判例検索β > 平成27年(行ウ)第1087号
損害賠償請求事件
事件番号平成27(行ウ)1087
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日平成30年9月12日
法廷名岡山地方裁判所
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主文1
原告の請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求
被告らは,株式会社ベネッセホールディングスに対し,連帯して260億円及びこれに対する被告Aにつき平成28年2月5日から,被告B及び被告Cにつき同月4日から,被告D,被告E及び被告Fにつき同月3日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2
1
事案の概要
前提となる事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により認定することができる事実)
当事者等

原告は,
株式会社ベネッセホールディングス
(以下
「ホールディングス」
という。)の株主である。


ホールディングスは,株式会社ベネッセコーポレーション(以下「コーポレーション」という。)及び株式会社シンフォーム(以下「シンフォーム」という。)の完全親会社である純粋持株会社であり,自らは具体的な事業を遂行していない。

コーポレーションは,通信教育や出版等を業とする会社である。
シンフォームは,後記の本件期間頃,コーポレーションから顧客等の個人情報の管理等の委託を受けていた。

被告らは,後記の本件事故の頃,ホールディングスの取締役であった者であり,
被告Bは,
平成25年3月までコーポレーションの代表取締役を,

被告Eは,同年4月まではシンフォームの代表取締役を,同月からはコーポレーションの代表取締役を,それぞれ兼任していた。
漏えい事故の発生(甲9)
シンフォームの業務委託先の従業員は,平成25年夏頃から平成26年6月頃までの間(以下「本件期間」という。),シンフォームにおいて保管されていたコーポレーションの顧客等の個人情報を不正に領得し,これらを売却した(以下「本件事故」という。)。
2
原告の請求
上記事実関係を前提に,原告は,被告らに対し,本件事故に関し,会社法(平成17年法律第86号。平成26年法律第90号による改正前のもの。以下同じ。)847条3項,423条1項に基づき,ホールディングスに対する26
0億円の損害賠償金及び各訴状送達の日の翌日からの民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め,本件訴え(株主代表訴訟)を提起した。3
当事者の主張

【原告の主張】
コーポレーション及びシンフォームは,個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」という。)にいう個人情報取扱事業者として,同法についての経済産業分野を対象とするガイドラインを遵守するために,個人情報の安全管理のために必要かつ適切な措置や監督を講じなければならないところ,ホールディングスは,その完全子会社であるコーポレーション及びシンフォームに対し,個人情報保護に関する適正な内部統制システムを構築・
管理し,それを適正に運用すべき義務を負い,また,被告らは,ホールディングスの取締役として,コーポレーション及びシンフォームに対し,個人情報保護に関する適正な内部統制システムを構築・管理し,それを適正に運用すべき善管注意義務及び監視義務を,
ホールディングスに対し,
負っていた。
また,被告B及び被告Eは,本件期間内においてコーポレーションないし
シンフォームの取締役を兼任していたところ,コーポレーションないしシンフォームに損害が生じれば,それは同時に完全親会社であるホールディングスにも損害が生じることになるのであるから,コーポレーションないしシンフォームの取締役としての個人情報保護に関する適正な内部統制システムを構築・管理し,それを適正に運用すべき善管注意義務と同様の注意義務を,ホールディングスの取締役としても負っていたものである。
しかるに,被告らが,前記

の善管注意義務あるいは監視義務に違反した

ため,本件事故が発生し,ホールディングスは260億円の損害を被った。したがって,被告らは,ホールディングスに対し,会社法423条1項に基づく損害賠償責任がある。
【被告らの主張】
いずれも否認ないし争う。
個人情報保護法及び同法についての経済産業分野を対象とするガイドラインは,個人情報取扱事業者であるコーポレーション及びシンフォームを名宛人とするものであり,これらの完全親会社であるホールディングスを名宛人とするものではないから,ホールディングスの取締役としてホールディング
スに対して負う内部統制システム構築運用義務の内容や水準を規律するものではない。
また,原告の,被告B及び被告Eが,コーポレーションないしシンフォームの取締役としての善管注意義務と同様の注意義務を,ホールディングスの取締役としても負っていたとの主張は,法律上の論拠が何ら明らかでない。
結局,原告の主張する,被告らのホールディングスの取締役としてのコーポレーション及びシンフォームに対する個人情報保護に関する適正な内部統制システム構築・管理及びその適正な運用をすべき善管注意義務並びに監視義務については,その具体的な発生根拠が何ら明らかにされておらず,主張自体失当である。

したがって,被告らは,ホールディングスに対し,会社法423条1項に基づく損害賠償責任を負わない。
第3
1
当裁判所の判断
取締役会は,取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体
制の整備について決定するものとされており(会社法362条4項6号),これを受けて,親会社の取締役会においては,親会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制の整備にとどまらず
(会社法施行規則100条1項2号)

子会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制の整備についても決定するものとされている(同条1項5号ロ)。

2
取締役は,その善管注意義務として,前記1の内部統制システム構築義務を負うと解されているところ,本件で問題となるのは,コーポレーションやシンフォームが個人情報保護法20条の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じることを怠り,同法22条の委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を怠ったことについて(甲10),コーポレーションやシンフォー
ムの完全親会社であるホールディングスの取締役であった被告らに具体的にどのような内容の善管注意義務違反があるといえるかである(原告は被告らに対してホールディングスの取締役としての義務違反によるホールディングスに対する損害賠償を求めているものであるから,被告らのうち,本件事故当時にコーポレーションやシンフォームの取締役を兼務していた者についても同様に,
ホールディングスの取締役として具体的にどのような内容の善管注意義務違反があるといえるかが問題とされなければならないものというべきである。)。そして,コーポレーションやシンフォームにおいて,個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じること等は,第1次的には,コーポレーションやシンフォームの取締役会において決定実行されるべき事柄であり,原告
においては,コーポレーションやシンフォームの完全親会社であるホールディングスの取締役であった被告らにどのような義務があり,これに違反したと具体的に主張すべき責任がある。
しかしながら,原告の提出する各準備書面等を精査しても,この主張責任が果たされているとは認められない(なお,原告は具体的に主張するために必要であるとして,文書提出命令の申立てを行ったが,当裁判所は現時点では原告が主張責任を果たしていないとしてこれを却下したところ,原告は現時点での主張立証は終了したとした。)。
したがって,原告の,被告らのホールディングスの取締役としてのコーポレーション及びシンフォームに対する個人情報保護に関する適正な内部統制システム構築・管理及びその適正な運用をすべき善管注意義務並びに監視義務違反
の主張は,その主張自体からして失当といわざるを得ず,被告らのホールディングスに対する会社法423条1項に基づく損害賠償責任は認められない。3
よって,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
岡山地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官

溝邦彦
裁判官

國屋昭子
裁判官

横宮田裕平
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