判例検索β > 平成30年(う)第421号
A公契約関係競売入札妨害、贈賄、B入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律違反、公契約関係競売入札妨害(変更後の訴因 入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律違反、公契約関係競売入札妨害、高度専門医療に関する研究等を行う国立研究開発法人に関する法律違反)
事件番号平成30(う)421
事件名A公契約関係競売入札妨害,贈賄,B入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律違反,公契約関係競売入札妨害(変更後の訴因 入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律違反,公契約関係競売入札妨害,高度専門医療に関する研究等を行う国立研究開発法人に関する法律違反)
裁判年月日令和元年7月30日
法廷名大阪高等裁判所
裁判日:西暦2019-07-30
情報公開日2019-08-22 12:00:16
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令和元年7月30日宣告

大阪高等裁判所第1刑事部

421号
被告人Aに対する公契約関係競売入札妨害,贈賄被告事件
被告人Bに対する入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律(以下官製談合防止法という。)違反,公契約関係競売入札妨害(変更後の訴因:官製談合防止法違反,公契約関係競売入札妨害,高度専門医療に関する研究等を行う国立研究開発法人に関する法律違反)被告事件
主文
原判決中被告人Bに関する部分を破棄する
被告人Bを懲役1年に処する
被告人Bに対し,この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。
原審における訴訟費用のうち,証人C,同Dに支給した分の全部及びその余の証人に支給した分の2分の1を被告人Bに負担させる。
被告人Aの本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意及び当審における事実取調べの結果に基づく弁論の要旨は,被告人Aについては,主任弁護人秋田真志,弁護人水谷恭史及び同高橋早苗連名作成の控訴趣意書,検察官答弁に対する反論,同補充書,控訴審弁論要旨及び同(補充)に記載されたとおりであり,被告人B
見秀一,同新倉栄子及び同我妻路人連名作成の控訴趣意書,意見書及び弁論要旨に記載されたとおりであり,これらに対する答弁の要旨は,検察官大口康郎作成の答弁書及び意見書に記載されたとおりであるから,これらを引用する。被告人Aの論旨は,平成24年度入札(

の事実)についての法

令適用の誤り,訴訟手続の法令違反及び事実誤認,平成25年度入札1(同第1の
の事実)についての法令適用の誤り,訴訟手続の法令違反及び事実誤認,平成25年度入札2(

の事実)についての事実誤認及び法令適用の誤りの

各主張であり,被告人Bの論旨は,公訴受理の違法(刑訴法338条4号違反),平成25年度入札1(原判示第2の2の事実)についての事実誤認及び法令適用の誤り,平成25年度入札2(同第2の3の事実)についての事実誤認及び法令適用の誤り,更には,量刑不当の各主張である。
第1
1
判断の前提となる事実関係等
本件事案の概要

本件は,ソフトウエアの開発及び販売等を行うEの代表取締役であった被告人Aと,独立行政法人国立循環器病研究センター(以下国循という。)の部長職にあった被告人Bが,国循が平成24年度から平成25年度にかけて実施した情報システムの運用保守業務委託の一般競争入札ないし公募型企画競争入札において,①入札金額の積算根拠となる非公開情報を被告人Bが送付し,これを被告人Aにおいて利用して入札金額を減額し(平成24年度入札),②E以外の業者の参入が困難になり得る条項(本件2条項)を盛り込むなどした仕様書を作成し,同仕様書を公告して入札の用に供し(平成25年度入札1),③Eの受注を承諾していたFを競争に参加させた上,同社にEよりも高値で応札させるとともに,被告人BがEの企画提案書のみに助言・指導を行う(平成25年度入札2)などの態様で,これら入札の妨害等をしたとして,それぞれ公契約関係競売入札妨害に問われるとともに,被告人Bは官製談合防止法違反等にも問われている事案である。このほか,被告人Aは,他の国立病院の部長に対する贈賄についても起訴され,有罪とされているが,この点は原審から事実関係に争いはなく,当審の控訴趣意においては問題となっていない。
2
本件の背景事情等
国循の構成等とその情報システムについて


国循は,循環器病を対象とする国立高度専門医療研究センターであり,
昭和52年に設立された後,高度専門医療に関する研究等を行う独立行政法人に関する法律(平成20年法律第93号)が平成22年4月に施行されたことに伴い,独立行政法人となった。
国循は,循環器病の診療等に携わる病院,循環器病の解明や診療の研究に当たる研究所及びその研究開発基盤の構築を目指す研究開発基盤センターの3部門を擁するほか,これらの運営管理に当たる総務部や人事部などの事務部門が置かれていた。なお,病院は,一般の病院から紹介された心臓病や脳卒中などの循環器病の患者に対して心臓移植などを含む高度な先端医療を行っており,612床(ただし,平成27年1月時点のもの。)を有していた。イ
国循では,従来からインターネットや電子メール等を利用するためのシ
ステムが導入されており,独立行政法人化を機に,従来のシステムを統合整備し,上記病院等の3部門と管理部門が共通して利用できる情報システム(NCVCともいう。)の導入を進めていた。これとは別に,病院では,その診療部門のみで利用される病院情報システム(HISともいう。)も運用されていた。NCVCは事務部門の情報統括部が,HISは病院の医療情報部が担当していたが,その業務が密接に関連するため,職員の多くは双方の部署を兼務していた。

これら2つの情報システムの運用保守業務は,外部業者に委託発注され,
年度ごとに一般競争入札で発注業者を決めて単年度契約がされていた。平成23年度までは,これら情報システムの運用保守業務委託の入札に応じたのはG1社のみで,毎年度,同社が国循と契約し,情報システムの保守機器もG製のものが導入されていた。
被告人Bの経歴及び国循着任の経緯
国循の病院は,平成24年1月に電子カルテを導入することを対外的に公表していたが,その実現を危惧した病院長は,平成23年7月頃,旧知のH
大学附属病院医療情報部長(H大学医学部教授でもある)Iに,医療情報部の運営に当たる者の人選を依頼した。Iは,平成23年3月までJ大学医学部の電子カルテシステムの開発・管理・保守業務に従事し成果を上げ,同年4月にH大学の准教授に就任したばかりの被告人Bに白羽の矢を立て,国循への異動を打診した。大学の教授職を目指していた被告人Bは,思い描いていたのとは異なる道を進むことや,求められている課題が困難であることなどに悩んだものの,これに応じることとし,同年9月に医療情報部長として国循に赴任し,平成24年4月からは情報統括部長を兼ねた。
被告人B着任後の国循の情報システムの運用状況

被告人Bが国循に着任した時点で,電子カルテ導入の準備は大幅に遅れ
ており,コンピュータ端末の設置場所や台数も決まらない状況で,同被告人は,期限に間に合わせるために休日返上で働くことを余儀なくされた。被告人Bの尽力によって,なんとか電子カルテの導入期限には間に合った。被告人Bは,平成23年9月頃から,翌年度の情報統括部長就任を控えて,NCVCネットの定例報告会に出席したり,翌年度のNCVC運用保守業務委託の一般競争入札の仕様書案を受け取ったりするようになった。その中で,前任者からGがNCVCネットの運用保守管理の常駐員1名を減員するかもしれないと聞かされ,その人数で業務が回るのかを不安に思った。平成24年4月に情報統括部長を兼務するようになった被告人Bは,それまでGが管理していたNCVCネットのサーバの数が非常に多く,その中には1度も動かしていないものがあること,セキュリティ装置が長年更新されずに放置されていたことなどの報告を受け,Gに対する不信の念を強めることとなった。

国循においては,競争の不在が情報システム運用保守業務の調達費用の
高止まりを招いているとの指摘がされ,競争性を高める方策として,平成24年度の調達から,NCVC運用保守業務が病院情報システム(HIS)の
運用保守業務と別に発注されることになった。

国循は,平成24年度のNCVC運用保守業務委託の一般競争入札の公
告に際し,仕様書では,運用業務を遂行する常駐業務従事者の人数について,運用技術管理者1名及び運用技術者11名の合計12名の要員を配置することとされていたが,最終的な常駐員の人数は各業者の判断に委ねる趣旨も明記していた。
Eが国循の入札に参加するようになった経緯等

被告人Bは,平成24年度入札に当たり,何社かに参加を呼び掛けたが,
その中には,旧知の被告人Aが代表を務めるEが含まれていた。Eが同入札に参加することになると,被告人Bは,知り合いのK社員や他の業者の取締役に対し,Eへの人員派遣等の協力を依頼する内容の電子メールを送った。イ
Eは,被告人BがJ大学医療情報部副部長であった平成18年頃から,
同大学発注の通信関連業務を受注するようになり,この頃から,被告人Bと被告人Aは,個人的にも交流するようになった。被告人Bは,平成22年6月から不定期に被告人AらE関係者と会食していたほか,平成23年5月からはEの関連会社の顧問として業務に関する助言・指導を行い,平成24年3月まで毎月月額約15万円の報酬を得ていた。平成23年2月には,カナダで開催された学会に被告人Bが交際女性(医療情報関係の専門的資格を有する)とともに出席するに当たり,航空券と宿泊先の手配をEに依頼した。Eも,平成23年6月から平成24年1月にかけて,この交際女性に勉強会の講師を依頼していた。また,被告人Bは,平成24年11月末頃には,Eに貸与していた医療情報部執務室の備品の返還を受ける替わりに,上記関連会社から約100万円を拠出させ備品を新規に購入した。
平成24年度入札について

