判例検索β > 平成30年(行ケ)第10099号
審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
事件番号平成30(行ケ)10099
事件名審決取消請求事件
裁判年月日平成31年3月6日
法廷名知的財産高等裁判所
裁判日:西暦2019-03-06
情報公開日2019-03-13 18:00:16
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平成31年3月6日判決言渡
平成30年(行ケ)第10099号
口頭弁論終結日

審決取消請求事件

平成31年1月28日
判原決告X
同訴訟代理人弁護士

澤田雄二新田裕子
海老原

輝白水真祐
同訴訟復代理人弁護士

小池亮史
同訴訟代理人弁理士

福田信雄被告Y
同訴訟代理人弁護士

福岡秀哉主文1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求
特許庁が無効2014-800187号事件について平成30年6月11日にした審決のうち,

特許第4958194号の請求項1及び3に係る発明についての特許を無効とする。

との部分を取り消す。
第2
1
前提となる事実(証拠を掲記した以外の事実は当事者間に争いがない。)特許庁における手続の経緯等

(1)原告は,平成23年6月8日,名称を噴出ノズル管の製造方法並びにその方法により製造される噴出ノズル管とする発明についての特許出願をし,
平成24年3月30日,その設定登録を受けた(特許第4958194号。請求項の数は3。以下,この特許を本件特許,この特許権を本件特許権という。)。(甲1,3,4)(2)被告は,平成26年11月14日付け(同月17日差出し)で,本件特許の特許請求の範囲請求項1ないし3の発明
(以下,
請求項の番号に従って
本件発明1などといい,これらを総称して本件各発明という。)に係る特許について,本件各発明は被告が発明したものであるにもかかわらず,発明者でない原告がその名義で出願したものであるから,平成23年法律第63号による改正前の特許法123条1項6号に該当すると主張して,無効審判請求(無効2014-800187号)をした。(甲5)
特許庁は,平成27年9月25日,

本件審判の請求は,成り立たない。

との審決(以下一次審決という。)をし,同年10月5日,その謄本が被告に送達された。(甲7,8)
(3)被告は,平成27年10月29日,知的財産高等裁判所に,一次審決の取消しを求める審決取消訴訟
(平成27年(行ケ)第10230号)
を提起した。
同裁判所は,平成29年1月25日,特許庁が無効2014-800187号事件について平成27年9月25日にした審決のうち,特許第4958194号の請求項1及び3に係る部分を取り消す。原告(判決注:本件訴訟の被告)のその余の請求を棄却する。との判決(以下一次判決という。)をした。その理由の要旨は,本件各発明のうち,本件発明2については,その発明者が原告であると認めることができるが,本件発明1及び3については,その発明者が原告であると認めることはできない,というものである。(甲8)
原告は,平成29年2月9日,一次判決を不服として,上告受理申立てをした(平成29年(行ヒ)第181号事件)が,最高裁判所は,同年11月16日,

