判例検索β > 平成31年(行ケ)第10035号
審決取消請求事件 商標権 行政訴訟
事件番号平成31(行ケ)10035
事件名審決取消請求事件
裁判年月日令和元年9月18日
法廷名知的財産高等裁判所
裁判日:西暦2019-09-18
情報公開日2019-10-01 16:00:20
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令和元年9月18日判決言渡
平成31年(行ケ)第10035号
口頭弁論終結日

審決取消請求事件

令和元年6月26日
判原決告X
同訴訟代理人弁護士

古澤康治同岩本直樹
同訴訟代理人弁理士

相原被
紀州住機建設株式会社


同訴訟代理人弁理士

西主1原正広徳文
特許庁が取消2017-300389号事件について平成31年2月27日にした審決を取り消す。

2
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求
主文第1項と同旨

第2

事案の概要

1
特許庁における手続の経緯等(後掲各証拠及び弁論の全趣旨から認められる事実)


原告は,次の商標(以下本件商標という。)の商標権者である(甲
1)。
登録番号

第5639879号

登録出願日

平成25年7月9日

設定登録日

平成25年12月27日

登録商標(標準文字)

アンドホーム

商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務
第37類

建設工事,建築工事に関する助言,建築物の
施工管理,建築設備の運転・点検・整備

第42類

建築物の設計,測量,地質の調査,デザイン
の考案,建築又は都市計画に関する研究



被告は,本件商標の指定役務中,第42類建築物の設計,デザインの考案についての不使用を理由として,商標法50条1項に基づき,商標登録取消審判請求をし,平成29年6月22日,同請求が登録された(取消2017-300389号)。



特許庁は,上記請求について審理した上,平成31年2月27日,登録第5639879号商標の指定役務中,第42類「建築物の設計,デザインの考案についての商標登録を取り消す。」旨の審決(以下本件審決という。また,取消しに係る役務を取消対象役務という。)をした。その謄本は,同年3月7日,原告に送達された。



原告は,平成31年3月23日,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。

2
本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりであり,その要旨は,次のとおりである。

原告の被告に対する本件商標の使用許諾は認められないから,被告が通常使用権者として,本件商標を使用したものとは認められない。
また,K(以下Kという。なお,本件審決ではK氏と記載されている。)は,本件商標の通常使用権者であると認めうるとしても,取消対象役務について本件商標を使用したものとは認められない。
したがって,原告が,前記取消審判請求の登録前3年以内(平成26年6月22日から平成29年6月21日までの期間である。以下要証期間という。)に日本国内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが取消対象役務について本件商標を使用していたことを証明したとは認められない。
よって,本件商標は,商標法50条の規定により,取消対象役務について,その登録を取り消すべきものである。
3
取消事由


原告の被告に対する使用許諾についての判断の誤り(取消事由1)


Kによる本件商標の使用についての判断の誤り(取消事由2)

第3

原告主張の取消事由

1
取消事由1(原告の被告に対する使用許諾についての判断の誤り)⑴

本件審決は,被告と原告の間に何らかの契約関係があったことはうかがわれるが,本件商標の使用許諾が含まれていると認めることはできないと判断したが,これは次のとおり誤りである。



被告は,原告から本件商標の使用の許諾及びブランドデザインを含むコンサルティングを受けていた。また,被告は,自社ブランドを構築する際,検討している呼称について商標検索を行い,その過程で,原告が本件商標を取得していることに気づいたはずである。被告が警告書によって初めて気づい
たというのは不自然であり,呼称についても許諾を得ていたというべきである。
2
取消事由2(Kによる本件商標の使用についての判断の誤り)


本件審決は,取消対象役務について本件商標を使用していないことを主たる理由としてKによる使用を否定する判断をしたが,これは次のとおり誤りである。



まず,商標法50条所定の使用は,当該商標がその指定商品又は指定役務について何らかの態様で使用されていれば足り,出所表示機能を果たす態様に限定されるものではないと解される。



使用の該当性について

商標法2条3項3号について
商標法2条3項3号について,標章が付される対象物は,役務を提供する者が,その役務を提供するに当たり,その役務の提供を受ける者(以下需要者という。)の利用に供する物であればよく,需要者が直接に利用する物に限られないというべきである。
建物の建築工事を行うには建築物の設計が必要であるところ,本件の資金計画表には建物設計申請費用の項目が存在している。また,Kのような工務店による家づくりの場合,いわゆる自由設計・注文住宅という形態で家づくりが行われるので,設計費が見積書等に独立して計上されていない場合,建築工事費の中に上乗せして設計費用が含まれている。建築図面や建築確認申請用の図面については,間取りや使用する建材等の仕様について工務店と注文者との打合せで決定したうえで,図面の作成自体は下請け等に外注することが広く行われており,必ずしも一次的な設計者といえる工務店自らが図面を作成するものではない。
したがって,工事請負契約書,資金計画表,建築図面の提供を受けながらKと打ち合わせをしていた本件の注文者らは,Kが建築物の設計の役務を提供していると認識している。
そうすると,同資金計画表にアンドホームの標章を付したこと
は,建築物の設計の役務を提供するに当たり,需要者の利用に供する物に標章を付する行為といえる。

