判例検索β > 平成28年(ワ)第41418号
損害賠償等 その他 民事訴訟
事件番号平成28(ワ)41418
事件名損害賠償等
裁判年月日平成30年11月30日
法廷名東京地方裁判所
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平成30年11月30日判決言渡

同日原本領収

平成28年(ワ)第41418号

損害賠償等請求事件

口頭弁論終結日

平成30年10月5日
判原
裁判所書記官

決告
医療法人社団翔友会

同訴訟代理人弁護士

告島千被中且金也哲野宋主敏潤一昌上錫文1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。
事1和
株式会社ワイジェイコブスメディカル

同訴訟代理人弁護士

第1

肇実及び理由
請求
被告は,原告に対し,3000万円及びこれに対する平成29年4月11
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2
訴訟費用は被告の負担とする。

3
仮執行宣言

第2

事案の概要等
本件は,医療法人である原告が,医療用品等の小売業等を営んでいる被告
に対し,被告が原告経営の診療所に勤務する医師に対して虚偽の事実が記載された通知書を送付したため,これを受領した医師3名が退職をして逸失利益分の損害を被ったと主張し,不法行為(民法709条)に基づき,損害合計17億9375万円の一部である3000万円及びこれに対する不法行為
後の日である平成29年4月11日(訴状送達の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。1
前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実。なお,本判決を通じ,証拠を摘示する場合には,特に
断らない限り,枝番を含むものとする。)
(1)当事者等

原告は,「品川美容外科」グループを経営する医療法人である。原告が経営する各診療所(美容外科,形成外科,美容皮膚科,レーシック専門眼科,ストレスクリニック,審美歯科。以下,総称して「品川美容外科」という。)にはそれぞれ医師が所属している。Aは,原告理事長の配偶者で
ある。

被告は,医療用品,医療用器具の小売業等を目的とする大韓民国(以下「韓国」という。)の会社である(前の商号は「株式会社ジョンジェイコブスメディカル」であった。)


株式会社C.S.Inc(以下「CS社」という。)は,Bが代表者を務める韓国法人で,医療用具や医療機器の輸出入を目的とする会社である。株式会社DUKWOOメディカル(以下「DUKWOO社」という。)は,医療用具,医療機器及び医療用部品の製造及び販売業などを目的とする韓国の会社である。
シンガポールの法人であるI

Support

Pte

Ltd(以下

「アイサポート社」という。)は,Aが設立し,その株式全部を所有し,同様に同国の法人であるEye

Lens

Pte

Ltd(以下「アイ

レンズ社」という。)は,アイサポート社の代表者であるCが代表者を務めている。(以上,乙5)
(2)被告は,韓国において,以下の特許権(乙5の訳文4頁)を有する。ア
特許1(以下「韓国第1特許」という。)

発明の名称

:縫合糸

登録番号

:第1132841号

出願日

:平成23年6月29日

優先権主張日:平成23年3月7日
登録日


:平成24年3月27日

特許2(以下「韓国第2特許」という。)
発明の名称

:結び目をつける作業が不要な縫合糸及びそれを含むキッ

登録番号
出願日


:平成23年12月27日

登録日

:第1185583号

:平成24年9月18日

特許3(以下「韓国第3特許」という。)
発明の名称

:医療用の糸の挿入装置及びそれを備えた医療用の糸の挿
入施術キット

登録番号

:第1326763号

出願日

:平成24年9月24日

登録日

:平成25年11月1日

(3)被告は,日本において,以下の特許権を有する。

特許1(以下「日本第1特許」という。甲4)
発明の名称

:縫合糸

登録番号

:第5697221号

出願日

:平成24年3月7日

優先日

:平成23年3月7日

優先権主張国:韓国
登録日


:平成27年2月20日

特許2(以下「日本第2特許」という。甲7)

