判例検索β > 平成30年(受)第1730号
損害賠償請求事件
事件番号平成30(受)1730
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日令和元年9月6日
法廷名最高裁判所第二小法廷
裁判種別判決
結果その他
原審裁判所名仙台高等裁判所
原審事件番号平成30(ネ)95
原審裁判年月日平成30年8月3日
判示事項高齢者の医療の確保に関する法律による後期高齢者医療給付を行った後期高齢者医療広域連合は,当該給付により代位取得した不法行為に基づく損害賠償請求権に係る債務について,当該給付が行われた日の翌日からの遅延損害金の支払を求めることができる。
裁判日:西暦2019-09-06
情報公開日2019-09-06 14:00:05
戻る / PDF版
平成30年(受)第1730号
令和元年9月6日

第二小法廷判決

主1
損害賠償請求事件


原判決中,287万7298円に対する平成22年
8月25日から平成30年1月26日までの遅延損
害金の支払請求を棄却した部分を破棄し,同部分に
つき本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

2
上告人のその余の上告を棄却する。

3
前項に関する上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人小野寺正孝の上告受理申立て理由第1について
1
本件は,交通事故の被害者に対して高齢者の医療の確保に関する法律(以下
法という。)による給付(以下後期高齢者医療給付という。)を行った後期高齢者医療広域連合である上告人が,上記事故の加害者である被上告人に対し,法58条により上記被害者の被上告人に対する不法行為に基づく損害賠償請求権を代位取得したとして,損害賠償金及びこれに対する上記事故の日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める事案であり,上記遅延損害金の起算日が争われているものである。
2
(1)

原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
Bは,平成22年8月25日,交差点において歩行中,被上告人運転の普
通乗用自動車に衝突されて傷害を負った(以下,この事故を本件事故という。)。
本件事故における過失割合は,Bが5%,被上告人が95%である。(2)

