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監禁、殺人、監禁致傷被告事件
事件番号平成31(う)177
事件名監禁,殺人,監禁致傷被告事件
裁判年月日令和元年8月23日
法廷名大阪高等裁判所
結果棄却
裁判日:西暦2019-08-23
情報公開日2019-09-13 12:00:11
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平成31

177号

令和元年8月23日

監禁殺人監禁致傷被告事件

大阪高等裁判所第2刑事部判決
主文
本件控訴を棄却する
当審における未決勾留日数中180日を原判決の刑に算入する。

第1
1由
原判決認定事実の概要と控訴の趣意
認定事実の概要
原判決は,概要,被告人は,16歳頃に家出をして親元を離れ,共犯者
であるA,同B及び原判示第1事実の被害者Cと同居するようになり,平成24年頃,大阪府堺市a区b町所在の家屋(以下b町家屋という。)に4人で転居し,①A,Bと共謀の上,平成25年頃から平成29年11月16日までの間,Cを同家屋内に監禁し,傷害を負わせ(原判示第1監禁致傷),②Cに続いて同居を始めた原判示第2事実の被害者Dに対し,A及びBと共謀の上,平成28年9月頃から平成29年8月15日までの間,同家屋内に監禁し(原判示第2の1監禁),Dが,平成29年8月15日頃に衰弱して適切な医療を受けなければ死亡する危険が高い状態になると,AとBに加えてE及びFと共謀の上,殺意をもって,滋賀県近江八幡市c町所在の家屋(以下c町家屋という。)まで同人を連行して監禁するとともに,その間,医師による適切な医療を受けさせずに極度に衰弱させ,死亡させて殺害した(原判示第2の2監禁殺人)と認定した。2
控訴趣意
弁護人の控訴趣意は,
被告人は,①原判示第1及び第2の全ての事実について,共謀が成立せず
(全ての事実について正犯意思がなく,
原判示第2の2の殺人の事
実については,意思の連絡もない),適法行為を法的に期待することはできず期待可能性がなく,②原判示第2の2の殺人の事実については,殺意がないのに,
これらがあると認定した原判決には,
判決に影響を及
ぼすことが明らかな事実の誤認がある,
被告人を懲役20年に処した原判決の量刑は,重すぎて不当である,というものである。
原審記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討する。第2
1
事実誤認の主張について
被告人の置かれた状況等について
本件当時に至るまでの状況と弁護人主張の概要
弁護人は,上記のとおり,殺意,共謀,期待可能性との種々の観点から原判決の各事実の認定を論難するが,これらの犯罪成立の要件の存否を判断するためには,被告人が,知的障害を有しており,Aから暴力を受けるなどして支配され,逆らうことも逃亡することも不可能な状況に置かれていたことが極めて重要であり,これらを考慮すれば,殺意,共謀,期待可能性の存在は認定できないと主張する。そこで,弁護人のかかる主張の内容に鑑み,個々の犯罪成立の要件の検討に先立って,被告人の置かれた状況等について検討する。
原判決の判断とその当否
原判決が,被告人の置かれた状況等に関して説示するところは,概要次のとおり整理することができる。

Aは,被告人及びBと同居を始めた後は,Bにもそうであったように,被告人に対しても,言い掛かりをつけて暴力を振るうなどの横暴な態度を取るようになった。耐えかねた被告人は,Bと共に逃げ出したが,Aに見付けられて連れ戻され,二人とも暴力を振るわれ,性的行為を強要されるなどの手酷い仕打ちを受けた。また,被告人の手元に入る金銭はその後Aによって管理され,経済的にも同人の干渉が行き届くようになった。

その後も,
Bは,
Aに行動や連絡の自由を制限され,
排せつのために
単独でトイレに出向くことも許されず,Aの外出時には足をくくられているなどの状態におとしめられていた。


