判例検索β > 平成29年(ワ)第8272号
損害賠償等請求事件 意匠権 民事訴訟
事件番号平成29(ワ)8272
事件名損害賠償等請求事件
裁判年月日令和元年8月29日
法廷名大阪地方裁判所
裁判日:西暦2019-08-29
情報公開日2019-09-12 10:00:21
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令和元年8月29日判決言渡

同日原本交付

平成29年(ワ)第8272号

裁判所書記官

損害賠償等請求事件

口頭弁論終結日令和元年6月14日
判原告決
株式会社ハック

同訴訟代理人弁護士

長谷川

敬一
同訴訟代理人弁理士

河英仁被
時代健康研究株式会社

告野
同訴訟代理人弁護士
堀川
同訴訟代理人弁理士

茅原敦裕主1二文
被告は,別紙被告商品目録表示のそうめん流し器素麺物語を製造し,
使用し,譲渡し,貸し渡し,輸出し,若しくは輸入し,又はその譲渡若しくは貸渡しのための展示をしてはならない。
2
被告は,原告に対し,104万4582円及びこれに対する平成29年
9月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3
原告のその余の主位的請求並びに廃棄請求及び損害賠償請求に係る各予
備的請求をいずれも棄却する。
4
訴訟費用は,これを5分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の
負担とする。
5
この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由

第1請求
1主文第1項と同旨。
2被告は,別紙被告商品目録表示のそうめん流し器素麺物語を廃棄せよ。3
被告は,原告に対し,636万0810円及びこれに対する平成29年9月
20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1
本件は,原告が,被告が別紙被告商品目録表示のそうめん流し器素麺物語(以下被告商品という。)を販売等した行為に関し,以下の各請求をする事案である。
(1)意匠権に関する請求(主位的請求)
原告は,被告商品の意匠(以下被告意匠という。)は別紙意匠権目録記載の原告の意匠権(以下本件意匠権という。)に係る意匠(以下本件登録意匠という。)に類似するものであり,被告の上記行為は本件意匠権を侵害するとして,
被告に対し,以下の各請求をする。
ア意匠法37条1項に基づく被告商品の販売等の差止請求(前記第1の1)イ同条2項に基づく被告商品の廃棄請求(同2)

本件意匠権侵害の不法行為に基づく損害賠償金636万0810円及びこれ
に対する不法行為後の日である平成29年9月20日(訴状送達の日の翌日。以下同じ。)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求(同3)
(2)不正競争防止法に関する請求
ア同法2条1項1号関係
原告は,被告商品は周知の商品等表示である別紙原告新商品目録表示のそうめん
流し器流しそうめん風流極(以下原告新商品という。)の形態と類似
の形態を使用するものであり,被告の上記行為は同号所定の不正競争に該当するとして,被告に対し,以下の各請求をする。
(ア)同法3条1項に基づく被告商品の販売等の差止請求(前記第1の1)(イ)同条2項に基づく被告商品の廃棄請求(同2)
(ウ)

同法4条に基づく損害賠償金636万0810円及びこれに対する不正競争
後の日である平成29年9月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合によ
る遅延損害金の支払請求(同3)
なお,原告は,上記各請求につき,いずれも,同趣旨の上記(1)の各請求に対し予備的併合の関係にあるとする。
イ同法2条1項3号関係
原告は,被告商品は原告新商品の形態を模倣したものであり,被告の上記行為は同号所定の不正競争に該当するとして,被告に対し,同法4条に基づく損害賠償金636万0810円及びこれに対する不正競争後の日である平成29年9月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求(前記第1の3)をする。

なお,原告は,上記請求につき,上記(1)ウの請求に対し予備的併合の関係にあるとする(上記ア(ウ)の請求に対し選択的併合の関係にあると解される。)。2
前提事実(証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実並びに裁判所
に顕著な事実。なお,本判決において書証を掲記する際には,枝番号の全てを含むときはその記載を省略することがある。)
(1)本件意匠権
原告は,別紙意匠権目録記載の意匠権(本件意匠権)を有する。
(2)原告の販売商品等

原告は,意匠に係る物品をそうめん流し器とする本件意匠権を有すると
ころ,本件登録意匠は,別紙意匠権目録の別紙本件登録意匠図面の【参考図】記載のとおり,概略,そうめんを吐水口の設けられた上部から下部のトレイ部に流すためのレール部を有するという構成を備えている(甲1。ただし,その基本的構成態様及び具体的構成態様については,後記のとおり当事者間に争いがある。以下,そうめん流し器のうち,概略の構成として本件登録意匠と同様に上部から下部のトレイ部に流すためのレール部を有するものをウォータースライダー型と形容する
ことがある。)。
また,原告は,本件登録意匠の意匠登録出願前から,ウォータースライダー型の
そうめん流し器である流しそうめん風流(以下原告旧商品という。)を
販売していた(乙3~5)。その後,原告は,同じくウォータースライダー型であるがトレイ部の形状を異にするそうめん流し器である原告新商品の販売を開始し(なお,その販売開始時期については,後記のとおり当事者間に争いがある。),現在に至るまでその販売を継続している。
(3)被告と被告商品
被告は,日用品の輸入,販売を目的とする株式会社であり,平成29年4月11日,商号を株式会社皇基から現在のものに変更した。
被告は,遅くとも同年3月3日以降,ウォータースライダー型のそうめん流し器
である被告商品を製造し,販売し,また,販売の申出をしている。(4)意匠登録無効審判請求等
被告は,平成30年4月18日,特許庁に対し,本件意匠権の設定登録について,意匠登録無効審判を請求した(以下本件審判請求という。)。本件審判請求で被告が主張した無効理由は,本件登録意匠が,その意匠登録出願前に,①日本国内
において公然知られた原告新商品の意匠(以下原告新商品意匠という。)と同一であるから,意匠法3条1項1号により意匠登録を受けることができないものであり(以下無効理由1という。),②日本国内において公然知られた原告旧商品の意匠(以下原告旧商品意匠という。)と類似する意匠であるから,同項3号により意匠登録を受けることができないものであり(以下無効理由2とい
う。),また,③当業者が原告旧商品意匠等の形状に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであるから,同条2項により意匠登録を受けることができないものであり(以下無効理由3という。),それぞれ,同法48条1項1号に該当する,とするものである。
これに対し,特許庁は,平成31年3月20日,本件審判請求につき不成立とす
る審決をし(以下本件審決という。),本件審決は確定した(裁判所に顕著な事実)。

