判例検索β > 平成28年(あ)第1808号
詐欺、覚せい剤取締法違反被告事件
事件番号平成28(あ)1808
事件名詐欺,覚せい剤取締法違反被告事件
裁判年月日平成30年12月14日
法廷名最高裁判所第二小法廷
裁判種別判決
結果破棄自判
原審裁判所名東京高等裁判所
原審事件番号平成28(う)1030
原審裁判年月日平成28年10月14日
判示事項詐欺の被害者が送付した荷物を依頼を受けて名宛人になりすまして自宅で受け取るなどした者に詐欺罪の故意及び共謀があるとされた事例
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平成28年(あ)第1808号
平成30年12月14日

詐欺,覚せい剤取締法違反被告事件

第二小法廷判決

主文
原判決を破棄する
本件控訴を棄却する。
理由
検察官の上告趣意は,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
しかしながら,所論に鑑み,職権をもって調査すると,原判決は刑訴法411条3号により破棄を免れない。その理由は,以下のとおりである。
第1
1
第1審判決及び原判決の要旨
第1審判決は,覚せい剤取締法違反の罪(使用)のほか,要旨以下のとおり
の詐欺罪の犯罪事実を認定し,被告人を懲役2年6月に処した。
被告人は,老人ホーム建設に関する名義貸しの解決金名目で現金をだまし取ろうと考え,A及び氏名不詳者らと共謀の上,平成26年12月15日頃及び同月16日,氏名不詳者らが,複数回にわたり,岡山県倉敷市所在のB方に電話をかけ,同人(当時77歳)に対し,C及びDを名乗り,Bが入居権を有する老人ホームの建設に関連して同人名義での名義貸しが行われており,同人がその名義貸しの刑事責任を免れるためには現金を送付する必要がある旨うそを言い,同人をその旨誤信させ,よって,同日,同人に,同人方から,千葉県市原市所在の被告人方住所にE宛ての現金30万円を宅配便で発送させ,同月17日,被告人が,同所において,その交付を受け(以下,この行為を「本件受領行為」という。),もって人を欺いて財物を交付させた。
2
被告人は,第1審判決に対して量刑不当を理由に控訴した。原判決は,詐欺
の事実につき,職権で以下のとおり判示し,詐欺の故意は認められないとして第1審判決を破棄し,無罪を言い渡した。被告人が詐欺の共同正犯としての刑責を負うとするためには,詐欺の故意が認められる必要があり,本件受領行為の際において,配達される宅配便の内容物がA又は同人と意を通じた者が何らかの方法で人をだまして送付させた財物であることにつき,少なくとも未必的な認識が被告人にあり,それを認容して本件受領行為に及んだことが合理的な疑いを超えて証明されなければならないが,被告人がAや指示役との間で明示的な共謀をした上で本件受領行為に及んだとは認められない。また,本件受領行為に関連する外形的な事情からは,被告人に本件詐欺に関する故意があったことを推認することはできず,本件受領行為の際やその前後等において,被告人に本件詐欺に関する故意があったことを示す何らかの言動を見いだすことはできない。そして,被告人の捜査段階における自白供述を検討すると,本件詐欺に関連付けた回答を得るために誘導的にされた検察官の質問に対する答えとして引き出されたもので,本件受領行為の時点における実際の内心の状態を述べるものかどうか疑わしく,被告人が,その時点で本件荷物の内容物が詐欺の被害品であることの未必的な認識を有していたと合理的な疑いなく認定できるようなものではない。このことは被告人が本件受領行為に及んだ経緯及び仕事の要領等を併せ考慮しても変わることがないから,被告人の本件詐欺における故意を認定することができる証拠はない。
第2

当裁判所の判断

しかしながら,原判決の上記判断は是認することができない。その理由は以下のとおりである。
1
第1審判決及び原判決の認定並びに記録によると,本件の事実関係は以下の
とおりである。
被告人は,平成26年11月末から同年12月初め頃,知人の暴力団組員Aから,荷物を自宅で受け取ってバイク便に受け渡す仕事に誘われ,荷物1個につき5000円から1万円の報酬を払うと言われた。被告人は,Aの依頼が犯罪に関わる仕事ではないか不安に思い,荷物の中身を尋ねると,Aは,雑誌とか書類とかそういう関係のもの,絶対大丈夫などと答えた。被告人は,Aから何度も誘われ,家計が苦しかったことから,金を稼ぎたいと考えてAの依頼を引き受けた。
被告人は,Aから,私書箱業務契約書,五,六名分の運転免許証の写し及びプリペイド式携帯電話機(以下「本件携帯電話」という。)を渡された上,仕事に関する連絡は本件携帯電話を使う,荷物が届く前に指示役の男が受取人の氏名を連絡するので,私書箱業務契約書の契約当事者欄に筆跡を変えて受取人と被告人の氏名等を記入する,荷物は絶対に開けない,荷物受領後に本件携帯電話で指示役に報告し,バイク便に荷物を渡したらAにも連絡するなどの指示を受けた。被告人は,Aらの指示に従って,自宅で,平成26年12月12日に1個,同月16日に1個,同月17日に本件荷物を含めて2個,同月26日に2個,それぞれ伝票の宛先欄に記載された受取人名を受領欄にサインして他人宛ての荷物を受け取った。被告人は,荷物を受け取ったことを指示役に報告し,約5分後に自宅に来たバイク便の男に荷物を渡し,後日,Aからおおむね約束どおりの金額の報酬を受け取った。
2
被告人は,Aの依頼を受けて,自宅に配達される荷物を名宛人になりすまし
て受け取り,直ちに回収役に渡す仕事を複数回繰り返し,多額の報酬を受領している。以上の事実だけでも,Aが依頼した仕事が,詐欺等の犯罪に基づいて送付された荷物を受け取るものであることを十分に想起させるものであり,被告人は自己の行為が詐欺に当たる可能性を認識していたことを強く推認させる。被告人は,捜査段階から,荷物の中身について現金とは思わなかった,インゴット(金地金),宝石類,他人名義の預金通帳,他人や架空名義で契約された携帯電話機等の可能性を考えたなどと供述するとともに,荷物の中身が詐欺の被害品である可能性を認識していたという趣旨の供述もしており,第1審及び原審で詐欺の公訴事実を認めている。被告人の供述全体をみても,自白供述の信用性を疑わせる事情はない。それ以外に詐欺の可能性があるとの認識が排除されたことをうかがわせる事情も見当たらない。
このような事実関係の下においては,被告人は自己の行為が詐欺に当たるかもしれないと認識しながら荷物を受領したと認められ,詐欺の故意に欠けるところはなく,共犯者らとの共謀も認められる。それにもかかわらず,これらを認めた第1審判決に事実誤認があるとしてこれを破棄した原判決は,詐欺の故意を推認させる外形的事実及び被告人の供述の信用性に関する評価を誤り,重大な事実誤認をしたというべきであり,これが判決に影響を及ぼすことは明らかであって,原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められる。
よって,刑訴法411条3号により原判決を破棄することとし,なお,訴訟記録に基づいて検討すると,被告人を懲役2年6月に処した量刑判断を含め,第1審判決を維持するのが相当であり,被告人の控訴は理由がないから,同法413条ただし書,414条,396条によりこれを棄却し,当審における訴訟費用につき同法181条1項ただし書を適用することとし,裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
検察官菅野俊明,同山元裕史
(裁判長裁判官

三浦


公判出席

裁判官

鬼丸かおる

菅野博之)
裁判官

山本庸幸

裁判官

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