これに対して,被告人は,行動全般に強度の縛りを受けることはなく,同居生活の生活費を得るために働きにも出ており,工場,コンビニエンスストア,たこ焼き屋の勤務をこなし,必要な金銭を引き出すことについてもAから委ねられていた。携帯電話機を1台保有し,その携帯電話機により,それらと接続する監視カメラの映像を見てBの動静を監視する役割を分担していた。遅くとも,b町家屋に移転した平成24年頃以降,Aから被告人に対する暴力は振るわれず,並行して,被告人は,上記のとおり行動の自由を保持し,重要な役どころを任されるようになっていた。被告人は,支配されるだけの関係にはなく,むしろ,Aの意向に沿うように振る舞い,取り入るようにして,まさに交際相手相応の地位を得ていた。このような被告人の地位は,Dに対する監禁等が行われる前後にも保持されていた。


上記ウのようにいえる根拠として,F及びBは,
E,
被告人がAに屈
服していたとは証言しておらず,被告人はAに対して意向を表明できる立場にあった旨証言したこと,また,被告人とAのLINEを用いたやり取りは,交際中の対等な男女間のメッセージの交換とみられるものであり,その中には,D死亡の事実を省みるかのようなAのメッセージに対し,Dに対する敵意を表す意見を被告人が述べ,Aが翻意するやり取りや,D死亡後に証拠を隠滅するに当たり,被告人からAに対し,対象物品の取りこぼしがないように助言するやり取りが含まれていることが挙げられる。


以上によれば,
被告人は,
Dとの関わり合いの中でも,
Aの補佐役と
もいえる立場にあったと認められる。
検討

上記の原判決の説示は,原審で取り調べた証拠に照らして,おおむ
ね相当と認められる。弁護人は,原判決が,各犯行の頃には,被告人は,Aに逆らうことや逃亡することが不可能であるなどの支配されるだけの関係にはなく,補佐役ともいえる地位に至っていたと認定判断しているのは不当であり,被告人とAらとの同居開始当時の状況は,本件当時まで変化なく継続していたと主張するので,以下,弁護人の主張を踏まえて更に検討する。

弁護人は,心理学を専門とするG鑑定人が,原審公判で,被告人に
は知的障害があり,その特性として,想像力の制限,複数の事象の関連付け・統合の困難,抽象的理解の困難,見通しの欠如,他者理解の制限及び状況理解の制限等があり,このような知的障害の特性と,Aによる暴力と性被害が犯行に大きく影響したとの意見を述べたのに対し,原判決は,G鑑定人の鑑定結果は,前提とすべき事実関係の欠落があるか,前提とした事実関係の評価が誤っているか,いずれかの問題を孕んでいるとして,これを排斥し,知的制約が深刻なものではないとしたが,このような判断は,最高裁判例(最高裁第2小判平成20年4月25日刑集62巻5号1559頁)の趣旨に反するものであり,原判決が評価した内容と鑑定意見が異なることを理由として鑑定意見には前提事実の認識やその評価に誤りがあると決めつけているにすぎないと主張する。