発明の名称

:結び目をつける作業が不要な縫合糸及びそれを含むキッ

登録番号
出願日
:第5981674号
:平成28年6月21日

優先日

:平成23年12月27日

優先権主張国:韓国
登録日

:平成28年8月5日

なお,日本第1特許は韓国第1特許に,日本第2特許は韓国第2特許に対応する。
(4)原告と被告は,平成24年6月21日付けで,被告が開発製造する「YOUNGS

LIFT」
(以下「被告製品」という。
)の販売,供給及び技術諮

問に関する契約を締結した。
(甲1)
被告製品(YOUNGS

LIFT)は,顔面リフティング施術(皮膚の

たるみやしわを引っ張って弾力のある肌にし,しわを除去することを目的としている施術)に使用される製品であり,別紙「被告製品の概要」(乙5の
訳文54頁参照)記載のとおり,①縫合糸と縫合糸支持体(コーン)とハブからなる「Youngs

Thread」
,②支持部材(Guiding

Wire)と管部材(Tube)からなる「Youngs

Pointe

r」
,③穿孔手段(Puncture)とプッシュバー(Pushからなる「Youngs

bar)

Starter」
(スターター)から構成されて

いる。
(乙5の訳文4頁)
(5)上記契約後,原告は,被告の技術指導に基づき,被告製品を用いて「夢のリフト」という施術名で,患者に対して美容整形術を施すようになった。被告製品は,品川美容外科の医師が個人輸入する形をとり,代金支払業務を原告が代行していた。
(当事者間に争いがない事実,甲8)
その後,原告は,被告との間で被告製品の価格交渉が決裂したことから,
平成25年10月頃に被告製品の輸入を停止し,同年11月頃からシンガポールのアイサポート社などを通じてCS社から縫合糸等を輸入するなどして,新たな器具(以下,顔面リフティング施術に必要な器具を総称して「原告製品」という。
)を使用し,
「フェイスアップ」という施術名で,患者に対して
美容整形術を施すようになった。
(当事者間に争いのない事実,甲8)

(6)被告は,平成26年7月17日頃,概ね以下の内容が記載された通知書(甲2の1~20。以下「本件通知書」という。)を原告の経営する病院に所属する複数の医師(以下「原告各医師」という。)に対して送付した。ア
被告は,品川美容外科に対して,顔面組織固定用の糸(YOUNGSLIFT)を供給していたが,原告が使用を開始した製品は,被告の供給
した上記製品を違法にコピーして韓国で製造されたものであり,被告を特許権者とする特許権を侵害している。

原告の使用し始めた製品は,韓国において医療機器の許認可を取得しておらず,人体への安全性の保証がなく,韓国食品医薬品安全庁により全品目の製造停止と回収命令が発出されている。

2
争点
(1)
(2)

第3

因果関係の有無

(3)
本件通知書の送付が不法行為に該当するか否か

損害額

争点に関する当事者の主張

1
争点(1)(本件通知書の送付が不法行為に該当するか否か)について
〔原告の主張〕
本件通知書の送付は,原告各医師に対して虚偽の事実を伝えるものであって,違法である。
(1)特許権侵害に関する記載について

本件通知書には「品川美容外科において本件製品(判決注:被告製品。
以下同様。
)の新モデルと言われて使用されている製品は,ジョン・ジェ
イコップスメディカルの特許権を侵害して」との記載があるところ,これは,同製品が日本の特許権を侵害している事実を伝えるものであり,被告は本件通知書の送付時において日本国内で特許権を有していなかったのであるから,上記記載は虚偽である。被告は,上記記載の「特許権」は韓国
の特許権を意味すると主張するが,そのように理解することはできない。イ
仮に,本件通知書の記載が韓国の特許権に関するものであるとしても,本件通知書の発送時点において,同特許権侵害に関する起訴はされておらず,特許権侵害訴訟の判決も確定していない状況であったにもかかわらず,同通知書の記載は,明確な根拠に基づかず特許権が侵害されたと断定する
ものであるから虚偽であるということができる。

