判例検索β > 平成30年(ネ)第960号
不正競争行為差止等、損害賠償、損害賠償等請求控訴事件 不正競争 民事訴訟
事件番号平成30(ネ)960
事件名不正競争行為差止等,損害賠償,損害賠償等請求控訴事件
裁判年月日平成31年2月14日
法廷名大阪高等裁判所
裁判日:西暦2019-02-14
情報公開日2019-02-22 16:01:13
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平成31年2月14日判決言渡同日原本交付裁判所書記官

平成30年(ネ)第960号不正競争行為差止等,損害賠償,損害賠償等請求控訴事件(原審大阪地方裁判所平成27年(ワ)第6555号,第6557号,第6781号,第8600号,第8602号,平成28年(ワ)第5501号)口頭弁論終結日平成30年11月9日
判決
控訴人

日本クリーンシステム株式会社

同代表者代表取締役

P1

同訴訟代理人弁護士

佐野喜洋同松村信夫同藤原正樹同永田貴久
被控訴人

P2

被控訴人

太陽工業有限会社
(以下被控訴人太陽工業という。


同代表者代表取締役

P3

被控訴人

銀座吉田株式会社
(以下被控訴人銀座吉田という。


同代表者代表取締役

P4

被控訴人

株式会社サン・ブリッド
(以下被控訴人サン・ブリッドという。

同代表者代表取締役

P5

被控訴人

P6

上記5名訴訟代理人弁護士

宮田義晃同堀岡咲子主文1
本件控訴を棄却する

2
控訴人の当審における追加請求をいずれも棄却する。

3
当審における訴訟費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由

第1

控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
被控訴人太陽工業,被控訴人銀座吉田,被控訴人サン・ブリッド及び被控訴人P6は,原判決別紙営業秘密目録記載の技術情報を使用してゴミ貯溜機の製造を行ってはならない。

3
被控訴人太陽工業,被控訴人銀座吉田,被控訴人サン・ブリッド及び被控訴人P6は,原判決別紙営業秘密目録記載の技術情報を使用して製造したゴミ貯溜機を廃棄せよ。

4
被控訴人P2は,原判決別紙営業秘密目録記載の技術情報を使用し,第三者に開示及び提供してはならない。

5(不正競争防止法違反に基づく請求もしくは一般不法行為に基づく請求〔当審において,後者を選択的に追加〕)
被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して4442万3698円並びにこれに対する被控訴人P2及び被控訴人太陽工業については平成27年8月13日から,被控訴人銀座吉田については平成27年9月16日から,被控訴人サン・ブリッド及び被控訴人P6については平成28年6月12日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6
被控訴人P2は,控訴人に対し,1400万円及びこれに対する平成27年8月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

7
被控訴人銀座吉田は,ゴミ貯溜機に原判決別紙被告標章目録記載の標章を付し,又は同標章を付したゴミ貯溜機を譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,輸出してはならない。

8
被控訴人銀座吉田は,控訴人に対し,1000万円及びこれに対する平成27年9月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
9
第2
1
訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
事案の概要
請求及び裁判の経過
本件は,控訴人が,ゴミ貯溜機に関する原判決別紙営業秘密目録記載の技術情報(以下本件技術情報という。)が不正競争防止法(以下不競法という。)上の営業秘密である旨主張して,被控訴人P2を除く被控訴人らに対し,不競法に基づき,ゴミ貯溜機の製造販売等の差止め及び廃棄(前記第1の2・3),被控訴人P2に対し,不競法及び秘密保持契約に基づき,ゴミ貯溜機に関する本件技術情報の使用開示等の差止め(同4),被控訴人らに対し,不競法違反の不法行為に基づく損害賠償(同5),被控訴人P2に対し,上記契約に基づき,損害賠償(同6)を求め,また,ゴミ貯溜機の商品表示が周知商品等表示である旨主張して,被控訴人銀座吉田に対し,不競法に基づき,又は同商品表示の商標権に基づき,原判決別紙被告標章目録記載の標章の使用差止め(同7)及び損害賠償(同8)を求めている事案である。
原審は,控訴人の請求をいずれも棄却したため,控訴人がこれを不服として控訴を申し立てた。
控訴人は,当審において,前記第1の5の請求につき,一般不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求を選択的に追加した。
2
前提事実等
前提事実,争点及び当事者の主張は,次のとおり補正し,後記3のとおり,当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決事実及び理由中の第2の1及び2並びに第3(原判決3頁23行目から33頁12行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)