しかしながら,原判決は,弁護人が指摘する上記説示部分に先立って,被告人が,①単純とはいい難い職務内容の職場で無難に働いていたこと,②育児経験がないのに,3歳以下のEの子二人をしばらく一人で預かり,無難に監護を果たしたこと,③証拠隠滅の場面等に先の見通しの備えがあったことが現れていること,及び④狡猾で周到なAに取り入り,信頼を得るに至ったことを挙げているのであり,これらの事実について,前提とすべき事実関係の欠落があるか,前提とした事実関係の評価が誤っているか,いずれかの問題を孕んでいるとしているものと解される。そして,上記①ないし④の事実は,原審が取り調べた証拠により明らかに認めることができるものである。
他方,G鑑定人は,原審公判において,被告人が就いていた仕事は単純な仕事であり,被告人は見通しを持つことが非常に難しく,経験を基礎にパターン化した生活を繰り返すことは可能であるが,急な変化には対応が困難であるなどとしている。しかし,このようなG鑑定人の意見は,上記①ないし③を基礎付ける具体的事実を十分に説明し得ない。
弁護人は,上記①及び②に関し,接客や監護といったパターン化された生活や方法を身に付けることは被告人の知的能力によっても可能であり,これらがこなせていることを理由として被告人の知的制約は大きくないと判断した原判決は誤っていると主張する。
しかしながら,
たこ焼き屋をほぼ一人で切り盛りすることや,3歳と1歳の子供二人の世話を一人で同時にすることなどが,弁護人の主張するパターン化したものとみることはできない。
弁護人は,上記③の証拠隠滅の場面における発言は,Aの指示を踏まえて他にもその場に存在する物品があると述べたものにすぎず,先の見通しをもって行ったものではないと主張する。しかし,前記のAに対する指示やBに送った同内容のメッセージからしても,被告人がAから何らかの指示を受けていた様子はうかがわれず,被告人が自発的に述べたとみられるものである。
弁護人は,上記④に関して,被告人のAに対する対応は,被告人のAに怒られないためのパターンとしての反応であると主張する。しかし,客観的な証拠である二人の間に交わされたLINEのメッセージの内容から,被告人がAとの間で交際相手相応の地位を得るに至っていたことは,疑う余地なく認めることができる。
そうすると,G鑑定人の原審公判における意見は,上記①ないし④の事実を十分に考慮していないか,これらの事実に係る合理的な理解と異なる理解をしているとみざるを得ず,
原判決が同意見について
前提とすべき事実関係の欠落があるか,前提とした事実関係の評価が誤っているか,いずれかの問題を孕んでいるとしているのは,このような趣旨であると解される。かかる原判決の説示に誤りがあるとはいえず,また,原判決は,鑑定の前提条件に問題があって,これを採用し得ない合理的な事情が認められることを指摘したものであるから,その判断方法は前記最高裁判例の趣旨に反しない。

被告人とAの関係についてのその余の弁護人の主張を検討しても,原判決のG鑑定人の意見に対する評価に誤りはなく,Dの監禁前後も含めた被告人の置かれた状況等に関する原判決の認定にも誤りはない。また,当審で第1審判決後にAが被告人に送付した手紙を取り調べたが,その内容も上記判断を左右するものではない。

2
原判示第1の監禁致傷の事実について
原判示第1の事実について,弁護人は,共謀が成立せず,被告人には期待可能性もなかった旨主張する。
原判決は,原審における同旨の主張に対し,前記被告人の置かれた状況等に関する検討を前提として,被告人がCの監禁を回避し,あるいは取り止めるという適法な行為の妨げになる程度の知的制約や,
支配関係
の影響があったと疑う余地はなく,
十分に行動の自由と判断力を保持し
ていたと認められる被告人について,
適法な行為の期待可能性が欠けて
いたとはいえないとし,また,共謀等の要件にも欠けるところもない旨説示した。この説示は,原審で取り調べた証拠や前記被告人の置かれた状況等の検討結果に照らしておおむね相当であると認められる。
弁護人は,Cの監禁において,Cの自由を奪い一定の場所的範囲にとどめさせる状況を作出したのはAであり,被告人は,Cに食べさせるための食料を購入したり,Cの障害年金を引き下ろしたり,Cの監視も一部行ったが,
被告人の行為は監禁を保持するための補助的なものにすぎ
ず,
正犯といえるほどの重要な役割を果たしたものとはいえないと主張する。しかし,被告人は,弁護人が指摘する上記役割を果たしていたほか,
Cを監禁している押し入れのある部屋を寝室としてAやBと生活し,時にCに暴行を加えるなどもしていたのである。
そうすると,
被告人は,
監禁の実行行為も分担していたといえるのであり,
正犯意思があること
も明らかであって,
原判決が監禁致傷について被告人を共同正犯と認定
した点に誤りはない。
3
原判示第2の1の監禁の事実について
原判示第2の1の事実について,弁護人は,被告人には,共謀は成立せず,期待可能性もなかった旨主張する。
原判示第2の1の監禁について,原判決が被告人の置かれた状況等に関する検討結果に基づけば,原判示第1の事実についてと同様,期待可能性が欠けていたとはいえず,また,共謀等の要件にも欠けるところはなく,原判示第2の1の監禁罪の共同正犯が認められるとしたが,この説示に誤りはない。

