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特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成30(ワ)5189
事件名特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日令和元年9月19日
法廷名大阪地方裁判所
裁判日:西暦2019-09-19
情報公開日2019-09-26 16:00:15
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令和元年9月19日判決言渡
平成30年(ワ)第5189号
口頭弁論終結日

同日原本受領

裁判所書記官

特許権侵害差止等請求事件

令和元年7月11日
判決原告
P1

同訴訟代理人弁護士

以呂免

義雄同松和弘被告井
ケアシェルサポートことP2
(以下被告P2という。)

被告
ケアシェル株式会社
(以下被告会社という。)

被告ら訴訟代理人弁護士
同岡同河
同補佐人弁理士

楠岡主嘉行浩喜野壮登本元秀文1
原告の請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は,原告の負担とする。
事井
第1
1実及び理由
請求
被告らは,別紙物件目録(1)記載の粒状物を製造し,使用し,譲渡し,貸し渡
し,若しくは輸出し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。2
3
被告らは,別紙物件目録(2)記載の製造装置等を廃棄せよ。
被告らは,連帯して,原告に対し,2873万3036円及びこれに対する
令和元年7月12日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。第2

事案の概要

本件は,発明の名称を養殖魚介類への栄養補給体及びその製造方法とする特許権(以下共有特許権という。)を被告P2と共有するとともに,発明の名称を透析機洗浄排水の中和処理用マグネシウム系緩速溶解剤とする特許権(以下甲4特許権という。)を単独で有している原告が,被告らに対し,次の各請求をする事案である。


被告会社に対する請求

差止請求・廃棄請求

被告会社による別紙物件目録(1)記載のケアシェルという商品名の粒状物(養殖魚介類への栄養補給体)(以下被告製品という。)の製造販売が共有特許権の直接侵害(均等侵害を含む。)に当たるとともに,甲4特許権の間接侵害(特許法101条5号)に当たることを理由とする,特許法100条1項及び2項に基づく,被告製品の製造,譲渡等の差止め及び製造装置等の廃棄の請求ⅱ
被告製品の製造販売を理由とする金銭請求
(ⅰ)上記ⅰの各特許権侵害の不法行為に基づく,損害の賠償及びこれに対
する訴え変更申立書(令和元年7月3日付け)送達の日の翌日である令和元年7月12日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払の請求(ⅱ)上記ⅰの各特許権侵害に係る不当利得返還請求権に基づく,利得の返還及びこれに対する訴え変更申立書(令和元年7月3日付け)送達の日の翌日である令和元年7月12日から支払済みまで民法704条前段所定の利息の支払の請求(ⅲ)被告製品の製造販売について特許権侵害が成立しないとしても,その
行為は原告の法律上の保護に値する利益を侵害するものとして違法であり,またこれにより被告会社が法律上の原因なく利得したことを理由とする,不法行為又は不当利得返還請求権に基づく,上記(ⅰ)及び(ⅱ)と同額の支払請求ⅲ
後記中国の会社に対する共有特許権についての通常実施権の許諾等を理
由とする金銭請求
(ⅰ)被告会社が中国の会社に対して共有特許権について通常実施権を許諾
したこと等により共有特許権を侵害したことを理由とする,不法行為に基づく,損害の賠償及びこれに対する訴え変更申立書(令和元年7月3日付け)送達の日の翌日である令和元年7月12日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払の請求
(ⅱ)上記(ⅰ)の行為に係る不当利得返還請求権に基づく,利得の返還及
びこれに対する訴え変更申立書(令和元年7月3日付け)送達の日の翌日である令和元年7月12日から支払済みまで民法704条前段所定の利息の支払の請求②

被告P2に対する請求

差止請求・廃棄請求

特許法100条1項及び2項に基づく,被告製品の製造,譲渡等の差止め及び
製造装置等の廃棄の請求

金銭請求

被告会社による上記①ⅱ及びⅲの各行為に関する代表取締役としての任務懈怠を理由とする,会社法429条1項に基づく,上記①ⅱ及びⅲと同額の損害の賠償及びこれに対する訴え変更申立書(令和元年7月3日付け)送達の日の翌日である令和元年7月12日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払の請求
1
前提事実(当事者間に争いのない事実又は後掲の各証拠等及び弁論の全趣旨
により容易に認められる事実)
(1)当事者

原告は,有限会社小林建築事務所を経営し,人工透析を実施している病
院向けに,透析機器洗浄排水の中和装置を製造販売している(甲125)。イ
被告会社は,平成14年4月4日に設立されたかき殻肥料の販売,かき
殻粉末を使用した水質浄化剤の製造・販売,貝養殖のカルシウム補給剤の製造・販売,水質に関する公害防止機器の設計・施工・製作販売等を目的とする株式会社である(甲77)。


被告P2は,被告会社の代表取締役を務めるとともに,ケアシェルサポートという屋号で個人事業を営んでいる。なお,被告P2は,平成12年頃,財団法人鳥羽市開発公社に鳥羽かき殻加工センターの場長として勤務していた当時,原告と知り合った(甲108,乙17,原告供述)。
(2)原告及び被告P2が有する共有特許権(甲1,2)

原告と被告P2は,以下の特許(以下共有特許という。)に係る特
許権(前記の共有特許権。以下,共有特許に係る発明を共有特許発明,共有特許の出願の願書に添付された明細書及び図面を共有特許明細書という。)を有する。
登録番号

平成14年7月4日

登録日

養殖魚介類への栄養補給体及びその製造方法

出願日


特許第3999585号

発明の名称

平成19年8月17日

共有特許の特許請求の範囲は,次のとおりである。
【請求項1】貝殻の粉末(1)と,主成分を水酸化マグネシウムとし,その
接着力によって前記貝殻の粉末(1)を塊状に固めるバインダー(2)と,が混練固化して塊状体に成形され,且つ該バインダーは該塊状体を海水中に置くことにより時間をかけて貝殻の粉末(1)及びバインダー(2)が徐々に海水中に溶解し該塊状体の形状を小さくするか消失させる結合剤になっていることを特徴とする養殖魚介類への栄養補給体。
【請求項2】前記貝殻の粉末(1)が100重量部に対し,前記バインダー(2)が5~50重量部の範囲にある請求項1記載の養殖魚介類への栄養補給体。【請求項3】前記バインダーの主成分を海水法により生成されてなる水酸化マグネシウムとする共に前記塊状体に貫通孔を縦通させてなる請求項1又は2に
記載の養殖魚介類への栄養補給体。
【請求項4】貝殻の粉末100重量部に対し,主成分を水酸化マグネシウ
ムとし,その接着力によって前記貝殻の粉末を塊状に固めるバインダー5~50重量部を配合すると共に水30~60重量部を加えて混練しペースト状体とし,次いで,そのペースト状体を用いて所定大きさの中間品を成形し,その後,該中間品を乾燥し固化させて塊状体の栄養補給体とし,該栄養補給体を海水中に置くことにより数ヶ月の時間をかけて貝殻の粉末及びバインダーが徐々に海水中に溶解しその形状を小さくするか消失するようにしたことを特徴とする養殖魚介類への栄養補給体の製造方法。

共有特許明細書(甲2)には,次の記載がある。
(ア)発明の属する技術分野(【0001】)

