操作するかについては何ら特定がなく,前述の本件発明の技術的意義からもかかる点につき限定する理由はないから,係合部を設けた揺動部材の側に力を加えることによって,他の揺動部材が同時に開く仕組みになっていることは,本件発明において必須の構成ではない。
以上を踏まえると,構成要件Eの係合部とは,これによって外力
を伝達し,その結果,いずれか一方の揺動部材の開操作をもって,2対
の揺動部材を同時に開くことを可能にするものであるというべきである。イ
揺動部材の一方に…係合部が設けられているの意義
次に,かかる係合部の意義を踏まえて,揺動部材の一方に…係合部が設けられているの意義について検討する。まず,設けられているとの文言の一般的な意味は,

そなえてこしらえる。設置する。しつらえる。

というものにすぎず(広辞苑・甲13),当該文言自体からは,係合部が一方の揺動部材と一体であるのか,別の部品であるのかを読み取ることはできない。前記の本件発明の技術的意義に照らしても,係合部が一方の揺動部材と一体のものでなければその機能を果たせないとはいえず,別の部品によって係合部を設けることを除くべき根拠は見当たらない。そうすると,係合部が揺動部材に設けられているという構成が,係合部が揺動部材の一部を構成しているものに限定されるとはいえない。
そして,揺動部材の一方に…係合部が設けられているという特許
請求の範囲の文言に照らすと,係合部が,一方の揺動部材に設けられていることを要することは明らかである。このことは,特許請求の範囲における請求項3及び4が,2対の揺動部材について,いずれに係合部が設けられているかを区別できることを前提としていることからも裏付けられる。
以上によれば,揺動部材の一方に…係合部が設けられているとは,係合部が,揺動部材に設けられており,かつ,それが2対のいずれの揺動部材に設けられているのか区別できることを要し,またそれをもって足りると解される。


他方の揺動部材と組み合わせられたときにの意義
また,係合部の係合の時期に関して,揺動部材の一方に,他方の揺動部材と組み合わせられたときにと特定されていることの意義が問題
となる。
かかる特許請求の範囲の文言の自然な解釈として,少なくとも2対の揺動部材が組み合わせられて使用開始される時点では,係合部により2対の揺動部材が係合されていなければならないと解される。
そして,その終期は,特許請求の範囲の文言からは明らかではないが,本件明細書から導かれる係合部の意義(前記ア)に照らすと,少なくとも2対の揺動部材を同時に開いていく間,係合部が2対の揺動部材を係合していれば足りると解される。

控訴人の主張について
(ア)

控訴人は,特許請求の範囲の文言の一般的な意味,本件明細書に

おける実施形態である突起9の形態,同明細書における部と
部材という用語の使い分け,本件特許の出願経過などから,係合部は,揺動部材の一部として構成されることを要すると主張する。しかしながら,特許請求の範囲の文言の意味や,突起の形態が,
係合部を揺動部材の一部として構成すべき根拠とならないことは
既に説示したとおりである。
また,部及び部材の一般的な意味についてみると,部
は,全体をいくつかに分けたそれぞれの部分(大辞林・乙4),
部材は,構造の一部となる材料(大辞林・甲14)とされて
おり,これらの意味から,一体か別の部品かが明らかとなるものではない。本件明細書においても,部及び部材の意義を明示する
記載や,これらの区別を明示する記載は存在せず,本件明細書における用例からも上記の語の意義や区別の基準は窺われない。既に述べたとおり,係合部は,一方の揺動部材に設けられているもので
ある以上,係合部を含めた揺動部材を全体としてみれば,係合部はその一部分であるといえるが,別の部材で構成することが排斥
される訳ではない。
そして,出願経過についてみると,被控訴人は本件意見書において,

本発明は,2組の揺動部材を備える点,および,揺動部材の一方に,他方に係合する係合部を備える点において,引用文献1に記載された発明…と相違しています。

と記載している。しかし,この記載は,係合部の備え方として揺動部材と一体の構成か別の部品かを特定したものではないから,本件意見書の記載は控訴人の主張を裏付けるものとはいえない。
(イ)

また,控訴人は,構成要件Eにいう係合部は,一方の揺動部

材を閉じていくことにより他方の揺動部材との係合が解除されるようなものであると主張する。しかしながら,本件発明の技術的意義は前記1⑷において改めた原判決の引用部分⑶のとおりであって,請求項1及び2の係合部として控訴人主張の機能を有することまでは要
求されていない。
(ウ)

更に,控訴人は,本件発明の技術的意義は,2対の揺動部材を一

体的に開大させる点のみならず,係合を解除した場合に一方の揺動部材に加わる力が他方の揺動部材に伝わらないようにする点にもあると理解できるから,揺動部材の一方に設けられている係合部は,係合前,係合中,係合解除時の全ての時点において揺動部材の一方に設けられている必要があると主張する。しかしながら,係合部の係合の時
期については,前記ウのとおり,2対の揺動部材を同時に開いていく間,係合部が2対の揺動部材を係合していれば足り,2対の揺動部材が開き終わり,移植物の挿入が可能となって以降まで係合が継続していなければならないものではない。
(エ)