平成24年度入札において,Eが入札金額を決定する際に問題になった
のは,機器保守のための費用(保守費用)と運営に要するエンジニアの人件
費等(運用業務の価格)であった。
このうち保守費用について,Eは,保守対象となる機器の製造者でもあるGに保守費用の見積りに必要な情報の提供を求めたものの拒まれ,他社に協力を依頼するなどして情報収集に努めたが作業は難航した。そのため,被告人Aは,被告人Bに対し,Gと保守契約が結べない場合は,同等以上の機器を代わりに設置し,その代替品を運用保守することでよいかなどと相談した。一方の運用業務の価格については,同業務に係る常駐員数に人件費単価の1年分を乗じて算出することになるところ,被告人Aは,被告人Bに対し業務量が分からないとして,Gの業務担当エンジニアのレベルや人数等を知りたいと申し入れていた。

このような状況下で,入札最終日(開札日)の平成24年3月19日午
前中,被告人Bから被告人A及びE従業員のLに宛てて,本文に

運用体制です。実働は黄色網掛けの部分で,リーダー1名+その他8名,の実質9名が常駐部隊です。あとは外部支援です。

と記載された電子メールが送信された。このメールには,Gが平成24年度入札の競争参加資格審査のために国循に提出していた運用支援業務従事者数等が記載された書面を,被告人Bがスキャナで読み取って作成した電子データ(本件体制表)が添付されていた。

同日,Eは,2億1400万円で入札してGの入札金額を約680万円
下回り,平成24年度入札の落札者となった。
EによるNCVC運用保守業務の履行状況と平成25年度入札1の経過ア
平成24年度のNCVC運用保守業務を担当する中で,Eは,Gの協力
が得られなかったために同社製の機器を他社製品に入れ換えた。また,それまで利用されてきたG製の利用者管理システム(国循の職員等のシステム利用者の情報を一元的に登録・管理するシステム)には不具合が多く生じたため,Eが制作した新利用者管理システムに置き換えるとともに,システム運
用の中で生じた問題の蓄積・分析を可能にする運用履歴管理システムを開発して導入した。
これらのシステムの著作権,改変権等は,国循にはなく,Eにあったが,平成25年度のNCVC運用保守業務委託の一般競争入札(平成25年度入札1)の仕様書には,これらのシステムの維持管理に加え,改修・機能追加を求める条項(管理システム条項)が盛り込まれた。これに加え,500床以上の複数の医療機関での仮想化構築経験を有する,複数の技術者の従事を求める条項(仮想化構築実績条項)も盛り込まれた。

平成25年度入札1について,Eは,一者応札となるのを避けるために,
受注意思のないMに参加を求め,同社はこれに応じ,NやEよりも高値で入札した。

同入札には,Gと関係の深いNが参加し,同社が最低価格で入札して第
1交渉権者となった。しかし,Nの入札価格が予定価格の6割を下回っていたことから,履行能力の審査に付され,これが確認できないとして,同社との契約交渉は打ち切られた。
そして,第2交渉権者であったEについても,管理システム条項に関し,自らが交渉権者になるためにNとの保守契約締結に応じなかったとの指摘を受ける可能性があるとされ,平成25年度入札1は不調となった。平成25年度入札2の実施決定とその後の経過

国循は,平成25年度のNCVC運用保守業務のうち,同年6月30日
までの分は現行業者であるEに行わせるものとして,随意契約を締結した。その上で,同年7月1日以降の業務について,公募型企画競争(企画提案書及びプレゼンテーションを評価して得られた技術点と開封した見積額から算出される価格点とを総合評価して契約の第1交渉権者を確定する方法による手続)が実施されることになった(平成25年度入札2)が,新利用者管理システムと運用履歴管理システムの保守業務は,競争性がないものとしてE
と随意契約を締結することとされ,入札の対象から除外された。

当初,平成25年度入札2に参加する意向を示した業者はEだけであっ
たが,同社からの働き掛けを受け,受注意思のないFが参加することになった。Fは,Oに指示され,Eの入札額を二千数百万円上回る8500万円で応札したほか,技術点もEを下回り,Eが業務を受注した。
第2
1
原判決の判断等
平成24年度入札(被告人A

Bに対

する同第2の1の各事実)について
平成24年度入札に関する公訴事実の要旨は,被告人Aについては,被告人Bから,Gが入札の競争参加資格審査のために提出していた非公開情報である運用支援業務従事数等が記載された書面(本件体制表)の送信を受け,その情報を利用して入札金額を減額した上,その情を秘して,その金額で入札して同業務を落札し,偽計を用いて公の入札等の公正等を害すべき行為をしたというものであり,被告人Bについては,公表されていないGの運用支援業務従事者数をEに内報することにより,Eに落札させようと企て,被告人Aに対し,Gが提出していた運用支援業務従事者数等が記載された書面(本件体制表)を送信し,偽計を用いるとともに秘密を教示して公の入札等の公正等を害すべき行為をするなどしたというものである。原審において,検察官は,被告人Bが,Gが入札の競争参加資格審査のために提出した資料を受け取った後,それが職務上知った秘密に当たることを認識しながら,そのうちの本件体制表を執務室の複合機を用いてPDF化して被告人Aに電子メールで送信し,Eはこれを利用して,入札金額を減額したと主張した。これに対して,被告人Bは,本件体制表を既公表情報である現行体制表と誤認して送信したと主張し,被告人Aも本件体制表が非公開情報であることを知らなかったと主張するとともに,本件体制表を用いて入札金額を算出した事実を否認していた。

原判決は,争点を,被告人両名が,それぞれ偽計を用いるとともに入札等に関する秘密を教示して公の入札等の公正を害すべき行為(被告人Bにとって同時に職務上知り得た秘密を洩らした行為)をしたかであり,この判断Bについて,同被告人が,本件体制表を,Gが平成24年度入札のために提出していた非公開情報であると知りながら被告人AAについて,同被告人が,送付を受けた本件体制表を利用して入札金額を減額させて入札したかについて争いがある。などと摘示した。その上で,要旨,以下のとおり説示し,公訴事実と同旨の罪となるべき事実を認定した。
本件体制表の体裁それ自体から,これを見る者にとって,それがGの平成24年度の業務体制を記載した書面であることは明らかである。加えて,被告人Bは,本件体制表を3日前にそのような趣旨で確認するとともに,送信に当たり作業をする際にも記載内容を見ており,平成24年度入札に係るGの業務体制表と認識していたと認められる。これに反する被告人Bの供述は信用できない。
本件体制表は,平成24年度入札の履行能力証明資料であり,記載されている人員体制は,契約後のGの実際の実施体制を前提としたもので,運用技術管理者等が何人であれば業務履行できると考えているかは,Gの人件費の見込みを推知する手掛かりになるものといえ,被告人Aが自社の入札金額を決める上で重要な資料となる。
被告人Aは,平成24年3月16日には,運用技術管理者等12名の常駐員により平成24年度NCVC運用保守業務を実施していく予定であったと認められるが,被告人A使用のパソコン内に同月19日午後2時48分(58分の誤記と解される。)頃保存された,【概算見積書】等との名前が付されたエクセルファイルでは,運用技術管理者等10人の配置を前提
にそれに要する費用が計算されている。同月16日から同月19日の入札までの間に,本件体制表が送付されており,それ以外に予定配置人数を変更するための情報が被告人Aにもたらされたことはうかがえない。被告人Aが,本件体制表の情報を利用し,予定配置人数を12人から10人に変更し,それを前提として入札金額を減額したと推認できる。
2
平成25年度入札1(被告人A

Bに

対する同第2の2の各事実)について
平成25年度入札1に関する公訴事実の要旨は,被告人両名は,Oと共謀の上,参加の見込まれるE以外の業者を排除してEに落札させようと企て,Eのみを仕様書案作成に関与させるとともに,E以外の業者の参入が困難になり得る条件(本件2条項・管理システム条項及び仮想化構築実績条項)を盛り込んだ仕様書を作成した上,同仕様書を公告して入札の用に供させ,偽計を用いて公の入札等の公正を害すべき行為をした。というものである。原審において,検察官は,Eのみを関与させてE以外の業者の参入が困難になり得る条項を盛り込んで仕様書を作成した行為が偽計を用いた公の入札等の公正を害すべき行為に当たると主張し,E以外の業者の参入が困難になり得る条項として管理システム条項及び仮想化構築実績条項の2つ(本件2条項)を指摘した。これに対し,被告人両名は,本来,意見招請を求める手続をとって複数業者から仕様書について意見を聴く責任を負っていたのは,国循の契約係であるから,そうしなかったことについて被告人らは責任を負わないなどと主張し,さらに,本件2条項は,国循の調達目的にとって必要かつ合理的であったために盛り込まれたもので,偽計を用いたと評価できないなどと主張した。また,被告人Bの弁護人は,そもそも国循の契約係が入札に必要であった意見招請の手続を行わなかったことで入札の公正が害されていたのに,検察官は,国循のミスを隠そうとしており,これらからすれば,被告人らの所為についてのみ刑事責任を追及するのは不当である
とも主張した。
原判決は,争点を,

