判例検索β > 平成30年(行コ)第10001号
手続却下処分取消請求控訴事件 特許権 行政訴訟
事件番号平成30(行コ)10001
事件名手続却下処分取消請求控訴事件
裁判年月日平成30年12月20日
法廷名知的財産高等裁判所
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成29(行ウ)363
裁判日:西暦2018-12-20
情報公開日2019-01-04 16:00:05
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平成30年12月20日判決言渡
平成30年(行コ)第10001号

手続却下処分取消請求控訴事件(原審:東京

地方裁判所平成29年(行ウ)第363号)
口頭弁論終結日

平成30年10月23日
判決
控訴人(一審原告)

ジボダン

特許管理人


補佐人弁理士


被控訴人(一審被告)


処分行政庁


指定代理人

川端裕子茂泉尚子近野
智香子

小野和実小野隆史主
エス

エー

﨑紳吾和清司許庁長官文1
本件控訴を棄却する

2
控訴費用は控訴人の負担とする。

3
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1

控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
特許庁長官が特願2014-559111号について平成27年8月6日付けでした,平成26年8月29日付け提出の国内書面に係る手続の却下の処分を取り消す。

3
特許庁長官が特願2014-559111号について平成29年4月27日付けでした,平成27年7月24日付け提出の出願審査請求書に係る手続の却下の処分を取り消す。

4
特許庁長官が特願2014-559111号について平成29年4月27日付けでした,平成27年7月24日付け提出の手続補正書に係る手続の却下の処分を取り消す。

第2
1
事案の概要(以下,略称は原判決に従う。)
本件は,控訴人が,千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約(特許協力条約〔PCT〕)に基づいて行った国際特許出願(本件国際特許出願)について,特許庁長官に対し,特許法184条の5第1項に規定する書面並びに同書面に添付して特許法184条の4第1項に規定する明細書,請求の範囲,図面及び要約の日本語による翻訳文(明細書等翻訳文)を提出し(本件翻訳文提出手続),また,本件国際特許出願について手続補正書及び出願審査請求書を提出したところ(本件手続補正書提出手続及び本件出願審査請求書提出手続),特許庁長官から上記各書面に係る手続の却下処分(本件却下処分1ないし3)を受けたことから,各処分の取消しを求める事案である。
各処分の理由の要点は,①控訴人が特許法184条の4第1項が定める国内書面提出期間内に明細書等翻訳文(本件翻訳文)を提出することができなかったことについて正当な理由があるとはいえず,特許法184条の4第4項(平成27年法律第55号による改正前のもの。以下同じ。)に規定する要件を満たさないから,同書面に係る手続は却下すべきであり(本件却下処分1),②本件国際特許出願は,本件翻訳文の回復理由が認められなかったことにより取り下げられたものとみなされることになり,したがって,本件手続補正書提出手続及び本件出願審査請求書提出手続は,客体のない出願について提出された不適法な手続であるから,却下すべきである(本件却下処分2及び3)というものである。
原審において,控訴人は,①国内書面提出期間内に明細書等翻訳文の提出がなかった場合の効果として取下擬制を定める特許法184条の4第3項の規定と,同期間内に国内書面が提出されなかった場合を補正命令の対象としている同法184条の5第2項の規定は,補正命令を受ける機会の付与について,形式上は言語によって異なる取扱いをしているが,実質的には外国国民が受ける利益と日本国民が受ける利益との間に大きな不平等を生じさせている(日本語で出願された国際特許出願の出願人は,国内書面を国内書面提出期間内に提出しなくても補正命令を受ける機会が与えられるのに対し,外国語特許出願の出願人は,国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出しなければ当該出願を取り下げたものと擬制され,補正命令が受けられない。)が,上記取扱いの差異は,パリ条約2条及びTRIPS協定3条が定める内国民待遇の原則に違反するものであって効力を有しない,②控訴人が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出しなかったことについては,特許法184条の4第4項所定の正当な理由があると認められるべきである,などと主張して,本件却下処分1ないし3の取消しを求めたが,
原判決が控訴人の請求を全部棄却したことから,
これを不服として控訴人が控訴した。
2
特許法の定め(特許法184条の4及び同条の5)の摘記及び前提事実(当事者間に争いがないか,
証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)
は,原判決事実及び理由の第2の1及び2(原判決2頁19行目から6頁8行目まで)に記載のとおりであるから(ただし,原判決3頁12行目の経済産業省令で定める期間内をその理由がなくなった日から2月以内で国内書面提出期間の経過後1年以内に,原判決4頁24行目の翻文を翻訳文に改める。),これを引用する。3
争点及び争点に関する当事者の主張
次項のとおり,当審における控訴人の主張を補充するほかは,原判決事実及び理由の第2の3及び4(原判決6頁9行目から17頁4行目まで)に記載のとおりであるから(ただし,原判決7頁18行目の付与ついてを付与についてに,原判決13頁11行目の送信を受信に改める。),これを引用する。