共有特許発明はカキ,アコヤガイ,ホタテガイ,アワビなどの貝類又はクルマエビ,イセエビ等の養殖で,生育に必要な栄養素を補給する養殖魚介類への栄養補給体及びその製造方法に関する。
(イ)発明が解決しようとする課題
貝類の成長には貝殻を大きくするのに大量のカルシウムを必要とするほか,
カキ等の貝類はタウリンなどのアミノ酸の他,マグネシウム等のミネラルを多く含んでおり,こうしたことからマグネシウムを必要とする。カキの成長過程で,これらカルシウム,マグネシウムは海水中の溶存カルシウム,溶存マグネシウムから吸収することになるが,従来の技術では,イカダの中央内部に配された懸垂ロープのカキは溶存カルシウム,溶存マグネシウムが既に外周縁側のカキに捕捉,吸収されて充
分吸収できないでいた。さらにいえば,長年の養殖により湾内の海水中の溶存カルシウム,溶存マグネシウム等の栄養が不足し,外海に近いイカダに比べ湾内奥に配されるイカダのカキの収穫量が落ちていた(【0003】)。
共有特許発明は上記問題点を解決するもので,魚介類の養殖で不足しがちなカルシウム分さらにマグネシウム分を簡便にして効率よく補給し,魚介類を順調に成長
させることができる養殖魚介類への栄養補給体及びその製造方法を提供することを目的とする(【0004】)。

(ウ)課題を解決するための手段(【0006】)
請求項1及び4の発明のごとく,貝殻の粉末とバインダーとが混練固化して塊状体に成形されると,粉末化により接触面積が増えるので,貝殻そのものより貝殻のカルシウム分が溶解しやすくなる。貝殻の粉末とバインダーとの配合調整によって,海水中への持続的なカルシウム分の溶解を図ることができる。養殖カキ等のむき身にはマグネシウムなどのミネラル分が多く含まれている。このマグネシウムは海水中から吸収することになるが,バインダーの主成分を水酸化マグネシウムとすれば,カルシウムと共に不足しがちなマグネシウムを効率良く補うことができる。マグネシウム等を充分含み,ミネラルバランスに富み栄養価の高いむき身が得
られる。しかも,水酸化マグネシウムがバインダーとして機能する。バインダーの接着力によって貝殻の粉末を塊状に固め,養殖魚介類の栄養補給体とすることができる。
この栄養補給体を海水中に置けば,
時間をかけて貝殻粉末,バインダーが徐々
に海水中に溶解して,栄養補給体形状を小さくするか消失させることができ,簡便にして効率良く栄養補給できる。一度海水中に吊るせば,追加栄養補給することも
管理チェックすること等もいらず作業負担がない。
また,請求項2の発明のごとく,貝殻の粉末(1)が100重量部に対し,バインダー(2)が5~50重量部の範囲にあると,成形段階で固化し易くなる。さらに,請求項3の発明のごとく,バインダーの主成分を海水法により生成されてなる水酸化マグネシウムとすると,養殖魚介類に必要なマグネシウム補給も円滑
に進む。そして,海水法により生成されてなるマグネシウム化合物であれば,もともと海水から得られたものであり,環境に優しく海洋汚染につながらない。塊状体に貫通孔を縦通させた栄養補給体とすると,他に収納袋などを要せずして栄養補給体のロープ等への取り付けが容易になる。
(エ)発明の効果(【0023】)

共有特許発明の養殖魚介類への栄養補給体及びその製造方法は,魚介類の養殖で不足しがちなカルシウム分さらにマグネシウム分を簡便にして効率よく補給
し,魚介類を順調に成長させることができ,また海を汚染することもないなど魚介類の養殖に優れた効果を発揮する。
(3)原告が有する甲4特許権(甲3,4)

原告は,以下の特許(以下甲4特許という。)に係る特許権(前記
の甲4特許権。以下,甲4特許の出願の願書に添付された明細書及び図面を甲4特許明細書という。)を有する。登録番号
発明の名称

平成19年5月8日

優先日

平成18年5月8日

登録日

透析機洗浄排水の中和処理用マグネシウム系緩速溶解剤

出願日
特許第5227537号

平成25年3月22日

甲4特許の特許請求の範囲は,次のとおりである(以下,このうち請求
項1に係る発明を甲4特許発明という。)。
【請求項1】貝殻の粉末と主成分が無機マグネシウム化合物であるバインダーとで混練固化して塊状体に成形された成形品が,加温することなく炭酸ガスを充満した炭酸ガス雰囲気下で保存されて,前記成形品の溶解速度よりも溶解速度が遅延するようにしたことを特徴とする透析機洗浄排水の中和処理用マグネシウム系緩速溶解剤。
【請求項2】前記成形品が,加温することなく1分以上48時間の範囲内
で炭酸ガスを充満した炭酸ガス雰囲気下で保存される請求項1記載の透析機洗浄排水の中和処理用マグネシウム系緩速溶解剤。
【請求項3】前記炭酸ガスのガス圧を大気圧よりも高く保って,充満した炭酸ガス雰囲気下で保存される請求項1又は2に記載の透析機洗浄排水の中和処理用マグネシウム系緩速溶解剤。

【請求項4】前記貝殻粉末と前記バインダーの比率を,貝殻粉末が100重量部に対しバインダーが5~50重量部の範囲内とする請求項1乃至3のいずれ
か1項に記載の透析機洗浄排水の中和処理用マグネシウム系緩速溶解剤。【請求項5】
前記成形品が,
水分を含む状態または加湿雰囲気下におかれ,
且つ前記炭酸ガスを充満した炭酸ガス雰囲気下で保存される請求項1乃至4のいずれか1項に記載の透析機洗浄排水の中和処理用マグネシウム系緩速溶解剤。ウ
甲4特許明細書(甲4)には,次の記載がある。
(ア)技術分野(【0001】)
甲4特許に係る発明は個人用透析機排水の中和処理に利用される透析機洗
浄排水の中和処理用マグネシウム系緩速溶解剤に関する。
(イ)発明が解決しようとする課題
従来の水酸化マグネシウム又は酸化マグネシウムを主成分とする粒状物からなる中和剤には,酸性廃液に該中和剤を投入すると,ケースによっては溶解速度があまりにも速すぎて頻繁に充填補給しなければならない不都合があった。バッチ補給する溶解剤として採用するには労力負担が大きすぎた。さらに,この粒状物は脆くて壊れやすい欠点があった(【0005】)。

甲4特許に係る発明は上記問題点を解決するもので,月日をかけて水溶液にゆっくりと溶解し,さらには硬度をも向上させて扱い易くして,洗浄排水等中和処理に有効な透析機洗浄排水の中和処理用マグネシウム系緩速溶解剤を提供することを目的とする(【0006】)。
(ウ)課題を解決するための手段(【0007】)

前記目的を達成すべく,請求項1に記載の発明の要旨は,貝殻の粉末と主成分が無機マグネシウム化合物であるバインダーとで混練固化して塊状体に成形された成形品が,加温することなく炭酸ガスを充満した炭酸ガス雰囲気下で保存されて,前記成形品の溶解速度よりも溶解速度が遅延するようにしたことを特徴とする透析機洗浄排水の中和処理用マグネシウム系緩速溶解剤にある。ここで,無機マグ
ネシウム化合物とは水酸化マグネシウム,炭酸マグネシウム,酸化マグネシウム,塩化マグネシウム,硝酸マグネシウム,硫酸マグネシウム,フッ化マグネシウム等のマ
グネシウム元素を含む無機化合物をいう。
(エ)発明の効果(【0008】)
甲4特許に係る発明の透析機洗浄排水の中和処理用マグネシウム系緩速溶解剤は,貝殻の粉末と主成分が無機マグネシウム化合物であるバインダーとで混練固化して塊状体に成形された成形品を,炭酸ガスが充満した炭酸ガス雰囲気下に保存するだけの簡便処理を加えるだけで,元の粒状体や塊状体の成形品の溶解速度よりも溶解速度が遅くなって,月日をかけて水溶液にゆっくりと溶解し,さらには硬度をも向上させて扱い易くなるなど,酸性に傾いた洗浄排水の中和処理用緩速溶解剤として優れた効果を発揮する。