偽計を用いた公の入札等の公正を害すべき行為の有無であり,その前提として平成25年度入札1の仕様書に新たな条項(本件2条項)を追加した目的等が争われている。

と摘示した。その上で,Eのみを仕様書案作成に関与させた点は,それ自体から直ちに入札等が公正に行われていることに対し,客観的に疑問を抱かせる行為ないしその公正に正当でない影響を与える行為であると評価できないとしたが,その余については,公訴事実と同旨の罪となるべき事実を認定した。また,意見招請の手続は,調達機関に仕様書についての意見を述べる機会を与えるにすぎず,この手続により仕様書が特定の業者に有利にあるいは不利になっているものが是正されるとは限らないから,この手続の欠缺は犯罪の成否を左右する事情ではないし,国循のミスを検察官が殊更に隠したとも認められないから,被告人Bの処罰が不当になるとはいえない,とした。
被告人らの所為が偽計を用いた公の入札等の公正を害すべき行為に当たると認めた理由は,要旨,以下のとおりである。
新利用者管理システム,運用履歴管理システムについて,プログラムの改修と機能の追加を求めることは,著作権等を有するE以外の業者にとっては,Eとの間で保守契約を締結するか,同等以上の機能を有するプログラムを開発する必要があったが,当座既存のプログラムを運用しつつ適宜の時期に新システムに切り替える等の方法を許容しないことが明らかにされており,期限の点もありプログラムの独自開発は非常に難しいものであった。管理システム条項,取り分け,新利用者管理システムに関する部分は,E以外の業者の参入を困難にし得る条項であった。また,平成25年度入札1の時点で,病院情報システムのサーバ仮想化・デスクトップ仮想化の導入数は非常に少ない状況にあり,必然的に,病床数500床以上の複数の医療機関での構築経験がある技術者数は限られ,当然にそのような技術者を擁する業者数も限
られ,外部からの調達も困難になるから,E以外の業者の参入を困難にし得るものであった。
このように,特定の業者にとって当該入札を有利にし,又は,特定の業者にとって当該入札を不利にする目的で,現にそのような効果を生じさせ得る仕様書の条項が作成されたのであれば,当該条項が調達の目的達成に不可欠であるという事情のない限り,入札等が公正に行われていることに対し,客観的に疑問を抱かせる行為ないしその公正に正当でない影響を与える行為であるというべきである。管理システム条項については,保守に加えて,改修,機能追加が必要になれば,その点を別途調達できることは明らかであり,現にその後の調達手続では入札対象から除外され,それにより特段の支障が生じたとはうかがえないから,このような条項を加えることが不可欠ではなかった。仮想化構築実績条項については,センターの病院情報システムとの連携に必要とされる技術や知識を有する技術者を複数従事させることを求める必要性は認められても,病床数500床以上の複数の医療機関で病院情報システムのシン・クライアントコンピューティング(サーバ仮想化,デスクトップ仮想化)の構築経験があることを求める必要性までは認められず,現に,平成26年度の調達手続では,実績を病院情報システムに限定する部分及び病床数500床以上の病院に限定する部分が除外され,それにより特段の支障が生じたとはうかがえないから,少なくとも,この部分は不可欠なものではなかった。
3
平成25年度入札2(被告人A

Bに

対する同第2の3の各事実)について
平成25年度入札2に関する公訴事実の要旨は,被告人Aについては,被告人B及びOと共謀の上,Eを契約相手方に選定させようと企て,あらかじめEによる受注を承諾していたFを同競争に参加させた上,Eよりも高値で応札させるとともに,被告人BからEが作成提出すべき企画提案書に関して,高評価を得るために助言・指導を受け,偽計を用いて公の入札等の公正を害すべき行為をした。というものであり,被告人Bについては,被告人A及びOと共謀の上,Eを契約相手方に選定させようと企て,あらかじめEによる受注を承諾していたFを同競争に参加させた上,Eよりも高値で応札させるとともに,Eが作成提出すべき企画提案書に関してのみ,助言・指導を行い,偽計を用いて公の入札等の公正を害すべき行為をした。というものである。
原審では,検察官が,落札意思のないFが入札に参加することになったのは,被告人Bが主導して被告人Aらに働きかけた結果であり,さらに被告人BがOに対してEの企画書案に助言・指導を与えたと主張したのに対し,被告人らは,お付き合い入札を主導したのは国循の契約係であるし,被告人Bは,公正を害するような形でEの企画提案書に関わっていない,として,これらを争った。また,被告人Aの弁護人は,前提となるべき競争がなかったから,犯罪は成立しないとも主張した。
原判決は,争点を,被告人BEによる受注を承諾していたFを同競争に参加させたといえるか,取り分け,同被告人が,FEが作成提出すべき企画提案書に関して助言・指導を行ったかであり,被告人Aについて,Eが作成提出すべき企画提案書に対する助言・指導を受けていたことを認識していたかである。また,被告人A平成25年度入札2については,国循からの依頼に基づいてFを手続に関与させたのであり,犯罪成立の前提となるべき競争がないから,入札等の公正を害すべき行為が存在する余地がない旨主張する。などと摘示した。その上で,要旨,以下のとおり説示し,公訴事実と同旨の罪となるべき事実を認定した。
Oが,契約係と思われる事務方のほか,被告人Bから一者応札を避けられ
ないかとの打診を受け,難しい旨説明したこと,被告人Bからは更にKという相手を示されて落札意思のない業者の関与を求められたこと,被告人Bは,OからFの作成途中のプレゼンテーション資料の提供を受けるという,企画競争が実質的に行われていればおよそあり得ない経過を認識していたことから,被告人BがFに落札意思がなかったことを知っていたと認められる。また,電子メールのやり取りから,平成25年5月27日と同月29日に被告人BとOとの間でEの企画提案書に関する打合せが行われたと認められるところ,打合せを経た企画提案書は,同月30日までは非公表で被告人Bしか知らなかったはずの評価項目について,参考にすべきチェックポイントに沿った形式になり,同チェックポイントを知らなければ改変が容易になされるとは考えられない形で打合せ後に改められている点があり,結果としてより高く評価されるべきものになった。被告人Bが、非公表情報に基づいて助言・指導を行ったと十分に認められる。
被告人Aは,

プレゼン資料を含め,またご相談させてください。

と,被告人Bに対し,直接企画提案についての相談を依頼し,被告人BとOとの打合せの状況について報告を受け,Oから被告人Bへのメールについて逐一カーボンコピーの送信を受けている。被告人Aが,企画提案書に対する助言・指導を被告人Bから受けていたことを認識していたと十分に認められる。企画競争に参加しようとする者が,自社の企画提案の内容を評価者に事前に開示して意見を受け改善を図る行為は,正当な営業活動でないことは明白で,そのように誤解する余地があるとも考えられない。
被告人Bを除く評価委員はFに落札意思がないことは知らなかった。公募型企画競争であるから,Fの企画提案内容や入札金額についてEが影響を及ぼし得たとしても,FがEより高い評価を受けることはあり得る。競争がない状態でなかったこと,被告人両名がこれを認識していたことは,企画提案書に対する助言・指導を行ったり,Fの企画提案が高く評価された場合に備
えてEよりも高額の見積りをFに提出させるようにしていることなどから明らかである。
第3
1
各控訴の趣意の要旨
被告人A
する法令適用の誤り,訴訟

手続の法令違反,事実誤認

被告人Aの認識に関する法令適用の誤り,訴訟手続の法令違反,事実誤

被告人Aが,偽計を用いて公の入札等の公正を害すべき行為をしたといえるためには,本件体制表を不正な手段で入手し,非公開情報であることを認識しながら,これを利用して入札金額を減額したことが必要であるのに,原判決は,これらの構成要件事実を認定することなく公契約関係競売入札妨害罪の成立を認めており,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある。また,このような認定は,第3回公判前整理手続において,被告人Bから受信した書面の性質に関する認識を争点としたことを無視し,体制表を利用して減額したかが争点であるとして判断したことによるもので,不意打ち認定に当たるから,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある。被告人Aに本件体制表が非公開情報との認識はなかったから,同被告人に公契約関係競売入札妨害罪の故意を認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある。

本件体制表の利用をめぐる事実誤認
平成24年度入札における,Eの人件費の計算は本件体制表とは無関係で,
本件体制表からはGの入札金額を算定することなどできないのに,原判決は,入札の実態を看過した思い込みから本件体制表を利用した減額の事実を認定しており,この点において,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある。

平成25年度入札1(

)に関する,法令適用の誤り,

訴訟手続の法令違反及び事実誤認

仕様書の作成に関する法令適用の誤り
原判決は,仕様書の条項の設定が

項が調達の目的達成に不可欠であるという事情のない限り」入札妨害に該当するとの判断基準を示し,平成25年度入札1の仕様書に本件2条項が盛り込まれたことがこれに該当するとして,被告人Aを有罪とした。しかし,上記の判断基準は,公契約関係競売入札妨害罪の解釈を誤ったものであり,しかも,原判決は,仕様書の作成や内容について最終責任を負う発注者と,参考意見を述べるにすぎない業者との立場の違いを無視して,被告人Aを同罪につき有罪としているから,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある。

争点未整理及び不意打ち認定の訴訟手続の法令違反

その正当性について争点化されていなかったのに,原審裁判所が判決においてこの要件を持ち出したのは不意打ちであり,この要件の立証責任を事実上被告人側に課したものでもあるから,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある。