4
当審における控訴人の主張
(1)争点(1)特許法184条の4第3項及び同法184条の5第2項の規定が(
内国民待遇の原則に違反するか)に関し
原判決は,次のとおり,上記各規定について形式的な解釈をするにとどまり,控訴人が主張立証した実際の運用における内外人不平等の実態を考慮しないばかりか,その形式的な解釈を正当化するためにおよそ非現実的な想定をして判断しているから,理由不備ないし判断遺脱があるものとして是正されるべきである。

原判決は,

法184条の5第2項は,国際特許出願について,国内書面を国内書面提出期間内に提出しないときに補正を命じることができる旨を定めているのであって,ここに国籍又は言語による取扱いの差異は存在しない。

と判示する。しかし,特許法184条の5第2項の規定自体は日本語特許出願であろうと外国語特許出願であろうと補正命令の対象とする規定振りになっているものの,外国語特許出願に対しては,特許法184条の4第3項の規定によりみなし取下げとなるため,事実上,特許法184条の5第2項1号の適用はない。日本国特許庁による特許法184条の5第2項の規定の運用においては,日本語特許出願の出願人が日本国特許庁に対する手続を全く行っていない場合であっても同項の規定に基づいて補正命令をするのに対し,外国語特許出願の出願人が日本国特許庁に対する手続を全く行っていない場合,明細書等翻訳文不提出による取下擬制を理由に同項の規定に基づく補正命令をしないものとされている。
このように,特許法184条の5第2項の文言上は,国籍又は言語による取扱いの差異が存在しないとしても,少なくとも言語による取扱いの差異はその規定振りに基づき現実に存在するのであり,かかる差異を考慮しない原判決は誤っている。

原判決は,
国籍による取扱いの差異は存在しない
とする理由として,
国際特許出願のうち,外国語特許出願については,内国民であっても外国語特許出願を行えば,当然に明細書等翻訳文の提出が必要となるのであり,他方,外国国民であっても日本語で国際特許出願を行えば,明細書等翻訳文の提出は不要であり,特許法184条の4第3項において国籍による取扱いの差異はない。と判示する。しかし,かかる判示は,外国国民にとっての日本語選択と内国民にとっての外国語(特に英語)選択とに圧倒的な難易度の差がある(出願に際して日本国民が外国語を用いるよりも,外国国民が日本語を用いる方が困難を伴う)という事実を無視するものであり,現実的でない。原判決は,日本国民が外国語で国際特許出願を行うことができることと同様に,外国国民が日本語で国際特許出願を行うことができるという非現実的な前提に立つものであって,日本国特許庁に日本語特許出願又は外国語特許出願として国内移行されるPCT出願の出願人国籍と同出願で用いられる言語の実態を全く無視した失当のものである。
また,このことは,特許法184条の4第3項の規定についてのみでなく,特許法184条の5第2項の規定における言語による取扱いの差異についても同様に当てはまるから,手続補正命令についての日本語特許出願の出願人と外国語特許出願の出願人との間での事実上の異なる取扱いは,実質的には内国民と外国国民との間での異なる取扱いに該当するというべきである。