3争点
(1)意匠権関係(争点1)
ア本件登録意匠と被告意匠の類否(争点1-1)
イ無効理由の存否(争点1-2)
(ア)新規性欠如1について(争点1-2-1)
(イ)新規性欠如2について(争点1-2-2)
(ウ)創作非容易性欠如について(争点1-2-3)
ウ原告の損害額(争点1-3)
(2)不正競争防止法2条1項1号関係(争点2)

ア原告新商品の形態の商品等表示該当性及び周知性の有無(争点2-1)イ
原告新商品の形態と被告商品の形態の類否及び混同のおそれの有無(争点2
-2)
ウ原告の損害額(争点2-3)
(3)不正競争防止法2条1項3号関係(争点3)
ア被告商品の形態の模倣性(争点3-1)
イ原告の損害額(争点3-2)
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(意匠権関係)
(1)争点1-1(本件登録意匠と被告意匠の類否)

(原告の主張)
ア被告意匠は,以下のとおり,本件登録意匠に類似する。
(ア)両意匠の構成
本件登録意匠の構成は,別紙図面対比表の本件登録意匠欄に表示のとおりである(斜視図を除く。)。他方,被告意匠の構成は,同被告意匠欄に表示のと
おりである。
(イ)両意匠の対比

本件登録意匠と被告意匠の各構成を比較すれば,頂部の吐水口部分の形状を除き,全体的なデザインは酷似しており,需要者の視覚を通じた全体的な美感は吐水口部分の形状の相違を凌駕している。
また,流しそうめんを食するために使用するそうめん流し器について,需要者は,そうめんを流す環状のレール部と,流れ落ちたそうめんが最終的に到達し,回転器により回転するトレイ部の各形状には関心を持つが,頂部に視線を向けることはない。
したがって,被告意匠は,本件登録意匠に類似する。

原告旧商品意匠を参酌して本件登録意匠の要部を認定したとしても,被告意
匠は,以下のとおり,本件登録意匠に類似する。
(ア)本件登録意匠の要部
原告旧商品意匠の構成を参酌すると,本件登録意匠の構成のうち,①トレイ部の先端部分の丸みを帯びた形状,②トレイ部の中心に設けられた楕円状の回転器の存在,③トレイ部のポンプ側に設けられた弧状仕切り壁の存在は,いずれも原告旧商
品意匠の構成と異なる。したがって,本件登録意匠の要部は,上記①~③の構成である(別紙構成対比表(当事者の主張)の本件登録意匠の構成態様欄のうち原告の主張欄参照)。
(イ)両意匠の対比
別紙図面対比表の本件登録意匠欄及び被告意匠欄の各【正面図】,【背
面図】及び【平面図】を対比すると,いずれも,①トレイ部の先端部分が丸みを帯びた形状をしており,②トレイ部の中心に楕円状の回転器が設けられている。また,被告意匠においても,③トレイ部のポンプ側に同一の形状及び高さを有する弧状仕切り壁が設けられている。
これらのことからすると,両意匠は,全体として共通の美感を生じさせているか
ら,被告意匠は,本件登録意匠に類似する。
(被告の主張)

ア両意匠の構成
本件登録意匠の構成は,別紙構成対比表(当事者の主張)の本件登録意匠の構成態様欄のうち被告の主張欄記載のとおりである。また,被告意匠の構成は,同別紙の被告意匠の構成態様欄のうち被告の主張欄記載のとおりである。
イ本件登録意匠の要部
(ア)用途,使用態様
本件登録意匠に係る物品であるそうめん流し器は,トレイ部から吸い上げられた水が吐水口部分から流れ出てくる。需要者は,回転器に薬味を載せた上で,吐水口
部分から流出した水を受ける水受け部分にそうめんを落とし,レール部を流れ落ちたり,トレイ部を回転したりするそうめんを食する。本件登録意匠に係るそうめん流し器のこうした用途,使用態様からすると,需要者が,吐水口部分の構成を把握せずに本件登録意匠の構成を把握することはあり得ず,また,そうめんが流れ落ちるレール部及びレール部でつかみきれなかったそうめんが流れ落ちるトレイ部のい
ずれの構成にも関心を持つ。
(イ)周知意匠・公知意匠
もっとも,トレイ部の構成については,そうめん流し器において,トレイ部内の中央に回転器を配置することにより楕円環状のプール部分を形成し,回転器の頂部に円状ボタン部分及びD字状皿部分を形成する構成のもの(以下,そうめん流し器
のうち,上部から下部のトレイ部に流すためのレール部を有さず,上面が開口したトレイ部の中央に回転器を配置することによりプール部分を形成しているものを流水プール型と形容することがある。)は,本件登録意匠出願前に公知であった。
また,原告旧商品意匠は,本件登録意匠の意匠登録出願前に公然知られた意匠で
あるところ,その構成は,別紙構成対比表(当事者の主張)の原告旧商品意匠の構成態様欄のうち被告の主張欄記載のとおりである。本件登録意匠の構
成と原告旧商品意匠の構成の間には,トレイ部の一部の形態以外に全く差異はない。(ウ)

これらの点に鑑みると,本件登録意匠の要部は,レール部及びトレイ部の形
状ではなく,吐水口部分の形状である。
ウ両意匠の対比
(ア)

本件登録意匠の構成と被告意匠の構成の間には,吐水口部分の形状に明らか
な差異がある。したがって,仮に,本件登録意匠の要部が吐水口部分及びレール部の各形状であるとしても,被告意匠は,本件登録意匠に類似しない。(イ)

原告は,①トレイ部の先端部分の丸みを帯びた形状,②トレイ部の中心に設
けられた楕円状の回転器の存在,③トレイ部のポンプ側に設けられた弧状仕切り壁の存在が本件登録意匠の要部であるとも主張する。
しかし,ウォータースライダー型のそうめん流し器において,トレイ部の先端部分が丸みを帯びた形状であるのものは公知であったから,上記①は本件登録意匠の要部になり得ない。また,上記②及び③に係る構成については,両意匠の間で明らかな差異があり,これらの差異はいずれも看者の注意を引く部分である。
したがって,被告意匠は,本件登録意匠に類似しない。
(2)争点1-2-1(新規性欠如1について)
(被告の主張)
本件登録意匠の構成は,以下のとおり,その意匠登録出願前に日本国内において公然知られた意匠である原告新商品意匠の構成と同一又は類似する。したがって,
本件登録意匠は,意匠法3条1項1号又は同項3号に該当するから,本件意匠権の設定登録は,意匠登録無効審判により無効にされるべきものである(以下新規性欠如1という。)。ア公知
(ア)

