判例検索β > 平成31年(行コ)第30号
職務上義務不存在確認等請求控訴事件、同附帯控訴事件
事件番号平成31(行コ)30
事件名職務上義務不存在確認等請求控訴事件,同附帯控訴事件
裁判年月日令和元年9月6日
法廷名大阪高等裁判所
原審裁判所名大阪地方裁判所
原審事件番号平成28(行ウ)74
裁判日:西暦2019-09-06
情報公開日2019-10-04 18:00:08
戻る / PDF版
主1文
本件控訴及び本件各附帯控訴(当審で追加された請求を含む。)をいずれも棄却する

2
控訴費用のうち,補助参加によって生じた費用を補助参加人の負担とし,その余を控訴人の負担とし,附帯控訴費用は被控訴人らの負担とする。事
第1
1実及び理由
当事者の求めた裁判
控訴の趣旨
原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。
上記取消部分に係る被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

2
附帯控訴の趣旨
原判決を次のとおり変更する。
控訴人は,被控訴人Aに対し,12万2321円及び原判決別紙1差額賞与一覧表1の差額賞与(勤勉手当)額欄記載の各金員に対する同表支給日欄記載の各年月日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
控訴人は,被控訴人Bに対し,6万5726円及び原判決別紙1差額賞与一覧表2の差額賞与(勤勉手当)額欄記載の各金員に対する同表支給日欄記載の各年月日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
控訴人は,被控訴人らに対し,それぞれ220万円及びこれに対する平成27年3月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2
1
事案の概要等(略称は,特記しない限り,原判決の用法による。)事案の概要
本件は,控訴人が設置していた地方公営企業である大阪市交通局(交通局)の職員(高速運転士)として地下鉄運転業務に従事していた被控訴人らが,ひげを剃って業務に従事する旨の控訴人の職務命令又は指導に従わなかったために人事考課において低評価の査定を受けたが,上記職務命令等及び査定は,被控訴人らの人格権としてのひげを生やす自由を侵害するものであって違法であるなどと主張して,控訴人に対し,

任用関係に基づく賞与の請求として,原

判決別紙1のとおりの,上記査定を前提に支給された各賞与(勤勉手当)に係る本来支給されるべき適正な額との差額(被控訴人Aにつき合計12万2321円,被控訴人Bにつき合計6万5726円)及び各季の差額に対する各支給日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求めるとともに,

国家賠償法(国賠法)1条1項に基づき,それぞれ慰謝

料及び弁護士費用合計220万円の損害賠償金並びにこれに対する平成26年度の人事考課における評価対象期間の終期である平成27年3月31日から支払済みまで

と同様の遅延損害金の各支払を求めた事案である。

原判決は,被控訴人らの

の賞与請求をいずれも棄却し,

の損害賠償請求

をそれぞれ慰謝料20万円及び弁護士費用2万円合計22万円の損害賠償金並びにこれに対する遅延損害金の限度で認容し,その余の請求を棄却した。このため,敗訴部分を不服とする控訴人が本件控訴を提起し,被控訴人らが本件各附帯控訴を提起した。
被控訴人らは,当審において,

の予備的請求として,国賠法1条1項に基

づき,各差額と同額の損害賠償金の支払を求める訴えを追加した。2
前提事実,争点及び争点に対する当事者の主張は,次の3及び4のとおり,当審における控訴人及び被控訴人らの主張を付加するほかは,原判決事実及び理由の第2の2,第3及び第4に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決を次のとおり訂正する。
4頁25行目の遂行を執行に改める。
9頁6行目の勤務するを勤務に対するに改める。
15頁3行目の正確を性格に改める。
15頁25行目の自覚の次にと認識を加える。
3
当審における控訴人の主張
被控訴人らが当審において追加した請求について
本件各考課には違法性がない上,被控訴人らについて,ひげがなければ本件各考課において第3区分になるとは帰結されないから,勤勉手当差額相当額の損害が生じたとは認められない。


国賠法上の違法行為の有無について

本件身だしなみ基準の制定について
①接客・接遇に関わる事業者において,利用者や顧客等の受け止め方に
配慮し,身だしなみにつき従業員に指導を行うことは一般に行われていること,②控訴人職員の身だしなみに対しては,従前から市民等から厳しい視線が寄せられており,控訴人では身だしなみについての規律遵守の取組みを徹底し,関連する規則等を整備してきたこと,③他の交通事業者でも,運転士・車掌等は接客部門として位置付け,ホテル飲食業並みの質の高い身だしなみを求めてひげはきれいに剃る等の規定を設けているところ,交通局は,競合民間交通事業者との競争に打ち勝つべく,お客さま第一主義を経営方針に掲げて顧客サービス活動等に取り組んできたこと,④ひげを含めた身じまい・嗜好は,人格的生存に不可欠な人権として社会的に承認されているものではなく,憲法上の人権として保障されるものではないことに照らせば,ひげが剃られた状態を理想的な身だしなみとする服務上の規律を設けることには,一応にとどまらない高度の必要性・合理性があるというべきである。
本件身だしなみ基準を遵守しようとしない運転士の姿は,顧客の安心感に悪影響を及ぼし,服務規律を遵守しない態度は,安全のための規範意識をも鈍麻させる。
本件身だしなみ基準が服務規律として合理的な範囲のものである以上,その解釈として,職員の完全な任意による協力しか求めることができず,不利益処分ではない人事考課において考慮事情とすることすら許されないなどという帰結を導くことはできない。