商標法2条3項4号について
Kは,原告が代表者を務めるコラボハウスの協力を得て建築物の設計をし,また,建築確認の申請にあたっては,山陰建築士に依頼をした。建築物の設計を行いながら作成されたのが資金計画表及び工事請負契約書である。
そうすると,Kが,資金計画表や工事請負契約書にアンドホームの標章を付して建築物の設計を行った行為は,建築物の設計の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為といえるから,商標法2条3項4号に該当する。


商標法2条3項8号について
商標法2条3項8号の取引書類には,注文書・納品書等が含まれ
る。
本件では,Kは,契約書,各種見積もり,資金計画表を,注文者に交付したから,商標法2条3項8号に該当する。
また,Kは,代表取締役を務めていた株式会社松山中央不動産(以下松山中央不動産という。)のホームページにおいて,会社を設立した平成27年12月24日からシンプルハウスを設立した平成28年6月9日までの間のいずれかの時期において,
アンドホームの標章を

付した広告をしていた。
かかる行為も,
商標法2条3項8号に該当する。
本件審決はこの点について判断をしておらず,
審理不尽の違法がある。


以上のとおり,通常使用権者であるKは,要証期間内に,取消対象役務について,本件商標を使用したものである。

第4

被告の反論

1
取消事由1(原告の被告に対する使用許諾についての判断の誤り)について⑴

争う。次のとおり,原告の主張は失当であり,被告によるアンドホーム又はアンドホーム建築設計事務所の標章の使用は,本件商標の通常使用権者による商標の使用ではない。



原告は,被告が原告からコンサルティングを受けていたことなどを主張する。しかしながら,ブランドデザインのコンサルティングを受けることと商標の使用許諾を受けることは全く別のものである。
また,原告は,被告が自社ブランドを構築する際に商標検索を行い,原告の商標取得に気がついたはずであるなどと主張する。しかしながら,そのような事実はない。

2
取消事由2(Kによる本件商標の使用についての判断の誤り)について⑴

本件商標を取消対象役務について取り消した本件審決の判断に誤りはない。



原告は,商標法50条の使用につき,出所表示機能を果たす態様に限定されるものではないなどと主張する。しかしながら,本件は,原告及びKが取消対象役務を提供せず,あるいは取消対象役務に本件商標を使用していないものであるから,失当である。



前提とする事実関係について(書証の成立の真正等も含む)
被告は,原告が主張する事実関係を争うものである。また,原告がその事
実関係を裏付けるものとして提出する書証につき,その成立及び信用性を争う。具体的な主張は,次のとおりである。

請負契約書,資金計画表及び建築図面について
まず,請負契約書(甲20から22まで),資金計画表(甲30,3
1,33から35まで,38,43,45,50,51),及び建築図面(甲29,32,36,37,40)は,その注文者又は宛先がマスキングされているから,証拠としての関連付けがされていない。また,これらの証拠は,甲22以外,本件審判手続において写しが原本として提出され,原本そのものは提出されていない。請負契約書(甲70,71)の成立の真正及び信用性も争う。
次に,資金計画表には,打ち合わせにおける内容の変更に関する書き込みが一切ない。何度も打ち合わせをして資金計画を変更したのであれば,建築図面と同様,資金計画表にも注文者の要望等が書き込まれ,それに基づき新たな資金計画表を作成するはずである。一切書き込みがないことは,資金計画表が打ち合わせに現実に用いられたものでないことを示すものというべきであり,少なくとも資金計画表は,ねつ造された書面である可能性が非常に高い。
そして,原告は,本件審判手続における各書証の写しにおいて注文者の氏名及び住所を全てマスキングし,営業秘密であると述べるなどしていた。このような原告の行動も,原告の提出する各書証がねつ造されたものであることを示すものである。
以上のとおり,原告が提出したこれらの書証は,ねつ造されたものと判断せざるを得ず,証拠能力がないものであり,仮に証拠能力があったとしても証明力がないものである。


建築確認申請書及び建築計画概要書について
原告は,建築確認申請書(甲59)及び建築計画概要書(甲60)をも
って,屋号としてアンドホームの名称を使用していたと主張する。しかしながら,この証拠は,成立の真正が認められたとしても,建築確認申請の際に屋号としてアンドホームの名称を記載したことを示すにすぎず,取消対象役務の提供に本件商標を使用したことを示すものではない。
また,確認済証の交付がされるまでは工事に着工できないところ,確認済証の交付は,株式会社シンプルハウスが設立された平成28年6月9日と同日であり,工事着工予定年月日は同月10日とされているから,少なくとも実際の工事着工時にはKは株式会社シンプルハウスの名称で事業を行っていたこととなる。
したがって,これらの証拠は,Kがアンドホームの名称を用いて取消対象役務を行ったことを示すものではない。

Kの本件審判手続における証言及び陳述書について
Kは,要証期間に建築士事務所として登録していなかったところ,かかる事実は,建築設計を行ったとするKの証言(甲58)と矛盾する。また,Kは,本件審判手続における証言及び陳述書(甲19)において,

建築工事中の看板はアンドホームで工事は行います。

と述べている。しかしながら,前記証言における反対尋問において,Kは,看板は全てシンプルハウス名義であったと述べており,これらの内容は一致しない。
そして,Kは,陳述書(甲19,49)では,自らが設計を行っていたことを述べていたにもかかわらず,証人尋問では,設計及び建築図面
の作成をしているのはコラボハウスの設計士であってKは設計及び建築図面の作成をしてないことを述べており(甲58),上記陳述書の記載は真実ではないと判断せざるを得ない。
したがって,Kの陳述書及び証言は真実ではない。

