判例検索β > 平成30年(行ケ)第10151号
審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
事件番号平成30(行ケ)10151
事件名審決取消請求事件
裁判年月日令和元年9月18日
法廷名知的財産高等裁判所
裁判日:西暦2019-09-18
情報公開日2019-09-20 16:00:26
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令和元年9月18日判決言渡

平成30年(行ケ)第10151号

審決取消請求事件

口頭弁論終結日令和元年7月24日
判原決告
パラマウントベッド株式会社

訴訟代理人弁護士

三縄
訴訟代理人弁理士

小椋正幸黒瀬雅一森本晃生田部元史山口洋堀口浩石川隆史
同復代理人弁理士

鈴木慎吾被告特
指定代理人

中村泰島田信一野崎大進豊田純一主1文
原告の請求を棄却する。

2許
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1請求
隆庁長官二郎
特許庁が不服2017-9655号事件について平成30年9月11日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
1
手続の経緯等


原告は,平成25年4月23日,名称をギャッチベッド用マットレスとする発明について特許出願をした(特願2013-90543号。以下本願という。)。



特許庁は,本願につき,平成29年3月28日付けで拒絶査定をした。


原告は,同年6月30日,拒絶査定不服審判を請求した。特許庁は,これを不服2017-9655号として審理し,平成30年9月11日,請求不成立の審決をした。



原告は,同月25日,審決の送達を受け,同年10月24日,その取消しを求めて訴えを提起した。

2
特許請求の範囲の記載
本願の請求項1の記載(補正後のもの)は,次のとおりである(以下本願発明1といい,明細書及び図面を併せて本件明細書という。)。クッション性を有し,ベッド使用者の体重を支えるマットレス本体と,このマットレス本体を被包するカバーと,を有し,前記マットレス本体は,前記ベッド使用者の大腿部に対応する位置に,腰部及び背部に対応する位置の素材よりも硬い素材が配置されていることを特徴とするギャッチベッド用マットレス。
3
審決の理由


理由の要旨(結論)
本願発明1は,特表2001-519186号公報(甲13。以下引用文献1という。)に記載された発明(以下引用発明という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。⑵

上記⑴の結論に至る判断過程

引用発明の認定(分節ごとの符号は本判決が付した。なお,別紙1参照)A
マットレス装置452は頂部キルティングパネル454および底部キルティングパネル460を含み,

B
頂部キルティングパネル454は,上向きの頂部459,逆側の底部,および,周縁部456を有し,

C
マットレス装置452の底部キルティングパネル460は頂部キルティングパネル454と協働してマットレス内部472を画成し,底部キルティングパネル460は,内向きの頂部462,反対側の外側底部464,および,上方に延在する側部466を含み,側部466は,底部464の近傍の底縁部468と,頂部キルティングパネル454の周縁部456への取付けの為の頂縁部470とを含み,

D
頂縁部470および周縁部456は,シーム(seam)などの縫製構造により取付けられ,

E
マットレス装置452はまた,コア458と,該コア458を囲繞すると共に頭部端部分476,足部端部分478,および,頭部端および足部端部分476,478に接合すべく長手方向に延在する側部部分480を有するフレーム474と,上側トッパ発泡体479と,下側トッパ発泡体481とを含んでおり,

F
フレーム474はマットレス内部472に受容され,

G
フレーム474の頭部端部分476,足部端部分478および側部部分480は協働して,ユーザが横臥する中央開口482を画成し,
H
コア458はフレーム474の中央開口482内に受容されると共に,上側および下側トッパ発泡体479,481間に存すべく位置せしめられ,
I
コア458は,頭部端ブロック490と,足部端ブロック492と,頭部端および足部端ブロック490,492間に存すべく位置せしめられたシートブロック494と,第1ブロック410,第2ブロック412とを含み,

J
コア458の頭部端ブロック490,足部端ブロック492,シートブロック494はフォームラバー(foamrubber)で構成され,
K
頭部端ブロック490,足部端ブロック492,シートブロック494が同一の堅さを有し,

L
コア458の第1ブロック410,第2ブロック412はユーザの腰部領域および大腿領域と略々整列して存すべく位置せしめられ,

M
第1ブロック410,第2ブロック412はフォームラバーで構成され,

N
第1ブロック410は頭部端ブロック490およびシートブロック494の間に存すると共に長手方向にてそれらに対して当接すべく位置せしめられ,第1ブロック410は,ユーザの頭部が頂部キルティングパネル454上の頭部端ブロック490の近傍に位置せしめられたときにユーザの腰部(lumber)と略々整列され,

O
第1ブロック410の堅さは頭部端ブロック490およびシートブロック494の堅さよりも大きくしてユーザの腰部に対して付加的な支持を提供し,

P
第2ブロック412は,足部端ブロック492およびシートブロック494の間に存すると共に長手方向にてそれらに対して当接すべく位置せしめられ,第2ブロック412は,ユーザの頭部が頂部キルティングパネル454上の頭部端ブロック490の近傍に位置せしめられたときにユーザの上腿と略々整列され,

Q
第2ブロック412の堅さは足部端ブロック492およびシートブロック494の堅さよりも大きくしてユーザの大腿に対して付加的な支持を提供し,
R
第2ブロック412の堅さは第1ブロック410の堅さよりも大きく,小さく,又は,等しくされ,