4
原判示第2の2の監禁殺人の事実について
原判示第2の2の事実について,弁護人は,被告人には殺意はなく,共謀も成立せず,期待可能性もなかった旨主張する。

原判示第2の2の殺人監禁について,殺意,共謀が認められるかを見るに,原判決の説示は次のとおり要約することができる。
平成29年8月15日未明にb町家屋から連行される直前のDは,軽度の意識障害が出現し,立ち上がることもできず,食べ物や水を飲み下すことすら困難となるなど,著しく衰弱しており,医師による適切な医療を受けさせずにそのまま放置すれば,近い時期に死亡する危険性のある状態に陥っていた。このようなDをc町家屋に連行して監禁するとともに,医師による適切な医療を受けさせなかった行為は殺人の実行行為に当たり,事態を認識して連行等に及んだA,E及びFには,殺意があり,また,共謀していたと認められる。そこで,被告人にも殺意,共謀が認められるかについて見ると,
①Eは,
自身の所有するc町家屋にDを連行する計画に抵抗を覚え,
連行に先立ち,Aから全てを押し付けられている旨の愚痴をこぼしたところ,
被告人が,

A’くん(Aのこと)にケツ拭かせる気か。

と言い返し,Aに面倒を掛けないように強く促してきた旨証言しているところ,当時,b町家屋の2階寝室の押し入れ内に監禁されていたCも,Eとの会話の中で被告人が上記発言をしたのを聞いた旨証言したこと,②b町家屋内を撮影していた映像と,関係者間のLINEのやり取りを整合させると,同月14日の夜に同家屋に来ていたEの幼子が翌朝には別の所に移動していたと認められ,この移動に付き添えるのは被告人のほかに想定し難いことからすると,日付が変わる前後のb町家屋の話合いの場には幼子と共に被告人も居合わせていたとみるのが自然であること,③計画を立案したAが,連行等を担当するEの幼子の子守をする存在であり,また,従前被害者2名の監禁に深く関与していた被告人に対し,事前に計画を知らせないとは考えにくいことなどからすると,被告人は,Dの連行等の計画を事前に把握していたと認められる。したがって,被告人は,衰弱して死亡する危険性が高い状態に陥っているDをc町家屋に連行して監禁し,医療を受けさせずに死亡させる事情につき,これらを認識して殺意を備え,その旨の意思の連絡を共犯者との間で交わしていたと認められる。
そして,被告人が,共謀と評価できるほどの関与を果たしたかに
ついて見ると,被告人は,Dの連行等に際し,Eに役割を果たすように強く促す働き掛けをしたし,c町家屋で死亡するまでDを監視する予定であったとみられるEに代わって,その幼子の子守をし,c町家屋から一旦戻ったAが再び同家屋に出向いてDの死期を確かめる際に同道するなどして計画の遂行に寄与しており,これは,Aらと相互に利用し補充し合う関係を形成し,その発現として重要な関与を果たしているから,共謀が認められる。

殺意及び共謀に関する検討
以上の原判決の説示は,
原審で取り調べた証拠に照らし,
おおむね
相当であると認められるが,なお弁護人の主張を踏まえて検討する。弁護人は,被告人がEに対し,