注文者の陳述書について
注文者の陳述書(甲62,66)の成立の真正及びその信用性を争う。これらの陳述書は,言及している時期及び書類が不明確であって,Kが要証期間に本件商標を取消対象役務について使用したことの証拠としては信用性がない。また,これらの陳述書は,前記ウのKの陳述書と同様,信用性が低い。


名刺について
名刺(甲63,67,68(いずれも枝番を含む。以下,枝番のある書証を掲げる場合は同じ。))については,その存在は不知であり,要証期間にKから注文者らに渡された点は否認する。かかる名刺の作成日は明らかでなく,1,2日で容易に作成できるものである。また,かかる名刺にはアンドホームだけではなくAndHomeGroupというアンドホームと不一致の記載がある。

保証書について
保証書(甲64,69)については,否認又は不知である。なお,当該保証書には,発行日の記載もない上に,発注者としてアンドホームの名称が記載されているだけであり,実際に地盤調査をしたのは東昇技建株式会社(以下東昇技建という。)であって,アンドホームの名称にて取消対象役務を要証期間に提供した証拠とはならない。

メールについて

メール(甲65)については,否認又は不知である。なお,メール及びメールを表示する画面は容易に改竄やねつ造が可能なものである上に,本メールには要証期間にアンドホームの名称を用いて取消対象役務を提供した証拠となるべき記載はない。

地盤調査報告書について
地盤調査報告書(甲56)の成立の真正及び信用性を争う。


書証の提出時期について
なお,甲62から69までの書証は,原告準備書面提出期限を過ぎ,かつ,被告準備書面提出後に提出されたものであるが,それまで提出できなかった事情のあるような入手困難な証拠ではない。これらの証拠は,被告に反論の機会を与えないように意図的に口頭審理期日直前に作成,提出されたものであると考えざるを得ない。



使用の該当性について

商標法2条3項3号について
原告は,資金計画表の交付などをもって商標法2条3項3号の使用に該当すると主張する。
しかしながら,そもそも,かかる資金計画表や工事請負契約書は,同号所定のその提供を受ける者の利用に供する物に該当するものではない。
また,建築物の設計について,原告が主張する資金計画表の建物設計申請費用は建築確認申請の費用と考えられ,金額からも建築物の設計費用とはいえない。Kが建築物の設計の役務を提供した証拠とはならない。
そして,原告は,自由設計・注文住宅の場合の設計費用や設計者につい
て主張するが,これを裏付ける証拠は提出されておらず,このような場合,工務店は建築物の設計を行っていないといえる。単に,間取りや使用する建材等の仕様を注文者と一緒に考える程度の行為は,建築物の設計に該当せず,一次的な設計者ともいえないし,Kがこのような具体的行為をした証拠もない。原告が提出する建築図面は建築物を建築する際に必要となる柱,壁,窓等の細かい資材の寸法等を記載した建築図面ではない。
以上によれば,Kは建築物の設計を行っておらず,指定役務建築物の設計についてその提供を受ける者の利用に供する物…に標章を付する行為も行っていない。イ
商標法2条3項4号について
原告は,Kが資金計画表や工事請負契約書にアンドホームの標章を付して建築物の設計を行ったことをもって,商標法2条3項4号に該当するなどと主張する。
しかしながら,上述したとおり,Kが建築図面や建築図面を作成しておらず,建築物の設計を行っていない。また,資金計画表や工事請負契約書には,建築物の設計の費用も計上されていない。これらの証拠によっても,Kが建築物の設計について,その提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為を行ったことは証明されていない。


商標法2条3項8号について
原告は,契約書,各種見積もり,資金計画表の交付をもって商標法2条3項8号に該当すると主張する。
しかしながら,注文から納品までの役務提供期間に本件商標を付して役
務を提供したことが感得されるような証拠は提出されていない。これまでに述べたとおり,Kは,取消対象役務をアンドホームの名称にて提供していない。
また,原告が取引書類であると主張する上記書類を,Kが,展示,頒布等したとも認められない。
更に,原告は松山中央不動産のホームページで広告をしていたと主張する。しかしながら,原告の提出する証拠は要証期間に広告を行っていたことの証拠になるものではない。


名目的な使用であることについて
原告は,被告がアンドホーム又はアンドホーム建築設計事務所の名称を使用していることを知っていたにも関わらず,Kに一時的にアンドホームの名称を使用させたものである。
そうすると,原告は,被告への警告をする前に,Kにアンドホームの名称を一時的に使用させて不使用取消を免れようとしたか,あるいは,被告が精力的に使用することによりアンドホーム又はアンドホーム建築設計事務所に化体させた業務上の信用を不当にKへ移転させようとしたと考えられる。
Kによる平成28年4月の同時期の3件だけについての使用は,反復継続性に欠ける名目的な使用であるから,そもそも業としての使用にあたらず,不使用取消を免れさせる使用には該当しない。

第5

当裁判所の判断

1
認定事実


被告は,原告が提出する書証につき,その成立の真正及び信用性を争うので,まずこの点について検討する。

原告が,Kによる本件商標の使用の事実に関して提出する書証の記載内容は次のとおりである。

工事請負契約書(甲70)に係る新築工事に関する書証
(ア)

