判例検索β > 平成30年(行ケ)第10162号
審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
事件番号平成30(行ケ)10162
事件名審決取消請求事件
裁判年月日平成31年2月28日
法廷名知的財産高等裁判所
裁判要旨特 判決年月日 平成31年2月28日
許 知財高裁第2部
権 事 件 番 号 平成30年(行ケ)第10162号
○ 名称を「連続貝係止具とロール状連続貝係止具」とする発明について,新規性を肯
定して,特許無効審判請求を不成立とした審決を,新規性判断に誤りがあるとして取り
消した事例。
(事件類型)審決取消 (結論)審決取消
(関連条文)特許法29条1項1号
(関連する権利番号等)特許第4802252号
判 決 要 旨
1 本件は,発明の名称を「連続貝係止具とロール状連続貝係止具」とする特許(平成2
3年8月12日設定登録,特許第4802252号)に対する無効審判請求(無効201
7-80079号事件)を不成立とした審決の取消訴訟であり,争点は,新規性の有無で
ある。
審決は,原告が提出した証拠に記載された発明は,本件特許の原出願日前に公然知られ
たものではないから,本件発明が,上記証拠に記載された発明と同一であるとしても,新
規性要件に違反するものではない旨判断し,審判請求を不成立とした。
2 本判決は,概略,以下のとおり述べて,審決には,新規性判断の誤りがあるとして,
これを取り消した。
(1) 被告は,被告外1名を原告,原告ら外3名を被告とする商標権侵害差止等請求事件に
おいて,当該事件の原告訴訟代理人が平成19年5月22日に東京地方裁判所に証拠とし
て提出した書面及び証拠説明書を,その頃受領した。
当該書面は,原告の一人が,被告の顧客であった者に交付したものを,平成19年5月
22日までに,被告が入手し,上記原告が,被告の得意先へ営業した事実を裏付ける証拠
であるとして,上記事件において,提出したものであると認められる。
(2) 当該書面の記載内容からすると,これと同じ書面が,平成18年5月20日以前に,
上記原告により,ホタテ養殖業者等の相当数の見込み客に配布されていたことを推認する
ことができる。
(3) 前記の配布されていた書面には,5本の「つりピン」が中央付近においてそれぞれハ
の字型の1対の突起を有するとともに,そのハの字型の間の部分を2本の直線状の部分が
連通する形で連結された形状のものが添付されていたと認められる。
(4) 前記(3)の5本の「つりピン」が連結された形状のものは,形状については,本件発
明1の構成要件にある形状をすべて充足する。そして,その材質は,樹脂であり,「つり
ピンロール」とされていることから,ロール状に巻き取られるものであり,その連結材は,
ロール状に巻き取られることが可能な可撓性を備えているものと認められる。
-1-
したがって,上記「つりピン」は,本件発明1の構成要件を,すべて充足すると認めら
れる。
また,上記の「つりピン」は,ロープ止め突起の先端と連結部材とが極めて近接した位
置にあり,2本のロープ止め突起の先端の間隔よりも一定程度狭い縦ロープとの関係では,
2本の可撓性連結材の間隔が,貝係止具が差し込まれる縦ロープの直径よりも広くなるか
ら,本件発明2の構成要件も充足すると認められる。
さらに,上記の「つりピン」が,ロール状に巻き取られるものであることは,上記のと
おりであるから,上記の「つりピン」は,本件発明3の構成要件も充足すると認められる。
(5) したがって,本件発明1~3は,本件原出願日である平成18年5月24日よりも前
に日本国内において公然知られた発明であったということができ,新規性を欠き,特許を
受けることができない。
-2-
裁判日:西暦2019-02-28
情報公開日2019-03-08 18:00:27
戻る / PDF版
平成31年2月28日判決言渡
平成30年(行ケ)第10162号
口頭弁論終結日

審決取消請求事件

平成31年1月24日
判決原告
進和化学工業株式会社

原告有
上記両名訴訟代理人弁護士

高橋勇雄同後藤充隆同宮森惣平
上記両名訴訟代理人弁理士

永井義久同井上誠一同奥川勝利被告限会社シンワ
株式会社むつ家電特機

同訴訟代理人弁護士

芦川淳一同五藤昭雄
同訴訟代理人弁理士

小林正治同小林正英主1文
特許庁が無効2017-800079号事件について平成30年9月28日にした審決を取り消す。

2
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求

主文同旨
第2

事案の概要

本件は,特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,新規性及び進歩性の有無である。
1
特許庁における手続の経緯等
(1)