A’くんにケツ拭かせる気か。

と言っていた旨のCの証言は,
その時期がDを連れ出す前だとも述
べるが,
結局その時期は分からないというものであり,
このような
証言となったのは,
知的障害を有するCが,
検察官の質問に迎合し
たためであって,
記憶に基づく証言ではない可能性があると主張す
る。
確かに,
前記発言を聞いた時期についてのCの証言は曖昧であ
るが,
Cは,
数年間にわたって押し入れ内に監禁されていたのであ
るから,
時間の感覚が乏しくなるなどして,
個々の出来事の時期に
ついて明確な記憶を保持することが困難になることは十分に考えられ,
むしろ,上記の出来事は,日常会話の中で頻出するような内容
ではなく,
かなり特異なものであること,
検察官の質問に迎合した
との主張には具体的な根拠がないことをも踏まえると,
時期に関す
る曖昧さが,
そのような被告人の発言が存在したことに疑いを生じ
させるものとはいえない。そして,原判決は,Cの①の証言内容について時期の不確実さがあることも前提とした上で,
Eの証言との
符合を指摘し,さらに,前記②,③の事実をも総合して,被告人がDの連行等の計画を事前に把握していたと認定したのであり,
この
認定判断の過程に不合理な点はない。
弁護人は,
原判決は,
Aが狡猾で周到であることも被告人に連行
等の計画を伝えていたと推認できる根拠としていると解されるが,狡猾で周到であることは推認の理由になり得ないと主張する。
しか
し,
被告人が事前に計画を把握していたことは,
前記①ないし③の
事実により十分に推認されるといえる上,
Aが,
Dが死亡した日の
夜に被告人に対して,
早いうちに移動させて正解であったとのメッ
セージを送ったのに対し,
被告人がこれに同意し,
これでEもAの
いうことをきくようになるし,
今までよりも楽しめるというメッセー
ジを返しているなどの事実もこれに整合的であり,
このようなAと
被告人の関係性は,
連行以前に,
Aが被告人に危険な状態に陥った
Dを発覚防止のために連行するなどの計画を伝えていたとの認定を支えるものといえる。
弁護人は,前記①の被告人の発言は,とりあえずDを連行するということを知っていたことを示すだけであり,
殺意を推認させ得る
ものではないと主張する。しかし,
被告人は,Aらと共にDと同居
し,
同人の監禁行為を分担していたものであり,
そのような被告人
は,
Dの状態等を認識していたと認められることからすれば,
被告
人の上記発言が被告人の殺意の認定を基礎付けるものとみることに誤りはない。
弁護人は,
㋐被告人がEに役割を果たすように強く働き掛けをし
ていたとしても,
それはAらの中でDをc町家屋に連行することが
決まった後のことであり,
それによりEに決心させたとか決心を一
層強めたということはないから,
重要なものではない,
㋑Eの子の
子守はDを連行する前から被告人がするようになっていたことであり,
EにDを連行させるために被告人が子の面倒を見るようになっ
たわけではないから,
重要性が高く不可欠なものとはいえない,

どとして,
被告人の行為は,
正犯といえるほどの重要な役割を果た
すものではなかった旨主張する。
しかし,㋐の点は,一旦Eが連行
役等を担うことが決まった後のことではあっても,
いまだそれを実
行する前に,
その役割を担うことに愚痴を言うEに対して行われた
ものであるから,
Eの行為に相応の影響力があったと認められ,

れを被告人の殺意,共謀の根拠として挙げた原判決に誤りはない。㋑の点は,
被告人が子守をしなければEはDを連行し監視を続ける
役割を担えなかったのであるから,
子守がこの犯行以前からしてい
たことであっても,
犯行を実行する上で重要,
不可欠であったとの
原判決の評価に誤りはない。
その余の弁護人の主張を検討しても,原判示第2の2の監禁

人の事実について,
被告人に殺意及び共謀の要件としての共犯者と
の意思の連絡,
正犯意思が認められることを疑う余地はなく,
共同
正犯を認めた原判決に事実の誤認はない。
期待可能性について
原判決は,
原判示第2の2の監禁
殺人の関係でも被告人に適法な行
為の期待可能性が欠けていたとはいえないことは,
原判示第1事実,

2の1の事実についてと同様である旨説示したところ,
この説示に誤り
はない。
5
事実誤認に関する弁護人のその余の主張を踏まえて検討しても,原判決に事実の誤認はなく,この控訴趣意は理由がない。

第3
1
量刑不当の主張について
原判決は,被告人に対して懲役20年の刑を科したが,その理由について説示した原判決の量刑の理由の項は,おおむね次のとおり整理・要約することができる。
次の事情が認められる。