平成28年4月7日付け工事請負契約書の写し(甲70。これは甲
20のマスキングを外した契約書の写しである。以下工事請負契約書1といい,同契約書に係る契約を工事請負契約1という。)には,その表紙に,注文者として夫婦2名の氏名(以下注文者1という。)及び請負業者としてアンドホーム代表Kと記載されてい

る。また,同契約書本文にも,請負業者であるアンドホームと注文者1とが,松山市内の木造ガルバリウム鋼板葺2階建の工事請負契約(着手平成28年5月下旬,完成同年9月下旬,請負代金額合計1302万3192円。建物の売買代金はアンドホーム仕様によるものなどとする記載がある。)を締結する旨の記載が存在し,末尾には,注文者1の各署名押印とアンドホーム代表Kの記名押印が存在す

る。同契約書は,収入印紙が貼付され,契印もなされるなどしており,少なくともその写しからは,内容及び外観上不自然な点は見当たらない。
(イ)

工事請負契約1の建築工事に対応する平成28年6月9日付けの確
認済証及び添付書類一式の原本(甲59)には,確認申請書も含まれており,同申請書の工事施工者欄には,不動文字で,氏名K,営
業所名アンドホームなどと記載されている。
また,かかる確認済証の確認対象とされた建物の建築計画概要書の写し(甲60。原告は,平成31年4月23日に松山市建築指導課において謄写したものと説明する。)には,工事施工者欄に,氏名代表取締役K(不動文字であるKの前に手書きで代表取締役」と挿
入されたもの。)及び営業所名株式会社シンプルハウス(不動文

字であるアンドホームとの記載を手書きの二重線で削除した上で,その横に記載されたもの。)などと記載されており,備考欄には平成28年6月15日に工事施工者変更届が提出された旨が手書きで記載されている。
(ウ)

工事請負契約1の経過に関する書証として,①平成28年3月2日
付け,同月8日付け,同月28日付け,同年4月5日付け及び同月22日付けの各建築図面の写し(甲29,32,36,37,40),②同年3月2日付け,同月7日付け,同月20日付け,同月23日付け,同月26日付け,同年4月8日付け,同年5月10日付け及び同月14日付けの各資金計画表の写し(甲30,31,33から35まで,38,43,45),③名刺の原本(甲63),④保証書の原本(甲64),⑤Kが注文者1に宛てたメール2通の表示画面を撮影して印刷したもの(甲65)が提出されている。
①各建築図面は,いずれも,建物の平面図及び立面図が記載されたものであるが,アンドホームとの標章の記載は存在しない。
②各資金計画表は,いずれも,アンドホーム資金計画表との見出しの下に,工事代金(その内訳は,建物工事費,建物付帯工事,お客様持ち込み費用,土地代金などの不動産関連の支払費用である。)及び工事代金以外の費用(その内訳は,登記費用,銀行費用,建物オプション費用である。建物オプション費用には,地盤改良工事費用(予定費)との項目や,値引項目が含まれる。)の内訳や建築費用合計額が記載されるとともに,住宅ローンの借入金額とみられる記載や頭金の記載,それ
を踏まえた毎月の支払金額等が記載されている。建物オプション費用の内訳部分には,地盤改良工事費用(予定費)40万円の項目において

◎地盤調査の結果により工事費用が変動いたします。

(5.4万円~50万円程度の価格差があります。)

との記載があり,また,アンドホーム契約値引き(役員承認)(ただし,一部端が切れている記載もある。)として値引き額が記載されている。平成28年4月8日付けの資金計画表(甲38)の建物工事費1355万1192円及び建物付帯工事97万7000円の合計額から建物契約印紙費用5000円及びアンドホーム契約値引き(役員承認)150万円を控除すると,前記(ア)の契約金額と同じ1302万3192円となる。
③名刺は,両面印刷されており,表面及び裏面のいずれにも,代表Kとの記載とともに,事業者又は屋号を示すものとしてアンドホームとの記載がある。日付けの記載は存在しない。④保証書は,地盤総合保証の保証書であり,工事請負契約1の対象である建物につき,東昇技建が実施した地盤調査について,地盤の不同沈下に起因する建物の不具合によって発生した損害を保証することなどを内容とするものであり,仕事発注者としてアンドホームと記載されている。また,かかる保証契約は,建設会社と地盤調査会社等の請負契約の成立を前提とする旨の記載がある一方で,発行日などの日付けの記載は存在しない。
⑤のメールの写真は,それぞれ2016年3月4日及び2016年4月28日に,Kから注文者1に送信したとみられる内容のメールを撮影し,印刷したものであり,いずれのメールにも,アンドホームKとの表示が存在する。これらの各書証につき,その内容及び外観上不自然な点は見当たらない。
(エ)

陳述書(甲62)は,注文者1(夫)が,工事請負契約1の経過に
つきその認識を記載した書面であって,Kに対して土地探しから相談して,Kから建物の図面や見積りについて説明を受けるなどして,最終的に契約を締結したことなどが記載された上で,末尾に,注文者1の住所及び署名押印が存在する。

工事請負契約書(甲21)に係る新築工事に関する書証
平成28年4月24日付け工事請負契約書の写し(甲21。ただし,注文者の住所及び氏名はマスキングされたもの。)には,その表紙に請負業者としてアンドホーム,同契約書本文に,請負業者であるアンドホームが注文者と工事請負契約を締結する旨の記載が存在し,末尾には,アンドホームウ代表Kの記名押印が存在する。

