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不作為の違法確認及び審査促進等の義務付け請求事件 その他 行政訴訟
事件番号平成29(行ウ)74
事件名不作為の違法確認及び審査促進等の義務付け請求事件
裁判年月日平成30年9月20日
法廷名大阪地方裁判所
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平成30年9月20日判決言渡
平成29年(行ウ)第74号

同日原本交付

裁判所書記官

不作為の違法確認及び審査促進等の義務付け請求事


口頭弁論終結日平成30年7月20日
判原告被決
P1

告国
同代表者法務大臣
処分行政庁
同指定代理人

中田光昭馬田雅行同竹原友深同新里将也同内澤啓同川口藍同田中岳夫同農林水産大臣


P2

筒浦良昌
P3

主1文
本件各訴えのうち,ベンケイソウ科キリンソウ属を対象とした農林水産
植物種類別審査基準の区分「きりんそう」の審査基準を用いて出願番号第29005号の登録審査を速やかに行うことの義務付けを求める訴えを却下する。2
原告のその余の請求を棄却する。

3
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1請求
1
原告が平成26年3月7日付けでした品種登録出願につき農林水産大臣が何らの処分をしないことが違法であることを確認する。
2
ベンケイソウ科キリンソウ属を対象とした農林水産植物種類別審査基準の区
分「きりんそう」の審査基準を用いて出願番号第29005号の登録審査を速やかに行え。
第2事案の概要
1請求の要旨
本件は,平成26年3月7日に農林水産大臣に対して種苗法5条1項に基づく品種登録出願(品種登録出願の番号:第29005号,以下「本件出願」という)をした原告が,被告に対し,農林水産大臣が本件口頭弁論終結時までに本件出願につ
いて何らの処分もしないことは違法であるとして,その不作為の違法確認を求める(第1の1項)とともに,本件出願に係る出願品種(以下「本件品種」という。)の登録審査をベンケイソウ科キリンソウ属の「きりんそう」を対象植物とする種類別審査基準に従って速やかに行うべきであるとして,その義務付けを求める(第1の2項)事案である。

2審査に関する関係法令等
品種登録出願,その審査及びこれに対する処分については,種苗法及び同法施行規則に定めがあるほか,「登録出願品種審査要領」(平成10年12月24日付け10農産第9422号農産園芸局長通知,以下「本件審査要領」という。乙1)において,その審査を行うに当たって準拠すべき方法が定められている。なお,種類
別審査基準とは,出願品種の区別性,均一性,安定性の審査(種苗法3条1項各号所定の要件の審査)を実施する際に用いられる審査基準のことであり,農林水産植物の種類ごとに作成することとされている(本件審査要領第4の2,別添5)。3
前提事実等(争いがないか,後掲証拠又は弁論の全趣旨により容易に認めら
れる事実等)
(1)本件出願
原告は,平成26年3月7日,農林水産大臣に対し,以下の内容等を記載した願書(以下「本件願書」という。)を提出して品種登録出願(本件出願)をした(品種登録出願の番号:第29005号,乙2)。

出願品種の属する農林水産植物の種類
(ア)学名(ローマ字)
(イ)和名

タケシマキリンソウ

PhedimustakesimenseNakai


出願品種の名称:オウミ

シマ2号

(2)ベンケイソウ科キリンソウ属の種に関する既存の種類別審査基準本件出願当時,ベンケイソウ科キリンソウ属の種に関する既存の種類別審査基準としては,甲9及び乙12のものがあった(以下「本件現行審査基準という。)。そこでは,対象植物の範囲について次のとおり定めた上で,51の形質項目が定められていた。
「本基準案はベンケイソウ科(Crassulaceae)キリンソウ属(PhedimusRaf.)の「きりんそう」(和名でキリンソウ,ホソバノキリンソウ及び産地名を付して呼ばれるエゾノキリンソウ等)と呼ばれているアイゾーン種(P.aizoon(L.)'tHart
[Syn.SedumaizoonL.])とカムチャティカム種(P.kamtschaticus(Fisch.)'tHart[Syn.S.kamtschaticumFisch.])を対象植物とする。」(3)比較栽培調査の実施

農林水産省食料産業局長は,平成27年度種類別審査基準作成計画の中
で,本件品種が属する種であるタケシマキリンソウ種の種類別審査基準を検討することとし,平成26年12月16日付けで,独立行政法人種苗管理センター(以下「種苗管理センター」という。)理事長に対し,そのための情報収集を依頼した(乙1,4,甲6)。