事実誤認
被告人らには

がなく,

これらに反する認定をした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある。
事実誤認及び法令適

用の誤り

競争の不存在等に関する事実誤認及び法令適用の誤り
平成25年度入札2では,そもそも妨害の対象となるべき公正な競争が存
在せず,Oが被告人Bに意見を求めたのは正当な業務の範囲内のものであるのに,被告人BからEの企画提案書が高評価を得るための助言・指導を受け,これによって公正な競争が害されたと認めた原判決は,事実を誤認した結果,法令適用を誤ったもので,判決に影響を及ぼすことが明らかである。イ
共謀・故意に関する事実誤認
被告人Aは,Oに業務を一任しており,同人と被告人Bとのやり取りの内
容を知らず,Fにプレゼンテーションで勝つための準備をする必要もなかったのに,O及び被告人Bとの共謀及び故意を認めて被告人Aを有罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある。
2
被告人B
平成24年度入札及び平成25年度入札1(原判示第2の1及び2)に
ついての公訴受理の違法(刑訴法338条4号違反)
平成24年度入札及び平成25年度入札1について,競争確保のための重要な意見招請の手続が欠缺していたのに,検察官が,このような入札の公正さに関する重大な事情を看過したまま,形式的違法にすぎない極めて軽微な行為で被告人Bを起訴したことは,公訴提起の手続が法令に違反し無効との評価に相当するほど不当極まりないもので,原審裁判所は,刑訴法338条4号により公訴を棄却すべきであったにもかかわらず,不法にこれを受理したものである。
平成25年度入札1(原判示第2の2)に関する法令適用の誤り及び事実誤認

仕様書の作成に関する法令適用の誤り
原判決は,仕様書の条項の設定が

項が調達の目的達成に不可欠であるという事情のない限り」入札妨害に該当するとの判断基準を示し,平成25年度入札1の仕様書に本件2条項が盛り込まれたことがこれに該当するとして,被告人Bを有罪とした。しかし,上記の判断基準は,公契約関係競売入札妨害罪の解釈を誤ったものであり,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある。

事実誤認

これらに反する認定をした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある。
平成25年度入札2(原判示第2の3)に関する法令適用の誤り及び事実誤認

法令適用の誤り
平成25年度入札2では一者応札の場合に手続を中止するとのルールがな
かったから,落札意思のないFが入札に参加しても,競争に影響を及ぼさず,Eの企画提案書に関する助言・指導によって結果の違いが生じたわけでもないのに,被告人BがFに落札意思がないことを認識していたことや,助言・指導を行ったことで,ただちに入札等の公正を害すべき行為に該当すると原判決は解釈しており,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある。

事実誤認
被告人Bには,一者応札を避けなければならないとの動機はなく,Eの受
注が確実であるから,企画提案書に助言・指導を行ってまでそれを支援する意味はなく,助言・指導を否定する同被告人の供述の信用性に疑いはないの
に,お付き合い入札への関与や助言・指導の事実を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある。
量刑不当
被告人Bを懲役2年・4年間執行猶予に処した原判決の量刑は重すぎて不当である。
第4
1
当裁判所の判断
被告人両名の各控訴の趣意中,被告人Bからの平成24年度入札及び平
成25年度入札1(原判示第2の1及び2)についての公訴受理の違法をいう点については,(控訴趣意書では,訴訟手続の法令違反の主張とされているものの)刑訴法378条2号の控訴の理由の申立てと解されるから,他の主張に先立って,まず,この点について判断する。
しかし,その余の訴訟手続の法令違反,法令適用の誤りとして主張されている点は,事実誤認の主張の前提としての主張や,実質的にこれと同旨の部分が少なくないため,控訴趣意判断の論理的順序によることなく,各事実ごとに事実誤認の主張に焦点を当てて判断を加え,その中で各論旨についての判断を付言する。その上で,最後に被告人Bの量刑不当の判断について検討を加えることとした。
2
被告人Bの公訴受理の違法(刑訴法338条4号違反)の主張について所論は,政府調達に関する協定(平成7年条約第23号)及びこれに基づ
いて定められた日本の公共部門における電気通信機器及びサービスの調達に関する措置について(いわゆるアクション・プログラム)によれば,平成24年度入札及び平成25年度入札1は,いずれも意見招請の手続を行う必要があったところ,国循の契約係がこれを怠っていたために入札の公正さが損なわれ,長年にわたってGが一者応札で国循のNCVCネットワーク運用保守業務を独占する状況が生じていたが,意見招請の手続が行われていれば,平成24年度入札について,被告人BがEに本件体制表を送付するとい
った問題は起こり得ず,平成25年度入札1についても,仕様書作成における参入排除性の問題は生じ得なかったのに,検察官が被告人Bの行為を起訴したのは,あまりに偏頗かつ不公正で,公訴提起の手続に重大な違法があるという。
所論指摘の各入札において意見招請の手続を行う必要があったことや,これが行われていなかったことはそのとおりであり,各入札にはこの点で瑕疵があったと考えられる。所論は,公共調達を専門的に研究している法学者の意見書(当審弁1)を踏まえ,意見招請の手続の欠缺が入札の公正さに及ぼす影響が大であったことを論ずる。しかし,意見招請の手続が欠缺しているからといって,そのような前提で行われた入札において,その入札に関わる者が,一部の応札者に有利,あるいは不利になる不正行為をそれと分かって行うことは,自由な競争を阻害し,入札の公正さを害することが明らかであって,それが職務違背に当たることは当然である。ましてや,本件において,国循の契約係が意見招請を怠ったのは,単純な知識不足,思い違いによるもので(原審第4回・証人P66丁),被告人Bを含め,国循の関係者が事前にこの瑕疵に気付いていたことを示す事情はない(被告人Bについては原審第24回・被告人B19丁)。検察官がこの欠缺を殊更に隠して起訴したも,検察官は,
意見招請の手続が重要であるとは考えなかったため,その欠缺が被告人Bの行為の違法性の程度に影響するかを検討することなく,起訴の要否を判断したというにすぎない。
検察官の訴追裁量権の逸脱が公訴の提起を無効ならしめるのは,公訴の提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場合に限られるものと解されるが,被告人Bの行為がそれ自体として十分な違法性を有すると解されることは上述のとおりであり,検察官が所論とは異なる立場で本件の各公訴を提起したことが,そのような極限的な場合に当たるとみる余地はない。
よって,その余について検討するまでもなく,論旨は理由がない。3
被告人Aの平成24年度入札に関する各主張について
原判決が,被告人Aについて,平成24年度入札に関する公契約関係入札
妨害が成立すると認めた理由について,(争点に対する判断)において説示した内容は,同被告人の認識内容や行為が偽計と評価される理由について若干舌足らずな点があるとはいえ,論理則,経験則に照らして不合理といえず,原判決に不意打ち認定の違法や法令適用の誤りがあるともいえない。以下,所論に即してその理由を述べる。
所論は,本件体制表の送付は,被告人Aの依頼に基づくものではなく,同被告人にはこれが非公開情報であるとの認識はなかったと主張する。確かに,被告人Aから被告人Bに本件体制表を名指しして入手を依頼したと認めるに足る証拠はない。もっとも,当時,GとEは,平成24年度入札を落札するべくしのぎを削っており,E側が入札金額決定のための情報収集に苦労し,その中で,被告人Aがかねて懇意であった被告人Bに種々の相談を持ち掛けていたことは,

