判例検索β > 平成29年(ワ)第41474号
特許権に基づく損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成29(ワ)41474
事件名特許権に基づく損害賠償請求事件
裁判年月日令和元年7月30日
法廷名東京地方裁判所
裁判日:西暦2019-07-30
情報公開日2019-09-11 12:00:22
戻る / PDF版
令和元年7月30日判決言渡

同日原本領収

平成29年(ワ)第41474号
口頭弁論終結日

裁判所書記官

特許権に基づく損害賠償請求事件

令和元年6月6日
判決原告A
同訴訟代理人弁護士

亀井弘泰同宮澤真志被告
株式会社ディーエイチシー

同訴訟代理人弁護士

村同酒迎明洋同増田昂治同今髙木美主憲咲穂文1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求
被告は,原告に対し,1000万円及びこれに対する平成29年12月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2

事案の概要
本件は,タンパク質を抽出する混合液の特許に係る特許権者である原告が,
被告の製造販売に係るクレンジングオイルは,上記特許に係る特許請求の範囲に記載された構成を充足するものであり,その特許発明の技術的範囲に属するものであるところ,被告の上記製造販売に因り原告に2億4150万円の損害が生じた旨主張して,被告に対し,特許権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき,上記の一部請求として1000万円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成29年12月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1
前提事実(証拠等を掲げた事実以外は,当事者間に争いがない。なお,枝番号の記載を省略したものは,枝番号を含む(以下同様))

本件特許
原告は,発明の名称をタンパク質を抽出する混合液とする特許権(特
許第5388259号。請求項の数は4である。以下,この特許を本件特許という。)の特許権者である。原告は,本件特許につき,平成25年8月
17日に特許出願をし,同年10月18日にその設定登録を受けた。なお,本件特許の特許出願(特願2013-169295号)は,特願2013-67504号に係る特許出願(以下本件原出願という。
)を分割したもの

である。
本件発明
本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1ないし4の記載は,別紙特許公報の該当部分に記載されたとおりである(そのうち請求項3の記載を,以下本件特許請求の範囲といい,これに係る発明を本件発明という。ま
た,請求項1の記載に係る発明を請求項1発明という。。

構成要件の分説
本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した構成要件をそれぞれの符号に従い構成要件Aなどのようにいう。。

A
請求項1又は2に記載の前記第1の高級アルコールとは異なる,炭素数20の高級アルコールである第2の高級アルコールと,炭化水素と,を少なくとも含み,
B
タンパク質,水性溶媒,炭素数15~18の高級アルコール,及び炭素骨格中に1つの不飽和結合を有する脂肪酸又は飽和脂肪酸を含む,炭素数18の脂肪酸を含む抽出対象液からタンパク質を抽出する

C
混合液。

被告の行為

被告は,平成26年(2014年)2月6日から平成29年12月まで,別紙被告製品目録記載のクレンジングオイル(以下被告製品という。)を
業として製造販売し,又は販売の申出をしている(甲3,4)

被告製品の構成
被告製品に含まれるオクチルドデカノール及びスクワランは,それぞれ,
構成要件Aの第2の高級アルコール炭化水素に当たる。そして,原,
告の主張による被告製品の構成は,別紙被告製品の構成記載1のとおりであり,被告の主張による被告製品の構成は,同記載2のとおりである。2
争点



被告製品に係る,本件発明の構成要件充足性(争点1)

構成要件Aの充足性(争点1-1)


構成要件Bの充足性(争点1-2)


構成要件Cの充足性(争点1-3)

本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものか否か(争点2)損害の発生及びその額(争点3)

3
争点に関する当事者の主張


争点1-1(構成要件Aの充足性)
別紙当事者の主張(争点1-1について)のとおり



争点1-2(構成要件Bの充足性)
別紙当事者の主張(争点1-2について)のとおり



争点1-3(構成要件Cの充足性)
別紙当事者の主張(争点1-3について)のとおり


争点2(本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものか否か)別紙当事者の主張(争点2について)のとおり



争点3(損害の発生及びその額)について
[原告の主張]


実施料相当損害金(特許法102条3項)
被告製品の売上額は,被告におけるクレンジングオイル全体の年間売上額60億円の20パーセント程度である。
被告における平成26年2月から平成29年12月まで
(46か月間)
の被告製品の売上額は,次のとおり,46億円である。

(計算式)60億円×0.2÷12か月×46か月=46億円
本件発明の実施料率は,
売上額の5パーセントとするのが相当である。
そうすると,被告が支払うべき実施料相当損害金の額は,2億3000万円である。
(計算式)46億円×0.05=2億3000万円