インターネットショッピングサイト楽天市場内で販売される原告新商品
に関するレビュー欄には,平成26年6月19日~平成27年8月7日の間に投稿された複数のレビューが掲載されている(乙1の2,2の2)。このことから,原
告新商品は,本件登録意匠の意匠登録出願前から販売されていたことが認められるから,原告新商品意匠は,本件登録意匠の意匠登録出願前に公然知られた意匠である。
(イ)
原告は,甲19及び21等に基づき,原告新商品意匠は本件登録意匠の意匠
登録出願前に公知であったことを否定する。
しかし,このうち甲21(作成日:平成28年1月19日)については,当該書証によれば試験品のパッキンの色は黒とされているのに対し,原告新商品のパッキンの色は白であることから,甲21が原告新商品の部品に係る輸入食品等試験成績証明書であることには疑問がある。

また,甲19は,そもそもインターネットアーカイブが提供するサービスであるWaybackMachine(以下WaybackMachineという。)が収集したウェブページの内容の正確性に疑問があるから,当該サービスにおいて平成26年8月27日に収集したとされる乙1の1のウェブページ(甲19)の内容をもって,同日の時点で同ウェブページに掲載されていた商品が原告旧商品であったとは認め
られない。また,仮に同日の時点で掲載されていた商品が原告旧商品であったとしても,同日以降本件意匠登録出願前に投稿されたレビューも複数あり,その時点で掲載されていた商品が原告旧商品であることを裏付けるものではない。イ両意匠の構成及び対比
本件登録意匠の構成は,別紙図面対比表の本件登録意匠欄に表示のとおりで
ある。原告新商品意匠の構成は,同別紙の原告新商品意匠欄に表示のとおりである。
本件登録意匠と原告新商品意匠の各構成を対比すると,トレイ部及び回転器の色合いなどに若干の差異があるものの,本件登録意匠の構成は,原告新商品意匠の構成と明らかに同一であるか,少なくとも類似する。

(原告の主張)
原告新商品は本件登録意匠に対応する製品ではあるものの,原告新商品意匠は,
以下のとおり,本件登録意匠の意匠登録出願前に日本国内において公然知られた意匠ではない。したがって,本件登録意匠は,意匠法3条1項1号又は同項3号に該当せず,本件意匠権の設定登録は,意匠登録無効審判により無効にされるべきものではない。
ア原告新商品の販売開始時期
原告新商品は,原告旧商品の後続モデルであるところ,その販売開始時期は平成28年4月,少なくとも同年1月19日以降である。このことは,原告が原告新商品を中国の製造委託先に発注したのが平成27年12月3日,原告新商品に係る輸入食品等試験検査証明書の取得が平成28年1月19日,製造された原告新商品の
工場出荷が平成28年4月1日であることと整合する。
したがって,原告新商品意匠は,本件登録意匠の意匠登録出願前に日本国内において公然知られた意匠ではない。
イ被告が指摘するレビューページについて
WaybackMachineが平成26年8月27日に収集した乙1の1のウェブページ
(甲19)によれば,同日時点で乙1の1のウェブページに掲載されていた商品は,原告新商品ではなく原告旧商品であった。そうすると,乙1の2記載のレビューが原告新商品についてのものであることが立証されているとはいえない。このことは,乙2の2記載のレビューについても同様である。
(3)争点1-2-2(新規性欠如2について)

(被告の主張)
本件登録意匠は,以下のとおり,その意匠登録出願前に日本国内において公然知られた意匠である原告旧商品意匠に類似する。したがって,本件登録意匠は,意匠法3条1項3号に該当するから,本件意匠権の設定登録は,意匠登録無効審判により無効にされるべきものである(以下新規性欠如2という。)。

ア公知
原告旧商品意匠は,本件登録意匠の意匠登録出願前に公然知られた意匠である。
イ両意匠の構成
本件登録意匠は,別紙図面対比表の本件登録意匠欄に表示のとおりであり,その構成は,別紙構成対比表(当事者の主張)の本件登録意匠の構成態様欄のうち被告の主張欄記載のとおりである。他方,原告旧商品意匠は,別紙図面対比表の原告旧商品意匠欄に表示のとおりであり,その構成は,別紙構成対比表(当事者の主張)の原告旧商品意匠の構成態様欄のうち被告の主張欄記載のとおりである。ウ対比
前記(1)(被告の主張)イ(ア)の用途,使用態様に加え,流水プール型のそうめん流
し器で,回転器の頂部に円状ボタン部分及びD字状皿部分を形成する構成を有するものが公知であったことからすれば,本件登録意匠の要部は,吐水口部分及びレール部の形状である。
そして,本件登録意匠と原告旧商品意匠の各構成の間には,トレイ部の一部の形態以外に差異はない。したがって,本件登録意匠は,原告旧商品意匠に類似する。
(原告の主張)
本件登録意匠と原告旧商品意匠の各構成の間には,トレイ部に2つの差異点(本件登録意匠は丸みを帯びてレール部と共に一体感をもたらしているのに対し,原告旧商品意匠は角形であること,本件登録意匠はトレイ部に回転器が存するのに対し,原告旧商品意匠には存在しないこと)がある。

したがって,本件登録意匠は,原告旧商品意匠に類似しないから,意匠法3条1項3号に該当せず,本件意匠権の設定登録は,意匠登録無効審判により無効にされるべきものではない。
(4)争点1-2-3(創作非容易性欠如について)
(被告の主張)