種苗管理センターは,平成27年2月,原告から,本件品種とこれ以外
の既存品種の種苗の提出を受けた(甲6,44,乙11)。種苗管理センターは,これらの特性を把握するため,同年4月から平成28年7月頃にかけて,原告から提出を受けた種苗を用いて栽培調査(種類別審査基準作成に係る情報収集のための試験栽培。以下「本件比較栽培調査1」という。)を実施した(甲6,弁論の全趣旨)。

その間の平成27年11月及び同年12月に,タケシマキリンソウ種に
属する品種の品種登録出願が合計3件行われた(乙13,これら後願に係る品種を「本件後願3品種」という。)。

種苗管理センターは,平成28年4月から平成29年8月頃にかけて,
提出を受けた本件後願3品種を加えて栽培調査(以下「本件比較栽培調査2」といい,本件比較栽培調査1と併せて「本件各比較栽培調査」という。)を実施した(甲6,弁論の全趣旨)。
(4)栽培試験の実施

農林水産大臣は,平成29年2月23日付けで,原告に対し,本件品種
についての栽培試験(品種登録審査のための栽培試験)の開始時期を平成30年6月とする旨通知するとともに,栽培試験で用いる本件品種の種苗の提出を命じた(提出期間:同月4日から同月8日まで。乙8)。

種苗管理センターが組織変更した国立研究開発法人農業・食品産業技術
総合研究機構(以下「農研機構」という。)の理事(種苗管理担当)は,平成30年4月17日,農林水産省食料産業局長に対し,同年3月14日に開催した平成29年度種類別審査基準案作成検討会議における検討結果に基づき,タケシマキリンソウ種を本件現行審査基準の対象植物に追加することなどを内容とする種苗特性分類調査の報告書(以下「本件報告書」という。)を提出する形で,本件各比較栽培調査等で得られた情報を報告した(乙21,22)。

農研機構は,同年6月6日,原告から,本件品種の種苗の提出を受けた
(争いのない事実)。
農研機構の種苗管理センターは,同日から,本件報告書に従って,原告から提出を受けた本件品種の種苗等を用いて特性審査を実施するための栽培試験(以下「本件栽培試験」という。)を開始した(弁論の全趣旨)。
(5)本件出願に対する処分
農林水産大臣は,本件口頭弁論終結時(平成30年7月20日)において,本件出願について何らの処分もしていない(弁論の全趣旨)。
4争点及びこれに関する当事者の主張
(1)本件出願から「相当の期間」(行政事件訴訟法3条5項)が経過したか否

(原告の主張)

キリンソウ属に属する品種に係る品種登録出願については,その特性審
査を実施するに当たって新たな種類別審査基準を作成する場合であっても,出願から3,4年程度で品種登録処分がされていることに,キリンソウ属ではないものの,キリンソウ属と同じベンケイソウ科に属する品種に係る品種登録出願から品種登録処分がされるまでに要した期間を併せ考えると,キリンソウ属に属する品種に係る品種登録出願である本件出願に対する処分をするまでに通常必要とする期間は,3年程度である。ところが,本件出願については,出願から4年以上が経過してもな
お,これに対する処分がされていないから,農林水産大臣は,「相当の期間」内に何らの処分もしなかったというべきである。

そもそも比較栽培調査を行う法令上の根拠はない。

また,①本件品種が属するタケシマキリンソウ種の形態的特性が,本件現行審査基準の対象植物であるエゾノキリンソウ種のそれと類似すること,②本件現行審査基準では,異なる形質を有する種の特性審査も実施できるよう,51もの形質について特性の評価を行うこととされていること,③本当はエゾノキリンソウ種ではなくタケシマキリンソウ種に属するトットリフジタ1号の特性審査を本件現行審査基準に従って実施したこと,④タケシマキリンソウ種はキリンソウ種の地域種とされていたことに照らせば,タケシマキリンソウ種に属する本件品種の特性審査も,本
件現行審査基準に従って実施可能であり,比較栽培調査を実施することは不要であった(本件比較栽培調査1及び本件比較栽培調査2に共通する事情)。さらに,区別性(種苗法3条1項1号)は,出願品種とその品種登録出願前に公然知られた他の品種とを比較して行うべきものであるから,本件出願後に出願された本件後願3品種の種苗を用いて比較栽培調査を実施することは不要であった(本件比較栽培調査2に関する事情)。

比較栽培調査は,栽培試験を兼ねているはずであるから,本件各比較栽
培調査と別個に本件栽培試験を実施することは不要である。
(被告の主張)