S
マットレス装置452は,ベッドの連接結合デッキの土台上で使用されるマットレス装置452。


一致点の認定

クッション性を有し,ベッド使用者の体重を支えるマットレス本体と,このマットレス本体を被包するカバーと,を有するギャッチベッド用マットレス。



相違点の認定
マットレス本体に関し,
本願発明1は,
前記ベッド使用者の大腿部に対応する位置に,腰部及び背部に対応する位置の素材よりも硬い素材が配置されているのに対し,引用発明は,
頭部端ブロック490,足部端ブロック492,シートブロック494が同一の堅さを有し,第1ブロック410は頭部端ブロック490およびシートブロック494の間に存し,第1ブロック410は,ユーザの頭部が頂部キルティングパネル454上の頭部端ブロック490の近傍に位置せしめられたときにユーザの腰部(lumber)と略々整列され,第1ブロック410の堅さは頭部端ブロック490およびシートブロック494の堅さよりも大きくしてユーザの腰部に対して付加的な支持を提供し,第2ブロック412は,足部端ブロック492およびシートブロック494の間に存し,第2ブロック412は,ユーザの頭部が頂部キルティングパネル454上の頭部端ブロック490の近傍に位置せしめられたときにユーザの上腿と略々整列され,第2ブロック412の堅さは足部端ブロック492およびシートブロック494の堅さよりも大きくしてユーザの大腿に対して付加的な支持を提供し,第2ブロック412の堅さは第1ブロック410の堅さよりも大きく,小さく,又は,等しくされるものである点。エ
相違点の容易想到性についての判断
(ア)

本願発明1と引用発明とで,マットレス本体の部材に,次のとおりの対応関係がある。
本願発明1
背部に対応する位置の素材
腰部に対応する位置の素材
大腿部に対応する位置の素材

(イ)

引用発明
頭部端ブロック490
第1ブロック410及び
シートブロック494
第2ブロック412

引用発明では,上記の各ブロックを構成するフォームラバー(foam
rubber)の堅さの関係には,次の3つの選択肢があると理解するのが合理的である。
a
第2ブロック412>第1ブロック410>頭部端ブロック490=シートブロック494
b
第1ブロック410>第2ブロック412>頭部端ブロック490=シートブロック494
c
第2ブロック412=第1ブロック410>頭部端ブロック490=シートブロック494。
(ウ)

上記の三つの選択肢のうちaを選択すれば,本願発明1の構成になる。三つの選択肢のうちその一つを選択することは,当業者が適宜なし得ることである。したがって,相違点に係る構成は,当業者が容易に想到し得たものである。

第3原告の主張(審決取消事由)
1
取消事由1(進歩性の判断の誤り)


引用発明の認定の誤り(取消事由1-1)
引用発明の認定は,引用発明の課題及び目的を踏まえて行われるべきである。しかるに,審決は,引用発明の課題(目的)を無視し,本願発明1との相違点を予め減らすべく意図的に引用発明を認定しており,事後分析的な認定であって,誤っている。
引用文献1の【要約】及び【発明の詳細な説明】の記載を参照すると,引用発明の課題(目的)は,ベッドの小売用テスト装置を念頭におき,ユーザの筋骨格状態および界面圧力の嗜好に対処できるように,マットレスの堅さについて部位ごとの多種多様な適合調整が可能なマットレス装置を提供することにある。かかる課題を解決するため,引用発明においては,マットレス装置が複数の部材から成っており,各部材の堅さの選択及び組合せの幅が多種多様である。また,頭部と足部の位置を逆にし,又は表と裏とを逆にすることによって,堅さの選択及び組合せの幅は更に4倍に広がる。
しかるに,審決は,引用発明の認定に当たり,部材の堅さの選択及び組合せとして,引用文献1には所望であれば又は好適にはとして例示されているにすぎない一つの組合せを取り出した。また,その一つの組合せについて,頭部と足部の位置を逆にし,又は表と裏とを逆にすることによって,更に4通りの堅さ設定が得られることも無視している。
正しくは,審決による引用発明の認定に対し,次の事項が付け加えられるべきである。


IとJとの間に次のとおり加える。
ユーザが頂部及び底部キルティングパネル454,460,フレーム474,上側及び下側トッパ発泡体479,481,並びに各ブロック490,492,494の硬さを事前選択して構成されて,マットレス装置452におけるユーザの頭部の位置,及びマットレス装置452の表裏といった配向を変更することにより4通りの異なる堅さ設定を提供して,ユーザの筋骨格状態および界面圧力の嗜好に対処すべく適合調整するものであって,②

Kの冒頭に所望であればを加える。



Oの冒頭に好適には,を加える。



Qの冒頭に好適には,を加える。



対比(一致点及び相違点の認定)の誤り(取消事由1-2)

引用発明のコア458が本願発明1のマットレス本体に相当すると認定した誤り
本願発明1のマットレス本体は,第一部材2に第二部材3,4,第三部材6及び第四部材5が接合されて一体となって全体で板状の形状をなすものである。つまり,複数の部材が接合されて一体となって形成されているものをマットレス本体と呼び,その構成である各部材はマットレス本体ではない。引用発明において,コア458は,フレーム474が画成する中央開口482に受容され,上側及び下側トッパ発泡体479,481に挟持され,更に頂部及び底部キルティングパネル454,460に挟持され,これらが縫製され一体として形成されている。したがって,コア458のみならず,フレーム474,上側及び下側トッパ発泡体479,481及び頂部及び底部キルティングパネル454,460をすべて含むマットレス装置452が,本願発明1のマットレス本体に相当する。
したがって,審決が,引用発明からコア458のみを取り出して,これを本願発明1のマットレス本体との対比検討に供したことは,誤りである。