本件を上告審として受理しない。

との決定をし,一次判決は確定した。(甲9~11)
(4)特許庁は,
上記無効審判の審理を再開した上,
平成30年6月11日,

特許第4958194号の請求項1及び3に係る発明についての特許を無効とする。特許第4958194号の請求項2に係る発明についての審判請求は,成り立たない。

との審決(以下本件審決という。)をし,同月22日,その謄本が原告に送達された。
原告は,平成30年7月21日,本件訴訟を提起した。
2
本件審決の理由
本件審決の理由は,別紙審決書の写しに記載のとおりであるところ,その要点は,次のとおりである。
本件の再度の審理には,行政事件訴訟法33条1項の規定により,取消判決の拘束力が及ぶ。原告は,一次判決の認定判断は誤りであると主張し,これを裏付けるための新たな立証として証拠を提出するが,当該主張立証は,一次審決に係る審判手続及びその審決取消訴訟において既に行われたもの,あるいはこれを行うことができたはずのもの,又は従前と同様の主張を繰り返すものであって,上記拘束力により採用することができない。
以上のことから,当審は,本件判決(判決注:一次判決)に従い,本件各発明のうち,本件発明2については,その発明者が原告であると認めることができるが,本件発明1及び3については,その発明者が原告であると認めることはできないものと判断する。
また,本件発明1及び3については,その発明について原告が発明者から特許を受ける権利を承継しているとも認められない。
したがって,本件発明1及び3に係る特許は,その特許が発明者でない者であってその発明について特許を受ける権利を承継しない者の特許出願に対してされたものであるから,平成23年法律第63号による改正前の特許法第123条第1項第6号に該当し,無効にすべきものである。
第3
1
原告主張の取消事由
本件審決は,本件発明1及び3の発明者は被告であると判断した。しかし,次のとおり,この判断は誤りである。

2
取消判決の拘束力について
最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決(昭和63年(行ツ)第10号,民集46巻4号245頁。以下平成4年最高裁判決ということがある。)が,拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたると判示しているとおり,取消判決の拘束力が生じるのは,判決理由中の判断のうち,判決主文を導出するのに不可欠な法律上・事実上の判断についてである。そして,平成4年最高裁判決は,要旨,同一の引用例に基づく主張について拘束力が及ぶと判示しているところ,これは換言すると他の引用例(証拠)に基づく主張まで拘束されるものではない,すなわち新たな証拠に基づく事実認定や法律判断にまで拘束力が及ぶものではないと説示していることにほかならない。
これを本件についてみると,
一次判決の拘束力が及ぶのは,
一次審決のうち,
本件発明1及び3に係る部分を取り消すとの判決主文が導き出される根拠とされた事実(証拠)の認定及び当該事実(証拠)に基づいてされた法律判断のみであって,新たな証拠に基づく事実認定や法律判断にまで拘束力は及ばない。再開後の無効審判手続及び本件訴訟において新たに提出した証拠には,一次判決後に発見されたものが含まれており,本件審決が説示した主張立証について,一次審決に係る審判手続及びその審決取消訴訟において既に行われたもの,あるいはこれを行うことができたはずのものに該当するものではないから,この点からも一次判決の拘束力は及ばない。

3
新たに提出した証拠に基づくと,本件発明1及び3の発明者は原告であると優に認められること
(1)上記2のとおり,一次判決後に提出又は提出可能となった証拠に基づく主張は,別の理由ないし新たな事実に基づくものであるから,当該主張に一次判決の拘束力は及ばない。そして,次のとおり,これらの新たな証拠に照らせば,原告が本件発明1及び3の真の発明者であることは明らかである。ア
被告及び被告関係者の発言
甲60が示すとおり,原告及び被告が,平成24年6月10日に打合せをした際,被告は,

自分の名前で出していいって言われた時に。いいっすよってことを言っちゃったからね。

と,本件特許の出願前に,原告が発明者であり,出願人として出願することを確認し,承諾したことを認める発言をしていた。
また,甲61の1及び2が示すとおり,原告,及び被告側の関係者であるAが,平成24年7月28日に打合せをした際,

そのゲートのそれをやるという,アイディア。そしてあと,熱で刺した,ここに差したのを,熱でやるというアイディア。全部,私じゃん。

との原告の発言に対し,Aは「ええ。」と発言し,原告が本件特許に係る弁構造を発案したことを認めていた一方,被告が発案した旨の発言をしていない。
なお,甲60,61の1及び2は,故障していた機器を修復したことにより,一次判決に対する上告受理申立不受理決定後に提出可能となったものである。


