判例検索β > 平成29年(ネ)第61号
国家賠償等請求控訴、同附帯控訴事件
事件番号平成29(ネ)61
事件名国家賠償等請求控訴,同附帯控訴事件
裁判年月日平成31年2月13日
法廷名仙台高等裁判所  秋田支部
原審裁判所名秋田地方裁判所
裁判日:西暦2019-02-13
情報公開日2019-03-12 18:00:10
戻る / PDF版
仙台高等裁判所秋田支部

平成31年2月13日判決言渡

平成29年(ネ)第61号,平成30年(ネ)第38号

国家賠償等請求控訴,同

附帯控訴事件

1⑴



第1審原告らの控訴に基づき,
原判決主文第7項を次のとおり変更する。
第1審被告県は,第1審原告Aに対し,7219万5629円,第1審原告B,第1審原告C及び第1審原告Dに対し,各自2997万0293円,第1審原告Eに対し,220万円,及びこれらに対する平成22年11月4日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。



第1審原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

2
第1審被告Fの控訴及び第1審原告らの附帯控訴をいずれも棄却する。
3
第1審原告らと第1審被告Fとの間に生じた控訴費用は第1審被告Fの,附帯控訴費用は第1審原告らの負担とし,第1審原告らと第1審被告県との間に生じた訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを4分し,その1を第1審原告らの負担とし,その余を第1審被告県の負担とする。

4
この判決の第1⑵項は,仮に執行することができる。事実及び理由

第1

当事者の求めた裁判

1
第1審原告らの控訴の趣旨


原判決中第1審被告県に関する部分を取り消す。



第1審被告県は,第1審原告Aに対し,1億0210万0879円及びうち9635万0879円に対する平成22年11月4日から,うち575万円に対する平成25年11月16日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。



第1審被告県は,第1審原告B,第1審原告C及び第1審原告Dに対し,各自3605万0293円及びうち3315万0293円に対する平成22
年11月4日から,うち290万円に対する平成25年11月16日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。


第1審被告県は,第1審原告Eに対し,1160万円及びうち580万円に対する平成22年11月4日から,うち580万円に対する平成25年11月16日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。(なお,第1審原告Eに係る上記請求金額は,第1審原告Eと承継前第1審原告亡G(以下亡Gという。)の各請求金額を合計した金額である。後記3の附帯控訴の趣旨⑷も同じである。)

2
第1審被告Fの控訴の趣旨


原判決中第1審被告Fの敗訴部分を取り消す。



上記部分につき第1審原告らの請求をいずれも棄却する。

3
附帯控訴の趣旨


原判決中第1項から第6項までを次のとおり変更する。



第1審被告Fは,第1審原告Aに対し,9635万0879円及びこれに対する平成22年11月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。



第1審被告Fは,第1審原告B,第1審原告C及び第1審原告Dに対し,各自3315万0293円及びこれらに対する平成22年11月4日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。



第1審被告Fは,第1審原告Eに対し,580万円及びこれに対する平成22年11月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。


第1審被告Fは,第1審原告Aに対し,120万円及びこれに対する平成22年11月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2
1
事案の概要(以下,略称等は原則として原判決の例による。)
本件は,第1審被告Fが,財産分与の家事審判の相手方である妻の代理人弁護士であった亡H(以下H弁護士という。)のために不当な審判を受けて
財産を失ったなどと恨みを募らせ,その恨みを晴らすため,適合実包を装填したけん銃や刃物等を準備の上H弁護士の自宅に侵入した際,H弁護士が刃物で刺されて殺害されるに至った一連の出来事(以下本件殺害事件ともいう。)に関し,H弁護士の遺族である第1審原告らが,①第1審被告Fに対し,H弁護士殺害に係る損害賠償金として,妻である第1審原告Aにおいて9635万0879円(H弁護士の損害賠償請求権の法定相続分7875万0879円,固有の慰謝料500万円と弁護士費用1260万円の合計額),子である第1審原告B,第1審原告C及び第1審原告Dにおいてそれぞれ3315万0293円(H弁護士の損害賠償請求権の法定相続分2625万0293円,固有の慰謝料250万円及び弁護士費用440万円の合計額),母である第1審原告Eにおいて580万円(固有の慰謝料250万円及び弁護士費用40万円を合計した本人分及び父である亡G分の各請求金額を合算した金額)及びこれらに対する不法行為の日である平成22年11月4日から各支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を,上記一連の出来事のうち,第1審原告Aが第1審被告Fからけん銃を突き付けられて脅迫された不法行為に係る固有の慰謝料等として120万円(固有の慰謝料100万円と弁護士費用20万円の合計額)及びこれに対する平成22年11月4日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を,それぞれ求めるとともに,②第1審被告県に対し,110番通報を受けた秋田県警察(以下県警という。)の通信指令室の担当警察官らや現場に臨場した警察官らが適切に対応していれば,H弁護士が第1審被告Fに殺害されることはなかったなどと主張して,国家賠償法1条1項に基づき,第1審原告らにおいて,H弁護士殺害に係る上記各損害賠償金及び遅延損害金(金額は第1審被告Fに対する請求に同じ)の連帯支払を,県警は本件殺害事件に関する警察官らの不適切な対応の真相を隠ぺいするために不適切な捜査をし,事件後に虚偽の説明をしたことにより,第1審原告らが精神的苦痛を受けたなどと主張して,
国家賠償法1条1項に基づき,

第1審原告Aにおいて損害賠償金575万円(慰謝料500万円及び弁護士費用75万円の合計額),第1審原告B,第1審原告C及び第1審原告Dにおいて各自損害賠償金290万円(慰謝料250万円及び弁護士費用40万円の合計額),第1審原告Eにおいて損害賠償金580万円(慰謝料250万円及び弁護士費用40万円を合計した本人分及び父である亡G分の各請求金額を合算した金額)並びにこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成25年11月16日から各支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を,それぞれ求めた事案である。
原判決は,第1審原告らの請求のうち,①について第1審原告Aにおいて7269万5629円,第1審原告B,第1審原告C及び第1審原告Dにおいて各自2997万0293円,第1審原告Eにおいて220万円(亡Gの請求に係る額を含む。)及びこれらに対する平成22年11月4日から各支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を命ずる限度で一部認容し,その余の請求をいずれも棄却し,②について第1審原告らの請求をいずれも棄却したところ,これを不服として,第1審原告らが第1審被告県との関係で控訴し,第1審被告Fが控訴したのに対し,第1審原告らが附帯控訴した。2
前提となる事実(当事者間に争いのない事実,当事者が争うことを明らかにしない事実,当裁判所に顕著な事実及び証拠上容易に認められる事実。争いがある事実は括弧内の証拠で認定した。)


H弁護士の家族及び住居

H弁護士(昭和●年●月●日生)は,昭和●年に弁護士登録した秋田弁護士会所属の弁護士であり,昭和●年●月に第1審原告Aと婚姻し,両名の間には,第1審原告B(昭和●年●月●日生),第1審原告C(昭和●年●月●日生)及び第1審原告D(昭和●年●月●日生)の3人の子があり,上記の第1審原告4名がH弁護士の相続人である。
亡GはH弁護士の父親,第1審原告EはH弁護士の母親であり,亡Gは
原審係属中の平成27年●月●日死亡し,その相続人である第1審原告Eが訴訟承継した。

H弁護士は,本件殺害事件当時,秋田市ab丁目c番d号所在の自宅建物(以下H弁護士宅という。)において,第1審原告Aと共に居住,生活していた。H弁護士宅の間取り等は,原判決別紙2及び別紙3(120頁,121頁。ただし,本件被害者宅とあるのはH弁護士宅に
改める。)の各図面のとおりであり,敷地の北側と東側を市道に接し,敷地東側面は,正門,脇門及びカーポートの出入り口以外は土塀で囲まれ,東側面南端には無施錠の2枚引き格子戸の正門が,東側面中央には同様の造りの脇門が設けられており,敷地北側面は,裏庭に向けて開けた中央部以外は塀又は生垣が設けられていた一方,隣家との境界となる敷地西側面には一部に生垣等があったが,敷地境界線付近に工作物等は設けられていなかった(甲115)。
敷地の中央付近に木造平屋建ての家屋があり,家屋南面中央に4本引き木製ガラス格子戸の玄関があり,家屋北面中央に設けられた押入れまで南北に廊下が通っており,家屋西面に面した廊下の西側には南から順に応接室,H弁護士の寝室(以下主寝室という。),第1審原告Aの寝室(以下妻寝室という。)が設けられていた一方,家屋東面に面した廊下東側には南から順に縁側,仏間,台所が設けられ,台所の北側には,幅75センチメートルの通路を挟んで廊下側から家屋東面に向かって順にボイラー室,便所,洗面所及び浴室があった。台所には,家屋東面に面して勝手口が設けられていた(甲115。なお,以下では,H弁護士宅内の位置については単に上記間取りの名称を記載する。)。



H弁護士と第1審被告Fの関係
H弁護士は,昭和50年代頃から第1審被告Fと知り合いであったが,第1審被告Fが平成13年●月●日にその妻と協議離婚した際に同人が秋田家
庭裁判所に申し立てた第1審被告Fに対し財産分与を求める調停及び審判において,同妻の代理人を務めた。同裁判所は,平成16年●月,第1審被告Fに,自宅土地建物等の不動産の取得を認める一方,妻に対して,預貯金や生命保険(合計で約400万円)の分与に加え,2000万円余の清算金の支払を命じる旨の審判をしたところ,第1審被告Fはこれを不服として即時抗告を申し立てたものの,当庁に棄却されて同審判が確定したため,第1審被告Fは,同年12月30日までに上記清算金を支払った。しかし,平成21年7月,上記財産分与で取得した自宅を上記審判での鑑定評価額を大幅に下回る価格で売却することとなったことから,第1審被告Fは,知己であるH弁護士が妻の代理人となったのは,妻を唆して離婚させ,第1審被告Fを欺いて同人から財産を奪い取って多額の報酬を得るためであったなどと考え,H弁護士に対し,強い恨みを持つようになった(甲49,50,56,58,68,乙A9)。