引用発明の頂部及び底部キルティングパネル454,460が本願発明1のカバーに相当すると認定した誤り
引用発明のマットレス装置452のうち,頂部及び底部キルティングパネル454,460は,弾性的な材料から作成されることにより,マットレス装置452の堅さを設定するためのクッション性を有する部材の一つである。したがって,本願発明1との対比においては,マットレス本体に相当するものの一部として認定し,マットレス本体の構成の相違点として検討すべきである。
しかるに,審決は,頂部及び底部キルティングパネル454,460を,本願発明1のカバーに相当するものとして認定し,マットレス本体の一部とは認定していない。かかる認定は,誤りである。


容易想到性の判断の誤り(取消事由1-3)

三つの選択肢から一つを選択することにつき
審決は,本願発明1につき,引用発明における第2ブロック412と第1ブロック410の堅さとの大小関係にはa「c大きいb小さい

等しい」の三つの選択肢があるうちから,その一つであるa大きいを選んだものにすぎず,当業者が適宜なし得ることであって容易であると判断した。
しかし,引用文献1の【0137】の本発明に依れば第2ブロック412の堅さは第1ブロック410の堅さよりも大きく,小さく,又は,等しくされ得ることは理解されるとの記載に照らせば,引用発明においては,堅さの大小関係はユーザの嗜好に応じて決定されるものであって,いわば何でもよいのであり,大小関係に関する技術思想は開示されていない。技術思想が何ら開示されていないのであれば,そもそも選択肢にはならないから,引用発明から何かを合理的に選択することは不可能である。また,審決において,理由を示すことなく,選択肢aを選択することが当業者にとって適宜なし得ると判断したことは,事後分析的な判断に基づく後付けの論理といえる。
したがって,審決の判断は誤りである。

作用効果につき
審決は,本願発明1の作用効果は,当業者が引用発明から予測できる範囲のものでないとはいえない旨判断した。
しかしながら,以下の①ないし③のとおり,本願発明1の作用効果(身体がベッド長手方向にずれないことや骨盤が立った座位姿勢をとりやすくすること)は,引用文献1に記載も示唆もなく,引用発明から当業者が予測できる範囲にあるものでない。


引用発明のマットレス装置452は,ユーザに対するマットレスの感触をコア458の各ブロックの硬さだけにより調整するものではなく,頂部キルティングパネル454及び底部キルティングパネル460並びに上側トッパ発泡体479及び下側トッパ発泡体481の硬さによっても調整するものであるので,引用発明における三つの選択肢の一つ(選択肢a)を選択しても,本願発明1の効果を奏するとは限らない。



仮に引用発明において選択肢aを選択して堅さの大小関係が第2ブロック412>第1ブロック410>シートブロック494となったとしても,ベッド使用者の腰部は相対的に沈みやすくなり,大腿部は相対的に沈みにくくなる程度に,第2ブロック412,第1ブロック410及びシートブロック494の硬さを設定することは,引用文献1に記載も示唆もされていない。ましてや,マットレス装置452の背上げ時に身体がベッド長手方向に
ずれないようにすることや骨盤が立った座位姿勢をとりやすくすることについて何ら記載も示唆もない。



引用発明のマットレス装置452は,4通りの異なる堅さ感触
の組合せを含むべく提供するものである。

このように,マットレスの堅さを調整するという発想に基づき,ユーザの身体位置のずれを防止するという優れた効果を得られることは,いずれの文献に記載も示唆もなされておらず,この効果は当業者にとって予想外の効果であったといえる。かかる本願発明1の作用効果の顕著性にかんがみ,本願発明1とは別の思考過程によって本願発明1の構成に想到し得るとしても,本願発明1の進歩性を肯定すべきである。
したがって,審決の判断は誤りである。

引用発明がフラット型のマットレスを前提としていることにつき
引用発明は,腰部と大腿部をしっかり支持することによりマットレスに横たわるユーザの寝姿勢を保つというフラット型のマットレスの基本的機能を有するものであるから,引用発明においては,第1ブロック410及び第2ブロック412の両方を堅くすることに技術的な意義があるが,これら二つのブロックの堅さの大小関係には技術的意義がないことは明らかである。したがって,審決が,その大小関係を第2ブロック412>第1ブロック410とすることを当業者が容易に想到できると判断したことは,誤りである。


引用発明がボックススプリングのマットレスを前提としていることにつき
審決が認定した引用発明は,引用文献1の【0137】の記載に基づき第1ブロック及び第2ブロックの堅さを他の部分よりも堅くしたものであるが,このようにブロックの堅さにつき設計の自由度を得るためには,各ブロックにボックススプリングを用いる必要がある。そして,ボックススプリングを用いたマットレスは厚く,長手方向には変形しにくいので,ギャッチベッドに適さない。
この点からも,引用発明から出発してギャッチベッドに係る本願発明に想到することは,当業者にとって容易ではない。