本件各発明に係る技術開発の経緯
(ア)原告は,平成19年1月13日の時点で,本件発明1に係るノズル管本体の所定位置を所定長さだけ加熱して軟化させる工程,加熱により軟化された箇所をノズル管本体の外径に変化がないように押さえつつノズル管本体の長さ方向における両端側から押し込む工程及び加熱された箇所を冷却して固化する工程を含む加工方法を発明し,実施していた(甲63,73)。
また,平成21年12月10日から12日にかけて開催されたエコプロダクツ2009に出展するに当たり,原告が作成したプレゼンテーション資料には,ノズル管の中間位置に弁構造が備わっている態様が記録されている(甲99の1,2)。これは,原告が,平成21年12月10日以前に,本件各発明に係る弁構造を備えたノズル管を作製していたことを示すものである。なお,甲99の1及び2は,故障していた機器を修復したことにより,一次判決に対する上告受理申立不受理決定後に提出可能となった。
さらに,原告は,平成22年3月にビーズ等を用いた注入管のテストといったディーゼルエンジン用試作エアゾール装置の評価試験を行うなど,積極的に開発を進め,このころ,弁構造を安定して製造する方法に係る本件各発明を完成させた(甲64,66)。原告は,弁構造を安定して製造するには本件発明1に係る製造方法は不適切であると理解していた。そこで,原告は,より良い構造を簡単に製造できる方法として,本件発明2及び3を完成させた。
(イ)これに対し,被告は,平成22年に至っても,テフロンに係る事業に継続して取り組んでおり,燃焼室クリーナー事業にはほとんど携わっていなかった。このことは,平成18年から平成23年にかけて燃焼室クリーナー事業に係る取引先とやりとりしたメール(甲64)に被告が登場していないことや,
平成23年6月17日に撮影された写真
(甲88)
にテフロン事業で使用された機材のみが写っていることからも明らかである。

本件特許を受ける権利及び本件特許権の帰属に関する被告及びAの主張の変遷
(ア)被告及びAは,平成24年11月29日付けの通知書(甲67)において,日本インテグレーテッドワークス株式会社(以下日本インテグレーテッドという。)が本件特許を受ける権利を有すると主張していた。また,被告らは,平成25年5月15日付けの通知書(甲68)では,本件各発明は被告が考案したもので,本件特許権は日本インテグレーテッドに帰属すると主張していた。
しかし,Aは,平成29年2月24日付けのご連絡と題する書面
(甲69)では,本件特許権は被告に帰属すべきものであると,主張を変遷させた。
さらに,Aが,日本オイルサービス株式会社に宛てた平成29年11月24日付けのご連絡と題する書面(甲53)では,本件特許を受ける権利は日本インテグレーテッドに帰属し,同社が特許権者であるとの立場を採っている。
(イ)このように,
被告及びAは,
本件特許を受ける権利及び本件特許権の
帰属に関し,本件における主張と矛盾した行動を採っている。

一次判決における被告の主張について
(ア)一次判決は,
Aの陳述書等
(甲34,
76。
一次判決における甲27,
62)に基づき,被告が主張するとおり,被告は平成22年10月5日までに本件各発明の解決手段に係る着想を得ていたと認定した。
しかし,甲64(144頁)によれば,トライアル生産のための溶剤の納入予定日は,平成22年10月5日であるところ,愛知県所在のエアゾール缶充填業者に溶剤が到着したその日に,試作量産ロットを完成させた上で,被告が種々主張するような実機での検証を行うことは不可能である。
(イ)また,一次判決は,A及び被告の各陳述書(甲76,77。一次判決における甲62,63)に基づき,甲33(一次判決における甲26)に係るノズルは,被告が作製し,Aに示したものであると認定した。しかし,甲33に係るノズルの製作方法についての被告及びAの主張及び陳述(一次審決に係る審判手続において,宣誓の上で実施された被告の当事者尋問における陳述(甲48。一次判決における甲37)を含む。)は,一次審決に係る審判段階と一次判決に係る訴訟段階とで,加熱源,加熱対象,芯材,ノズル管をつぶす道具など,ノズル管の材料以外の全てにおいて大きく変化している。本件各発明は,製造方法の発明であるから,仮にも発明者なのであれば,発明における重要な過程の説明が変化したり誤ったりする可能性は低い。
実際にも,甲60が示すとおり,原告及び被告との打合せの際,

…誰もやってない時にプライヤーで潰して針金入れたやつ見せたじゃないですか。との原告の発言に対し,

被告は
…プライヤーで潰した針金?