本件通知書において特許権を侵害すると指摘されている製品は「顔面組織固定用の糸」であるが,韓国のソウル高等法院は,原告の使用する「顔面組織固定用の糸」が被告の特許権を侵害しているとは認定していない。
すなわち,ソウル高等法院が特許権侵害を認定したのは,韓国第1特許の請求項13並びに同第3特許の請求項1,6,10,14及び15であるところ,同第3特許は,挿入装置又は挿入施術キットに関する発明であり,
「顔面組織固定用の糸」に関する発明ではない。他方,同第1特許の請求項13は縫合糸支持体の発明であるので,原告が輸入したとする「顔
面組織固定用の糸」は特許権侵害の対象となり得るが,ソウル高等法院が同特許を侵害すると判断した製品の円筒形支持体は,
「長さが6~7mm,
直径が1.5~2mmであって,一般的な縫合糸支持体であるシルエットリフト社の縫合糸支持体より,その長さが2~3倍長く,直径も大きい」ものである。同認定に係る円筒形支持体は顔面組織固定に用いることがで
きない長さであり,仮に美容整形に使用するのであれば乳房のアップ又はヒップアップのためのものであって,品川美容外科において使用したこと
はない。
したがって,品川美容外科において使用された「顔面組織固定用の糸」が韓国第1特許権を侵害しているとの事実は存在しない。
(2)安全性に関する記載について
本件通知書の記載は,原告の使用していた縫合糸の安全性に問題があるた
めに製造停止と回収命令を受けた事実を伝えるものであるが,そもそも被告が主張する回収命令(乙3)は,
「無許可製造及び販売」を理由とするもの
であって,安全性の問題を理由とはしていない。また,本件通知書において被告が安全性について指摘しているのは,
「顔面組織固定用の糸」であって,
回収対象となった「使い捨て用通管針(FACE
や「使い捨て用穿刺針(FACE

UP

UP

CANNULA)


STARTER)
」ではないから

本件通知書は虚偽である。
〔被告の主張〕
(1)特許権侵害に関する記載について

原告は,本件通知書の内容は,原告製品が日本の特許権を侵害することを通知するものであると主張するが,本件通知書は,原告製品が被告の有する韓国の特許権を侵害することを通知するものである。
すなわち,本件通知書には,
「上記の違法コピー製品は,短い期間で本
件製品を模倣するため,韓国国内において医療機器に関するいかなる許認
可をも取得せず違法製造された無許可の医療機器であり」などと記載され,原告製品が韓国において違法な製造がされたものであることが明記されている。また,同通知書には,
「本件製品は韓国の特許に基づき,…製造さ
れたもので」と記載され,被告製品が韓国の特許権の実施品であることが明記されている。

上記の各記載に加え,本件通知書の記載全体を読めば,原告製品が被告の有する韓国の特許権を侵害する旨を説明するものであることは明らかで
ある。

原告は,本件通知書の送付時点において,被告の有する韓国特許権の侵害の事実は確定していなかったのであるから,同通知書の記載は虚偽であると主張するが,同通知書の記載内容が客観的真実に合致している以上,その記載内容が虚偽ということはできない。


原告は,本件通知書の対象とする原告の製品は縫合糸に限定されると主張するが,同通知書において対象とされているのは「YOUNGS
LI

FT」であり,これは縫合糸の挿入装置を含む糸の挿入装置全体であり,縫合糸に限定されるものではない。
韓国の特許権侵害禁止仮処分事件についてのソウル高等法院決定(乙5)は,CS社の製造した顔面組織固定用の製品(カテーテル,スターター,ハブ,縫合糸及びコーンから構成される。
)が被告の韓国特許権を侵害し
ており,CS社が直接又はシンガポールのアイサポート社等を介して,同侵害品の全部又は一部を平成25年11月頃から原告に向けて輸出してい
たと認定している。これによれば,原告製品であるYOUNGS

LIF

Tが被告の有する韓国の特許権を侵害するとの本件通知書の記載が虚偽ではないことは明らかである。
これに対し,原告は,韓国の裁判において特許権侵害が認定された縫合糸は顔面組織固定に用いるものではなく,品川美容外科においてフェイスアップ施術に使用しているものと異なるなどと主張するが,客観的な証拠に基づくものではなく,これをもって本件通知書の記載が虚偽であるということはできない。
(2)安全性に関する記載について
韓国食品医薬品安全庁は,平成26年3月9日付けで,DUKWOO社が
製造した使い捨て用通管針(FACE
て用穿刺針(FACE