原判決は,明細書等翻訳文の提出が必要とされる理由と国内書面の提出が必要とされる理由は異なり,明細書等翻訳文提出手続と国内書面提出手続は別個に行うことができる異なる趣旨の別個の手続である。外国語特許出願の出願人も,期間内に明細書等翻訳文を提出したが,別個の趣旨に基づく別個の手続に関する国内書面を提出しなかった場合には,補正命令を受ける機会がある。などと判示する。しかし,原判決が指摘する機会は,期間内,すなわち,優先日から30月以内に明細書等翻訳文を,国内書面を伴わずに提出した場合のみに与えられる機会であるところ,最大32月の明細書等翻訳文提出期間を享受できる現行特許法の体系の中で,なぜ,30月を境に,国内書面の有無のみによって補正命令かみなし取下げかの違いを設けなければならないのか,その反射的な効果として,国内移行の手続をしなかった内国民と外国国民との間で,前者に対しては補正命令,後者に対してはみなし取下げという,明らかな内外人差別の扱いが許容されるのかという点について,何ら説明がない。
また,国内書面は,特許法184条の4第1項ただし書において,明細書等翻訳文よりも前に提出することが想定されているところ,実務においても,明細書等翻訳文と同時に提出するかその前に提出するのが一般的であって,明細書等翻訳文を国内書面よりも前に提出することはおよそ想定され得ないにもかかわらず,原判決は,国内書面提出手続と明細書等翻訳文提出手続との前後関係についてあえて非現実的な想定をした上で内外人に対する取扱いを正当化するものである。
本件は,PCTの手続上内外人のいずれもが通過しなければならない手続である国内移行手続の懈怠に対し,外国語特許出願の出願人(実質的には外国国民)
であるということのみをもって,
日本語特許出願の出願人
(実
質的には内国民)にはない,特許法184条の4第3項の規定に基づくみなし取下げの扱いを受けたものであり,しかも,その後の特許法184条の4第4項の規定に基づく運用としても,その権利の回復が認められなかったという事例である。日本語特許出願の出願人であれば,国内移行手続を懈怠したとしても手続補正命令を受けることができ,その時点で国内書面を提出すれば出願の権利を失うことはないのであるから,ここに,日本語特許出願の出願人と外国語特許出願の出願人との間に大きな取扱い上の差が存在しているといわざるを得ない。

さらにいえば,平成6年の特許法一部改正において,外国語特許出願の審査について,国際出願日における明細書等に記載されていない事項が翻訳文で追加されている場合にはこれを拒絶できるように改正し,いわゆる翻訳文原本主義から原文原本主義に変化したともいえるから,現
行特許法においては,そもそも外国語特許出願について翻訳文が提出されて初めて出願としての地位が与えられるなどといった旧態然とした考え方に拘泥する理由はなく,現行特許法の体系の中で,優先日から30月を経過した時点において翻訳文が提出されていないとしても外国語特許出願を取下擬制する必然性はない。内外人にかかわらず,国内移行の期限が優先日から30月であることを知りながら,意図しない懈怠によりこれを行わない場合が等しく想定される中で,日本語特許出願の出願人のみ手続補正命令により簡単に救われるのに対し,外国語特許出願の出願人には特許法184条の4第4項所定の正当な理由が証明されない限り,権利が消滅してしまうという取扱いは,
内外人不平等の取扱い以外の何物でもない。
国内移行の手続において内外人の扱いを平等にするためには,上記の手続補正命令を外国語特許出願の出願人を含め一律に発することのできる制度運用にすべきことは明らかである。
また,仮にそのような制度運用を実施するに当たって特許庁に負担と困難が生じるとしても,内外人平等の原則に反する状態を放置しておくことは正当化できないから,特許法184条の4第4項の運用(同項が定める正当な理由の解釈適用)でその不平等を是正すべきである。
以上のとおり,明細書等翻訳文提出手続及び国内書面提出手続はいずれも,優先日から原則30月以内に行うべき国内移行手続であって,少なくともその意図しない懈怠に対する扱いにおいても,権利の維持消滅に重大な影響を及ぼす以上内外人不平等の扱いがあってはならず,また,特許法184条の4第4項における正当な理由の解釈及び適用においても内外人平等の原則を踏まえるべきであるところ,原判決は,これに反して明細書等翻訳文提出手続と国内書面提出手続とが別個の手続であるとの形式的な理由により,実態として生じている内外人不平等を黙認するものであるから,その判断には誤りがある。
(2)争点(2)控訴人が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出しなかった(
ことについて,特許法184条の4第4項所定の正当な理由があるか)に関し
原判決は,①前記のとおり,特許法184条の4第4項所定の正当な理由の解釈適用において内外人不平等の実態を踏まえておらず,②メールの誤送信があったという事実のみをもって正当な理由がなかったと断じるに等しく,出願人による手続の過誤に対して救済を与えることをその趣旨とする特許法184条の4第4項所定の正当な理由の解釈適用としては不当であり,③PCTにおける国際的なハーモナイゼーションの要請に反して正当な理由を過度に厳格に解釈適用するものであるから,理由不備ないし判断の遺脱があるものとして,是正されるべきである。
上記③に関し,欧州特許庁の審決例(甲29の1・2)は,特許法184条の4第4項所定の正当な理由として採用されたduecareの解釈について,
期間徒過後に権利の回復が認められるべき
isolatedmistake
(単
発的な過誤)を認めた例であるが,かかる欧州におけるduecareの解釈が,日本国における特許法184条の4第4項所定の正当な理由の解釈においても採用されるべきことは,控訴人が原審で主張したとおりであり,PCT規則においても同様に規定されるPLT12条所定の
duecare
(相
当な注意)については,国際調和のもと各国で同じ基準が採用されるべきであるところ,原判決は,欧州特許庁におけるduecareの解釈を踏まえずに,特許法184条の4第4項所定の正当な理由を過度に厳格に解釈して本件に適用するものであるから,理由不備ないし判断の遺脱がある。第3
1
当裁判所の判断
当裁判所も,本件却下処分1ないし3に控訴人主張の違法があるとは認められず,控訴人の請求はいずれも棄却すべきものと判断する。
その理由は,次項のとおり原判決を補正し,第3項のとおり当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは,原判決事実及び理由第3の1ないし3(原判決17頁6行目から24頁1行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