…あれが,これと何が違うんですか。

,…あれ持って行った時にはすでに僕は…と発言し,原告がプライヤーを用いて甲33に係るノズルを作製したことを認めている。
そして,甲33に写っているのは,ノズル管の中間部分をプライヤーで潰して簡易的に弁構造を形成したものであり,本件各発明に係る製造方法を用いてノズル管に弁構造を形成したものではない。
(ウ)さらに,
被告が提出した実験データに係る証拠は甲31
(一次判決に
おける甲6)のみであるところ,甲25から明らかなとおり,これは所定の計算式を使用したシミュレーション値である。
それにもかかわらず,
被告は実験データであると主張しており,当初から偽りの証拠をもって本件無効審判を請求したことは明白である。
甲55が示すとおり,被告及びAは,原告に対し,伝票を黒塗りすることにより繰り返し偽った報告をしている。被告を経由してAに伝えられ,提出された書類については,同様の虚偽報告や変造が常態となっており,信ぴょう性に疑問がある。
したがって,このほかにも一次判決の認定に用いられた被告提出に係る証拠は,偽造,変造されている蓋然性が高い。
(エ)虚偽の証拠や陳述に基づいて判決がされたことは,
民事訴訟法338
条1項6号及び7号が規定する再審事由に当たる。民事訴訟手続が本来想定していない虚偽の証拠に基づいてされた判決に拘束力があるとする一方で,新たな証拠に基づく主張立証が認められないとすることは,再審の制度趣旨に悖るというべきである。
(2)主張立証責任について
一次判決により,本件発明1及び3について,被告に特許を受ける権利があるとするのであれば,現時点では被告が特許権者であるとみなすことも可能ということになる。そうすると,本件訴訟においても,一次判決が説示した冒認出願に係る主張立証責任の所在に関する判断基準に基づき,特許を受ける権利があると認定されたみなし特許権者である被告に,一次判決において原告に課されたのと同様の主張立証責任を課すべきである。原告は,
上記(1)のとおり,
被告が特許を受ける権利を有していたこと及び
発明者性を有していたことのいずれについても,これを疑わせるに足りる事情を主張立証した。
したがって,被告において,原告の主張立証を凌ぐ主張立証をしなければならないというべきである。
4
小括
以上によれば,本件発明1及び3の発明者は被告であるとの本件審決の判断は誤りであるから,取り消されるべきである。

第4
1
被告の反論
平成4年最高裁判決の説示からも明らかなように,審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決はその限りにおいて適法であるから,再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることができない。
一次判決は,その理由中において,原告が本件発明1及び3の発明者とは認められないとして,一次審決のうち,本件発明1及び3に係る部分を取り消した。そうすると,一次判決の理由中の判断のうち,原告が本件発明1及び3の発明者とは認められないとの認定について拘束力が生じるから,それに従った本件審決はその限りにおいて適法である。
2
また,審決を取り消す判決が確定した後の特許庁における再審理,及びその後の審決取消訴訟において,従前の主張を補強し,確定した審決取消訴訟の判断を左右する類の証拠の提出が許されないことも,平成4年最高裁判決の説示から明らかである。
本件訴訟において原告が新たに提出する証拠は,いずれも一次判決における原告の主張を補強するものか,又は,原告に不利な認定が誤りであるとして,確定した一次判決の判断を覆そうとするものにすぎない。
なお,新たに提出する証拠の一部は,一次判決がされる前に存在していたものであり,それらを一次判決が確定した後に提出し,一次判決の判断を覆そうとすることは,信義則に反する。