UP

UP

CANNULA)及び使い捨

STARTER)について,無許可製造及び

販売を理由とし,回収等級として「有害性程度Ⅱ」
(医療機器の使用により
完治され得る一時的または医学的な副作用を起こし,又はそのような副作用をもたらし得る医療機器をいう。韓国医療機器法施行規則52条2項2号参照)と認定した上で,回収命令を出している(乙3)

前記のとおり,本件通知書の対象は,縫合糸に限定されるものではなく,
使い捨て用通管針及び使い捨て用穿刺針を含む装置全体であるから,本件通知書の記載内容は客観的真実であり,虚偽の事実は含まれない。
2
争点(2)(因果関係の有無)について
〔原告の主張〕
原告各医師のうち少なくとも3名は,虚偽事実の記載された本件通知書を受
領した翌月に退職しており,原告は,これにより退職した医師の施術等によって得られるはずの利益を得ることができなくなった。このように,被告の違法行為と同各医師の退職により生じた原告の逸失利益の間には相当因果関係がある。
〔被告の主張〕

否認ないし争う。
3
争点(3)(損害額)について
〔原告の主張〕
一般に,美容外科の分野において,医師が退職した場合,新たな医師を雇用
したとしても,その医師が退職した医師と同等の働きをするまでには1年以上を要する。原告を退職した3人の医師の1年間の総売上げは約20億8128万円であるところ(甲5)
,原告の被った損害額は,同額から同人らに支払わ
れたであろう給与分を控除した17億9375万円である。
〔被告の主張〕
否認又は争う。

第4

当裁判所の判断

1
認定事実
前提事実に加え,当事者間に争いのない事実,証拠(後記文中又は末尾掲記
の各証拠)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。(1)原告は,平成25年10月頃,被告製品の輸入を停止した後,同年11月以降は,カテーテル(フェイスアップカニューレはそのモデル名)及びスターター(プッシュロッド,穿孔手段)については,DUKWOO社が製造し,CS社に納品した上で,原告病院の各医師が個人輸入の形態で韓国から輸入し,ハブ,縫合糸及びコーンについては,CS社,B等から,シンガポールのアイサポート社及びアイレンズ社を介して,原告病院の各医師が個人輸入
の形態でシンガポールから輸入していた。
(乙10,13~16)
(2)被告は,平成26年1月頃,ソウル税関に対し,偽造縫合糸部品に関し,特許法,関税法違反を理由とする密輸申告を行った。ソウル税関は,カテーテル,スターター,縫合糸,ハブを押収し,同年2月17日頃,被告に対し,ソウル税関が押収した上記物品について特許侵害の有無に関する鑑定を依頼
した上で,同年5月頃,偽造縫合糸部品に関し,91億ウォン相当の摘発を行い,告発を行った。
(乙9,17)
また,被告は,同年2月28日,韓国の関税庁に対し,B,CS社,A,原告理事長が共謀して被告製品のコピー品を製造販売等しているとして,特許法違反,関税法違反,医療機器法違反を根拠に,告訴をした。
(甲12)

(3)ソウル地方食品医薬品安全庁は,平成26年3月9日付で,DUKWOO社に対し,2013年(平成25年)11月21日付けから同年12月23日付けまでに製造された製品名「使い捨て用通管針・使い捨て用穿刺針」につき,無許可製造及び販売を理由として回収命令を行った。
(乙3)
(4)被告は,平成26年7月17日頃,弁護士代理人を通じて,本件通知書を
原告各医師に対し送付した。本件通知書(甲2の1~20)には以下の記載がある。

「当職は,品川美容外科に顔面組織固定用の糸(YOUNGS

LIFT:

以下「本件製品」という)を供給してきた韓国の株式会社ジョン・ジェイコップスメディカルの代理人として本書をお送りします。
本件製品は韓国の特許に基づき,医療機器の基準に適合して製造されたもので,人体使用の安全性が証明されている製品です。…
現在,品川美容外科において本件製品の新モデルと言われて使用されている製品は,ジョン・ジェイコップスメディカルの特許権を侵害して,本件製品を違法な方法でコピーした製品です。違法コピー製品…として,韓国から密輸出したものが韓国の関税(判決注:ママ)により摘発され,現在捜査中
です。すなわち,韓国のソウル税関は,本件製品の特許権を侵害する違法コピー製品が製造され(ジョン・ジェイコップスメディカルの特許権侵害),
91億ウォン相当の製品が密輸出された事実を摘発し,これを関税法及び特許法違反として,ソウル中央地方検察庁に送致し,現在,捜査が進められているところです。…

何よりも,人体に挿入される上記の違法コピー製品は,GMP基準により製造されていないため,これが人体に無害なのかどうかについて全く証明されていません。したがって,韓国の食品医薬品安全庁は,これを製造した業者に対して全品目の製造停止及び回収命令を下しています。…
上記の違法コピー製品は,短い期間で本件製品を模倣するため,韓国国内
において医療機器に関するいかなる許認可をも取得せず違法製造された無許可の医療機器であり,体内に挿入して有害性がないということは全く保障されていません。

(5)被告は,平成26年9月23日,被告製品につき,韓国食品医薬品安全庁の製造許可を受けた。
(甲3)

(6)韓国検察庁は,平成27年6月26日付けで,Bらをソウル中央地方法院において起訴した。同起訴の被疑事実は,
「Bらが平成25年10月30日

頃から平成26年1月23日頃までの間,反復継続して被告の韓国特許権(韓国第2特許及び韓国第3特許)を侵害する違法コピー製品を韓国内において製造し,原告の経営する日本の病院に,直接またはAが100%株式を保有するシンガポール法人アイサポート社を経由して輸出し日本の病院で利用されるようにして,特許法に違反した」との内容を含むものであった。他方,韓国検察庁は,平成27年6月26日付けでAについては,医療機器法違反,特許法違反につき,起訴中止の措置をとった。
(甲16,乙1,6)
(7)原告は,平成28年9月23日頃,日本第2特許につき,原告が特許異議申立てを行ったところ,特許庁は,平成29年4月26日付けで同特許権を
取り消すべき理由はないとして同特許を維持する旨の決定をした。(甲11,
乙4)
(8)被告は,平成28年8月29日頃,東京税関に対し,輸入差止めの申立てを行ったが,同年10月17日頃,取下げをした。
(甲7~10)
(9)被告は,B,CS社,DUKWOO社に対し,特許権侵害禁止仮処分の申
立てを行ったところ,ソウル中央地方法院は,平成27年4月9日,被告の申立てを一部認める決定を行った。これに対し,CS社及びDUKWOO社は,異議申立てをしたところ,同法院は上記仮処分決定を取り消す旨の決定をしたので,被告はソウル高等法院に即時抗告をした。ソウル高等法院は,上記異議についての決定を取り消し,平成27年4月9日付けの仮処分決定
を認可する旨の決定(乙2)を行った。
(審理の経過については乙5の訳文
3頁参照)
CS社及びDUKWOO社は,ソウル高等法院の上記決定を不服として再抗告をしたところ,同法院は,平成29年8月21日,以下のとおりの内容を認定・判断した上で,原決定の一部を変更する旨の決定をした。(乙5)


同事件の侵害品として特定された円筒形支持体は,韓国第1特許の請求項13に係る特許権を侵害する。


同事件の侵害品として特定された円筒形支持体,カテーテル,ハブ,穿孔手段,プッシュロッド,縫合糸の全体等は,韓国第3特許の請求項1,6,10,14及び15に係る特許権の直接侵害又は間接侵害に該当する。

CS社は,DUKWOO社等に上記カテーテル,スターター,ハブ,縫合糸の製造を依頼した上で,平成25年10月頃から,品川美容外科に対
し,カテーテル,スターターについては直接的に,ハブ,縫合糸については,アイサポート社及びアイレンズ社を介して「フェイスアップ(Face
Up)
」という名称で輸出したと考えられる。品川美容外科では,被

