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覚せい剤取締法違反、詐欺未遂、詐欺被告事件
事件番号平成30(あ)1224
事件名覚せい剤取締法違反,詐欺未遂,詐欺被告事件
裁判年月日令和元年9月27日
法廷名最高裁判所第二小法廷
裁判種別判決
結果破棄自判
原審裁判所名東京高等裁判所
原審事件番号平成30(う)197
原審裁判年月日平成30年7月20日
判示事項詐欺の被害者が送付した荷物を依頼を受けて送付先のマンションに設置された宅配ボックスから受け取るなどした者に詐欺罪の故意及び共謀があるとされた事例
裁判日:西暦2019-09-27
情報公開日2019-09-27 18:00:04
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平成30年(あ)第1224号
令和元年9月27日

覚せい剤取締法違反,詐欺未遂,詐欺被告事件

第二小法廷判決

主文
原判決を破棄する
本件控訴を棄却する。
原審における未決勾留日数中140日を本刑に算入する。
理由
検察官の上告趣意は,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
しかしながら,所論に鑑み,職権をもって調査すると,原判決は刑訴法411条3号により破棄を免れない。その理由は,以下のとおりである。
第1
1
第1審判決及び原判決の要旨
第1審判決は,覚せい剤取締法違反の罪(使用・所持)のほか,要旨以下の
とおりの(1)の詐欺及び(2)の詐欺未遂の各犯罪事実(以下,これらの各犯罪事実に係る事件をそれぞれ詐欺既遂事件,詐欺未遂事件という。)を認定し,被告人を懲役4年8月に処した。
(1)

被告人は,架空の老人介護施設の入居権譲渡に関する問題を解決するため
に必要であるように装って現金をだまし取ろうと考え,氏名不詳者らと共謀の上,平成28年10月下旬頃から同年11月21日頃までの間,複数回にわたり,千葉県市川市内のA方に電話をかけ,A(当時71歳)に対し,ケアプランナー及び建設会社の職員を名乗り,Aが前記入居権譲渡に関して名義貸しをしたことによる問題を解決するため,現金350万円を東京都江東区内のマンションの1303号室B宛てに宅配便で2回に分けて送付する必要がある旨うそを言い,Aにその旨誤信させ,同月17日及び同月21日の2回にわたり,前記B宛てに現金合計350万円在中の荷物を宅配便で発送させ,同月18日及び同月22日の2回にわたり,被告人が,前記マンションに設置された宅配ボックスに預けられた前記荷物を取り出してAから現金合計350万円の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させた。
(2)

被告人は,架空の老人介護施設の入居権に関する取引実績作りの名目で現
金をだまし取ろうと考え,氏名不詳者らと共謀の上,平成28年12月上旬頃から同月6日頃までの間,複数回にわたり,浜松市内のC方に電話をかけ,C(当時77歳)に対し,ケアプランナー及び建設会社の職員を名乗り,Cが有するとする入居権を他の入居希望者に譲渡した対価をCに振り込む前提として,建設会社との取引実績を作るため,現金150万円を東京都北区内のマンションの303号室D宛てに宅配便で送付する必要がある旨うそを言い,Cにその旨誤信させ,同月6日,前記D宛てに現金150万円在中の荷物を宅配便で発送させ,同月7日,被告人が,前記マンションに設置された宅配ボックスに預けられた前記荷物を取り出してCから現金をだまし取ろうとしたが,Cが警察に相談するなどして前記荷物の中に偽装紙幣を入れていたため,その目的を遂げなかった。
2
被告人は,第1審判決に対し,訴訟手続の法令違反,事実誤認を理由に控訴
した。原判決は,第1審判決が詐欺未遂事件について被告人に詐欺の故意及び共謀を認めた点に事実誤認はないが,詐欺既遂事件について被告人に詐欺の故意及び共謀を認めた点には事実誤認があるとして,第1審判決を破棄し,詐欺既遂事件について無罪を言い渡した。その理由の要旨は,以下のとおりである。第1審判決は,詐欺未遂事件について被告人は詐欺の未必の故意を有していたと推認できることを基礎とし,①詐欺未遂事件と詐欺既遂事件が同一の詐欺グループによる犯行と推認されること及び②被告人が詐欺既遂事件において荷物を取り出す際に,詐欺未遂事件の犯行時に通話していたのと同一の電話番号の相手と通話していたことを理由として,被告人は詐欺既遂事件についても詐欺の未必の故意及び共謀があったことを推認している。
しかしながら,詐欺未遂事件の際に存在した事情から被告人に当時詐欺の故意が認められるからといって,当然に被告人に詐欺既遂事件の際に詐欺の故意があったといえないことは明らかであり,上記①,②の事実は,被告人が,詐欺既遂事件の際にも,詐欺未遂事件の際と同じ認識を有していたことを推認させる事実とは認められない。詐欺既遂事件については,詐欺既遂事件の際に認められる諸事情に限定して,そこから被告人に詐欺の故意,共謀が認められるかどうかを検討すべきであり,上記諸事情からは,被告人が,詐欺の被害者が送った荷物を取り出しているのかもしれないという認識に至ると推認するには足りない。最低限,以前から同じような取出しを繰り返していたとか,別のマンションでも同じような取出しをしていたなどの事実が加わらなければ,詐欺の被害者が送った荷物を取り出しているのかもしれないという詐欺の故意の推認に結び付く発想に至らないのであって,詐欺の未必的な認識まで推認するには,合理的な疑いが残る。
第2