阻害要因等につき
審決には,次のとおり,本願発明1及び引用発明の作用機序を看過して認定・判断したため,引用発明から本願発明1に想到するに当たっての阻害事由を看過した点においても誤りがある。
すなわち,引用発明においては,大腿部だけでなく腰部にも付加的な支持を提供(引用文献1の【0137】)しようとするため,第1ブロック410の堅さを堅くしており,ベッド使用者の腰部に対応する位置にあたる領域のマットレス本体の硬さを本願発明1のように柔らかいものとすることは,引用発明が避けなければならない事態であり,引用発明には第1ブロック410を堅くする技術的思想があるといえるから,本願発明1を想到するに当たっての阻害事由が存在する。また,仮に,引用発明のマットレス装置452をギャッチベッドに適用することを想定すると,ベッド使用者(ユーザ)の腰部を支持している第1ブロック410は堅いため,本願発明1の効果や目的を達成できないばかりか,逆に背上げ動作をしたときにベッド使用者が前方にずれる量が増加してしまい,本願発明1の目的達成の妨げになる。
2
取消事由2(手続違背)
審決の認定判断のうち,引用文献1のシートブロック494についての次の認定判断は,審決の理由中において初めて出願人(原告)に示された。①

シートブロック494は,本願発明1の腰部に対応する位置に配置される。



シートブロック494が頭部端ブロック490及び足部端ブロック492と同じ硬さである場合を引用発明とした上で,第2ブロック412>第1ブロック410>頭部端ブロック490=足部端ブロック492=シートブロック494の堅さの関係を選択すれば本願発明1と同一の構成になるから,本願発明1を当業者が容易になし得たといえる。

シートブロック494に係る上記①及び②の認定判断は,本願についての査定の理由と異なる拒絶の理由を構成するものであるから,審判手続には,特許法163条2項,50条による拒絶理由の通知を欠いた違法がある。第4被告の主張
1
取消事由1(進歩性の判断の誤り)について


引用発明の認定の誤り(取消事由1-1)につき
原告は,審決で認定した引用発明は,必須の構成要件である①ないし④の各事項(上記第3の1⑴に記載)を欠いており,誤りである旨主張する。しかし,以下のとおり,上記①ないし④の各事項は,いずれも認定する必要がない事項である。

事項①につき
引用文献1の【0128】等の記載によれば,事項①は,小売店舗におけるテスト用のマットレスに特化した課題(目的)又は作用効果に関する事項であるといえる。一方,引用文献1の【0001】及び【0142】等の記載によれば,引用発明のマットレス装置452は,小売店舗でのテスト用途に限定されるものでなく,家庭等での個人使用の為にユーザにより購入されるものである場合を含むといえる。家庭等での個人使用の場合には,小売店舗においてのテストを通じて,購入しようとするマットレスの感触を適合調整した結果,適切な感触を得られる硬さの部材の組合せが購入されることとなり,当該購入された構成に事項①は含まれないといえる。したがって,小売用テスト装置すなわち店舗内のテスト用マットレスに限られない引用発明のマットレス装置452において,事項①は一体不可分の必須の技術思想にあたらないというべきである。
認定されるべき引用発明は,引用例に記載されたひとまとまりの構成ないし技術的思想として把握可能であれば足りる。審決で認定された引用発明は,事項①を含まずとも,ひとまとまりの構成ないし技術思想として十分に把握可能に特定されているといえる。
以上によれば,審決の引用発明の認定は,ひとまとまりの構成ないし技術思想として十分に把握可能に特定されており,一体不可分の必須の技術思想に当たらない事項①を含めていないことを誤りとはいえない。

事項②ないし④につき
引用文献1において所望であれば又は好適にはという表現を用
いて例示されている事項を,引用発明の構成の認定に当たって必ず認定しなければならないとする特段の事情はない。よって,審決が,事項②ないし④を引用発明の構成に含めなかったことに誤りはない。⑵

対比(一致点及び相違点の認定)の誤り(取消事由1-2)につきア
引用発明のコア458が本願発明1のマットレス本体に相当するとの認定につき
本願の特許請求の範囲及び本件明細書の記載によれば,本願発明1のマットレス本体は,その文言どおりマットレスの本体であればよ
く,マットレスのクッション性を有する複数の部材が接合されて一体となって形成されているものに限られないと理解される。一方,引用文献1の【0006】の記載及び図24の内容等によれば,引用発明におけるコア458は,ベッド使用者の体重を支えるに当たって主要な構成部分であるので本体といえる。よって,審決が,引用発明のコア458をもって,本願発明1のクッション性を有し,ベッド使用者の体重を支えるマットレス本体に相当すると認定したことに誤りはない。

引用発明の頂部及び底部キルティングパネル454,460が本願発明1のカバーに相当するとの認定につき
本件明細書の段落【0016】の記載及び図3の内容を参照すると,本願発明1のカバーは,マットレス本体を内部に収納して被い包むものと解される一方,材質等について具体的な特定がなされていない以上,キルティング等によるクッション性のあるカバーをも含むと解される。そして,引用発明の頂部及び底部キルティングパネル454,460は,コア458を内部に収納して被い包んでいる。よって,審決が,引用発明の頂部及び底部キルティングパネル454,460をもって,本願発明1のこのマットレス本体を被包するカバーに相当すると判断したことに誤りはない。