で,その一環として人

件費積算のために必要・有益な情報を提供してもらいたいとの依頼があったことは優に推認することができる。被告人B自身も被告人AからNCVCの運用保守の業務量を知りたいと言われ,体制表なら提供できると答えたことを認めている(原審第23回・被告人B34丁以下)。そうすると,本件体制表は,被告人Aからの上記のような依頼の趣旨に応えたものと解するのが合理的で,常駐員9名の氏名に網掛け処理が施されていたことやメール本文でも予定配置の人数を強調していることもこれを裏付ける。本件体制表が被告人Bから送付されてきたのは,そのような最中であり,しかも入札の最終日であったから,被告人Aがこれに注目しないはずがないし,当初に依頼をしたのは同被告人なのであるから,同被告人にも自分の依頼に応えて被告人Bが本件体制表を送付したものであることが分かったはずである。
本件体制表の表題部には,やや大きなフォントで2012年度環器病研究センター様国立循情報システム運用・保守業務体制表と記載され,
その下部にはGやその関連会社の組織・従業員名などが具体的に記されていて,このような体裁からは,平成24年度の情報システム運用・保守業務体制表としてGが国循に提出したものであることが容易に見てとれる。本件体制表の送付の数日前にEも平成24年度入札の競争参加資格確認書類の一つとして同様の性格を持つ書類(業務体制について・原審甲133資料13)を国循に提出していたことからすれば,本件体制表がGの提出した競争参加資格確認書類に由来する可能性が高いことは,被告人Aにも分かったとみるのが合理的である。そして,競争参加資格確認書類は,無断でその資格確認以外の目的に使用しないことを入札説明書(原審甲133資料10)に明記した上で徴求されたものであることは,入札に参加したEの代表者の被告人Aには自明であったといえる。これらからすれば,被告人Bのメールに,本件体制表の由来やこれが非公開情報であることを明示する文章がないことを考慮しても,被告人Aにはこれが無断での目的外使用が許されていない情報であることについての少なくとも未必的な認識があったと認められる。これに対して所論は,本件体制表は,被告人Bが勝手に送り付けてきたものであり,被告人Aは非公開情報とは考えなかったと主張する。原審公判において,同被告人自身は,本件体制表は一瞥して現行の体制表と認識しただけで詳しく見ていない,などと,所論に沿う供述をしている。しかし,前記のとおり,本件体制表が送付されたのは入札の剣が峰ともいうべき局面で,しかも送付した人物は,かねて被告人Aが頼りとしていた被告人Bであったから,そのメールや添付文書の内容を精査しなかったとは考えられず,上記の原審公判供述の信用性は乏しい。被告人Aが,被告人Bのメールを特段の論評も付さずにただちに担当社員のOに転送したのも,取り急ぎ情報を共有する必要を認めたからとみるのが相当である(なお,本件体制表を現行の体
制表と誤認したという被告人Aの供述は,原審における被告人Bの主張に合致したものであったが,当審において被告人Bはその旨の主張はしていない。)。被告人Bが勝手に送り付けたという想定も,それまでの被告人両名の関係ややりとりに照らして非現実的なものである。よって,この点の所論は,採用できない。
次に,所論は,被告人Aが本件体制表の情報を利用して入札金額を決定したことはないと主張する。
原審関係証拠によれば,被告人Aが入札金額を2億1400万円とすることを決断したのは,開札当日(平成24年3月19日)の締め切り直前であったことが認められ,同被告人自身も当日に自分のパソコンを開いて各種のデータを確認するなどしていたことを認めている(原審第30回・被告人A27丁)。また,被告人Aは,NCVC-ブンブンブン.xlsx(平成24年度の入札金額を積算するための表計算データ・原審甲35資料3)ワークシート集計記載の202,182,116との金額を根拠に,上記の2億1400万円とすることを決めたことを認めている。この202,182,116は,上記ワークシート中の推定保守金額の合計金額\107,954,397に84,600,000を加算し,消費税分を上乗せして得られた金額であることが,その記載から明白である。そして,84,600,000と同じ数字が被告人Aのパソコン内の【概算見積書】情報システム運用・保守委託業務(24年度)20120305.xls(原審甲36資料4)の見積書書式枠外に計算式とともに記載されていて,その計算式は,10人分の年間人件費を記載したものとみるのが相当で,被告人A自身もそのことを認めている。【概算見積書】情報システム運用・保守委託業務(24年度)20120305.xlsの最終更新は被告人Aが入札した午後4時の間際である午後2時58分になっていることや上記計算式が枠外に記載されていることからすると,その頃,被告人Aが人件費を計算して,その数値を基に最終的な入札金額をはじき出したことが推認できる。
その直前(午前中)に被告人Aが本件体制表の情報を入手していること,入手先は被告人Aが頼りにしていた被告人Bであったこと,本件体制表には人件費の算出に参考となる人員の配置部分に網掛け処理がなされていたほか,メール本文にもそれを強調する部分があることに照らすと,入札の間際に被告人Aが人件費を計算することにした契機は,本件体制表の入手とみるのが相当である。
もっとも,本件体制表中の予定配置人数は9人であるが,被告人Aは,予定配置人数を10人として人件費を計算していて,このずれからすると,人件費の基礎とする予定配置人数の決定には被告人Aなりの考慮が入っていたといえる。ただ,このずれがわずか1名分にすぎないことや,Eが平成24年3月16日時点では予定配置人数を12人とする旨の業務体制表を提出しており,それ以降も予定配置人数を12人以下で考慮することはなかった旨のOの供述(原審第9回・証人O50丁)などに照らすと,減員の幅などを考えるに当たって,本件体制表の情報が参考になったとみるのが相当である。原判決は,Eが平成24年3月16日に経歴証明書等と同時に提出した業務体制についてでは予定配置人数を12人と記載していたのに,同月19日に入札金額を決定するに当たってはこれを10人と計算していて,この間に被告人Bから送付された本件体制表以外には予定配置人数を変更するための情報がもたらされたことはうかがわれないとして,被告人Aが本件体制表を利用して予定配置人数を変更したと推認できるとした。この判断は,上記の認定と基本的に同旨のもので,論理則・経験則に照らして不合理な点があるとはいえない。
これに対して,所論は,人件費を10名で8460万円とした計算は,それが記載されている見積書の作成日である平成24年3月12日にされていたものであり,同月16日に従事予定人数を12名で届け出たのは,仕様書で常駐員の人数が12名とされていたからにすぎない,と主張し,原審にお
いて,被告人Aもこれに沿う供述をしている。しかし,同被告人の供述は,【概算見積書】情報システム運用・保守委託業務(24年度)20120305.xlsの最終更新が開札当日の午後2時58分になっていることや,人件費以外で直前まで見直していた項目を具体的に指摘できるものになっていないことなどに照らし,上記の推認を覆すほどの信用性は認められず,他に所論のいうような事実経過をうかがわせる事情はない。よって,この所論も採用できない。
以上からすれば,被告人Aは,入札を勝ち抜くために被告人Bに種々の依頼をする中で,人件費積算のために必要・有益な情報の提供を依頼していたところ,被告人Bは,Gが競争参加資格審査のために提出した書類の中にあった本件体制表が有益な情報に当たると判断し,メールで被告人Aに送付したことが認められる。Gに無断で目的外使用できないはずの情報を一方的にEの代表者に送付することは偽計であって,競争過程に影響する行為であるから,これは公契約関係競売入札妨害に当たる。被告人Bがこうした違法行為に及んだ背景には,既設業者のG
もに,Eとの不明朗な関係の影響もうかがえる。被告人Bは,Eから前記第
らは明らかな不正とは断定できないものの,発注者側の要職にあり,入札実施の責任者たる公務員と同等の義務を負担している被告人Bにとって,職業上の倫理に反するなれ合い関係とみられてもやむを得ないものである。他方,本件体制表を受け取った被告人Aは,その性格について未必的な認識があったものの,被告人Bの意図を酌んで,人件費の見直しをすることとし,本件体制表の情報を参考に,予定配置人数を10人として人件費の計算を行い,それに基づいて入札金額を最終的に決断したことが認められる。一件記録上,被告人Aが被告人Bに非公開情報の入手を働きかけたことをうかがわせる事情はなく,そうであるのに本件体制表が送付されたことは,被告
人Aにとって意外であった可能性はある。また,被告人Aは,営利企業の代表者であるから,発注者側に近づいて情報を得ようと活動したことが,ただちにその職業上の倫理に反しているとはいえない。しかし,被告人BとEとの不明朗な関係の構築にはE側も多分に寄与していて,そのような中で,被告人Bが本件体制表を送付したのであるから,Eにも被告人Bの違法行為を誘発した原因があるといえる。加えて,被告人Aが本件体制表の性格を少なくとも未必的に認識し,入札金額の決定に利用している以上,これを全体としてみれば被告人Aの不正の手段に当たるというべきで,偽計を用いたものと評価することができる。入札等の公正を害すべき行為であることも当然で,公契約関係競売入札妨害に当たると認定できる。
所論がその他にるる述べる点を考慮に入れても,この認定は左右されない。これと同旨の原判決の認定は正当であって,判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認はない。
続いて,原判決の認定が,不意打ち認定として訴訟手続の法令違反に当たるかについて検討する。
所論は,原審公判前整理手続では,本件体制表についての被告人Aの認識内容が争点として挙げられていたのに,原判決は,これに対する判断をしておらず,これが違法な不意打ち認定に当たると主張する。しかし,裁判所が事実認定の判断上,とりわけ重要であると考える事実関係について,争点として顕在化する措置をとらず,当事者に防御の機会を十分に与えることなく認定した場合には,その不意打ち認定が審理不尽として訴訟手続の法令違反となる場合があるものの,所論がいうのは,原審公判で争点として顕在化され,攻撃防御を尽くしていた事項について,十分な判断が示されなかったというのであるから,判断遺脱とされる可能性があるとはいえても,違法な不意打ち認定となるいわれはない。
また,原判決は,(争点に対する判断)の中で,本件体制表についての被
告人Aの認識内容に焦点を当てているとはいえず,若干舌足らずとの印象は拭えないものの,本件体制表の体裁それ自体から,これを見る者にとって,それがGの平成24年度の業務体制を記載した書面であることは明らかである旨を説示している(前記