Aは,発明の名称を連続貝係止具とロール状連続貝係止具とする発明
について,平成21年2月13日に,平成18年5月24日出願した特許出願(特願2006-144703号)の一部を新たな特許出願として出願し(特願2009-31797号)
,平成23年8月12日,設定登録(特許第4802252号)
を受けた(請求項の数3。甲119。以下本件特許という。また,上記の原出願の出願日を本件原出願日という。。

被告は,その後,本件特許に係る特許権を取得した。
(2)

原告らは,
平成29年6月21日,
本件特許を無効にすることを求めて審

判を請求した(無効2017-800079号。甲100。以下本件審判という。。

特許庁は,平成30年9月28日,

本件審判の請求は,成り立たない。

との審決(以下本件審決という。
)をし,その謄本は,同年10月9日,原告らに送達
された。
(3)

原告らは,
平成30年11月8日,
知的財産高等裁判所に本件審決の取消

しを求めて本件訴えを提起した。
2
本件発明の要旨

本件特許の請求項1~3に係る特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(甲119。以下,これらの発明をそれぞれ本件発明1~3といい,本件発明1~
3を併せて本件発明という。本件特許に係る明細書及び図面を併せて本件明細書という。。)
【請求項1】
(本件発明1)
ロープと貝にあけた孔に差し込みできる細長の基材(1)と,その軸方向両端側の夫々に突設された貝止め突起(2)と,夫々の貝止め突起(2)よりも内側に貝止め突起(2)と同方向にハ字状に突設された2本のロープ止め突起(3)を備えた貝係止具(11)が基材(1)の間隔をあけて平行に多数本連結されて樹脂成型された連続貝係止具において,
前記多数本の貝係止具
(11)
がロープ止め突起
(3)
を同じ向きにして多数本配列され,配列方向に隣接する貝係止具(11)のロープ止め突起(3)の先端が,他方の貝係止具(11)の基材から離れて平行に配列され,隣接する基材(1)同士はロープ止め突起(3)の外側が可撓性連結材(13)で連結されず,ロープ止め突起(3)の内側が2本の可撓性連結材(13)と一体に樹脂成型されて連結され,可撓性連結材(13)はロープ止め突起(3)よりも細く且つロール状に巻き取り可能な可撓性を備えた細紐状であり,前記2本の可撓性連結材(13)による連結箇所は,2本のロープ止め突起(3)の夫々から内側に離れた箇所であり且つ前記2本のロープ止め突起(3)間の中心よりも夫々のロープ止め突起(3)
寄りの箇所として,2本の可撓性連結材(13)を切断すると,
その切り残し突起(16)が2本のロープ止め突起(3)の内側に残るようにしたことを特徴とする連続貝係止具。
【請求項2】
(本件発明2)
請求項1記載の連続貝係止具において,2本の可撓性連結材(13)の間隔が,貝係止具(11)が差し込まれる縦ロープ(C)の直径よりも広いことを特徴とする連続貝係止具。
【請求項3】
(本件発明3)
請求項1又は請求項2記載の連続貝係止具(14)が,シート(15)を宛がって又は宛がわずに,ロール状に巻かれたことを特徴とするロール状連続貝係止具。
3
審決
(1)

審判における原告らの主張

原告らは,本件審判において,甲41の4と甲55は,掲載文言の同一性と添付されているピンのサンプルの同一性から,同一機会に作成されたチラシ(サンプルシート)であることが確認できる旨主張し,
甲第41号証の4(甲第55号証)のチラシ(サンプルシート)が2006年(平成18年)4月下旬に配布されていたと主張した。
(2)

審決の理由の要点

本件審決は,次のとおり,本件特許を無効とすることはできないと判断した。ア
無効理由1(新規性要件違背)について

甲2(
つりピンロールカタログ)
,甲4(
つりピンサンプルシート2006
年)及び甲55(つりピンサンプルシート)が本件原出願日前に作成され,配布され,また販売されたと認めることはできないから,甲2に記載された発明,甲4に記載された発明又は甲55に記載された発明は,本件原出願日前に公然知られたものではない。
したがって,本件発明1,3が甲2に記載された発明,甲4に記載された発明,又は甲55に記載された発明と同一であるとしても,本件発明1,3は,本件原出願日前に公然知られたものではない。
なお,甲2に記載された発明,甲4に記載された発明及び甲55に記載された発明は,本件発明2と同一ではない。

無効理由2(進歩性要件違背)について

前記アのとおり,甲2に記載された発明,甲4に記載された発明又は甲55に記載された発明は,本件原出願日前に公然知られた発明ではないから,甲2に記載された発明,甲4に記載された発明又は甲55に記載された発明が公然知られた発明であることに基づく容易想到性についても理由がない。
また,本件発明と甲3(
つりピンサンプルシート2005年)に記載された発