告製品の輸入を中断した後,上記各製品を顔面リフティング施術に使用していたと推定される。

(10)ソウル中央地方法院は,平成30年1月18日,被告を原告とし,CS社,B及びDUKWOO社を被告とする特許権侵害禁止等請求事件において,以下のとおりの内容を認定・判断した上で,請求の一部を認容する判決をした。(乙16)

同事件の侵害品として特定された円錐形支持体及び円筒形支持体は,韓国第1特許の請求項13に係る特許権を侵害する。


同事件の侵害品として特定された被告側製品(カテーテル,プッシュロッド,穿孔手段,縫合糸,ハブ,縫合糸支持体)は,韓国第3特許の請求項1,5,6,14項に係る特許権を侵害する。


CS社,B等は,被告製品の輸入が中断した品川美容外科に対し,カテーテル,プッシュロッド,穿孔手段,縫合糸,ハブ,縫合糸支持体を供給することとし,DUKWOO社等にその製造を依頼した上で,これらの製品のうち,カテーテル及びスターターについては直接的に,ハブ,縫合糸,縫合糸支持体については,アイサポート社及びアイレンズ社を経由して同美容外科に輸出した。

2
争点(1)(本件通知書の送付が不法行為に該当するか否か)について
(1)特許権侵害に関する記載について

原告は,本件通知書には,原告製品が被告の有する日本の特許権を侵
害している旨の記載があるが,これは虚偽の事実であるから違法であると主張する。
しかし,前記のとおり,本件通知書には,「特に,本件製品は韓国の特
許に基づき,医療機器の基準に適合して製造されたもので,人体使用の安全性が証明されている製品です。」,「品川美容外科において本件製品の新モデルと言われて使用されている製品は,ジョン・ジェイコップスメディカルの特許権を侵害して,本件製品を違法な方法でコピーした製品です。」,「韓国のソウル税関は,本件製品の特許権を侵害する違法コピー製品が製造され(ジョン・ジェイコップスメディカルの特許権侵害),91億ウォン相当の製品が密輸出された事実を摘発し,これを関税法及び特許法違反として,ソウル中央地方検察庁に送致し,現在,捜査が進められている」などの記載があり,これらを総合すると,本件通知書に記載され
た「特許権」は韓国の特許権を意味し,同通知書を受領した原告各医師もそのことを容易に理解し得たというべきである。

原告は,本件通知書の発出時点で特許権侵害訴訟の判決等が確定して
いなかったにもかかわらず,同通知書において,原告製品が韓国の特許権を侵害すると断定していることは違法であると主張する。
しかし,本件通知書の発出時点で特許権侵害訴訟の判決等が確定していたかどうかにかかわらず,原告製品が韓国の特許権を侵害する旨の記載が虚偽ということができないのであれば,被告の行為は違法とはいえないところ,前記のとおり,ソウル中央地方法院及びソウル高等法院は,いずれも,原告製品(YOUNGS

LIFT)が韓国第1特許や韓国第3特許

を侵害すると判断しており,これを覆すに足りる証拠はない。
したがって,本件通知書の発出時点で上記特許権侵害訴訟の判決等が確
定していなかったとしても,そのことから直ちに同通知書における上記記載が虚偽であるということはできない。

原告は,本件通知書において特許権を侵害すると指摘されている製品が
縫合糸に限定されるとした上で,同製品は被告の特許権を侵害していないと主張する。
しかし,本件通知書の指摘する原告製品は,被告製品である顔面組織固定用の糸(YOUNGS

LIFT)の「新モデルとして供給され,既存

の『夢のリフト(本件製品が使用された施術)』とほぼ等しい施術のFACE
UPという施術に使用されている製品」であるが,YOUNGS

LIFTが,縫合糸のみならず,縫合糸支持体,ハブ,スターターなどから構成される製品であることに照らすと,これと同等の用途に用いられる原告製品も同様に,縫合糸に限らず,顔面リフティング施術に必要な器具を総称するものであると認めるのが相当である。
そして,前記のとおり,ソウル中央地方法院及びソウル高等法院は,い
ずれも,CS社等が生産したカテーテル,プッシュロッド,穿孔手段,縫合糸,ハブ,縫合糸支持体が韓国第1特許及び韓国第3特許を侵害すると判断し,これらの製品は,CS社等から原告各医師に対し,被告製品の代替物として,直接又はシンガポールのアイサポート社及びアイレンズ社を経由して輸出されたと認定しており(乙5,16)
,これを裏付ける証拠