本件身だしなみ基準に基づく業務上の指導について
C運輸長の被控訴人Bに対する平成24年12月21日の面談の際の

守らなければ処分の対象とするということです。

等の発言は,交通局の見解ではなく,C運輸長の誤解に基づくものである。被控訴人Bは,これを受けてひげを剃ったこともなく,人事上の処分や退職勧奨等を受けたこともない。
一担当者の一度きりの誤解に基づく発言をもって,国賠法上違法であるとか,何らかの損害が生じたと解することはできない。


本件各考課について
交通局の人事考課制度(本件人事考課制度)について
本件人事考課制度の絶対評価は,職種・職位レベルごとに定められた各評価項目について,着眼点(例)を踏まえて,評価対象期間
における業務取組状況等を総合的に勘案した上で,期待するレベルに到達していたかという観点からきめ細やかな評価を行うものである。原則として3点(概ね期待レベルに達した場合の評価点)が付与されるとか,3点に満たない評価点は不利益評価である(減点である)というものではない。
本件人事考課制度においては,ひげを含めた身だしなみを,市民・お客さま志向や規律性といった評価項目の中で,評価対象期間におけるその他の業務取組状況等も含め総合的に勘案する中の一つの要素として評価することになる。職員に交通局が経営理念としているお客さま第一主義の考え方やそれに基づく取組み等に理解を示そうとしない言動が見受けられる場合に,そういった言動から伺える当該職員の仕事上におけるお客さま志向の姿勢や規律遵守に係る姿勢を評価対象にしているのである。
本件身だしなみ基準は合理的であり,必要性・相当性も認められる。これに反し,指導しても改善されない場合に,当該事実を人事考課において考慮したとしても,使用者の広範な裁量の範囲を超えるものではない。職務命令と位置付けられていない規律であっても,その遵守態度等につき,規律性等に係る取組状況として人事考課に際して考慮することの合理性・相当性は,原則として肯定される。
本件各考課(平成25年度・26年度の人事考課)について
a
平成25年度の人事考課について
上記人事考課においては,評価対象期間において,①被控訴人らのひげが,お客さまに対し不快感を与える状態にあったこと,②被控訴人らは,ひげに関する指導やお客さまサービスに係る取組み等に関し,消極的・否定的な言動を繰り返し,同僚等からも苦情が申し立てられる状況にあったこと,③被控訴人Aは,閉扉協力等の姿勢が不十分であったことを総合的に考慮して評価が行われた。
①の点は,被控訴人らにつきお客さまからの苦情申入れが度々あったこと,被控訴人らが提出した写真(甲49,50)にもお客さまに不快感を与える状態のものがあることから明らかである。定刻運転を考えれば,乗務開始前の点呼の際等にひげを整えさせたりすることはできない。平成25年度の被控訴人Bの事実確認シート(乙59)には,無精ひげであるとあえて明記がある。
②の点は,被控訴人らが,本訴においてさえ,お客さまサービスを軽視する主張をし,原審本人尋問において,そのような態度を示したことから明らかである。とりわけ,被控訴人Aは,常々,お客さまサービスを軽視する発言をしていた。平成25年度の事実確認シート(乙57)にその記載がないのは,事実確認シートは評価対象事実を全て記載するものではないからである。
③の,被控訴人Aが閉扉協力等に消極的態度であったことは,D所長の原審証人尋問の供述等から明らかであり,被控訴人A自身も認めている。閉扉協力等は,安全運行やお客さまサービスのために広く行われている重要な業務の一つである。
b
平成26年度の人事考課について
上記人事考課においては,評価対象期間において,aの①から③までの事情に加え,被控訴人Aが,④業務用逓送便を目的外に使用したこと,⑤兼業規制への抵触の有無を確認した上司に対し非協力的態度を示したこと,⑥被控訴人Bが,平成27年1月16日に実施された業務研修(本件研修)に不適切な服装で参加しようとしたことを総合的に考慮して評価が行われた。
④の点は,服務規律違反行為をし,上司等から指導を受けながら,なおも服務規律違反をしたというもので,人事考課において考慮しないことはあり得ない。平成26年度の人事考課シートや事実確認シートにその記載がないのは,評価者自身がその状況を直接把握している場合には書面の記載を要するものではないからである。
⑤の点につき,平成27年1月30日の面談の際,E代理が被控訴人Aが理事をしていたNPO法人(本件法人)の活動や報酬の有無につき報告するよう指導したことは,同年2月6日のE代理と被控訴人Aの会話から明らかである。自らが役員に就任していた団体が既に解散しているにもかかわらず,まだ存在するかのように申し出ることも,業務に混乱を招くものである。
⑥の点につき,被控訴人Bの平成26年度の評価は,当該服装違反の点が反映されて規律性は2.5点となったが,それ以外の項目には3点が付与され,絶対評価の総合点は2.95点であった。被控訴人Bは,人事考課の開示面談の際に服装違反について説明を受け,評価にも納得を示していた。