明とは,相違点が存在するところ,当該相違点について,当業者が容易になし得たものと認めることはできない。

無効理由3(進歩性要件違背)について

本件発明は,甲28(登録実用新案第3109948号公報)
,甲29(特開20
03-289742号公報)
,甲30(特開2002-136241号公報)及び甲
31(特開2004-208619号公報)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第3
1
原告ら主張の審決取消事由
取消事由1(新規性判断の誤り)
(1)

甲41の4は,東京地方裁判所に平成19年5月22日に被告から提出
されたものであり,原告らが偽造変造できない,動かし難い客観的証拠である。甲41の4は,平成18年(2006年)5月20日より前に頒布されたものである(甲41の4,甲58,69,75,76)

(2)

甲4及び55は,
本件原出願日前に作成されたものである
(甲38,
39,

59,60等)

(3)

原告有限会社シンワ代表者B
(以下,
原告有限会社シンワを
原告シンワ

と,BをBという。
)は,平成17年7月6日~8日に北海道の噴火湾地域に出
向き,甲2及びサンプルピンを配って営業し(甲6~21,27,34~37),ま
た,平成18年4月下旬に青森県の陸奥湾地域において甲55を配布して営業した(甲42等)

(4)

甲2に記載されているつりピンロールグリーン及びつりピンロールオレンジ,甲55に記載されているつりピンロールグリーン及びつりピンロールバラ色は,本件原出願日前に販売された(甲6~21等)。
(5)
2
したがって,新規性についての本件審決の判断は誤りである。

取消事由2(進歩性判断の誤り①)

本件発明は,本件原出願日前に頒布された甲41の4に記載された発明と同一で
あるので,新規性がなく,進歩性もない。
3
取消事由3(進歩性判断の誤り②)

前記2のとおり,本件発明は新規性がないので,甲28~31を検討するまでもなく,特許を受けることができない。
第4
1
被告の主張
取消事由1について
(1)ア原告ら提出の証拠から認定できるのは,平成19年5月22日の時点で
サンプルシート(甲41の4)が頒布されていたということだけであり,甲41の4のサンプルシートが本件原出願日前に頒布されていたということは認定できない。イ
2005年(平成17年)のサンプルシート(甲3)や2009年(平
成21年)のサンプルシート(甲5)には記載のない納品日(納品5月20日~9月末)が,甲41の4のサンプルシートにだけあるのは不自然である。また,
平成29年10月13日付け手続補正書
(審判請求理由補充書。
甲104)
に記載されているように,平成18年に価格が分かるようにしてほしいとの要望を受けてサンプルシートを改訂したのであれば,価格だけを追記すれば済むにもかかわらず,何ら理由もなくキャンペーン期間や納品期間が追加されるというのは不自然である。
さらに,平成18年に顧客から価格が分かるようにしてほしいとの要望を受けたのであれば,2009年(平成21年)のサンプルシート(甲5)にも価格が記載されていてしかるべきであるが,記載がない。
したがって,平成18年に顧客から価格が分かるようにしてほしいとの要望があったのか,その要請に基づいて訂正したのかは,疑わしく,甲41の4は,甲41の4のサンプルシートが平成18年5月20日以前に頒布されたことを裏付けるに足りる証拠ではない。
(2)

甲38の宅配便受付票の記載だけで,当該宅配便受付票が貼付された甲
39の封筒にどのような構造のピンが入っていたかを特定することはできない。ま
た,甲59の陳述書は,原告シンワに属する者の陳述書であり,恣意的で,客観的裏付けがないものである。さらに,甲60の陳述書は,甲59の作成者の陳述書であり,原告シンワが貼付したとみられる2006年4月末むつ湾にまいたカタログと記載された付箋があることから,誘導的に作成されたものである。(3)

噴火湾地域におけるBの営業についての主張は,原告らが具体的な理由
を述べないから,失当である。
(4)

原告らのつりピンロールグリーン等の販売についての主張は,原告らが
具体的な理由を述べないから,失当である。
2
取消事由2について

前記1のとおり,甲41の4は,本件原出願日前に頒布されていたことを裏付ける証拠ではない。
3
取消事由3について

原告らの主張は,原告らがその具体的理由を述べていないから,失当である。第5
1
当裁判所の判断
取消事由1(新規性判断の誤り)について

(1)ア

前記第2の3(1)の本件審判における原告らの主張によると,
原告らは,

本件審判において,
甲55と同一の内容及び同一の添付物のチラシが複数作成され,
頒布されており,甲41の4は,そのうちの一つの写しである旨主張していたのであるから,写しである甲41の4と甲55の原本に当たるものは,同一であることを前提に主張していたものと解される。
そして,本件審決は,甲41の4につき,原告らが甲41の4に現れているつりピンロールは公然に頒布された物品に係るもので,本件特許は公然知られた発明である旨主張していることを挙げた上,