弁護士費用
本件訴訟に係る弁護士費用は,被告の特許権侵害行為に因って原告に生じた損害であり,その額は,上記損害額の5パーセントに相当する1150万円である。


原告に生じた損害額
上記ア,イによれば,原告に生じた損害額は,2億4150万円である(前記のとおり,原告は,その一部請求として,1000万円の支払を求める。。


[被告の主張]
原告の上記主張は,争う。

第3

当裁判所の判断
1
争点1(被告製品に係る,本件発明の構成要件充足性)について
本件事案に鑑み,まず,争点1-2(構成要件Bの充足性)について判断する。
本件特許請求の範囲は,前記第2の1

のとおりであり,その構成要件B

は,
タンパク質,水性溶媒,炭素数15~18の高級アルコール,及び炭素骨格中に1つの不飽和結合を有する脂肪酸又は飽和脂肪酸を含む,炭素数18の脂肪酸を含む抽出対象液からタンパク質を抽出する混合液という文言の記載であるところ,そのタンパク質抽出の態様について具体的にみるに,本件特許の特許出願の願書に添付した明細書(以下本件明細書という。)

には,発明の詳細な説明として,次の記載がある(甲1)


技術分野
【0001】本発明は,タンパク質を抽出する混合液に関する。


背景技術
【0002】溶液中の対象物質(例えば,タンパク質等)を分離又は抽出等するための方法としてはエマルションを利用した方法が挙げられる(中
略)

【0003】対象物質の分離等のためのエマルションを利用した方法としては,
例えば,
油層中の逆ミセル内部の水層に対象物質を分離等する方法,
乳化型液膜抽出による方法,多層乳化したエマルションを転層させて対象物質を分離等する方法等が挙げられる。


発明が解決しようとする課題
【0005】しかし,溶液中の対象物質を分離等するために使用されて来た従来の方法は,いずれも,界面活性剤の使用を前提としていた。界面活性剤を使用すると,分離等された対象物質から界面活性剤を除去する工程
が必要となり,煩雑さが生じていた。従って,溶液中から対象物質を簡便に分離するための混合液が求められていた。
【0006】
本発明は,
上記の課題を解決するためになされたものであり,
タンパク質と水性溶媒とを含む抽出対象液からタンパク質を簡便に分離できる混合液を提供することを目的とする。

課題を解決するための手段
【0007】本発明者は,所定の高級アルコールと,脂肪酸とを少なくと
も含むタンパク質抽出剤によれば上記課題を解決できる点を見出し,本発明を完成するに至った。具体的に,本発明は下記のものを提供する。【0008】(1)炭素数15以上の高級アルコールである第1の高級アルコールと,脂肪酸と,を少なくとも含み,タンパク質と水性溶媒とを含む抽出対象液からタンパク質を抽出する混合液。

【0009】(2)前記第1の高級アルコールは,イソステアリルアルコール及びオレイルアルコールからなる群から選択される1種以上を含み,前記脂肪酸は,炭素骨格中に1つの不飽和結合を有する脂肪酸又は飽和脂肪酸を含む(1)に記載の混合液。
【0010】(3)(1)又は(2)に記載の前記第1の高級アルコールとは異な
る,炭素数18以上の高級アルコールである第2の高級アルコールと,炭化水素と,を少なくとも含み,タンパク質,水性溶媒,炭素数15以上の高級アルコール,及び脂肪酸を含む抽出対象液からタンパク質を抽出する混合液。

発明の効果
【0016】本発明によれば,タンパク質と水性溶媒とを含む抽出対象液からタンパク質を簡便に分離できる混合液,及び,タンパク質の抽出方法が提供される。


発明を実施するための形態
【0041】<第2のタンパク質抽出剤>本発明の第2のタンパク質抽出剤は,上記第1の高級アルコールとは異なる第2の高級アルコールと,炭化水素と,を含む。本発明の第2のタンパク質抽出剤は,界面活性剤を含まなくともよい。また,本発明の第2のタンパク質抽出剤には,従来使用されてきた対象物質の分離等のためのエマルション等に含まれる界面活性剤よりも少ない量(例えば,タンパク質抽出剤全体に対して0~4質量%)の界面活性剤が含まれていてもよい。