損害の有無及び額について
被控訴人らは,任意の指導を受けただけで,意に反してひげを剃らなければならない旨の心理的圧迫を受けたことはなく,実際にひげを剃ったこともない。
本件身だしなみ基準に反していることが事情の一つとして考慮されたとしても,それをもって本件各考課が適正さ・公正さを欠くものではなく,これにより受けた精神的苦痛は,保護に値しない。

4
当審における被控訴人らの主張
ひげを生やす自由について
ひげを生やすか否か,ひげを生やすとしてどのような形状のものとするかは,服装や髪型等と同様に,個人が外観をいかに表現するかという個人的自由に属する事柄であり,憲法13条に由来する。本件身だしなみ基準の正当性は,憲法上保障されている被控訴人らのひげを生やす自由を,公務員としての身だしなみの観点からどこまで制約できるのかという枠組みで判断されるべきである。
勤勉手当の差額について

勤勉手当差額請求権の有無
本件の勤勉手当請求権は,各職員の人事考課によって具体的に金額が決定される制度となっている以上,公正な人事考課がされることを前提にして発生する具体的権利である。
被控訴人らには,ひげを生やしていたこと以外には減点されるべき要素はなく,規律性,市民・お客さま志向の評価項目には,ひげを生
やしていることを考慮しなければ3点が付されたと解される。このように3点が付された場合には,合計評価点からみて,相対評価区分は第3区分となるはずであった。
したがって,被控訴人らには,平成25年度と平成26年度の相対評価区分がいずれも第3区分とされたことを前提とする勤勉手当差額請求が認められるべきである。

国賠法に基づく損害賠償請求権の有無(当審において追加した請求)仮に,差額賞与が具体的な権利として認められないとしても,被控訴人らは,控訴人の違法な人事評価(本件各考課)によって,平成25年度及び平成26年度の賞与(勤勉手当)について,原判決別紙1差額賞与一覧表1,差額賞与一覧表2の各差額賞与(勤勉手当)額欄記載の差額相当額の損害(経済的損害)を被った。
したがって,国賠法に基づく損害賠償請求が認められるべきである。本件身だしなみ基準制定の違法性について


ひげは着脱不能であり,ひげを生やすことがひとたび禁止されると,本来的に個人の自由であるべき行為が,勤務関係又は労働契約の拘束を離れた私生活全般においても広く禁止されることになる。他方,ひげを生やす行為は,ひげに対して否定的な価値観を持つ他人の感情を害することがあるという以上に客観的で明白な被害が存在せず,そもそも制約の必要性は認められない。
本質的に他人に対する実害が認められないひげを生やす行為に対して,勤務関係又は労働契約の拘束を離れても広く及ぶ制約を課すことが許容されるためには,当該制約の事業遂行上の必要性及び内容の合理性について,具体的な検討かつ厳格な審査が必要である。


ひげに対する許容度に関する我が国の現状(国民感情)といった事業遂行上の必要性と全く関係のない理由で,整えられたひげも含めてひげを一律全面的に禁止することは許されない。
また,控訴人の提出する証拠(乙24から30まで,117から121まで)から,我が国の現状をひげが社会において広く肯定的に受け容れられているとまではいえないと認めることはできない。乙24及び25は,多くが大阪市職員の基本的な職務態度に対するクレームであって,ひげに関する指摘も,どのようなひげを非難するものかは明らかでない。乙26は,本件訴訟提起後のものであり,専ら被控訴人らに対する誹謗中傷に主眼を置く。乙27から30までは,内容に一般市民の知り得ない職員のフルネーム等が含まれるなど,控訴人の自作自演である可能性を否定できない。
乙117から121までは,インターネット上で実施されたアンケート結果であるが,インターネット上のアンケートは,代表性(匿名性・母集団の偏り)が短所として指摘されており,その結果を安易に事実認定に用いるべきではない。乙118から121までについては,有効回答数も少なく,調査期間も極めて短期間であり,信用性や正確性が高い調査結果とはいえない。なお,乙117をみると,ひげに対し抵抗を感じるかどうかにつき最も高い率の回答は,手入れの度合いによるとするものであり,ネガティブな印象を持たない回答が全体の52.9%に及んでいる。ウ
本件各考課は,被控訴人らが単にひげを生やしていることをもって,
人事評価における主たる減点要素とした。
すなわち,本件身だしなみ基準は,単にひげを生やしていることをもって人事上の不利益処分の対象としているものである。

本件身だしなみ基準のひげに関する記載は,整えられた髭も不可という表現から,ひげを生やすことが許されているという意味を汲み取ることは不可能である。本件通達の記載も,ひげを剃るようにとの指導に従わない場合には,人事考課において低評価とする不利益処分を行うという意味にしか解釈しようがない。
被控訴人らの上司は,本件身だしなみ基準及び本件通達の規定を理由に,被控訴人らにひげを剃るように求め,剃らなければ人事評価上の不利益を被ることになると繰り返し述べ,実際に低評価にした。被控訴人Bに対しては,退職を背景にひげを剃るようにも求めた。本件身だしなみ基準の制定により,控訴人(交通局)の現場の上司らは,職員に対しひげを剃るように求める指導が可能となったと認識し,その違反は人事評価上減点の対象となると理解していた。
本件身だしなみ基準を,職員の任意の協力を求める趣旨のものであるということはできない。