甲第41号証の4又は同号証で示されたつりピンロールが本件特許の遡及日前に頒布されたものと認めることはできない。

と判断している。
したがって,本件審決は,結論としては,前記第2の3(2)のとおり,甲2に記載
された発明,甲4に記載された発明又は甲55に記載された発明を引用発明とする新規性違反の有無について判断しているが,甲41の4を引用発明とする新規性判断の誤りについても判断していると認められる。

証拠(甲41の4・5,甲69)及び弁論の全趣旨によると,被告は,
被告外1名を原告,
原告ら外3名を被告とする商標権侵害差止等請求事件において,
当該事件の原告訴訟代理人弁護士C及び同Dが平成19年5月22日に東京地方裁判所に証拠として提出した甲41の4及び証拠説明書として提出した甲41の5を,その頃受領していること,甲41の5には,甲41の4の説明として,被告シンワのチラシ(2006年用),
写し作成日

2006(平成18),年作成者(有)
シンワ立証趣旨

被告シンワが原告むつ家電得意先へ営業した事実を立証する。

旨記載されていることが認められるところ,
甲41の4には,
2006年販売促進キャンペーンキャンペーン期間,・予約5月末まで末有限会社シンワつりピンロールバラ色,,格早期出荷用グリーンピン,・納品5月20日~9月抜落防止対策品サンプル価,特別感謝価格48000円などの記載があり,
複数の種類のつりピンが記載されており,その中には,5本のピンが中央付近においてそれぞれハの字型の1対の突起を有するとともに,そのハの字型の間の部分を2本の直線状の部分が連通する形で連結された形状のもの(つりピンロールバラ色と記載された部分の直近下に写し出されているもの)
があることが認められる。
上記つりピンの形状は,証拠(甲41の3~5)及び弁論の全趣旨により,上記事件の上記原告訴訟代理人が,
平成19年5月22日に,
甲41の4とともに,
上記商標権侵害差止等請求事件において,東京地方裁判所に証拠として提出したと認められる甲41の3につりピンロール(バラ色)抜落防止対策品として記載されているピンク色のつりピンと,その形状が一致していると認められる。証拠(甲41の3~5)及び弁論の全趣旨によると,甲41の3は,甲41の4と同じ証拠説明書による説明を付して,
提出されたものであると認められ,
2006年度取扱いピンサンプル一覧有限会社シンワ早期出荷用などの記載があ,


る。
また,証拠(甲41の1~5)及び弁論の全趣旨によると,甲41の4は,上記商標権侵害差止等請求事件の上記原告訴訟代理人が,平成19年5月22日に,甲41の4とともに,
被告シンワのチラシ(2005年用),写し
,作成日2005(平成17)年
,作成者(有)シンワ
,立証趣旨

被告シンワが原告むつ家電得意先へ営業した事実を立証する。旨の証拠説明書による説明を付して,

上記商
標権侵害差止等請求事件において,東京地方裁判所に提出したと認められる甲41の1と,レイアウトが類似しているところ,甲41の1には,

2005年開業キャンペーン下記価格は2005年4月25日現在の価格(税込)です。,

有限会社シンワ

当社では売れ残り品は販売しておりません。お客様からの注文後製造い,たします。

などの記載がある。以上によると,甲41の3及び4は,いずれも,原告シンワが,被告の顧客であった者に交付したものを,平成19年5月22日までに,被告が入手し,原告シンワが,被告の得意先へ営業した事実を裏付ける証拠であるとして,上記商標権侵害差止等請求事件において,提出したものであると認められる。
そして,甲41の4の上記記載内容,特に販売促進キャンペーン納品5月,20日~と記載されていることからすると,甲41の4と同じ書面が,平成18年5月20日以前に,原告シンワにより,ホタテ養殖業者等の相当数の見込み客に配布されていたことを推認することができる。

また,前記イの認定事実及び弁論の全趣旨によると,甲41の4に記載
されている,5本のつりピンが中央付近においてそれぞれハの字型の1対の突起を有するとともに,そのハの字型の間の部分を2本の直線状の部分が連通する形で連結された形状のものは,原告シンワにより見込み客に配布されていた前記イの甲41の4と同じ書面にも添付されていたと認められる。