【0042】第2のタンパク質抽出剤は,第1の抽出工程後に得られたタンパク質含有層(
(中略)この層には,タンパク質,水性溶媒,炭素数15
以上の高級アルコール,
及び脂肪酸が含まれ得る)
に含まれ得る夾雑物
(細
胞膜等)を分離できるので,タンパク質をより効率的に抽出できる。【0056】
第2のタンパク質抽出剤には,
本発明の目的を害さない限り,

公知の添加剤(界面活性剤,炭素数18未満の高級アルコール等)を添加してもよい。添加剤の添加量は得ようとする効果等に応じて適宜設定できる。
【0061】上記の通り,本発明のタンパク質抽出剤によれば,抽出対象液からタンパク質以外の成分(水性溶媒,細胞膜等の夾雑物)の割合を減
らして,タンパク質を簡便に抽出できる。本発明によって得られたタンパク質から,クロマトグラフィー等によって目的のタンパク質を精製することもできる。従って,本発明は,特定のタンパク質の単離や精製の前段階の処理として有用である。例えば,本発明は,細胞液(抽出対象液に相当する)等からの膜タンパク質の抽出等において有用である。

構成要件Bのタンパク質を抽出する混合液の解釈

判断
特許発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づいて定められるものであり(特許法70条1項)
,特許請求の範囲の記載の解釈は,明細書

の発明の詳細な説明の記載等を考慮して行うべきものである(同条2項)。
しかして,本件発明の構成要件Bにおけるタンパク質を抽出する混合液との文言について解釈し,そのタンパク質抽出の態様を明らかにすべく,本件明細書の発明の詳細な説明の記載をみると,①従来,界面活性剤の使用を前提とする方法により溶液中の対象物質(タンパク質等)を分離(抽出)していたところ,界面活性剤を使用すると,分離(抽出)された対象物質から界面活性剤を除去する工程が必要となり,煩雑さが生じていたため,溶液中から対象物質を簡便に分離(抽出)するための混合液が求められていたこと,②そこで,上記課題を解決するため,界面活性剤を必要的には含まず,所定の高級アルコール(第1の高級アルコール)と脂肪酸を含む混合液によって,タンパク質と水性溶媒とを含む抽出対象液から
タンパク質を簡便に分離(抽出)するという構成を採用したものが請求項1発明であり,本件発明は,かかる請求項1発明を前提としつつ,第1の高級アルコールとは異なる高級アルコールと炭化水素を含む混合液によって,タンパク質と水性溶媒と第1の高級アルコールと脂肪酸とを含む抽出対象液からタンパク質を夾雑物の含有量が従来より少ない状態で抽出
するものであること,③これによって,タンパク質と水性溶媒とを含む抽出対象液からタンパク質を簡便に分離(抽出)できる混合液,及び,タンパク質の抽出方法が提供されることとなったこと,④本件発明に係るタンパク質抽出剤には,従来使用されてきた対象物質の分離(抽出)のためのエマルション等に含まれる界面活性剤よりも少ない量(例えば,タンパク
質抽出剤全体に対して0~4質量%)の界面活性剤が含まれていてもよいこと,本件発明の目的を害さない限り,公知の添加剤(界面活性剤,炭素数18未満の高級アルコール等)を添加してもよいことが記載されている旨が認められる。
これらによれば,
本件発明に係る,タンパク質を抽出する」
混合液とは,タンパク質と水性溶媒に加え所定の高級アルコールと脂肪酸を含む抽出対象液から,上記とは別の高級アルコールと炭化水素を含むことによって,タンパク質を夾雑物の含有量がより少ない状態で分離(抽出)できる混合液であり,界面活性剤の含有の有無を問わないが,従来のエマルション等に含まれる界面活性剤よりも少ない量の界面活性剤の含有を,従来必要とされていた除去工程を不要にする限度において許容することによって,上記の分離(抽出)を簡便に行うことができる混合液という技術思想に係るものであるというべきである。そうすると,「タンパク質を抽出する上記
混合液において,その含有される界面活性剤の程度は,分離等された対象物質から界面活性剤を除去する工程が不要である程度を限度とするものであり,そのような態様によってタンパク質を抽出するものと解するのが相当であり,分離(抽出)されたタンパク質から界面活性剤を除去する工程
が必要となるものは,上記タンパク質を抽出する混合液には当たらないというべきである。
なお,この解釈は,本件特許の特許出願の経過(
早期審査に関する事情説明書
(乙2)意見書

(乙3)
)において,原告自身が,先行技術にお
いては,タンパク質の抽出につき界面活性剤を使用することが必要的であ
ったところ,本件原出願の実施形態は,界面活性剤を必要的に用いることはせず,高級アルコールを必要的に用いるものであり,この構成の差により,界面活性剤を抽出結果物から除去する工程を不要とすることが可能となり,また,タンパク質への界面活性剤の悪影響を回避することが可能となるという効果を奏し(乙2)
,さらに,界面活性剤を含まなくとも,抽出