本件殺害事件当日(平成22年11月4日。以下この項において同日の日付の記載は省略する。)の状況

第1審被告Fは,午前4時頃,H弁護士を可能であれば拉致して裁判所に連行した上で殺害する目的で,手錠や結束バンド,内側に火薬等を仕込んだベスト2着,携帯用ガスボンベ等を組み合わせた爆破装置,アルミ板を加工した防護マスクや胸当て,
実包入りの自動装てん式けん銃
(以下
本件けん銃という。),刈込ばさみを分解して片刃にした刃物(以下本件刃物という。)等を準備の上,H弁護士宅に家屋東面に面した応接室掃出し窓のガラスを割って侵入した。その際の服装は,スニーカーを履いたまま,紺色のジャンパー,上記ベストのうちの1着を着込み,灰色のスラックスを着用するというもので,手には軍手をしていた。第1審被告Fは,主寝室でH弁護士を発見すると,実包が装てんされた本件けん銃を突きつけて上記火薬等を仕込んだベストのうちの他の1着を着るように迫っ
たが,H弁護士に拒否されたこと,第1審原告Aが後記イのとおり妻寝室で110番通報をしたことを壁越しに聞いたこと等から,H弁護士を拉致することを断念し,H弁護士を殺害しようと本件けん銃の引き金を2回引いた。しかし,本件けん銃の安全装置は外れていたものの,遊底が引かれておらず弾丸が薬室に装てんされていなかったため,弾丸は発射されなかった(甲31,59,115,122ないし133,137,139ないし143,151,乙A8)。

第1審原告Aは,主寝室から

お前を殺しに来た。

早くベストを着ろ。殺す。

などと怒鳴る男の声と,

前からの知り合いだろ。

となだめるようなH弁護士の声が聞こえてきたことから,ただごとではないと考え,午前4時5分25秒,自己の寝室(妻寝室)から,携帯電話で,110番通報をした(以下本件通報という。)。第1審原告Aは,本件通報を受けた県警本部生活安全部地域課通信指令室(以下通信指令室という。)のI警察官に対して,H弁護士の氏名及び住所,自己の氏名とH弁護士が弁護士で自らはその妻であること,
侵入者が自宅
(H弁護士宅)
に来ており,H弁護士に対して「殺す。」などと言っていること,自らは別の部屋(妻寝室)にいるが,大きな物音がしていること等を伝えて午前4時6分43秒に本件通報を終えた
(甲5の2,
甲6,
11の1,
乙A1)

通信指令室のJ警察官は,本件通報中の午前4時6分18秒,秋田中央警察署に対し,

喧嘩口論の110番通報です。場所はab丁目cのdH弁護士宅。ここでH弁護士,この者訪ねて来た者が「弁護士を殺す。

などと話しているとの通報です。
通報者は当事者の妻。
入電時間4時5分。

との内容で無線連絡をし,
現場出動を指令した
(以下
本件指令
という。。

県警刑事部機動捜査隊の捜査用車両
機捜6
(以下
機捜6
という。

に乗車して警ら中であった同隊所属のK,L,体験入隊生のMの3名の警察官(以下,K警察官をK警察官と,L警察官をL警察官と,M警
察官を体験入隊生といい,K警察官及びL警察官を警察官両名と
もいう。)は,通信指令室からの本件指令を傍受した後,午前4時7分6秒,通信指令室にH弁護士宅の番地等の住所を照会し,その教示を受けてH弁護士宅に向かい,通信指令室に対し,午前4時9分に110番の件でH弁護士宅を探している旨,午前4時11分24秒にH弁護士宅に到着した旨それぞれ報告した(甲5の2,甲6,乙A2の1ないし2の9)。ウ
L警察官は,運転していた機捜6をH弁護士宅東側市道上に停車させたが,後部座席に乗車していたK警察官が直ちに降車してH弁護士宅に向かったため,体験入隊生に対して通信指令室に対する報告を指示した(この指示により上記イのとおりの到着報告がなされた。)後に降車し,K警察官に続いてH弁護士宅に向かった。警察官両名は,機捜6のトランクに積載してあった警棒や耐刃防護衣を携帯,着装しない状態で,H弁護士宅の通用口を通って台所勝手口から家屋に立ち入った
(甲64の1,
甲148)

(機捜6がH弁護士宅に到着した後の数分間の事実経過については争いがあり,本件の主要な争点であって,後記第3の2において認定する。)

警察官両名は,主寝室において,床に倒れていた第1審被告Fを押さえつけて制圧したが,H弁護士が「刺された。」と申告し,本件刃物により腹部を刺突されたことが確認されたため,午前4時12分頃,第1審被告Fを殺人未遂罪により現行犯人として逮捕し,L警察官は,午前4時12分57秒,通信指令室に対し,第1審被告FがH弁護士の腹部を刺したため殺人未遂罪で現行犯人逮捕した旨機捜6から無線で報告するとともに救急車の手配を要請した(甲5の2,甲6,111,乙A5,7)。

H弁護士は,本件刃物により心臓の損傷を伴う深さ約12センチメートルの前胸左側部の創傷及び肋骨後面に達する深さ約19センチメートルの前胸左側下部の創傷を負い,午前5時32分頃,救急搬送先の秋田赤十字病院において,
心損傷に基づく左胸腔内出血により死亡した
(甲2,
47,

63の1・2,甲145,146)。

県警警察官らは,午後2時30分から午後5時40分までの間,及び,同月5日午前9時18分から午後零時30分までの間,第1審原告Aを立会人としてH弁護士宅の検証を実施し,
同月18日,
検証調書
(甲115)
を作成した。なお,県警警察官らは,同月8日,K警察官及びL警察官をそれぞれ立会人とする各実況見分を行った(甲33,83)。



第1審被告Fに対する刑事裁判の推移等

秋田地方検察庁検察官は,同月25日,第1審被告FをH弁護士宅に侵入して殺意をもってH弁護士を本件刃物で突き刺して殺害した住居侵入,殺人罪及びその際の本件刃物の携帯による銃砲刀剣類所持等取締法(以下銃刀法という。)違反の罪の各事実で起訴し,同年12月16日,銃刀法違反の事実に関して本件殺害事件の際に本件けん銃を適合実包と共に所持した事実を追加する訴因及び罰条の変更請求を行った。第1審被告Fは,平成23年11月28日の第1回公判において,H弁護士を殺そうとしたことは間違いないが,自分は本件刃物を突き刺しておらず,H弁護士が本件刃物の上に覆い被さってきて刺さってしまったなどと述べて殺人罪の成立を否認して殺人未遂罪にとどまる旨主張し,住居侵入及び銃刀法違反の事実については認めた。秋田地方裁判所は,平成23年12月9日の第7回公判において,第1審被告FがH弁護士に殺意をもって本件刃物を複数回突き刺したとの事実を認定し,起訴に係る各犯罪事実の成立を全て認めて第1審被告Fを懲役30年に処する等の内容の判決を宣告した(甲10,42ないし45)。


上記判決に被告人である第1審被告F及び検察官双方が控訴したところ,仙台高等裁判所秋田支部は,平成24年9月25日,訴訟手続の法令違反があるとして,原判決(第1審判決)を破棄し,本件を秋田地方裁判所に差し戻す旨の判決を宣告した。これに対して検察官が上告し,最高裁判所
は,平成26年4月22日,法令の解釈適用を誤った違法があるとして原判決(控訴審判決)を破棄し,本件を仙台高等裁判所に差し戻す旨の判決を宣告した。
差戻し後の控訴審である同裁判所は,
平成26年9月24日,
検察官の量刑不当の控訴趣意を容れて原判決(第1審判決)を破棄し,第1審被告Fを無期懲役に処する旨などの判決を宣告した。これに対して第1審被告Fが上告したが,最高裁判所は,平成28年4月19日,上告棄却の判決をし,同年5月12日,同判決は確定した(甲76,77,81,110。以下,第1審被告Fに対する第1審の公判から上告棄却による判決確定に至るまでの刑事裁判手続を刑事公判という。)。

第1審原告Aは,平成23年4月26日,自らに対して本件けん銃を突きつけ狙いを定めたなどとして,
第1審被告Fを殺人未遂罪で告訴したが,
検察官は嫌疑不十分により不起訴処分とした。これに対して第1審原告Aは秋田検察審査会に審査申立てをしたが,同審査会は,平成24年1月19日,上記不起訴処分は,殺人未遂罪については相当であるが,殺人予備罪については不当である旨の議決をした。検察官は,その後,殺人予備罪の事実についても嫌疑不十分により不起訴処分とした
(甲106,
164,
165,184)。



犯罪被害者等給付金
第1審原告Aは,秋田県公安委員会に対して裁定を申請し,平成23年5月2日,犯罪被害者等給付金(遺族給付金)として1765万5250円の支給を受けた(第1審原告A(原審))。

3
争点及びこれに対する当事者の主張の要旨は,次のとおり補正するほか,原判決の事実及び理由欄の第2事案の概要の4から11まで(30頁
20行目から53頁11行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)



30頁22行目のK警部補らを警察官両名及び体験入隊生に改め
る。



31頁5行目,7行目及び15行目のK警部補をいずれもK警察官に,6行目,9行目,14行目,19行目及び22行目(2か所)の本件凶器をいずれも本件刃物に,8行目及び15行目のL巡査部長をいずれもL警察官にそれぞれ改める。



32頁2行目の本件凶器やけん銃を本件けん銃及び本件刃物に改
め,8行目末尾の次に

H弁護士が殺害された具体的な経過は,後記6⑵ア及びイのとおりであり,具体的にいつの時点で第1審被告Fに刺突されたかは不明である。

を加え,9行目,13行目,17行目及び21行目のK警部補らをいずれも警察官両名及び体験入隊生に改める。


33頁11行目のK警部補らを警察官両名及び体験入隊生に,2
0行目及び25行目のK警部補らをいずれも警察官両名に改める。


34頁3行目,6行目,11行目,20・21行目,23行目,24・25行目及び26行目のK警部補らをいずれも警察官両名に,6行目及び10行目のけん銃をいずれも本件けん銃に,8行目及び15行目のK警部補をいずれもK警察官に,8行目及び17行目のL巡査部長をいずれもL警察官に,21行目の本件凶器を本件刃物にそれぞれ改める。