原判決4頁9行目の1億5000万円の借入れでを1億5000万円でに改める。(2)

原判決4頁20行目の被告サン・ブリッドは,から21行目末尾ま
でを削る。
(3)

原判決9頁11行目のよりゴミをより多くのゴミに改める。

(4)

原判決19頁22行目の過去販売した図面等を過去販売した控訴人製品の図面等に改める。(5)

原判決21頁13行目から17行目までを次のとおりに改める。

さらに,それだけでなく,被控訴人銀座吉田及び被控訴人P2は,サキダスが製造して中国の成都のショッピングセンター太古里三厘屯あるいは北京の王府井のショッピングセンターに納品された控訴人製品の模倣品の製造販売に関与し,さらに,シンガポール大学病院向けに控訴人製品の模倣品の商談を進めているが,これらのことも同人らのメールのやりとりで裏付けられている。(6)

原判決23頁22行目の製造させた場合は,を

製造させた。


改める。
(7)

原判決25頁10行目の製造していた場合は,を

製造していた。


に改める。
(8)

原判決26頁1行目の5号又はを削る。
(9)

原判決26頁7行目の6号又はを削る。

(10)原判決30頁16行目から18行目までの被告製品(3か所)をいずれも本件製品に改める。
(11)原判決32頁5行目の訴外会社を被控訴人銀座吉田に改める。3
当審における当事者の主張

(1)

本件技術情報は不競法上の営業秘密であるか(争点(1))について
(控訴人の主張)
本件技術情報は,次に述べることからも,秘密管理性が認められる。ア
被控訴人太陽工業等外注先との秘密保持契約の締結等について
控訴人は,外注先に対し,本件技術情報に属する図面情報に基づき製造を委託する際,その外注先と秘密保持契約を締結している。秘密保持契約の締結をしている取引先が一部であったとしても,そのことにより秘密管理意思が明確になれば秘密管理性は認められる。
控訴人は,被控訴人太陽工業から控訴人製品の部品の一部の供給を受けていたことはある。その際,本件技術情報に属する図面情報の一部が,書面による秘密保持契約を締結することなく同社に開示されていたとしても,控訴人が,同社に対し,その部品の設計図等を,その部品を製造する目的以外の用途に用いることを許諾したことはない。
本件技術情報に属する図面情報は,控訴人が試行錯誤の末到達した最も効率的な部品形状を示すものであって,控訴人以外の者が利用できるような情報でなく,被控訴人太陽工業もその事実を認識していた。また,本件技術情報に属するCADデータは,それをレーザー切断機に入力すれば,熟練工でなければ手作業で成形できないような複雑な形状の部品を正確かつ短時間で成形できるという極めて有用な情報であり,控訴人にとって重要な情報であることも認識できる。
したがって,被控訴人太陽工業は,これらの図面情報を無断で利用したり,第三者に開示したりすることが禁止される情報であることを容易に認識できたのであり,信義則上の秘密保持義務を負っていた。

被控訴人銀座吉田や控訴人製品の購入者に交付した図面の情報内容,交付の目的等について
控訴人は,被控訴人銀座吉田や控訴人製品の購入者に対し,本件技術情報に属する図面を交付したことはない。ゴミ貯溜機のメンテナンスに当たり,本件技術情報に属する図面は必ずしも必要ではない。
仮に,控訴人が,被控訴人銀座吉田に対し,本件技術情報を含む控訴人製品の図面を交付していたとしても,控訴人と被控訴人銀座吉田は,長年海外向け控訴人製品について取引関係にあり,かつ,被控訴人銀座吉田は,控訴人のゴミ貯溜機のみを扱っていた。それゆえ,本件技術情報を含む控訴人製品の図面が競合他社に漏れることは,被控訴人銀座吉田も望まないことであり,かつ,これが競合他社に漏れると,類似品を容易に製造することができることになるため,被控訴人銀座吉田は,他社に自由に開示してよいものでないことを十分に認識していた。控訴人は,被控訴人銀座吉田の代表者に対し,控訴人製品で使用される部品の一部について,その図面を外部に知られたくないものであることを伝えており(甲115),被控訴人銀座吉田は,本件技術情報を含む,控訴人製品の図面情報が秘密として管理されることを認識し得た。
また,控訴人が,被控訴人銀座吉田に対し,本件技術情報を含む控訴人製品の図面を交付するのは,不具合箇所を特定して,部品の交換や修理をするためである。被控訴人銀座吉田は,その目的の範囲内で図面を利用する義務を負う。
したがって,被控訴人銀座吉田は,仮に控訴人から本件技術情報の交付を受けていたとしても,本件技術情報につき信義則上の秘密保持義務を負っていた。
仮にそのような秘密保持義務が認められないとしても,控訴人から被控訴人銀座吉田に対して開示された本件技術情報は,その一部のみであり,その余についてまで秘密管理性は否定されない。

