判例検索β > 平成30年(ネ)第2523号
意匠権侵害差止等請求控訴事件 意匠権 民事訴訟
事件番号平成30(ネ)2523
事件名意匠権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日令和元年9月5日
法廷名大阪高等裁判所
裁判日:西暦2019-09-05
情報公開日2019-09-12 22:00:20
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令和元年9月5日判決言渡同日原本交付裁判所書記官

平成30年(ネ)第2523号意匠権侵害差止等請求控訴事件
(原審大阪地方裁判所平成28年(ワ)第12791号)
口頭弁論終結日平成31年4月25日
判決
控訴人兼被控訴人(一審原告)

シーシーエス株式会社

同訴訟代理人弁護士

上甲悌同雨宮沙
同訴訟代理人弁理士

西村竜
控訴人兼被控訴人(一審被告)

株式会社イ

同訴訟代理人弁護士

伊原友己同加古尊温
同訴訟代理人弁理士

藤河恒生主マ二耶花平ック文1
一審原告の控訴及び一審被告の控訴をいずれも棄却する。

2
控訴費用は,各自の負担とする。
事実及び理由

第1
1
控訴の趣旨
一審原告

(1)

原判決を次のとおり変更する。

(2)

一審被告は,原判決別紙物件目録1ないし6記載の製品を製造し,
販売し,販売の申出をしてはならない。
(3)

一審被告は,前項記載の各製品を廃棄せよ。

(4)

一審被告は,一審原告に対して,4525万円及びこれに対する平成2
9年1月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。(5)

訴訟費用は,第1,2審とも一審被告の負担とする。
2
一審被告

(1)

原判決中,一審被告敗訴部分を取り消す。

(2)

上記取消部分について,一審原告の請求をいずれも棄却する。

(3)

訴訟費用は,第1,2審とも一審原告の負担とする。

第2

事案の概要
(以下,略称及び略称の意味は,特に断らない限り,原判決に従う。)
1
一審原告の請求及び訴訟の経過
一審原告は,意匠に係る物品を検査用照明器具とする本件意匠(放熱部の部分意匠)の意匠権者であるところ,一審被告が製造販売していた検査用照明器具である原判決別紙物件目録1から6までに記載の製品(被告製品:イ号物件からヘ号物件)の放熱部の意匠が,本件意匠に類似することから,一審被告の行為が本件意匠の利用による意匠権侵害に当たると主張して,一審被告に対し,①意匠法37条1項に基づき,被告製品の製造,販売等の差止めを請求し,②同条2項に基づき,被告製品の廃棄を請求するとともに,③意匠権侵害の不法行為に基づき,被告製品のうちイ号物件,ロ号物件及びハ号物件(以下,これらを旧型という。)につき平成26年1月以降の,被告製品のうちニ号物件,ホ号物件及びヘ号物件(以下,これらを新型という。)につき平成28年11月以降の,各販売による損害金等合計4300万円並びにこれに対する不法行為日の後の日(訴状送達日の翌日)である平成29年1月17日以降の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,④不当利得に基づき,平成25年12月末までのイ号物件及びハ号物件の販売による利得金225万円の返還並びにこれに対する上記同日以降の年5分の割合による民法704条前段所定の利息又は遅延損害金の支払を求めている。
原審は,旧型の放熱部の意匠は,本件意匠に類似すると認められるから,一
審被告による旧型の製造販売は本件意匠権の侵害となるが,新型の放熱部の意匠は,本件意匠に類似するものとは認められない等として,一審原告の請求について,一審被告に対し,①旧型の製造販売の差止め,③旧型の製造販売による不法行為に基づく損害金271万6641円及びこれに対する平成29年1月17日以降の遅延損害金の支払,④イ号物件及びハ号物件に関する不当利得に基づく返還金17万8746円並びにうち13万8096円に対する平成30年3月6日以降の,うち4万0650円に対する同年8月2日以降の遅延損害金の支払を,それぞれ求める限度で,これを認容し,その余の請求をいずれも棄却した。
これに対し,一審原告及び一審被告が,それぞれ,その敗訴部分を不服として,控訴を提起した。
2
前提事実,争点及び争点についての当事者の主張は,次のとおり補正し,後記3のとおり,当審における当事者の補充主張を付加するほかは,原判決事実及び理由中の第2の1及び2,第3の1から4まで(原判決2頁23行目から27頁18行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)

(1)

原判決3頁22行目の末尾に

なお,この関連意匠は,本件意匠における中間フィンの枚数(2枚)を変更して,5枚としたものである(甲3,4)。

を加える。(2)

原判決4頁1行目の末尾に,改行の上,ウ一審被告は,平成30年5月10日,本件意匠について,意匠登録の無効審判を請求したが,同年11月27日,請求は成り立たないとの審決がされたことから,知的財産高等裁判所に審決取消しを求める訴訟(平成30年(行ケ)第10181号)を提起した(乙26,30)。を加える。(3)

原判決6頁2行目の被告製品の意匠を被告製品の本件意匠に相当する部分の意匠(ただし,原判決別紙「被告製品の図面の実線部分の意匠であり,以下,単に被告製品の意匠という。また,各物件の本件意匠に相当する部分の意匠をイ号意匠等という。)」に改める。
(4)

原判決8頁11行目及び12行目の被告製品を,いずれも被告製品の意匠に改める。(5)

原判決15頁23行目の『熱設計完全入門』を『エレクトロニクスのための熱設計完全入門』に改める。(6)

原判決16頁5行目の同軸照明装置を同軸・スポット照明に改

める。
(7)

原判決16頁17行目のこれをを削除する。

(8)

原判決17頁26行目,18頁6行目の具体的構成態様をいずれも
基本的構成態様に改める。
3
当審における当事者の補充主張

(1)

争点1(被告製品の意匠は本件意匠に類似するか)について

【一審原告の主張】

新型の意匠と本件意匠との差異点
LED検査用照明装置では,需要者が放熱性に着目するのは当然であるから,放熱用フィンの外観において,放熱性に大きな影響を与えるとは看取できない程度の差異は,ありふれた手法によるわずかな違いといえる。
新型のフィンについて,円弧の一部を切り取ったフラット面が設けられ,フィンの前面の縁に程度の大きいテーパーが設けられている点は,本件意匠と異なっている。しかし,これらは,放熱性に影響を与えると看取できる形態ではないし,フラット面やテーパーは,円盤状フィンに簡単な追加加工を施して形成できるから,ありふれた手法によるわずかな違いである。


新型の意匠と本件意匠との共通点
これに対し,本件意匠と新型の意匠との共通点である電源ケーブルの引出し位置が後方部材にないこと(すなわち,中間フィン及び後端フィンには支持軸体の通過部分以外に貫通孔はなく,その各面が平滑であること)は,公知意匠にはない,極めて斬新な点であり,かつ,その外観に起因する放熱性の期待感や,検査用照明器具の使用態様に関わって,需要者の大きな注意を惹く。

新型の意匠が本件意匠に類似すること
上記アの差異点は,上記イのような大きな共通点と並んで比較できるほどの重みを持つとは考えられない。さらに,上記アのフィンのフラット面は後方(右側面視)からしかわからないし,テーパーも側方(正面視)から見て,ようやくわかる程度のもので,被告製品が黒色に塗装されていることからも,これらの存在は需要者・取引者が認識し難いものとなっている。したがって,新型の意匠は本件意匠に類似する。

