判例検索β > 平成24年(し)第268号

名張毒ぶどう酒殺人事件第7次再審請求の差戻し後の特別抗告事件

再審開始決定及び死刑執行停止決定に対する異議申立ての決定に対する特別抗告事件
事件番号平成24(し)268
事件名再審開始決定及び死刑執行停止決定に対する異議申立ての決定に対する特別抗告事件
裁判年月日平成25年10月16日
法廷名最高裁判所第一小法廷
裁判種別決定
結果棄却
判例集等巻・号・頁集刑 第312号1頁
原審裁判所名名古屋高等裁判所
原審事件番号平成22(け)2
原審裁判年月日平成24年5月25日
判示事項刑訴法435条6号所定の再審事由が認められないとした原判断が是認された事例(いわゆる名張毒ぶどう酒殺人事件第7次再審請求の差戻し後の特別抗告事件)
参照法条刑訴法435条6号
裁判日:西暦2013-10-16
情報公開日2017-10-17 13:52:11
戻る / PDF版
関連情報をウェブ検索
平成24年(し)第268号

再審開始決定及び死刑執行停止決定に対する異議

申立ての決定に対する特別抗告事件
平成25年10月16日

第一小法廷決定

主文
本件抗告を棄却する
理由
本件抗告の趣意は,憲法違反,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法433条の抗告理由に当たらない。所論に鑑み,職権により判断する。
1
確定判決の概要

確定判決の認定した罪となるべき事実の要旨は,次のとおりである。申立人(大正15年1月14日生・当時35歳)は,妻(当時34歳)と愛人(当時36歳)との三角関係の処置に窮し,両名を殺害してその関係を清算しようと考え,昭和36年3月28日,申立人及び両名らが所属する生活改善クラブの懇親会が開催される三重県名張市内の公民館に女子会員用のぶどう酒を運び入れた上,公民館に誰もいなくなった隙に,女子会員らが死亡するかもしれないことを十分認識しながら,上記ぶどう酒を開栓して,竹筒に入れて忍ばせて持参していた農薬ニッカリンTを4ないし5㏄注入し,替え栓(内蓋)を元どおりかぶせるなどし,同日午後8時頃,懇親会に出席した女子会員20名に提供させ,これを飲んだ17名につき,有機燐中毒により,妻と愛人を含む5名を死亡させて殺害し,12名に傷害を負わせ,3名については飲ませるに至らなかった(殺人殺人未遂)。確定判決の有罪認定の主たる根拠は,①本件ぶどう酒に有機燐テップ製剤が混入されたのは外蓋等の証拠物の発見状況等によれば公民館の囲炉裏の間であったと認められ,犯行の機会があった人物は,会の開始前に本件ぶどう酒と共に公民館にただ一人で約10分間いた申立人以外にはいないこと及び②申立人が事件後間もなく参考人として事情聴取されていた段階から起訴直前に至るまで犯行状況等について詳細に供述していた各自白調書の信用性が高いことにある。
2
本件特別抗告に至る経緯等

本件第7次再審請求に至るまで,多数の証拠が提出されてきたが,確定判決の有罪認定に合理的疑いを生じさせるものではないと判断されてきた。本件第7次再審請求においては,弁護人から5つの証拠群が提出されたところ,最高裁平成19年(し)第23号同22年4月5日第三小法廷決定・裁判集刑事300号167頁は,4つの証拠群について刑訴法435条6号該当性を否定した上で,再審開始決定を取り消した異議審決定に関し証拠群3(使用毒物に関する鑑定書等)について審理不尽であるとして同決定を取り消し,本件を名古屋高裁に差し戻した。
証拠群3の鑑定書等は,本件使用毒物が有機燐テップ製剤であると判定した当時の三重県衛生研究所のペーパークロマトグラフ試験では,申立人が使用したと自白する農薬ニッカリンTに含まれる物質であるトリエチルピロホスフェート(TRIEPP)が,事件検体(本件飲み残しぶどう酒)からは検出されていないのに,対照検体(対照試験のために用意したぶどう酒に市販のニッカリンTを入れたもの)からは検出されているのは,本件使用毒物がニッカリンTではない別の有機燐テップ製剤であったとの疑いがある旨いうものである。
原決定(差戻し後の異議審決定)は,新たに実施した鑑定結果を踏まえ,同鑑定の結果によれば,TRIEPPは有機化合物の成分を分離する一方法であるエーテル抽出では抽出されないのであるから,その方法を用いて抽出が行われていた事件検体からTRIEPPが検出されていないからといって,本件使用毒物がニッカリンTでなかったことを導き出すものとはいえないと判断した。また,対照検体からTRIEPPが検出された点については,ニッカリンTに含まれる物質であるペンタエチルトリホスフェート(PETP)がエーテル抽出され,エーテル抽出後にTRIEPPを生成して検出されたものと考えられる旨判断した。そして,本件使用毒物がニッカリンTであることと,TRIEPPが事件検体からは検出されなかったこととは矛盾するものではなく,証拠群3は,刑訴法435条6号には該当するものではない旨判断した。原決定(差戻し後の異議審決定)は,その余の4つの証拠群についても上記最高裁決定同様に判断して同号該当性を否定して,改めて再審開始決定を取り消して再審請求を棄却した。これに対し,弁護人が特別抗告をした。
3
当裁判所の判断

原審(差戻し後の異議審)の鑑定は,科学的に合理性を有する試験方法を用いて,かつ,当時の製法を基に再製造したニッカリンTにつき実際にエーテル抽出を実施した上でTRIEPPはエーテル抽出されないとの試験結果を得たものである上,そのような結果を得た理由についてもTRIEPPの分子構造等に由来すると考えられる旨を十分に説明しており,合理的な科学的根拠を示したものであるということができる。同鑑定によれば,本件使用毒物がニッカリンTであることと,TRIEPPが事件検体からは検出されなかったこととは何ら矛盾するものではないと認められる。所論は,農薬を抽出する際には塩化ナトリウムを飽和するまで加える方法(塩析)が当時は行われており,塩析した上で試験をすればTRIEPPはエーテル抽出後であっても検出されると主張するが,当時の三重県衛生研究所の試験において塩析が行われた形跡はうかがわれず,所論は前提を欠くものである。また,対照検体からはTRIEPPが検出されている点についても,当審に提出された検察官の意見書の添付資料等によれば,PETPがエーテル抽出された後にTRIEPPを生成して検出されたものと考えられる旨の原判断は合理性を有するものと認められる。
以上によれば,証拠群3は,本件使用毒物がニッカリンTであることと何ら矛盾する証拠ではなく,申立人がニッカリンTを本件前に自宅に保管していた事実の情況証拠としての価値や,各自白調書の信用性に影響を及ぼすものではないことが明らかであるから,証拠群3につき刑訴法435条6号該当性を否定した原判断は正当である。
また,本件ぶどう酒の開栓方法等に係る実験結果報告書等のその余の4つの証拠群についても,上記最高裁決定の判示のとおり同号該当性は認められず,同旨の原判断は正当である。
よって,同法434条,426条1項により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官

櫻井龍子

裁判官

金築誠志

山浦善樹)
裁判官

白木


裁判官

トップに戻る

saiban.in