PLCについて
PLCは,控訴人製品の制御機器をコントロールするためのプログラムで,控訴人製品の購入者においてその内容を変更することは想定されていない。また,当該プログラムを変更するには,販売価格が15万円もする三菱電機株式会社のシーケンサプログラミングソフトウェアGXDeveloperが必要である。購入者がこのソフトウェアのライセンスを有していることなどなく,バックアップをとることもない。仮に当該プログラムに不都合が生じた場合には,購入者又はメンテナンス業者が控訴人に問い合わせれば足りる。
シーケンサプログラミングソフトウェアは,ソースコードに当たるもので,情報の性質上,控訴人にとって重要な情報であり,メンテナンス業者において,それを公知にしたり,無断で利用することは禁止される,不競法にいう営業秘密に該当する情報であることは容易に認識可能である。
(被控訴人らの主張)
次に述べることからも,本件技術情報に秘密管理性は認められない。ア
図面の交付等
控訴人は,被控訴人銀座吉田に対し,控訴人製品の購入者において部品の交換や修理が必要になる場合や,控訴人製品の改良に関する意見交換や故障原因に関する検討等を継続的に行う中で,控訴人製品の製造図面を日常的に反復継続して交付していた。また,控訴人は,控訴人製品のメンテナンスに当たり,メンテナンス業者のエンジニアの理解を深めるため,図面を交付していたし,控訴人製品の購入者に対しても,構造を理解してもらった方が作業の効率性,正確性に資するため,図面を交付していた。イ
図面の取扱い
控訴人は,被控訴人銀座吉田に対して図面を交付するに当たり,秘密保持契約の締結を求めたことはなく,図面の取扱いについて指示したり,利用後回収の必要があると告げたりすることもなかった。


秘密情報としての認識
控訴人自身,控訴人製品の図面等を秘密情報として認識しておらず,これらの回収や廃棄は必要なく,そもそも控訴人製品の購入者に広く行き渡っている以上不可能であると理解していたからこそ,控訴人が平成27年1月に被控訴人銀座吉田に対して取引終了を通知した際にも,本件訴訟提起の際にも,図面等の返還や廃棄に関する言及がなかった。

(2)

各被控訴人の不正競争行為の成否(争点(2)),被控訴人らの不正競争行
為により控訴人の受けた損害の額(争点(3))について
(控訴人の主張)
次の点からすると,被控訴人らは,被控訴人P2が控訴人から不正に取得した控訴人製品の図面データを使用したか,被控訴人P2が控訴人から開示を受けた図面データを他の被控訴人らに不正に開示し,これを使用したと考えられる。

本件製品1,2の各銘板には,2015年(平成27年)6月16日に製造されたことを示す記載がある。数か月で控訴人製品と極めて類似する2台の大型ゴミ貯溜機を一から製造するには,1台当たり2000点を超える部品の図面が必要になる。


控訴人は,控訴人製品を自社工場で製造しており,必要に応じて,一部の部品の製造のみを外注しているから,控訴人製品を一から製造できるような図面データを外注先に交付したことはない。


控訴人は,控訴人製品の海外でのメンテナンスを担当していた被控訴人銀座吉田に対し,メンテナンスに必要な控訴人製品の設置図面等の図面データを交付したことはあるが,控訴人製品を一から製造できるような図面データや図面図書を交付したことはない。
(被控訴人らの主張)
否認ないし争う。
控訴人においては,外部製造委託先に対し,控訴人製品の図面データや図面図書一式を交付していた時期があった。また,控訴人製品の構造に照らせば,その製造のために部品全ての図面が必要になるとは考えられない。(3)