【一審被告の主張】

本件意匠の要部
(ア)意匠の要部認定は,登録意匠において創作性が認められる箇所を抽出する作業であるから,電子部品や電子機器に一般的に用いられる放熱部品の形状である乙8意匠も,公知意匠として参酌すべきである。また,部分意匠である本件意匠においては,電源ケーブルの引出し位置について何ら特定がなく,乙4意匠や乙7等意匠などの他の公知意匠には,軸体部分にケーブルを取り付けるものの方が多く,中間フィンの軸体以外の部分に貫通孔を設けないのが普通であった。したがって,乙12意匠のみを引き合いにして,中間フィンの面に貫通孔がないことを,公知意匠にはない,意匠的特徴とみるべきではない。
(イ)原判決が本件意匠の要部として認定した各点(原判決40頁エの(ア)~(ク),以下原審認定要部(ア)等という。)は,次のとおり,いずれも要部と認定できるのか,疑問がある。
a
後方部材であるという点(原審認定要部(ア))は,公知意匠に存在する当たり前の位置関係であり,部分意匠外の構成要素を取り込むものである。

b
軸体の存在(原審認定要部(イ))も,公知意匠に存在する当たり前の形状である。

c
放熱フィンの枚数を特定している点(原審認定要部(ウ):中間フィンが2枚,後端フィンが1枚)は,枚数を異にする関連意匠が存在すること等に照らし,不適切である。

d
後端フィンが中間フィンより分厚いこと(原審認定要部(エ))は,乙12意匠も同様であり,創作性のある意匠的特徴部分とはいえない。
e
軸体の太さ(原審認定要部(オ))は,これを要部と捉えるのであれば,本件意匠と旧型の意匠(イ号~ハ号意匠)では,軸体の直径が倍ほども違うから,非類似となるはずである。

f
フィンの径が前方部材の最大径とほぼ同径である点(原審認定要部(カ))について,部分意匠である本件意匠としては,何ら特定されない前方部材の寸法との比較で,説明することは奇異である。

g
フィンの間隔(原審認定要部(キ))も,公知意匠(乙12意匠,乙8意匠等)との関係で,創作のポイントといえるのか疑問がある。
h
中間フィンと後端フィンの貫通孔の有無(原審認定要部(ク))は,上記(ア)のとおり,公知意匠等との比較によれば,本件意匠の要部とはいえない。もっとも,平面視,正面視,右側面視において,後端
フィンの後端面に看者が着目するのは必然であるから,この点は

後端フィンには貫通孔はなく,その後端面は平滑である。

とすべきである。


本件意匠と被告製品の意匠との類否
(ア)上記アのとおり,中間フィンの貫通孔の点は大きく評価されるべきではなく,意匠の外観において大きく印象を左右するのは,後端フィンの後端面が平坦・平滑であるかという点であり,この点が美感に与える影響は大きい。
(イ)旧型の各意匠について,イ号意匠及びハ号意匠では,後端フィンの後端面に放熱フィンの中心部の軸体に1個の孔が存在し,ロ号意匠では直径の中心点と円周の中間に左右対称に貫通孔が2個存在するところ,本件意匠と比較して,重要な美感上の差異をもたらしている。さらに,各フィンの厚みについても,本件意匠は乙8意匠と同等に薄い印象を呈しているが,旧型の意匠では,厚みを感じさせ,重厚な美感を呈している。
(ウ)新型の各意匠についても,それらの後端フィンの後端面にはネジ穴が1個又は2個,穿設されていて,美感に大きな影響を与えている。なお,本件意匠と新型の各意匠とが非類似であるとの評価は,知財高裁判決(乙25)でも確定している。
(エ)したがって,本件意匠と被告製品の意匠は,いずれも非類似である。(2)

争点2(本件意匠は意匠登録無効審判により無効にされるべきものか)
について
【一審被告の主張】

無効理由1(乙8意匠に基づく新規性欠如)
本件意匠は,放熱部の形状に係る部分意匠であり,乙8意匠は,放熱機構を用いる各種製品の一般的な放熱部の形状(タワー型フィン)として汎用されている周知・公知の意匠であるから,本件意匠とは,意匠に係る物品が同一又は類似である。
そして,フィンの厚みや各フィンの間隔を適宜調整することは,乙8意匠自体が予定しているもので,円盤状の放熱フィンを,軸体で適宜の間隔で連設するという意味では,乙8意匠・形状で,本件意匠の特徴は全て満たされている。したがって,両意匠を同一又は類似の意匠と認めることに問題はなく,本件意匠には何ら新規性がない。

無効理由2(乙7等意匠に基づく新規性欠如)
フィンの厚みや間隔の広狭,軸体の径等は,汎用的な放熱技術を適用する上で,当業者が適宜調整するレベルの相違にすぎず,数枚の同径の円盤状フィンが,フィンの中心にある同軸上に等間隔で数枚連設されている点で意匠的特徴と捉えると,乙7等意匠は本件意匠と類似する。

無効理由3(乙7等意匠+乙8意匠に基づく創作非容易性欠如)
創作非容易性(意匠法3条2項)は,物品の枠に捉われることなく判断されるべきであり,乙8意匠の形状は,放熱技術として公然知られた形状であるから,これを検査用照明器具の放熱部に適用することは容易である。また,検査用照明器具のどの位置に乙8意匠を適用するかという点についても,前方部材と同軸上に後方に延伸させた箇所に適用することは,乙7等意匠により公知となっていた。さらに,本件意匠において,電源ケーブルの引出しについては,意匠的に特定・限定されていない事項であるから,乙7等意匠に示されている放熱部の部位の形状を乙8意匠の形状にする場合,後端フィンにケーブル引出し用の孔を設けることは必然ではない。


無効理由4(乙4意匠に基づく新規性欠如)
乙4意匠に係る物品は,可視光を発する照明装置であり,可視光がレーザーかLEDかは問題とされるべきではないから,本件意匠に係る物品とは,少なくとも類似である。
また,乙4意匠の軸体の径は不明であるが,その太い細いは,意匠的に類似の範疇に止まるし,フィンの枚数の差も,本件意匠には,その枚数のみを異にする関連意匠(甲4)が存在すること等に照らし,類似性を否定する差異とはなり得ない。後端フィンの孔の有無についても,上記ウのとおりである。したがって,本件意匠は乙4意匠と類似し,新規性を欠く。

無効理由5(乙4意匠+乙8意匠に基づく創作非容易性欠如)
乙4意匠から直ちに軸体の存在や放熱フィンの間隔が明らかでなくても,乙8意匠を合わせて参照すれば,当業者において,放熱部とされる箇所にタワー型フィンを取り付けること(後方部材の意匠として採用すること)は,極めて容易である。


無効理由6(乙12意匠に基づく新規性欠如)
本件意匠と乙12意匠は,後端フィンの孔の有無及び軸体の太さを除いて酷似しており,後端フィンの孔については,上記ウのとおりである。軸体は,見る角度によっては正確に把握できない箇所で,看者が大きく注目する箇所ではないから,その太さの違いは類似の範囲内である。

無効理由7(乙12意匠+乙8意匠に基づく創作非容易性欠如)
乙8意匠は,一般的な放熱フィンの形状を有し,電子部品や電子機器にも適用される。それを乙12の放熱機能が期待される放熱部(後方部材)に適用することは,当業者であれば,容易に思いつく。


無効理由8(乙12意匠+乙7等意匠に基づく創作非容易性欠如)意匠としてありふれたものか否かという観点から,創作非容易性
を吟味することは,意匠法3条2項の要件にはない独自の基準を定立するものである。かかる観点から後端フィンの孔の有無を重要視することは,相当でない。

【一審原告の主張】
本件意匠は,単に放熱フィンを取り付けただけのものではない。すなわち,従来製品では,本体ケーシング後端面から電源ケーブルが引き出されていたのを,電源ケーブルをケーシング側周面から引き出すという構造を初めて採用し,ケーシング後端面に部品やケーブル収容機能のない放熱のみに特化したフィン構造体を設けたものであり,極めて斬新な形態であった。この画期的な形態は,中間フィン及び後端フィンには支持軸体の通過部分以外に貫通孔はなくという点に表されており,言い換えれば,後端フィンが最後方の部材であるということになる。
部分意匠であっても,全体に対する位置,大きさ,範囲にも,その特徴が認められるべきであり,上記のとおり,本件意匠の最後方にフィン構造体を配置するという点は,従前の公知意匠からは考えられないデザインであり,需要者が着目する点である。したがって,本件意匠の無効理由に関する一審被告の各主張は,その前提に誤りがあり,理由がない。
(3)