35頁1行目,5行目及び26行目のK警部補らをいずれも警察官両名に,14行目,21行目,23行目及び24行目のK警部補をいずれもK警察官に,18行目,24行目及び25行目のけん銃をいずれも本件けん銃に,22行目のL巡査部長をL警察官にそれ
ぞれ改める。



36頁3行目,4行目,20行目及び24行目のK警部補らをいずれも警察官両名に,7行目,16・17行目,21行目及び25行目のK警部補をいずれもK警察官に,8行目及び21行目の本件凶器をいずれも本件刃物に,9行目の体裁きを体さばきに,11行目,
15行目,16行目,17・18行目及び21・22行目のL巡査部長をいずれもL警察官に,22行目のけん銃を本件けん銃にそれ
ぞれ改める。


37頁2行目のK警部補をK警察官に,同行目及び9行目のL巡査部長をいずれもL警察官に,3行目,5行目,7行目,8行目,11行目,14行目及び16行目のK警部補らをいずれも警察官両名にそれぞれ改める。



38頁13行目及び17行目のI警部補をいずれもI警察官に,
22行目及び25行目のJ巡査部長をいずれもJ警察官に,24行目のK警部補らを現場に臨場しようとする警察官らにそれぞれ改める。


39頁6行目,13行目及び15行目のK警部補らをいずれも警察官両名に,12行目のI警部補をI警察官に,同行目,25・26行目のJ巡査部長をJ警察官に,20行目のけん銃や本件凶器
を本件けん銃,本件刃物に,21行目のけん銃を本件けん銃にそ
れぞれ改める。


40頁2行目,17行目及び23行目のJ巡査部長をいずれもJ警察官に,2行目,8行目及び10行目のK警部補らをいずれも警察官両名に,12行目のK警部補をK警察官に,同行目のL巡査部長をL警察官に,13行目のM巡査を体験入隊生に,16行目及び23行目(2か所)のI警部補をいずれもI警察官にそれぞれ改める。


41頁10行目のK警部補とL巡査部長を警察官両名に,11行
目の別の凶器を本件刃物に,12行目,13行目,14行目及び1
5行目の警察官らをいずれも警察官両名にそれぞれ改める。

42頁4行目のK警部補らを警察官両名に,6行目,8行目,1
1行目及び14行目のI警部補をいずれもI警察官に,8・9行目及び11行目のJ巡査部長をいずれもJ警察官にそれぞれ改める。

43頁11行目及び13行目のK警部補らをいずれも警察官両名
に,17行目及び19・20行目の本件凶器をいずれも本件刃物に,19行目(2か所)のけん銃を本件けん銃にそれぞれ改める。


44頁2行目の
N巡査部長をN警察官(以下「N警察官という。)」
に,10行目及び11行目のN巡査部長をいずれもN警察官に,15・16行目のK警部補,L巡査部長,16・17行目のK警部補及びL巡査部長及び26行目のK警部補らをいずれも警察官両名にそれぞれ改める。


45頁1行目,13行目及び15行目(2か所)のK警部補らをいずれも警察官両名に,3行目のL巡査部長をL警察官に,同行目,
9行目及び9・10行目のK警部補をいずれもK警察官に,7行目及び9行目の本件凶器をいずれも本件刃物に,10行目の体裁き
を体さばきに,16行目,17・18行目及び19・20行目のK警部補らをいずれも現場に臨場した警察官らにそれぞれ改める。

46頁3行目のK警部補らを現場に臨場した警察官らに,7行目

ことである。

をことであって,に,同行目のK警部補らを警察官両名にそれぞれ改める。

47頁7・8行目,12行目及び18行目のK警部補らをいずれも警察官両名に改め,10行目末尾の次に行を改めて次のとおり加える。県警本部長であったO及び県警刑事部長であったP(以下,それぞれ単に「本部長及び刑事部長という。)は,本件殺害事件発生後の平成22年11月から12月にかけて,秋田県議会教育公安委員会において,
本件殺害事件について,以下のような内容虚偽の答弁や説明を行った。」⒆
47頁12行目及び21行目のO本部長をいずれも本部長に,1
2行目の本件凶器を本件刃物に,15行目,18行目及び26行目のP刑事部長をいずれも刑事部長に,15行目のK警部補をK警察官に,16行目のけん銃を本件けん銃にそれぞれ改める。

48頁4行目,9行目,12行目,20行目及び24行目のP刑事部長をいずれも刑事部長に,4行目のK警部補をK警察官に,5行目
のL巡査部長をL警察官にそれぞれ改める。
49頁6行目のO本部長を本部長に,6・7行目のP刑事部長
を刑事部長に,8行目の本件検証結果を本件殺害事件の検証結果
に,9行目の公表した本件検証結果において,を平成22年12月27日,「秋田市a地内における男性弁護士被害持凶器殺人事件に対する秋田県警察の対応に関する検証結果(甲17)を公表したが,この中で」に,10行目のK警部補及びL巡査部長を警察官両名に,11行目のL巡査部長をL警察官に,同行目のK警部補をK警察官に,13行目のK警部補ら及び25行目のK警部補とL巡査部長をいずれも警察官両名に,18行目,23行目及び25行目の本件凶器をいずれも本件刃物にそれぞれ改める。
50頁1行目及び4・5行目のK警部補をいずれもK警察官に,
1行目の本件凶器を本件刃物に,2行目の体裁きを体さばき
に,3行目のK警部補とL巡査部長を警察官両名にそれぞれ改め,21行目の(Q刑事官)を削る。
51頁2・3行目,8行目及び9行目のけん銃をいずれも本件けん銃に改める。
第3
1
当裁判所の判断
当裁判所は,第1審原告らの第1審被告Fに対する請求のうち,不法行為に
基づく損害賠償請求については,原判決と同様に,第1審原告Aにおいて7269万5629円,第1審原告B,第1審原告C及び第1審原告Dにおいてそれぞれ2997万0293円,第1審原告Eにおいて220万円及びこれらに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余の請求の支払を求める第1審原告らの第1審被告Fに対する本件附帯控訴には理由がないが,第1審原告らの第1審被告県に対する請求のうち,H弁護士殺害に係る国家賠償請求については,第1審被告Fに対する上記各損害賠償金及び遅延損害金の連帯支払(ただし,第1審原告Aに対する脅迫行為による慰謝料50万円は除外される。)を求める限度で理由があり,不適切捜査や虚偽説明等に係る国家賠償請求については理由がないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
2
認定事実
上記前提となる事実,証拠(甲33,47,48,52,60,61,63の1・2,64の1・2,65の1・2,甲82ないし84,103,144,147ないし150,乙A5ないし10,証人K(原審),証人L(原審))及び弁論の全趣旨によれば,本件殺害事件当日,本件通報後の事実経過は以下のとおりであったと認められる。


本件通報をした後,第1審原告Aが廊下に出ると,主寝室入口を挟んで室内にH弁護士が,廊下に第1審被告Fが立っており,第1審被告FがH弁護士に対して本件けん銃を突きつけて火薬等を仕込んだベストを着るように迫っていた。第1審被告Fは,H弁護士に本件けん銃を向けたまま,第1審原告Aに顔を向け,

俺は旦那とあんたを殺して,自分も死ぬつもりで来た。

などと述べた。その後,第1審被告FはH弁護士及び第1審原告Aに対して本件けん銃を向けつつ,2人を応接室入口付近の廊下に移動させたが,その際,第1審原告Aは,H弁護士に対して本件通報をした事実を知らせようと携帯電話で電話をする仕草をした。

第1審被告Fは一旦応接室に入り,同室に持ち込んだ物品の一部を廊下に向けて投げ,廊下にいた第1審原告Aの腕を取って応接室の方に強い力で引くなどしたが,
第1審原告Aはこれに抵抗して第1審被告Fの手を振り切り,
本件通報により警察官が臨場した際に屋内に入ることができるよう,小走りで台所に移動して台所勝手口の鍵を開け,防犯センサーを解除した。第1審被告Fは,上記行動をした第1審原告Aに背後から本件けん銃を向けたまま

何でそんなことをする。

などと言ったが,第1審原告Aは本件けん銃を握持していた第1審被告Fの腕を両手でつかんで上方に上げ,H弁護士も同様に第1審被告Fの腕をつかんだことから,台所内でもみ合いになり,台所入口付近まで移動した。そのとき,第1審原告Aは,台所勝手口からK警察官が臨場するのを目にしたため,安堵して第1審被告Fの腕を放し,台所北側端に移動した。
駆け付けたK警察官は,H弁護士と第1審被告Fが廊下台所入口付近でもみ合いとなっていた様子を見た際,H弁護士が本件けん銃を第1審被告Fから取り上げて右手に持っているのが目に入ったため,警察官であることを名乗らず,この両名に対して,いずれが家人か侵入者かを尋ねることもしないで,侵入者がどの人物であるかを認識しないまま,また,第1審原告Aの存在に気付くこともないまま,「やめれ。」などと声をかけて両名の間に割って入り,本件けん銃を取り上げようと,H弁護士の右手首付近を両手でつかんで銃口を第1審被告Fから逸らすために上に振り上げた。K警察官とH弁護士がもみ合いとなっている隙に,第1審被告FはH弁護士から離れ,本件刃物を取りに廊下南側方向の応接室に向かった。その後,H弁護士宅の外周等の確認を行っていたL警察官も勝手口から台所に入ったが,K警察官とH弁護士が本件けん銃を奪い合っていたことから,H弁護士の右手首付近をつかんでK警察官が本件けん銃を取り上げようとしているのに加勢した。なお,H弁護士宅に臨場した際,K警察官及びL警察官は,いずれも制服
を着用しておらず,K警察官は紺色の作業服の上に黒色のジャンパーを羽織っており,L警察官も私服姿であった。


