判例検索β > 平成29年(わ)第61号
覚せい剤取締法違反被告事件
事件番号平成29(わ)61
事件名覚せい剤取締法違反被告事件
裁判年月日平成31年3月28日
法廷名旭川地方裁判所
裁判日:西暦2019-03-28
情報公開日2019-04-12 16:00:17
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主文
被告人を懲役6年及び罰金150万円に処する
未決勾留日数中220日をその懲役刑に算入する。
その罰金を完納することができないときは,金5000円
を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
旭川地方検察庁で保管中の覚せい剤36袋(同庁平成29
年領第156号符号1,3-1及び3-2,5-1ないし
5-12,7-1ないし7-10,9,並びに11-1な
いし11-10)を没収する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,営利の目的で,みだりに,平成29年4月25日,旭川市a条通b丁目c番地d乙病院専用駐車場内病院車輌専用駐車場において,覚せい剤である塩酸フェニルメチルアミノプロパンの結晶粉末約61.476グラム(旭川地方検察庁平成29年領第156号符号1,3-1及び3-2,5-1ないし5-12,7-1ないし7-10,9,並びに11-1ないし11-10はその鑑定残量)を所持した。
(証拠の標目)
(略)
(事実認定の補足説明)
弁護人は,判示の覚せい剤は被告人の所持に係るものではない,また,被告人に対する捜査には令状主義の精神を没却する重大な違法性が認められるから,当該捜査によって直接得られた証拠及びこれと密接な関連性を有する証拠は,証拠能力が認められないなどとして,被告人は無罪である旨主張するので,以下,当裁判所の事実認定につき,補足説明をする。1
関係証拠によると,本件につき,以下の各事実が認められる。
判示の病院(以下本件病院という。専用駐車場(以下本件)駐車場という。)内病院車輌専用駐車場(以下本件車庫という。
)は,
南北約16.4メートル,東西約5.6メートルの大きさの屋根付き車庫であり,西側が開口部で,東側,北側及び南側には壁が設けられている。上記開口部にはシャッター等の設備は設置されていない。また,本件駐車場は,周囲に視界を遮る塀が設置されていない。そして,同駐車場の北側及び南側の2か所に設けられた出入口には門扉が設置されておらず,本件病院は,病院関係者以外の者が同駐車場に立ち入ることを禁じていない。そのため,件車庫は,の内部を本件駐車場の外部から観察すること,本

及び,病院関係者以外の者がその内部に事実上立ち入ることが,いずれも容易な状況にある。
なお,本件車庫の東側,北側及び南側の壁の内側には地面と平行に上中下3段のU字鋼の梁がめぐらされており,そのU字の溝の開口部は下を向いている。また,東側の壁の内側には,南北方向に7本の鉄製の柱が設置されている以後,の7本の柱につき,北から1本目の柱」どという。。(

な)北海道警察本部刑事部薬物銃器対策課特捜一係以下特捜1係

という。)所属の警察官ら(以下,単に「警察官ら

という。)は,かねてか
ら被告人が覚せい剤の密売に関与しているのではないかとの嫌疑を抱き,被告人の行動観察等の捜査を進めた結果,被告人が本件車庫の梁の溝の内側に覚せい剤を隠匿しているのではないかと疑い,捜査主任官である特捜1係所属の丙警部の指示により,平成29年2月23日(以下の月日のみの記載はいずれも同年のものを示す。,本件駐車場の外から本件車庫の内)
部を撮影するための監視カメラ(以下本件カメラ1という。
)が設置さ
れた。ただし,同カメラの設置場所近くの電柱が視界を遮ったため,本件車庫の南東角付近は,同カメラの撮影範囲に入らなかった。そして,4月16日には,同カメラに追加して,本件車庫内の北から3本目の柱の北側付近(以下A地点という。
)を中心とした部分をより拡大して撮影でき
るカメラ(以下本件カメラ2といい,以上2台のカメラを併せて本件各カメラという。また,本件各カメラによって撮影された映像を,以下本件カメラ映像という。
)が設置された。なお,本件カメラ2について
も,本件車庫の南東角付近は撮影範囲に含まれていなかった。
そして,警察官らは,本件カメラ1が設置された後,度々本件車庫内に立ち入り,梁の溝の内側を確認することを繰り返していた。
そうしたところ,被告人は,4月24日午前0時頃,本件車庫内
に立ち入ってA地点に近づき,らに同車庫内の南東角付近に近づいた後,さ
その場を立ち去った。そして,その際,本件車庫付近で張り込み捜査に従事していた特捜1係所属の丁警部補は,被告人が本件車庫内に立ち入る状況を現認し,直ちに丙警部にその旨電話で報告し,その後,同警部の指示により張り込み捜査を続け,同日午前7時19分頃,同係所属の戊巡査部長及び己巡査部長と共に本件車庫に立ち入り,A地点,同車庫南東角の北側付近(以下B地点という。及び南東角の西側付近(以下C地点