争点3(一審被告が本件意匠権を侵害するおそれがあるか)について
【一審原告の主張】
一審被告が,旧型から新型に容易に設計変更したように,再度,旧型に変更することは極めて容易であるから,差止めは認められるべきである。【一審被告の主張】
旧型は,平成28年10月7日に生産を終了しており,その生産(製造及び販売)再開の予定も全くない。したがって,差止めの必要はない。(4)

争点4(一審原告の損害額,一審原告の損失・一審被告の利得の額)に
ついて
【一審原告の主張】
小さな部材であっても,その形態が購入動機となることはあるから,面積比や原価費の多寡は,直ちに寄与度の大小には結びつかない。検査用照明器具の先端部分は,カメラやレンズに接続する部分で,その形状は同一となるため,同部分が購買動機となることはない。このような先端部をカメラ等に接続するという使用態様からすると,需要者の目に入る部分は,後方部材であり,その形状が購入動機につながる。そして,本件意匠の要部のうち最も重要な点は,中間フィン及び後端フィンには,支持軸体の通過部分以外に貫通孔はなく(原審認定要部(ク))という点であり,この点は従前広く知られた構成態様ではなかったものである。
実際に,本件意匠の実施品であるHMV-24-3Wシリーズは,発売開始後,順調に売上げを伸ばし,2004年12月以降は,その前身モデルであるHLV-27よりも販売台数が多くなっている。これは,単に製品自体の性能や機能だけでなく,優れたデザイン性(デザインから把握される性能の高さ)によっても,もたらされたものである。
したがって,本件意匠については,50%の寄与度が認められるべきである。
【一審被告の主張】
本件意匠は,前述のとおり,検査用照明器具の後方部材に,単に,一般的に見受けられるタワー型放熱フィン(乙8)を設けただけのものであり,放熱機能上,ありふれた意匠・形状で,創作性があるとはいえない。一審原告の本件請求は,機能面及び美感面のいずれにおいても保護されるような創作性を有しない意匠権による侵害責任を問うものである。
さらに,検査用照明器具は,そもそも検査装置に取り付ける部品的装置で,技術に詳しい製造の現場従事者が購入するものであり,外観デザインではなく,機能性能,価格,事前の装置提案や販売後のアフターサービスを含んだ顧客サービスの内容等で選ばれる。一審原告の主張は,需要者層を取り違えている。
第3

当裁判所の判断
以下,原判決の判断順序に従って,争点2から判断する。

1
争点2(本件意匠は意匠登録無効審判により無効にされるべきものか)について

(1)

本件意匠及び一審被告引用の各意匠

本件意匠
(ア)意匠に係る物品等
本件意匠の意匠に係る物品は,工場等において使用される,LEDや光学素子を内蔵し,先端の光導出ポートから製品に向けて光を照射して製品の傷やマーク等の検出する検査用照明器具であり,本件意匠は,その後方に配置された放熱部の部分意匠として,原判決別紙本件意匠の図面の実線部分(以下本件実線部分という。)について,平成16年4月12日に意匠登録出願をし,同年10月22日に意匠登録を受けたものである(前記第2の2で引用した原判決第2の1の前提事実(以下,単に前提事実という。)(2))。
また,本件意匠に係る物品の需要者は,後記2(3)イのとおり,製造工場等における機器等の購入担当者,検査業務の従事者等である。(イ)本件意匠の形態
原判決別紙裁判所認定の構成態様の本件意匠のAからMま
でに記載のとおり(参照の便宜のため,以下に再掲する。),認定すべきであり,その理由は,原判決事実及び理由第3の1(2)(原判決28頁3行目から30頁11行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(基本的構成態様)
A
前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられた後方部材(放熱部)である。

B
後方部材の中心には,検査用照明器具の前方部材の後端面より後方に延伸する支持軸体が設けられている。

C
支持軸体の中間及び後端には,薄い円柱状の,支持軸体よりも径の大きいフィンが複数枚,間隔を空けて設けられている。

D
複数枚のフィンのうち,後端フィンは,中間フィンよりも厚くなっている。
(具体的構成態様)
E
中間フィン及び後端フィンは,中心軸を合致させ,かつ,互いに等しい間隔で設置されており,その間隔寸法は,フィンの直径の約12.5%である(この間隔寸法をフィンの横幅との比でみると,約3:1となる。)。

F
後端フィン及び中間フィンの外径は,前方部材の最大径と略等しい。
G
中間フィンの枚数は2枚である。

H
中間フィンの厚みは,フィンの直径の約4.2%であり,後端フィンは,中間フィンに比べて約2倍の厚みである。

I
後端フィンの後面(後端面)の縁の全てに面取り(厚みの約10.0%)が施してある。

J
支持軸体は円柱状で,同一径であり,その直径はフィンの約20.8%である。

K
中間フィン及び後端フィンの前面の縁は,正面視した場合,直角である(テーパーが設けられていない)。

L
中間フィン及び後端フィンの外周面は,円柱側面である。

M
後端フィン及び中間フィンの各面は,支持軸体の通過部分以外には貫通孔がなく,平滑である。


乙8意匠
(ア)意匠に係る物品及び公知性
乙8意匠は,平成9年7月18日発行のエレクトロニクスのための熱設計完全入門の171頁に代表的ヒートシンクの形状として図示されているタワー型の意匠であり,意匠に係る物品は,電
子機器用の部品であり,本体である電子機器を放熱により冷却する用途,機能を有している。乙8意匠は,本件意匠の出願日前に公知であった。
(イ)乙8意匠の形態
原判決30頁18行目下の図のとおりであり,水平に,間隔を空けて配置した(重ねた)4枚のフィンを,立設した軸体で,タワー様に連設するというものである。本件意匠との対比を容易にするため,右に90°回転させると,その形態は,次のとおり認められる。
(基本的構成態様)
a
機器に設けられる放熱部であり,前端面に発光部のある検査用照
明器具に設けられた後方部材(放熱部)ではない。

b
その中心に支持軸体が設けられている。

c
支持軸体の中間及び後端に,薄い円柱状の,支持軸体よりも径の
大きい,フィンが複数枚,間隔を空けて設けられている。

d
複数枚のフィンにおいて中間フィンと後端フィンの区別はなく,
各フィンの間の厚みの違いも認められない。

(具体的構成態様)
e
各フィンは,中心軸を合致させ,かつ,互いに等間隔で設置され
ている。

f
各フィンの径は等しい。

g
フィンの枚数は4枚である。

h
各フィンの厚みと,フィンの径の比率は不明である。

i
フィンの後縁には,面取りは施されていない。

j
支持軸体は,円柱状,同一径であり,直径はフィンの直径の約3
分の1である。

k
各フィンの前面の縁にはテーパーは設けられていない。

l
正面視で,各フィンの外周面の形状は不明である。

m
各フィンの各面は,支持軸体の通過部分以外に貫通孔はなく,平
滑である。

乙7等意匠
(ア)意匠に係る物品,公知性
乙7等意匠の意匠に係る物品は,一審被告の製品である同軸・スポット照明IHV-27Rである。同製品は,平成14年6月に発売された検査用照明器具であり,乙7等意匠は,本件意匠の登録出願前に公知であった(乙9~11)。
(イ)乙7等意匠の形態
乙7等意匠は,原判決32頁13行目下の図のとおりであり,このうち,本件実線部分と対比される部分は,同軸・スポット照明の本体部の後方(正面視で右側)のフィン及びそれを連設する軸体が一体となった部分であり,放熱に係る用途,機能を有する。その形態は次のとおりである(乙27)。
(基本的構成態様)
a
前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられた後方部材(放熱部)であり,その後方に電源ケーブルを設けている。