警察官両名が本件けん銃を取り上げる行動を開始してから間もなく,H弁護士から

違う。俺じゃない,あっちだ。

旨言われ,第1審原告Aからも

あっち,あっち。

などと発言があったため,警察官両名は,自分たちが本件けん銃を取り上げようとしているのが家人であるH弁護士であると気付き,H弁護士の手を放した。この時,K警察官においては姿を消した第1審被告Fが侵入者であることも認識した。K警察官は,第1審被告Fを確保しようとして南側の玄関方向を探すため,一番手前の右側にある応接室に向かい,同室に入ろうとした。
なお,第1審原告Aは,上記発言をした後はすぐに台所に隠れており,その後の経緯については,ダダダダダというものすごい音が聞こえるのと同時にH弁護士,第1審被告F,K警察官及びL警察官が廊下を移動していることは見たが,位置関係等は把握していない。



第1審被告Fは,H弁護士を殺害するため,本件刃物を取りに応接室にとって返し,同所に予め用意していた本件刃物を持ち出して腰に構えるようにして応接室を飛び出した。応接室に入ろうとして同室付近の廊下にいたK警察官は,第1審被告Fが本件刃物を携えて応接室内から勢いよく飛び出してきたことから,とっさに左後方に飛び退いて本件刃物を避けた。
第1審被告Fは,そのまま,台所入口付近の廊下に立っていたH弁護士に向かって低い姿勢で突進していき,第1審被告FとH弁護士とが低い姿勢で互いに組み合うような状態となる中,H弁護士に対し,殺意をもって本件刃物を何回か手加減せずに突き出してその胸部に突き刺したが,この時,H弁護士が本件刃物の刃を掴んだため,力を入れて本件刃物を引き抜くということがあった。第1審被告Fは,この後にも,廊下又は主寝室のいずれかの場所で,
同様にH弁護士に対して本件刃物を突き出してその胸部に突き刺した。
H弁護士は,第1審被告Fの本件刃物による一連の刺突行為により,前胸左側部に,左第6肋軟骨から左第7肋軟骨にかけての肋軟骨部を切断し,心臓を損傷させ,併せて左第6肋骨骨折を伴う深さ約12センチメートルの創傷を,前胸左側下部に,左第8肋軟骨を切断し,肋骨後面の壁側胸膜に2か所の小さな層を生じさせている肋骨後面に達する深さ約19センチメートルの創傷を,左手に,刃物を触ったことによるとみられる創傷をそれぞれ負った。このうち,前胸左側部の創傷は,身体が立位であれば垂直に近いような形でかなり角度をもって身体前面の上やや前方向から下やや後ろ方向に刃体が刺入したことにより生じたものと,前胸左側下部の創傷は,身体が立位であれば上方斜め45度程度の角度をつけて身体前面の前やや上方向から後ろやや下方向に刃体が刺入したことにより生じたものとそれぞれ認められる。2つの創傷のうち,前胸左側部の創傷が心臓や肝臓を損傷して多大な出血を伴う致命傷であり,この傷を負った後はかなり早い時間で行動能力を失い,防御行動も困難になるため,左手の創傷がいわゆる防御創にせよ,刺入後に刃を握ったものにせよ,前胸左側部の創傷の後に生じた可能性は低く,創傷が生じた順序としては,前胸左側下部の創傷とそれに前後する左手の創傷,その後,前胸左側部の創傷という順序であった可能性が高い。


第1審被告Fが突進した際,その進行方向から見てH弁護士のすぐ後ろにいたL警察官は,とっさに身構えるために後方に二,三歩下がったが,第1審被告F及びH弁護士が組み合ったままL警察官のいる廊下北側方向に進んできたことから,更に後方に下がった。L警察官は,後退するうちに背中か腰の辺りに何か当たったのに気をとられて一瞬両名の動静から目を離したが,再び目を向けた際には,第1審被告F及びH弁護士は一塊になって主寝室に入っていくところであった。
他方,第1審被告FがH弁護士に対して本件刃物を突き出すなどしている際,K警察官は,上記のとおり,第1審被告Fの持っていた本件刃物をかわ
した際に南側の玄関付近の廊下に飛び退き,本件刃物で刺されたと感じて腹部を確認するなどしていたが,H弁護士,第1審被告F,L警察官が北側の廊下で一塊になっているのを見たことから,そちらに向かおうとすると,第1審被告F及びH弁護士が共に主寝室になだれ込んでいくところであった。⑸

L警察官が,第1審被告F及びH弁護士に続いて主寝室に入ると,H弁護士が両膝をついた状態で,仰向けとなった第1審被告Fの右半身側に上半身を傾け,下を向いて第1審被告Fの上半身を押さえつける体勢をとっていたことから,
L警察官も,
第1審被告Fの左半身側からその上半身を押さえた。
遅れて主寝室に入ったK警察官も,H弁護士に体重が掛からないように気をつけながら第1審被告Fの制圧に加わり,L警察官の上から第1審被告Fを押さえ込む体勢をとった。
H弁護士は,警察官両名と共に第1審被告Fを押さえつけていた際,「刺された。」旨述べたが,L警察官から第1審被告Fから離れるよう助言されて立ち上がった。H弁護士が離れた時点でも,第1審被告Fは,仰向けに床に倒れて本件刃物の柄の真ん中付近を右手でつかんでいたため,本件刃物の刃先は天井を向いている状態であったが,K警察官が両手で本件刃物をもぎ取って第1審被告Fから取り上げ,左手で後方に投げ捨てた。その後,K警察官は柔道のけさ固めの姿勢で第1審被告Fを改めて制圧した。



第1審原告Aは,
H弁護士らが主寝室に入った後,
台所から廊下に出たが,
台所入口付近と主寝室入口との間の廊下に血痕があるのを確認したため,主寝室を廊下からのぞき込むと,
4名が倒れ込んでいる状況であったことから,

誰か刺されたの。

と問いかけた。立ち上がったH弁護士は,第1審原告Aの上記問いかけに対して「俺。」と返事をし,L警察官から本件けん銃を渡すよう促されてこれを渡した後,主寝室を出て歩いて台所に入り,身体の右側を下にして倒れ込んだ。H弁護士の服装はTシャツの上にスウェットを重ね着するというものであったが,
刺突されて胸部や腹部に血がにじみ,スウェットに血がにじんでいる状態であった。
第1審原告Aは,固定電話機の子機で119番通報をしたものの通じなかったため,倒れ込んだH弁護士の傷口をタオルで押さえるなどしていたが,体験入隊生が台所の勝手口から入ってきたため,
救急車を呼ぶよう要請した。


なお,
本件殺害事件当時,
H弁護士は55歳で身長約166.
6センチメー
トル,第1審被告Fは66歳で身長約161センチメートルであり,K警察官は43歳で身長約183センチメートル,L警察官は36歳で身長約185センチメートルであった。



以上の事実が認められ,甲第11号証の1,第82号証,第106号証,第150号証及び第170号証並びに第1審原告A本人尋問の結果(原審)中上記認定に反する部分は,後記3⑵,5⑵において判示するとおり,客観的に認められる事実に反する点があり,前掲各証拠に照らし採用できず,上記部分を前提とする甲号証もまた採用できない。

3
争点1(第1審被告Fによる刺突行為の有無及び態様)について


上記2の認定事実のとおり,第1審被告Fは,応接室から出て本件刃物を構えてH弁護士に向かって突進した際,台所入口付近の廊下から主寝室までのいずれかの場所で,H弁護士の胸部を2回にわたって殺意をもって手加減せずに刺突し,
前胸左側部及び前胸左側下部に2か所の重篤な創傷を負わせ,
殺害したものと認められる。
第1審被告Fは,主寝室内で仰向けにひっくり返った状態でいるときに,H弁護士が頭から飛び込んで覆い被さってきたために本件刃物が突き刺さったなどと主張するが,この主張は刑事公判に先立つ捜査段階における自らの供述に明確に反することに加えて,H弁護士が優位な体勢にあったのであれば,刃物を構えて床に倒れている者に飛び込むなどという行動をすることは考えられないこと,2か所の創傷が非常に深く,刺入されるには相当の力を
要する上,特に致命傷となる前胸左側部の創傷は,H弁護士の身体前面のかなり上方から垂直に近い角度をつけて刺入されて心臓を貫いていることからして,自招によるものである可能性は著しく低いというほかないこと等を考え合わせると,およそあり得ない事実関係に立脚した主張といわざるを得ないのであって,採用できない。