3
第5
1
したがって,原告の主張は,本件審決の取消事由に当たらない。
当裁判所の判断
特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは,審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判事件について更に審理を行い,審決をすることとなるが,審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから,再度の審理ないし審決には,同法33条1項の規定により,当該取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,審判官は取消判決の当該認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。したがって,再度の審判手続において,審判官は,当事者が,取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返すこと,あるいは当該主張を裏付けるための新たな立証をすることを許すべきではなく,審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は,その限りにおいて適法であり,
再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることができない。
このように,再度の審決取消訴訟においては,審判官が当該取消判決の主文のよって来る理由を含めて拘束力を受けるものである以上,その拘束力に従ってされた再度の審決に対し関係当事者がこれを違法として非難することは,確定した取消判決の判断自体を違法として非難することにほかならず,再度の審決の違法(取消)事由たり得ないと解される(平成4年最高裁判決参照)。2
これを本件についてみると,上記第2,1(3)及び(4)並びに2において認定したとおり,一次判決は,本件発明1及び3については,その発明者が原告であると認めることはできないとして,一次審決のうち,本件特許の請求項1及び3に係る部分を取り消した。
そして,
一次判決の確定後にされた本件審決は,
一次判決の拘束力に従って,本件発明1及び3については,その発明者が原告であると認めることはできないものと判断した。
したがって,本件発明1及び3の発明者についての本件審決の判断は,一次審決の拘束力に従ってされた適法なものであるから,
関係当事者である原告は,
当該判断に誤りがあるとして本件審決の取消しを求めることができないというべきである。

3
原告の主張について
(1)原告は,平成4年最高裁判決は,拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたると判示しているから,一次判決の拘束力が及ぶのは,一次判決のうち,本件発明1及び3に係る部分を取り消すとの判決主文が導き出される根拠とされた事実(証拠)の認定及び当該事実(証拠)に基づいてされた法律判断のみであって,新たな証拠に基づく事実認定や法律判断にまで拘束力は及ばないところ,新たな証拠によれば本件発明1及び3の発明者は原告であると認定されるべきであるから,これに反する本件審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,平成4年最高裁判決によれば,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断に対して拘束力が及ぶのであるから,当事者としては,この事実認定に反する主張をすることは許されないのであり,したがって,新たな証拠を提出して,上記事実認定とは異なる事実を立証し,それに基づく主張をしようとすることも,取消判決の拘束力に反するものであって許されないといわなければならない。このことは,上記判決自身が,再度の審決取消訴訟において,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決の認定判断を誤りであるとして,これを裏付けるための新たな立証をし,更には裁判所がこれを採用して,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決を違法とすることが許されない。と明言していることからも明らかである。そして,本件訴訟における原告の主張は,一次判決において審理の対象となっていた冒認出願(平成23年法律第63号による改正前の特許法123条1項6号),すなわち,本件発明1及び3は,被告が発明したものであるにもかかわらず,
原告がその名義で出願した,
という同一の無効理由に関し,
本件発明1及び3の発明者が原告であると認めることはできない,との一次判決が認定した事実そのものについて,一次判決に係る訴訟における原告の主張を補強し,又は,原告に不利な認定を誤りであるとして,確定した一次判決の当該認定判断を覆そうとするものにすぎないから,そのような主張が許されないことは明らかである。
(2)アもっとも,原告が指摘するとおり,取消判決に民事訴訟法338条所定の再審事由がある場合には,当該取消判決は再審の訴えによって取り消されるべきものであるから,これに拘束力を認めるのは相当でないと解する余地がある。
そして,原告は,一次判決の認定判断の基礎となった被告及びAの陳述(一次審決に係る審判手続において,宣誓の上で実施された被告の当事者尋問における陳述を含む。)に,民事訴訟法338条1項6号及び7号の再審事由があると主張するものと解されるが,同条1項ただし書の場合に該当しないこと,及び同条2項の要件を満たすことについては何ら主張立証がないから,原告の再審事由に関する主張は,既にこの点において理由がないものといわざるを得ない。また,念のため内容について検討してみても,やはり理由がないものといわざるを得ない。