以上のとおり,本件身だしなみ基準は,ひげを生やすことを一切認めず,ひげを剃ることを強制し,これに反した場合は人事上の不利益処分の対象とするものであるから,その制定自体が国賠法上違法である。
上司らの言動の違法性について


C運輸長の被控訴人Bに対する発言のほかにも,被控訴人らの上司は,被控訴人らに対し,ひげを剃ることを強制し,少なくとも,社会的相当性を逸脱した半強制的な態様でひげを剃ることを求めた。


被控訴人Aに対する命令又は指導
被控訴人Aの面談に当たった上司らは,ひげを剃ることは職場内のルールであること,自分たちの上司から被控訴人Aのひげをなんとかするように言われていること,ひげを剃らなければ人事考課上不利益となること等を明確に述べて,被控訴人Aに対し,ひげを剃るよう求めた(甲31から37までの各2)。
これは,被控訴人Aに対してひげを剃るように命じ,又は指導するものであり,国賠法上違法である。


被控訴人Bに対する命令又は指導
被控訴人Bに対しても,上司から,ひげを剃るようにとの命令又は指導があった。特に,平成24年12月3日のF副所長のBがひげを剃るなら残してやってもいいぞと言っておられるが,との発言,同月23日のG支部長の

ひげを剃れ。でないと首になるぞ

との発言,平成25年1月21日のD所長の僕の手の届かないところの話になるけど,いいんやな僕は人権については何も知らんよ,などの発言(いずれも,原審被控訴人B本人7,8頁)は,ひげを剃らないと免職や退職を余儀なくされることを示唆するものであり,違法性が高い。
被控訴人らの慰謝料の額について
被控訴人らが実際にひげを剃ることがなかったという事実は,違法な人事考課が長期間にわたって継続し,被控訴人らの心理的圧迫が増大した要因となっている。上記事実を被控訴人らの精神的苦痛による損害の減算根拠とすることはできない。
本件身だしなみ基準の制定そのものが違法であり,同基準の運用の結果,被控訴人らが人事考課において実際に不利益な扱いを受けただけでなく,所長はもちろん,運輸長等,日常的には接することのない上司にまで,ひげを剃らないことの不利益の可能性を示唆され,退職勧奨まで受けた。控訴人の違法行為は,被控訴人らに対する組織的,継続的ハラスメントである。仮に,被控訴人らの差額賞与が経済的損害として認められない場合であっても,被控訴人らの精神的苦痛の金銭算定に当たっては,被控訴人らが被った経済的不利益(賞与に格差が生じたこと)も考慮・斟酌されるべきである。以上の事情に照らせば,被控訴人らの慰謝料額は,少なくとも,一人当たり200万円が妥当である。
第3
1
当裁判所の判断
当裁判所も,被控訴人らの賞与請求及びこれに当審で追加された損害賠償請求は理由がなく,原審からの損害賠償請求はそれぞれ22万円及びこれに対する遅延損害金の限度で理由があるものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
2
本件において認定することができる事実は,原判決事実及び理由の第5の1に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決を次のとおり訂正する。
35頁11行目の平成20頃を平成20年頃に改める。
39頁8行目の5条を25条に改める。
を3に改める。

勤勉手当の差額について
争点1(勤勉手当差額請求権の有無及びその額)について
被控訴人らの賞与請求権に基づく勤勉手当の請求に理由がないことは,原判決事実及び理由の第5の2に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決51頁7行目の違法であったから9行目の基づきまでを違法であり,被控訴人らについて絶対評価で3点が付されたとしても,そのことから直ちに,に,10行目の認めることもを認めることはにそれぞれ改める。被控訴人らは,当審においても,被控訴人らにはひげを生やしていたこと以外には減点されるべき要素はないから,公正な人事考課がされていれば被控訴人らの相対評価区分は第3区分となるはずであった旨主張する(第2の4
ア)。
しかし,交通局の人事考課制度における相対評価は,同一の職種・職位レ
ベルで,同一の第2次評価者が評価した範囲を基本として確定された実施範囲内で,第2次評価における絶対評価点が高い者から順に,第1区分から第5区分に振り分けられるものであり,各区分の割合は予め定められている(引用した原判決の前提事実

。したがって,被控訴人らについて絶

対評価で3点が付与されたとしても,それにより直ちに,相対評価で第3区分にされていたとは認めることはできない。
よって,被控訴人らの上記主張は採用することができない。
国賠法に基づく損害賠償請求権の有無(当審で追加された請求)について被控訴人らは,違法な本件各考課により,被控訴人らの相対評価区分が第3区分とされた場合の勤勉手当の額と実際の支給額との差額相当額の損害を被った旨主張する。
しかし,本件各考課において被控訴人らがひげを生やしていることが考慮されなかったとしても,相対評価で第3区分にされていたとまで認めることができないこ
よって,損害の発生を認めることができず,被控訴人らの国賠法1条1項に基づく勤勉手当差額相当額の損害賠償請求はいずれも理由がない。4
争点2のうち,本件身だしなみ基準制定の違法性について
当裁判所も,本件身だしなみ基準は,職務上の命令として一切のひげを禁止し,又は,単にひげを生やしていることをもって人事上の不利益処分の対象としているものとまでは認められず,交通局の乗客サービスの理念を示し,職員の任意の協力を求める趣旨のものであること,一定の必要性及び合理性があることからすれば,本件身だしなみ基準の制定それ自体が違法であるとまではいえないものと判断する。その理由は,原判決事実及び理由の第5の3
当審における被控訴人らの主張