また,第1審原告らは,H弁護士に対する刺突行為の態様について,第1審被告Fは,応接室前の廊下で,警察官両名がH弁護士の両腕をつかんで身動きできないようにしている状態を利用して本件刃物で突き刺し,その後左腕をつかんでいたK警察官が手を放し,L警察官が右腕をつかんだままの状態でH弁護士が崩れ落ちて膝をついたところを更に本件刃物で突き刺したと主張する。
しかしながら,このような刺突態様は,現場にいた第1審被告F及び警察官両名が供述するものとはおよそ異なるものであるのみならず,H弁護士が本件刃物で刺突されたところを目撃しておらず,ダダダダダというものすごい音が聞こえると同時に,H弁護士,警察官両名及び第1審被告Fの全員が北側に向けて廊下を移動した旨述べる第1審原告Aの平成22年11月21日時点での検察官に対する供述(甲52,150)からも全く想定することができない。そして,H弁護士の2か所の胸部創傷が警察官両名の供述に基づいた上記認定事実のとおりの態様によっても生じ得ることはH弁護士の遺体を解剖した医師Rの刑事公判供述(甲63の1・2)等からも明らかであって,廊下の幅や本件刃物の長さ,廊下に残された血痕の位置等の事実のみから刺突の態様が第1審原告ら主張のものに限定されるなどという推認が働くものではない。
さらに,第1審原告らは,第1審原告Aが原審において,H弁護士が警察官両名に取り押さえられている際,H弁護士が左手で本件けん銃を持っており,警察官両名がそれぞれH弁護士の左右の手を上に上げるようにして取り
押さえていたと供述していることや,S教授の鑑定書(甲105)における鑑定結果及び原審における同人の証言において,H弁護士の着衣の損傷との整合性を考慮に入れれば,第1審原告ら主張の刺突態様以外の態様で上記各創傷が生じることはあり得ないなどとされていることを上記主張の論拠としている。
しかし,前者については,H弁護士は左手に本件刃物による創傷を負っているところ,左手で本件けん銃を握持しつつ本件刃物を握ろうとして創傷を負ったとは考えられず,第1審原告ら主張のように両腕をつかまれ身動きがとれない状態であった場合にはもちろん,本件刃物を持った第1審被告Fと互いに組み合うような状態となる中であってもH弁護士が本件けん銃を持ち替える機会はなかったと認められることにも鑑みると,H弁護士が本件けん銃を保持していたのは右手であると認められる。そうすると,2人がかりで本件けん銃を持つ右手を上に持ち上げて取り上げようとしていたとする警察官両名の供述は合理的で信用できる一方,
第1審原告Aの当該部分の供述は,
一貫しているとはいえ,客観的状況に反する上,異常で衝撃的な出来事を短時間に次々と体験したことで記憶の混乱が生じても無理からぬことを考えると,必ずしも信用できるものであるとはいえない。したがって,警察官両名がH弁護士を取り押さえた状況は上記認定事実2⑴のとおりと認められる。また,後者のS教授の鑑定等は,H弁護士と類似した体格の者に本件殺害事件当時の着衣を着用させて行った実験から本件刃物による着衣の損傷と創傷部位とが一致する姿勢は第1審原告ら主張の態様のみであるなどの意見を述べている。しかし,H弁護士はもみ合い等で激しい動きをしており,着衣がずれてしまっていたことも考えられるし,着衣がずれていなかったとしても着衣は身体に密着しているのであるから,着衣の損傷部位と刺創の始まりの部位とはおおむね一致すると考えられるにせよ,それ以上に刺入の際のH弁護士の体勢まで特定できるものとは考え難い。上記鑑定等でH弁護士の刺
突された際の体勢を第1審原告らが主張する態様に特定する根拠として挙げるのは,結局,正対した状態では被害者が回避行動をとるため,H弁護士が負った2つの創傷を負うような形で刺突されることはないこと,これらの創傷はかなり深く,被害者の姿勢が固定されていなければこのように深くは刺すことは難しいことの2点であるが,いずれも一般的にそのような経験則があるとは肯認し難い上,H弁護士は本件刃物を振り回すことが困難と評価されるほど狭い廊下で第1審被告Fと対峙しており,更に背後にはL警察官がいたもので,十分な回避行動をとることができる状況にはなかったことを看過していると言わざるを得ず,刺突態様の特定に当たって基礎とすることができる見解ではない。
かえって,第1審原告らの主張する刺突態様を前提とし,第1審原告Aの上記供述を踏まえると,H弁護士は刺突を2度も受けて瀕死の重傷を負って床に崩れ落ちた後,相当の速度と勢いで主寝室に移動し,警察官両名が既に制圧していた第1審被告Fに更に覆い被さっていったことになるが,自ら移動したにせよ,あるいは第1審被告Fないし警察官両名に同寝室に連れて行かれたにせよ,このような移動経過や行動は前胸左側部の創傷を負った後はかなり早い時間で行動能力が失われるという医学的知見に反した不自然極まりないものであって,第1審原告らの主張する刺突態様は第1審原告Aの上記移動状況に係る供述と相容れないというべきである。また,第1審原告らの主張に沿う第1審原告Aの陳述書及び原審における供述部分の信用性が乏しいことは後記5⑵のとおりである。さらに,本件通報を受けて家人を救助するために現場に臨場したにすぎず,第1審被告FやH弁護士と何ら面識を有しない警察官両名において,自分たちが侵入者ではないことを示唆するH弁護士及び第1審原告Aの発言を聞いた上,第1審被告Fが本件刃物を持ち出したのを認識し,
H弁護士が本件刃物で刺突されたことにも気付きながら,
H弁護士に対する制圧行為を継続したというのは,警察官の行動として想定
し難いというほかない。以上のとおりであるから,第1審原告らの主張する刺突行為の態様は,採用の限りでない。
4
争点2(事件現場での警察官両名及び体験入隊生の過失の有無)及び争点3(県警の権限不行使の違法性)について


警察官の規制権限の行使又は不行使と国家賠償法1条1項の違法性第1審原告らは,H弁護士宅に臨場した警察官両名及び第1審原告Aの本件通報を受けた通信指令室に勤務していた警察官らは,警察官としての権限を適切に行使して行動し,第1審被告FによるH弁護士に対する加害行為を未然に防止してH弁護士の生命,身体の安全を保護する義務があったにもかかわらず,これを履行せず,第1審被告FにH弁護士に対する本件刃物による刺突行為の機会を与え,H弁護士を死亡させたものであり,第1審被告県は,国家賠償法1条1項による損害賠償責任を負うと主張する。また,警察官らの上記義務違反は,
第1審被告Fの行為と客観的関連共同性があるから,
共同不法行為に当たり,第1審被告Fと連帯して責任を負うとも主張する。警察法2条1項では,

警察は,個人の生命,身体及び財産の保護に任じ,犯罪の予防,鎮圧及び捜査,被疑者の逮捕,交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。

と規定され,また,警察官職務執行法(以下警職法という。)1条1項では,

この法律は,警察官が,警察法に規定する個人の生命,身体及び財産の保護,犯罪の予防,公安の維持並びに他の法令の執行等の職権職務を忠実に遂行するために,必要な手段を定めることを目的とする。

とされ,同法2条以下においては,その行使し得る手段について規定されている。
そうすると,警察官は,特定の個人が犯罪等の危険にさらされている場合において,その危険を除去するために法律上許容される範囲内で警察法2条1項所定の責務に関して必要かつ相当な措置を執る一般的な権限を有していることは明らかであり,警察官によるこのような規制権限の行使は,警察官
に与えられた公益上の一般的義務であるとともに,一定の場合には,特定個人に対する個別の法的義務ともなるものと解される。
ところで,警察の活動は,警察法2条2項により上記の責務の範囲に厳格に限られるものである上,警察官の権限の行使はその目的のために必要最小限度において用いるべきものであって,警職法や刑訴法等で定められた要件に基づいて強制力を行使しなければならない。
その一方で,
国民の法益保護,
犯罪の予防,公安の維持のための警察活動や犯罪の捜査は,その事柄の性質上,発生した犯罪等の危険に臨機応変に対応する必要があるという特性を有する。また,警察官も国民であるから,犯罪等の危険防止に際して危険にさらされている国民の法益保護を自身の生命等の重要な法益よりも優先することが警察官に法令上要求されているとまでは解することができない。したがって,警察官には発動,行使する警察権ないし捜査権限の時期や内容について一定の裁量が与えられているものと解される。
これらの諸点を考慮すれば,警察官が法令上有する規制権限を行使することが特定個人に対する個別の法的義務となるのは,①特に国民の生命,身体等の重大な法益に対する加害行為がまさに行われ,又は行われる危険が切迫しており,②警察官においてそのような状況を知り,又は容易に知ることができ,③警察官が警察権等の法令上の権限を行使することによって上記危険を除去し,上記加害行為によって生ずべき結果を回避,防止することが可能であり,④そのような警察権等の法令上の権限を警察官が行使することが困難ではない場合に限定されると解すべきである。
したがって,このような場合に,警察官が特定個人に対して負う義務に反して規制権限を行使せず,又は許された裁量の範囲を越えて不適切に行使したために犯罪等の危険が現実化して当該国民の重大な法益が侵害されたときには,警察官による規制権限の行使又は不行使が国家賠償法1条1項における故意又は過失による違法な公権力の行使に該当し,国又は公共団体は同項
による損害賠償責任を負う。
なお,刑訴法等に基づく犯罪捜査権限は,多くの場合,既に発生し,終了した犯罪に対して行使されるものであり,そのようなときには,犯罪の捜査は,直接的には,国家及び社会の秩序維持という公益を図るために行われるものであって,犯罪被害者の被侵害利益ないし損害の回復を目的とするものではなく,被害者が捜査によって受ける利益自体は,公益上の見地に立って行われる捜査によって反射的にもたらされる事実上の利益にすぎず,法律上保護される利益ではないというべきである(最高裁平成元年(オ)第825号同2年2月20日第三小法廷判決・裁判集民事159号161頁参照)。もっとも,現行犯や予備,未遂等の犯罪の実行又はこれにつながる行為が現に行われている場合,更にはいわゆる継続犯の場合など,国民の重大な法益に対する侵害がまさに行われ,又は行われる危険が切迫しているときには,国民の法益保護,犯罪の予防,公安の維持のための警察活動のための権限行使の必要性が併存するから,現行犯人逮捕などの犯罪捜査権限をこれらの警察活動の目的をも含めて行使することが法令上要請され,警察官の義務となると解するのが相当である。したがって,このような場合には,犯罪捜査権限についても,国家賠償法の対象となる警察官による規制権限の行使又は不行使に含まれる。


本件殺害事件における警察官両名及び体験入隊生の権限行使の適否についてア
①危険の切迫性について
本件殺害事件における警察官両名の権限行使について上記①ないし④の点をみるに,上記前提となる事実及び認定事実によれば,第1審原告Aが本件通報をした時点で,第1審被告Fは,H弁護士を殺害する目的で本件けん銃や本件刃物等を準備してH弁護士宅に侵入し,H弁護士に対して,実包が装てんされた本件けん銃を突きつけて脅迫するなどした。また,警
察官両名がH弁護士宅に臨場するまでの間にも,H弁護士を殺害しようと本件けん銃の引き金を2回引くなどの行為を行い,台所勝手口を開けようとした第1審原告Aに本件けん銃を突きつけるなどしたことを契機にH弁護士及び第1審原告Aと本件けん銃の奪い合いとなるなどしていた。このような状況から,H弁護士及び第1審原告Aの生命,身体等の重大な法益に対する加害行為がまさに行われ,又は行われる危険が切迫していたことは明らかである。

②認識可能性について
②の点についても,通信指令室の警察官らは,侵入者がH弁護士宅に来ており,H弁護士に「殺す。」などと言っていること,自らは家の中にいるが,大きな物音がしていること等を内容とする第1審原告Aの本件通報を受けて,J警察官が,H弁護士の氏名及び住所に加え,H弁護士宅を訪ねて来た者が