被控訴人P2の秘密保持義務違反の成否(争点(4))について

(控訴人の主張)

事実関係について
次の点からすると,被控訴人らは,平成26年初め頃から,被控訴人P2が控訴人から持ち出した図面データを使用することとし,控訴人製品の模倣品を製造する準備を着々と進めていたと推認できる。

(ア)

短期間で控訴人製品と類似する2台の大型ゴミ貯溜機を一から製造するには,ほぼ全ての図面情報が必要になるところ,控訴人は,外注先や被控訴人銀座吉田にGMR-8000,GMR-20000を一から製造できるような図面情報を交付したことはない。

(イ)

被控訴人P2は,控訴人を退職した平成26年9月30日当時,控訴人に対し,自身の扱いについて大きな不満を持っていた。

(ウ)

控訴人は,平成25年頃から,被控訴人銀座吉田に対する控訴人製品の販売が赤字になっていたことから,被控訴人銀座吉田に対し,販売価格の見直しを再三求めていたが,被控訴人銀座吉田は,これに応じず,関係が悪化していた。そして,平成26年9月頃には,被控訴人銀座吉田が,被控訴人P2と共謀して,被控訴人銀座吉田が控訴人から購入した控訴人製品の価格を水増しした虚偽の請求書を作成してシンガポールのコンサルタントに示していたことが判明し,関係は更に悪化していた。(エ)

被控訴人P2が控訴人を退職した平成26年9月30日には,控訴人と被控訴人銀座吉田の関係は悪化しており,同年8月までは被控訴人銀座吉田から控訴人製品の設置検討図の作成依頼がコンスタントにあったが,同年9月以降は新規の検討依頼は2件のみだった。

(オ)

被控訴人銀座吉田は,通常,発注者に提出している見積書に納期を表記しているため,受注後すぐに控訴人に発注をしていたが,中国成都の取引については,平成26年10月20日,被控訴人銀座吉田が受注した旨控訴人に連絡した後,平成27年1月30日までの間,発注の連絡はなかった。このことは,被控訴人銀座吉田が,平成26年10月20日から平成27年1月30日までの間に,控訴人に対して中国成都に納入するゴミ貯溜機の発注をしないこと,控訴人製品の模倣品を製造させることを決定したことを示すものである。

(カ)

控訴人の大型ゴミ貯溜機の模倣品を製造するためには,ある程度規模の大きな工場が必要になるところ,被控訴人太陽工業は,平成26年1月下旬に伊達工場を購入し,その際,同社の定款の目的に電気機械器具の製造に関する業務が追加され,その後,本件製品1,2が製造された。被控訴人P2は,控訴人在職中,被控訴人太陽工業が購入した後の伊達工場の下見に行っていた。


被控訴人P2の秘密保持義務等違反について
本件確認書に規定する技術上または営業上の情報とは,不競法上の営業秘密と同義ではなく,控訴人が本件確認書第1条及び第2条で秘密情報として指定した情報を指す。被控訴人P2は,平成27年3月頃,控訴人と競業関係にあった被控訴人銀座吉田のため,その関係者と共に香港に赴き,控訴人製品の納入先の香港企業に対し,控訴人に関する虚偽の情報を告げたり,今後ゴミ貯溜機の販売及びメンテナンスは被控訴人銀座吉田が行う旨申し入れたりするなどの活動をしたから,秘密情報の漏洩及び競業避止義務違反(第2条1項,第3条1項5号)は明らかである。
(被控訴人らの主張)
否認ないし争う。
(4)

一般不法行為(民法709条)の成否(当審で追加された争点)につい

(控訴人の主張)
被控訴人らが控訴人製品の模倣品である本件製品1,2を一から製造するためには,控訴人製品の図面情報(CADデータを含む。)が必要である。このような図面情報は,一から作成するには膨大な時間と労力が掛かるものであり,法的保護に値する。
控訴人製品の図面情報を控訴人に無断で使用して本件製品1,2を製造して納入した被控訴人らの行為は,仮に営業秘密の侵害に当たらないとしても,社会的に許容される限度を越えており,法的保護に値する控訴人の利益を違法に侵害するものであって,不法行為を構成する。
上記不法行為により控訴人が被った損害は,控訴人が不競法違反の不法行為によるものとして主張している損害の額を下回ることはない。
(被控訴人らの主張)
争う。被控訴人らには違法行為が存しない。
第3
1
(1)