本件登録意匠の構成は,以下のとおり,その意匠登録出願前に,当業者が,日本国内で公然知られた意匠である原告旧商品意匠に基づいて容易に創作することがで
きたものである。したがって,本件登録意匠は,意匠法3条2項に該当するから,本件意匠権の設定登録は,意匠登録無効審判により無効にされるべきものである(以下創作非容易性欠如という。)。
ア両意匠の構成及び対比
前記(3)(被告の主張)のとおり,両意匠は,トレイ部の一部の形態にだけ差異がある。
イ差異点の創作容易性
上記差異点に係る本件登録意匠の構成(流水プール型のそうめん流し器で,回転器の頂部に円状ボタン部分及びD字状皿部分を形成する構成)は,前記(1)(被告の
主張)イ(イ)のとおり,そうめん流し器の分野において公知な構成であった。したがって,原告旧商品意匠のうち分離可能な部品であるトレイ部の形態を上記公知な構成に置き換えることは,当業者にとって容易であった。
これに対し,原告は,本件登録意匠のトレイ部の先端側の壁の高さとその反対側の弧状仕切り壁の高さが異なる点で,両者の高さが均一である上記公知な流水プー
ル型のそうめん流し器の構成との間に差異があることを指摘する。しかし,原告旧商品意匠のトレイ部を上記公知な構成に置き換える際に,トレイの先端側の壁の高さよりも反対側の壁である弧状仕切り壁の高さを低くするのは当然であるし,壁の高さの微差には需要者の関心は及ばない。したがって,原告が指摘する差異点をもって,創作容易性は否定されない。

(原告の主張)
本件登録意匠の構成は,以下の点に鑑みると,原告旧商品意匠に基づいて容易に創作することができたものではない。したがって,本件登録意匠は,意匠法3条2項に該当せず,本件意匠権の設定登録は,意匠登録無効審判により無効にされるべきものではない。

ア被告が指摘する差異点に係る本件登録意匠の構成と公知意匠の構成の差異本件登録意匠は,楕円状のトレイ部の先端側の壁の高さと反対側の弧状仕切り壁
の高さとが相違する。これに対し,被告が公知とするトレイ部の構成は,これらの高さが同じである。
また,本件登録意匠は,トレイ部の壁が直立している。これに対し,被告が公知とするトレイ部の構成は,トレイ部の壁が外側に向けてなだらかに傾斜している。イ本件登録意匠の構成は新規のものであること
本件登録意匠の意匠登録出願時にまでに,原告旧商品のようなウォータースライダー型のそうめん流し器のトレイ部として,流水プール型のそうめん流し器のような構成のものを組み合わせたものは市場に全く存在しなかった。したがって,本件登録意匠は,原告旧商品意匠のトレイ部を,単に流水プール型のそうめん流し器に
置換したものとはいえず,その創作は容易ではない。
(5)争点1-3(原告の損害額)
(原告の主張)
被告商品1台当たりの販売利益は894円(販売価格2980円/個,利益率約30%)であり,平成28年5月13日から本件口頭弁論終結日(令和元年6月1
4日)までの間における被告による被告商品の販売数量は7115個を下回ることはないと考えられる。そうすると,本件意匠権侵害行為である被告商品の販売により被告が得た利益の額は,636万0810円である。
よって,意匠法39条2項に基づき,同額が原告の逸失利益の額と推定される。また,本件意匠権侵害行為により被告が得た利益の額は,少なくとも,被告が自
認する額(104万4582円)を下回ることはない。
(被告の主張)
否認ないし争う。
被告商品の販売により被告が得た利益の額については,104万4582円の限度で認め,それを超える部分は否認する。

2争点2(不正競争防止法2条1項1号関係)
(1)争点2-1(原告新商品形態の商品等表示該当性及び周知性の有無)
(原告の主張)
原告新商品の形態は,全体の外観が緑色であり,吐水を受けるレールは,真上から見た場合,やや潰れたような楕円形状を描きつつ曲がりながら下降して,水流が回転するトレイ部に注ぐ一方,水を吐水口に汲み上げるためのポンプは,吐水口を支える中央支柱内に収納されているという,特徴的なものである。このような原告新商品は,マスコミやインターネットで多く取り上げられていることからすると,周知性を獲得している。
(被告の主張)
原告新商品がマスコミやインターネットで取り上げられているからといって,原
告新商品が周知性を獲得しているとはいえない。
(2)

争点2-2(原告新商品形態と被告商品形態の類否及び混同のおそれの有
無)
(原告の主張)
被告商品の形態は,前記(1)(原告の主張)で指摘した原告新商品の形態を全て備える。
原告新商品の需要者は,実物を検討することなく通販サイト等で購入することが多いため,外観の印象等で購入を決めることが多い。このため,被告商品の形態が原告新商品の形態を全て備えていることからすると,原告新商品の形態と被告商品の形態の間に混同のおそれがあることは明らかである。

(被告の主張)
原告新商品の形態は,前記1(2)(被告の主張)のとおり,本件登録意匠の形態と同一であるところ,本件登録意匠の形態は,前記1(1)(被告の主張)のとおり,被告意匠の形態と類似しない。
したがって,被告商品の形態は,原告新商品の形態と類似しない。そのため,原
告新商品の形態と被告商品の形態の間に混同のおそれもない。
(3)争点2-3(原告の損害額)

(原告の主張)
本件の不正競争である被告商品の販売により被告が得た利益の額は,前記1(5)(原告の主張)のとおり,636万0810円である。よって,不正競争防止法5条2項に基づき,同額が原告の逸失利益の額と推定される。
(被告の主張)
否認ないし争う。
3争点3(不正競争防止法2条1項3号関係)
(1)争点3-1(被告商品の形態の模倣性)
(原告の主張)

ア実質的同一性
原告新商品の形態は,別紙図面対比表の原告新商品意匠欄記載のとおりである。また,被告商品の形態は,同被告意匠欄記載のとおりである。両者を対比すると,相違するのは頂部に在る吐水口部分の形状だけであり,両商品の全体的なデザインは酷似している。

そして,前記1(1)(原告の主張)のとおり,そうめん流し器の用途,使用態様からすると,需要者は,そうめんを流す環状のレール部及び流れ落ちたそうめんが回転するトレイ部の形状に関心を持ち,頂部に視線を向けることはない。したがって,商品全体としてみれば,原告新商品の形態と被告商品の形態は実質的に同一である。