弁護士を殺す。

などと話しているとの通報がH弁護士の妻からあったことを警ら中の警察官らに伝え,最もH弁護士宅に近い場所を警ら中であった警察官両名等においても,本件通報の概要を把握したものである(前提となる事実⑶イ)。
このように,本件通報の内容は,午前4時頃に,通報者である弁護士の妻が屋内にいるにもかかわらず大きな物音を聞くことができる場所まで侵入者が入り込み,しかも,家人である弁護士を殺すなどと言っているというものであって,これによれば,㋐通報時間帯や侵入者の言動からして侵入者の立入りに家人である弁護士及びその妻の許諾があるとは考えられないから,侵入者が弁護士宅敷地内又は屋内にいるのであれば住居侵入罪で現行犯人逮捕が可能な程度の濃厚な嫌疑があること,

家人が就寝してい

る未明の時間帯に家屋に侵入して家主に殺すと言うなどの侵入者の言動に照らして,侵入者によって家人である弁護士及びその妻に危害が加えられる蓋然性があり,かつ,侵入等が計画的なものである可能性があって,そ
の場合には侵入者が凶器等を携帯しているおそれも想定されることが容易に推察される。本件通報内容からこれらの事項が把握,想定できることに加え,J警察官の本件指令において,喧嘩口論という事案分類に係る表現は不適切であるにせよ,第1審原告Aの本件通報の概要はおおむね伝達されているといえること,本件指令が本件通報中に伝達されていること,これによって警察官両名は直ちに乗車していた機捜6をH弁護士宅に向かわせていること等に鑑みると,通信指令室の警察官ら及び警察官両名が,場合によっては家人の殺傷に発展しかねない事案であって警察官の臨場に緊急を要するとの認識を有していたことが認められるから,上記警察官らにおいて①の状況を知っていたことは明らかである。他方,警察官両名を含む県警警察官らは①のような状況認識を有していたのであり,通信指令室に勤務していた警察官らの本件通報に係る権限行使について通報内容の聴取が不十分であるとはいえず,本件指令の内容も一部不適切な部分はあるものの,全体として不適切であったとまではいえず,この点についての第1審原告らの主張は採用できない。

③結果回避可能性について
上記前提となる事実のとおり,H弁護士は,本件刃物を携えた第1審被告Fと廊下で直接対峙し,
その際に複数回にわたって本件刃物で刺突され,
殺害されるに至っている。そこで,県警警察官らの行動によってH弁護士殺害の結果を回避することができたか否かが問題となるが,順序としては結果発生に近接した時点の経過から検討すべきであるから,警察官両名がH弁護士宅に臨場して以降の警察官両名の権限行使,行動の在り方について検討する。
上記認定事実によれば,K警察官が台所勝手口からH弁護士宅内に入った時点でH弁護士と第1審被告Fは台所入口付近の廊下でもみ合いとなっていたが,H弁護士及び第1審原告Aが2人で第1審被告Fから本件けん
銃を取り上げようとした結果,H弁護士が本件けん銃を右手に握持して確保しており,第1審被告Fはこの時点で本件けん銃以外の凶器を携帯しておらず,第1審被告FがH弁護士宅内に持ち込んだ本件刃物は応接室に置かれていた。したがって,第1審被告F,H弁護士,K警察官各自の身長,体格や年齢から推察される体力の差異,K警察官がH弁護士に加勢すれば人数的に2対1の状況となること,程なくL警察官も現場に来て加勢することができる状況にあったこと,第1審被告Fは上記のとおりK警察官が臨場した際のH弁護士とのもみ合いの時点では本件刃物を所持していなかったこと,上記イのとおり,本件通報の内容からして,H弁護士宅への侵入者には住居侵入罪について現行犯人逮捕することができる程度の濃厚な嫌疑が当初からあり,警察官両名は逮捕権を行使し得たこと等の状況に照らすと,この時点で,K警察官が第1審被告Fを侵入者であると識別した上,H弁護士に加勢し,第1審被告Fを取り押さえようとしていれば,第1審被告Fを制圧して逮捕することができ,H弁護士殺害の結果を回避,防止できた相当高度の蓋然性が認められる。
警察官両名がこのような第1審被告Fの制圧に失敗した場合であっても,凶器を保持していない第1審被告Fは応接室に本件刃物等別の凶器を取りに戻らざるを得ないから,警察官両名としては,一方が第1審被告Fを追跡等するにしても,他方がH弁護士及び第1審原告Aを台所に入らせた上で,その入口で待機警戒したり,台所勝手口を通じて機捜6内まで誘導したりすることによって安全な場所に誘導していれば,H弁護士が殺害される事態とはならなかったことは確実である。
また,警察官両名がH弁護士及び第1審原告Aの発言によりどの人物が侵入者であるかを認識した時点について考察してみたとしても,警察官両名がどの人物が侵入者であるかを認識してから第1審被告Fが本件刃物を携えて応接室から飛び出してくるまでの間に,ごく短時間であるにせよK
警察官が第1審被告Fの行方を追って台所入口付近の廊下から応接室入口付近の廊下に移動する程度の暇はあったのであるから,即座に台所入口付近の廊下にいたH弁護士に対して避難を指示,誘導するなどしていれば,上記同様,台所又は機捜6内に避難させることができ,H弁護士が本件刃物を持った第1審被告Fと直接対峙する事態を避けることは十分に可能であったと認められる。

④権限行使が困難ではないこと
ウの検討内容を前提に,警察官両名が上述したような権限行使,対応を執ることが困難ではないといえるかについて更に検討を進めると,上記認定事実のとおり,K警察官がH弁護士宅に臨場した時点において,本件通報をした第1審原告A及び本件通報を壁越しに認識していた第1審被告Fは臨場した警察官両名を警察官であると認識していたが,第1審原告Aが電話の仕草をしたにすぎず,警察官両名が制服を着用していなかったことも考慮すると,H弁護士がそのような認識を抱いたかは不明である。しかし,第1審原告Aは,もみ合いから離れたとはいえ,台所北側端にいた。そうすると,もみ合いを見たK警察官が,警察官が臨場したことを明確に告げた上,いずれが家人でいずれが侵入者であるかを質していれば,H弁護士又は第1審原告Aから即座に応答がされて,第1審被告Fを侵入者であると識別して制圧,逮捕するための行動に移ることができたと考えられるところ,このような問いかけを発することは容易である。
第1審被告県は,第1審被告Fが現場に来た経緯は不明で,K警察官が臨場して即座に住居侵入罪で逮捕することはできなかったなどと主張するが,本件通報の時間帯や通報された侵入者の言動に照らして住居侵入罪の嫌疑が濃厚といえることは上述のとおりである上,K警察官が臨場後に第1審被告Fが侵入者であるのか否かを一言尋ねれば,H弁護士又は第1審原告Aから速やかにその旨の回答がされることは間違いない状況であって,
上記主張には理由がない。
また,第1審被告県は,K警察官がもみ合っている2名の男のうち1名が本件けん銃を所持しているのに気付いたため,本件けん銃の暴発等を防止し安全を確保する必要から本件けん銃を握持していたH弁護士からこれを取り上げようとしたもので,家人又は侵入者の識別のための問いかけをすることなく上記行動に出たK警察官及びこれに追随したL警察官の行動は正当であってやむを得ないと主張する。
しかしながら,警察官両名は,H弁護士及び第1審原告Aの発言で本件けん銃を所持していたのが家人のH弁護士であることに気付くや,直ちに制圧行為を止め,H弁護士から手を放し,その後第1審被告Fの制圧が完了するまでH弁護士に本件けん銃を保持させたままにしたのであって,その理由についても被害者である家人であれば本件けん銃を使用することは考えられないからである旨述べている(証人K(原審),同L(原審))。すなわち,警察官両名においても,本件けん銃を所持していたのがH弁護士であると認識していれば,家人で弁護士でもあるH弁護士が侵入者から奪い取った本件けん銃を使用することはあり得ないから,これを取り上げる必要性はないと当初から判断したものと認められる。しかるところ,現実には,K警察官は,臨場した際に「やめれ。」と発言しただけでH弁護士から本件けん銃を取り上げようと制圧行為に出たのであるから,上記認定事実のとおり,K警察官が当初侵入者がどの人物であるかを認識していなかったことは明らかである。
また,臨場した際に初見の男性2名がもみ合っているのを見た警察官として執るべき対応としても,家人が侵入者に対して武器になるものを取り出して防衛のための行動をすることや侵入者の持ち込んだ凶器を抵抗により奪取することも十分あり得ること,そのような場合に臨場した警察官が事態をしっかりと把握しないまま制圧行為に出ることは警察官及び家人双
方の生命身体に危険をもたらす可能性があること,けん銃等の危険物を家人が奪取している場合にはむやみに使用されることは考え難いこと等を踏まえれば,当事者の識別をせずにいきなり本件けん銃を取り上げようとするのは誤りであって,まずもって家人と侵入者を識別するための問いかけを発するべきであったと認められる。これら双方について異なる見方に立つ第1審被告県の主張は採用できない。
次に,警察官両名がH弁護士及び第1審原告Aの発言により侵入者がどの人物であるかを認識したことを前提としてその後の対応について検討すると,この時点では,侵入者がH弁護士殺害のために本件けん銃を持ち込んでおり,住居侵入,殺人未遂罪の強い嫌疑が認められ,強固な殺意と犯行の計画性もうかがわれることを警察官両名において即座に認識することができる状況にある。そして,110番通報を受けて国民の法益保護,犯罪の予防等のための警察活動を責務とする警察官としては,被疑者の逮捕よりも国民の生命身体の保護を優先すべきことは明らかであるところ,侵入者が玄関方向に向かったことを知るK警察官においては,本件けん銃を準備して所持していた侵入者が他の凶器も所持している可能性を視野に入れつつ,何よりも優先してH弁護士及び第1審原告Aの安全を確保するための対応を執ることが求められるというべきであって,H弁護士らに対して避難を指示,誘導するなどして台所又は機捜6内に避難させる必要があったと認められる。そして,この時,第1審原告Aは台所内におり,H弁護士は台所入口付近の廊下にいて,上記のとおり第1審被告Fが応接室から出てくるまで若干の時間はあったのであるから,警察官両名が,H弁護士に台所あるいは勝手口から停車中の機捜6まで逃げるよう伝えるとともに,H弁護士より北側の廊下にいたL警察官が道を空ければ,H弁護士が台所に入って第1審被告Fの攻撃から避難するのは困難ではなかったといえる。