前記の5本のつりピンが中央付近においてそれぞれハの字型の1対
の突起を有するとともに,そのハの字型の間の部分を2本の直線状の部分が連通す
る形で連結された形状のものの形状は,両端部において折り返した部分の端部の形状が,甲41の4では,下から上へ曲線を描いて跳ね上がっているのに対し,本件特許に係る図面(甲119)の図8(a)では,釣り針状に下方に曲がっている以外は,上記図8(a)記載の形状と一致している。
そして,上記図8(a)は,本件発明に係るロール状連続貝係止具の実施の形態として記載されたものである。

そうすると,前記イ,ウ及びエの5本のつりピンが中央付近におい
てそれぞれハの字型の1対の突起を有するとともに,そのハの字型の間の部分を2本の直線が連通する形で連結された形状のものは,形状については,本件発明1の構成要件にある形状をすべて充足する。そして,証拠(甲41の1~5)及び弁論の全趣旨によると,その材質は,樹脂であり,
つりピンロールとされていること
から,ロール状に巻き取られるものであり,その連結材は,ロール状に巻き取られることが可能な可撓性を備えているものと認められる。したがって,甲41の4に記載されているつりピンは,本件発明1の構成要件を全て充足すると認められる。
また,上記のつりピンは,ロープ止め突起の先端と連結部材とが極めて近接した位置にあり,2本のロープ止め突起の先端の間隔よりも一定程度狭い縦ロープとの関係では,2本の可撓性連結材の間隔が,貝係止具が差し込まれる縦ロープの直径よりも広くなるから,本件発明2の構成要件も全て充足すると認められる。さらに,上記のつりピンが,ロール状に巻き取られるものであることは,上記のとおりであるから,上記のつりピンは,本件発明3の構成要件も全て充足すると認められる。

したがって,本件発明1~3は,本件原出願日である平成18年5月2
4日よりも前に日本国内において公然知られた発明であったということができ,新規性を欠き,特許を受けることができない。
(2)

被告は,
甲41の4から認定できるのは,
平成19年5月22日の時点で
サンプルシート(甲41の4)が頒布されていたということだけであり,①甲3及び5には納品日の記載がないのに,甲41の4に納品日の記載がある点,②顧客から価格が分かるようにしてほしいという要望を受けてサンプルシートを改訂したのであれば,価格だけを追記すれば済むのに,甲41の4には,キャンペーン期間や納品期間が記載されている点,③甲5には,価格の記載がない点を挙げて,甲41の4の記載内容は不自然であるから,甲41の4は,甲41の4のサンプルシートが平成18年5月20日以前に頒布されたことを裏付けるに足りる証拠ではない旨主張する。
甲3は,
2005年販売ピン一覧という表題が記載された書面であり,価格の記載もキャンペーン期間の記載もない。
甲5は,
2009年色が変って新登場新色キャンペーンという表題が記載された書面であり,色の変更についての記載はあるが,価格の記載も日や月を区切ったキャンペーン期間の記載もない。そうすると,これらの文書の作成目的は,専ら顧客に原告シンワが取り扱う商品の一覧を示すことにあると認められる。これに対し,甲41の4は,
2006年販売促進キャンペーンという表題が記載された書面で,キャンペーン期間早期出荷用グリ,ーンピン特別感謝価格という記載もされているのであるから,期間を区切って
特別に有利な価格を提示することを目的に含む,販売促進キャンペーン用のチラシであると認められる。これらの記載内容,特に表題から認められる文書の目的の違いを考えると,①甲41の4には納品日の記載があり,甲3及び5に納品日の記載がないことは不自然ではないし,また,②顧客の価格が分かるようにしてほしいという要望を受けてサンプルシートを改訂する際に,期間を区切った販売促進キャンペーンを企画し,そのチラシに価格と共にキャンペーン期間や納品期間を記載しても不自然ではないし,
さらに,
③甲5に価格の記載がないことは,
不自然ではない。
したがって,被告の上記主張は,前記(1)の認定を左右するものではない。他に前記(1)の認定判断を覆すに足りる主張,立証はない。
(3)

以上のとおりであって,
本件発明は,
本件原出願日前に日本国内において
公然知られた発明であるから,特許を受けることができない(特許法29条1項1号)

2
結論

以上によると,原告の主張する取消事由1には,理由がある。
よって,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部

裁判長裁判官
森義之礼子
裁判官
森岡古庄
裁判官

トップに戻る

saiban.in