被告人Aにも

その性格についての認識に欠けるところはないとの前提で判断したものと解される。そうすると,原判決の認定が,争点についての判断を欠くとはいえない。
いずれにせよ,原判決の認定過程に訴訟手続上の違法はない。
所論は,公契約関係競売入札妨害罪の成立のためには,不正な手段で非公開情報を入手し,これを認識して利用したことが必要であるのに,原判決はこの点について認定していないから,構成要件事実の認定を欠くもので,そうであるのに刑罰法令を適用したことは違法であると主張する。しかしなAの行為は,そのような実体を伴った行為
であるから,これに刑罰法令を適用したことに違法はない。所論は,独自の法解釈を前提とするもので,採用できない。
以上の次第で,平成24年度入札に関する論旨はいずれも理由がない。4
被告人両名の平成25年度入札1に関する各主張について
原判決は,平成25年度入札1に関して,被告人両名が公契約関係競売入
札妨害の共同正犯としての責任を負い,さらに被告人Bが官製談合防止法違反(8条の罪)の責任を負うと認定しているが,その理由として説示するところはおおむね相当で,結論にも誤りはない。そして,この点に関し,原判決に所論がいうような法令適用の誤りや訴訟手続の法令違反も認められない。以下,所論に即してその理由を述べる。
まず,所論は,仕様書の条項の設定が公契約関係競売入札妨害となる場合についての原判決の判断手法を論難するため,この点について検討する。それを裁量というかはともかく,公契約においても,入札担当者等が,入
札によって,より高度でより良いものの獲得を目指し,それを可能にする仕様書の条項を設定することは当然許容されるものと解される。しかし,競争入札として行われている以上,そのような中でも不必要な参入障壁を設けないよう注意し,可能な限り自由な競争を確保することが求められる。それにもかかわらず,特定の業者に有利にする目的で,他の業者の参入障壁となる条項を設定したり,特定の業者を殊更に排除する目的で,当該業者の参入障壁となる条項を設定したりすることは,本来は可能である自由な競争を殊更に阻害するものであるから違法であり,職務違背に当たることも明白で,入札等の公正を害すべき行為に当たる。

が調達の目的達成に不可欠であるという事情のない限り,入札等が公正に行われていることに対し,客観的に疑問を抱かせる行為ないしその公正に正当でない影響を与える行為(すなわち入札等の公正を害すべき行為)に当たる,と解しているが,上記と同様の考えのもとに,調達目的に不可欠である等の社会的相当性がある場合には違法性が阻却されることを明示したもので,その判断は正当である。
これに対して所論は,仕様書の条項設定が公契約関係入札妨害に該当するかどうかは,まず,客観的に調達目的に照らして条項が合理性・必要性を欠くかを判断し,それが肯定された場合に主観面の違法性を検討すべきであって,原判決が示した判断手法は,主観面の判断を優先させる不当なものであると主張する。しかし,原判決が,主観面だけを重視したのではなく,主観・客観両面を総合して判断していることは,上記説示自体から明らかである。所論は原判決の説示を正解したものとはいえず失当である。

当否について検討する。

原判決は,平成24年11月9日にOから被告人Aに送られた電子メー
ル等を根拠に,これに先立って行われた被告人BとE社員らの打合せによって,本件2条項を加える方針が示されたことや,その目的がEに有利に,そして,入札に際して最も現実的な競争相手であるGに不利にすることにあったと認め,Nの落札判明後,被告人両名及びOが同社を契約から排除する可能性を追求している事情もこれを裏付けるとする。
所論は,Oのメールは,被告人Bのあずかり知らぬところでやり取りされたものだから,それによって認定できる間接事実は限られており,しかも,Oと被告人Bの打合せを正確に記録したものではなく,Oが被告人Aに対し,自らの成果を強調するために文言を加えた可能性があることなどからすると,上記メールの文言から直ちに被告人Bの主観面を認定することはできないはずであると主張する。しかし,上記メールは,E社員のOが同社代表者の被告人Aへの業務報告として送ったもので,当時,Oが被告人Aを欺いて業務を進めようとしていた形跡もないから,被告人Bとの打合せの実態をほぼありのままに記載したとみるのが合理的である。打ち合わせに立ち会ったE社員のQからOに当てられた電子メールに添付された仕様書案(原審甲72添付,平成24年11月9日のもの)に,病院情報システムの構築条件に関して被告人Bから指示があったことをうかがわせる記載があることも,この点を裏付けるといえる。他方,Oは,原審公判において,被告人Aに送ったメールには被告人Bの発言ではないのに自分の勝手な意見・感想を付加した点がある旨の証言をしているが(原審第9回・証人O28丁),不自然な内容で,従前の人的関係に照らして,Oには被告人らに遠慮し,かばおうとする供述をする動機があると考えられる(現にOは,被告人らに無罪の判決を希望している旨も述べている。)から,信用性は乏しい。
以上からすれば,Oのメールの証拠価値やその解釈についての原判決の判
断は,合理的なものというべきである。
これに対して,所論は,被告人Bは,仕様書案に,終日受付を行う電話窓口の設置や,管理システムの独自開発の許容など,Eに不利になり,他の業者に有利になる条件も求めていて,原判決が認定した目的とは矛盾する事情があると主張する。確かに,打合せの結果できた仕様書案の条項の多くは中立的なもので,所論がいうようにEに重荷となるような条項もあるから,被告人Bには,国循の利益をないがしろにしてまでEの利を図る目的はなかったと考えられる。もっとも,

Bは,Gの

業務に不信の念を抱いていたことが認められ,同社の受注を防ごうと考えたことがうかがえ,それが本件の動機であったとみられるから,所論の指摘は,原判決が認定した目的と矛盾するものではない。
なお,被告人Bが,同被告人なりに国循のためにはEの継続受注が望ましいと思っていたとしても,Eでなければ調達目的を達成できないとか,逆にGでは調達目的の達成が困難になるというほどの事情があったとは認められず,単にEと組んだ方がより良いシステムの構築が進めやすいという程度のことと考えられるから,被告人Bの行為を正当化することにはならない。その他に所論がるる述べるところも,原判決の上記認定を揺るがすものではない。

原判決は,本件2条項がE以外の業者の参入を困難にし得るものであるように説示し,いずれもE以外の業者の参入を

困難にし得るものと認定しており,これらの認定・判断は,論理則,経験則等に照らして合理的といえる。
所論は,E以外の業者の参入を困難にし得るか否かは,当時,最も現実的な競争相手と考えられていたGを標準に判定すべきところ,同社は,管理システム条項について技術的に対応可能で,仮想化構築実績条項を満たせなかったとも考えられないと主張する。G従業員のRの原審証言によれば,同社
が平成25年度入札1に参加しなかった理由として,下請け業者への丸投げを禁じる再委託率を50パーセント以下にするとの条項の存在が大きかったことを述べる一方,管理システム条項を充足することは,資金をかければ可能としてもそのようなリスクを負って入札に臨むことはできなかったことも述べており,その供述は信用できる。また,同じくG従業員のSの原審証言等によれば,当時,Gによって病院情報システムのサーバ仮想化・デスクトップ仮想化が導入されていた病院のうち,500床以上の医療機関はT大学病院だけであったことが認められ,他の企業でその構築を経験した技術者を引き抜くことが容易でないのは自明であるから,仮想化構築実績条項を満たすことに困難があったことも明らかである。したがって,GがEの競争相手であったことを前提としても,本件2条項がE以外の業者の参入を困難にし得るものであったとの評価は妨げられない。

原判決は,

管理システム条項と仮想化構築実

績条項のうちの仮想化構築実績を病院情報システム及び病床数500床以上の複数の病院に限定する部分は不可欠なものではなかったと認定しているが,この判断にも,論理則,経験則等に照らして不合理な点はない。管理システム条項に関し,所論は,現場において,日々の運用の中で障害の発生状況を把握した業者が,その場で対応することが必須であるから,プログラムの機能追加・改修を運用保守支援受託者に委ねることは,必要不可欠であると主張する。しかし,利便性の高さ等から新利用者管理システム等の運用を中断すべきでないというのであれば,平成25年度入札2のように,その運用保守のみを随意契約で発注する等の対応をとれば良いのであり,わざわざNCVC運用保守業務の中に含めた上で,管理システム条項を設けることは不合理な選択であって,必要不可欠性の根拠にはならない。次に,所論は,原判決は,Uの原審証言を根拠に仮想化構築実績条項はNCVC運用保守業務の履行能力と直接関係しないとしているが,同人が病院
情報システムについて十分な知識経験を持っていないことや,被告人Bを快からず思っていた可能性があることからすれば,その供述を過度に重視すべきではなく,原判決には証拠評価の誤りがあるという。確かに,原判決が病院情報システムから抽出された情報をNCVCネット側では受け取るだけであるとのUの供述の説得性を肯定する理由は,医療情報学の専門家(I,C等)による異なる趣旨の説明の信用性を否定する根拠として薄弱で,この点の説示の合理性には疑問が残る。しかし,IやCの供述等を前提としても,病院情報システムの仮想化構築の実績が多くない中で,一定の病床数を求めた上で,複数回の構築経験を現実に有する技術者の手配を求めることは,運用保守能力を確保する手法として過剰であることは否定できず,少なくとも,仮想化構築実績の対象を病床数500床以上の複数の病院の病院情報システムに限定した点が不可欠ではないとした原判決の認定に誤りはない。
以上を前提に被告人ごとの犯罪の成否について検討する。
当時,国循においては,入札のための仕様書の作成は契約係が行うことになっていたとはいえ,専門的知識が必要な入札については発注部署が仕様書案を作成することになっており,NCVC運用保守業務に関しては,医療情報部長兼情報統括部長の被告人Bが,技術面に関する責任者として,事実上,仕様書案の取りまとめを行っていて,契約係がその当不当に介入することは通常なら考えられない状況にあったことが認められる。したがって,同被告人が仕様書作成の実質的な権限を有していたものと認められる。同被告人は,そのような権限や立場に乗じ,E社員のOと意を通じながら,前項で述べたとおり,Eに有利に,Gに不利になるようにとの目的で,それが必要不可欠との事情もないのに,そのような効果が生じる条項を仕様書案に殊更に盛り込み,上記のような意図を秘して契約係に提供し,仕様書として採用させたものと認められる。国循の利益を考えたとはいえ,被告人Bが独断でこうし
た行為に及ぶことは,偽計であり,かつ,職務の違背との評価は免れない。自由な競争を阻害し,入札等の公正さに対する公の信頼を損なうものでもあるから,被告人Bの行為は,公契約関係競売入札妨害に当たるとともに,官製談合防止法違反にも該当する。
そして,被告人Bは,E社員のOと意を通じ,協力して仕様書案を作成していて,同人は同社代表者の被告人Aとの間で情報交換しつつ,その意を受けて被告人Bに協力したことが認められるから,被告人B,O及び被告人Aの間には公契約関係入札妨害の共謀関係が肯定できる。したがって,被告人Aは,公契約関係競売入札妨害の共同正犯としての責任を負う。
被告人両名は,原判決が,仕様書の条項の設定が