b
中心に,前方部材の後端面より後方に延伸する支持軸体が設けら
れている。

c
支持軸体の中間及び後端に,薄い円柱状の,支持軸体よりも径の
大きい,フィンが複数枚,間隔を空けて設けられている。

d
複数枚のフィンにおいて,後端フィンは,中間フィンよりも厚く
なっている。

(具体的構成態様)
e
各フィンは,中心軸を合致させ,かつ,互いに等間隔で設置され
ており,その間隔と中間フィンの横幅(厚さ)の比は,約10:17である。
f
各フィンの径は,前方部材の最大径と略等しい。

g
フィンの枚数は4枚であり,そのうち中間フィンの枚数は3枚で
ある。

h
各フィンの厚みは,中間フィンでは直径の18分の1で,後端
フィンは,中間フィンに比べて約1.6倍の厚みである。

i
後端フィンの後端面の縁の全てに面取りが施されている。

j
支持軸体は,円柱状,同一径であり,直径はフィンの直径の約1
3分の10である。

k
正面視した場合,各フィンの前面の縁は直角である(テーパーがない。)。

l
各フィンの外周面は,円柱側面である。

m
各フィンのうち,後端フィンは,後端面にケーブルとの接続部が
設けられているため,平滑ではない。


乙4意匠
(ア)意匠に係る物品,公知性
乙4意匠に係る物品は,ネオアーク株式会社の製品バイオレットレーザーダイオードであり,同製品は,前端部から光線(レーザー光)を照射する照明器であり,平成13年の上記会社のカタログに掲載されていた。乙4意匠は,本件意匠の登録出願前に公知であった(乙4〔2,7,8枚目〕)。
(イ)乙4意匠の形態
乙4意匠は,原判決34頁2行目下の図のとおりであり,そのうち,本件実線部分と対比される部分は,前端面に発光部のある照明器の後方(正面視で右側)の放熱の用途,機能を有する部分であり,その形態は次のとおりである。
(基本的構成態様)
a
前端面に発光部のある照明器に設けられた後方部材(放熱部)であり,その後方に電源ケーブルを設けている。

b
中心に,前方部材の後端面より後方に延伸する支持軸体が設けら
れていると推測される。

c
支持軸体の中間及び後端に,薄い円柱状の,支持軸体よりも径の
大きい,フィンが複数枚,間隔を空けて設けられている。

d
後端フィンと中間フィンでは,厚さに違いはないと推測される。

(具体的構成態様)
e
各フィンは,互いに等間隔で設置されている。間隔寸法と中間
フィンの横幅(厚さ)の比は,不明である。

f
各フィンの径は前方部材の最大径と略等しい。

g
フィンの枚数は6枚程度である。

h
各フィンの厚みと直径との比率は不明である。

i
後端フィンの後端面の縁の面取りの有無は不明である。

j
支持軸体の形状及び太さ(フィンの直径との比率等)は不明であ
る。

k
正面視した場合,各フィンの前面の縁は直角である(テーパーはない)と推測される。

l
各フィンの外周面は,円柱側面である。

m
各フィンのうち,後端フィンは,後端面にケーブルとの接続部が
設けられており,平滑ではない。


乙12意匠
(ア)意匠に係る物品,公知性
乙12意匠の意匠に係る物品は,一審原告の製品である検査用照明器具である。乙12意匠が記載された意匠広報は平成15年6月16日に発行されており,乙12意匠は,本件意匠の登録出願前に公知であった。(イ)乙12意匠の形態
乙12意匠の形態は,原判決別紙乙12意匠の図面記載のとおり
であり,そのうち,本件実線部分と対比される部分は,本体の後方(正面視で右側)の2枚のフィン及びそれを連設する軸体が一体となった部分で,放熱に係る用途,機能を有する。その形態は次のとおりである。(基本的構成態様)
a
前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられた後方部材(放熱部)であり,後方から電源ケーブルを挿入するための貫通孔が各フィンに設けられている。

b
中心に,前方部材の後端面より後方に延伸する支持軸体が設けら
れている。

c
支持軸体の中間及び後端に,薄い円柱状の,支持軸体よりも径の
大きい,フィンが複数枚,間隔を空けて設けられている。

d
複数枚のフィンにおいて,後端フィンは,中間フィンよりも厚く
なっている。

(具体的構成態様)
e
各フィンは,中心軸を合致させ,かつ,互いに等間隔で設置され
ており,その間隔と中間フィンの横幅(厚さ)の比は,約9:4である。

f
各フィンの径は,前方部材の最大径と略等しい。

g
フィンの枚数は2枚であり,そのうち中間フィンの枚数は1枚で
ある。

h
各フィンの厚みは,中間フィンでは直径の23分の1で,後端
フィンは,中間フィンに比べて約2.3倍の厚みである。

i
後端フィンの後面(後端面)の縁の全てに面取りが施されている。
j
支持軸体は,円柱状,同一径であり,直径はフィンの直径の約2
4分の10である。
k
正面視した場合,各フィンの前面の縁は直角である(テーパーがない)。

l
各フィンの外周面は,円柱側面である。

m
各フィンには,支持軸体の通過部分があるほか,ケーブルを挿入
するための円形の貫通孔が右側面視上端寄りに設けられている。

(2)

無効理由1(乙8意匠に基づく新規性欠如)について

意匠に係る物品の同一性又は類似性
前記(1)イ(ア)のとおり,乙8意匠に係る物品は,電子機器の放熱用部品
であるから,本件意匠とは意匠に係る物品が同一又は類似であるとは認められない。したがって,この点に関する一審被告の主張は理由がない。もっとも,本件実線部分が検査用照明器具の放熱部であることから,更に本件意匠と乙8意匠とを対比することとする。

本件意匠と乙8意匠との対比
前記(1)ア(イ),イ(イ)によれば,本件意匠と乙8意匠とは,①機器に
設けられる放熱部であるという限度で共通するほか(A,a),②その中心に円柱状,同一径(J,j)の支持軸体が設けられている点(B,b),③フィンの形状・大きさが,薄い円柱状で,支持軸体よりも径が大きく(C,c),互いに等しい点(F,f),④複数枚のフィンが,支持軸体の中間及び後端に(C,c),中心軸を合致させ,かつ,互いに等間隔で(E,e),設置されている点,⑤フィンの各面が,支持軸体の通過部分以外は平滑である点(M,m)が共通している。
他方で,⑥本件意匠が前端面に発光部のある検査用照明器具の後方部材(放熱部)であるのに対し,乙8意匠は電子機器に設けられる汎用的ヒートシンクであるという点(A,a),⑦本件意匠では,後端フィンと中間フィンが区別され,後端フィンが中間フィンよりも厚いのに対し,乙8意匠では,そのような区別はなく,フィン相互の厚みの違いも認められない点(D,d)が相違するほか,⑧支持軸体の直径が,本件意匠ではフィンの直径の約5分の1であるのに対し,乙8意匠では約3分の1(j)でやや太いという点(J,j)も相違する。

類否判断
前記(1)ア(イ),イ(イ)のとおり,乙8意匠は,水平に並べた各フィンを,
立設した支持軸体でタワー様に連設するものであるのに対し,本件意匠が,各フィンが垂直になるように並べて連設するもので(原判決別紙本件意匠の図面の【正面図】参照),縦横の関係が異なるが,乙8意匠を右に90°回転させて対比してみると,上記イ⑥及び⑦の本件意匠との差異点の印象は強く,共通点を凌駕するといえるから,視覚を通じて起こさせる美感が異なると認められる。
そうすると,本件意匠が,乙8意匠と類似するとは認められず,乙8意匠を理由として本件意匠の新規性欠如をいうことはできない。
(3)