最終的に行きついた殺人の罪は,生命を軽んじる態度が著しく表れ
ており,すこぶる悪質であること
理由は,
(a)危険な凶器を用いて積極的に生命を奪う行為等を内容と
していないが,絶命に向かうDの様子を把握しながら見殺しにする態様であること,
(b)その状態に至るまで犯人らがDに様々な虐待を加え,
監禁する行為が長く先行していること,
(c)並行してCを長期間監禁
ており,これらの犯罪の発覚を防止しようとする身勝手極まりない動機によるものであることである。


本件の各監禁の実態は,余りにも酷いものであったこと
理由は,
(a)Cに対する監禁は,
その受給する障害年金の横取りのた
めに,4年余りの長期にわたって,屈服させた被害者を狭い押し入れ内に閉じ込め,排せつのために出ることも許さず,寝ている間に手足を動かすことも許さず,監視カメラを交えてその動静を徹底して監視するもので,その結果,Cは,身体機能が低下して本件の致傷に至ったこと,
(b)Dに対する虐待及び監禁は,
行動の自由を奪う度合いこそ
大きくなかったものの,奴隷ないし玩具のような扱いをするもので,身体を痛めつけたり辱めを負わせたりして反応を楽しむ虐待が加害の大部分を占め,就寝時は手足を拘束して睡眠薬を服用させており,栄養も水分も満足に与えず,排せつに制限を加えておむつを使用させ,監禁の期間も約1年間に及んだもので,Dがいよいよ衰弱し,死亡の危険が生じたところで見殺しを選択するという非情な犯行であること,(c)Dの遺族及びCが,
それぞれ厳しい被害感情を吐露するのは当然と
いえる犯行であることである。