したがって,控訴人の主張はいずれも採用できない。

被告製品との対比

被告製品の構成eは,揺動部材1,2の各下側揺動部には後部に開口部が設けられ,各上側揺動部にはその後部側に角度調整器のピンを挿通させるためのピン用孔が設けられている。揺動部材1と揺動部材2が組み合わせられたときに,開口部に留め金の突起部がはめ込まれ,ピン用孔に角度調整器の2本のピンを挿通された状態で揺動部材2の上側揺動部と下側揺動部を相互に開いていくと,留め金の突起部と角度調整器のピンがそれぞれ揺動部材1の下側揺動部と上側揺動部を押圧して,揺動部材2と一緒に開くようになっているものである(前記第2の3において引用した原判決事実及び理由の第2の2⑸)。このように,被告製品における角度調整器の2本のピンと留め金の突起部は,外力の伝達により,いずれか一方の揺動部材の開操作をもって,2対の揺動部材を同時に開くことを可能にするものであるから,角度調整器のピン及び留め金の突起部は,構成要件Eの係合部を充足する。また,上記のとおり,角度調整器のピン及び留め金の突起部は,開操作の前に,組み合わせられた揺動部材1及び2の開口部に留め金の突起部がはめ込まれ,ピン用孔に角度調整器の2本のピンが挿通された状態に固定されるものである。このような固定態様に照らすと,係合部である角度調整器のピン及び留め金の突起部が,揺動部材1又は2に設けられているといえる。そして,証拠(甲3,乙6,10)によれば,角度調整器は,施術者から視認できるように揺動部材1側からピンが挿通されて揺動部材1に固定されることが認められるから,少なくとも角度調整器のピンは,揺動部材1に設けられていると認識できることは明らかである。そして,留め金の突起部も,角度調整器のピンと一体となって揺動部材の開操作に関わっているのであるから,この両者は,全体として揺動部材1に設けられていると評価するのが素直である。したがって,係合部である角度調整器のピン及び留め金の突起部をもって,
構成要件Eの揺動部材の一方に…係合部が設けられているとの要件は充足されることになる。
そして,係合部である角度調整器のピン及び留め金の突起部が,
2対の揺動部材の開操作の前にこれらの揺動部材に固定されることは上記のとおりであって,これらを同時に開いていく間にかかる固定が解除されることはない(乙6,10)。したがって,構成要件Eの他方の揺動部材と組み合わせられたときに揺動部材の一方に係合する係合部が設けられているといえる。
控訴人は,被告製品の角度調整器のピン及び留め金の突起部が,揺動部材1及び2と別の部品であることから,直ちにいずれの揺動部材に上記ピン及び上記突起部が固定されているのかの区別ができなくなるという前提で主張するが,上記説示したところに照らし,採用できない。カ
結論
以上のとおり,被告製品は構成要件Eを充足し,他の構成要件を充足することについては既に説示したとおりであるから,被告製品は,本件発明1及び2の技術的範囲に属する。

3
争点3(無効の抗弁(サポート要件違反)の成否)について


サポート要件に適合するかどうかは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。



以上を前提に,本件発明のサポート要件適合性について判断するに,本件発明の技術的意義は,前記1⑷において改めた原判決の引用部分⑶のと
おりであり,本件発明の採用する課題解決手段もそのとおり理解することができる。
そうすると,特許請求の範囲の請求項1及び2の記載は,発明の詳細な説明に記載された発明で,当業者が,技術常識に照らし,発明の詳細な説明の記載により当該発明の課題(拡大器を用いて切込みを拡大した場合,拡大器が移植物の挿入の妨げになり,また,挿入時に拡大器を取り外した場合,切込みが拡大された状態が維持されず,移植物の挿入が困難になるという課題)を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。よって,本件発明は,サポート要件に適合しているから,サポート要件違反を理由とする無効の抗弁は採用できない。


控訴人の主張について

控訴人は,本件発明にかかる特許請求の範囲には,一方の揺動部材を開いても,他方の揺動部材の全体を同時に開くことができない本件樹脂モデル1及び2のような構成が含まれているから,サポート要件に違反すると主張する。
しかし,前記2⑵アで述べたところに照らせば,本件樹脂モデル1及び2は,2対の揺動部材を同時に開くという本件発明の技術思想とはおよそかけはなれた構成を有するものであって,本件発明の想定の範囲外にあるものというべきであるから,そもそも本件発明には含まれず,控訴人の主張は前提を欠く。


控訴人は,本件樹脂モデル3は,2対の揺動部材を幅方向に分離しない限り係合を解除することができず,本件発明の解決課題である移植物の挿入を容易にする点を解決できないから,本件発明はサポート要件に違反すると主張する。
しかしながら,本件発明の解決課題は上記のとおりであって,請求項1及び2は,揺動部材の取外し方法に関する課題までを解決するものと
はされていない。
したがって,控訴人の主張は解決課題の把握を誤っており,その前提を欠く。

控訴人は,サポート要件違反の判断において特許請求の範囲に記載のない発明の作用効果を読み込むことは不合理であるなどと主張する。しかしながら,サポート要件の判断において,特許請求の範囲の記載の意味が一義的に明確に理解できない場合に,発明の詳細な説明の記載から当該発明の技術的意義を踏まえて発明の要旨を認定することは妨げられないから,控訴人の主張は採用できない。

4
そうすると,被控訴人の請求を全部認容した原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官
鶴岡高橋稔彦
裁判官


裁判官
菅洋輝
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