2
原判決の補正
(1)原判決20頁9行目に本件プライベートメールとあるのを,本件プライベートアドレスに改める。(2)原判決22頁7行目に受信の有等をとあるのを,受信の有無をに改める。
(3)原判決23頁18行目から19行目にかけて翻訳文等翻訳文とあるのを,明細書等翻訳文に改める。

3
控訴人の主張について
(1)争点(1)特許法184条の4第3項及び同法184条の5第2項の規定が(
内国民待遇の原則に違反するか)に関し
控訴人は,るる事情を述べて,特許法184条の4第3項及び同法184条の5第2項の規定が内国民待遇の原則に違反すると認めなかった原判決の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら,原判決が指摘するとおり,明細書等翻訳文提出手続と国内書面提出手続とは,
飽くまで異なる趣旨に基づく別個の手続なのであるから,
これらの異なる手続の比較を前提とした控訴人の主張には,根本的な誤りがある。控訴人は,実態を踏まえた実質的な比較をすべきだとして種々主張するけれども,比較の対象とはならないものを比較するという誤った前提に立っている以上,その主張を採用する余地はない。
なお,控訴人の主張を特許法184条の4第3項の規定それ自体の合理性ないし条約適合性を問題とするものと解したとしても,その主張を採用することはできない。すなわち,外国語特許出願の出願人に対し明細書等翻訳文の提出を義務付ける特許法184条の4第1項の規定や,所定の期間内に明細書等翻訳文の提出がなかった場合,その国際特許出願は取り下げられたものと擬制する特許法184条の4第3項の規定は,それぞれ,特許協力条約22条(1)及び24条(1)(ⅲ)に基づくものである
(同条約22条(1)は,
国際
出願の出願人に対し優先日から30か月を経過する時までに
所定の翻訳文
を提出することを義務付けており,
同条約24条(1)(ⅲ)は,
出願人が当該翻
訳文の提出を期間内にしなかった場合,指定国において,当該指定国における国内出願の取下げの効果と同一の効果をもって消滅するものと定めている。。)
そして,同条約24条(2)は,同条(1)の規定にかかわらず,指定官庁は国際出願の効果を維持することができる旨定めているが,これは,同条約の締結国が,
翻訳文の提出がない場合の国際出願の効果について,
同条約24条(2)
を採用するか否かを各締結国に委ねる趣旨であることが明らかである。このように,特許法184条の4第3項は,特許協力条約の定めに従って規定がされたものであり,それ自体としては何ら同条約に違反するものではない。また,外国語特許出願の出願人に対し明細書等翻訳文の提出を義務付ける特許法184条の4第1項の規定は,
内国民と外国国民を区別しておらず
(内
国民であろうと外国国民であろうと,外国語特許出願を行えば,当然に明細書等翻訳文の提出が必要となる。),所定の提出期間内に明細書等翻訳文の提出がなかった場合,その国際特許出願は取り下げられたものと擬制する特許法184条の4第3項の規定も,何ら内国民と外国国民との間でその取扱いを異にするものではなく,内国民と外国国民とを同列に扱っているといえるから,それ自体が,内国民待遇の原則に反するということもできない。以上によれば,争点(1)に関する控訴人の主張は理由がない。
(2)争点(2)控訴人が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出しなかった(
ことについて,特許法184条の4第4項所定の正当な理由があるか)に関し