被告人は,長きにわたる各監禁や虐待の全般に関与していること
理由は次のとおりである。被告人は,Aと比較すれば,関与の度合
いは抑えられたものであることは考慮に入れる。また,被告人はAから当初その支配下に置かれ,被告人が年若い世代であったことや,その知的制約の存在についても,同様に考慮に入れる。しかし,各犯行の頃の被告人は,Aから支配されるだけの関係にはなく,補佐役とも評価できる地位に至り,十分な行動の自由と判断力を保持していたのに被害者の苦痛に長く向き合っていながら関与を続け,Aによる虐待等を是認し,同調し,自らも加わって推し進める態度を示していた。従属性を理由に非難を抑えるのには限度があり,知的制約の程度の考慮についても同様である。殺人の犯行において被告人が果たした役割は,最も密に被害者の監禁を実行したEのそれに比べて大きく劣るものではなく,同等とも評価できる。
原判決は,以上の①,②,③を説示し,一般情状として,被告人に前科がないことや被害者らにわびる言葉を述べていることも挙げた上で,結論として,各犯罪の犯情が非常に悪質である上,これらに寄与した度合いにも大きなものが認められる被告人の刑事責任は,首謀格(A)の次に重い位置付けにあるとして,被告人に対し,検察官の求刑懲役18年を超える懲役20年の刑を科した。
2
以上の原判決の量刑判断について検討する。
まず,原判決は,上記①,②において本件各犯行の犯情を検討し,すこぶる悪質であり,特に各監禁の実態が余りにも酷いものであることを指摘したところ,原判決の指摘するこれらの犯情は,本件の被告人らの行為に基づく責任の程度を判断する上で適切なものといえる。
原判決が,
そのような犯情によれば,本件は,死亡した被害者が1名の事案の中にあって,例えば,終盤の監禁中に積極的な暴行を加えるなどの更に悪質な態様も想定されるから,それらと同等の評価まではできないが,本件は十分に重い評価が与えられるべき類型の事案であるとしたことに誤りはない。
また,上記③のとおり被告人の関与の程度が大きいことについても原判決説示のとおりであり,前記被告人の置かれた状況等に関し被告人の知的制約等の事情も含めて検討した結果によれば,原判決が,被告人が果たした役割について
従属性を理由に非難を抑えるのには限度があり,知的制約の程度の考慮についても同様であるとしたことにも誤りはない。
そして,
本件は,
原判示第2の監禁
殺人と原判示第1の監禁致傷から
なる事案であるところ,このような場合は,本件を構成する各罪全体に対する統一刑である処断刑を前提として,その中における本件のような組み合わせの事案の量刑傾向を踏まえて量刑判断が行われるものではあるが,
本件の各事実はいずれも相当に重大かつ特異性のある事実であり,このような組み合わせの事案の類型に係る従前の量刑傾向については必ずしも明らかとはいえない。しかしながら,原判示第2の監禁殺人についてのみを見ても,1年近くにも及ぶ監禁と虐待を伴うものであるなどの過酷かつ非情な態様等に照らすと,原判決も説示するとおり,死亡した被害者が1名の殺人について認められる量刑の分布のうちでも十分に重い評価が与えられるといえる。これに加えて,原判示第1の監禁致傷も,4年余りの間押し入れの中に閉じ込めるなど,その常軌を逸した犯行態様等に照らすと,多く見られるような数時間ないし数日程度の監禁に基づく事案に比べて大幅に悪質性が高い事案であり,それが単体であっても,相当長期間の刑が科される事案であるといえる。以上を前提に,裁判員量刑検索システムによって把握される殺人罪の量刑傾向等を踏まえて検討すると,原判決の懲役20年という刑が,本件を構成する各罪全体に係る被告人の行為責任に基づく量刑の大枠を逸脱していないことは,検察官の求刑を超えることを踏まえても,明らかである。そして,原判決は,前記の犯情を評価するに当たっては,被告人のAとの関係や知的制約等の存在についても,原審で取り調べた証拠により認定できる範囲で考慮しており,さらに,前科がないことや被害者らにわびる言葉も述べていることなどの一般情状も考慮した上で,懲役20年という刑を量定したものであり,このような判断過程に特に不合理な点は認められないから,原判決の量刑が重すぎて不当であるとはいえない。弁護人は,被告人が果たした役割は,殺人の被害者の監禁を容易にさせる補助的な行為であり,加えた暴力も,Aらの加えた被害者の衰弱に影響を与える強度のものと比べると,機会も質も格段に劣るものであって,被告人の行為を監禁実行者であるEと同等であると評価することは誤っていると主張する。しかし,先に共同正犯の成否に関して検討したとおり,被告人は,監禁殺人の犯罪の遂行のための様々な重要な役割を果たしているのであり,これらによれば,被告人の行為をEのそれと比べて大きく劣るものではなく,同等とも評価できるとした原判決の評価が誤っているとはいえない。
弁護人は,原判決は,被告人の役割はEと同等であると評価しながら,Eより重い量刑判断をしており,行為責任の枠組みから外れていると主張する。しかしながら,原判決の量刑が行為責任に基づく量刑の大枠内にあることは前記のとおりであり,また,Eに係る判決書(原審検甲88号証)によれば,Eは,原判示第2の2の監禁(c町家屋への連行以降の部分),殺人に加えてDに対する傷害の事実とを併せたもののみで起訴されて,懲役16年の刑に処せられているものであり,被告人に対する起訴は,上記傷害の事実は含まないものの,原判示第1の監禁致傷も含んでいるのであるから,Eに対する量刑とは前提を異にするものであって,弁護人の主張を踏まえても,原判決の量刑が不当なものとはいえない。
3
以上によれば,
原判決の量刑が重すぎて不当であるとの弁護人の主張は
採用できない。
そして,
原判決後,
被告人が原判示第1の被害者に謝罪の手紙を送付し,

原判示第2の被害者の遺族に対する被害弁償のために合計約340万円を供託したことなどの当審で弁護人が立証した諸事情を考慮しても原判決の量刑が重すぎるものになったとはいえない。
4
第4

量刑不当の控訴趣意は理由がない。
適用した法令
控訴棄却について刑訴法396条,当審における未決勾留日数の算入につ
いて刑法21条
(裁判長裁判官三浦透,裁判官杉田友宏,裁判官近道暁郎)

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