(4)共有特許権の設定登録後の経緯

平成22年5月6日,かき殻粉末を利用した水質浄化剤の製造・販売,
貝養殖のカルシウム補給剤の製造・販売等を目的とする株式会社ケアシェル(以下解散会社という。)が設立された。その株主は,原告,被告P2及びP3であり,被告P2がその代表取締役,原告及びP3がその取締役を務めていた(乙2)。

共有特許権の特許権者である原告と被告P2は,解散会社に対し,共有
特許の実施を許諾した。そして,解散会社は,ケアシェルという商品名のアサリ等の養殖魚介類への栄養補給体を製造販売していたところ,この製品は共有特許にいう養殖魚介類への栄養補給体に相当し,貝殻(カキ殻)の粉末と水酸化マグネシウムとを攪拌した上で,その粉末に水を加え,混錬して小さな球状に成形した上で,天日で乾燥させ,さらに炭酸ガス(二酸化炭素)を吸収させて固化するという方法によって製造されたものであった(乙17,24,被告P2供述)。ウ
解散会社は,平成27年11月2日,株主総会の決議により解散された
(乙2)。

被告会社は,従前,財団法人鳥羽市開発公社が製造したかき殻肥料しおさいを販売するなどしていたところ,平成27年10月1日,その商号が従前
の有限会社アスク鳥羽から現在のケアシェル株式会社に変更された(甲77,112)。
そして,被告会社は,その後,上記イと同じ方法で製造されたケアシェルという商品名の養殖魚介類への栄養補給体(被告製品)を第三者に対して販売するようになった(なお,被告会社がこの製品の製造者であるかについては,当事者間に争いがある。)。また,被告会社は,解散会社から,同社が在庫として有していたケアシェル(被告製品)を購入し,これも第三者に対して販売した。オ
被告会社は,平成29年1月31日,中国にある荣成恒順海洋生物科技
有限公司(以下中国の会社という。)との間で,カキ殻加工固形物(以下ケアシェルという。)の製造技術指導,ケアシェル使用方法の技術指導,ケアシェル応用方法の開発と応用方法の技術指導に係る業務を受託する業務委託契約(以下本件業務委託契約という。)を締結した(乙15)。

中国の会社は,被告会社に対し,本件業務委託契約に基づき,平成29
年2月,平成30年2月及び平成31年2月に,それぞれ500万円(合計1500万円)を支払った(弁論の全趣旨)。

原告は,平成29年9月27日,津地方裁判所伊勢支部に対し,被告ら
を相手方とする証拠保全の申立てをし,同年11月15日,被告会社において検証期日が開かれ,被告会社から甲25,26,29ないし76等の書類が提示され,それらについて検証が実施された。なお,被告P2の自宅における検証期日は開かれなかった(甲25ないし27,29ないし76,乙14)。

原告は,平成30年6月13日,本件訴訟を提起した(当裁判所に顕著
な事実)。
2
争点

原告は,被告会社に対し,不法行為及び不当利得返還請求権に基づき,①被告製品の製造販売による共有特許権の直接侵害
(均等侵害を含む。を理由とする請求,

②被告製品の製造販売による甲4特許権の間接侵害を理由とする請求,③被告製品
の製造販売について特許権侵害が成立しないことを前提とする請求,④中国の会社に対する共有特許権についての通常実施権の許諾等を理由とする請求をしているところ,後記争点1は上記①に係る請求原因,争点2は上記①に係る抗弁,争点3は上記②に係る請求原因,争点4は上記③に係る請求原因,争点5は上記④に係る請求原因,争点7は全請求に係る請求原因である。
また,原告は,被告P2に対し,被告会社が不法行為又は不当利得返還請求権に基づく責任を負うことを前提として,会社法429条1項に基づく損害賠償を請求しているところ,争点6はその請求固有の争点であり,争点7は被告P2に対する請求との関係でも争点となる。
(1)被告製品が共有特許発明の技術的範囲に属するか
(均等侵害の成否等)
(争

点1)
(2)被告P2が製造した被告製品を,被告会社が販売したと認められるか(争点2)
(3)被告製品の製造販売について甲4特許権に対する特許法101条5号の間接侵害が成立するか(争点3)
(4)被告製品の製造販売について特許権侵害が成立しない場合の不法行為に基づく損害賠償請求及び不当利得返還請求の可否(争点4)
(5)共有特許権についての通常実施権の許諾等を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求及び不当利得返還請求の可否(争点5)
(6)被告P2の会社法429条1項に基づく責任の有無(争点6)
(7)被告らの行為による原告の損害額,原告の損失額・被告会社の利得額(争点7)
第3
1
争点についての当事者の主張
争点1(被告製品が共有特許発明の技術的範囲に属するか(均等侵害の成否
等))
【原告の主張】

(1)被告会社が製造販売する被告製品(別紙物件目録(1)参照)は,カキ殻粉末と水酸化マグネシウムを混合して,水で混練した直径1㎝程度の粒状の固形物に炭酸ガスを吸収させて固化した,アサリ養殖に使用する緩速溶解剤である。被告製品の構成と共有特許の請求項1の構成を対比すると,同請求項の混練固化して塊状体に成形されという部分のうち下線部が異なる。また,被告製品の上記構成と共有特許の請求項4の構成を対比すると,同請求項の該中間品を乾燥し固化させて塊状体の栄養補給体という部分のうち下線部が異なる。そして,被告製品のそれ以外の構成については,共有特許の構成と一致している。(2)共有特許発明の本質的部分は養殖魚介類への栄養補給体という点であり,
上記各部分はその本質的部分ではない。
また,
上記の相違点を被告製品におけるものと置き換えても,
海水中に溶解して,
貝類に栄養を補給し,その成長を促すという共有特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏する。さらに,置換容易性にも問題はない。したがって,被告会社による被告製品の製造販売行為について,共有特許権に対
する直接侵害(請求項1及び4については均等侵害)が成立する。したがって,被告会社の行為について不法行為が成立するし,原告に対する不当利得返還義務も発生する(なお,被告会社は悪意の受益者である。以下,他の不当利得返還請求権に基づく請求において同じ。)。また,共有特許権が侵害されるおそれがあるから,被告製品の製造,譲渡等の差止請求や,製造装置等の廃棄請求も認められるべきで
ある。
【被告らの主張】
(1)被告会社が被告製品を販売したことは認めるが,これを製造したことは否認し,均等侵害が成立する等の原告の主張は,争う。
(2)被告製品と共有特許の構成に相違点があることは原告主張のとおりであ
り,以下のとおり,均等侵害も成立しない。
すなわち,共有特許明細書の記載(【0019】等)によれば,結合剤であるバ
インダーで混錬固化して塊状体に成形することは,共有特許特有の課題を解決する手段といえ,固化の方法に関して,貝殻の粉末をバインダーと混錬して(比較的大きな)塊状に固めるという点は,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分である。したがって,原告の主張する相違点は,共有特許発明の本質的部分である。
また,被告製品は,カキ殻粉末と水酸化マグネシウムを混合して,水で混錬した直径1㎝程度の粒状の固体物に炭酸ガスを吸収させて固化したものであり,炭酸ガスで表面を固化し,溶解速度を遅延させることにより,粒状でも長い期間継続して栄養補給ができるようにしたものである。これに対し,共有特許の塊状体は,ある
程度の大きさにすることによって体積に比べて海水に接する表面積を小さくして,長い期間継続して栄養補給ができるようにしたものである。このように,両者の作用効果には大きな相違があり,同一の作用効果を奏するものではないから,置換可能性はない。そして,置換可能性がない以上,置換容易性もない。以上より,均等侵害の第1ないし第3要件を充足しない。
(3)被告P2は共有特許権の共有者であり,共有特許を自ら実施することがで
きるから,被告P2に対する差止請求等には理由がない。
2
争点2(被告P2が製造した被告製品を,被告会社が販売したと認められる
か)
【被告らの主張】
(1)被告P2は,解散会社から被告製品の製造に必要な造粒機等を買い取り,また被告製品の製造に関与する従業員を雇用して,被告製品の製造を開始した。また,被告P2は,被告会社との間で取引基本契約を締結して,製造した被告製品を被告会社に対して販売した。
被告P2は共有特許権の共有者であるから,被告P2による製造行為は共有特許
権の侵害とはならないし,被告会社は,共有特許の共有者が製造した物を購入して第三者に対して販売しただけであるから,
その販売行為には,
いわゆる消尽により,