対象液からタンパク質を簡便に分離できるという,従来技術からは予測し得ない異質な効果を奏する
(乙3)
旨述べていることにも沿うものであり,
何ら矛盾するものではない。

原告の主張について
これに対し,原告は,本件明細書(段落【0056】
)には,
本発明の目的を害さない限り,公知の添加剤(界面活性剤,炭素数18未満の高級アルコール等)を添加してもよいと記載されているが,本件発明の目的を害する場合とは,タンパク質の分離・抽出作用が機能しない場合,例えば,界面活性剤の分量が多すぎるために抽出対象液の全部が乳化して二層に分離せず,結果として界面が生じない場合などの極めて例外的な場面を指すものであって,上記のようなタンパク質の分離抽出においておよそ想
定されない添加物の添加以外は,むしろ広く公知の添加物の添加をさらに許容することを明示したものと解釈されるべきである旨主張する。しかし,上記説示のとおり,本件発明に係るタンパク質を抽出する混合液において,その含有される界面活性剤の程度は,分離(抽出)された対象物質から界面活性剤を除去する工程が不要である程度を限度とする
ものであり,そのような態様によってタンパク質を抽出するものと解するのが相当であるというべきであり,
本件明細書の具体的記載を精査しても,
原告が主張するような,界面活性剤の分量が多すぎるために抽出対象液の全部が乳化して二層に分離せず,結果として界面が生じない場合などの極めて例外的な場面を除いて広く界面活性剤の添加を許容することが読み取
れるような記載は見当たらない。したがって,原告の上記主張は,本件明細書の具体的記載から離れた独自の主張というほかなく,採用することができない。
被告製品と構成要件Bとの対比

証拠(乙18,28ないし31)によれば,被告製品は界面活性剤を●(省略)●質量%含むこと,従来,タンパク質の分離等のために使用されてきた界面活性剤の量は抽出剤と対象液とを合わせた全体量に対して0ないし2質量%であったことが認められる。
そして,上記のとおり被告製品に含まれる界面活性剤の量からすれば,

従来使用されてきた対象物質の分離等のためのエマルション等に含まれる界面活性剤よりも少ない量(例えば,タンパク質抽出剤全体に対して0~4質量%)の界面活性剤が含まれていてもよい。(段落【0041】


という本件明細書の記載との関係で見ても,また,上記のとおり従来使用されてきた界面活性剤の量との関係で見ても,被告製品における界面活性剤の含有量が,従来のエマルション等に含まれる界面活性剤よりも少ない量であるものとは認められず,その含有される界面活性剤の程度が,分離
(抽出)された対象物質から界面活性剤を除去する工程が不要である程度であるとは認めるに足りない。
そうすると,このような被告製品は,そのタンパク質抽出の態様の観点からして,構成要件Bのタンパク質を抽出する混合液という文言を充足しないというほかない。


これに対し,原告は,従来の抽出剤を,
抽出対象液に添加した総
量に対する界面活性剤の終濃度については,CMC(臨界ミセル形成濃度)を意識して2ないし4%前後とされているところ,実験の操作性の観点から,前段階である抽出剤における界面活性剤の濃度は,その1
0ないし20倍程度が概ね目安となることからすると,同濃度は,通常20ないし80%であることとなり,
そうすると,
界面活性剤を
●(省略)●質量%含む被告製品は,従来の抽出剤よりも界面活性剤の含有量が少ないものといえる旨を主張する。
しかし,原告のいう界面活性剤の終濃度が2ないし4%前後とされていること,抽出剤における界面活性剤の濃度がその10ないし2
0倍程度が目安となることを認めるに足りる的確な証拠はなく,従来使用されてきた抽出剤における界面活性剤の含有量にかかる原告の上記主張は採用しがたい。また,仮に,原告の上記主張(被告製品が,従来の抽出剤よりも界面活性剤の含有量が少ないこと)を前提としても,そのこ
とから直ちに,界面活性剤を●(省略)●質量%含む被告製品が,その界面活性剤の含有の程度につき,分離(抽出)された対象物質から界面活性剤を除去する工程が不要である程度のものであると認められることとはならず,被告製品が,そのタンパク質抽出の態様の観点からして,構成要件Bのタンパク質を抽出する混合液という文言を充足しないとの上記結論が左右されることにはならない。
小括