という。
)のそれぞれ中段の梁の溝の内側に,マグネット付きの黒色キーケース(以下本件キーケースという。が2個ずつ,合計6個張り付けら)
れているのを発見した。なお,A地点において発見された本件キーケース2個のうち,1個は北から3本目の柱から北方向に30センチメートル離れた位置,他の1個は同柱から北方向に4センチメートル離れた位置にそれぞれ張り付けられていた。
警察官らは,同月25日午前9時9分頃,本件病院事務局長庚の
了承と立会いの下,前記の本件キーケース6個の中を確認し,それらの中から覚せい剤様の白色結晶粉末入りチャック付きビニール袋合計36袋を発見して,同月26日午前9時2分頃,それらを差押許可状により差し押さえた。なお,丁警部補を含む警察官らは,同警部補が被告人の本件車庫内への立入りを現認してから,上記差押えまでの間,途切れることなく本件車庫の張り込み捜査に従事したが,その間,警察官らを除き,本件車庫の梁に近づいた者はいなかった。
ところで,本件キーケース6個は,いずれも,縦約9.5センチメートル,横約5.0センチメートル,厚さ約2.0センチメートルのもので,角が丸みを帯びた直方体の形状をしており,黒色で,長辺に平行に線形の装飾が施され,NAPOLEXと刻されていた。また,A地点に張り付けられていた本件キーケースの中から発見されたビニール袋1枚と,C地点に張り付けられていた本件キーケースの中から発見されたビニール袋1枚には,同一のキャラクターの図柄が描かれていた。
鑑定の結果,本件キーケース6個の中から発見されたチャック付
きビニール袋合計36袋の中の白色結晶粉末(以下本件覚せい剤という。がいずれも覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンであること,)
その重量が合計約61.476グラムであることが判明した。
警察官らは,5月10日,被告人を本件により通常逮捕し,同月
11日,被告人の実家を捜索して被告人の居室から電子秤2台及びチャック付きビニール袋15袋を発見し,同月13日,被告人の使用車両を捜索して本件キーケースと同種,色の黒色プラスチックケース7個を発見し,同
同月15日,被告人が使用していたレンタル倉庫の中から未開封の注射器1万0550本を発見した。
以上のとおりであり,れらの事実については,事者間に争いがない。こ

加えて,被告人は,公判廷において,4月24日午前0時頃に本件車庫に立ち入り,A,B及びCの各地点の中段の梁の溝の内側に手を差し入れたことを自認している。
2
しかるところ,被告人が本件車庫内の梁の溝の内側に本件キーケー
ス6個を張り付けたのかどうかに関し,被告人が本件車庫に立ち入った4月24日午前0時頃の時点において,それらが梁の溝の内側に張り付けられていなかったかどうかを巡り,当事者間に強い争いがある。そこで,以下,この点につき順次検討する。
まず,戊巡査部長は,証人として要旨4月22日午後7時頃から本件車庫の張り込みに従事したが,件車庫に立ち入る者はいなかった。本そして,同月23日午前2時頃に張り込みを終了するに当たり,張り込み開始前に被告人が本件車庫に立ち入って覚せい剤を隠匿したかもしれないと考え,相勤者の己巡査部長とともに本件車庫内に立ち入り,私が,本件車庫の上中下段すべての梁の溝の内側を,スマートホンのライト機能を使いながら,ある程度の時間をかけて目視で確認したが,何も発見されなかった。と供述する。上記供述のうち,まず,戊巡査部長が4月23日午前2時頃に本件車庫の梁の溝の内側を確認したとの点については,前記認定のとおり,警察官らが度々本件車庫内に立ち入って梁の溝の内側を確認していたという当時の捜査状況に照らし,何ら不自然,不合理なところがない上,相勤者である己巡査部長も証人として同趣旨の供述をしており,信用できる。これに対し,弁護人は,戊巡査部長の前記供述は,本件カメラ映像という客観証拠によって裏付けられていないから,信用できないなどと主張する。
この点,同映像によると,4月23日午前2時5分頃から同日午前2時15分頃までの間,本件各カメラの画角がいずれも上向きに変更されたことが認められ,そのため,戊巡査部長がその間に本件車庫に立ち入って梁の溝の内側を確認したかどうかは,同映像を見ても確認することができない。さらに,本件各カメラの画角が変更された理由については,戊巡査部長が,要旨