無効理由2(乙7等意匠に基づく新規性欠如)について

意匠に係る物品の同一性
前記(1)ウ(ア)のとおり,乙7等意匠に係る物品は,検査用照明器具と認められるから,本件意匠に係る物品と同一である。


本件意匠と乙7等意匠の対比
前記(1)ア(イ),ウ(イ)によれば,本件意匠と乙7等意匠とは,①前端
面に発光部のある検査用照明器具に設けられた後方部材(放熱部)であるという点(A,a),②その中心に,円柱状,同一径(J,j)の支持軸体が設けられている点(B,b),③フィンの形状・大きさが,薄い円柱状で,支持軸体よりも径の大きく(C,c),前方部材の最大径と略等しい大きさ(F,f)で,外周面が円柱側面(L,l)であり,後端フィンは中間フィンよりも厚くなっている点(D,d),④複数枚のフィンが,支持軸体の中間及び後端に(C,c),中心軸を合致させ,かつ,互いに等間隔で(E,e),設置されている点,⑤フィンの縁が,後端フィンの後端面の縁には面取りが施され(I,i),前面の縁は直角である(テーパーがない)という点(K,k)が共通している。他方で,⑥本件意匠では,後端フィン及び中間フィンの各面は,支持軸体の通過部分以外には貫通孔がなく,平滑であるのに対し,乙7等意匠では,後端フィンの後端面には電源ケーブルの接続部があって,平滑ではない点(M,m)が相違するほか,⑦本件意匠では,フィン相互の間隔が,中間フィンの横幅(厚さ)の約3倍であるのに対し,乙7等意匠では,約17分の10で間隔が狭くなっている点(E,e),⑧支持軸体の直径が,本件意匠ではフィンの直径の約5分の1であるのに対し,乙7等意匠では約13分の10で太い点(J,j)が相違する。

類否判断
上記イの⑥~⑧の差異点は,その違いの程度が大きく,需要者が容易に気づくものと認められるから,共通点を凌駕するというべきであり,本件意匠と乙7等意匠は,視覚を通じて起こさせる美感が異なると認められる。
そうすると,本件意匠は,乙7等意匠に類似するとは認められず,乙7等意匠を理由として本件意匠の新規性欠如をいうことはできない。
(4)

無効理由4(乙4意匠に基づく新規性欠如)について

意匠に係る物品
乙4意匠に係る物品は,前端面から光線を照射する照明器であるから,本件意匠に係る物品と類似すると認められる。


本件意匠と乙4意匠の対比
前記(1)ア(イ),エ(イ)によれば,本件意匠と乙4意匠とは,①前端面
に発光部のある照明器に設けられた後方部材(放熱部)であるという限度で共通するほか(A,a),②その中心に,支持軸体が設けられている点(B,b),③フィンの形状・大きさが,薄い円柱状で,支持軸体よりも径の大きい(C,c),前方部材の最大径と略等しい大きさ(F,f)で,外周面が円柱側面である点(L,l),④複数枚のフィンが,支持軸体の中間及び後端に(C,c),互いに等間隔で(E,e),設置されている点,⑤フィンの縁は,前面の縁が直角である(テーパーがない)という点(K,k)は共通している。
他方で,⑥本件意匠では,後端フィン及び中間フィンの各面は,支持軸体の通過部分以外には貫通孔がなく,平滑であるのに対し,乙4意匠では,後端フィンの後端面に,電源ケーブルの接続部があって,平滑ではない点(M,m)が相違するほか,⑦本件意匠では,フィンの厚さが,後端フィンが中間フィンよりも厚いのに対し,乙4意匠では厚さに差がない点(D,d)が相違する。

類否判断
上記イの⑥,⑦の差異点は,その違いの程度が大きく,需要者が容易に気づくものと認められるから,共通点を凌駕するというべきであり,本件意匠と乙4意匠は,視覚を通じて起こさせる美感が異なるものと認められる。
そうすると,本件意匠は,乙4意匠に類似するとは認められず,乙4意匠を理由として本件意匠の新規性欠如をいうことはできない。

(5)

無効理由6(乙12意匠に基づく新規性欠如)について

本件意匠と乙12意匠の対比
前記(1)ア(イ),オ(イ)によれば,本件意匠と乙12意匠とは,①前端
面に発光部のある検査用照明器具に設けられた後方部材(放熱部)であるという点(A,a),②その中心に,円柱状,同一径(J,j)の支持軸体が設けられている点(B,b),③フィンの形状・大きさが,薄い円柱状で,支持軸体よりも径の大きい(C,c),前方部材の最大径と略等しい大きさ(F,f)で,外周面が円柱側面(L,l)であり,後端フィンが中間フィンよりも厚くなっている点,④複数枚のフィンが,支持軸体の中間及び後端に(C,c),中心軸を合致させ,かつ,互いに等間隔で(E,e),設置されている点,⑤フィンの縁は,後端フィンの後端面の縁に面取りが施され(I,i),各フィンの前面の縁は直角である(テーパーがない)という点(K,k)が共通している。他方で,⑥本件意匠では,フィンの各面は,支持軸体の通過部分以外には貫通孔がなく,平滑であるのに対し,乙12意匠では,フィンの各面には,電源ケーブルを挿入するための貫通孔があって,平滑ではない点(M,m)が相違するほか,⑦支持軸体の直径が,本件意匠ではフィンの直径の約5分の1であるのに対し,乙12意匠では約12分の5で,太いという点(J,j)が相違する。

類否判断
上記アの⑥,⑦の差異点は,その違いの程度が大きく,需要者が容易に気づくものと認められるから,共通点を凌駕するというべきであり,本件意匠と乙12意匠は,視覚を通じて起こさせる美感が異なるものと認められる。
そうすると,本件意匠は,乙12意匠に類似するとは認められず,乙12意匠を理由として本件意匠の新規性欠如をいうことはできない。
(6)

無効理由3(乙7等意匠及び乙8意匠に基づく創作非容易性欠如),無
効理由5(乙4意匠及び乙8意匠に基づく創作非容易性欠如),無効理由7(乙8意匠及び乙12意匠に基づく創作非容易性欠如)について

一審被告は,乙8意匠と,乙7等意匠との組み合わせ(無効理由3),乙4意匠との組み合わせ(無効理由5),乙12意匠との組み合わせ(無効理由7)に各基づいて,本件意匠を容易に創作することができると主張する。

しかし,タワー型ヒートシンクである乙8意匠を,検査用照明器具に係る乙7等意匠や乙12意匠に組み合わせること,又は照明器に係る乙4意匠に組み合わせることの,各動機付けを認めるに足りる証拠はない。加えて,上記各意匠と本件意匠とを対比すると,乙8意匠との間には,前記(2)イのとおり差異が認められるほか,乙7等意匠との間にも前記前記(3)イのとおり,乙4意匠との間にも前記(4)イのとおり(なお,乙4意匠には,そもそも具体的な形態が不明な点が多い。),乙12意匠との間にも前記(5)アのとおり,それぞれ,差異が認められる。中でも,貫通孔の存否は,顕著な差異点である。仮に,乙8意匠を乙7等意匠,乙4意匠又は乙12意匠と,それぞれ組み合わせたとしても,直ちに,本件意匠のように,電源ケーブルを放熱部であるフィン構造体の後端から引き出すようにはせず,そのための貫通孔をフィン各面には設けないという形態に至るものとは認められない。


そうすると,当業者において,一審被告主張の各意匠の組み合わせに基づいて,本件意匠を創作することが容易であるとは認めるに足りない。
(7)

無効理由8(乙12意匠と乙7等意匠に基づく創作非容易性欠如)ア
一審被告は,乙12意匠と乙7等意匠を組み合わせれば,本件意匠を容易に創作することができたと主張する。