及び

に対する判断

ひげを生やす自由について
被控訴人らは,ひげを生やすか否か,ひげを生やすとしてどのような形状のものとするかは個人的自由に属する事柄であり,憲法13条に由来するから,本件身だしなみ基準の正当性は,憲法上保障されているひげを生やす自由の制約の問題として判断すべきであると主張する。
ひげを生やすか否か,ひげを生やすとしてどのような形状のものとするかは,

個人
が自己の外観をいかに表現するかという個人的自由に属する事柄である。しかし,少なくとも現時点において,ひげを生やす自由が,個人の人格的生存に不可欠なものとして,憲法上の権利として保障されていると認めるに足りる事情は見当たらない。そうであるからといって,労働者のひげに関してどのような服務中の規律も設けることができるわけではない。また,仮に,ひげを生やす自由が,憲法13条に基づく自己決定権の一部として保障されているとみ得るとしても,労働の場においては,そのような自由がいかなる場合にも完全に認められるというわけでもない。
ひげを生やす自由が個人的自由に属する事柄であることを前提として,原判決の判示するとおり,労働者のひげに関する服務規律は,事業遂行上の必要性が認められ,かつ,その具体的な制限の内容が,労働者の利益や自由を過度に侵害しない合理的な内容の限度で拘束力を認めるべきものである。
よって,被控訴人らの上記主張は採用することができない。

本件身だしなみ基準制定の違法性について
被控訴人らは,①ひげに対する制約が個人の私生活にも影響を及ぼすものである一方,ひげを生やす行為による他人に対する客観的な被害は存在せず,制約の必要性は認められない,②本件身だしなみ基準はひげを生やしていることをもって人事上の不利益処分の対象としている,③本件身だしなみ基準は,その記載や上司の言動からして,職員の任意の協力を求める趣旨のものとはいえないとして,その制定自体が違法である旨主張する。
の①について
ひげは着脱不能なものであるから,服務規律でひげを生やすことが禁止されると,勤務関係又は労働契約の拘束を離れた私生活にもその影響が及ぶ(原判決

また,ひげを生やし
ていることそれ自体により,他人に対し客観的な被害を与えるという事態も想定し難い。
しかし,被控訴人らは,当時,地方公務員の地位にあり,職務を行うに当たっては,公務に対する市民の信頼を損なわないように遂行することが要請される立場にあった(同ア)。また,交通局の営む地下鉄事業は,市民等が代金を支払って地下鉄を利用するものであり,同業他社との間で顧客獲得の競争も存在した。これらのことに照らせば,交通局が乗客サービスを理念とし,その一環として,ひげを含めた身だしなみを整えることを内容とする服務規定を設けることには,一定の必要性・合理性が認められるというべきである。
したがって,ひげに関し制約の必要性は認められないということはできない。
そして,ひげが社会において広く肯定的に受け容れられているとまではいえない我が国の現状に照らせば,原判決も判示するとおり(同ウ整えられた髭も不可として,ひげが剃られた状態を理想的な
身だしなみとする服務上の基準を設けることには,一応の必要性・合理性が認められる。ひげに対する許容度は,交通局の事業遂行上の必要性とは無関係ではなく,一方,本件身だしなみ基準は,ひげを一律全面的に禁止するものと解することはできない。
なお,被控訴人らは,控訴人の提出する証拠から,ひげに関する我が国の現状を社会において広く肯定的に受け容れられているとまではいえないと認めることはできない旨主張する。しかし,乙24には,ひげに対する嫌悪感を示す内容が多数含まれていることは事実であり,乙27から30が,控訴人がねつ造したものであるとか,同一人物によるクレームであるなどと認めることもできない。乙117から121までにつき,インターネット上で実施されたアンケート結果であり,代表性や有効回答数に問題があるとの点も,各回答数(乙117が9万4866名,118が423名,119が900名,120が481名)に照らし,少なくとも,ひげが広く肯定的に受け容れられているとはいえないとの根拠にはなり得るというべきである。乙117によれば,ひげに抵抗をとても及び少し感じる人数が
合計4万4685名(47.1%)となっており,とても感じる人の人数が少し感じる人の人数を約1000名上回っている。この結果も,上記認定を裏付けるものといえる。
よって,被控訴人らの上記主張は採用することができない。
の②について
単にひげを生やしていることをもって人事評価における減点要素とすれば,そのような人事考課は,本件身だしなみ基準の趣旨目的(交通局の乗客サービスの理念を示し,職員の任意の協力を求める)を逸脱したものである。
本件身だしなみ基準は,単にひげを生やしていることをもって人事上の不利益処分の対象としているものではなく,違法な人事考課があることによって,本件身だしなみ基準が違法であることが導かれるわけではない。
よって,②の被控訴人らの主張は採用することができない。の③について
本件身だしなみ基準のひげに関する記載及び本件通達の記載は,ひげを一切禁止し,繰り返しの指導に従わない場合には人事考課への反映も行うと理解され得る内容となっている(引用した原判決の前提事実⑵ウ引用した原判決の認定事実