ないし

の要件を充足する場合に入札等の公正を害すべき行為になると解したことについて,公契約関係競売入札妨害罪の解釈を誤ったもので,法令適用の誤りがあると主張する。しかしながら,上述のとおり,原判決の説示に誤りはないから,所論は採用できない。
被告人Aは,仕様書に参考意見を述べるにすぎない同被告人の行為にも公契約関係競売入札妨害罪の成立を認めたことは,発注者と業者の立場を混同するもので,法令適用の誤りがあるとも主張するが,前項で述べたとおり,同被告人は,被告人Bが公契約関係入札妨害を行うに当たって,E社員のOを介して同被告人と共謀したものと認められ,Oとともに共同正犯としての責任を負うと解されるのであるから,この主張も採用できない。
被告人Aは,


化されていなかったのに,原判決がこの要件を持ち出したのは不意打ち認定に当たると主張する。
原審の公判前整理手続を終結するに際しては,平成25年度入札1に関する主たる争点は偽計を用いた公の入札等の公正を害すべき行為の有無とされており,その前提として仕様書に新たに条件を追加した目的などが争点
となるとされたのみであるが,その後の当事者の主張・立証活動をみると,本件2条項が参入障壁に当たるのか,当たるとしてもその必要性・合理性について双方が十分な攻防を尽くしており,論告や弁論においても,それらが調達目的からみてどの程度必要であったかについて,それぞれの立場で意見が述べられていることが認められる。このような審理の経過に照らすと,原判決が公契約関係競売入札妨害罪の成立を認めた判断の過程において,本件2条項が調達目的からみて不可欠とはいえないものであったことを一つの理由に挙げたことが,不意打ち認定に当たるとは到底解されない。
所論は,原判決は,不可欠性の反証の責任を被告人らに課しているとも主張するが,原判決がそのような立場を採っていないことは,その説示自体から明らかで,所論は前提を欠く。
いずれの所論も採用できず,原審にこの点に関する訴訟手続の法令違反はない。
平成25年度入札1に関する各論旨はいずれも理由がない。
5
平成25年度入札2に関する各主張について
原判決は,平成25年度入札2に関して,被告人両名が公契約関係競売入
札妨害の共同正犯としての責任を負い,さらに被告人Bが官製談合防止法違反(8条の罪)の責任を負うと認定しているが,その理由として説示するところは正当として是認できる。そして,この点に関し,原判決に所論がいうような法令適用の誤りも認められない。以下,所論に即してその理由を述べる。
まず,所論は,Fには落札意思がなく,Eとの間で実質的な競争がなかったことを根拠に,公契約関係競売入札妨害罪が成立しないと主張するので,この点について検討する。
所論がいうように平成25年度入札2に参加したFに落札意思がなかったことは,原審関係証拠から明らかに認められ,原判決もそのように認定して
いる。なお,原審関係証拠によれば,Fが同入札に参加した経過は,次のようなものであったと認められる。当時,国循の契約監視委員会では入札における競争性の確保が重視されていて,一者応札となった案件は同委員会での審議対象になるなどの事情があり(原審甲76から78),契約係の職員は,一者応札を避けようと,心当たりの業者に入札参加の声掛けをするなどの努力をしていた(原審第6回・証人V80丁など)。被告人Bもその状況を認識していて,平成25年度入札1の仕様書案についてOと相談する中で,(うまくプロテクトに成功しても)1社入札はまずい(原審甲72添付のOのメール)との意向を示し,これを受けたOが,受注意思のなかったMに働きかけ,形だけ入札に参加するとの協力を取り付けていた(前記第1の。平成25年度入札2の実施が決まった際も,一者応札となることを危ぶんだ国循の契約係や被告人Bは,Oに対してE以外の入札の参加者を募ることを求めていた。Oを介してその旨を知った被告人Aが,旧知のK社員(被告人Bの知己でもある)に協力を求めたところ,Kの入札参加は断わられたものの,上記社員の同僚がFを紹介してくれ,被告人Aの働きかけもあって,同社がお付き合い入札をしてくれることになった(原審第31回・被告人A38丁以下)。
こうした事情に照らすと,FとEの間では,Eが平成25年度入札2の落札者となることが協定されていたといえるから,一種の談合が成立していたと考えられる。
談合が入札等の公正の対極にある事象であって,発注者側の職員が,このような談合の存在を知りつつ,それを助長する行為は,偽計として,入札等の公正を害すべき行為に当たる。そのことは,当初の入札希望者が一者のみで,実質的には自由競争が形骸化していて,発注者や入札希望者自身がお付き合い入札の業者の参加をおぜん立てしたという事情があったとしても,妨げられるものではない。

これに対して,所論は,お付き合い入札の業者が存在しても,競争の過程や結果に影響を及ぼさないから,公契約関係競売入札妨害罪の保護法益である自由競争の原理への具体的な危険はないと主張する。しかし,自由な競争は,物理的心理的障壁のないところで初めて確保されるものであって,発注者側が談合に手を貸す行為は,入札等の公正さに対する公衆の信頼を損ない,入札に参加しようとする者の参加意思を削ぐことが明らかであるから,自由競争の原理を実質的に損なうものとして,偽計に当たる。たとえ,元から自由競争が形骸化していたのだとしても,お付き合い入札の業者を参加させてあたかも自由な競争が成立しているかに装うことは,他の入札においても同様のことが行われる場合が多く,自由な競争は見せかけのものにすぎないとの印象を一般に与え,入札等の公正さに対する公衆の信頼を大きく損なうもので,自由競争の原理に対する具体的危険の発生を肯定できる。この点の所論は,いずれも採用できない。
そこで,以上のような観点から,被告人らに入札等の公正を害すべき行為(偽計)があったといえるかを検討する。
原判

BがFに落札意思がないこと

を予め知っていたことや,プレゼンテーションの実施前に,2回にわたって被告人BとOとの間でEの企画提案書に関する打合せが行われ,その際に,被告人Bが,非公表であった評価項目・チェックポイントに沿った指導・助言を行い,これによってEの企画提案書が改められたことを認定している。この認定は,関係者間においてやりとりされた電子メールの内容(原審甲111),Oの利用していたパソコン内にあった企画提案書案の内容(原審甲113)と技術点の評価項目・チェックポイントの比較や,K社員からE関係者に送付された電子メール(原審甲75,甲238)などの原審関係証拠から認められる事実関係を総合し,合理的な推論を経て導いているもので,そこに不合理な点はない。

このような認定事実からすると,被告人BとOは,EとFの間で,Eが受注するとの一種の談合がなされていることを前提に,技術点においてもEが高評価を得ることにより,その通りの結果が生じるように協力したもので,被告人BとOの行為は,談合を助長し,偽計に当たるから,共謀して公契約関係競売入札妨害に及んだといえる。被告人Bは,企画書等評価委員の1名として,企画提案の評価を公正に行うべき職務を負っていたものであり,他の委員に情を秘して上記のような行為に及んだことは,職務への違背でもあるから,被告人Bの行為は,官製談合防止法違反にも該当する。
そして,Oは同社代表者の被告人Aとの間で情報交換しつつ,その意を受けて公契約関係入札妨害の犯行に及んだというべきであるから,Oと被告人Aとの間にも共謀関係が肯定できる。したがって,被告人Aは,公契約関係競売入札妨害の共同正犯としての責任を負う。
なお,所論は,国循の契約係がお付き合い入札を主導したことをるる主張するが,仮にそうした事実があったとしても,それは被告人らの行為が入札等の公正を害すべき行為になるとの評価を左右する事情ではないから,この点の所論は前提を欠く。
これに対して,被告人両名は,原判決の助言・指導事実の認定には誤りがあるという。すなわち,被告人Bの所論は,同被告人には,一者応札を避けなければならないとの動機はなく,Eの受注が確実であるから,非公表の審査基準をもとにして企画提案書に助言・指導を行ってまでそれを支援する意味はなく,これを否定する被告人Bの供述の信用性に疑いはないと主張する。同様に,被告人Aの所論は,Fに落札意思がなかったことに加え,Oは,日常業務の中で被告人Bとの接触が多く,仕様書の原案作成に関わるなどする過程で,国循が企画提案書の評価で注目するポイントを十分に把握していて,改めてその点の教示を受ける必要はなく,正当な業務の範囲内の事項についてのみ被告人Bから意見を求めたにすぎないと主張する。