容易想到性の判断の誤り(取消事由1-3)につき

三つの選択肢から一つを選択することにつき
原告は,審決が,引用発明における第2ブロック412と第1ブロック410の堅さとの大小関係について,三つの選択肢(a小さいc大きいb等しい)から一つ(選択肢a)を選択することにより,
相違点に係る本願発明1の構成とすることは,当業者が容易になし得たと判断したことは誤りである旨主張する。
しかしながら,引用文献1の【0142】にはマットレス452は,ユーザの頭部の位置,および,ユーザに対するマットレス452の配向に依存して,好適な堅さの組合せをユーザに提供すべく配置構成されるとの記載があることからすると,ユーザの筋骨格状態や嗜好に応じ,その3つの選択肢のうちの1つである選択肢aを選択しユーザに提供することは当業者が適宜なし得ることといえる。
したがって,審決の判断に誤りはない。

作用効果につき
原告は,本願発明1の作用効果(身体がベッド長手方向にずれないことや骨盤が立った座位姿勢をとりやすくすること)は,引用文献1に記載も示唆もなく,引用発明から当業者が予測できる範囲にあるものでないから,審決はこのことを看過したものであって誤りがある旨主張する。
しかしながら,引用文献1には本願発明1の課題や効果についての記載や示唆がないものの,引用発明において選択肢aを採用することで,コア458の各ブロックが本願発明1における硬さの大小関係の特定を満たすことになる。そして,その硬さの大小関係はマットレス装置452における各ブロックに対応する位置においてもそのまま反映されるので,ベッド使用者の腰部は相対的に沈みやすくなり,大腿部は相対的に沈みにくくなるから,その結果,背上げ時にベッド使用者の身体がベッド長手方向(足下方向)にずれないようにすることやベッド使用者がマットレス上に座した場合に骨盤が立った座位姿勢をとりやすくなることという効果を奏するといえる。また,当該構成によって当該効果を奏することは物理的に明らかであるから,当業者の予測を超えた作用効果であるとはいえない。したがって,原告の上記主張には理由がなく,審決の判断に誤りはない。ウ
引用発明がフラット型のマットレスを前提としていることにつき
原告は,フラット型のマットレスの基本的機能からすれば,引用発明において第1ブロック410及び第2ブロック412の両方とも堅くすることに技術的な意義がある一方で,二つのブロックの堅さの大小関係には技術的意義がないから,第2ブロック412を第1ブロック410よりも堅くする構成に想到する(選択肢aを採用する)ことは容易でない旨主張する。
しかしながら,仮に,原告が主張する上記基本的機能をふまえたとしても,引用発明において第1ブロック410及び第2ブロック412の両者の堅さを堅くして追加的な支持を果たす範囲内,すなわち上記基本的機能を果たす範囲内において,ユーザの筋骨格状態や嗜好(例えば腰部に対応する位置の第1ブロック410は若干柔らかめがよい等)に応じて選択肢aを選択することは,当業者にとって容易といえる。
したがって,原告の上記主張には理由がなく,審決の判断に誤りはない。

阻害要因等につき
原告は,引用発明の第1ブロック410にはベッド使用者の腰部を支持するという機能があるから,これを本願発明1のように柔らかいものとすることは引用発明が避けなければならない事態であるから,本願発明1の構成に想到することに対する阻害事由となる旨主張する。
しかしながら,引用発明において,選択肢aを採用して第1ブロック410の堅さを第2ブロック412より柔らかくしたとしても,その堅さが頭部端ブロック490,足部端ブロック492及びシートブロック494の堅さを上回ることには変わりがないから,ベッド使用者の腰部を支持するという機能が損なわれるとはいえない。そうすると,選択肢aを採用することに阻害要因があるとはいえない。
したがって,原告の上記主張には理由がなく,審決の判断に誤りはない。2
取消事由2(手続違背)について
原告は,審決における引用発明のシートブロック494についての認定判断は,拒絶理由を構成するものであるから,審判手続においてこれを原告(出願人)に通知しなかったことは手続違背に当たる旨主張する。
しかしながら,審決において,引用発明のシートブロック494は,第1ブロック410と共にベッド使用者の腰部を支える部材として位置付けられ,しかも第1ブロック410よりも相対的に柔らかいものとされているのであるから,第1ブロック410と第2ブロック412との相対的な堅さの大小関係の設定に係る容易想到性の判断において,シートブロック494についての認定判断は実質的に影響しておらず,これを原告に通知しなかったことによって原告が防御の機会を奪われたとはいえない。
したがって,原告の上記主張には理由がなく,審決の判断に誤りはない。
第5裁判所の判断
1
取消事由1(進歩性の判断の誤り)について


引用発明の認定の誤り(取消事由1-1)について

原告は,審決で認定した引用発明は,必須の構成要件である①ないし④の各事項(上記第3の1⑴に記載)を欠いており,誤りである旨主張する。確かに,原告が主張するように,引用文献1の【0128】ないし【0142】で開示される実施例(以下引用実施例という。)においては,マットレス装置を構成する複数の部材の堅さの選択及び組合せとして多種多様な選択肢があり得るところ,審決は,そのうちの一つを取り出した構成を引用発明として認定している。また,この一つの例についても,頭部と足部を入れ替え,又は表と裏とを入れ替えることによって,当該構成のマットレス装置は更に4通りの堅さ分布による使用が可能であるところ,審決は,このことに言及していない。そして,原告の上記主張は,審決によるこのような引用発明の認定の手法について,引用発明の課題(目的)を無視し,本願発明1との相違点を予め減らすべく事後分析的な認定をしたものであって誤っている旨主張するのである。