工事請負契約書(甲71)に係る新築工事に関する書証
(ア)平成28年4月24日付け工事請負契約書の原本(甲71。これは甲22のマスキングを外した契約書の原本である。以下工事請負契約書3といい,同契約書に係る契約を工事請負契約3という。)には,その表紙に,注文者として夫婦2名の氏名(以下注文者3という。)及び請負業者としてアンドホームと記載されている。また,同契約書本文にも,請負業者であるアンドホームと注文者3とが,松山市内の木造ガルバリウム鋼板葺2階建の工事請負契約(着手平成28年6月下旬,完成同年10月中旬,請負代金額合計1241万3270円。建物の売買代金はアンドホーム仕様によるものなどとする記
載がある。)を締結する旨の記載が存在し,末尾には,注文者3の各署名押印とアンドホーム代表Kの記名押印が存在する。同契約書

は,収入印紙が貼付され,契印もされるなどしており,その内容及び外観上不自然な点は見当たらない。
(イ)工事請負契約3により建築された建物の建築計画概要書の写し(甲9)には,工事施工者欄に,いずれも不動文字により,氏名代表取締役K及び営業所名シンプルハウスなどと記載されており,
アンドホームとの標章の記載はない。また,確認済証交付年月日は平成28年7月14日と記載されている。
(ウ)工事請負契約3の経過に関する書証として,⑥平成28年3月30日付け及び同年5月29日付けの各資金計画表の写し(甲50,51),⑦名刺2種類の写し(甲67,68),⑧地盤調査報告書の写し(甲56)及びその保証書の写し(甲69)が提出されている。
⑥各資金計画表の見出しや項目等の体裁は,いずれも前記ア(ウ)の②と同様である。ただし,地盤改良工事費用(予定費)の金額については,平成28年3月30日付けのものが40万(工事請負契約1の金額と同額である。)と記載されているのに対し,同年5月29日付けのものが7万9920円と記載されている。そして,値引きについては,単に(役員承認建物オプション値引き)などとして値引き額の記載があるにとどまる。また,建物の仕様についてアンドホームオープン前契約コラボハウス注文住宅仕様という記載が存在する。平成28年5月29日付けの資金計画表(甲51)の建物工事費1244万1276円及び建物付帯工事98万2000円の合計額から建物契約印紙費用1万円及び(役員承認建物オプション値引き)1
00万円を控除すると,前記(ア)の契約金額とほぼ同じ1241万3276円となる。
⑦各名刺の写しは,両面印刷の名刺を片面ずつコピーしたものとみられるところ,甲67の名刺は甲63のものと同じ体裁であり,甲68の名刺は,片面に,代表K及び事業者又は屋号を示すものとして

アンドホームの記載がある。日付けの記載は存在しない。
⑧地盤調査報告書の写しは,東昇技建が工事請負契約3の工事に関して平成28年5月25日に実施した地盤調査の報告書であり,ビルダー様名称としてアンドホームの記載が存在する。そして,同報告書の基礎仕様審査書の考察欄では,調査地についてベタ基礎により対応可能とされており,これは,同報告書において地盤改良を必要としないと判断されたことを意味する。また,保証書は,かかる報告書を受けて発行された地盤総合保証の保証書であり,注文者3の工事請負契約の対象である建物につき,前記④と同種の保証をすることを内容とするものである。保証書には仕事発注者としてアンドホームと記載されており,かかる保証契約は,建設会社と地盤調査会社等の請負契約の成立を前提とする旨の記載がある。いずれも発行日の記載は存在しない。(エ)

陳述書(甲66)は,注文者3(妻)が,工事請負契約3の経過に
つきその認識を記載した書面であって,希望の土地を見つけた段階でKを紹介され,Kから図面や資金計画表について説明を受けるなどして,最終的に契約を締結したことなどが記載された上で,末尾に,注文者3の住所及び署名押印が存在する。


前記⑴ア(ア)(ウ)(エ),イ,ウ(ア)(ウ)(エ)の各書証につき,被告は,その成立の真正を争うとともに,その信用性についても争うので,順に検討する。

まず,上記各書証の成立の真正についてみると,原本で提出されているもの(甲62から64まで,66,71)と写しが原本として提出されているもの(甲21,29から38まで,40,43,45,50,51,56,65,67から70まで)とが存在する。そして,信用性の点につき別途の検討を要するとしても,その記載内容や外観,この点に関する本件審判手続の証人尋問におけるKの供述内容(甲58)によれば,当該各書証の名義人として表示された者の意思に基づいて当該各書証が作成されたこと,すなわち各書証の成立の真正(写しを原本として提出する書証についてはその原本の存在も含む。)が認められる。


これに対し,被告は上記のとおり各書証の成立の真正を争うものの,被告自身が名義人であるなど,被告がその作成過程を認識し得る書証は含まれておらず,当該各書証に名義人として表示された特定の作成者の意思に基づかずに当該各書証が作成されたことについて具体的な事実関係を主張するものではない。むしろ,被告の主張は,各書証の作成名義ではなく,その作成時期や記載内容の信用性を争うものである(前記第4の2⑶参照)。そうすると,当該各書証の成立の真正に関する被告の主張は採用できず,前記アの通り,前記⑴にみた各書証の成立の真正が認められる。