以上のとおり,被告製品は,本件発明の構成要件Bのタンパク質を抽出する混合液との文言を充足せず,本件発明の技術的範囲に属しないものというべきである。原告は,その他縷々主張するが,そのいずれを慎重に検討しても,上記説示を左右するに足りるものはなく,いずれも採用の限りでない。

2
結論
よって,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部

裁判長裁判官

田中孝一
裁判官

横山真通
裁判官

奥俊彦


13頁~31頁(別紙特許公報)掲載省略
(別紙)

被告製品目録
クレンジングオイル
製品名DHCウォーターフレンドリー全成分クレンジングオイル[F1]
トリエチルヘキサノイン,DPG,トリイソステアリン酸PEG-20グリセリル,オクチルドデカノール,炭酸ジカプリリル,PEG-7(カ
プリル/カプリン酸)グリセリズ,ソウハクヒエキス,アロエベラ葉エキス,グリチルレチン酸ステアリル,オリーブ油,スクワラン,トコフェロール,エチルヘキサン酸アルキル(C14-18)
,トリ(カプリル
酸/カプリン酸)グリセリル,フェノキシエタノール

(別紙)

1
被告製品の構成

原告の主張
a
オクチルドデカノールと、スクワランと、トリイソステアリン酸PEG-20グリセリルと、PEG-7(カプリル/カプリン酸)グリセリズ、とを少な
くとも含み,
b
タンパク質、水性溶媒、炭素数15~18の高級アルコール、及び炭素骨格中に1つの不飽和結合を有する脂肪酸又は飽和脂肪酸を含む、炭素数18の脂肪酸を含む抽出対象液からタンパク質を抽出する

c2
クレンジングオイル

被告の主張
a
オクチルドデカノールと,スクワランと,トリイソステアリン酸PEG-20グリセリルと,PEG-7(カプリル/カプリン酸)グリセリズと,を少なくとも含み,トリイソステアリン酸PEG-20グリセリルとPEG-7(カ
プリル/カプリン酸)グリセリズとが全体に対して●(省略)●質量%である

c
クレンジングオイル

(別紙)当事者の主張(争点1-1について)
[原告の主張]
(1)

構成要件Aの解釈
構成要件Aの請求項1又は2に記載の前記第1の高級アルコールとは異なる,炭素数20の高級アルコールである第2の高級アルコールと,炭化水素と,を少なくとも含み,との文言については,次に照らし,被告が主張するように,
全体に対して4質量%を超える界面活性剤を含まないものと限定
解釈すべきではない。

特許請求の範囲の記載
本件特許請求の範囲(構成要件A)の記載文言は上記のとおりであって,
界面活性剤の含有を除外するような記載は一切存在せず,本件明細書を考慮することが必要となるような記載も存しない。

本件明細書の記載
被告が指摘する段落【0056】の記載をみても,

第2のタンパク質抽出剤には,本発明の目的を害さない限り,公知の添加剤(界面活性剤,炭素数18未満の高級アルコール等)を添加してもよい。添加剤の添加量は得ようとする効果等に応じて適宜設定できる。

というものであって,本件明細書の全記載を斟酌したとしても,界面活性剤の存在や分量によって,構成要件Aの文言を限定的に解釈すべきことは読み取れな
い。
また,被告は,段落【0041】中の括弧内のタンパク質抽出剤全体に対して0~4質量%という界面活性剤の具体的な分量の記載を取り上げるが,同記載の直前には,
例えば,という文言が使用されてい
る。上記記載において,
タンパク質抽出剤全体に対して0~4質量%

という分量は,あくまで,例示の意味しか有しないことは明らかである
から,これにより,一定量を超える界面活性剤の存在が排除されると解釈することはできない。

本件特許の特許出願の経過
乙3(本件原出願における意見書)には,
界面活性剤を含まなくとも,抽出対象液からタンパク質を簡便に分離できるという記載が複数
見られるが,この表現から,界面活性剤を含んではならないものとは解釈できない。
本件特許の特許出願の際に添付された事情説明書(乙2)には,

界面活性剤を抽出結果物から除去する工程を不要とすることが可能となり,また,タンパク質への界面活性剤の悪影響を回避することが可能になるという効果を奏します。

との記載がある。しかし,この記載の直前には,

本願の実施形態は,界面活性剤を必要的に用いることはせず,高級アルコールを必要的に用います。

と記載されており,界面活性剤の含有を排除してはいない。
(2)