よって検討するに,引用文献1の記載によれば,引用実施例に係るマットレス装置452が上記のように多種多様な部材の選択及び組合せや4通りの使用方法を開示しているのは,引用実施例が小売用テスト装置として利用され【0142】,小売業者は店舗内のテスト用マットレスの台数を減ずることで床面積を節約し得ると共に,ユーザは小売業者から購入しようとするマットレスの感触を適合調整し得る【0128】ように,店舗内のテスト用マットレスに特化した課題(目的)又は作用効果に関する事項を強調するためであると解される。しかし,引用文献1には,マットレス装置452は家庭または他の療養施設での個人使用の為にユーザにより購入されることもある【0142】と記載されており,このように個人が使用する場合には,適切な感触を得られる硬さの部材の組合せが既に決定されているのであるから,多種多様な部材の選択及び組合せ並びに4通りの使用方法があることは想定されない。
したがって,小売用テスト装置(店舗内のテスト用マットレス)に用途を限定しない引用実施例のマットレス装置452において,多種多様な部材の選択及び組合せ並びに4通りの使用方法があることは,一体不可分の必須の技術思想に当たらず,その中から一つの組合せ及び使用方法を抽出した例を引用発明とすることに支障はない。引用発明は,引用例に記載されたひとまとまりの構成ないし技術的思想として把握可能であれば足りるところ,審決で認定された引用発明は,この要件を充たしているといえる。

もっとも,審決が,引用文献1に開示された多種多様な部材の選択及び組合せ並びに4通りの使用方法の中から,引用文献1に具体的には全く例示されていない例を抽出したのであれば,原告のいうように,本願発明1の相違点を予め減らすべく事後分析的な認定をしたといえることもあろう。しかしながら,審決が認定した引用発明は,部材の選択及び組合せ(認定に係る構成のK,O及びQ)については,引用文献1に所望であれば好適にはとして具体的に例示された構成を採用している。また,使用方法については,引用文献1の【図24】に具体的に示された例をそのまま用いており,頭部と足部とを入れ替えることも,表と裏とを入れ替えることもしていない。このように,引用発明は,引用文献1に接した当業者が特段の深読みを要せずして把握し得る構成を備えたものであるから,審決に,事後分析的な認定をしたという誤りもない。また,引用文献1の例示に基づいて具体的に認定した引用発明に,例示であることを示す所望であれば好適にはという文言を加えなければならない理由もない。エ
なお,部材の選択及び組合せについて審決が認定した構成(K,O及びQ)をとるとき,頭部端ブロック490と足部端ブロック492の堅さは等しいから,頭部側と足部側とを入れ替えたとしてもベッド使用者の身体の各部位に相当するコア458の各部位の堅さは変わらない。また,引用文献1において,トッパ発泡体の上側と下側及びキルティングパネルの頂部と底部につき,厚さ又は堅さを違えることに関する言及は何らみられないから,マットレス装置452を裏返すことに技術的意義があるとは考え難い。これらの点からしても,4通りの使用方法があることを引用発明1の認定において考慮しなかったことに誤りがあるとはいえない。




以上によれば,原告の主張は採用することができない。
対比(一致点及び相違点の認定)の誤り(取消事由1-2)について

引用発明のコア458が本願発明1のマットレス本体に相当すると認定したことについて
(ア)

原告は,審決が,引用発明のコア458を,本願発明1のクッション性を有し,ベッド使用者の体重を支えるマットレス本体に相当すると認定したことは誤りである旨主張する。

(イ)

原告の上記主張は,本願発明1のマットレス本体につき,クッション性を有する複数の部材が接合されて一体となって形成されているものをいうとする解釈を前提としている。この点,本件明細書の【0015】並びに【図1】及び【図2】
(【図1】【図2】については,別紙2参照。)に示される本願発明1の実施形態においては,マットレス本体1は,クッション性を有する第1部材2と,クッション性を有する第2部材3,4,第3部材6及び第4部材5とが接合されて一体となって形成されているものといえる。しかしながら,特許請求の範囲の記載において,マットレス本体が
クッション性を有する複数の部材が接合されて一体となって形成されていることは何ら特定されておらず,原告の上記解釈は,特許請求の範囲の記載に基づいたものとはいえない。
したがって,原告の上記主張は,前提において理由がなく,採用することができない。

引用発明の頂部及び底部キルティングパネル454,460が本願発明1のカバーに相当すると認定したことについて
(ア)

本願発明1のこのマットレス本体を被包するカバーは,その文言
どおり,マットレス本体を内部に収納して被い包むものと解され,また,その材質等については具体的な特定がなされていないので,キルティングを用いることも妨げられない。
一方,引用文献1には,底部キルティングパネル460は頂部キルティングパネル454と協働してマットレス内部472を画成すること,頂部および底部キルティングパネル454,460を相互に連結すること等も開示されている【0130】。
したがって,審決において,引用発明の頂部キルティングパネル454及び底部キルティングパネル460が本願発明1のこのマットレス本体を被包するカバーに相当すると判断したことに誤りはない。
(イ)

原告は,引用文献1の頂部キルティングパネル454は幾分か弾性的な材料から作成されることにより,ユーザはマットレス装置452内に”沈下”し得る【0129】との記載を指摘して,引用発明のキルティングパネルは本願発明1のカバーとは異なる技術的意義を含み,むしろマットレス本体の一部として理解されるべきである旨主張する。しかしながら,キルティングとは