イ依拠
株式会社トレードワン(以下トレードワンという。)は,平成28年に原告新商品が使用されたテレビドラマの1シーンに係る動画を動画投稿サイトにアップし,原告新商品が自社商品であるかのような表示をしている。また,トレードワンは,被告商品の販売開始に先立つ平成29年1月頃,自社商品の企画書に原告新商
品の画像を無断使用していた。
原告は,これらの経緯を踏まえて,同年2月,トレードワンに対し,同社の企画
販売しようとする商品につき権利侵害警告書を送付した。ところが,同社ではなく被告から,今後の製造販売については被告が実施していく予定であるとするとともに,当該商品は原告の意匠権を侵害していないなどと記載された書面が原告に対して送付されてきた。また,被告の卸売先は,通販サイトにおいて,被告商品についてトレードワンウォータースライダー型流しそうめん器素麺物語と表示し
て販売している。
これらの点に鑑みると,トレードワンと被告は実質的に一体であり,トレードワンが,原告新商品の形態を認識した上,これと形態が実質的に同一といえる被告商品を企画し,被告がその製造を行っていると考えられる。したがって,被告商品は,原告新商品の形態に依拠して製造されたものである。
ウ小括
以上によれば,被告商品は,原告新商品の形態を模倣した商品である。(被告の主張)
前記2(2)(被告の主張)のとおり,被告商品の形態は,原告新商品の形態と同一
ではない。よって,被告商品は,原告新商品の形態を模倣した商品ではない。(2)争点3-2(原告の損害額)
(原告の主張)
本件の不正競争である被告商品の販売により被告が得た利益の額は,前記1(5)(原告の主張)のとおり,636万0810円である。よって,不正競争防止法5
条2項に基づき,同額が原告の逸失利益の額と推定される。
(被告の主張)
否認ないし争う。
第4当裁判所の判断
1争点1-1(本件登録意匠と被告意匠の類否)について

(1)判断基準
登録意匠とそれ以外の意匠との類否の判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる
美感に基づいて行う(意匠法24条2項)。この判断に当たっては,両意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様を全体的に観察するとともに,意匠に係る物品の用途や使用態様,公知意匠等を参酌して,需要者の最も注意を引きやすい部分,すなわち要部を把握し,要部において両意匠の構成態様が共通するか否か,差異がある場合はその程度や需要者にとって美感を異にするものか否かを重視して,両意匠が全体として美感を共通にするか否かによって判断するのが相当である。(2)本件登録意匠の構成態様
本件意匠権に係る意匠公報(甲1)によれば,本件登録意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様は,それぞれ,別紙構成対比表(裁判所の認定)の本件登録意匠欄記載のとおり認めるのが相当である。これに対し,被告は,本件登録意匠の基本的構成態様等につき,別紙構成対比表(当事者の主張)の本件登録意匠の構成態様欄のうち被告の主張欄記載のとおり主張する。
しかし,被告主張に係る本件登録意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様は,
本件登録意匠の構成全体を的確に把握し,これを基本的構成態様と具体的構成態様とに整理したものとはいい難い。したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
(3)本件登録意匠の要部
アそうめん流し器の用途及び使用態様

本件登録意匠に係る物品であるそうめん流し器は,連結したレール部に上流から水を流下させて適宜そうめんを流し,レール部上を流れるそうめん又はトレイ部内を回転するそうめんをすくい取って食することができるようにしたものである。イウォータースライダー型のそうめん流し器に係る公知意匠
(ア)原告旧商品意匠

前記第2の2(2)のとおり,原告旧商品は,本件登録意匠の意匠登録出願前から販売されていたものであるから,原告旧商品意匠は,本件登録意匠に先行する公知意
匠であったと認められる。ここで,証拠(甲36,38,乙3~5,12)及び弁論の全趣旨によれば,その構成態様は,本件登録意匠のものとの対比において,別紙構成対比表(裁判所の認定)の原告旧商品意匠欄記載のとおり認めるのが相当である。この点に関する各当事者の主張はいずれも採用できない。(イ)乙14記載の意匠
証拠(乙14)及び弁論の全趣旨によれば,株式会社バンダイは,本件登録意匠の意匠登録出願前である平成21年4月8日,流しそうめんそうめんやなる
名称の商品の販売を開始したことが認められるから,当該商品の意匠は,本件登録意匠に先行する公知意匠である。
また,証拠(乙14)及び弁論の全趣旨によれば,当該商品は,連結したレール部に上流から水を流下させて適宜そうめんを流し,レール部上を流れるそうめん又はトレイ部内にたまるそうめんをすくい取って食することができるようにしたものであり,ウォータースライダー型のそうめん流し器といえるところ,水路部の終端に位置するトレイ部の形状については,平面視した外形状が,左方を隅丸,長方形
の右方を半円形状とする横長な略D字状で,垂直な周側面で囲まれた上面が開口したものであること,トレイ部内に置かれたざるでレール部からトレイ部内に流れ落ちたそうめんを受け止めるという使用態様が標準的なものとして想定されている一方で,回転器その他トレイ部に流れ落ちたそうめんをトレイ部内で回転させることを可能とする部材は含まれていないことが,それぞれ認められる。
(ウ)

トレイ部の中央に流水プール型のように回転器を配置してプール部分を形成
しているものの有無
a原告新商品意匠について
被告は,原告が,本件登録意匠の意匠登録出願前から,本件登録意匠と全く同一の構成を有する原告新商品を販売していたと主張し,その根拠として,原告新商品に関するレビューページに掲載された複数のレビューの投稿日が本件登録意匠の意匠登録出願よりも前の日であることを指摘する。

しかし,証拠(甲19)及び弁論の全趣旨によれば,WaybackMachineが平成26年8月27日に収集した同日時点における乙1の1のウェブページの内容から,その当時当該ウェブページに掲載されていた商品は,原告新商品ではなく原告旧商品であったことが認められる。
また,原告が,同日以降本件登録意匠の意匠登録出願の日である平成27年8月28日までの間に原告新商品の販売を開始したことを認めるに足りる証拠もない。そうすると,原告新商品意匠は,本件登録意匠に先行する公知意匠であったとは認められないから,本件登録意匠の要部を認定するに当たって参酌されるべきものではない。

これに対し,被告は,WaybackMachineの信頼性に疑義がある旨指摘するとともに,平成26年8月27日の時点で原告新商品の販売が開始されていなかったとしても,上記レビューには,同日より後で本件登録意匠の意匠登録出願の日より前となっているレビューも複数存在することを指摘する。
しかし,WaybackMachineの信頼性に関する被告の指摘はいまだ抽象的なものに
すぎない。他方,乙1の1及び1の2並びに乙2の1及び2の2のURL等に鑑みると,商品紹介ページと当該商品のレビューページとは別ページとして構成されており,両者がどのように関連付けられているかは必ずしも明らかでない。そもそも,商品が旧型から新型にモデルチェンジしたような場合,新型につき別個の商品紹介ページが必ず作成されるのか,旧型の商品の紹介ページのうち商品の画像,価格等
が入れ替えられる場合もあるのか,後者の場合,レビューページはどのような取扱いとなるのか,といった点が明らかでない。このため,レビューについては旧型の商品に関するものが残されたままとなる可能性があると考えることにも合理性がある。また,証拠上,原告が同日の時点で原告新商品の販売を既に開始していたことを具体的にうかがわせる事情を他に見出すこともできない。