品種登録出願に係る出願品種の特性審査は,その特性を審査するという
性質上,審査に要する期間を一律に定めることは極めて困難であるから,「相当の期間」の長さは,当該事案の具体的事情に応じ個別的に判断すべきものである。イ
本件品種が属するタケシマキリンソウ種を対象植物とする種類別審査基
準が存在しなかったことから,本件品種の特性審査を実施するに当たって新たな種類別審査基準を作成する必要があるか,タケシマキリンソウ種が属するキリンソウ属の別の種を対象植物とする種類別審査基準(本件現行審査基準)に従って本件品種の特性審査を実施することが可能であるかを検討する必要があった。そのためには,タケシマキリンソウ種に属する品種の区別性を判断する重要な形質に係る特性の種類や変異の幅を設定するための形質の特性を把握する必要があり,本件品種やそれ以外のタケシマキリンソウ種の種苗を用いた比較栽培調査を実施する必要があった(本件比較栽培調査1及び本件比較栽培調査2に共通する事情)。
また,同種の品種を可能な限り網羅した形で比較栽培調査を実施する必要があることから,本件後願3品種の種苗を用いた比較栽培調査も実施する必要があった(本件比較栽培調査2に関する事情)。

栽培試験は,特性審査に当たって実施されるものであり,比較栽培調査
とはその方法及び目的が異なることから,本件各比較栽培調査と別個に本件栽培試験を実施することが必要である。

以上の諸点に照らせば,本件口頭弁論終結時ではいまだ,本件出願の許否の判断をするために通常必要な期間は経過していない。
(2)本件品種の登録審査を本件現行審査基準に従って速やかに行うべきであるか否か
(原告の主張)
本件出願から「相当の期間」が経過しており,農林水産大臣が本件口頭弁論終結時までに本件出願について何らの処分もしないことは違法であるから,本件品種の登録審査を本件現行審査基準に従って速やかに行わなければならない。(被告の主張)
原告の主張は争う(なお,農林水産大臣が本件口頭弁論終結時までに本件出願に
ついて何らの処分もしないことは適法であるから,本件の義務付けの訴えは,行政事件訴訟法37条の3第1項1号の訴訟要件を欠き,不適法である。)。第3当裁判所の判断
1本件出願から「相当の期間」が経過したか否か
(1)品種登録出願に係る出願品種の審査のあらまし


出願

品種登録出願に際しては,農林水産大臣に対し,出願品種の属する農林水産植物の種類等を記載した願書を提出する(種苗法5条1項)とともに,これに,出願品種の植物体の特性及びそれにより他の植物体と明確に区別されることとなる特性(同法施行規則7条1項1号),出願品種の主たる用途及び栽培上の留意事項(同項4号)等を記載した説明書及び出願品種の植物体の写真を添付しなければならない(同法5条2項)。

出願公表前の審査

出願書類が提出されると,当該出願が法令で定める方式(同法5条1項,2項,同法施行規則5条から7条までなど)に違反しているか否かなどの方式審査が行われる(同法12条1項,本件審査要領第2の2(1))とともに,実体審査のうち書類によって審査できる要件(名称の適切性〔同法4条1項〕及び未譲渡性〔同条2項〕)の審査が行われる(本件審査要領第2の2(2)及び(3)。なお,名称の適切性の審査は,出願公表後も行われる〔同法16条2項参照,本件審査要領第4の2(2)〕。)。

出願公表

方式審査の結果出願書類に不備がなく,名称の適切性の要件を満たせば,出願公表がされる(同法13条1項,本件審査要領第3の1)。

特性審査(区別性〔同法3条1項1号〕,均一性〔同項2号〕及び安定
性〔同項3号〕に関する審査)
出願公表後,特性審査のために,原則として,現地調査又は栽培試験が行われる(同法15条2項本文)。栽培試験は種苗管理センターが実施し(同項本文),その項目は,①出願品種及び対照品種の植物体の特性,②出願品種に係る同法3条1項各号に掲げる要件(区別性,均一性及び安定性)である(同法15条4項,同法施行規則11条の2第1項)。
特性審査は,農林水産植物の種類ごとに作成された種類別審査基準等に従い,実
施される(本件審査要領第4の2(1))ところ,種類別審査基準が作成されるまでの間は,その作成のために実施された比較栽培調査等で得られた情報を取りまとめて作成された種苗特性分類調査の報告書の内容に従い,実施される(本件審査要領第4の2(1),同別添5「種類別審査基準の作成について」第1の1及び3,別記様式23及び24)。

栽培試験による特性の調査の結果は,おおむね当該栽培試験終了後3か月以内に,これをまとめた品種特性表を添付した栽培試験結果報告書を提出する形で報告される(同法施行規則11条の2第3項,別記様式第6号の2,本件審査要領第5の6(1)カ)。農林水産省の審査官は,これらの報告書(現地調査が行われた場合には現地調査の報告書等〔本件審査要領第6の6(2)オ(ウ)〕)が整った後おおむね3か月
以内に,特性審査の結果を取りまとめる(本件審査要領第6の7)。オ
処分
農林水産大臣は,審査の結果,拒絶処分をする場合を除き,品種登録処分をしなければならない(同法17条及び18条1項)。
(2)判断の前提となる事実経過
前提事実等に加え,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