2枚の布の間に芯地・綿などを入れて刺し縫う技法。また,それを施したもの

(広辞苑第7版)であり,クッション性(弾性)を有するとしても,上記記載のとおりまさに幾分かというものにとどまる。また,引用文献1のうちキルティングパネルに言及した【0129】【0130】を参照しても,キルティングパネルのクッション性を部位によって異ならせることを示唆する記載はみられないから,そのクッション性は長手方向に均一であると理解するのが自然である。そうすると,長手方向に硬さ(堅さ)の異なる部材を配置することにより身体各部への支持力を変える,という本願発明1及び引用発明におけるマットレス本体共通の効果に対して,キルティングのクッション性が与える影響は無視し得るといえる。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。


容易想到性の判断の誤り(取消事由1-3)について

三つの選択肢から一つを選択することにつき
原告は,審決が,引用発明における第2ブロック412と第1ブロック410の堅さとの大小関係について,三つの選択肢(a小さいc大きいb等しい)から一つ(選択肢a)を選択することにより,
相違点に係る本願発明1の構成とすることは,当業者が容易になし得たと判断したことは誤りである旨主張する。
確かに,原告の主張のとおり,引用発明においては,第1ブロック410と第2ブロック412との堅さの大小関係はユーザの嗜好に応じて決定されるものであって,大小関係に関する技術思想は開示されていない。しかしながら,大小関係の場合分けが何十通りもあるというのであればともかく,審決が正しく認定するとおり,堅さの大小関係の場合分けは3通りしかなく,しかも引用文献1の【0137】には第2ブロック412の堅さは第1ブロック410の堅さよりも大きく,小さく,又は,等しくされ得るとしてその3通りが具体的に明記されているのであるから,そのうちの一つである第2ブロック412>第1ブロック410とい
う堅さの大小関係(審決にいう選択肢a)を選択することに,そもそも特段の技術思想を要しない。そうすると,引用発明から出発して,本願発明1と同様の又は別個の思考過程を通じて選択肢aを選択することは,当業者が適宜なし得たことであるといえる。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。

作用効果につき
(ア)

原告は,本願発明1の作用効果(身体がベッド長手方向にずれないことや骨盤が立った座位姿勢をとりやすくすること)は,引用文献1に記載も示唆もなく,引用発明から当業者が予測できる範囲にあるものでないから,審決はこのことを看過したものであって誤りがある旨主張する。そこで,この主張につき以下検討する。

(イ)

本願発明1の前記マットレス本体は,前記ベッド使用者の大腿部に対応する位置に,腰部及び背部に対応する位置の素材よりも硬い素材が配置されていることという事項は,各位置の素材の定量的な硬さを特定するのではなく,相対的な硬さである硬さの大小関係を特定するものである。そして本願発明1のギャッチベッド用マットレスは,その硬さの大小関係の特定を満たすマットレス本体を有することで,明細書の段落【0012】,【0018】に示されるように,ベッド使用者の腰部を相対的に沈みやすくし,大腿部を相対的に沈みにくくし,その結果,背上げ時にベッド使用者の身体がベッド長手方向(足下方向)にずれないようにすることやベッド使用者がマットレス上に座した場合に骨盤が立った座位姿勢をとりやすくなるという効果を奏するものと理解される。
他方,引用発明においてコア458の各ブロックの硬さの大小関係は,マットレス装置452における各ブロックに対応する位置においてもそのまま反映されるものと理解される(なぜなら,引用文献1には,トッパ発泡体479,481並びに頂部及び底部キルティングパネル454,460の堅さを部位によって異ならせることを示唆する記載はみられないので,その堅さは長手方向の全域にわたって均一であると理解するのが自然だからである。)。そうすると,引用発明において選択肢aを採用した場合,
①第2ブロック412(本願発明1の大腿部に対応する位置に相当する位置に配置された素材)>第1ブロック410及び
シートブロック494(本願発明1の腰部に対応する位置に相当する位置に配置された素材)②第2ブロック412(本願発明1の大腿部に対応する位置に相当する位置に配置された素材)>頭部端ブロック490
(本願発明1の背部に対応する位置に相当する位置に配置
された素材)
という堅さの大小関係が成立するので,本願発明1の前記マットレス本体は,前記ベッド使用者の大腿部に対応する位置に,腰部及び背部に対応する位置の素材よりも硬い素材が配置されていることという事項に至ることになる。してみると,引用文献1には本願発明1の課題や効果についての記載や示唆がないものの,引用発明において選択肢aを採用することで,コア458の各ブロックにおいて本願発明1における硬さの大小関係の特定を満たすことになり,その硬さの大小関係はマットレス装置452における各ブロックに対応する位置においてもそのまま反映されるので,ベッド使用者の腰部は相対的に沈みやすくなり,大腿部は相対的に沈みにくくなるから,その結果,背上げ時にベッド使用者の身体がベッド長手方向(足下方向)にずれないようにすることやベッド使用者がマットレス上に座した場合に骨盤が立った座位姿勢をとりやすくなるという効果を奏するといえる。
そして,引用発明において選択肢aを採用して,本願発明1における硬さの大小関係の特定を満たす場合に,ベッド使用者の腰部は相対的に沈みやすくなり,大腿部は相対的に沈みにくくなることは物理的に明らかである。また,選択肢aを採用して構成されたマットレス装置452をギャッチベッドに適用すると,ギャッチベッドを背上げ状態においたときに,ベッド使用者の腰部は相対的に沈みやすくなり,大腿部は相対的に沈みにくくなることも物理的に明らかである。このように,引用発明において選択肢aを採用した場合の上記硬さの関係及び背上げ状態におけるベッド使用者の身体の動きをふまえると,背上げ時にベッド使用者の身体がマットレスに対してベッド長手方向(足元方向)にずれにくくなるともに,ベッド使用者がマットレス上に座した場合に骨盤が立った座位姿勢をとりやすくなるという効果は,当業者の予測し得る範囲内といえる。
(ウ)