次に,書証の信用性について検討する。

前提として,各書証の作成経過についてみると,Kは,本件審判手続の証人尋問(甲58)において,建設会社の従業員を辞めて事業を始める際に,原告に相談したところ,原告から本件商標の使用を許されたため,平成28年1月末頃から,アンドホームの名称で,客から注文を受けて建物の設計と建築をする住宅の事業を始めたこと,アンドホームの名称で,少なくとも3件の契約をしたこと,その3件の契約は,Kが,名刺
を渡して自己紹介をした上で,その注文者らと直接やりとりをしながら,何度も資金計画表や建築図面等を修正して注文者らに提案し,最終的に契約書を交わして契約を締結したこと,上記建築図面は,K自らがラフな図面を描いた上で他の設計士に依頼して作ってもらったこと,上記資金計画表は全てKが作成したこと,資金計画表の建物の設計申請費用とは,建築図面を作って市の検査に出すための費用であること,同表に記載されている地盤改良工事費用は,地盤調査費用及びその調査の結果土地が軟らかいことが判明した場合に必要となる改良工事の費用が計上されていること,資金計画表の建物工事費及び消費税と,建物付帯工事費
用の合計額から,先にもらっている建物契約印紙費用を引いて,アンドホーム契約値引き(役員承認)を引くと,契約書の請負代金額となること(なお,建物印紙の金額を足すかのような供述をするが,文脈に照らし言い間違いであることは明らかである。),地盤調査は東昇技建に依頼して行ってもらったこと,平成28年6月9日にアンドホームからシンプルハウスに名前を変えて法人化したこと,契約をした3件についてはいずれも建築工事を完了したことを供述する。
また,Kは,上記尋問において,建築確認申請書については,アンドホームで出したかシンプルハウスで出したかは今手控えがないので分からないとしつつも,平成28年6月9日以降,銀行との関係では,アンドホームで出した事前審査関係書類をシンプルハウス名義のものに差し替えるなどしたが,役所の関係の申請等は現場監督がしていたので分からないなどという趣旨の供述をする。
そして,Kは,陳述書(甲19,49)においても,概ね同趣旨の供述をしている。


工事請負契約1に係る確認済証及びその添付書類一式(甲59)及び同契約に係る建築計画概要書(甲60)は,行政官庁に提出され,行政官庁において保管されていた文書の写しであるから,当該行政官庁に対して行った手続の内容に関する証拠としては信用性が高いといえるところ,これによれば,平成28年6月9日の建築確認申請の際にKが営業所名をアンドホームとして手続をし,同月15日に営業所名を株式会社シンプルハウスに変更する手続をしたことが認められる。かかる事実は,前記アのKの供述内容のうち,Kが,平成28年6月9日にアンドホームからシンプルハウスに名前を変えて法人化したが,それまでの間はアンドホームの名称で建物の建築等の事業を行っていたという,最も重要な部分を裏付けるものである。
そうすると,前記アのKの供述内容のうち,アンドホームの名称での契約締結やその契約において提供した役務等に係る点については,上記のとおり,重要な点において裏付けが存する上,その供述内容全体も,合理的なものであって不自然な点は存しないから,基本的には信用できるというべきである。
そして,本件では,工事請負契約1に関する契約書の写し(甲70)及び工事請負契約3に関する契約書の原本(甲71)が提出されているところ,これらの各契約書の記載,特に注文者や建築時期等の記載は,上記工事請負契約1に関する確認済証及び建築計画概要書の記載並びに工事請負契約3に係る建物の登記事項証明書(甲55)及びその底地である土地の登記事項証明書(甲54)といった各種公的書類の記載と合致しており,少なくともこれらの契約が存在することが裏付けられている。
また,工事請負契約1及び3に関しては,契約の締結経過や役務の内容
に関する書証として,前記⑴ア及びウにみた各書証も提出されているところ,その作成時期及び記載内容は,上記契約書やKの供述と概ね合致している(例えば,工事請負契約書1及び3の工事請負代金についてみると,工事請負契約書1の代金は,甲38記載の建物工事費にKの供述する計算方法を適用したものと合致し,また,工事請負契約書3の代金も,同様の計算方法を適用することにより,甲51の代金と概ね合致する。契約日に近接する資金計画表は提出されていないが,これをもって本件において信用性が損なわれるものではない。また,工事請負契約3に係る地盤調査報告書によれば,地盤改良工事は不要とされるところ,かかる地盤調査後に作成された資金計画表(甲51)においても,なお地盤改良工事費用として7万9920円が計上されていることは,同書面における地盤改良工事費用には,地盤調査の費用が含まれていることを裏付けるといえる。)。注文者1及び3の陳述書(甲62,66)における陳述内容もこれに沿うものである。
なお,これらの各書証にはマスキングされている箇所も存在するものの,施工面積や敷地面積,把握できる建築場所等の記載を対照すると,各資金計画表(甲30,31,33から35まで,38,43,45),各建築図面(甲29,32,36,37,40),保証書(甲64)が工事請負契約1に関する書面であり,各資金計画表(甲50,51),保証書(甲69)及び地盤調査報告書(甲56)が工事請負契約3に関する書面であると認められる。
以上によれば,少なくとも,工事請負契約1及び3に関する各工事請負契約書(甲70,71),各資金計画表(甲30,31,33から35,38,43,45,50,51),各建築図面(甲29,32,36,3
7,40),各保証書(甲64,69)及び地盤調査報告書(甲56)については,Kの供述又は陳述(甲19,49,58)と相まってその信用性が認められる。また,注文者らの陳述書(甲62,66)についても,Kの供述及び陳述並びに上記各書証と整合するものであるから,信用性が認められる。