共有特許の効力が及ばない。
なお,被告会社は解散会社から引き取った被告製品を第三者に対して販売したが,その製品は解散会社が共有特許権の特許権者である原告と被告P2から実施の許諾を受けて製造したものであるから,それを販売しても特許権侵害とはならない。(2)原告は当初,被告製品の製造主体は被告P2であると主張していたところ,その事実については自白が成立しており,原告においてこの製造主体が被告会社であると主張することは,自白の撤回に該当し,許されない。また,原告の主張は信義則にも反する。
(3)原告の下記主張は否認し,争う。原告が指摘する被告会社の書類の不備は
被告会社による被告製品の製造を推認させるものではない。また,被告会社は被告P2が全株式を有する一人会社であるから,利益相反取引や自己取引の問題は生じない。
【原告の主張】
(1)被告らの主張は否認し,争う。

(2)被告製品を製造しているのは被告会社である。被告会社は被告P2の一人会社であり,代表取締役である被告P2の製造行為は,法人としての行為とみるのが自然であり通常である。被告らの上記主張は,被告会社の書類に不自然な点があることや,被告会社の従業員数等に照らせば,虚偽といわざるを得ない。また,被告P2は被告会社の利益を使って原材料等を仕入れており,被告製品を
製造している建物の家賃も被告会社が負担しており,被告製品は被告会社の利益によって製造されているといえるから,被告製品が製品化された時に被告会社にその所有権が発生する。したがって,被告P2が被告製品を被告会社に販売することなどあり得ず,消尽は起こり得ない。
(3)なお,被告らは原告が当初していた被告P2が被告製品を製造している旨
の主張(自白)の撤回は許されないと主張するが,被告らによる援用前に撤回したから,自白は成立しないし,仮に自白に当たるとしても,上記当初の主張は真実に
反しており,原告は錯誤に陥っていたから,自白の撤回が許される。(4)仮に被告らが取引基本契約を締結し,被告P2が被告会社に対して被告製品を販売したとすると,その契約は民法108条本文の自己取引に該当して無効であるし,会社法の利益相反取引に関する規定(会社法356条1項)にも反している。
3
争点3(被告製品の製造販売について甲4特許権に対する特許法101条5
号の間接侵害が成立するか)
【原告の主張】
(1)原告は,貝殻の粉末と主成分が無機マグネシウム化合物であるバインダーとで混練固化して塊状体に成形された成形品に対し,加湿することなく炭酸ガスを充満した炭酸ガス雰囲気下で保存されて,前記成形品の溶解速度よりも溶解速度が遅延するようにする技術(以下原告主張の本件技術という。)を保有している。物の発明と方法の発明は相互に変換可能であり,甲4特許の出願経過によれば,実質的には,甲4特許が特許に至ることのできる種類としては,方法特許しかなか
った。したがって,甲4特許は方法特許,具体的には,マグネシウム系緩速溶解剤を利用した透析機洗浄水の中和方法に関する特許として特許査定されたのである。(2)被告製品は,甲4特許の請求項1に係る方法の使用に用いる物であって,甲4特許の請求項1に係る方法の発明による課題の解決に不可欠なものである。また,被告会社は,上記方法の発明が特許発明であること及び被告製品がその発
明の実施に用いられることを知っていた。
(3)以上より,被告製品の製造販売は,原告の有する甲4特許権に対する間接侵害(特許法101条5号)となる。したがって,被告会社の行為について不法行為が成立するし,原告に対する不当利得返還義務も発生する。また,被告製品には水質浄化の効用があり,被告会社が透析機器の洗浄排水の中和処理事業に進出する
おそれも否定できず,ひいては,甲4特許権に対する直接侵害のおそれもあるというべきであるから,被告製品の製造,譲渡等の差止請求や,製造装置等の廃棄請求
も認められるべきである。
【被告らの主張】
(1)被告会社が被告製品を販売したことは認め,原告のその余の主張は否認し,争う。
(2)そもそも,甲4特許の請求項はいずれも物の発明として発明を特定してい
るのであり,方法の発明に関する特許ではない。
また,甲4特許は個人用透析機に関する発明であり,貝類等への栄養補給剤に関する発明ではない。このことは特許請求の範囲から明らかであるし,甲4特許発明は,原告によってその特許請求の範囲が透析機洗浄排水の中和処理用の用途発明に限定されたから,甲4特許はそれ以外の用途に用いることには及ばず,これに実質的な発明の効力を及ばせようとするのは禁反言の法理に照らし許されない。さらに,被告製品は貝類の養殖に用いられる物であり,技術上の観点から,透析機洗浄排水の浄化に用いることはできないし,被告らは被告製品をその用途に用いる予定も,その事業に進出する予定もない。

以上より,被告製品の製造販売について特許法101条5号の間接侵害は成立せず,甲4特許権が侵害されるおそれもない。
4
争点4(被告製品の製造販売について特許権侵害が成立しない場合の不法行
為に基づく損害賠償請求及び不当利得返還請求の可否)
【原告の主張】
仮に,被告製品の製造販売について特許権侵害が成立しないとしても,原告主張の本件技術は,産業有用性を有しており,流通対価や利益を生むものであって,その対象は透析機洗浄排水の浄化やアサリへの栄養補給にとどまらないものである。この技術は原告と被告P2の間だけで知られたもので,他者がこれを使用した事実もなければ,これを認識している事実もない。そして,被告会社は事情をよく知っ
ている中,この技術を使用した被告製品を製造販売して,利益を得るに至った。以上の経緯等によれば,公平の理念からみて,被告会社が利益を得ることについて,
法律上の原因はないというべきである。
また,被告会社は,上記技術を用いて被告製品を製造販売しているところ,原告が発明し,甲4特許に係る方法特許の実施において製造・使用する緩速溶解剤は,被告製品と同じ製法を用いて生産され,被告製品と同じ形態及び性質を有する有体物であり,商品化され,流通している。このようにして,上記技術を用いて生産される緩速溶解剤は,甲4特許権を構成しているものであるから,法律上の保護に値する利益を生じる有体物である。
そして,被告会社は法律上の保護に値する利益の侵害について認識しており,被告会社には故意があった。

以上より,被告会社の行為について不法行為が成立するし,原告に対する不当利得返還義務も発生する。
【被告らの主張】
被告会社が被告製品を販売したことは認め,原告のその余の主張は否認し,争う。なお,炭酸ガスを使って固化する技術は,平成14年1月頃,被告P2が発明
したものである。
5
争点5(共有特許権についての通常実施権の許諾等を理由とする不法行為に
基づく損害賠償請求及び不当利得返還請求の可否)
【原告の主張】
被告会社は,平成29年1月頃,被告P2の有する共有特許権の持分につき,被告P2を介して,中国の会社との間で,本件業務委託契約を締結し,その対価として合計1500万円を受領した。
これは通常実施権設定契約であり,
被告会社は,
被告P2を介して,中国の会社に対し,共有特許権について通常実施権を許諾したことになるが,原告はこれに同意していない。したがって,被告会社は共有特許について通常実施権設定契約を締結することはできない(特許法73条3項)。
また,中国の会社から被告会社に対して対価の支払がされている事実によれば,中国の会社において共有特許の実施品の生産(製造)が行われていることが推認さ
れる。
以上より,
本件業務委託契約に基づいて行われた行為
(被告製品の製造を含む。