当裁判所の判断
本件技術情報は不競法上の営業秘密であるか(争点(1))について不競法上の営業秘密の要件
控訴人は,本件技術情報が不競法上の営業秘密である旨主張するところ,不競法上の営業秘密といえるためには,秘密として管理されている(秘密管理性)生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって(有用性),公然と知られていない(非公知性)ことが必要である(同法2条6項)。
(2)

控訴人内部における管理について
控訴人は,上記のうち秘密管理性の点につき,本件技術情報は,電子データと電子データを印刷した紙ベースで保管され,それらの情報にアクセスできる者を福島工場の従業員18人と役員等の限られた控訴人の従業員に限り,また,就業規則に従業員の秘密保持義務を定めるほか,秘密保持の誓約書の提出を受けていた旨主張するとともに,それらの従業員は,本件技術情報が控訴人にとって重要な技術情報であり,社外に持ち出したり,漏洩したりしてはいけない秘密の情報であることは十分に認識できていたから,営業秘密として管理されていたと主張する。
証拠(甲31の1~31の18,甲32,33,36)によれば,控訴人主張の情報の管理状況や,就業規則の定め,従業員から誓約書を徴求している事実が認められ,その対象の情報が控訴人において重要な技術情報であると認識できるとの点も,そのとおり認めることができる。

(3)

外注先との関係における管理について
証拠(甲93の1~93の4)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人が外注先と製作請負契約を締結するに当たり,控訴人が外注先に対して貸与した物件等を対象とした秘密保持契約を文書により締結することがあったことが認められる。しかし,証拠として提出された当該秘密保持契約に係る契約書は,平成14年の作成日付のもの2通と,平成15年の作成日付のもの及び平成21年の作成日付のもの各1通にとどまる。
また,控訴人代表者の陳述書(甲21)には,控訴人が被控訴人サン・ブリッドから控訴人製品の部品の一部の供給を受けていた旨の記載がある一方,控訴人は,被控訴人サン・ブリッドではなく,被控訴人太陽工業から控訴人製品の部品の一部の供給を受けていたことを認めている。控訴人が部品の供給を受けていたのが被控訴人太陽工業らのうちいずれであれ,その際には,控訴人から被控訴人太陽工業らに対して,少なくとも当該部品を製造するのに必要な範囲で,控訴人製品の図面等の情報が交付されていたことを推認できるが,控訴人と被控訴人太陽工業らとの間で秘密保持契約が締結された形跡はない。
(4)

被控訴人銀座吉田等との関係における管理について
被控訴人銀座吉田は,前提事実(1)エ,(2)アのとおり,平成6年頃から,香港,シンガポール及び中国における控訴人の唯一の代理店として,控訴人製品の販売及びメンテナンスサービスを担当していたのであるから,控訴人は,長年にわたり,被控訴人銀座吉田に対し,それらの業務に必要な,控訴人製品に関する図面等の情報を数多く交付してきたことが推認される。そして,被控訴人銀座吉田は,控訴人から交付を受けた控訴人製品に関する図面等の情報で,本件技術情報を含むものの例として,戊1号証から戊64号証までを提出する。これらのうち,控訴人が,自ら交付したことを積極的に争っておらず,かつ,本件訴訟において,控訴人の営業秘密に関する記述があるとして,民事訴訟法92条1項2号に基づき,閲覧等の制限を申し立てた部分の内容は,次のとおりである。


戊5号証の一部,戊6号証
八角部分(隔壁板)の構造を示す図であり,甲20号証の20から22までの内容と共通する記載がある。



戊9号証の2の一部,戊10号証の2,戊12号証の2の一部,戊14号証の2,戊15号証の2の一部,戊64号証の一部
シール部分の図面であり,甲25号証の1から5までの内容と共通する記載がある。



戊17号証の2の一部,戊18号証の2の一部,戊22号証の2,戊23号証の2,戊59号証の2
蓋ジョイント部分の図面であり,甲20号証の17・18,甲28号証の1・2の内容と共通する記載がある。