また,上記のとおり,平成26年8月27日~平成27年8月28日の間に原告新商品の販売が開始されたと認めるに足りる証拠もない以上,当該期間内に投稿さ
れたレビューが原告新商品に関するものであると認めることもできない。したがって,被告指摘に係る各事情は,いずれも結論を左右するものではなく,この点に関する被告の主張は採用できない。
bその他の意匠について
本件の証拠及び弁論の全趣旨を総合的に考慮しても,本件登録意匠の意匠登録出願前までに,ウォータースライダー型のそうめん流し器において,トレイ部の中央に流水プール型のように回転器を配置してプール部分を形成しているものが存在したことを認めるに足りる証拠はない。
ウ流水プール型のそうめん流し器に係る公知意匠

(ア)乙7及び8記載の意匠
乙7は,楽天市場で取り扱われるそうめん流し器流しそうめん機涼美
に係るレビューの紹介ページである。当該ページに投稿されたレビューには,本件登録意匠の意匠登録出願前のレビュー(平成26年6月30日~平成27年8月1日)が複数存在しており,弁論の全趣旨とも併せ鑑みれば,本件登録意匠の意匠登録出願前から当該商品が販売されていたことが認められる。したがって,当該商品の意匠は,本件登録意匠に先行する公知意匠である。
そして,証拠(乙8)及び弁論の全趣旨によれば,当該商品は,上面が開口したトレイ型の形状の容器の中央に回転器を配置することによりプール部分を形成した流水プール型のそうめん流し器であり,トレイは,平面視した外形状が,両端を半
円形状とするトラック形の角丸長方形で,上面が開口し,開口部側が底面より広く,周側面が,底面から開口部側にかけて傾斜していること,回転器は,上面が両端を半円形状とする角丸長方形からなる略直柱体であることが認められる。(イ)乙9記載の意匠
乙9は,インターネットショッピングサイトAmazon.co.jpで取り扱われるそ
うめん流し器涼流庵に係る商品写真及びレビュー等の記載されたページである。当該ページに掲載されたレビューには,本件登録意匠の意匠登録出願前である平成
27年7月14日付けのものが存在しており,弁論の全趣旨とも併せ鑑みれば,本件登録意匠の意匠登録出願前から当該商品が販売されていたことが認められる。したがって,当該商品の意匠は,本件登録意匠に先行する公知意匠である。そして,当該商品の商品写真及びレビュー内容から,当該商品は,上面が開口したトレイ型の形状の容器の中央に回転器を配置することによりプール部分を形成した流水プール型のそうめん流し器であり,トレイは,平面視した外形状が,両端を半円形状とするトラック形の角丸長方形で,上面が開口し,開口部側が底面より広く,周側面が,底面から開口部側にかけて傾斜していること,回転器は,上面が両端を半円形状とする角丸長方形からなる略直柱体であることが認められる。
(ウ)乙10記載の意匠
乙10は,インターネットショッピングサイトyodobashi.comで取り扱われるそうめん流し器涼味に係る商品写真及び商品説明等の記載されたページである。当該ページには,当該商品の販売開始日が平成27年4月2日である旨の記載があり,弁論の全趣旨とも併せ鑑みれば,本件登録意匠の意匠登録出願前から当該商品
が販売されていたことが認められる。したがって,当該商品の意匠は,本件登録意匠に先行する公知意匠である。
そして,当該商品の商品写真から,当該商品は,上面が開口したトレイ型の形状の容器の中央に回転器を配置することによりプール部分を形成した流水プール型のそうめん流し器であり,トレイは,平面視した外形状が,両端を半円形状とするト
ラック形の角丸長方形で,上面が開口し,開口部側が底面より広く,周側面が,底面から開口部側にかけて傾斜していること,回転器は,上面が両端を半円形状とする角丸長方形からなる略直柱体であることが認められる。
(エ)乙11記載の意匠
乙11は,本件登録意匠の意匠登録出願前である平成21年2月16日に発行さ
れた意匠公報であり,その意匠に係る物品はそうめん流し器である。したがって,乙11記載の意匠は,本件登録意匠に先行する公知意匠である。

そして,当該意匠の説明には,本商品はモーター部分より発生する水流で,本体の中に浮かべたソーメンを流して家庭で気軽にソーメン流しを楽しむことが出来る玩具である。外観は長方形の箱型で,小判型のくぼみがある。本体くぼみ中央部分にモーター部をセットし,…電源を入れると水流が起こり,水が回り始める。と記載されている。また,その図面からは,当該意匠の形態につき,トレイと回転器から成り,トレイは,平面視した外形状が,上面が開口した横長長方形で,両端を半円形状とするトラック形の角丸長方形状の凹陥部を形成しており,その凹陥部の中央部分に回転器が配置されていること,回転器は,上面が両端を半円形状とする角丸長方形からなる略直柱体であることが認められる。そうすると,乙11記載
の意匠も流水プール型のそうめん流し器に係るものということができる。(オ)