しかし,平成25年度入札1の当時から,被告人Bが一者応札を避けたいと考えていたことは前述のとおり認められるから,本件の動機がなかったとはいえない。被告人Bが一者応札を嫌った理由は判然としないものの,国循の契約係とは同僚関係であったから,その影響があったとみても不思議はないし,いずれにせよ,その理由如何が本件の事実認定を左右するとは思われない。
また,原判決が指摘するとおり,Fに落札意思がなかったことは,被告人Bを除く評価委員は知らなかったのであり,Fの企画提案の方が高評価を受けることがあり得たもので,そうなれば,Eが契約の第1交渉権を得られない可能性が生じ得るから,被告人BやOにはそうした事態を確実に避けたいとの思惑があったとしても,不自然ではない。原判決が説示するとおり,Fがお付き合い業者であることを知らず,助言・指導もしていないとの被告人Bの供述は,K社員の電子メールの内容に照らして不自然である上,そもそも作成途上の企画提案書案の送付をOから受けて会合を持った合理的な理由を説明するものになっておらず,信用できない。
この点の所論は,いずれも採用できない。
被告人Aは,Oに業務を一任しており,同人と被告人Bとのやり取りの内容を知らず,Fに企画提案の評価で勝つ準備をする必要もなかったから,故意や共謀が認められないと主張する。
しかし,当時,Oは,Eの社員として日常的に代表者の被告人Aに業務報告をしながら,その意思を受けて行動していたと考えられる上,原判決も説示するとおり,Oから被告人B宛ての電子メールのカーボンコピーを逐一受け取っているから,Oと被告人Bとのやり取りを知らなかったというようなことは考えられない。被告人Aは,原審公判において,Oからの電子メールの中身を見ていないことが多かったなどと供述するが,同被告人自身が,Oに対し,Fの見積額をEのそれに2000万円ほど上乗せしたものにさせる
よう指示する(原審甲115)など,業務の進め方の要所に指示を与えていたことからみて,信用できない。
よって,この点の所論も採用できない。
被告人らは,いずれも実質的な競争が存在しなかった平成25年度入札2において公契約関係競売入札妨害の成立を認めた原判決は,同罪の解釈を誤って法令を適用した誤りがあると主張するが,この主張が採用できないこ
以上の次第で,平成25年度入札2についての被告人両名からの事実誤認の論旨及び法令適用の誤りの論旨は,いずれも理由がないと認めた。6
被告人Bの量刑不当の主張について
本件は,国循の医療情報部長や情報統括部長として,平成24年度入札
において参加資格審査等の職務に,平成25年度入札1において仕様書の作成等の職務に,平成25年度入札2において仕様書・評価基準の策定,プレゼンテーション評価等の職務に従事していた被告人B
札に関し,Gが国循に提出していた入札金額の積算根拠となる非公開情報をEに知らせ,同社に落札させようと企て,この情報が記載された書面を,Eの代表者であった被告人A
入札1に関し,参加の見込まれるE以外の業者を排除して,同社に落札させようと企て,被告人A及びOと共謀の上,E以外の業者の参入が困難になり得る条項を盛り込むなどした仕様書を作成し,これを公告させて入札の用にA及びOと共
謀の上,他の評価委員等にその情を秘して,Eによる受注を承諾していたFに競争に参加させた上,同社にEよりも高値で応札させるとともに,Eの企画提案書に関してのみ助言・指導を行った(同第2の3),との公契約関係競売入札妨害・官製談合防止法違反等の事案である。
競合他社を排除してEに落札させようと種々の工作を行い,

特に平成25年度入札1以降は,共犯者間で頻回に連絡を取り合い,ち密に
え,入札等の公正に対する信頼を大きく損なった,などとして,その刑責は
自体は相応に高い評価を受けており,明確に濫費に繋がった事案ではないこことなどの事情を考
慮して,求刑どおりの懲役2年に処し,その刑の執行を4年間猶予した。これに対し,所論は,入札等の公正確保のために義務付けられた意見招請手続を国循の契約係が怠ったため,入札参加者間の実質的な公平が欠ける事態が生じており,被告人Bの行為は,競争を実質的に機能させるためのもので,手続面の公正を害した形式的違法にとどまる軽微な事案であり,被告人Bの国循に対する貢献等の一般情状も含め,適切に情状を評価すれば,少額の罰金刑が相当な事案であるという。
しかし,意見招請の手続の欠缺が被告人Bの行為の評価を大きく左右する事情になるとは考えられないことは既に述べたとおりである。また,平成23年度まで国循の情報システムの運用・保守業務をGが一者応札で落札していたのはそのとおりであるが,その原因が意見招請の手続の欠缺にあったことを示す事情は見当たらず,所論が拠り所とする法学者の意見書(当審弁1)においても,意見招請の手続により相当程度の是正の蓋然性があったとされているにとどまる。平成24年度入札においてEが入札金額決定のための情報収集に苦慮し,被告人Bに協力を求めたことが

犯行の契機になったと

考えられるが,仕様書作成に先立って意見招請の手続が実施されていたとしても,この点に関する有益な情報をEにもたらすものではない。したがって,意見招請の手続の
年度入札1において意見招請の手続が行われていれば,GやNなどに仕様書
可能性があるから,そのような意味において関連性はあるといえるが,被告人らは,そうした機会がなかったが故に
ら,

を実現できたものであるか
考慮できるものではない。

また,被告人B

Gの受注を防ぐこ

とにあったとみられ,Gへの同被告人の不信には理解できる点が少なからずあると

実質的公平の確保が目的であったとは

いえない。また,以前から親密な交際を続け,なれ合いと評されても仕方のEに,継続して業務を受注さ
せようとしていて,職責への自覚に乏しい。当初からGに替わる業者としてEを考えたものではなく,平成24年度入札には複数の業者に入札参加を呼び掛けており,競争性促進への配慮もみられること,同入札の落札後もEへの業務上の要求は厳しく,国循の利益に背いてまで同社の利益を図ろうとしたものでもないことを加味しても,独善的な犯行との批判を免れない。したがって,上記の所論それ自体は採用できない。
もっとも,被告人Bの行為に対する原判決の犯情評価は,落札価格の大きさや,共犯者間の意思連絡の程度などの表面的な事象にとらわれすぎているきらいがあり,違法性の程度について重要な点を見落としているように思われる。
原判決は,被告人Bの3つの犯行について,いずれについても公契約関係競売入札妨害罪のみならず,職務に反して入札等の公正を害すべき行為の罪が成立するとし,官製談合防止法8条を適用しており,その法令適用自体に誤りはない。ただ,官製談合防止法には,官製談合の防止を目的として制定され,その徹底を図るために罰則が設けられたという立法の経緯があるが,談合への関与という性格は全
同法が罰則により排除しようとしている典型的な行為

に当たらない。
また,各犯行は,いずれも入札等の公正さに対する公の信頼を揺るがすもので,そうした意味において公契約関係競売入札妨害罪の保護法益である入札制度の自由な競争確保の原理を実質的に損なったとはいえるものの,予定価格の内報のように,落札価格の高止まりを招来し,発注者の利益を損なうEに入札金額の引き下げを
促すもので,納入されたシステムやその運用についての評価も高かったから,発注者の利益に適う結果となったといえる。平成25年度入札1においての犯行がEとNの間の競争に与えた影響は限定的で,平成25年度入札2ではE

競争には影響を与え

ていないことも指摘できる。したがって,各犯行は,公契約関係競売入札妨害の事案の中でも,違法性が弱い方に当たるとみるのが相当である。以上によれば,被告人Bの各犯行は,公共調達の公正さへの信頼を損なう行為であることは確かで,所論がいうほど犯情軽微ではなく,著名な研究・医療機関の大型案件で不正を重ねていて,社会的影響も軽視できないこと,Eとのなれ合い関係の中で犯行に及んだことなどからすると,懲役刑の選択が相当であるものの,官製談合を促進し,入札の仕組み自体の機能を損なう行為ではなく,発注者の利益に適う側面もあるから,その点を反映した量刑をする必要がある。
しかるに,原判決は,明確な濫費に繋がった事案とは異なるなどとしながらも,同種事案の中での本件の位置づけなどについて明示的な考慮をしておらず,実際の量刑も予定価格の内報のような官製談合の典型事案と同等のものになっており,その刑期及び執行猶予期間の点において重きにすぎるといわざるを得ない。
論旨はその限度で理由がある。
第5

結論

1
被告人Bについて
刑訴法397条1項,381条により原判決中被告人Bに関する部分を破
棄した上,同法400条ただし書により当裁判所において同被告人の被告事件につき更に次のとおり判決する。
原判決が認定した事実に原判決が掲げる各法条を適用し(科刑上一罪の処理,刑種の選択,併合罪の処理を含む。),その刑期の範囲内で被告人Bを懲役1年に処し,情状により刑法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予することとし,原審における訴訟費用については,刑訴法181条1項本文により証人C,同Dに支給した分の全部及びその余の証人に支給した分の2分の1を被告人Bに負担させることとする。2
被告人Aについて
刑訴法396条により被告人Aに関する本件控訴を棄却する。
よって,主文のとおり判決する。
令和元年7月30日
大阪高等裁判所第1刑事部

裁判長裁判官

和田
裁判官

坪井祐子
裁判官

真鍋秀永真
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