判例検索β > 平成14年(わ)第1360号
業務上過失致死傷被告事件
事件番号平成14(わ)1360
事件名業務上過失致死傷被告事件
裁判年月日平成15年3月13日
法廷名神戸地方裁判所
裁判日:西暦2003-03-13
情報公開日2017-10-13 01:44:45
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主 文
被告人を禁錮1年2月に処する
この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。
理 由
(罪となるべき事実)
被告人は,平成14年1月14日午前4時49分ころ,業務として普通貨物自動車を運転し,三重県上野市a自動車専用道路国道25号線上り線35.6キロポスト付近道路の走行車線を西方から東方に向かい進行するに当たり,前方を注視し,進路の安全を確認しつつ進行すべき業務上の注意義務があるのに,これを怠り,自車進路前方約213.3メートルの地点に交通事故のため停止していた複数の車両を認め,同停止車両を避けるため追い越し車線に進出しようとして,右後方の安全を確認することに気を取られ,前方を注視せず,進路の安全確認不十分のまま時速約50ないし60キロメートルで進行した過失により,交通事故のため上記停止車両の手前で停止していたA運転の普通乗用自動車をその間近に迫って初めて発見し,急制動の措置を講じ
ようとしたものの及ばず,同車後部に自車左前部を衝突させ,更に,その前方で交通事故のため停止中のBが運転していた普通乗用自動車に自車前部を衝突させて,上記B車両を前方に押し出し,同車をして更にその前方で交通事故のため停止中のCが運転していた普通乗用自動車に衝突させ,その際,同所路肩付近に佇立していたD(当時32歳)及び上記C(当時29歳)に上記B車両を衝突させるなどし,よって,上記Dに頭部打撲の傷害を負わせ,同日午前7時5分ころ,同市b町c番地所在の医療法人社団E総合病院において,上記傷害に基づく脳挫傷により死亡するに至らせるとともに,上記Cに加療約1か月間を要する左肋骨骨折等の傷害を負わせたものである。
(証拠の標目)―かっこ内は検察官請求証拠甲乙の番号
省略
(補足説明)
本件公訴事実は,本件事故直前の被告人車両の速度を時速約70キロメートル,A運転車両を発見したときの同車との距離を約9.6メートルとするものであり,被告人は,捜査段階においてはこれに沿う供述もしていたが,公判廷においては,本件事故直前の被告人車両の速度は時速約50ないし60キロメートルであり,A運転車両を発見したときの同車との距離はほとんどなかった旨供述するところ,当裁判所は,被告人の公判廷における上記供述の方が信用できると判断したので,その理由を補足して説明する。
被告人は,警察官調書(乙2)においては,本件事故直前の被告人車両の速度は時速約50ないし60キロメートルであったと供述していたが,警察官調書(乙3)において,本件事故後他の車両3台を押すなどしていることから,もう少し速度は出ていて時速約70キロメートルではないかと思うと供述を変え,検察官調書(乙4)でも同様の速度であった旨の供述をしていることが明かであるが,このような供述の変遷の経緯からすれば,時速約70キロメートルである旨いう供述は必ずしも被告人の記憶に基づくものとは思えないこと,これに対し,被告人の公判廷における供述が時速約80キロメートルで進行していて交通事故により停止している複数の車両を認めて,時速約50ないし60キロメートルにまで減速した状況についていうところに不
自然はないこと,特に,被告人は,交通事故により停止している複数の車両を認めて,追い越し車線に進路変更しようとしたものの,追い越し車線を進行する車両が続いていたため,すぐには進路変更できなかったものであって,被告人が認めていた交通事故により停止している複数の車両と衝突する危険を避けるためにも,被告人車両がある程度減速していた可能性が高いと考えられることなどからすると,本件事故直前の被告人車両の速度は時速約70キロメートルではなく,時速約50ないし60キロメートルであったと認めるのが合理的である。
また,A運転車両を発見したときの同車との距離については,約9.6メートルあったとする供述よりは,ほとんどなかった旨いう供述の方が被告人に不利益と考えられる上,検察官調書(乙4)においても,A運転車両を発見したのと急ブレーキを踏んだのと衝突したのとはほとんど同時くらいであった旨供述していたのであるから,被告人の公判廷における供述のいうように,A運転車両を発見したときの同車との距離はほとんどなかったと認めるのが相当である。

(法令の適用)
罰条 刑法211条1項前段
科刑上一罪の処理 刑法54条1項前段,10条(1罪として犯情の重い業務上過失致死罪の刑で処断)
刑種の選択 禁錮刑
宣告刑 禁錮1年2月
刑の執行猶予 刑法25条1項(4年間)
(量刑の理由)
本件は,被告人が,普通貨物自動車を運転中,前方注視を怠った過失により,交通事故により停止中の車両に衝突するなどして,路上に佇立していた者のうち1名を死亡させ,1名に傷害を負わせたという,業務上過失致死傷の事案である。 被告人は,前方に交通事故により停止している車両を認めながら,追い越し車線に進出するため右後方の安全確認に気を取られて前方注視を怠り,本件事故を招いたものであって,過失の程度は低いものではないこと,被害者Dは脳挫傷によりその日のうちに死亡し,被害者Cも判示の傷害を負っていて,生じた結果は取り返しのつかない重大なものであること,被害者Dは突然に生命を失うことになったのであって,その無念さは大きいものと推量され,またその遺族の悲しみも大きいことなどを考え併せると,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。
しかしながら,本件事故現場では,本件事故の直前に5件もの交通事故が発生し,そのため暗い夜間の道路上に何台もの車両が不自然な形で停止するなど,非常に危険な状況にあったこと,被告人が本件を反省し,特に死亡した被害者Dの遺族の慰謝にも努めていること,被害者Dの遺族との間で示談が成立し,被告人車両に付されていた任意保険(共済)等から相当額の損害賠償が支払われており,被害者Cについても示談未成立ではあるものの,任意保険(共済)等から相当額の賠償がなされるであろうこと,被害者Dの遺族や被害者Cも被告人に対する厳重処罰は望んでいないこと,被告人にはこの十数年間は酒気帯び運転罪による罰金以外に前科がないことなどの,被告人のために酌むべき事情も認められるので,今回は,被告人に対して,その刑の執行を
猶予することとする。
(検察官の科刑意見・禁錮1年2月)
よって,主文のとおり判決する。
平成15年3月13日
神戸地方裁判所第12刑事係甲
裁判官 森岡安廣

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