は,共有特許権の侵害に当たる。
したがって,被告会社の行為について不法行為が成立するし,原告に対する不当利得返還義務も発生する。
【被告らの主張】
(1)原告の主張は否認し,争う。
(2)そもそも,本件業務委託契約を締結したのは被告会社であり,共有特許権の共有者ではないから,特許法73条3項の適用はない。

被告会社の中国の会社に対する技術指導は,被告P2が中国に行って実施しており,技術指導した製品(農業肥料)の製造も中国で行われている。そして,中国の会社は製造した製品を日本国内に輸出等しておらず,むしろ,日本国内への輸出や日本国内での共有特許の実施をしない旨約している。
以上のように,本件業務委託契約及びこれに基づく中国の会社の行為は,共有特
許の実施許諾の有無にかかわらず,共有特許権を侵害しないものである。したがって,そもそも被告会社は中国の会社に対して共有特許権についての通常実施権を許諾する必要がなく,現に,中国の会社に対して通常実施権を許諾していない。6
争点6(被告P2の会社法429条1項に基づく責任の有無)

【原告の主張】
被告会社の代表取締役である被告P2は,被告会社に対し,特許権等の侵害に当たる行為である被告製品の製造販売を行わせ,また中国の会社に対して共有特許権について通常実施権の許諾をするなどして,代表取締役としての任務を怠った。そして,被告P2は,上記任務懈怠行為について悪意であった。
したがって,被告P2は,第三者である原告に対し,会社法429条1項に基づ
き,損害賠償責任を負う。
【被告らの主張】

原告の主張は否認し,争う。
7
争点7(被告らの行為による原告の損害額,原告の損失額・被告会社の利得
額)
【原告の主張】
(1)被告製品の製造販売による原告の損害等


原告は,共有特許権及び甲4特許権に加え,潜砂性二枚貝の養殖方法及
び養殖用構造物の特許
(特許第4694652号)
等を有しており,
その構造物は,
受注を受ければすぐに実用化することができる。したがって,原告には,特許権侵害行為がなかったならば利益を得られたであろうという事情が存在するから,本件には特許法102条2項が適用される。

被告会社は,平成30年度まで,被告製品を第三者に対して販売したこ
とにより,以下のとおり,少なくとも合計1862万0942円の利益を得た。したかって,特許法102条2項により,原告の被った損害は,少なくとも同額となる。
平成28年12月まで

1296万0341円

平成29年度

281万2311円(売上額の99.94%に相当する金

平成30年度

284万8290円(同上)

額)


特許権侵害を前提としない請求との関係でも,原告の損害は上記イと同
額であり,原告の損失・被告会社の利得も同額である。
(2)中国の会社に対する共有特許権についての通常実施権の許諾等による原告の損害等
本件業務委託契約の対価として中国の会社から被告会社に対して支払われた額は合計1500万円であるところ,その半額である750万円が共有特許権の侵害
による損害となる(特許法102条3項)。原告の損失・被告会社の利得も同額である。

(3)弁護士費用相当の損害
原告は,被告らの行為により,弁護士費用相当の損害として,261万2094円の損害を被った。
【被告らの主張】
(1)被告会社が被告製品を第三者に対して販売したこと,中国の会社と本件業
務委託契約を締結し,同社から1500万円の支払を受けたことは認め,原告のその余の主張は不知又は否認し,争う。
(2)原告は共有特許を実施していないことなどから,特許法102条2項の適用の基礎を欠くし,被告会社の利益の算定に当たり,原価以外の設備費用,人件費等を一切控除しないという計算方法は認められない。
また,中国の会社から支払われた1500万円は,技術指導の対価であって,通常実施権設定契約の対価ではない。
第4
1
当裁判所の判断
争点2
(被告P2が製造した被告製品を,
被告会社が販売したと認められる

か)について
(1)原告は,被告会社による共有特許権の侵害行為として,被告製品を製造販売したことを主張し,被告会社が被告製品を販売したことは当事者間に争いがないものの,被告らは被告会社が被告製品を製造したことを否認している。そして,被告らは,むしろ,被告製品を製造したのは,共有特許の特許権者(共有者)である
被告P2であり,
被告会社が販売したのは,
被告P2が製造した製品であるとして,
共有特許権についての消尽の抗弁を主張するが,
この点については,
原告が否認し,
争っている(争点2)。そこで,事案に鑑み,被告製品が共有特許発明の技術的範囲に属すると仮定して,争点2から判断する。
この点について,
被告P2は,
上記被告らの主張に沿う供述をしていることから,

この供述の信用性について検討する。また,上述するとおり,原告は被告会社による被告製品の製造を特許権侵害行為として主張するところ,その事実が認められる
かについても,ここで検討する。
(2)後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。ア
共有特許明細書には,共有特許に係る栄養補給体の製造方法の例として,
下記(ア)ないし(ウ)の記載がある(甲2)。
(ア)原材料の用意
まず,貝殻の粉末とバインダーを用意する。
貝殻は,
カキ,アコヤガイ等の貝類養殖で,
むき身にして出荷された後に残る殻を
用いる。ここでの貝殻の粉末はカキ殻を粉末化したものであり,本実施形態は被告会社が販売するしおさいを使用している(【0008】)。

また,バインダーは貝殻の粉末を結合させ所望の塊状体に成形できる結合剤である。バインダーの接着力によって貝殻の粉末を塊状に固め,養殖魚介類の栄養補給体とすることができる。
本実施形態では,バインダーの主成分を海水法(海水を主原
料とする製法)により生成されてなる水酸化マグネシウムとしている。具体的にはナイカイ塩素株式会社製の商品名
60%水マグ
を使用している【0009】。



(イ)攪拌機による混錬と中間品の成形
前記貝殻の粉末とバインダーとを所定比率で配合すると共に,これに水を必要量加えて攪拌機等で混練し,ペースト状体(スラリー状体)とする。貝殻粉末とバインダーの比率は貝殻粉末が100重量部に対しバインダーが5~50重量部が好ましい。バインダーが水酸化マグネシウムであっても5~50重
量部が好ましく,より好ましくは30~50重量部となる。また,水の量は,貝殻粉末が100重量部に対し30~60重量部が好ましく,より好ましくは40~50重量部となる(【0010】)。
次に,前記ペースト状体から所定量を取り出し製品形状たる栄養補給体に近似した中間品を造る。本実施形態は,そろばん玉した栄養補給体用の成形型にペースト
状体を流し込んで中間品を成形している。ここでの成形型は流し込み石膏型としているが,これに限定されず,中間品,栄養補給体の形状,用途等に応じて押出し成形
型や圧縮成形型等を用いることができる(【0011】)。
(ウ)中間品の乾燥・固化
その後,前記中間品を乾燥し固化させて塊状体の栄養補給体とする。ここでの中間品の乾燥は室内自然乾燥としているが,中間品の乾燥処理は天日干しや乾燥機を使った強制乾燥とすることができる(【0012】)。