によれば,被控訴人らの上司は,

本件身だしなみ基準の制定により,職員に対しひげを剃るように求める指導が可能となり,その違反は人事考課で減点の対象となると理解していたと認められる。
しかし,アで指摘した原判決の基本的立場に立った上で,引用した原判決の認定事実⑵アの制定過程を経て制定されたことを踏まえて(安全輸送,サービス向上及び規律の確保等のために制定されたのであり,弁護士への意見照会を行い,その回答(甲38の2)には脱着可能なもの(ピアス等のアクセサリー)は規制できるが,脱着不可能なもの(ひげ等)は難しいかもしれないと記載されている。この時点では,ひげを一律に不可とするのは過度の制限を課すものであるとの大阪高等裁判所の確定判決(平成22年10月27日言渡し)が出されていた。),本件身だしなみ基準を解釈すれば,これは,ひげを全面的に禁止するものではなく,単にひげを生やしていることをもって人事上の不利益処分の対象とするものでもないとみるべきことは明らかである。
被控訴人らの上司の認識やそれに基づく言動の違法性を理由として,本件身だしなみ基準の制定自体が違法となるものではない。
よって,③の被控訴人らの主張も採用することができない。
なみ基準の制定自体が違法であるとの主張も採用することができない。当審における控訴人の主張

アに対する判断

控訴人は,本件身だしなみ基準には高度の必要性・合理性があるなどとして,職員の完全な任意による協力しか求めることができず,人事考課において考慮事情とすることすら許されないという帰結を導くことはできない旨主張する。
しかし,原判決が判示し,今までみてきたとおり,本件身だしなみ基準について,このような解釈をとることはできない。本件身だしなみ基準を,職員の任意による協力以上の拘束力を持ち,人事考課において考慮事情とし得ると解するとすれば,それを合理的な制限であると認めることはできない。よって,控訴人の上記主張は採用することができない。
5
争点2のうち,上司らの業務上の指導等の違法性について
当裁判所も,C運輸長の被控訴人Bに対する平成24年12月21日の面談の際の発言は国賠法上違法であるが,その他の上司の発言には国賠法上の違法性があるとは認められないものと判断する。その理由は,原判決事実及び理由の
に記載のとおりであるから,これを引用する。

当審における控訴人の主張

イに対する判断

控訴人は,C運輸長の発言は交通局の見解ではなく,C運輸長の誤解に基づくもので,被控訴人Bはこれを受けてひげを剃ったこともないから,一担当者の一度きりの発言をもって国賠法上違法であると解することはできないなどと主張する。
しかし,C運輸長は,当時,a乗務所を含む4つの乗務所(b線を含む4線)を統合するa乗務運輸長の地位にあった者である(原判決事実及び理職位にある者が職員に対し,人事上の処分や退職を余儀なくされることまでを示唆してひげを剃るよう求めた発言を,交通局の見解とは異なる本人の誤解に基づくものであるなどといった理由で,違法性がないと評価することはできない。また,実際に被控訴人Bがひげを剃らなかったとしても,被控訴人Bが,このような発言により,精神的圧迫や不安を感じたであろうことは優に認められる。よって,控訴人の上記主張は採用することができない。当審における被控訴人らの主張に対する判断被控訴人らは,C運輸長の被控訴人Bに対する発言以外にも,被控訴人らの上司には被控訴人らに対しひげを剃ることを強制する違法行為があった旨主張する。ア被控訴人Aに対する命令又は指導被控訴人Aは,上司との面談の際のやりとり(甲31から37までの各2)を指摘して,ひげを剃らなければ人事考課上不利益となること等を明確に述べてひげを剃るよう求めたものであり,これはひげを剃ることを命じたものであると主張する。しかし,上記のやりとりをみても,上司らが被控訴人Aに対し,ひげを剃るよう指導,説得を繰り返していることや,その中で,人事考課の際に不利益な事情として考慮されることになることを告げたことは認められるものの,それを超えて,ひげを剃ることを命じ,強制していたとまで認めることはできない。被控訴人A自身,平成27年1月30日のE代理との面談の際,ひげに関する指導は全く受けたことがない旨返答しており(原判決「事実及び理a),同年2月4日のD所長との面談の際も「ひげ剃れとも言われたこと,聞いたことないですよ。

それが指導ですか?『頼む』。

等と述べている(甲33の2の3頁)。このような被控訴人Aの受け止め方からも,上司らが被控訴人Aに対し,ひげを剃るよう強制していたとは認められない。
よって,被控訴人Aの上記主張は採用することができない。

被控訴人Bに対する命令又は指導
被控訴人Bは,平成24年12月3日のF副所長の発言,同月23日のG支部長の発言及び平成25年1月21日のD所長の発言を指摘し,ひげを剃らないと免職や退職を余儀なくされることを示唆するものであり,違法性が高い旨主張する。
しかし,上記3名が被控訴人Bの主張するような発言をしたとの事実を認めるに足りる客観的証拠はない。なお,G支部長は,労働組合の支部長であり(原審証人D14頁),被控訴人Bの上司の立場にある者ではない。被控訴人Bは,原審における本人尋問において,4人の上司からひげを剃るように言われていたと供述する一方,D所長との面談で,ひげを剃らないと言ったら,しゃあないなと言われて終わったということでいいかとの質問に対しはいと返答している(24,25頁)。そうすると,被控訴人Bの上司ら(C運輸長を除く。)が,社会通念上相当と認められる範囲を超えるような態様で,被控訴人Bに対し,ひげを剃るよう求めていたとまでは認められない。
よって,被控訴人Bの上記主張は採用することができない。
6
争点2のうち,本件各考課の違法性について
当裁判所も,本件各考課は,被控訴人らがひげを生やしていることを主たる減点評価の事情として考慮したものであること,したがって,上記評価が人事考課における使用者としての裁量権を逸脱・濫用したものであって国賠法上違法であるものと判断する。その理由は,原判決事実及び理由の第に記載のとおりであるから,これを引用する。
当審における控訴人の主張