本件出願

原告は,平成26年3月7日,農林水産大臣に対し,以下の内容等を記載(乙2)した願書(本件願書)等を提出して品種登録出願(本件出願)をした(品種登録出願の番号:第29005号)
(ア)出願品種の属する農林水産植物の種類

a
学名(ローマ字)

PhedimustakesimenseNakai

b
和名

タケシマキリンソウ

(イ)出願品種の名称:オウミ

シマ2号

(ウ)繁殖方法:栄養繁殖(挿し木,接ぎ木)
(エ)は種,植付け等の適期:挿し木

3月下旬~6月中旬

(オ)開花期:6月上旬~7月中旬
(カ)類似品種名:タケシマキリンソウ,トットリフジタ1号

出願公表前の審査

農林水産省の審査官は,本件出願について,平成26年4月に名称の適切性及び未譲渡性の審査を,同年5月に方式審査をそれぞれ実施した(乙9,10及び弁論の全趣旨)。その過程で,審査官は,同月30日,原告に対し,願書の「出願品種の属する農林水産植物の種類」には,種苗法施行規則別表第2表の学名,和名を記載願っているとして,本件願書の同欄の学名を「Phedimuskamtschaticus(Fisch.)’tHart」に,和名を「エゾノキリンソウ種」とするよう求めた(甲45,
乙10)が,原告の指摘を受けて,同年6月5日頃,誤った訂正を求めたとして,職権により,「学名(ローマ字)

Phedimustakesimensis(Nakai)’tHart」,「和名

タケシマキリンソウ種」と訂正した(甲46.本件審査要領第2の3(1)参
照)。

出願公表

農林水産大臣は,原告に対し,名称の変更命令(同法16条1項)及び補正命令(同法12条1項)は発しておらず,未譲渡性の要件を満たさないことを拒絶の理由とする通知等(同法17条2項,1項)も行うことなく(弁論の全趣旨),同年8月28日,本件出願について出願公表をした(乙3)。

特性審査
(ア)農林水産省食料産業局長は,本件品種が属する種である「タケシマキ
リンソウ種」を対象植物とする種類別審査基準が作成されていなかったことから,特性審査を実施するに当たって,「タケシマキリンソウ種」を対象植物とする新たな種類別審査基準を作成する必要があるか,本件現行審査基準の対象植物に「タケシマキリンソウ種」を追加するかを検討するため,平成26年12月16日付けで,種苗管理センター理事長に対し,これを作成するための情報収集(特性調査)を依
頼した。
(イ)種苗管理センターは,平成27年2月,原告から,本件品種のほか,タケシマキリンソウ(ポット苗),タケシマキリンソウ・斑入種(ポット苗),ホソバノキリンソウ(ポット苗),エゾノキリンソウ・細葉種(セル苗)(各10個体。甲44,乙11)の提出を受けた。種苗管理センターは,同年4月から平成2
8年7月頃にかけて,原告から提出を受けた種苗を用いて栽培調査(本件比較栽培調査1)を実施した。
(ウ)この間の平成27年11月及び12月に,タケシマキリンソウ種に属する本件後願3品種の品種登録出願がされたことから,種苗管理センターは,本件品種とこれ以外の既存品種の特性を把握するため,平成28年4月から平成29年
8月頃にかけて,平成28年3月に提出を受けた(弁論の全趣旨)本件後願3品種の種苗を加えて栽培調査(本件比較栽培調査2)を実施した。
(エ)農林水産大臣は,平成29年2月23日付けで,原告に対し,本件品種についての栽培試験の開始時期を平成30年6月とする旨通知するとともに,栽培試験で用いる種苗の提出を命じた(提出期間:同月4日から同月8日まで)。(オ)農研機構の理事(種苗管理担当)は,平成30年4月17日,農林水産省食料産業局長に対し,同年3月14日に開催した平成29年度種類別審査基準案作成検討会議における検討結果に基づき,タケシマキリンソウ種を本件現行審査基準の対象植物に追加することなどを内容とする種苗特性分類調査の報告書(本件報告書)を提出する形で,本件各比較栽培調査等で得られた情報を報告した。本件報告書(乙22)によれば,本件現行審査基準の改定案は,名称を「キリン
ソウ属審査基準」とし,上記のとおり対象植物にタケシマキリンソウ種を追加するほか,近縁種についても同基準が適用可能か検討した上で用いることとした上で,特性の評価を行う形質を若干追加・削除・修正し(本件現行審査基準〔乙12〕と比較すると,形質項目数は同じ51であるが,新形質番号6,17,26ないし28,31,41が追加され,旧形質番号3,13,18,21,35,36,43
が削除され,それ以外でも形質の名称と順序が修正されているほか,標準品種の指定も修正され,特性表の説明も増加・修正されている。),試験方法に関し,栄養繁殖性品種の最低供試個体数については30個体,栽培期間については1生育周期(越冬後,おおむね翌年夏期まで),調査時期については,特に指示がない限り定植翌年の6月に実施し,冬期の調査を行うことになっているものは厳冬期に行うな
どとしている。
(カ)農研機構の種苗管理センターは,平成30年6月6日,原告から本件品種の種苗の提出を受け,同日から,本件報告書に従って,特性審査を実施するための栽培試験(本件栽培試験)を開始した。