被告製品が構成要件Aを充足すること

被告製品は,オクチルドデカノールとスクワランとを含むところ,オクチルドデカノールは,第1の高級アルコールとは異なる,炭素数20の高級アルコールであって,構成要件Aにいう第2の高級アルコールに当たり,また,スクワランは炭化水素に当たるから,被告製品は,構成要件Aを充足するものである。


なお,被告製品に含まれる界面活性剤は,クレンジング剤等の化粧品においてよく使用されるものであり,タンパク質の抽出(可溶化)に適しそれに用いられる界面活性剤(甲31ないし33)とはいえない。そうすると,仮に被告が主張するように,構成要件Aについて,
従来使用されてきた対象物質の分離等のためのエマルション等に含まれる界面活性剤より少ない量の界面活性剤を含むという旨の限定解釈をしたとしても,そもそも被告製品に含まれる界面活性剤は,
従来使用されてきた対象物質の分離等のためのエマルション等に含まれる界面活性剤に当たらないから,なお被告製品は構成要件Aを充足するものである。
[被告の主張]
(1)

構成要件Aの解釈
構成要件Aは,次のとおり,全体に対して4質量%を超える界面活性剤を含まないものと解釈されるべきである。

特許請求の範囲の記載
構成要件Aの少なくとも含みとの文言に照らせば,本件明細書に添加を許容するものとして具体的な記載がある成分及び分量並びに本件明細書の
具体的記載に基づいて当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が容易に想到できる成分及び分量の範囲を超えた,本件発明が解決しようとする技術的課題の解決及び作用効果に影響を与える成分及び分量を含有させることについては,構成要件Aはこれを許容する趣旨ではないというべきである。


本件明細書の記載
本件明細書の段落【0005】【0006】【0007】【0041】,



【0056】等の各記載をみても,構成要件Aは,界面活性剤の添加を一切許容しない趣旨ではないものの,
従来使用されてきた対象物質の分離等のためのエマルション等に含まれる界面活性剤よりも少ない量及び本発明の目的を害さない限りという制限を超える分量の界面活性剤の添加を許容しない趣旨のものというべきである。
そして,当該分量がどの程度であるかについては,本件明細書には,タンパク質抽出剤全体に対して0~4質量%との記載が存在するのみであっ
て,他に当業者が当該分量を認識できる記載はなく,本件明細書に記載された実施例中のタンパク質抽出剤にも,界面活性剤は含まれていないものであることに照らすと,構成要件Aは,全体に対して4質量%を超える界面活性剤を含まないものと解釈されるべきである。

本件特許の特許出願の経過
本件特許の特許出願の際に添付された,早期審査に関する事情説明書(乙2)には,

界面活性剤を抽出結果物から除去する工程を不要とすることが可能となり,また,タンパク質への界面活性剤の悪影響を回避することが可能になるという効果を奏します。

との記載がある。加えて,本件原出願の特許出願における平成25年7月24日付け意見書(乙3)には,
本願発明によれば,界面活性剤を含まなくとも,抽出対象液からタンパク質を簡便に分離できるという,界面活性剤の使用を前提とした引用文献1記載の発明から予測し得ない異質な効果が奏されます(実施例等)。(3頁)との記載及び本願発明によれば,界面活性剤を含まなくとも,抽出対象液からタンパク質を簡便に分離できるという,タンパク質のリフォールディングを目的とした引用文献2記載の発明から予測し得ない異質な効果が奏されます(実施例等)。(4頁)との記載がある。

そうすると,本件発明の作用効果は,上記のとおり,界面活性剤なしに,抽出対象液からタンパク質を分離できる点にあるといえる。
(2)

被告製品が構成要件Aを充足しないこと
前記のとおり,構成要件Aは,全体に対して4質量%を超える界面活性剤を
含まないものと解釈されるべきであるところ,被告製品は,全体に対して4質量%を超える界面活性剤(トリイソステアリン酸PEG-20グリセリル及びPEG-7(カプリル/カプリン酸)グリセリズ)を含むものであるから,構成要件Aを充足しないものである。

(別紙)当事者の主張(争点1-2について)
[原告の主張]
構成要件Bの解釈

特許請求の範囲の記載
構成要件Bには,
タンパク質を抽出するという文言があるが,既に構

成要件Aにおいて混合液の構成を特定し,構成要件Bにおいて抽出対象液の構成を特定してその技術的範囲を画しているものであるから,上記文言をその機能を有するという意味に解釈したとしても,本件発明の技術的範囲が無限定に広がることはない。