以上によれば,本件登録意匠の意匠登録出願前において,トレイ部の周側面
の具体的形状にはいくつかの異なる態様のものがあるものの,平面視したトレイ部の外形状が,上面が開口し,両端を半円形状とするトラック形の角丸長方形を形成し,その中央に上面が両端を半円形状とする角丸長方形から成る略直柱体の回転器を配置するという構成は,流水プール型のそうめん流し器の構成として公知であったことが認められる。
エ検討
(ア)意匠全体に占める割合
本件登録意匠は,中央支柱部,レール部等から成る水路部及びトレイ部から成る
ところ,水路部のレール部が意匠全体に対して物理的に大きな割合を占める。したがって,レール部の形状は,本件登録意匠において特徴的な美感を生じさせ得るものである。
(イ)需要者の関心
本件登録意匠に係る物品であるそうめん流し器の用途(前記ア)からすれば,そ
の需要者は,家庭等で流しそうめんを楽しもうとする一般消費者であると認められる。かかる需要者は,その使用態様(前記ア)に鑑みれば,そうめんの流れ方やす
くい取りやすさに主に関心を持つと考えられるから,基本的には,真上や斜め上から見た水路部のうちのレール部及びトレイ部内部の形状に注目するものといえる。(ウ)公知意匠の参酌
a
もっとも,本件登録意匠の構成態様と原告旧商品意匠の構成態様を対比する
と,別紙構成対比表(裁判所の認定)の本件登録意匠欄及び原告旧商品意匠欄に各記載のとおりであり,本件登録意匠のレール部の形態(具体的構成態様G)は,原告旧商品意匠のレール部分の形態に見られる構成である。また,本件登録意匠のトレイ部内部において周側面と回転器により形成されるプール部分の形状(具体的構成態様I)は,本件登録意匠の意匠登録出願前に公知で
あった流水プール型のそうめん流し器に係る意匠(前記イ)に見られる構成である。b
しかし,意匠においては,様々な要素の組合せから構成される全体としての
視覚情報が最終的には意味を有するものであり,一部に公知意匠が含まれていても,他の要素と併存することで全体としては異なる意匠を構成することもあり得る。このため,意匠の要部の認定に際しては,公知意匠を参酌する必要があるものの,公知意匠が包含されることをもって,直ちにその部分を要部から排除すべきものではない。
前記イのとおり,本件登録意匠の意匠登録出願前から存在するウォータースライダー型のそうめん流し器には,そのトレイ部として流水プール型のそうめん流し器のような形状のものはなく,流れるそうめんをすくい上げることを楽しむことがで
きる部分はレール部だけであった。他方,本件登録意匠の意匠登録出願前から存在する流水プール型のそうめん流し器は,それ自体で意匠として完成しており,レール部を備えたものはなかったため,流れるそうめんをすくい上げることを楽しむことができる部分はトレイ部だけであった。
これに対し,本件登録意匠は,流しそうめんを楽しむことができる構成としてレ
ール部及びトレイ部のいずれをも備えるという点で,その意匠登録出願の出願前にそれぞれ存在したウォータースライダー型及び流水プール型の各そうめん流し器の
構成を組み合わせたことに特徴があり,これは,公知意匠には見られない新規な特徴といえる。また,前記(イ)のとおり,需要者は,そうめんの流れ方やすくい取りやすさに関心を持つ以上,本件登録意匠の構成態様のうち,水路部のうちのレール部と回転器を有するトレイ部とが結合して成る形状に注目すると考えられる。(エ)

以上によれば,公知意匠の存在を参酌しても,需要者は,本件登録意匠のう
ち,水路部のレール部と回転器を有するトレイ部とが結合して成る形状に注目すると認められる。すなわち,このような形状をもって要部と見るのが相当である。これに対し,被告は,公知意匠の存在を指摘して,水路部のレール部分の形態及びトレイ部の形状は要部ではない旨主張するけれども,上記のとおり,この点に関する被告の主張は採用できない。
(4)被告意匠の構成態様
証拠(甲3,10~12)及び弁論の全趣旨によれば,被告意匠の構成態様は,別紙構成対比表(裁判所の認定)の被告意匠欄記載のとおりと認められる。この点に関する各当事者の主張は,いずれも採用できない。

(5)対比

本件登録意匠及び被告意匠の各構成態様を対比すると,別紙構成対比表(裁判所の認定)の本件登録意匠欄及び被告意匠欄に各記載のとおりであるところ,このうち下線部を付した箇所が差異点であり,それ以外の箇所が共通点である。
イ本件登録意匠の要部について
被告意匠も,水路部のレール部と回転器を有するトレイ部とが結合して成るものであり(基本的構成態様A,C,D),この点で本件登録意匠と被告意匠は共通する。この共通点により,両意匠とも,ウォータースライダー型及び流水プール型の各そうめん流し器を別個独立に捉えた場合とは異なる新規な構成を有するという印
象を生じる。
ウ本件登録意匠の要部以外の部分について

(ア)意匠全体に対して物理的に大きな割合を占めるだけでなく,需要者が関心を持つレール部の形態については,被告意匠の構成態様は,ヘアピンカーブ状に湾曲後に僅かに凹弧状に湾曲しているか否かを除けば,本件登録意匠の構成態様と共通する(具体的構成態様G)。
このうち,共通点は,意匠全体に対して占める物理的な割合が大きいことから,原告旧商品意匠のレール部の形態と同様の形態であるといっても,全体の印象に与える影響は大きいといえる。
他方,差異点は,かなり注意を払わなければ認識し難いほどに僅かな差異であり,全体の印象に与える影響は小さいといえる。

(イ)需要者が関心を持つトレイ部内部の形状については,被告意匠の構成態様は,回転器の上面の凹陥部の形状を除けば,本件登録意匠の構成態様と共通する(具体的構成態様I)。
このうち,共通点は,トレイ部内部の形状の中でも需要者が特に関心を持つと考えられるそうめんが流れる流路の形状についてのものであることから,流水プール
型のそうめん流し器に係る前記各公知意匠と同様の形状であるといっても,全体の印象に与える影響は大きいといえる。
他方,差異点は,意匠全体に対して占める物理的な割合は小さいことから,全体の印象を左右するほどのものとはいえない。
(ウ)そのほか,被告意匠には,①トレイ部の外形状(基本的構成態様D),②水路
部の上端部分における吐水口部分の形状(具体的構成態様F)及び③トレイ部における左方基端部の中央支柱が接続するブロック材状部材の嵌装の有無(具体的構成態様I)において,本件登録意匠と差異がある。
このうち,①については,本件登録意匠及び被告意匠のいずれにおいても,真上から見た場合には水路部上端部分の皿状部材にその大部分が隠れる位置関係にある
とともに,トレイ部内部のそうめんが流れるトラック形部分の壁面を構成しない左方部分における差異であるから,流しそうめんを楽しむ際に需要者がさほど関心を
向けない部分といえる。また,③については,トレイ部内部のそうめんが流れる部分に隣接するものの,そうめんの流れと直接的に関わるものではないことなどから,需要者がそうめん流しを楽しむ際に必ずしも関心を向けない部分である。これらのことから,①及び③の各差異点は,いずれも全体の印象に与える影響は小さいといえる。
他方,②については,そうめんを流すための水が吐出される部分であり,そうめんを流す際に必然的に需要者が目にする部分ではある。しかし,当該部分が意匠全体に対して物理的に占める割合は必ずしも大きくはなく,また,需要者がそうめん流しを楽しむに当たって吐水口部分の形状に強い関心を持つとも思われない。した
がって,②の差異点は,全体の印象に大きな影響を与えるものではない。オ
以上の点を踏まえると,両意匠は要部を共通にし,需要者に対し,本件登録
意匠の意匠登録出願前に存在したウォータースライダー型及び流水プール型のそうめん流し器とは異なり,両者を組み合わせた新たなタイプのそうめん流し器であるという共通の印象を与えた上で,全体的に同様の形状をも備えているという印象を強く与えており,このような印象が前記差異点のもたらす印象により凌駕されるものではない。したがって,被告意匠は,本件登録意匠に類似するものと認められる。これに反する被告の主張はいずれも採用できない。
そうすると,被告による被告商品の販売等の行為は,本件意匠権を侵害するものである。