戊36号証の一部
控訴人の福島工場を訪問して,ドラム部分の全体像を撮影した写真である。
少なくとも,以上の戊号証中に記載された情報については,控訴人が被控
訴人銀座吉田に交付したもので,かつ,控訴人が本件において営業秘密であると主張する本件技術情報に属する情報を含むものであると認められる。他方,控訴人が,被控訴人銀座吉田との間で,被控訴人銀座吉田に交付する技術上の情報につき,秘密保持契約を締結し,又は締結しようとした形跡は全くない。控訴人が被控訴人銀座吉田に対してゴミ貯溜機に関する取引終了を通知した際の書面(甲9の1)にも,従前交付した図面等の取扱いについては触れられておらず,それ以外にも,控訴人が,被控訴人銀座吉田に対し,交付した技術上の情報の取扱いや用済み後の回収について何らかの要請をした形跡はない。
控訴人の従業員P7が,平成26年4月4日10時47分頃,被控訴人銀座吉田の代表者に宛てて送信した電子メール(甲115)には,控訴人製品の修理をするのに必要な部品及び図面の一部につき,図面の流出は避けたいので福島工場で作成致しますとの記載がある。控訴人は,これをもって,被控訴人銀座吉田に対しては,控訴人製品で使用される部品の一部について,その図面を外部に知られたくないものであることを伝えているから,被控訴人銀座吉田は,本件技術情報を含む,控訴人製品の図面情報が秘密として管理されることを認識し得た旨主張する。
しかし,甲115号証の電子メールが送信されたのと同じ日の13時35分頃には,改めてP7から被控訴人銀座吉田の代表者に対し同じ用件で,甲115号証の電子メールからは内容を修正した電子メール(戊65)が送信されており,これには図面の流出は避けたいので福島工場で作成致しますとの文言はない。ということは,修理に必要な部品及び図面の一部についての図面の流出は避けたいので福島工場で作成致しますとの控訴人の見解は撤回されたものと考えられるのであって,甲115号証の電子メールは,被控訴人銀座吉田が控訴人製品の図面情報が秘密として管理されることを認識できたとする根拠にはならないというべきである。
(5)

前記(2)から(4)までを踏まえた検討
上述のとおり,控訴人内部における本件技術情報の管理状況については控訴人の主張どおり認められるものの,控訴人が外注先に対して控訴人製品の図面等の情報を交付する際には,必ずしも秘密保持契約を締結しておらず,むしろ締結しなかった方が多かったことがうかがわれる。また,控訴人は,香港,シンガポール及び中国における控訴人の唯一の代理店として,控訴人製品の販売及びメンテナンスサービスを担当していた被控訴人銀座吉田に対しても,長年にわたり,少なくとも本件技術情報の一部を含む多くの技術上の情報を交付しながら,秘密保持契約を締結することも,交付した情報の取扱いや用済み後の回収について何らかの要請をすることもなかったと認められる。控訴人が,被控訴人銀座吉田に対し,控訴人の交付する技術上の情報を秘密として管理されるべきものであることを表明した形跡はない。また,控訴人は,長年にわたり,被控訴人銀座吉田に対し,香港等における控訴人製品の販売及びメンテナンスサービスの業務に必要な図面等の情報を数多く交付してきたことが推認されるので,本件技術情報のうち,PLCプログラム等一部のものについてのみ,被控訴人銀座吉田との関係において,他の情報と異なる管理がされていたと認めることもできない。
そうすると,本件技術情報は,全て,不競法にいう秘密として管理されていたとは認められないというべきである。
(6)

被控訴人太陽工業及び被控訴人銀座吉田の認識可能性に関する控訴人の主張について
控訴人は,被控訴人太陽工業や被控訴人銀座吉田は,本件技術情報が営業秘密であることを認識できた旨主張する。しかし,控訴人とは別個の事業者である被控訴人太陽工業や被控訴人銀座吉田においては,事業上入手した他の事業者の技術上の情報を使用することは本来自由であるから,控訴人が被控訴人太陽工業や被控訴人銀座吉田に交付した技術上の情報につき,秘密保持契約の締結等その保護のための手立てを何ら執っていなくても,営業秘密として保護されると解することはできない。控訴人の上記主張は,前記(5)の判断を左右するものではない。
(7)