すなわち,一次判決は,本件各発明の発明者を認定判断するに当たり,被告が主張した,①平成22年10月5日までに,燃焼室クリーナーの流量調整等の問題を解決するために,ノズル管を加熱・冷却してその管内にゲート構造を形成するとの着想を得て,これを具体化した甲33に係るノズル(一次判決における甲26ノズル)を製作しその噴出量のテストを行った,②その後,同月28日ころには,本件各発明を完成させ,同年11月3日ころには,本件各発明を実施することに用いるゲート構造を備えたノズルを製作するための機器を完成させた,との各事実につき,一次審決に係る審判手続において,宣誓の上で実施された被告の当事者尋問の録音反訳書(甲48。一次判決における甲37)を,その認定の基礎としていることが認められる(甲8・29頁)。
この点に関し,原告は,被告との打合せの際,

…誰もやってない時にプライヤーで潰して針金入れたやつ見せたじゃないですか。

との原告の発言に対し,被告が…プライヤーで潰した針金?,

…あれが,これと何が違うんですか。

,…あれ持って行った時にはすでに僕は…と発言したこと(甲60・40頁)を根拠として,被告は原告が甲33に係るノズルを作製したことを認めていたのであるから,上記の審判手続における被告の陳述は虚偽であると主張する。しかし,被告は,上記のやりとりの直後に

あれ持って行った時にはすでに僕はもうつくってあったじゃないですか。

と発言している上に,原告がその発言中で指摘する対象物を示した時期などを特定するに足りる事情も見当たらないことからすると,原告が指摘するやりとりをもって,被告が甲33に係るノズルの作製者は原告であると認めていたと断ずることはできない。
また,原告は,Aとの打合せの際,

そのゲートのそれをやるという,アイディア。そしてあと,熱で刺した,ここに差したのを,熱でやるというアイディア。全部,私じゃん

との原告の発言に対し,Aは「ええ。」と発言したこと(甲61の2・2頁)を根拠として,Aは原告が本件各発明を着想したことを認めていたと主張する。確かに,前後の文脈を踏まえると,原告の当該発言部分はノズルのゲートに関する事柄であることがうかがわれる。しかし,当該発言部分で触れられている技術的事項は,それ自体抽象的である上に,本件各発明が備える構成のごく一部にすぎないから,上記のやりとりから直ちに,Aにおいて,原告が本件各発明の着想者であることを認めたとまで認定することは困難である。
このほか原告が指摘する種々の証拠を考慮しても,上記の審判手続における被告の陳述が虚偽であると断ずることはできない。

次に,
原告は,
一次判決が事実認定の基礎としたA及び被告の陳述書
(甲
76,77。一次判決における甲62,63)について論難するが,いずれも私文書である当該各陳述書に記載された内容が虚偽であると主張するにとどまるものであって,これらが偽造又は変造されたものであることを認めるに足りる証拠はない。
また,原告は,甲55が黒塗りされていたことを指摘して,被告及びAが提出した書類について虚偽報告や変造が常態となっていたとも主張するが,一次判決において判断の基礎とされた証拠が偽造又は変造されたものであることを具体的に指摘するものであるとはいい難い(そもそも,甲55は一次判決において判断の基礎とされたものではない。)。

(3)さらに,原告は,一部の証拠について,一次判決に係る訴訟手続において提出できなかった事情など,種々の主張をするが,いずれも上記1及び2の判断を左右するに足りないというべきである。
第6

結論
以上によれば,その余の事実について認定判断するまでもなく,原告が主張する取消事由は理由がなく,審決に取り消されるべき違法があると認めることはできない。
よって,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官

鶴岡高橋間明稔彦
裁判官


裁判官

宏充
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