証拠保全における検証の対象とされた書類及び原告提出の書証によっ
て認定可能な事実
(ア)本件建物の賃借等
a
被告会社は,遅くとも25年6月には,三重県鳥羽市(以下略)に
所在する建物(以下本件建物という。)を協同組合鳥羽ファイブから,賃料月10万円で賃借した(甲121の地代家賃等の内訳書)。
b
被告P2(ケアシェルサポート)は,平成27年9月30日又は同
年10月1日,本件建物を協同組合鳥羽ファイブから,自己の事務室及び作業場として,
賃貸期間同年10月1日から平成29年9月30日,
賃料月5万円と定めて,
賃借した(甲25)。
c
被告会社は,平成27年9月30日又は同年10月1日,本件建物
を協同組合鳥羽ファイブから,自己の事務室及び作業場として,賃貸期間同年10月1日から平成29年9月30日,賃料月5万円と定めて,賃借した(甲26)。d
平成28年ないし平成29年当時,本件建物における電気と水道の
供給契約は被告P2が締結していた(甲75,76)。
(イ)液化炭酸ガスのボンベの納品
証拠保全における検証が実施された平成29年11月15日の時点において,本件建物には名古屋酸素株式会社の液化炭酸ガスのボンベが複数本置かれており,その納品を受けたのは被告P2(ケアシェルサポート)であった(甲28の
1,28の2,29)。
(ウ)被告会社の決算報告書及び法人事業概況説明書の記載

a
被告会社の平成27年度及び平成28年度の決算報告書(損益計算
書や棚卸資産の内訳書)には,肥料と被告製品と養殖資材を仕入れたことと,それらの売上げがあること,棚卸資産として平成27年度には被告製品が,平成28年度には被告製品,しおさい,ネット等があることが記載されているほか,被告P2(ケアシェルサポート)に対する売掛金が平成27年度に7万0650円,平成28年度に3万7800円(3月分)あること,同人に対する買掛金が平成27年度に60万4800円,平成28年度に110万1600円(3月分)あることが記載されている。なお,甲120及び121(解散会社の決算報告書)にあるような,製品の製造原価についての記載や,棚卸資産として原材料(水マグ)がある
との記載はみられない(甲34,35,38ないし41,49,50)。b
被告会社の平成27年度及び平成28年度の法人事業概況説明書

には,肥料と被告製品を仕入れたこと,それらの売上げがあることが記載されている(平成27年度のものには,被告会社ではしおさいに加え,被告製品の販売を行っていることも明記されている。)。なお,甲121(解散会社の決算報告書)にあるような,被告製品の材料を仕入れた旨の記載はみられない(甲53,54)。
(3)被告P2の供述の信用性の評価等

被告P2が,被告製品を製造したのは自分(ケアシェルサポート)であ
り,被告会社は被告製品を仕入れて販売しただけであると,被告らの主張に沿う供述をしていることは,前述のとおりである。
この供述のうち,被告会社が被告製品を製造せず,仕入れているという主要な部分については,前記認定の被告会社の決算報告書及び法人事業概況説明書の記載内容と整合的である。すなわち,被告会社の平成27年度と平成28年度の決算報告書及び法人事業概況説明書には,被告製品を仕入れたことの記載や,被告P2(ケ
アシェルサポート)に対する平成28年3月の買掛金は100万円を超えていることなどの記載がみられる一方で,甲120及び121(解散会社の決算報告書)に
あるような,製品の製造原価についての記載や,棚卸資産として原材料があることや被告製品の原材料を仕入れた旨の記載はみられないところ,これらの事実は,被告会社が被告製品を製造せず,仕入れている前提でしか理解することはできない。そして,前記認定の根拠として挙げた各書証は,原告が本件訴訟の提起前に申し立てて行われた証拠保全における検証の対象とされた書類又は原告提出の書証であり,これらの書類について被告らが改ざん等する余地はなく,上記各書類に被告会社が被告製品を製造したことをうかがわせる記載がなく,むしろこれを仕入れたと記載されていることは重要な事実である。そして,これと被告P2の供述が整合していることは,被告製品を製造したのは被告会社ではなく,被告P2(ケアシェル
サポート)であるとする被告P2の供述の信用性を強く基礎付けるものということができる。
ここで,原告が被告会社の決算報告書(損益計算書)や法人事業概況説明書(甲34,35,53,54)の内容は信用できない旨主張することから,その内容の信用性について検討しておくと,被告製品を仕入れたという上記決算報告書等の内
容が信用できないというためには,被告会社において被告製品の原材料や製造装置等を用意していたことなど,被告製品を現に製造していたことをうかがわせる事実が立証される必要があるが,本件証拠上,そこまでの事実を認めるに足りる証拠はない。
なお,
原告は上記決算報告書等について他の書類
(乙7の1ないし7の39)
との不整合な点を指摘しているが,その内容に照らせば,そもそも被告P2の上記
供述の信用性に影響を与えるほどの事情とはいえないし,仕入れ個数のずれが直ちに被告会社における被告製品の製造の事実を推認させるとはいえない。以上のことを踏まえると,上記決算報告書等の内容のうち,少なくとも被告製品を仕入れた旨の記載部分については,信用性を認めることができる。イ
また,被告P2の供述は,乙3ないし6,8の1ないし8の3及び20
と整合している。すなわち,これらの書証からは,下記(ア)ないし(カ)の事実が認められるところ,被告P2の供述はその事実と整合的である。特に,前記認定の共有
特許に係る栄養補給体の製造方法の例(前記(2)ア)
及び被告製品の実際の製造方法
(前記第2の1(4)イ,エ)によれば,被告製品を製造するには,そのための場所と従業員,原材料(しおさいと60%水マグ),製造装置,水・電気,炭酸ガス,被告製品を入れるビニール袋が必要であるところ,前記認定事実に加え,下記認定事実によれば,被告P2はこのうち相当程度を自ら用意していたことになるから,被告P2の供述は,その主要な部分について,相当程度,書証によって裏付けられているといえる。
(ア)被告P2は,平成27年9月16日,解散会社から,水マグ60(60%水マグ。20㎏/袋)68袋及び被告製品を入れる肥料袋(ビニール袋)48
54袋を合計22万8606円(税込。以下同じ。)で購入した(乙4。なお,乙25)。
(イ)被告P2は,平成27年9月16日,解散会社から造粒機1台を16万2875円で購入した(乙5。なお,乙25)。
(ウ)被告会社は,平成28年2月5日,解散会社から,被告製品合計52
6袋を119万2968円で購入したものの,前述のとおり,被告製品の原材料や製造装置は被告P2が購入し,被告会社はこれらを購入しなかった(乙3)。(エ)被告P2(ケアシェルサポート)は,平成27年10月1日,被告会社との間で,
被告製品その他被告P2が製造又は販売する商品を継続的に売り渡し,被告会社がこれを買い受けることを内容とする取引基本契約を締結した(乙6)。
(オ)被告P2は,平成27年10月1日,P3ほか2名の者との間で,カキ殻粉固形物製造補助を従事すべき業務の内容とする雇用契約を締結した(乙8の1ないし8の3)。
(カ)被告P2は,屋号ケアシェルサポート,業種名製造販売とする平成28年分所得税青色申告決算書を作成し,税務申告をしたところ,それには
売上(収入)金額が391万4390円,仕入金額(製品製造原価)68万6034円,給料賃金218万8500円,地代家賃60万円などと記載されている(乙
20)。

原告の主張・供述について
(ア)まず,原告は,被告会社の決算報告書(損益計算書)や法人事業概況
説明書(甲34,35,53,54)に不自然な点があると主張し,それと同旨の供述をしているが,被告会社が被告製品を仕入れた旨の記載部分の信用性が認められることは,前記判示のとおりであり,これに反する原告の供述は採用できない。また,原告は,甲39の被告製品の数量が658袋となっており,甲38記載の526袋との差は被告会社が製造したものであるとも主張する。しかし,被告P2は数え間違いによるものであると説明しているところ(乙24,被告P2供述),
被告会社が被告製品の原材料や製造装置等を用意していたことをうかがわせる証拠がないことは前述のとおりであるし,被告会社が被告製品を製造したことをうかがわせる事実も認められない。したがって,数え間違いであるとの被告P2の説明は否定し難く,上記事実から被告会社が被告製品を製造したと推認することはできない。