2争点1-2(無効理由の存否)について
被告は,本件において,本件意匠権の設定登録が意匠登録無効審判により無効にされるべき理由として3点を主張している。
しかし,前記第2の2(4)の認定事実に加え,証拠(甲45)及び弁論の全趣旨によれば,本件において本件意匠権の設定登録が意匠登録無効審判により無効にされ
るべき理由として被告が主張する新規性欠如1及び同2並びに創作非容易性欠如は,それぞれ本件審判請求の無効理由1~3と同一の事実及び同一の証拠に基づく
ものといえる。
被告は,特許法167条を準用する意匠法52条により,確定した本件審決に係る本件審判請求と同一の事実及び同一の証拠に基づいて本件意匠権の設定登録につき意匠登録無効審判を請求することができない。このため,被告は,本件において主張する理由により本件意匠権の設定登録につき意匠登録無効審判を請求することは,もはやできない。
意匠法52条が準用する特許法167条の趣旨は,紛争の一回的な解決を図るため,審決が確定した後に同一の当事者等が同一の事実及び証拠に基づいて再び審判を請求することにより紛争を蒸し返すことを許さない点にある。そうすると,同条
に当たる事情が存するときは,意匠法41条が準用する特許法104条の3の当該特許が特許無効審判により…無効にされるべきものと認められるときに当たらず,意匠権侵害訴訟における同条の主張は認められないと解するのが相当である。したがって,本件意匠権の設定登録は,意匠登録無効審判により無効にされるべきものとはいえない。この点に関する被告の主張は採用できない。
3差止請求・廃棄請求の可否について
(1)意匠権に関する請求関係
以上のとおり,被告商品の製造,販売等は,本件意匠権の侵害行為を構成するところ,被告の応訴態度に鑑みると,被告が被告商品を製造,販売等するおそれは依然としてあるといえる。したがって,被告商品の製造,販売等の差止めの必要性は
あるから,差止請求は認められる。
他方,証拠(乙15~28,47~55)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,輸入した被告商品を平成29年6月13日に販売したのを最後に,これ以降被告商品を製造,販売等した実績は認められず,現在,輸入した被告商品を全て販売済みであり,在庫を保有しているとは認められない。そうである以上,被告商品の廃棄
については,その必要性を欠き,廃棄請求を認めることはできない。(2)不正競争防止法に関する請求関係

原告は,予備的に,被告商品の販売が不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に当たることを前提に,同法3条2項に基づく廃棄請求をする。しかし,上記(1)と同様に,被告が被告商品の在庫を保有しているとは認められない以上,被告商品の販売が不正競争に当たるか否かについて判断するまでもなく,同項に基づく廃棄請求は認められない。
4争点1-3(原告の損害額)等について
(1)争点1-3(原告の損害額)

証拠(乙15~55)によれば,被告が被告商品の販売により得た利益の合
計額は,104万4582円(売上合計額が2335万2818円,経費合計額が2230万8236円)であると認められる。
これに対し,原告は,被告商品1個当たりの販売利益が894円であることを前提に,被告商品の販売利益の合計が636万0810円に上るなどと主張する。しかし,被告商品1個当たりの販売利益が原告の主張額に上ることはもとより,被告商品の販売利益の合計が104万4582円を上回ると認めるに足りる証拠は
ないから,この点に関する原告の主張は採用できない。

そうすると,意匠法39条2項に基づき,104万4582円が意匠権者で
ある原告の受けた損害の額と推定されるところ,上記推定を覆滅する事由に関する被告の主張立証はない。
したがって,被告の本件意匠権侵害行為による原告の損害額は,104万4582円であると認められる。
(2)不正競争防止法に関する請求関係
原告は,予備的に,被告商品の販売が不正競争防止法2条1項1号又は3号所定の不正競争に当たることを前提に,同法5条2項により推定される損害額につき,同法4条に基づく損害賠償請求をする。

しかし,上記(1)と同様に,被告が被告商品の販売により得た利益の合計額が104万4582円を上回ると認めるに足りる証拠はない。そうである以上,同法5条
2項に基づき推定される損害額が上記(1)の損害額を上回ることもない。そうすると,被告商品の販売が不正競争防止法2条1項1号又は3号所定の不正競争に当たるか否かについて判断するまでもなく,同法4条に基づく損害賠償請求はいずれも認められない。この点に関する原告の主張は採用できない。
5まとめ
以上より,原告の請求は,被告に対し,意匠法37条1項に基づく被告商品の販売等の差止め並びに本件意匠権侵害の不法行為に基づく104万4582円の損害賠償金及びこれに対する不法行為後の日である平成29年9月20日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を,それぞれ求める限度で理由があるか
ら,主位的請求につきその限度で認容することとし(なお,主文第1項については,仮執行宣言を付するのは相当でないから,これを付さないこととする。),その余の主位的請求並びに廃棄請求及び損害賠償請求に係る各予備的請求はいずれも理由がないから,いずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。大阪地方裁判所第26民事部

裁判長裁判官

杉浦正樹
裁判官

野上誠大門宏一
裁判官

一郎
(別紙)
被告商品目録

【斜視図】

【正面図】

【背面図】

【平面図】

【底面図】

【左側面図】

【右側面図】

以上
(別紙)
意匠権目録

登録

番号
1551624号

登録日
平成28年5月13日

出願日
平成27年8月28日

意匠に係る物品

そうめん流し器

登録

別紙本件登録意匠図面表示のとおり

意匠以上
(別紙)
本件登録意匠図面

【斜視図】

【正面図】

【背面図】

【平面図】

【底面図】

【左側面図】

【右側面図】

【参考図】

以上
(別紙)
原告新商品目録

【斜視図】

【正面図】

【背面図】

【平面図】

【底面図】

【左側面図】

【右側面図】

以上
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