本件訴えの提起

原告は,平成29年4月22日,本件の不作為の違法確認の訴えと義務付けの訴えとを併合提起した(当裁判所に顕著な事実)。

本件出願に対する処分

農林水産大臣は,本件口頭弁論終結時(平成30年7月20日)において,本件出願について何らの処分もしていない。
(3)検討

「相当の期間」の意義

不作為の違法確認の訴えとは,行政庁が法令に基づく申請に対し,「相当の期間」内に何らかの処分をすべきであるにかかわらず,これをしないことについての違法の確認を求める訴訟である(行政事件訴訟法3条5項)。この「相当の期間」は,行為の種類,性質等によって一概にいえないところがあるから,具体的事案に即して個別に判断するほかはないものの,行政庁が当該行為をするのに通常必要とする期間を経過しているか否かを基準として判断するのが相当である。この点,原告は,他の品種登録出願が処分されるまでに実際に要した期間を参考に,本件出願に対する処分をするまでに通常必要とする期間は3年程度であると主張する。しかし,植物の生育期間は植物の種類により様々であって,その栽培試験
等に長期間を要する場合や,特性に係る調査をなし得る季節が限定される場合もある(甲36ないし38,乙21,弁論の全趣旨)という事情からして,タケシマキリンソウ種とは異なる種の品種に係る品種登録出願が処分されるまでに実際に要した期間を参考に,他の品種登録出願が処分されるまでに通常必要とされる合理的期間を一律に認定することは困難である。また,実際にも,本件出願よりも前に出願
され,同じ平成27年度種類別審査基準作成計画に掲げられた「たまがさのき種」も,種苗特性分類調査の報告書の提出までに同じ期間を要している(乙4,22)。したがって,原告の上記主張は採用できない。