当裁判所の判断

しかしながら,詐欺既遂事件について被告人の詐欺の故意及び共謀を否定した原判決の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。1
第1審判決及び原判決の認定並びに記録によると,詐欺既遂事件の事実関係
は,以下のとおりである。
(1)

前記第1の1(1)のマンション(以下本件マンションという。)のエン
トランスには,オートロック式の自動ドアとインターフォン機器のほか,集合郵便受け及び宅配ボックスが設置されている。同郵便受けのエントランス側(表側)には郵便物等の投入口があるが,郵便物等の受取は,オートロックを解錠して自動ドアからマンションのエレベーターホールに入り,同郵便受けの裏側から行う構造となっている。また,荷物の配達時に名宛人である居住者が不在であった場合には,宅配業者は,荷物を宅配ボックスに入れ,暗証番号を設定して施錠した上,不在連絡票に暗証番号を記入してこれを名宛人の郵便受けに投函し,名宛人は,郵便受けから不在連絡票を取り出し,そこに記載された暗証番号を用いて宅配ボックスから荷物を受け取る仕組みとなっている。(2)

被告人は,荷物受取の依頼を受け,平成28年11月18日,本件マンシ
ョンのエントランスに入り,1303号室の郵便受けの投入口から宅配便の不在連絡票を取り出し,そこに記載された暗証番号を用いて宅配ボックスの扉を開け,Aが送付した現金在中の荷物を取り出し,その後,同荷物を回収役に渡した。(3)

被告人は,荷物受取の依頼を受け,同月22日にも,本件マンションのエ
ントランスに入り,1303号室の郵便受けの投入口から不在連絡票を取り出し,そこに記載された暗証番号を用いて宅配ボックスの扉を開け,Aが送付した現金在中の荷物を取り出し,その後,同荷物を回収役に渡した(以下,Aが送付した各荷物を本件各荷物という。)。
なお,被告人は,上記各受取の際に,携帯電話を使用して,詐欺未遂事件の荷物受取の際に通話していたのと同一の電話番号の相手と通話していた。(4)

上記1303号室は,Bではない前入居者が同月18日を解約日として退
去した後,同月中の入居者はいなかった。
2
被告人は,依頼を受け,他人の郵便受けの投入口から不在連絡票を取り出す
という著しく不自然な方法を用いて,宅配ボックスから荷物を取り出した上,これを回収役に引き渡しており,本件マンションの居住者が,わざわざ第三者である被告人に対し,宅配ボックスから荷物を受け取ることを依頼し,しかも,オートロックの解錠方法や郵便受けの開け方等を教えるなどすることもなく,上記のような方法で荷物を受け取らせることは考え難いことも考慮すると,被告人は,依頼者が本件マンションの居住者ではないにもかかわらず,居住者を名宛人として送付された荷物を受け取ろうとしていることを認識していたものと合理的に推認することができる。以上によれば,被告人は,送り主は本件マンションに居住する名宛人が荷物を受け取るなどと誤信して荷物を送付したものであって,自己が受け取る荷物が詐欺に基づいて送付されたものである可能性を認識していたことも推認できるというべきである。原判決は,詐欺既遂事件については,詐欺既遂事件の際に存在した諸事情に限定して,被告人に詐欺の故意が認められるかどうかを検討すべきであるとした上,最低限,以前から同じような取出しを繰り返していたとか,別のマンションでも同じような取出しをしていたなどの事実が加わらなければ,詐欺の被害者が送った荷物を取り出しているのかもしれないという,詐欺の故意に結び付く発想には至らないというが,事後的な事情を含めて詐欺の故意を推認することができる場合もあり得る上,以上のような本件の事実関係に照らせば,原判決が指摘する事実は,被告人の詐欺の故意を推認するのに不可欠なものとはいえない。また,被告人は,

Bから荷物の受取を依頼されたのであり,Bは本件マンションに居住していると思っていた。

旨供述するが,上記のような被告人の本件各荷物の取出し方法や各事件当時の通話状況に照らせば,この供述を信用することはできず,それ以外に上記の詐欺の可能性の認識を排除するような事情も見当たらない。
このような事実関係の下においては,被告人は,自己の行為が詐欺に関与するものかもしれないと認識しながら本件各荷物を取り出して受領したものと認められるから,詐欺の故意に欠けるところはなく,共犯者らとの共謀も認められる。そうすると,詐欺既遂事件について被告人に詐欺の故意を認めることができないとした原判決は,詐欺の故意を推認させる事実の評価を誤り,重大な事実誤認をしたというべきであり,これが判決に影響を及ぼすことは明らかであって,原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められる。
よって,刑訴法411条3号により原判決を破棄することとし,以上の検討によれば,詐欺既遂事件について被告人に詐欺の故意及び共謀を認めた第1審判決の判断は,その結論において是認することができ,また,訴訟記録に基づいて検討すると,被告人のその余の控訴趣意もいずれも理由がなく,結局,第1審判決はこれを維持するのが相当であるから,同法413条ただし書,414条,396条により被告人の控訴を棄却し,原審における未決勾留日数の算入につき刑法21条,当審及び原審における訴訟費用につき刑訴法181条1項ただし書を適用することとし,裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。検察官菅野俊明,同小長光健史(裁判長裁判官

菅野博之

公判出席

裁判官

山本庸幸

草野耕一)
裁判官

三浦


裁判官

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