第1審被告県は,第1審被告Fが本件けん銃のほか本件刃物まで所持していることは警察官両名にはおよそ想定できなかったなどと主張する。しかし,上述したように,けん銃で特定の被害者を殺害しようとする行為に及ぶ犯人が,強固な殺意に基づいて計画的に犯行に及んでいることは明白であり,近接して用いるのに適したけん銃以外の凶器を準備する可能性は十分あるといえるのであって,日常的にけん銃や警棒といった複数の武器を自ら携帯し,この種の殺傷事犯の犯罪捜査にも当たる警察官がこれを全く想定できないとは考え難い。この点に係る第1審被告県の主張は採用できない。
以上に検討してきたところを総合すると,警察官両名が適切に権限行使等を行って対応していればH弁護士が殺害されることはなかったというべきであるが,このことは事実経過の全体的な観察によっても補強されるといえる。
すなわち,警察官両名が臨場した時点では,H弁護士は第1審被告Fから本件けん銃を取り上げて右手に握持していたのであり,本件刃物を持っていなかった第1審被告Fによって殺害される危険性は一時的に相当程度低減していた。H弁護士は,第1審被告Fとのもみ合いさえ振り切れば,第1審原告Aと共に屋外に逃走することも可能であったと考えられる。しかし,K警察官がH弁護士から本件けん銃を取り上げるため同弁護士を制圧しようとしたことから第1審被告Fに廊下から離れることを許し,本件刃物を持ち出す機会を与えることになった。加えて,H弁護士及び第1審原告Aの発言で侵入者がどの人物であるかを認識した後も,責務の優先関係について判断を誤ってH弁護士らを避難させず,第1審被告Fの行方を探しに行ったために本件刃物を携えた第1審被告FとH弁護士とが直接対峙する事態を招いた。してみると,警察官両名の臨場時においては,H弁護士に対する生命身体の危険が一時的に低減した状況であったのに,警察
官両名の対応によりその危険を増加させてH弁護士殺害という結果発生に至ったのであって,警察官両名の臨場後の対応は客観的にみて失態を重ねて最悪の事態を招いたものと評価せざるを得ない。

その他の事情について
警察官両名の権限行使の適否に影響するその他の事情についても検討しておくと,第1審原告らは,警察官両名が機捜6に積載されていた警棒及び耐刃防護衣を着用しなかったことに過失があると主張する。
上記前提となる事実(⑶イ)によれば,上記イで述べたとおり,本件通報に基づいた本件指令の内容から侵入者が凶器を保持している可能性があることは当然に想定される。緊急出動を要する現場に臨場する夜間の警ら業務に従事していた機動捜査隊所属の警察官としては,特段の事情がない限り,警棒及び耐刃防護衣については任務中常時携帯着用するのが望ましいと考えられるが,仮にこれらを一時的に携帯着用していなかったとしても,上記状況にある現場に臨場しようとする警察官は着用すべきであったといえる。本件指令を受けてから機捜6がH弁護士宅に到着するまでの時間を考慮すれば,これらの着用は十分可能であったし,現場に臨場すべきL警察官が,機捜6の運転のためにその着用に支障があったのであれば,体験入隊生に機捜6の運転をさせ,現場到着までに着用すべきであった。これらの装備があれば,第1審被告Fを侵入者と識別した上での制圧行為や侵入者がどの人物であるかを認識した後のH弁護士らに対する避難誘導などの上述した各権限行使及び対応は更に容易になったと認められる上,本件刃物を携えた第1審被告Fに対しても効果的な対処ができた可能性が高い。対応状況から現場での対処方針について事前の検討を欠いていたことが明らかな点も含め,機捜6の警察官両名が現場臨場に当たってしかるべき準備をした形跡がないことは誠に問題である。
他方,第1審原告らは,機捜6で警察官両名が本件指令を受けた時点で
H弁護士宅近傍にいたにもかかわらず,臨場までに時間が掛かりすぎていることも問題として指摘する。
しかしながら,そもそも通報を受けて現場臨場の指令が発された時点で警ら中の警察車両が走行等していた地点から臨場するまでにどの程度の時間を要するかには,臨場のための準備その他種々の要素も影響するから,距離等の要素のみで一定の時間内に現場に臨場することが法律上義務となるとまではいえず,故意に現場臨場を遅らせた等の特段の事情がうかがえない限り,警察官両名が現場臨場に一定の時間を要したことが過失となることは考えられないというべきである。実際にも,多数の民家がある地域で,初めて訪れる特定の家屋の場所に到達するのに多少時間を要したとしても何ら不自然とはいえず,本件指令の時点で機捜6がH弁護士宅の近隣に位置していたとはいえ,3分ないし4分程度で現場に臨場している本件では,警察官両名の臨場が遅延したと評価することはできない。
これに関連して,
第1審原告らは,
本件指令時の機捜6の位置について,
警察官両名が当初は秋田市ab丁目地内にあったと報告しながら,事後にae丁目f番地内のg公園先であったと訂正したのは,現場臨場の遅れを糊塗するための虚偽記載であるとも主張する。
しかしながら,本件殺害事件当日に作成した現行犯人逮捕手続書(甲111)
や捜査報告書
(甲158)
には秋田市ab丁目地内の記載があるが,
事後に地図上で確認して正確な番地等が判明したために報告書を作成するなどして訂正することは警察官による捜査書類作成上頻繁に起こり得ることである。加えて,g公園がab丁目の区域に隣接していることは地図上明らかであって,この程度の距離の違いで機捜6の現場臨場までの時間に有意な差異が生じるとは認められず,上記訂正では第1審原告らが主張するような虚偽記載の目的を果たすことはできない。
これらの点に鑑みると,
警察官両名の上記訂正に格別の疑義はなく,本件指令を受けた時点での機
捜6の位置について殊更に虚偽の記載をしたなどという事実を認めるのはおよそ困難である。この点に関する第1審原告らの主張は採用の限りでない。


小括
以上の次第で,その余の第1審原告らの主張について詳細に検討するまでもなく,警察官両名のH弁護士宅における権限行使,対応については,H弁護士の生命身体の法益を保護する義務に反して規制権限を適切に行使しなかったために第1審被告Fの殺人の犯行を阻止できずH弁護士が殺害されるに至ったと評価せざるを得ないものであって,国家賠償法1条1項における故意又は過失による違法な公権力の行使に該当し,第1審被告県は同項による損害賠償責任を負う。
なお,第1審被告Fの不法行為に基づく第1審原告らに対する債務と第1審被告県の国家賠償法1条1項に基づく第1審原告らに対する債務とは,同一内容の給付を目的とする債務が競合しているにすぎないが,第1審被告Fと第1審被告県がそれぞれ全部の義務を負うことは明らかであり,その意味で,
第1審被告県は第1審被告Fと連帯して損害賠償責任を負うものである。
5
争点4(県警の捜査の違法性)及び争点5(県警による虚偽説明の有無及び違法性)について



県警による真相隠ぺい又は虚偽記載の主張について
第1審原告らは,県警は,①警察官両名が第1審被告FによるH弁護士の殺害行為を手助けしたことによる民事上の責任を回避するために第1審被告Fに対する本件殺害事件等に関する捜査を尽くすことなく,真相を隠ぺいし(争点4),②第1審原告らに対する説明や県議会での答弁等においても虚偽の説明をしたから(争点5),第1審原告らの利益を害し,精神的苦痛を与えたものであって,不法行為が成立すると主張する。
しかし,H弁護士殺害の経緯は前提となる事実及び上記2の認定事実のと
おりであると認められるところ,県警警察官らが作成し,秋田地方検察庁検察官が本件殺害事件の刑事公判に提出した証拠資料や警察官両名の刑事公判における証言等は,いずれも上記殺害経緯の認定の基礎とすることができる信用性を備えており,捜査が尽くされていない,あるいは,真相を隠ぺいする意図があったなどと看取できる部分は認められない。また,第1審原告らのH弁護士殺害の経緯や刺突の態様についての主張を採用することができないことは,前記3⑵に判示したとおりであり,そのような独自の主張を前提として県警警察官らが作成した証拠等や警察官両名の証言,第1審原告らに対する説明や県議会での答弁等について虚偽ないし真実隠ぺいの意図があるなどとする上記①の大部分(後記⑵において判示する部分を除く部分)及び②の主張には理由がない。