本件出願の審査について
(ア)出願公表前の審査

本件出願については,出願後直ちに,方式審査並びに名称の適切性及び未譲渡性の審査が実施され,出願から6か月弱の期間で出願公表の段階まで至っており,これら出願公表前の一連の審査経過の中に問題視すべきような対応の遅さは認められない。
(イ)本件各比較栽培調査の実施
a
比較栽培調査を実施すること自体について
(a)本件では,農林水産省食料産業局長が,本件品種の特性審査を実
施するに当たっては,「タケシマキリンソウ種」を対象植物とする新たな種類別審査基準を作成するか,本件現行審査基準の対象植物に「タケシマキリンソウ種」を追加するかを検討する必要があり,その検討のためには,本件品種とこれ以外のタケシマキリンソウ種の既存品種の特性を把握する必要があると判断した結果,本件比較栽培調査1が実施されるに至っている。そして,その判断の根拠は,本件品種が属する種であるタケシマキリンソウ種が,ベンケイソウ科キリンソウ属の種に関する種類別審査基準として既に存在していた本件現行審査基準の対象植物ではなかったということにある。
この点,タケシマキリンソウ種(Phedimustakesimensis(Nakai)’tHart)は,
本件現行審査基準の対象植物であったアイゾーン種(ホソバノキリンソウ種,P.aizoon(L.)’tHart[Syn.SedumaizoonL.])及びカムチャティカム種(エゾノキリンソウ種,P.kamtschaticus(Fisch.)’tHart[Syn.S.kamtschaticumFisch.])と同じキリンソウ属に属し,取り分けアイゾーン種とその形態的特性が似ている(争いのない事実)といっても,アイゾーン種及びカムチャティカム種とは
飽くまで別の種である(乙15,18)。したがって,タケシマキリンソウ種は本件現行審査基準の適用範囲外であるから,タケシマキリンソウ種の特性審査を行うには,タケシマキリンソウ種を対象植物とする新たな種類別審査基準を作成するか,本件現行審査基準の対象植物にタケシマキリンソウ種を追加する必要があるというべきである。そうすると,農林水産省食料産業局長が,その検討のために,タケシ
マキリンソウ種の特性を把握する必要があると判断し,そのための方法として,タケシマキリンソウ種に属する複数の品種(本件品種のほか既存品種)や他の類似の種を用いて比較栽培調査を実施することを選択したことは合理的な判断というべきである。
(b)これに対し,原告は,①比較栽培調査を行う法令上の根拠がない,②タケシマキリンソウ種はアイゾーン種(ホソバノキリンソウ種)とその形態的特性が似ているところ,本件現行審査基準には51もの広い形質項目が定められているから,タケシマキリンソウ種も本件現行審査基準を用いて審査可能である,③本件現行審査基準によって審査され,エゾノキリンソウ種として登録されているトットリフジタ1号は,実際にはタケシマキリンソウ種に属することから,同じタケシマキリンソウ種に属する本件品種の特性審査も,本件現行審査基準に従って実施可
能である,④タケシマキリンソウ種はキリンソウ種の地域種とされていたから,本件現行審査基準の対象とし得ると主張する。
まず,①についてみると,行政手続法は,行政庁に対し,許認可等をするかどうかを法令の定めに従って判断するために必要とされる審査基準を当該許認可等の性質に照らしできるだけ具体的なものとしてあらかじめ用意しておくことを義務付け
ている(同法5条1項,2項)ところ,新たな種類の農林水産植物について,特性審査を実施するために必要とされる種類別審査基準を作成するためには,当該農林水産植物の種類の重要な形質に係る特性の種類や変異の幅を把握する必要があり,そのためには比較栽培調査を行う必要がある。したがって,比較栽培調査を行うことに法令上の根拠はあるから,原告の上記①の主張は採用できない。
次に,②についてみると,本件現行審査基準を作成するに当たっては,タケシマキリンソウ種に属する品種の種苗を用いた比較栽培調査は実施されていない(弁論の全趣旨。なお,同審査基準の作成に供試されたトットリフジタ1号がタケシマキリンソウ種と認められないことは,次の③について述べるとおりである。)。したがって,タケシマキリンソウ種とアイゾーン種及びカムチャティカム種とでは,区