したがって,原告の上記主張は採用することができない。

引用発明がフラット型のマットレスを前提としているかにつき
原告は,フラット型のマットレスの基本的機能からすれば,引用発明において第1ブロック410及び第2ブロック412の両方とも堅くすることに技術的な意義がある一方で,二つのブロックの堅さの大小関係には技術的意義がないから,第2ブロック412を第1ブロック410よりも堅くする構成に想到する(選択肢aを採用する)ことは容易でない旨主張する。
しかしながら,引用文献1にはギャッチベッドの図面が複数開示されていること(【図4】,【図6】,【図7】,【図19】,【図20】),本件実施例に関する【0140】にもマットレス装置452をベッドの連接結合デッキに載置することが例示されていること,フレーム474の側面に刻まれたV字型の凹み【図24】はマットレス装置452の折り曲げを容易にするものとしてそのギャッチベッドへの適用を示唆することからみて,引用発明がフラット型のマットレスのみを前提としているとはいえない。
したがって,原告の主張は前提を欠き,採用することはできない。エ
引用発明がボックススプリングのマットレスを前提としているかにつき原告は,審決が認定した引用発明は,第1ブロック410及び第2ブロック412の堅さを他のブロックよりも堅くしたものであるところ,このようにブロックの堅さにつき設計の自由度を得るためには各ブロックにボックススプリングを用いる必要があり,ボックススプリングを用いたマットレスは変形しにくいのでギャッチベッドに適さないから,引用発明から出発してギャッチベッドに係る本願発明に想到することは容易ではない旨主張する。
しかしながら,引用文献1の【0135】【0136】において,コア488の各ブロックの素材として具体的に例示されているのはフォームラバーのみであり,【0137】においても別異に解さなければならない理由はない。原告は,ボックススプリングでなければブロックの堅さの設計に自由度がない旨主張するが,この主張を裏付ける証拠はない。なお,引用文献1の【0140】におけるボックススプリングへの言及は,ベッドの土台(本件明細書のボトムに相当する。)の素材としてな
されたものであり,ブロックの素材としてではないと解される。
したがって,原告の主張は前提を欠き,採用することができない。

阻害要因等につき
原告は,引用発明には第1ブロック410を堅くする技術的思想があるといえるから,これを柔らかくした本願発明1を想到するに当たっての阻害事由が存在する旨主張する。
しかしながら,本願発明1の前記マットレス本体は,前記ベッド使用者の大腿部に対応する位置に,腰部及び背部に対応する位置の素材よりも硬い素材が配置されているという発明特定事項は,各位置の素材の定量的(絶対的)な硬さを特定するのでなく,相対的な硬さの大小関係を特定しているから,ベッド使用者の腰部及び背部に対応する位置に当たる領域のマットレス本体の硬さを定量的に柔らかいものにしたものに限られない。すなわち,腰部及び背部に対応する位置の素材が付加的な支持を提供するに足る定量的な堅さを有していても,大腿部に対応する位置の素材に比べてわずかでも柔らかければ本願発明1の特許請求の範囲に含まれてくるのであり,引用発明においてそのような堅さ設定を選択して本願発明の構成に至ることに阻害要因があるとはいえない。
したがって,原告の主張は採用することができない。
2
取消事由2(手続違背)について
原告は,引用文献1のシートブロック494についての審決の認定判断は,審決において初めて原告(特許出願人)に示されたものであるから,審判手続には拒絶理由通知を欠いた違法がある旨主張する。
しかしながら,引用発明の選択肢aないしcのいずれにおいても,シートブロック494の堅さは第1ブロック410及び第2ブロック412よりも小さいのであるから,シートブロック494にはユーザの体重を支える上で特段の技術的意義があるとはいえず,その位置がユーザの身体のどの部位に対応していても,引用発明の大腿部に対応する位置にある第2ブロック412の素材を,腰部及び背部に対応する位置にある第1ブロック410の素材よりも硬くすることが容易であるか否か,そして硬さの関係の選択によってどのような効果が生じるのかという判断に対して,実質的な影響を及ぼすとはいえない。なお,シートブロック494の硬さが第1ブロック410及び第2ブロック412よりも小さいことは,原告が審査手続で提出した平成28年11月1日付け意見書(甲7)において言及されており,原告はそのことを認識していたといえる。これらの事情によれば,シートブロック494の硬さが第1ブロック410の硬さよりも小さいことを前提として,両者が共にユーザの腰部に対応する位置に配設されるものとした上での説示が審決において初めてなされたことが,原告にとって不意打ちになり手続上の違法をきたすとはいえない。したがって,原告の主張は採用することができない。
3
結論
以上によれば,取消事由に係る原告の主張は,いずれも理由がない。よって,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官
鶴岡稔彦上田卓哉洋輝
裁判官

裁判官

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