しかし,前記(3)イ,(5)アのとおり,乙7等意匠,乙12意匠と本件意匠は,ケーブルを挿入するための貫通孔の有無,軸体の太さにおいて明らかに異なっているし,これらの意匠を組み合わせても,本件意匠のように電源ケーブルをフィンの後端から引き出すこととせず,したがって,そのための貫通孔を後端フィンに設けないという形態に至るとは認められない。


したがって,当業者において,乙12意匠と乙7等意匠の組み合わせに基づき本件意匠を創作することが容易であるとは認めるに足りない。(8)

争点2についてのまとめ
以上によれば,当審における補充主張を含めて,一審被告が主張する各無
効理由は,いずれも採用できず,本件意匠が意匠登録無効審判により無効とされるべきものとは認められない。
2
争点1(被告製品の意匠は本件意匠に類似するか)について
当裁判所も,被告製品のうち,旧型の意匠(イ号意匠,ロ号意匠及びハ号意
匠)は,本件意匠と類似するが,新型の意匠(ニ号意匠,ホ号意匠及びへ号意匠)は類似しないものと判断する。その理由は,次のとおりである。(1)

意匠に係る物品
本件意匠に係る物品と被告製品とが同一であることは,当事者間に争いが
ない。
(2)

本件意匠の構成態様,被告製品の意匠の構成態様
原判決別紙裁判所認定の構成態様に記載のとおりである。

(3)

本件意匠の要部

類否判断の枠組
登録意匠と対比すべき意匠とが類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行う(意匠法24条2項)ものとされており,意匠を全体として観察することを要するが,この場合,意匠に係る物品の性質,用途及び使用態様,並びに公知意匠にはない新規な創作部分の存否等を参酌して,取引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把握し,登録意匠と対比すべき意匠とが,意匠の要部において構成態様を共通にしているか否かを重視して,観察を行うべきである。


本件意匠に係る物品の需要者及び物品の性質,用途等
本件意匠に係る物品である検査用照明器具は,工場等において製品の傷やマーク等の検出(検査)に用いられるものであるから,意匠の類否判断における取引者・需要者は,製造工場等における機器等の購入担当者,検査業務の従事者等である。この検査用照明器具は,LEDや光学素子を内蔵して,前端部から光を照射するものであるところ,LEDを使用すると熱を発生し,器具内の温度が上昇して,発光出力が低下することから,放熱の必要性が指摘されている(甲21,22,24)。本件意匠は,そのような検査用照明器具の放熱部の意匠であるから,上記需要者は,放熱部材の表面積の大小や部材相互の空隙の大小から放熱性能の高低を推し量るという観点から,放熱部材であるフィン構造体の,発光部との位置関係,フィンの形状,数,大きさ(支持軸体の径との関係),配置(フィン相互の間隔)に注目するものと考えられる。ウ
公知意匠等の参酌
ところで,前記1(1)ウ,オに認定したとおり,本件意匠の登録出願前までに,検査用照明器具の物品分野における放熱部の意匠として,乙7等意匠,乙12意匠が開示されており,これらは,前記1(3),(5)で検討したとおり,本件意匠の基本的構成態様(A~D)と同じ構成態様を備えているほか,本件意匠の具体的構成態様のうちE,I及びJの各一部並びにF,K及びLと同じ構成態様を備えている。そうすると,これらの構成態様に係る形態は,本件意匠の意匠登録出願前に公知であったと認められる。
また,一審原告は,本件意匠の構成態様とは,中間フィンの枚数のみを異にする意匠を,本件意匠の関連意匠として,意匠登録している(前提事実(2)イ)。
そうすると,上記イの各点のうち,フィンの枚数,厚み,縁の面取り,フィン相互の間隔,フィンの大きさと支持軸体の径との関係(支持軸体の太さ)については,それらにわずかな違いがあっても,需要者がその差異に注目するとは考えられないが,これらが大きく異なれば,需要者が受ける視覚的な印象は異なるものと考えられる。
他方で,本件意匠の後端フィン及び中間フィンの各面には,支持軸体の通過部分以外には貫通孔がなく,平滑であるという形態(本件意匠の具体的構成態様M)は,乙7等意匠や乙12意匠にはないものであり(なお,類似の物品である照明器に係る意匠である乙4意匠にもそのような形態がないことは,前記1(1)エ,(4)のとおりであるし,甲14で開示されている意匠でも,フィン様の突状が施されているケース本体の上側に貫通孔が設けられている。),また,前記1(6)及び(7)で検討したとおり,公知意匠の組み合わせに基づいて容易に創作することができるともいえないから,公知意匠にはない,新規な創作部分であると認められる。そして,電源ケーブルの引き出し位置は,検査用照明器具としての使用態様に関わるから,この形態(具体的構成態様M)は,需要者の注意を惹くものと認められる。
これに対し,一審被告は,公知意匠として乙8意匠も参酌すべきであり,同意匠では,後端フィンの後端面は平滑であるから,本件意匠の具体的構成態様Mは,新規な創作部分とはいえない等と主張する。
しかし,前記1(1)イのとおり,そもそも,乙8意匠は,検査用照明器具の後方部材に係る意匠ではないから,これを,本件意匠の要部認定において,公知意匠として参酌すべきものとは解されない。一審被告の主張は採用できない。

本件意匠の要部
以上を総合すれば,本件意匠の要部は,原判決別紙裁判所認定の構成態様のうち,次のとおり認められる。(フィン構造体と発光部との位置関係について)
(ア)前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられた後方部材である。(イ)後方部材の中心には,検査用照明器具の前方部材の後端面より後方に延伸する支持軸体が設けられている。
(フィンの形状,数,大きさ〔支持軸体との関係〕,配置について)(ウ)支持軸体には,薄い円柱状の,中間フィンが2枚と,後端フィン1枚が取り付けられている。
(エ)後端フィンの厚みは,中間フィンの厚みの約2倍である。
(オ)支持軸体の径は,フィンの径の5分の1程度である。
(カ)中間フィン及び後端フィンの径は,前方部材の最大径とほぼ同じである。
(キ)フィン相互の間隔は,フィンの径の8分の1程度の等間隔である。(フィンの形状のうち貫通孔の有無について)
(ク)中間フィン及び後端フィンには,支持軸体の通過部分以外に貫通孔はなく,その各面は平滑である。
(4)

本件意匠とイ号意匠との類否

対比
本件意匠の要部(前記(3)エ)と,これに対応するイ号意匠の構成態様を対比すると,①中間フィンの枚数は,本件意匠が2枚である(要部(ウ))のに対し,イ号意匠では3枚であり(原判決別紙裁判所認定の構成態様イ号g1),②後端フィンは,本件意匠では中間フィンの約2倍である(要部(エ))のに対し,イ号意匠では約1.3倍であり(イ号h1),③支持軸体の径は,本件意匠がフィンの径の5分の1程度である(要部(オ))のに対し,イ号意匠では3分の1強であり(イ号j1),④フィン相互の間隔が,本件意匠ではフィンの直径の8分の1程度である(要部(キ))のに対し,イ号意匠では約10分の1であり(イ号e1),⑤フィンの各面の形状について,本件意匠では,貫通孔がなく平滑である(要部(ク))のに対し,イ号意匠では,後端フィンの後面中心にねじ穴が1箇所ある(イ号m1)という差異があるが,その余の点(要部(ア),(イ),(カ))は共通すると認められる。