本件明細書の記載
本件明細書の段落【0056】には,

第2のタンパク質抽出剤には,本発明の目的を害さない限り,公知の添加剤(界面活性剤,炭素数18未満の高級アルコール等)を添加してもよい。添加剤の添加量は得ようとする効果等に応じて適宜設定できる。

とあり,段落【0041】では,本件発明に
おける第2のタンパク質抽出剤には,
従来使用されてきた対象物質の分離等のためのエマルション等に含まれる界面活性剤よりも少ない量の界面活性剤の含有を許容するものであることが示されている。
そうすると,段落【0056】でいう本発明の目的とは,界面活性剤を必要とせずに,タンパク質を分離・抽出できるという技術思想そのもので
あり,
本発明の目的を害する場合とは,タンパク質の分離・抽出作用が
機能しない場合をいい,例えば,界面活性剤の分量が多すぎるために抽出対象液の全部が乳化して2層に分離せず,結果として界面が生じない場合などの極めて例外的な場面を指すものというべきであって,上記のようなタンパク質の分離抽出においておよそ想定されない添加物の添加以外は,むしろ広
く公知の添加物の添加をさらに許容することを明示したものと解釈されるべきである。
被告製品が構成要件Bを充足すること

被告製品が,抽出対象液からタンパク質を抽出する機能を有するものであることは,原告による実験の結果に加え,第三者機関による追加実験の結果により明らかであるから,被告製品は,構成要件Bの(中略)タンパク質を抽出するという文言を充足するものである。

なお,被告製品は,
従来使用されてきた対象物質の分離等のためのエマルション
(抽出剤)よりも少ない量の界面活性剤を含んで,抽出対象液か
らタンパク質を抽出するものであり,この点からしても,被告製品は,構成要件Bの(中略)タンパク質を抽出するという文言を充足する。

すなわち,一般に,界面活性剤を用いた膜タンパクの抽出は,膜タンパクをミセルに内包させて細胞膜または細胞内の器官の膜から取り出す過程が必要となるところ,ミセルは溶液中の界面活性剤の濃度が一定の値を超えて初めて形成されるという性質を有するから,膜タンパクの抽出を行う際には,抽出対象液に抽出剤を添加した後の最終濃度(終濃度)が,ミセルが形成さ
れる最低限の界面活性剤の濃度であるCMC(臨界ミセル形成濃度)を超えていなければならない(甲41)

そのため,多くの場合,界面活性剤の終濃度は,CMCを意識して2ないし4%前後とされている(これは,
抽出対象液に抽出剤を添加した
総量に対する濃度である。
)ところ,終濃度を2ないし4%にするために

は,前段階である抽出剤における界面活性剤の濃度はその10ないし20倍程度が概ね目安となるものである。なぜなら,抽出剤内の界面活性剤の濃度が低すぎると,抽出対象液に抽出剤を大量に投入しなければならず,他方,濃度が高すぎると,所望の終濃度に合わせるのが難しくなり,実験の操作性が悪くなるからである。

したがって,通常の場合,抽出剤における界面活性剤の分量は,終濃度が2ないし4%になるようその10ないし20倍,すなわち20ないし80%に設定されているものである(甲42)から,前記従来使用されてきた対象物質の分離等のためのエマルション(抽出剤)における界面活性剤の濃
度は,通常20~80%であり,被告製品において界面活性剤が含まれていたとしても,その含有量が,これより少ないことは明らかである。[被告の主張]
構成要件Bの解釈

特許請求の範囲の記載
構成要件Bのタンパク質を抽出するについては,本件明細書の記載等からその機能を発揮する構成を特定する必要がある。仮に,その機能を発揮し得る構成であれば全てその技術的範囲に含まれることとなると,本件明細
書に開示されていない技術思想に属する構成までもが本件発明の技術的範囲に含まれ得ることとなり,出願により公開した発明の範囲を超えて特許制度による保護を与える結果となり,不当である。