(乙10,13~16)も存在する。そうすると,原告は,被告製品の輸入が中断した後,被告の有する韓国特許権を侵害する製品をCS社等から輸入して顔面リフティング施術に使用していたと認めるのが相当であり,これと同旨の本件通知書における記載は虚偽ということはできない。これに対し,原告は,本件通知書の「顔面組織固定用の糸」が縫合糸に
限定されるとした上で,韓国第3特許は「顔面組織固定用の糸」に関する発明ではなく,縫合糸支持体に関する韓国第1特許を侵害するとされた円
筒形支持体は顔面組織固定に用いることができないものであるから,同特許権の侵害品を原告各医師が使用したことはないと主張する。
しかし,本件通知書の「顔面組織固定用の糸」が縫合糸に限定されるとの原告主張が採用し得ないことは前記判示のとおりであり,原告製品は,縫合糸,縫合糸支持体に限らず,顔面リフティング施術に必要な挿入装置又は挿入施術キットを含むものであり,原告各医師の使用するこれらの製品が韓国第1特許及び韓国第3特許を侵害すると認められることは前記認定のとおりである。

したがって,原告製品が被告の有する特許権を侵害している旨の本件通
知書の記載が虚偽で違法なものということはできない。
(2)安全性に関する記載について

原告は,本件通知書における,原告製品は韓国における医療機器の許
認可を取得していないことから,人体への安全性が証明されておらず,韓国食品医薬品安全庁により全品の製造停止と回収命令が発出されているとの指摘について,当該回収命令は「無許可製造及び販売」を理由とするものであって安全性の問題を理由とはしておらず,また,本件通知書において安全性が問題とされているのは「顔面組織固定用の糸」であって,上記回収命令の対象である「使い捨て用通管針」や「使い捨て用穿刺針」ではないから本件通知書の記載は虚偽であると主張する。


しかし,本件通知書の「顔面組織固定用の糸」が縫合糸に限定されると
の原告主張が採用し得ないことは前記判示のとおりであり,原告製品には,上記回収命令の対象とされた「使い捨て用通管針」(カテーテル)や「使い捨て用穿刺針」(スターター)も含まれると認めるのが相当である。そして,上記回収命令の対象とされた製品はDUKWOO社製であり,その対象となる製造期間に照らしても,原告製品の一部を構成する可能性が高いと認められることからすると,本件通知書における,原告製品は韓国に
おける医療機器の許認可を取得しておらず,韓国食品医薬品安全庁により全品の製造停止と回収命令が発出されているとの記載が虚偽ということはできない。

また,原告は,上記回収命令は「無許可製造及び販売」を理由とするも
のであって安全性の問題を理由とはしていないと主張するが,そもそも
「使い捨て用通管針」や「使い捨て用穿刺針」について許認可を要するとしている理由は人体等への安全性を確保するためであると考えられるのであるから,所定の許認可を取得することなく販売された製品について人体等への安全性が証明されていないとの本件通知書の指摘が虚偽であるということはできない。


したがって,本件通知書における,原告製品は韓国における医療機器
の許認可を取得していないことから,人体への安全性が証明されておらず,韓国食品医薬品安全庁により全品の製造停止と回収命令が発出されているとの記載が虚偽であるということはできない。
(3)以上のとおり,本件通知書の記載が虚偽であり,かかる記載をした被告の行為は違法であるとの原告主張には理由がない(なお,原告は,本件においては名誉毀損の判例法理が類推又は準用されるべきであると主張するところ,その趣旨は必ずしも明確ではないが,仮に原告の主張の趣旨が信用毀損による不法行為を主張するものであるとしても,上記の結論を左右するものではない。)。

3
結論
よって,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部

裁判長裁判官

佐藤達文三井大有遠山敦士
裁判官

裁判官

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