類否判断
上記アの差異点に関して,①の中間フィンの枚数,②のフィンの厚み,③の支持軸体の太さ,④のフィン相互の間隔については,需要者がそれらのわずかな違いに注目するとは考えられないが,これらが大きく相違すれば,異なる印象を生じさせる場合があることは前述のとおりである。ところで,需要者が,検査用照明器具の放熱部としてのフィン構造体の特徴を把握しようとする際には,正面視で,フィンの配置状況等を観察するほか,斜め前方から(左側面視)又は斜め後方(右側面視)から見て,フィンの形状や発光部とフィン構造体との位置関係等も観察するものと考えられる。
このような観察によると,②のフィンの厚みについて,イ号意匠の後端フィンには面取が施されている分,その厚みが中間フィンよりも厚いという印象を与えるということができる。その一方で,本件意匠と比較した厚みの程度の差は一見して明らかとはいえないし,①のフィンの枚数,③の支持軸体の太さ,④のフィン相互の間隔の粗密の違いも,それほど目立つとはいえず,視覚的に異なる印象をもたらすとまでは認められない。
また,⑤のフィンの各面の形状について,イ号意匠の後端フィンの後面のねじ穴は,支持軸体の中心に穿設されていて,中間フィンに貫通孔はなく(原判決別紙被告製品の後端フィンの後面に設けられたねじ穴に関する意匠(構成態様)参照),この穴の存在は正面視や左側面視では認識できず,右側面視にて初めて認識されるところ,ねじ穴にすぎないことに照らせば,需要者において,その存在に特に注意を向けるとは考えにくく,これを美感の違いとして捉えることはないものと認められる。
そうすると,イ号意匠は,これを全体として観察すると,本件意匠の要部とは複数の差異点が存するものの,それらはいずれも大きな差異とは認められず,その他の点において共通しているということができるから,本件意匠と共通の美感を起こさせるもので,本件意匠に類似すると認められる。
(5)

本件意匠とロ号意匠との類否

対比
本件意匠の要部(前記(3)エ)と,これに対応するロ号意匠の形態を対比すると,①中間フィンの枚数は,本件意匠が2枚程度である(要部(ウ))のに対し,ロ号意匠では3枚(原判決別紙裁判所認定の構成態様ロ号g2)であり,②後端フィンの厚みは,本件意匠では中間フィンの約2倍である(要部(エ))のに対し,ロ号意匠では約1.3倍であり(ロ号h2),③支持軸体の径は,本件意匠がフィンの径の5分の1程度である(要部(オ))のに対し,ロ号意匠では3分の1強であり(ロ号j2),④フィン相互の間隔が,本件意匠ではフィンの直径の8分の1程度である(要部(キ))のに対し,ロ号意匠では約6分の1であり(ロ号e2),⑤フィンの各面の形状について,本件意匠では,貫通孔がなく平滑である(要部(ク))のに対し,ロ号意匠では,後端フィンを貫通するねじ穴が2箇所ある(ロ号m2)という差異があるが,その余の点(要部(ア),(イ),(カ))は共通すると認められる。


類否判断
上記(4)イと同様の観察によれば,上記アの差異点のうち,②のフィンの厚みについては,後端フィンが中間フィンよりも厚いという印象を与えるということができる。その一方で,本件意匠と比較した厚みの程度の差は一見して明らかとはいえないし,①のフィンの枚数,③の軸体の太さ,④のフィン相互の間隔の粗密の違いも,それほど目立つとはいえず,視覚的に異なる印象をもたらすとまでは認められない。また,差異点⑤のフィンの各面の形状について,ロ号意匠では後端フィンの左右対称位置に2個のねじ穴が後端フィンを貫通して穿設されているが(原判決別紙被告製品の後端フィンの後面に設けられたねじ穴に関する意匠(構成態様)参照),これらもねじ穴にすぎないことに照らせば,需要者において,その存在に特に注意を向けるとは考えにくく,これを美感の違いとして捉えることはないと認められる。
そうすると,ロ号意匠を全体として観察すれば,これと本件意匠の要部には,複数の差異点が存するものの,それらはいずれも大きな差異とは認められず,その他の点において共通するといえるから,本件意匠と共通の美感を起こさせるもので,本件意匠に類似するものと認められる。(6)

本件意匠とハ号意匠との類否

対比
本件意匠の要部(前記(3)エ)と,これに対応するハ号意匠の形態を対比すると,①中間フィンの枚数は,本件意匠が2枚程度である(要部(ウ))のに対し,ハ号意匠では3枚であり(原判決別紙裁判所認定の構成態様のハ号g3),②後端フィンの厚みは,本件意匠では中間フィンの約2倍である(要部(エ))のに対し,ハ号意匠では約1.3倍であり(ハ号h3),③支持軸体の径は,本件意匠がフィンの径の5分の1程度である(要部(オ))のに対し,ハ号意匠では3分の1強であり(ハ号j3),④フィン相互の間隔が,本件意匠ではフィンの直径の8分の1程度である(要部(キ))のに対し,ハ号意匠では約10分の1であり(ハ号e3),⑤フィンの各面の形状について,本件意匠では,貫通孔がなく平滑である(要部(ク))のに対し,ハ号意匠では,後端フィンの後面中心にねじ穴が1箇所ある(ハ号m3)という差異があるが,その余の点(要部(ア),(イ),(カ))は共通すると認められる。

類否判断
上記(4)イと同様の観察によれば,上記アの差異点のうち,②のフィンの厚みについては,後端フィンの厚みが中間フィンよりも厚いという印象を与えるということができる。その一方で,本件意匠と比較した厚みの程度の差は一見して明らかとはいえないし,①のフィンの枚数,③の軸体の太さ,④のフィン相互の間隔の粗密の違いも,それほど目立つとはいえず,視覚的に異なる印象をもたらすとまでは認められない。また,⑤のフィンの各面の形状について,ハ号意匠の後端フィンの後面にも,イ号意匠と同様のねじ穴が設けられているが(原判決別紙被告製品の後端フィンの後面に設けられたねじ穴に関する意匠(構成態様)参照),これもねじ穴にすぎないことに照らせば,需要者において,これを美感の違いとして捉えることはないと認められる。
そうすると,ハ号意匠を全体として観察すれば,本件意匠の要部と複数の差異点が存するものの,それらはいずれも大きな差異とは認められず,その他の点において共通するといえるから,本件意匠と共通の美感を起こさせるもので,本件意匠に類似すると認められる。

(7)

本件意匠とニ号意匠との類否

対比
本件意匠の要部(前記(3)エ)と,これに対応するニ号意匠の構成態様を対比すると,①後端フィンの厚みは,本件意匠では中間フィンの約2倍である(要部(エ))のに対し,ニ号意匠では約1.4倍である点(原判決別紙裁判所認定の構成態様ニ号h4),②支持軸体の径は,本件意匠がフィンの径の5分の1程度である(要部(オ))のに対し,ニ号意匠ではフィンの径の4割程度である点(ニ号j4),③フィン相互の間隔が,本件意匠ではフィンの直径の8分の1程度である(要部(キ))のに対し,ニ号意匠では,フィンの直径の約7分の1である点(ニ号e4),④本件意匠では,後端フィンの後端面が平滑であるのに対し(要部(ク)),ニ号意匠では,後端フィンの後面中心にねじ穴が1箇所あり,平滑でない(ニ号m4)という差異点があるほか,フィンの形状(要部(ウ))に関して,⑤本件意匠では,中間フィン及び後端フィンの外周面が円柱側面で(本件意匠の具体的構成態様L),前面の縁が正面視で直角である(同K)のに対し,ニ号意匠では,各フィンの外周面に,円弧の一部を大きく切り取ったフラット面があり(ニ号l4),また,フィンの前面の縁に面取り(後端フィンの厚みの約42.9%,中間フィンの厚みの約60%のテーパー)が施されている点(ニ号k4)が相違している。その余の点(要部(ア),(イ),(カ))は共通であると認められる。イ
類否判断
上記アの差異点のうち,①のフィンの厚み,②の支持軸体の太さ,③の
フィン相互の間隔については,前記(4)イと同様の観察によれば,これらの点に関する本件意匠とニ号意匠との各差異はわずかといえ,また,④の後端フィンのねじ穴の存在も,それがねじ穴であることに照らし,格別の美感の違いを生じさせないというべきである。
しかし,⑤のフィンの形状の違いは,需要者が一見して気づく差異といえる上,このようなニ号意匠のフィンの形状は,本件意匠におけるフィンが,テーパーやフラット面がない単純な薄い円柱状であることと対比して,特徴的といえるから,需要者の注意を惹き,異なる視覚的印象を与えると認められる。
そうすると,ニ号意匠を全体として観察すると,本件意匠の要部とその形態が共通する点や程度の大きな差異とは認められない点があるものの,上記⑤の特徴的な差異が存在することにより,本件意匠とは,視覚を通じて起こさせる美感が異なるものと認められる。
したがって,ニ号意匠は,本件意匠と類似するとは認められない。(8)