そして,原告が被告会社の書類について指摘するその他の不自然な点については,被告P2から裏付け証拠(乙3,16の1ないし16の3)を伴う形で説明がされており(乙24,被告P2供述),その説明を否定すべき事情は認められないし,その他に以上の判断を左右すべき証拠があるとはいえない。
(イ)次に,原告は,被告会社が被告P2の一人会社であることなどを指摘
し,被告P2の行為は法人である被告会社の行為とみるのが自然であるなどと主張する。しかし,被告P2は被告会社の代表取締役を務める一方で,ケアシェルサポートという屋号で個人事業を営んでいるのであり,直ちに原告主張のように解することはできない。むしろ,前記認定の事実によれば,被告P2は,個人の立場で,
解散会社から被告製品の原材料や製造装置を購入したり,
従業員を雇用したり,

本件建物を賃借したりするなどしていると認められるから,これらの事実に照らせば,被告P2の行為を被告会社の行為と評価することはできず,これらの事実は被
告P2が個人の立場で被告製品を製造していたことを基礎付ける事実といえる。この点に関し,原告は,甲52に被告会社が本件建物の6か月分の家賃として60万円を支払っていたと記載されていることを指摘し,被告製品を製造する本件建物の家賃を被告会社が支出していたと主張するが,甲52の記載は誤記と認められ(乙23。なお,甲52には平成28年4月から9月までの家賃の支払が記載されておらず,
甲51の記載との連続性からすると,
それ自体,
不自然なことであるし,
乙19も踏まえると,誤記であるとの乙23の陳述は信用できる。),原告の上記主張事実を認めることはできない。
(ウ)また,原告は,被告P2が被告製品の原材料等を被告会社の利益を使
って仕入れていたとして,被告製品の所有権を原始取得するのは被告会社である旨主張する。しかし,被告会社が被告製品の原材料等を自ら仕入れていたことを認めるに足りる証拠はないし,被告らが取引基本契約を締結し,被告P2が被告会社に被告製品を販売していたことをもって,
原告主張のように評価することはできない。
むしろ,前記認定の事実によれば,被告P2は被告製品を被告会社に販売し,そこ
から被告製品の製造に係る経費を回収していたと認めるのが相当である。したがって,被告製品の所有権は被告P2が製造することによって発生し,被告会社に販売されることによって,被告会社がその所有権を取得したものと認められるから,原告の上記主張は採用できない。なお,被告会社は被告P2が全株式を有する一人会社であるから(被告P2供述,弁論の全趣旨),被告ら間の取引基本契約ないし売
買契約が民法108条本文や会社法356条1項により無効となることはないと解される(最高裁昭和45年8月20日判決・民集24巻9号1305頁参照)。(エ)原告は被告会社の従業員数に照らせば,被告会社が被告製品を製造していないのは不自然であることも主張するが,被告会社の従業員は,被告P2自身を除けば,被告P2の妻と,女性1人で,同人らの勤務時間は少なく,被告会社は
しおさいの販売業務等も行っているから(乙24,被告P2供述),原告指摘の点が特別不自然であるとはいえない。

それだけでなく,原告は,被告P2が自ら被告製品を販売せず,被告会社が販売している点について不自然である旨指摘しているが,被告P2は,顧客が法人から仕入れたいと要望することがある旨供述しており,この説明自体,不自然,不合理なものとはいえない。
(オ)以上より,原告の主張・供述を採用することはできず,原告供述によ
って被告会社が被告製品を製造していたことを認めることはできないし,被告P2の供述の信用性が否定されるともいえない。

以上のことに加え,被告P2の主張・陳述は本件訴訟の提起以来一貫し
ていたことも踏まえると,被告製品を自ら製造し,被告会社に販売していた旨の被告P2の供述は全体として採用することができる。また,原告は被告会社が被告製品を製造していたと主張するが,これを認めるに足りる証拠はないから,この原告の主張は採用できない。
(4)まとめ
共有特許権の共有者である被告P2(ケアシェルサポート)は,原告の同意を
得ることなく,共有特許発明を実施することができるから,被告P2が,仮に共有特許発明の実施品として被告製品を製造し,これを被告会社に販売した場合には,共有特許権はその目的を達成したものとして消尽し,共有特許権の共有者である原告は,被告会社が被告製品を譲渡等することに対し,特許権を行使することはできないものと解される。

なお,被告会社は解散会社から購入した被告製品を第三者に販売したこともあったが,これは共有特許権の特許権者である原告及び被告P2から実施の許諾を受けて製造され,被告会社に販売されたものであるから,同じくその被告製品についても共有特許権は消尽したと解される。
したがって,被告製品が共有特許発明の構成と均等なものとして,その技術的範
囲に属するか否かを論ずるまでもなく,被告製品の製造販売による共有特許権の侵害を理由とする原告の請求には理由がないこととなる。

2
争点3(被告製品の製造販売について甲4特許権に対する特許法101条5
号の間接侵害が成立するか)について
(1)原告は,甲4特許発明が方法の発明であることを前提として,被告製品の販売について甲4特許権に対する特許法101条5号の間接侵害が成立すると主張する(なお,前記1で判示したとおり,被告会社が被告製品を製造したとは認められない。)。これに対し,被告らは,甲4特許発明は物の発明であるなどとして,同号の間接侵害は成立しないと主張する。
(2)そこで原告の主張について検討すると,そもそも,物の発明と方法の発明とは,明文上判然と区別され(特許法2条3項),与えられる特許権の効力も明確
に異なっているのであるから(例えば,同法101条,104条,175条2項),物の発明と方法の発明とを同視することはできないし,物の発明に関する特許権に方法の発明に関する特許権と同様の効力を認めることもできない。そして,当該発明がいずれの発明に該当するかは,まず,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて判定すべきものである(同法70条1項参照)(最高裁判所平成11年7
月16日判決・民集53巻6号957頁参照)。
そこで,甲4特許の特許請求の範囲の請求項1を見ると,そこには機能的な表現がみられるものの,…透析機洗浄排水の中和処理用マグネシウム系緩速溶解剤と明記されており,その文言上,物の発明について記載されたものであることが明らかである。したがって,甲4特許発明は方法の発明ではなく,物の発明である。
なお,以上のことは,甲4特許の発明の名称が透析機洗浄排水の中和処理用マグネシウム系緩速溶解剤とされていることや,甲4特許明細書の【0001】に