小括
したがって,本件技術情報は,秘密として管理されていたとは認められないから,不競法上の営業秘密といえない。

2
各被控訴人の不正競争行為の成否(争点(2)),被控訴人らの不正競争行為により控訴人の受けた損害の額(争点(3))について
前記1で認定した控訴人における控訴人製品の図面等の管理状況に加え,前提事実(2)の本件の経緯からすると,本件製品1,2は,取引関係者に交付された控訴人製品の図面等を利用して製造されたものであることが容易に推認でき,被控訴人らが直接でなくとも,少なくとも間接的にその製造に関与したことがうかがわれるところである。しかし,前記1で判示したとおり,本件技術情報が不競法にいう営業秘密に該当するとは認められない以上,当審における控訴人の主張を勘案しても,控訴人が主張する被控訴人らの不正競争行為はいずれも認められない。
したがって,被控訴人らの不正競争行為を前提とする控訴人の被控訴人らに対する差止請求及び廃棄請求並びに損害賠償請求は全て理由がない。
3
被控訴人P2の秘密保持義務違反の成否(争点(4))について
当裁判所も,控訴人の被控訴人P2に対する本件確認書に基づく合意違反を理由とする請求は理由がないものと判断する。
その理由は,次のとおり補正するほかは,原判決事実及び理由中の第4の3(原判決38頁14行目から39頁20行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)

原判決38頁23行目の連絡もしているの次に(甲58)を加

える。
(2)

原判決39頁4行目末尾の次に行を改め,次のとおり加える。

控訴人は,被控訴人P2が,控訴人を退職した平成26年9月30日当時,控訴人に大きな不満を持っており,かつ,控訴人と被控訴人銀座吉田との関係が既に悪化していたことなどを根拠として,被控訴人らは,平成26年初め頃から,被控訴人P2が控訴人から持ち出した図面データを使用することを考え,控訴人製品の模倣品を製造する準備を着々と進めていたと推認できる旨主張する。しかし,仮に,控訴人が主張するとおりなのであれば,被控訴人銀座吉田は,同年10月20日に,控訴人代表者に対し,わざわざ成都案件を受注できる旨連絡する必要はなく,むしろ,そのような連絡はしないものと考えられる。そうすると,控訴人の上記主張は採用できない。(3)

原判決39頁9行目末尾の次に行を改め,次のとおり加える。
控訴人は,本件確認書に規定する「技術上または営業上の情報とは,不競法上の営業秘密と同義ではなく,控訴人が本件確認書第1条及び第2条で秘密情報として指定した情報を指す旨主張する。しかし,仮にそうであるとしても,上記説示のとおり,本件の証拠上,被控訴人P2が控訴人の技術情報を持ち出したと推認するには至らないのであるから,控訴人の上記主張は,本件の結論に影響を与えるものではない。」

(4)

原判決39頁15行目の他方,から18行目の

無効である。

までを削る。

4
一般不法行為(民法709条)の成否(当審で追加された争点)について控訴人は,控訴人製品の図面情報を控訴人に無断で使用して本件製品1,2を製造して納入した被控訴人らの行為は,仮に営業秘密の侵害に当たらないとしても,民法709条の不法行為を構成する旨主張する。
しかし,不競法は,事業者間の公正な競争を確保するため,本来自由であるべき営業活動に制約を加えて,事業者の保有するどのような技術上又は営業上の情報が営業秘密として保護され,他の事業者がそれをどのように利用する行為が不正競争行為として規制されるかを定めるものである。そうである以上,他の事業者の技術上又は営業上の情報を利用する行為であっても,当該情報が不競法上の営業秘密に該当しない場合には,不競法が保護するのとは別個の法律上保護される利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,営業活動として不法行為を構成するものではないと解すべきである。
本件においては,被控訴人らにおいて,上記のような特段の事情があることを認めるに足りる証拠はないから,控訴人の当審における民法709条に基づく追加請求は理由がない。
5
被控訴人銀座吉田による商標権侵害等の成否(争点(5))について当裁判所も,控訴人の被控訴人銀座吉田に対する原判決別紙被告標章目録記載の標章の使用に関する請求は理由がないものと判断する。
その理由は,原判決事実及び理由中の第4の4(原判決39頁22行目から40頁11行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
6
結論
以上の次第で,当裁判所の上記判断と同旨の原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから棄却することとし,控訴人の当審における追加請求もいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第8民事部

裁判長裁判官

山田陽三
裁判官

種村
裁判官

中尾好子彰
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