本件意匠とホ号意匠との類否

対比
本件意匠の要部(前記(3)エ)と,これに対応するホ号意匠の構成態様を対比すると,①後端フィンの厚みは,本件意匠では中間フィンの約2倍である(要部(エ))のに対し,ホ号意匠では約1.4倍である点(原判決別紙裁判所認定の構成態様ホ号h5),②支持軸体の径は,本件意匠がフィンの径の5分の1程度である(要部(オ))のに対し,ホ号意匠ではフィンの径の4割程度である点(ホ号j5),③フィン相互の間隔が,本件意匠ではフィンの直径の8分の1程度である(要部(キ))のに対し,ホ号意匠では,フィンの直径の約5分の1(ホ号e5)である点,④本件意匠では,後端フィンの後端面が平滑であるのに対し(要部(ク)),ホ号意匠では,後端フィンを貫通するねじ穴が2箇所あって,その両面が平滑でない(ホ号m5)といった差異点があるほか,フィンの形状(要部(ウ))に関して,⑤本件意匠では,中間フィン及び後端フィンの外周面が円柱側面で(本件意匠の具体的構成態様L),前面の縁が正面視で直角である(ホ号K)のに対し,ホ号意匠では,各フィンの外周面に,円弧の一部を大きく切り取ったフラット面があり(ホ号l5),また,フィンの前面の縁に面取り(テーパー)が存する点(ホ号k5)が相違している。その余の点(要部(ア),(イ),(カ))は共通であると認められる。


類否判断
上記アの差異点のうち,①のフィンの厚み,②の支持軸体の太さ,③のフィン相互の間隔については,それらが大きく相違すれば,異なる美感を生じさせる場合があることは前述のとおりであるが,前記(4)イと同様の観察によれば,これらの点に関する本件意匠とホ号意匠との差異はわずかといえ,また,④の後端フィンの2個のねじ穴の存在も,それがねじ穴であることに照らし,格別の美感の違いを生じさせないというべきである。しかし,⑤のフィンの形状の違いは,需要者が一見して気づく差異といえる上,このようなホ号意匠のフィンの形状は,本件意匠におけるフィンの単純な形状と対比して特徴的であるから,需要者の注意を惹き,異なる視覚的印象を与えると認められる。
そうすると,ホ号意匠を全体として観察すれば,本件意匠の要部とその形態が共通する点や程度の大きな差異と認められない点があるものの,上記⑤の特徴的な差異が存在することにより,本件意匠とは,視覚を通じて起こさせる美感が異なるものと認められる。
したがって,ホ号意匠は,本件意匠と類似するとは認められない。(9)

本件意匠とヘ号意匠との類否

対比
ニ号物件とヘ号物件は,本体前方のLED等を内蔵する筐体部分の構成が異なるが,本件実線部分に対応する部分の構成は,全く同一である(弁論の全趣旨,原判決別紙被告製品の後端フィンの後面に設けられたねじ穴に関する意匠(構成態様)3参照)。したがって,本件意匠の要部(前記(3)エ)とこれに対応するヘ号意匠の構成態様との対比(差異点,共通点)は,前記(7)アと同じ内容となる(原判決別紙裁判所認定の構成態様のヘ号物件欄の記載を参
照)。


類否判断
上記アの対比によれば,ヘ号意匠についても,ニ号意匠と同様に,その形態には本件意匠の要部と共通する点や程度の大きな差異と認められない点があるものの,フィンの形状に関して,切り欠け面(フラット面)とテーパーが存在する(原判決別紙裁判所認定の構成態様ヘ号l6)という特徴的な違い(差異点⑤)が存在することにより,本件意匠とは,視覚を通じて起こさせる美感が異なるものと認められる。
したがって,ヘ号意匠は,本件意匠と類似するとは認められない。(10)争点1に関するまとめ
以上によれば,イ号意匠,ロ号意匠及びハ号意匠は,それぞれ本件意匠と類似するから,一審被告が旧型を製造販売したことは,本件意匠権を侵害する行為と認められるが,ニ号意匠,ホ号意匠及びヘ号意匠はいずれも本件意匠と類似しないから,一審被告が新型を製造販売することが,本件意匠権を侵害するものとは認められない。
これに対し,一審原告は,前記第2の3(2)【一審原告の主張】のとおり,ニ号意匠,ホ号意匠及びへ号意匠のフィンの形状に関する差異点⑤(切り欠け面とテーパーの存在)は,放熱機能には関係がない,ありふれた手法によって生じたわずかな差異といえるから,これらの意匠は本件意匠と類似であると主張し,また,一審被告は,前記第2の2(2)【一審被告の主張】のとおり,イ号意匠,ロ号意匠及びハ号意匠の後端フィンの後面の形状に関する差異点⑤(ねじ穴が存在し,平滑でないこと)等をもって,本件意匠とは非類似であると主張するが,いずれの主張も,以上に検討したところに照らし,採用できない。
3
争点3(一審被告が本件意匠権を侵害するおそれがあるか)について当裁判所も,一審原告の一審被告に対する旧型の製造販売の差止請求は理由があるが,廃棄請求は理由がないものと判断する。
その理由は,原判決44頁12行目から26行目に記載のとおりである(ただし,以下のとおり補正する。)から,これを引用する。
差止めの必要性がないとの一審被告の主張は,上記原判決が説示するところに照らし,採用できない。

(原判決の補正)
(1)

原判決44頁15行目の2年近く前にを平成28年8月23日頃

と改める。
(2)

原判決44頁16行目の指摘されて,の次に平成28年10月に

を加える。
(3)

原判決44頁18行目の製造,販売していたのであるしの次に(乙23)を加える。4
争点4(一審原告の損害額,一審原告の損失・一審被告の利得の額)について
当裁判所も,一審原告の損害額は246万6641円,相当因果関係のある弁護士費用は25万円(以上合計271万6641円)と認め,また,イ号物件及びハ号物件に関する一審原告の損失及び一審被告の利得の額は,17万8746円と認める。
その理由は,原判決45頁1行目から51頁10行目に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決49頁1行目の(甲5)を(甲5,乙18)と改める。
一審原告は,本件意匠の寄与度について,前記第2の3(4)【一審原告の主張】のとおり,50%と主張する。しかし,本件意匠に係る物品の性質,用途及び販売態様等に鑑みて,売上に対する本件意匠の寄与度が10%を超えるとは認められず,一審原告の主張は採用できない。

第4

結論
以上の次第で,一審原告の一審被告に対する製造販売の差止請求は,旧型につき理由があるが,新型につき理由がなく,廃棄請求は理由がない。また,一審原告の不法行為に基づく損害賠償請求は,合計271万6641円及びこれに対する不法行為日の後の日である平成29年1月17日以降の民法所定の遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,不当利得返還請求は,17万8746円及びうち13万8096円に対する平成30年3月6日以降の,うち4万0650円に対する同年8月2日以降の遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。よって,これと同旨の原判決は相当であり,一審原告及び一審被告の各控訴は,いずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第8民事部

裁判長裁判官


裁判官


裁判官

三田保陽三井恵子井教匡
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