県警による不適正な捜査や証拠隠滅,刑事公判活動に係る主張について第1審原告らの上記主張のうち,①の捜査の不適正をいうものには,第1審被告Fの第1審原告Aに対する殺人未遂罪の被疑事実に関する捜査を行わなかったとか,警察官両名に対する県警における内部的処分がされなかったことを指摘する部分がある。
しかし,前者については,上述のとおり,既に発生した犯罪については,被害者が捜査によって受ける利益自体は,公益上の見地に立って行われる捜査によって反射的にもたらされる事実上の利益にすぎず,法律上保護される利益ではないというべきであるから,犯罪の被害者は,検察官や司法警察職員による捜査の内容が単に適正を欠くというだけでは国家賠償法の規定に基づく損害賠償請求をすることができないと解すべきであり,本件殺害事件発生後の上記殺人未遂罪に係る捜査についても同様である。実際の捜査においても,本件殺害事件の経緯について第1審原告Aに対する複数回の事情聴取等(甲52,82,149,150等)及び第1審被告Fに対する取調べ(甲60,乙A8等)が行われており,これらは同時に第1審原告Aに対する殺
人未遂罪についての証拠となることが事案の性質上明らかであって,同罪の起訴の適否はこれら十分な証拠に基づいて判断されたもので(甲106,164,165,184),この点に係る第1審原告らの主張には理由がない。後者については,警察官に対する内部的処分は警察組織の規律維持等の観点から行われるものであって,その有無,適否が第1審原告らの権利に影響を及ぼすとはいえず,当該主張は失当である。
また,第1審原告らは,①に関連して,本件けん銃や本件刃物を事後に移動させたことやブルーシートの下から血痕を採取しなかったこと等による証拠隠滅があった旨主張するが,そもそも刑事公判における裁判所の認定や上記2の認定事実との関係において,あるべき証拠が隠滅されて認定が歪められたとは認められないし,捜査の内容如何によって第1審原告らの権利が侵害されることはないことは上述のとおりである。念のため具体的措置をみても,K警察官が本件刃物を第1審被告Fから取り上げ,遠ざけるために一時的に廊下に放り投げるなどしたのはやむを得ない措置であり,現行犯逮捕の現場で凶器等を展示して被疑者とともに写真撮影した証拠を作成することはままあることであって,もみ合いや刺突行為が繰り広げられた現場である廊下に置いて展示する必要はなかったとのうらみはあるにせよ(甲112,113),不当な措置とまではいえない。ブルーシートの点についても,県警警察官らがブルーシートを敷いていない本件殺害事件当日及び翌日に検証等を行って血痕の位置を特定できる写真や図面を添付した検証調書等を作成し,これが検察官によって刑事公判の証拠として提出されている以上
(甲113,
115),犯行現場に関する証拠が適正に作成されたことは明白である。そもそも,本件殺害事件で多量の出血を伴う傷害を負ったのはH弁護士のみであって,第1審被告Fが現行犯人逮捕されていることや刑事公判における争点は故意による刺突の有無等であったこと,血痕は,刺突された地点のみに遺留するわけではなく,H弁護士が移動していることからして,刺突された
場所を一定程度推認させるにすぎないこと等を考慮すると,DNA型等の特定のための血痕の採取分析の捜査も行われてはいるものの(甲116ないし121,136,138,141等),本件において,血痕の位置や特定に係る捜査資料の証拠価値が高いともいい難い。
さらに,第1審原告らは,県警警察官らが,第1審原告Aの警察官調書(甲149)の一部を差し替えたとか,第1審原告Aの実況見分(甲82)を遅い時期まで実施せず,第1審原告Aを刑事公判において証人として請求することをしなかったとも主張するが,捜査の内容いかんによって第1審原告らの権利が侵害されることはない上,公判における犯罪事実立証の方針や立証に当たって特定の証拠を請求するか否かは検察官の専権であって,県警警察官らの行為により左右されるものではないから,主張自体失当である。なお,第1審原告らのこれらの主張は,第1審原告AがH弁護士と共に第1審被告Fともみ合っていたのは本件けん銃を奪おうとしたものではないこと,第1審原告AがH弁護士と共に第1審被告Fともみ合っている際に警察官両名がほぼ同時に台所勝手口から屋内に入ってきたこと,H弁護士が警察官両名に取り押さえられていた際に応接室のドアから本件刃物の刃先が見えていたこと,H弁護士,第1審被告F及び警察官両名が廊下を一団となって北側に移動する際,最後に移動した人は,顔は見えなかったがスウェット風の服装だったことは覚えており,H弁護士だったと思うこと,その移動直後に主寝室を見に行ったことなどを内容とする第1審原告Aの陳述書(甲11の1,甲106,170)及び原審における供述(これらを併せて以下第1審原告Aの原審供述等という。が信用できるとの前提に立脚している。

しかし,第1審原告Aの原審供述等は,事件から間もない時期である平成22年11月21日に聴取されていて記憶が鮮明であると考えられ,第1審原告Aも原審で間違っている部分はない旨述べる検察官に対する供述(甲150)からより詳細に変遷しているが,その変遷の理由は明らかではないこ
とに加え,第1審被告Fとのもみ合いの目的については,事件当日の供述であり第1審原告A自ら記載した図面等も添付されている警察官に対する供述(甲149)に,第1審被告Fが制圧された後に主寝室を見に行った状況については,
自ら本件殺害事件の状況を指示再現した実況見分の結果
(甲82)
に反するものであるところ,これらの変遷やそごについて納得できる理由は示されていない。殊に,警察官両名の臨場時の第1審原告Aの行動状況に係る供述については,K警察官が家人と侵入者との識別確認をすることなくいきなりH弁護士が持っていた本件けん銃を取り上げようとする制圧行為を始めたことに争いはなく,第1審原告Aがその際に至近にいたのであれば,取り違えを指摘しなかったのは不自然であること,L警察官がK警察官と臨場した時点が若干ずれ,上記制圧行為に加勢する前に第1審被告Fの存在を認識していなかったことは警察官の対応としてはむしろ適正を欠くから,L警察官がH弁護士宅へ臨場するのにK警察官とは若干の時間のずれがあったことにつき虚偽を述べているとは考え難いこと等に照らすと,事実経過にそぐわないとの感が否めない。この点については,警察官が屋内に入ってきたことを目撃した瞬間に助かったと思って犯人の腕を掴んでいた手を放し,台所の北側の端に移動した旨自己の行動について述べる第1審原告Aの検察官に対する供述(甲150)が警察官両名の供述とも一致していて信用性が高いといえる。
これらの検討を踏まえると,第1審原告Aの原審供述等のうち上記各内容に係る供述部分は信用できない。なお,第1審原告Aの警察官に対する供述(甲149)は,本件殺害事件当日で記憶が整理されていないと考えられる部分が見られること,事後の状況から客観的に推測できる事実について第1審原告A自身の体験であるかのように記載している部分が見られること等を考慮すると,信用性が乏しいとまではいえないにせよ,これに依拠することもできないといえる。

したがって,第1審原告Aの原審供述等を主な根拠とする警察官調書(甲149)の差替えについての第1審原告らの主張にも理由がなく,そのような事実があったとは認められない。


以上のとおり,争点4(県警の捜査の違法性)及び争点5(県警による虚偽説明の有無及び違法性)に関する第1審原告らの主張には理由がない。
6
争点6(第1審被告Fの第1審原告Aに対する不法行為の成否)について上記前提となる事実(⑶イ)及び上記2の認定事実によれば,第1審被告Fは,第1審原告Aに対して,殺意の有無はともかく,

俺は旦那とあんたを殺して,自分も死ぬつもりで来た。

などと告げて脅迫し,本件けん銃を突きつけて移動させ,腕をつかんで引っ張るなどした上,第1審原告Aが台所勝手口の鍵を開けるなどしたことを契機に第1審被告FとH弁護士及び第1審原告Aとの間で本件けん銃の奪い合いの状態となるなどしているのであって(甲150),H弁護士の生命身体に危害を加えた本件殺害事件に係る第1審原告Aの精神的苦痛とは別個に,第1審被告Fが,第1審原告Aに対し,不法に有形力を行使し,脅迫するなどして精神的苦痛を与えたことは明らかで,これらの行為は不法行為に当たるといえる。

7
争点7(損害額の算定)について
争点7についての判断は,以下のとおり補正するほかは,原判決107頁21行目から112頁5行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。(原判決の補正)


107頁24行目の被告Fの不法行為によるを本件殺害事件と相当因果関係のあるに改める。


108頁1行目の
前記前提となる事実(第2の2⑺イ)のとおり弁を論の全趣旨によればに,25行目の弁護活動をすることがから26行目の証拠もないまでを弁護活動をすることに格別問題があるとはいえないにそれぞれ改める。


109頁7行目の特にから8行目の問題について,までを削り,
14行目の被告Fの不法行為によるを本件殺害事件と相当因果関係のあるに,23行目冒頭から25行目の原告Aのまでをたものであり,そのにそれぞれ改め,26行目冒頭から110頁8行目までを次のとおり改める。
このほか,第1審被告Fの本件殺害事件におけるH弁護士に対する殺害行為の態様や殺害に至る経緯等を考慮すれば,本件殺害事件によるH弁護士殺害に係る第1審原告A固有の慰謝料は450万円と,第1審被告Fが,本件殺害事件の現場において,第1審原告Aに対して行った上記6の不法行為についての慰謝料は50万円と,それぞれ認めるのが相当である。


110頁9行目の弁護士費用を損害の一部填補に改める。



111頁2行目の額がから4行目末尾までを次のとおり改める。

額は6609万5629円となる。エ弁護士費用上記損害額,本件訴訟の経緯等の事情に鑑みると,弁護士費用は660万円を相当と認める。




111頁5行目のエをオに,同行目の被告Fに請求することができる及び17行目の被告Fに請求できるをいずれも本件殺害事件と相当因果関係があるものとして請求することができるに,
16行目の

弁護士費用のうち各272万円の限度で損害と認められる。

弁護士費用は各自272万円を相当と認める。

に,25・26行目の弁護士費用は各10万円の限度で損害と認められるを弁護士費用は各自10万円を相当と認めるにそれぞれ改める。


112頁1行目の被告Fに請求できるを本件殺害事件と相当因果関係があるものとして請求することができるに改める。


112頁4行目冒頭から5行目末尾までを次のとおり改める。

上記⑵のとおり,第1審被告Fが,本件殺害事件の現場において,第1審原告Aに対して行った上記6の不法行為についての慰謝料は50万円と認めるのが相当である。なお,第1審原告らの本件殺害事件によるH弁護士殺害に係る上記各損害について,第1審被告県は第1審被告Fと連帯して支払義務を負うが,第1審原告Aに対する不法行為についてはいまだ現場に臨場していなかった県警警察官らが防ぐことはできないから,第1審原告Aの損害のうち上記の部分については,第1審被告県は責任を負わないというべきである。
8
そうすると,第1審原告らの各損害賠償請求は,第1審被告Fに対し,第1審原告Aにつき7269万5629円,第1審原告B,第1審原告C及び第1審原告Dにつき各自2997万0293円,第1審原告Eにつき220万円及びこれらに対する平成22年11月4日から各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で,第1審被告県に対し,第1審原告Aにつき7219万5629円,第1審原告B,第1審原告C及び第1審原告Dにつき各自2997万0293円,第1審原告Eにつき220万円及びこれらに対する平成22年11月4日から各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度でいずれも理由があるから認容すべきであり,その余はいずれも理由がないから棄却すべきである。
よって,これと異なり,第1審原告らの各損害賠償請求を第1審被告Fに対するものについて上記の限度で一部認容し,その余の請求を棄却した原判決は一部失当であり,第1審原告らの本件控訴の一部は理由があるから,原判決を上記のとおり変更し,第1審被告Fの控訴及び第1審原告らの附帯控訴は理由がないからいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。仙台高等裁判所秋田支部

裁判長裁判官

山本剛史
裁判官

藤原典子
裁判官

馬場嘉郎
トップに戻る

saiban.in