Bは,上記傷害に関して後期高齢者医療給付(以下本件医療給付とい
う。)を受け,その価額の合計は302万8735円であった。(3)
上告人は,本件医療給付の価額の合計額からBの過失割合5%を減じた2
87万7298円(1円未満切り捨て)及び弁護士費用相当額57万5459円の合計額345万2757円の損害賠償金並びにこれに対する本件事故の日(平成22年8月25日)から支払済みまでの遅延損害金の支払を求めて,本件訴訟を提起した。
3
原審は,上記事実関係等の下において,本件訴訟の主たる請求について上記
2(3)の287万7298円及び弁護士費用相当額30万円の合計額317万7298円の支払を求める限度で認容すべきものとした上で,これに対する遅延損害金の起算日につき,上告人が被上告人に対して上記損害賠償金の支払を請求したことが明らかな訴状送達の日の翌日(平成30年1月27日)であると判断して,附帯請求について,同日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める限度で認容すべきものとした。
4
しかしながら,原審の遅延損害金の起算日に関する上記判断は是認すること
ができない。その理由は,次のとおりである。
不法行為に基づく損害賠償債務は,損害の発生と同時に,何らの催告を要することなく,遅滞に陥るものである(最高裁昭和34年(オ)第117号同37年9月4日第三小法廷判決・民集16巻9号1834頁参照)。そして,後期高齢者医療広域連合は,後期高齢者医療給付の給付事由が第三者の行為によって生じた場合において,後期高齢者医療給付を行ったときは,法58条により,その価額の限度において,被保険者が当該第三者に対して有する損害賠償請求権を代位取得し,当該損害賠償請求権は,後期高齢者医療給付の都度,当然に当該後期高齢者医療広域連合に移転するものである(最高裁平成6年(オ)第651号同10年9月10日第一小法廷判決・裁判集民事189号819頁参照)。もっとも,上記の場合において行われる後期高齢者医療給付は,被保険者が被る損害の元本を塡補する性格を有するものであり,損害の元本に対する遅延損害金を塡補するものではないと解されることからすると,当該後期高齢者医療広域連合は,当該後期高齢者医療給付の価額の限度において被保険者の第三者に対する損害金元本の支払請求権を代位取得するものであって,損害金元本に対する遅延損害金の支払請求権を代位取得するものではないというべきである(最高裁平成21年(受)第1461号,第1462号同24年2月20日第一小法廷判決・民集66巻2号742頁参照)。そうすると,後期高齢者医療給付を行った後期高齢者医療広域連合は,その給付事由が第三者の不法行為によって生じた場合,当該第三者に対し,当該後期高齢者医療給付により代位取得した当該不法行為に基づく損害賠償請求権に係る債務について,当該後期高齢者医療給付が行われた日の翌日からの遅延損害金の支払を求めることができるというべきである。
これを本件についてみると,上告人は,被上告人に対し,本件医療給付の価額の合計額(ただし,上記2(3)の5%の減額等をした後の額)である287万7298円について,本件医療給付が行われた日の翌日からの遅延損害金の支払を求めることができる。
以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,上記の趣旨をいう限度で理由がある。
他方,上記説示に照らすと,上告人の損害賠償請求のうち弁護士費用相当額に係る部分は失当であるから,これに対する平成30年1月26日までの遅延損害金の支払請求を棄却した原審の判断は結論において是認することができ,論旨のうち当該請求に関する部分は採用することができない。
5
以上のとおりであるから,原判決中287万7298円に対する平成22年
8月25日から平成30年1月26日までの遅延損害金の支払請求を棄却すべきものとした部分は破棄を免れず,この部分については,本件医療給付が行われた日等について更に審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻すこととし,その余の上告は理由がないから,これを棄却することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官草野耕一の意見がある。裁判官草野耕一の意見は,次のとおりである。
私は主文どおりの判決を下すべきであると考える点において多数意見に賛同するものの,それに至る理由においては多数意見といささか考えを異にするものである。結論からいうと,多数意見は上告人が後期高齢者医療給付を行った日以前の期間に対する遅延損害金を被上告人に対して請求できないのは当該遅延損害金の支払請求権が法58条所定の代位取得の対象外であるからとするが,私は当該期間に関してはそもそも遅延損害金は発生しておらず,したがって上告人がこれを取得する余地はないと考えるものである。以下そう考える理由を説明する。一般論としていえば,不法行為の被害者には不法行為がなされた直後から様々な損害が現実化するものであり,これらの損害に対する賠償請求権に関しては遅延損害金もまた(多数意見が言及するところの判例法理によって)不法行為がなされた直後から発生するものである。そのような状況においては法58条やこれに相当する保険法制度上の諸規定が定める代位取得の対象を損害金の元本に限定すると解釈することに積極的意義があり,多数意見が引用している最高裁平成24年2月20日第一小法廷判決はまさにそのような事案に関する法理を示したものである。しかしながら,本件の後期高齢者医療給付の塡補の対象となった損害は,被害者が本件事故によって被った損害一般ではなく,被害者が特定の医療機関から特定の時期に医療役務を受けたことによって発生した金銭債務に関するものであり,このような損害に関しては,それが現実化してはじめて遅延損害金が発生すると解すべきであり,本件においてはそのような損害が現実化する都度後期高齢者医療給付が行われてきたとのことであるから,当該給付日以前においては遅延損害金が生じる余地はなかったと解すべきである。
もっとも,金銭債務の弁済によって現実化する損害に関しても不法行為がなされた時に遡って遅延損害金が発生するという考え方がないわけではなく,現に,不法行為と相当因果関係に立つ弁護士費用の賠償請求権に関して当該不法行為の時に遡って遅延損害金が発生するとしている判決も存在している(最高裁昭和55年(オ)第1113号同58年9月6日第三小法廷判決・民集37巻7号901頁参照。ただし,同判決は勝訴判決の確定を支払条件とする弁護士費用(それは一般に謝金あるいは成功報酬と呼ばれている。)を対象とするものである。)。しかしながら,このような考え方を被害者が第三者に対して負担する金銭債務一般に及ぼすことは現代社会における人々の行動原理の重大な要素の一つである金銭の時間的価値という観念に抵触し,不法行為時から相当期間が経過した後に発生した金銭債務に関する損害の要賠償額を実体に比して過大とする傾向を生み出すものである。
してみれば,前掲の昭和58年最高裁判決の法理は少なくとも本件には及ばないと解するのが相当であり,本件において上告人が後期高齢者医療給付を行った日以前の期間に対しては遅延損害金は発生しておらず,そうである以上,上告人がこれを取得する余地もなかったと考える次第である。
(裁判長裁判官

山本庸幸

裁判官

菅野博之

草野耕一)
裁判官

三浦


裁判官

トップに戻る

saiban.in