控訴人は,特許法184条の4第4項所定の正当な理由に関する原判決の解釈適用が誤っていると主張し,その理由として,原判決の判示は,①内外人不平等の実態を踏まえていない,②メールの誤送信があったという事実のみをもって正当な理由がなかったと断じるに等しい,③PCTにおける国際的なハーモナイゼーションの要請に反する,などと主張する。しかしながら,上記①について,そもそも異なる手続を同列に扱って内外人による手続の差異がある(内外人不平等の実態がある)と指摘する控訴人の主張自体失当であるから,控訴人が主張する上記①の点は理由がない。また,上記②について,控訴人は,本件代表アドレスと本件プライベートアドレスの二つのメールアドレスを認識していたが,そのうちの一つは連絡の際に使用してはならないものであったというのであるから,控訴人としては,そもそもそのようなアドレスが使われないよう配慮すべきであったし,仮に何らかの事情から上記アドレスも使用可能にしておく必要があったのであれば,本件控訴人補助者に対し,宛先として正しいメールアドレスを選択するよう,適切に管理,監督する必要があったにもかかわらず,そのような管理,監督をしていたとは認められないこと等の事情に照らしてみれば,控訴人は,本件の誤送信防止について,相当な注意を尽くしていたとはいい難い。原判決も,このような観点から,正当な理由があったとはいえないと結論付けているのであって,メールの誤送信があったという事実のみをもって正当な理由がなかったと即断している訳ではない。したがって,控訴人が主張する上記②の点も理由がない。
さらに,上記③の点,すなわち,PCTにおける国際的なハーモナイゼーションの要請に反するとの控訴人の主張に関しても,①PLT12条は,飽くまでDueCare(相当な注意)又はUnintentional(故意ではない)のいずれかを選択することを認めているのみであって,各要件について特に基準を設けてはおらず,その解釈及び適用については,各締結国に委ねられているものと解されるところ,②平成23年改正法で新設された特許法184条の4第4項は,国際調和の観点のみならず,ユーザーの利便性や第三者の監視負担にも配慮しつつ,DueCare(相当な注意)を採用したものと解されること(甲18)からすれば,特許法184条の4第4項所定の正当な理由について,欧州特許庁などと全く同一の基準を採用しなければならないとする理由はない。したがって,原判決が,これらの立法に関する経緯や制度趣旨を踏まえて,同項における正当な理由があるときを,

特段の事情のない限り,国際特許出願を行う出願人(代理人を含む。として,)相当な注意を尽くしていたにもかかわらず,客観的にみて国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったとき

をいうものと解したのは,正当である。
そして,控訴人が上記の意味での相当な注意を尽くしたとはいい難いことは,既に説示したとおりなのであるから,結局,控訴人が主張する上記③の点も理由がない。
以上によれば,争点(2)に関する控訴人の主張も理由がない。
第4

結論
以上の次第であるから,控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当であり,控訴人の本件控訴は理由がない。
よって,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官
鶴岡稔彦寺田利彦間明宏充
裁判官

裁判官

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