被告の主張

被告は,資金計画表や建築図面の注文者又は宛先がマスキングされていることから証拠としての関連性がないと主張するが,工事請負契約1及び3に関するマスキングされた各書証が,これらの契約に関する書面であると認められることは,前記⑶イで説示したとおりである。また,被告は,写しが原本として提出されていることも問題とするが,写しであっても成立の真正及び信用性が認められることは,前記⑵ア及び⑶イで説示したとおりである。


被告は,資金計画表に書き込みがないことをもってねつ造であると主張するが,打ち合わせにおいて同表に書き込むことが打ち合わせの内容を記録する唯一の方法であるとはいえず,本件事情の下で,同表の信用性に疑いを抱かせるものではない。


被告は,原告が,当初,注文者の氏名等をマスキングしていたことをもって原告の提出する書証のねつ造を主張するが,注文者らと原告とは,Kを介した希薄な関係しかないことに照らすと,原告が注文者らの個人情報の開示を躊躇することも理解できる。本件においては,最終的に工事請負契約1及び3についてマスキングを外した書証が提出され,各種公的書類の記載等に照らし,各書証の成立の真正及び信用性が認められることは,既に説示したとおりである。


被告は,Kが要証期間に建築事務所として登録していなかったこと,Kが建築工事中の看板に表示された標章についての供述を変遷させたこと,Kが設計に関する供述を変遷させたことをもって,Kの本件審判手続の証人尋問における供述及び陳述書の信用性を争う。しかしながら,Kは本件審判手続において最初に提出した陳述書(甲19)の中で,当初から,設計については一緒にやっている設計士がいること及び平成28年6月9日になされた建築確認の申請の段階まではアンドホーム名で事業を行なっていたことを述べており,被告が指摘する証人尋問における供述の変遷は,尋問におけるやりとりの中でそれを具体的に述べる際に,記憶の混乱等が生じたものに過ぎないといえるから,Kの供述の信用性に疑いを生じさせるものとまではいえない。また,協力する設計士がいたことに照らすと,K自身が建築事務所として登録していなかったことは,Kが設計に関与したとの供述の信用性に疑いを生じさせるものではない。


被告は,原告提出の甲62から甲69の提出時期が遅いことなどをもって,提出の直前に作成されたものであるなどと主張する。書証の早期提出が望ましいことはもちろんであるが,原告と注文者1及び3との関係が希薄であることは前記のとおりであり,本件審決で本件商標が取り消されたことを受けて改めて協力を仰ぐなどしたとしても殊更に不合理であるとは言い難い。なお,本件では,本件審判手続において提出されたKの陳述書(甲19)においても言及されていた確認済証及びその付属書類一式が,本件訴訟において甲59として原本で提出されて取り調べられており,その記載内容が,Kの供述の最も重要な部分を裏付けることは前記のとおりである。


各書証の信用性を争うその他の主張も,信用性判断に関する上記認定を
左右するものではない。
したがって,各書証の信用性に関する被告の主張はいずれも採用できない。


以上の次第で,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

Kは,原告から本件商標の使用許諾を受け,平成28年1月頃からアンドホームとの名称を用いて,現場監督ができるもう一人の者とともに,建築等の事業を開始した。(甲19,58)


Kは,平成28年4月7日,注文者1との間で,建物の建築工事を内容とする工事請負契約1を締結し,同年9月20日頃,建物を完成させた。かかる契約の締結の際,Kは,注文者1との間で,アンドホームを請負業者とする工事請負契約書1(請負代金額合計1302万3192円)を作成して,注文者1に交付した。(甲58,60,70)


また,Kは,工事請負契約1に関して,土地を探すところから協力し,少なくとも平成28年3月2日頃から同年5月14日頃にかけて,建物のデザインや設計についても注文者1と打ち合わせを複数回にわたって行い,金銭面を含めて注文者1の要望を建築工事に反映させた。かかる打ち合わせの際,Kは,アンドホーム資金計画表との標題が付された建築費用合計代金(3300万円台から3600万円台の金額である。)及びその内訳等を示す資金計画表や,建物の平面図や立面図が記載された建築図面を,打ち合わせを踏まえた修正を加えつつ,複数回にわたり,注文者1に示すなどした。
上記資金計画表のうち,作成日を平成28年3月23日以降とするものについては,その右下に

◎土地契約時は土地手付け現金100万円+印紙代…をご準備下さい。

◎建物契約時は建物手付け現金10万円+印紙代1万円…をご持参で当社にお越し下さい。

◎土地決済時に建物着手金・上棟金として,1000万円を当社にお振り込み頂きます。

◎最終の建物お引き渡し時に,残金を現金もしくはお振り込み頂きます。

などと記載されている。(甲29から38,40,43,45,58,62)

Kは,平成28年4月24日,注文者3との間で,建物の建築工事を内容とする工事請負契約3を締結し,同年10月頃,建物を完成させた。かかる契約の締結の際,Kと注文者3は,アンドホームを請負業者とする工事請負契約書3(請負代金額合計1241万3270円)を作成して注文者3に交付した。(甲55,58,71)