ウに対する判断

控訴人は,本件人事考課制度は,原則として3点が付与されるとか,3点に満たない評価点は不利益評価であるというものではないと主張する。しかし,本件各考課において第2次評価者として被控訴人らの人事考課を行ったD所長は,原審証人尋問において,1つの評価項目について,ほぼ3点をつけると供述している(21頁)。控訴人が,3点に満たない点数を付与された職員の人数や割合について具体的に何ら主張立証しようとしないことに照らせば,交通局においては,事実上,特に減点評価を受けるような事情のない職員については,3点が付与されているものと推認される。
したがって,被控訴人らに対し市民・お客さま志向又は規律性
の評価項目で,2点又は2.5点が付けられたこと(引用した原判決の前提事実

)は,これらの項目について,減点評価がされたものと認められ

る。
なお,控訴人は,本件身だしなみ基準に反し,指導しても改善されない場合に,当該事実を人事考課において考慮することが人事上の裁量の範囲を超えるものではないとも主張するが,ひげに関してはこのような主張を採用することができないこ

おりである。

平成25年度の人事考課について
控訴人は,市民・お客さま志向及び規律性の評価項目につき,
ひげを含めた身だしなみは一つの要素であるとして,原審での主張と同一の事情を指摘し,これらを総合的に考慮して評価が行われたと主張する。すなわち,平成25年度の人事考課では,①被控訴人らのひげは客に対し不快感を与える状態にあった,②被控訴人らはひげに関する指導やお客さまサービスに係る取組み等に関し消極的・否定的な言動を繰り返した,③被控訴人Aは閉扉協力等の姿勢が不十分であった旨主張する。しかし,上記①②の事実がいずれも認められないこと,③の事実につきこれが人事考課において減点要素として考慮されるほどの事情に当たらないことは,原判決認定のとおり(事実及び理由第5の
る。
控訴人は,乗務開始前の点呼の際にひげを整えさせる等の指導を行っていないのは定刻運転を考えてのことである旨主張するが,上記指導は乗務を終了した後でもできるのであり,控訴人の主張は合理的とはいえない。被控訴人Bの事実確認シート(乙59)に無精ひげであるとの記載があることも,被控訴人らの上司のひげに関する受け止め方(原審証人D52~54頁。原審証人H17・18頁)や無精ひげの定義が明確でないことに照らせば,上記記載から直ちに,被控訴人Bが無精ひげを生やしていたと認めることはできない。なお,控訴人は,本件訴訟で提出された被控訴人らの写真(甲49,50)の中にも,客に不快感を与える状態のもの(無精ひげと見られるもの)がある旨主張するが,これらの写真をみても,どのようなものであれ,ひげ自体に嫌悪感を持つのであれば別として,他人に不快感を与える状態のもの又はいわゆる無精ひげであるものとは認められない。
控訴人は,②について,被控訴人Aの面談の際の発言内容を指摘し,顧客サービス軽視の姿勢は明らかである旨主張するが,指摘された発言内容から,被控訴人Aがことさら顧客サービスを軽視しているとまで認めることはできない。また,被控訴人Aが,運転士は運転だけしておけばよいなどと発言したのであれば,顧客サービスを最重視する姿勢をとっている交通局において,これを人事考課の資料となる事実確認シートに記載しておくのが当然である。その記載がないことは,上記発言をしていないことを強く窺わせる。
③について,被控訴人Aが閉扉協力等に消極的態度であったことが人事考課において評価の対象となることは否定されないとしても,これが重視されていなかったことは,平成26年3月28日の面談の際に,被控訴人Aから2か所(市民・お客さま志向と規律性)に低い評価がある
理由を聞かれたD所長が,ひげを生やしていることだけが理由である旨の返答をしていること(甲31の2の1頁。