本発明は個人用透析機排水の中和処理に利用される透析機洗浄排水の中和処理用マグネシウム系緩速溶解剤に関する。

との記載があること(甲4)からも裏付けられる。また,原告は甲4特許の出願経過に照らし,方法の発明として特許査定さ
れたと主張するが,その主張は前述した特許請求の範囲の記載に照らして採用できないし,原告は出願当初,マグネシウム系緩速溶解剤の製造方法に係る発明(これ
は,物を生産する方法の発明と解される。)についても特許請求の範囲に含めていたが(乙9),補正によりこれを削除し,さらに用途を限定したところ(乙12,13),この経緯に照らせば,なおさら採用する余地はないというべきである。(3)以上より,甲4特許発明は物の発明であって,方法の発明ということはできないし,これに方法の発明と同様の効力を認める根拠も見出し難い。したがって,甲4特許発明が方法の発明であることを前提に特許法101条5号の間接侵害が成立するとの原告の主張は,その前提を欠き,採用することができない。3
争点4(被告製品の製造販売について特許権侵害が成立しない場合の不法行
為に基づく損害賠償請求及び不当利得返還請求の可否)について
原告は,被告製品の製造販売について特許権侵害が成立しないとしても,被告製品は,原告主張の本件技術(前記第3の3【原告の主張】(1))を使用したものであるなどとして,被告会社が被告製品を販売したことによって,法律上の保護に値する利益が侵害されたなどと主張する。
しかし,原告自身,本争点との関係で自認しているとおり,原告主張の本件技術
は甲4特許権を直接構成するものではなく,被告製品の販売について甲4特許権の侵害は成立しないのである。原告は原告主張の本件技術の対象は,甲4特許権が対象とする透析機洗浄排水の浄化にとどまらないなどとも主張するが,特許発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないところ(特許法70条1項),原告の上記主張は甲4特許に係る発明の技術的範囲を超えて,特許
発明でない技術について実施の権利を専有しようとするものであって,採用する余地はない。
また,原告は原告主張の本件技術は被告P2との間だけで知られたものであったなどとも主張するが,この技術が営業秘密に当たるなどとして法律上の保護の対象になることを認めるに足りる証拠はない。

そして,原告のその他の主張立証によっても,原告が特許権とは異なる法律上の保護に値する何らかの利益を有していることを認めることはできない。
そうすると,被告会社による被告製品の販売行為について不法行為が成立するとはいえないし,以上の判示に照らせば,被告会社において,被告製品の販売による利益(利得)を原告に対して返還すべき義務があるともいえない。4
争点5(共有特許権についての通常実施権の許諾等を理由とする不法行為に
基づく損害賠償請求及び不当利得返還請求の可否)について
(1)被告会社は中国の会社との間で,本件業務委託契約を締結し,この契約に基づき,中国の会社から1500万円の支払を受けたところ,原告は,この契約に基づいて行われた行為が共有特許権の侵害に当たると主張する。
(2)後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

被告会社と中国の会社が締結した本件業務委託契約の内容は,次のとお
りである(乙15)。
(ア)業務委託の内容(第1条第1項,第2項)
中国の会社は,被告会社に対し,次の技術指導業務(以下,本項において本件業務という。)を委託し,被告会社はこれを受託する。
a
カキ殻加工固形物(ケアシェル)の製造技術指導

b
ケアシェル使用方法の技術指導

c
ケアシェル応用方法の開発と応用方法の技術指導

(イ)本件業務の対価等(第3条)
中国の会社は,被告会社に対し,本件業務の対価として,年額500万円を日本円で毎年2月末日に支払う。ただし,支払は契約締結後,3年間のみとし,支払総額は1500万円とする(以下略)(第1項)。
また,中国の会社は,同社が販売したケアシェルの販売総額の3%を売上報酬として,上記対価とは別に,毎年2月末日及び8月末日に支払う。なお,この売上報酬は,共有特許の権利が消滅するまでの期間のみ支払うものとする(第3項)。
(ウ)製造・販売地域(第4条)
a
中国の会社は,被告会社の指導を受けたケアシェルに関するノウハ
ウを利用して製造,販売する一切の成果物(以下,本項において成果物等という。)を,日本国以外で製造,販売することができるものとする。中国の会社は,共有特許権が存続する間は,成果物等を日本国において製造,販売することはできない。ただし,共有特許権が存続する間は,中国の会社は被告会社の文書による要請により成果物を被告会社に販売することができる(第1項)。b
前項の規定に違反した場合,中国の会社は被告会社に対し,違約金
として500万円を支払う。ただし,この条項は被告会社に実際に生じた損害の額が違約金の額を超える場合,その超過額について,追加して請求することを妨げるものではない(第2項)。
(エ)特許申請(第8条第1項)

中国の会社は,ケアシェルについて,被告会社の社長である被告P2が日本において共有特許権を既に取得していることを認め,共有特許権が存続する間はケアシェルを日本で製造,販売,日本へ輸出しないことを誓約する。ただし,被告会社の文書による要請により日本に輸出することができる。
(オ)有効期間(第11条第1項)

本契約の有効期間は,平成29年2月1日から平成32年1月31日とする。

平成29年1月22日の中日新聞の波の詩(うた)という欄に,被
告製品を被告P2が開発したことや,今春には,技術供与した工場が中国で稼働する旨の記事が掲載された(甲15)。
(3)以上の事実をもとに,まず,本件業務委託契約の締結等が共有特許権の侵害に当たるかを検討する。
確かに,本件業務委託契約の第4条第1項では,中国の会社がカキ殻加工固形物(ケアシェル)の製造技術指導等を受け,そのノウハウを利用して製造,販売
する一切の成果物を製造,販売することができることが明記されており,中国の会社は共有特許の構成を有する養殖魚介類への栄養補給体を製造,販売することも可
能と考えられる。
もっとも,同項では,
日本国以外で製造,販売できる旨明記されている上に,
共有特許権が存続する間は,原則として,上記成果物を日本国において製造,販売することはできないものとされ,
さらに違約金の定めもされている
(同条第2項)

それだけでなく,第8条第1項では,中国の会社は,共有特許権が存続する間は,ケアシェルを日本で製造,販売,日本へ輸出しないことを誓約することが明記されている。
この点に関し,第4条第1項ただし書及び第8条第1項ただし書では,被告会社が文書により要請したときは,中国の会社は上記成果物を被告会社に販売できるこ
とや,ケアシェルを日本に輸出できることが明記されているが,あくまでも中国の会社がこれらをすることができるのは,被告会社が文書により要請する場合に限られているから,上記各条項によって,中国の会社に対し,共有特許の日本国内での実施が許諾されたものと認めることはできない。
そして,本件業務委託契約の他の条項を検討しても,中国の会社に対し,日本国
内での共有特許の実施を許諾することを内容とする条項が設けられているとは認められないから,本件業務委託契約が中国の会社に対し,共有特許権についての通常実施権を許諾することを内容とするものと認めることはできない。以上より,これを前提とする原告の主張には理由がない。
(4)次に,原告は,中国の会社がケアシェルを製造し,これが共有特許発
明の技術的範囲に属していることを前提として,その製造が共有特許権の侵害に当たると主張する。
しかし,中国の会社がケアシェルを製造し,これが共有特許発明の技術的範囲に属するもの(共有特許の実施品)であることを認めるに足りる証拠はないし,中国の会社がこれを日本国内で製造したことを認めるに足りる証拠もない。
したがって,
中国の会社が共有特許権の侵害行為をしたと認めることはできない。(5)以上より,本件業務委託契約の内容とするところは,共有特許権の排他的
効力とは無関係であるから,被告会社が中国の会社と本件業務委託契約を締結したこと等が,共有特許権者である原告の権利を侵害したことを理由とする原告の請求は理由がない。
5
争点6(被告P2の会社法429条1項に基づく責任の有無)について
前記1ないし4によれば,被告会社が不法行為に基づく損害賠償又は不当利得返還請求権に基づく利得の返還の責任を負うとはいえない。そうすると,被告P2が代表取締役としての任務を怠ったとはいえないから,原告の被告P2に対する会社法429条1項に基づく損害賠償請求には理由がない。
6
まとめ

以上によれば,被告会社が共有特許権や甲4特許権を侵害する行為をしたとはいえないから,これを理由とする損害賠償請求や不当利得返還請求には理由がなく,被告らがこれらの特許権を侵害するおそれも認められないから,差止請求・廃棄請求も認められない。また,被告会社の行為に違法性は認められないことなどから,その他の金銭請求にも理由がない。

よって,原告の請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部

裁判長裁判官
谷有恒
裁判官
野上誠一島村陽子
裁判官
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