別性等の審査の際に確認しなければならない重要な形質に係る特性や変異の幅が異なっている可能性が否定できない以上,比較栽培調査によるタケシマキリンソウ種の審査基準の検討を経ることなく,本件現行審査基準を直ちにタケシマキリンソウ種に適用できるとはいえない。確かに,本件報告書の内容に鑑みると,新たに作られる「キリンソウ属審査基準」では,本件現行審査基準の対象植物にタケシマキリンソウ種が追加され,また,近縁種についても同基準が適用可能か検討した上で用いることとされて,「キリンソウ属」の審査基準とされる見込みであるとはいえ,それは比較栽培調査を経た上でのことであり,現に評価対象となる形質項目や標準品種の指定等に相応の修正が加えられているから,本件品種の特性審査が,比較栽培調査を経ることなく本件現行審査基準に従って直ちに実施可能であったとは認められない。したがって,原告の上記②の主張は採用できない。
さらに,③についてみると,原告が指摘するトットリフジタ1号は,エゾノキリンソウ種として登録されている(甲24)ところ,DNA塩基配列解析試験の報告書(甲7)では,原告がトットリフジタ1号であるとする検体について,ⅰタケシマキリンソウとの核リボゾームDNAのITS1領域とITS2領域での塩基配列の相同性が99%又は100%とされている一方,ⅱタケシマキリンソウと種が異
なるエゾノキリンソウとの相同性も99%とされていることからすると,上記ⅰにおける相同性の高さをもって,上記検体がタケシマキリンソウ種であると断定することはできず,現に上記報告書における考察も,上記検体はいずれもタケシマキリンソウ又はこれと近縁なベンケイソウ科植物に由来する可能性が高いと考えられたとされるにとどまっている(なお,近縁種だからといって直ちに本件現行審査基準
をタケシマキリンソウ種に適用できないことは前記のとおりである。)。また,これらの点を措くとしても,前記のとおり,本件現行審査基準を作成するに当たっては,タケシマキリンソウ種に属する品種の種苗を用いた比較栽培調査は実施されていないから,仮にトットリフジタ1号がタケシマキリンソウ種である場合でも,タケシマキリンソウ種に属する他の既存品種も用いた比較栽培調査により,タケシマ
キリンソウ種に対する本件現行審査基準の妥当性を検討することが必要になるというべきであり,実際にタケシマキリンソウ種の既存品種や本件品種等を用いて本件各比較栽培調査をしたところ,本件現行審査基準から評価対象となる形質項目や標準品種の指定等に相応の修正が加えられるに至っている。したがって,原告の上記③の主張は採用できない。
また,④についてみると,確かに甲12の論文では,SedumkamtchaticumFicsh.のうちの5504のものが,S.takesimeseNakaiのTopotypeであると記載されている。しかし,このことが植物分類学上の定見となっていたことを認めるに足りる証拠はなく,かえって,日本も加盟している国際植物新品種保護同盟(UPOV)のデータベース(GENIE)においても,Phedimuskamtschaticus(Fisch.)’tHartとPhedimustakesimensis(Nakai)’tHartとは別の種とされており(乙15。
なお,国際植物命名規約上,植物の学名は,最初に属名,次に種小名が記載される〔上記に即していえば,「Phedimus」が属名,「takesimensis」等が種小名である。乙18〕。),UPOVが植物分類について参照することを推奨しているアメリカ合衆国農務省のデータベース(GRIN)でも同様である(乙15)から,両者は別の種であるというのが現状の標準的な見解であると認められる。したがって,原
告の上記④の主張は採用できない。
なお,農林水産省の審査官は,当初,本件品種の属する農林水産植物の種類をエゾノキリンソウ種に訂正するよう求めているが,これは,願書に記載すべき出願品種の属する農林水産植物の種類(種苗法5条1項2号)について,同法施行規則別表第2に掲げられているものしか記載できないとの誤解によるものであったことに
照らせば,このことをもって,本件品種に本件現行審査基準を適用できたとはいえない。
b
本件比較栽培調査1の実施について