それですね。それだけです。

)からも明らかである。よって,控訴人の上記主張は採用することができない。

平成26年度の人事考課について
控訴人は,原審同様,被控訴人Aが,④業務用逓送便を目的外に使用した,⑤兼業規制への抵触の有無を確認した上司に対し非協力的態度を示した,⑥被控訴人Bは,本件研修に不適切な服装で参加しようとした旨主張する。
しかし,④について,被控訴人Aの人事考課において減点要素とされたとは認められないこと,⑤について,被控訴人Aに上司に対する非協力的な態度があったとは認められないことは,原判決認定のとおり(事実及控訴人は,④について,服務規律違反行為につき指導を受けながら,再度違反を繰り返したことを人事考課において考慮しないことはあり得ない,人事考課シート等にその記載がないのは,評価者自身がその状況を直接把握しているからである旨主張する。しかし,人事考課において重要な事情として考慮するのであれば,仮に評価者がこれを直接把握していたとしても,当然,その事実は,人事考課シート及び事実確認シートに記載されていて然るべきである。人事考課がどのような事情を踏まえて行われたものかを明確にしておくことは,これが公正に行われたものか否かを検証するためにも,当然の要請である。人事考課シート等にその記載がないのは,業務用逓送便の目的外使用の件が重要な事情と認識されていなかったからにほかならないというべきである。⑤について,控訴人は,E代理が被控訴人AにNPO法人の活動や報酬の有無につき報告するよう指導したことは,後日行われた面談の際の会話から明らかである旨主張する。しかし,控訴人の指摘する会話の内容(乙114の2)をみても,E代理が上記報告を被控訴人Aに指示していたことを前提とするものということはできない。既に解散している団体につき存在するかのように申し出たことが,交通局の業務に混乱を招くとの主張についても,具体性を欠いており,人事考課において考慮されるべき事情とは考えられない。よって,控訴人の上記主張は採用することができない。なお,⑥について,被控訴人Bの人事考課において一定の考慮がされた(同d・e)としても,D所長が平成27年2月の時点でも,ひげを生やしていれば,人事考課を低評価とせざるを得ないとの認識を有していたこと(原判決「事実及び理由
b・c)に照らすと,上記に
より,被控訴人Bにつき,ひげを減点要素として考慮しなかったことまでが裏付けられるものではない。
平成26年度の人事考課についても,ひげを生やしていることは他との総合評価の一要素であるとの控訴人の主張は採用することができない。7
争点3(被控訴人らに係る損害の有無及びその額)について
当裁判所も,本件各考課及びC運輸長の被控訴人Bに対する発言により,被控訴人らが心理的圧迫や精神的苦痛を受けたこと,被控訴人らが受けた精神的苦痛に対する慰謝料としてはそれぞれ20万円,弁護士費用としてはそれぞれ2万円が相当であるものと判断する。その理由は,原判決事実及び理由の第5の4に記載のとおりであるから,これを引用する。
控訴人は,被控訴人らは心理的圧迫を受けたことはない,本件各考課は適正・公正なものであるから被控訴人らの精神的苦痛は保護に値しない,C運輸長の一度きりの発言で被控訴人Bに損害が生じたと解することはできないと主張する。
しかし,ひげを身体の一部と認識したり(甲68),ひげを生やすことで頑張ってきた(原審被控訴人B本人)という被控訴人らに対し,本件各考課が心理的圧迫にならないわけはない。本件各考課が適正・公正といえないこと,C運輸長の発言が被控訴人Bに対し精神的圧迫等を与えたことは,既に5
及び6で判示したとおりである。被控訴人らが実際にひげを剃ったこと
がないことは,被控訴人らの精神的損害を否定する根拠とはならない。よって,控訴人の上記主張は採用することができない。

被控訴人らは,本件身だしなみ基準の制定そのものが違法であるとして,この運用に基づく所長らの違法行為は,被控訴人らに対する組織的,継続的ハラスメントであると主張する。
しかし,本件身だしなみ基準の制定自体が違法であるといえず,C運輸長の発言を除いて被控訴人らの上司に国賠法上違法とされるような行為があったと認められないことは,4及び5のとおりである。本件各考課及びC運輸長の発言が違法性を有するとしても,これをもって直ちに,控訴人が被控訴人らに対し,組織的,継続的ハラスメントを行ったと評価することはできない。
慰謝料の算定に当たって,経済的不利益(賞与の格差)を考慮・斟酌すべきとの主張も,本件各考課により被控訴人らに勤勉手当差額相当額の損害が生じたと認められない



被控訴人らの主張を踏まえても,違法性が認められる行為の態様等に照らし,被控訴人らに対する慰謝料額は20万円をもって相当とする。これが低きに失するとまでは認めることはできない。
なお,被控訴人Bは,控訴人から心理的圧力を受け続けた結果,身体症状が悪化し,原判決言渡し後の平成31年4月10日から約1か月間の休職を余儀なくされたとも主張する。しかし,被控訴人Bが提出する診断書(甲74)には,過敏性腸症候群により約1か月の休養を要すると考えるとの記載はあるものの,疾病の原因等は何ら記載されていない。被控訴人Bの疾病の発生又は悪化がストレスによるものであるとしても,これは,本件各考課等に起因するものというより,原判決言渡し後の周囲の反応等が寄与しているものかと考えられるところである(本件身だしなみ基準におけるひげに関する規定を,交通局の乗客サービスの理念を示し,職員の任意の協力を求める趣旨のものとみる限り,ひげを生やしていることを直ちにルール違反,ルール無視というのは当たらない。)。
よって,被控訴人らの主張も採用することができない。
以上によれば,被控訴人らは,控訴人に対し,国賠法1条1項に基づき,それぞれ22万円の損害賠償金及びこれに対する年5分の割合による遅延損害金を請求することができる。
第4

結論
よって,被控訴人らの請求は上記の限度でそれぞれ理由があり,これと同旨の原判決は相当であって,本件控訴及び本件各附帯控訴(当審で追加された請求を含む。)はいずれも理由がないから,これらをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第3民事部

裁判長裁判官

江口と
裁判官

角田ゆ
裁判官

森鍵し子み一
トップに戻る

saiban.in