本件明細書の記載
本件明細書の記載に照らすと,本件発明の目的は,分離等されたタンパク質から界面活性剤を除去する工程を排除する点にあり,本件発明が実現する作用効果は,界面活性剤なしに,抽出対象液からタンパク質を分離できる点にある。また,本件発明の実施例には,いずれも界面活性剤は一切含まれておらず,実施例の記載以外の部分においても,本件明細
書は従来使用されてきた対象物質の分離等のためのエマルション等に含まれる界面活性剤よりも少ない量(段落【0041】
)及び本発明の目的を害さない限り
(段落【0056】
)という制限を超える分量の
界面活性剤の添加を許容していない。
しかして,
従来使用されてきた対象物質の分離等のためのエマルション等に含まれる界面活性剤(段落【0041】
)の濃度については,技
術文献の記載(乙28ない~30,31の2)によれば,2.0%までであることが一般的である。そして,本件明細書に例えば,タンパク質抽出剤全体に対して0~4質量%【0041】(
)との例示があること
をも考慮すれば,上記従来使用されてきた対象物質の分離等のためのエマルション等に含まれる界面活性剤よりも少ない量は,タンパク質抽出剤全体に対して0~4質量%であると解釈されるべきである。被告製品が構成要件Bを充足しないこと
被告製品については,原告による実験の結果及び第三者機関による追加実験の結果のいずれについても問題を含むものであって,原告の抽出対象液からタンパク質を抽出する機能を有することにつき立証を欠くものというほか
ない。また,これを措いたとしても,被告製品においては,全体に対して●(省略)●質量%のトリイソステアリン酸PEG-20グリセリル(トリイソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル)及び全体に対して●(省略)●質量%のPEG-7(カプリル/カプリン酸)グリセリズ(ポリオキシエチレン(カプリル/カプリン酸)グリセリル)が含まれるものであり,全
体に対して●(省略)●質量%の界面活性剤が含まれている(乙18)ものであるから,本件発明において許容される界面活性剤の添加量であるタンパク質抽出剤全体に対して0~4質量%を超える量の界面活性剤を含むものであって,構成要件Bを充足しないものである。

(別紙)当事者の主張(争点1-3について)
[原告の主張]
構成要件Cの解釈
構成要件Cは混合液という記載であるが,本件原出願の特許請求の範囲は,
タンパク質抽出剤という記載であった。しかし,それでは,本件原出願の組成と効果を有しながら,タンパク質抽出剤以外の目的用途に使用する行為が発明の技術的範囲から外れてしまうことになりかねないことから,抽出を目的とする抽出剤から,目的用途に限定のない混合液という文言としたものである。これに照らしても,本件発明の技術的範囲を確定するに当たっ
ては,
タンパク質抽出用の混合液とタンパク質を抽出する混合液と
は,明確に区別されなければならず,構成要件Cを,
タンパク質抽出用の混合液と解釈することはできない。
被告製品が構成要件Cを充足すること
被告製品は,複数の物質の混合液であるから,構成要件Cを充足する。
[被告の主張]
構成要件Cの解釈
本件原出願におけるタンパク質抽出剤は,タンパク質抽出用の混合液を意味しており,また,本件原出願の明細書等にも,本件原出願がタンパク質抽出剤以外の混合液をその技術的範囲に含むことをうかがわせる記載は一切
存在しない。そうである以上,上記タンパク質抽出剤
(タンパク質抽出用
の混合液)に対応する構成要件Cの混合液についても,これを超えて,広く用途を問わない混合液を意味するということはできない。
被告製品が構成要件Cを充足しないこと
被告製品は,化粧を落とし,洗顔の目的で,顔に塗布して化粧品となじませ
た後に,水で洗い流す方法で使用されるクレンジングオイルであるから,上記
のとおり,タンパク質抽出用の混合液に対応する構成要件Cの混合液には当たらず,構成要件Cを充足しない。

(別紙)当事者の主張(争点2について)
[被告の主張]
本件発明は,被告が過去に販売していた製品であるソフトタッチクレンジングオイル(以下,
被告旧製品という。
)や,他社製品(乙14ないし1
7)に照らして,本件特許の特許出願前に公然実施をされた発明であるか(特許法29条1項2号)
,ウェブページに記載されて電気通信回線を通じて公衆
に利用可能となった発明であるというべきであるから(同項3号),本件特許
は,特許無効審判により無効にされるべきものである(同法104条の3,123条1項2号)


[原告の主張]
被告主張に係る無効理由は,いずれも本件特許の無効理由とはならない。すなわち,本件発明の内容は,本件特許請求の範囲の記載の特定の抽出対象液から界面活性剤の作用なしでもタンパク質を分離できる混合液という点にあるから,この点を知り得るような方法・態様による実施,ないしはこの点が明らか
となるような刊行物の記載といえない限り,本件特許が新規性を欠くことにはならないというべきであるところ,被告が指摘する被告旧製品及び他社製品(乙14ないし17)のいずれをみても,上記に該当するものとはいえないというほかなく,本件特許は,特許法29条1項2号及び同項3号の無効理由を有さない。

トップに戻る

saiban.in