また,Kは,工事請負契約3に関し,ある程度土地が決まっている段階で関与し始めて,少なくとも平成28年3月30日頃から同年5月29日頃にかけて,建物のデザインや設計についても注文者3と打ち合わせを複数回にわたって行い,金銭面を含めて注文者3の要望を建築工事に反映させた。
かかる打ち合わせの際,Kは,アンドホーム資金計画表との標題が付された建築費用合計代金(2600万円台から2700万円台の金額である。)及びその内訳等を示す資金計画表や建築図面を,打ち合わせを踏まえた修正を加えつつ,複数回にわたり,注文者3に示すなどした。(甲50,51,55,58,66,71)


Kは,工事請負契約1及び3に関して,建築図面を作成する際には,Kがラフな図面を書いて,それを別の設計士に依頼して作成した上で,注文者1及び3に提示した。(甲19,58)


Kは,平成28年6月9日頃に株式会社シンプルハウスを設立し,アンドホームとの名称の使用をやめて,同月15日には工事請負契約1にかかる建築確認申請の工事施工者を,同社へと変更した。(甲19,58,59,60)

2
取消事由2(Kによる本件商標の使用についての判断の誤り)について原告は,Kが,前記1⑸カのとおり別の設計士に依頼して建築図面を作成し,同イ及びエ記載の各工事請負契約書1及び3を注文者1及び3に交付したことが商標法2条3項8号に該当し,建築物の設計の役務について,本件商標を使用した(商標法50条2項)と主張するので,この点について検討する。


まず,Kが,取消対象役務のひとつである建築物の設計を提供したか否かについてみると,Kは,前記1⑸カのとおり,注文者1及び3に対して建築図面を作成して示すなどしているところ,かかる建築図面は,K自身が作成したものではなく,Kがラフな図面を書いてそれを別の設計士に依頼して作成させたものである。
もっとも,前記1⑸イ及びエのとおり,Kは,アンドホームの名称にて工事請負契約1及び3を締結しているところ,Kは,自ら別の設計士に依頼をして図面を作成させていることや,現実に注文者らに対応したのは主としてKであったことなどに照らすと,Kは,工事請負契約1及び3の締結とともに建築物の設計も含む当該工事に関する役務を一括して請け負ったものと認められる。
そうすると,Kが,別の設計士に依頼して行った建築図面の作成は,Kが注文者1及び3から請け負った債務の履行としてされたものであるといえるから,Kが建築物の設計を提供したと認められる。

この点について,被告は,提出されている建築図面自体が設計図面に当たらないなどと主張するところ,これは,建築物の設計自体なされていないと主張するものと解されるが,K及びその依頼を受けた設計士が,注文者らの要望を聞いてそれを設計図書に落とし込んだことは前記のとおりであるから,Kが建築物の設計を提供したとの結論は左右されない。


次に,商標法2条3項8号の該当性についてみると,本件において,Kは,建築物の設計を含む工事請負契約1及び3を締結したものであるところ,工事請負契約書1及び3が,建築物の設計を含む役務に関する取引書類に当たることは明らかである。そうすると,前記1⑸イ及びエのとおり,Kが,同工事請負契約書に,本件商標を付して,その作成日付である平成28年4月7日及び同月24日に,それぞれ注文者1及び3に交付した行為は,商標法2条3項8号所定の使用に該当する。



これに対し,被告は,Kが本件商標を使用して工事請負契約1及び3を請け負った後,実際に建築工事を開始した時点では,シンプルハウスへと屋号を変更していたことなどをもって,取消対象役務をアンドホームの名称にて提供していないと主張する。
しかしながら,前記認定のとおり,Kは,工事請負契約1及び3の締結とともに建築物の設計も含む当該工事に関する一切の役務を一括して請け負ったものであるところ,工事請負契約書1及び3を注文者1及び3に交付しているから,当該交付の時点ではアンドホームとの標章に対する業務上の信用が発生したといえる。その後,Kが,その事業についてシンプルハウスとの名称に変更したとしても,かかる信用が,直ちに保護に値しなくなるものではない(また,建築工事が開始される前には建築物の設計は完了しているはずなのであるから,この点からしても,本件において,Kがアンドホームの名称で建築物の設計という役務を提供したことは明らかであるといえる。)。
したがって,Kはアンドホームとの標章を取消対象役務のひとつである建築物の設計について使用したといえる。


また,被告は,Kによる本件商標の使用が名目的な使用であると主張する。しかしながら,不使用取消に言及する被告から原告に対する連絡は平成29年3月24日付けであって,Kがアンドホームとの標章を使用した平成28年1月から同年6月頃までの期間よりも相当遅い時期であること(甲15)や,前記認定のKによる本件商標の使用態様に照らすと,Kによる本件商標の使用が名目的な使用であるとまでは認められず,被告の主張は採用できない。



したがって,通常使用権者であるKが,要証期間内である平成28年4月7日及び同月24日に,日本国内において,取消対象役務のひとつである建築物の設計について,本件商標を使用した(商標法50条2項)と認められる。

3
結論
以上によれば,原告主張の取消事由2には理由があり,その余の点につき判断するまでもなく,本件審決は取り消されるべきものである。
よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官

鶴岡稔彦
裁判官

高橋彩
裁判官

菅洋輝
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