本件車庫に近づく場合には,本件各カメラの画角を操作して捜査員の顔貌と捜査用車両が映らないようにするよう丙警部から指示を受けていたので,己巡査部長が本件各カメラを操作して画角を変更した。

旨供述するのに対し,己巡査部長は,丙警部からそのような指示があったことは覚えているが,4月23日午前2時頃の時点で自分が本件各カメラの画角を変更したのかどうかについては記憶がない旨供述する。また,特捜1係所属の警部補辛は,証人として,要旨検察官を介して,弁護人から本件各カメラの画角変更の理由について問い合わせがあった際,戊巡査部長と己巡査部長に理由を尋ねたが,両名の回答は,正直自信がないという答え方だったと思う。から,明という感じだと思う。と供述している。だ不これらの供述に照らすと,4月23日午前2時5分頃から同日午前2時15分頃までの間に本件各カメラの画角がいずれも上向きに変更されたのが,誤操作によるものであったのか,それとも丙警部の指示に基づく意図的な操作であったのかは判然としないが,そのいずれであったにせよ,戊巡査部長の前記供述は,警察官らが度々本件車庫内に立ち入って梁の溝の内側を確認していたという当時の捜査状況及び己巡査部長の公判供述によってその信用性が支えられているのであって,単に客観証拠による裏付けを欠くとの一事をもって,それが否定されるものではない。したがって,弁護人の前記主張は採用しない。
次に,戊巡査部長の前記供述のうち,本件車庫の上中下段すべての梁の溝の内側を,スマートホンのライト機能を使いながら,ある程度の時間をかけて目視で確認したが,何も発見されなかったという点についても,特段疑いを差し挟むべき不審な点はない。
以上のとおりであるから,戊巡査部長の前記供述は信用することができ,これによれば,4月23日午前2時5分頃から午前2時15分頃までの時点において,A,B及びCの各地点を含む本件車庫の梁の溝の内側には,本件キーケース6個は張り付けられていなかったことが認められる。次に,本件カメラ映像及び丁警部補の公判供述によると,4月2
3日午後11時11分頃に同警部補がA地点に近づいたほかには,同日午前2時15分頃に本件各カメラの画角が元に戻されてから,同月24日午前0時頃に被告人が本件車庫に立ち入るまでの間に,本件車庫内の同地点付近の梁に近づいた者はいなかったことが認められる。
さらに,丁警部補は,公判廷において,本件車庫の張り込み捜査

に従事していた4月23日午後11時11分頃,北から4本目の柱の北側付近の中段及び下段の各梁並びにA地点の中段の梁の溝の内側に手指を差し入れて何か隠匿されていないかを確認したが,隠匿物はなかった。

旨供述しているところ,の供述は,件カメラ映像により裏付けられており,こ

信用できる。
これに対し,弁護人は,丁警部補が,上記確認の際に隠匿物が既にA地点の中段の梁の溝の内側に張り付けられていたことを見落とした可能性を指摘する。すなわち,同警部補は,梁の溝の内側の確認の仕方について,要旨