出願公表が平成26年8月28日にされたのに対し,本件比較栽培調査1は,それから6か月以上が経過した平成27年4月頃に開始されている。しかし,本件願書に添付された説明書では,「は種,植付け等の適期」として,「挿し木
3月下

旬~6月中旬」とされているのであるから,本件比較栽培調査1の開始時期を4月頃としたのは合理的である。
また,本件比較栽培調査1は翌平成28年7月頃までの約1年3か月間行われているが,本件願書に添付された説明書には冬期の特性について記載されている(乙2)から,冬期の状態を調査する必要があり,また,開花期が「6月上旬~7月中旬」とされ,花の形状の特性も記載されている(乙2)から,挿し木をした翌年の7月頃に開花状況の調査をする必要があると認められる。
したがって,本件比較栽培調査1の実施についても,審査の遅滞があるとはいえない。
c
本件比較栽培調査2の実施について
(a)本件では,タケシマキリンソウ種の種類別審査基準を検討するた
めに,本件比較栽培調査2を更に行っている。種類別審査基準を検討するための特性の調査は,そのための比較栽培調査を1回行えば通常は足りるはずであるから,特段の事情のない限り,比較栽培調査を2回行う必要があるとはいえない。しかし,本件では,本件比較栽培調査1の実施中に,本件出願と同じタケシマキリンソウ種に属する品種について,本件後願3品種の品種登録出願がされたという事情を考慮する必要がある。すなわち,種類別審査基準は,農林水産植物の種類ごとに作成するものであるから,本件では,タケシマキリンソウ種に通有する種類別審査基準を検討する必要があったといえる。そうすると,そのための本件比較栽培調査1の実施中に,同じタケシマキリンソウ種について,本件品種に加えて本件後
願3品種の品種登録出願もされた場合には,本件後願3品種の特性も把握した上でタケシマキリンソウ種に通有する種類別審査基準を検討する方が有効適切な検討ができるから,そのために,本件後願3品種も追加した本件比較栽培調査2を更に実施することには合理性があるというべきである。
そしてまた,本件比較栽培調査2を平成28年4月から平成29年8月頃にかけ
ての時期に実施したことも,本件比較栽培調査1について先に述べたのと同様,審査の遅延をもたらしていないと認められる。
(b)これに対し,原告は,区別性は,出願品種とその品種登録出願前に公然知られた他の品種とを比較して行うべきものであるから,本件出願後に出願された本件後願3品種を用いて比較栽培調査を実施することは不要であったと主張する。確かに,種苗法3条1項1号は,「品種登録出願前に…公然知られた他の品種と特性の全部又は一部によって明確に区別されること」と規定しており,区別性を審査するに当たって対比すべき既存の品種は,品種登録出願前に不特定又は多数の者に知られているものとされているが,比較栽培調査の実施目的が,品種間の区別性の審査自体にあるのではなく,その際に確認しなければならない農林水産植物の種類ごとの重要な形質に係る特性の種類や変異の幅を把握する点にあり,タケシ
マキリンソウ種の種類別審査基準を検討するに当たっては,その種に属するなるべく多くの品種の栽培調査結果を基礎とするのが有効適切であるから,本件品種の登録審査のためには本件後願3品種と本件品種との区別性を審査する必要がないとしても,種類別審査基準の検討のためには,本件後願3品種を含めた比較栽培調査を実施することが合理的である。したがって,原告の上記主張は採用できない。
(ウ)本件栽培試験の実施について
a
特性審査は,原則として,現地調査又は栽培試験を実施して行うも
のとされているところ,栽培試験は,生育の全過程において特性を調査することができるとともに,年次変動,地域変動等による影響を最小限に抑えることができることから,最も正確な結果を得ることができるのに対し,現地調査は,一定期間の間,出願者の管理下で審査を行うことになり,審査の客観的信頼性において栽培試験に劣ることに照らせば,本件品種の特性審査を行うに当たって栽培試験を実施することは合理的である。
本件栽培試験は原告が本件品種の種苗を提出した日に直ちに開始されており,審査の遅延をもたらしていないと認められる。本件栽培試験の調査期は,本件口頭弁
論終結時よりも先の平成31年6月から7月頃であり,先に本件各比較栽培調査について述べたのと同様,この時期の設定も合理的である。
b
これに対し,原告は,比較栽培調査が栽培試験を兼ねているはずで
あるから,本件各比較栽培調査と別個に本件栽培試験を実施することは不要であると主張する。しかし,比較栽培調査は,種類別審査基準を検討するために,区別性等の審査の際に確認しなければならない重要な形質に係る特性の種類や変異の幅を把握するために実施されるものであり,そのためにはなるべく多種多様な同種ないし類似の種の品種を多数供試することが有効であるから,そのために1品種当たりの供試個体数は通常数個体程度とされている(弁論の全趣旨)ところ,本件比較栽培調査1では1品種当たりの供試個体数は10個体であった(乙11)。これに対し,栽培試験は,出願品種と対象品種の特性を比較して行う区別性の審査だけでな
く,同一の繁殖の段階に属する植物体のすべてが特性の全部において十分に類似しているか否かが問題となる均一性(種苗法3条1項2号)及び繰り返し繁殖させた後においても特性の全部が変化しないか否かが問題となる安定性(同項3号)の調査も行うために実施されるものであるから,比較栽培調査と比較して出願品種の特性をより深く調査する必要があるところ,本件栽培試験では,種類別審査基準で定
められた提出個体数に従って1品種当たりの供試個体数が30個体となっている(乙22)。このように本件各比較栽培調査と本件栽培試験とではその実施目的が異なり,これに伴ってその方法も異なっていることに照らせば,本件各比較栽培調査において本件栽培試験を実施目的が果たされているわけではないから,本件各比較栽培調査と別個に本件栽培試験を実施する必要がある。したがって,原告の上記
主張は採用できない。
(エ)小括
以上の諸点に照らせば,本件出願後のこれまでの審査に不当な遅延はなく,本件口頭弁論終結の時点(平成30年7月20日の時点)では,本件出願の許否を判断するための審査結果が出ていない以上,いまだ上記判断をするために必要な相当期
間が経過していたとは認められない。
したがって,本件の不作為の違法確認の訴えに係る請求は理由がない。2本件の義務付けの訴えの適法性
義務付けの訴えとは,行政庁がその処分をすべき旨を命ずることを求める訴訟であり(行政事件訴訟法3条6項柱書き),この「処分」とは,同条2項にいう「処分」,すなわち「行政庁の処分」をいうところ,この「行政庁の処分」とは,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法律上認められるものをいう(最高裁昭和30年2月24日第一小法廷判決・民集9巻2号217ページ,最高裁昭和39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809ページ等)。この点,種苗法の規定による登録審査は,行政庁が,品種登録出願に係る品種が
品種登録の要件を充足するか否かを判断するための審査であって,それ自体が直接出願者を始めとする国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定する効果を伴うものではない。したがって,原告が義務付けを求める対象である「登録審査」は「処分」に当たらないから,本件の義務付けの訴えは不適法である。また,仮に本件の義務付けの訴えが,品種登録処分の義務付けを求めるものであ
ると解したとしても,申請型義務付けの訴え(行政事件訴訟法3条6項2号)は,当該法令に基づく申請に対し相当の期間内に何らの処分がされないことを訴訟要件としているところ(同法37条の3第1項1号),本件においてこれが認められないことは前記1のとおりであるから,やはり本件の義務付けの訴えは不適法である。第4結論

以上の次第で,本件各訴えのうち,本件品種の登録審査を本件現行審査基準に従って速やかに行うことの義務付けを求める訴えは不適法であるからこれを却下し,原告のその余の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官

髙松宏之野上誠一大門宏
裁判官

裁判官
一郎
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