溝の内側に手指を差し入れ,溝に沿って手を動かして隠匿物の存否を確認した。動かした範囲は大体10センチメートルぐらいである。

と供述するところ,護人は,地点で発見された本件キーケース2個のうち,弁
A
1個は北から3本目の柱から北方向に4センチメートルの位置,もう1つは同柱から北方向に30センチメートルの位置に張り付けられていたのであるから,せいぜい手を動かして10センチメートルの範囲を確認しただけでは上記の2個の本件キーケースを同時に確認することは物理的に不可能であるというのである。
しかしながら,前記認定のとおり,4月23日午前2時5分頃から午前2時15分頃までの時点において,本件車庫の梁の溝の内側には本件キーケース6個は張り付けられておらず,かつ,同日午前2時15分頃から同月24日午前0時頃までの間に,同警部補を除いてはA地点の梁に近づいた者はいなかったのであって,このことに鑑みれば,同月23日午後11時11分頃の時点で,何者かが既にA地点に本件キーケースを張り付けていたという可能性はないといえるから,護人の前記主張は,たらない。弁

また,本件カメラ映像によると,4月24日午前0時21分頃から午前0時47分頃までの間に本件カメラ2の画角が上向きに変更され,さらに,午前0時22分頃から午前0時47分頃までの間に本件カメラ1の画角が下向きに変更されていることが認められ,かつ,その理由について,丁警部補が,公判廷において,スマートホンのアプリケーションを使用して本件各カメラをズームアップしようとしたが,そのアプリケーションを実際に操作するのはその日が初めてだったので,誤操作をしてしまい,パニック状態に陥ってしまった。原因が分からず,下手に触ってまたおかしくするのも嫌だったので,画角を元に戻す操作をしなかった。その後,戊巡査部長に連絡を取って,本件各カメラの画角を元に戻してもらった。と供述しているところ,護人は,件各カメラを操作するアプリケーションは,弁

スマートホンの画面上に表示されたアイコンをタップすることで直観的な操作が可能であるから,操作が分からないなどという証言は極めて疑わしいなどとも主張するが,電子機器の操作に不慣れな者が,それと知らずに誤操作してしまい,の結果,該機器が予想外の動作を示したのに対し,そ

その状況にどう対処してよいかわからず,精神的に混乱してしまうという事態はままあるところであって,このことに鑑みると,本件各カメラの誤操作に関する丁警部補の供述が不自然であるとまではいえないから,弁護人の上記主張も,採用の限りでない。
以上の検討をまとめると,①4月23日午前2時5分頃から午前2時15分頃までの時点で,A,B及びCの各地点を含む本件車庫の梁の溝の内側には,本件キーケース6個は張り付けられておらず,②同月23日午前2時15分頃から同日午後11時11分頃までの間に,A地点の梁に近づいた者はなく,③丁警部補が同日午後11時11分頃に本件車庫に立ち入って,A地点の中段の梁の溝の内側に手指を差し入れて確認をした際には,本件キーケースは同所に張り付けられておらず,④その後,同月24日午前0時頃までの間に,A地点の梁に近づいた者はいなかったというのであって,これらの事情を総合すれば,被告人が本件車庫に立ち入った4月24日午前0時頃の時点において,A地点の中段の梁の溝の内側には本件キーケースが張り付けられていなかったものと認められる。3
上記認定に対し,弁護人は,4月23日午後11時11分頃の時点
で,A地点の中段の梁の溝の内側には,既に本件キーケースが張り付けられていた可能性がある旨主張する。その主張は多岐にわたるが,その要点は,次のとおりである。
本件車庫は,東側の壁の梁に限っても1段につき1600センチ
メートル以上の長さがあり,本件キーケースを隠匿することのできる箇所はいくらでもあったのに,警察官らが当初からA地点に特別な関心を示していたのは不自然である。なお,本件カメラ1により撮影された映像によると,3月5日午前0時15分頃に身元不詳者が本件車庫の東側の壁の梁の溝の内側を念入りに探っているような様子が撮影されており,その身元不詳者が探っている場所にはA地点も含まれているのは確かだが,その映像は不鮮明であり,その身元不詳者が具体的にどの場所で梁の溝の内側に手を差し入れているのかを認識することは著しく困難であって,このような不鮮明な映像を元に,A地点だけが怪しいとか,A地点が最も怪しいなどと断定することは不可能である。
また,A地点の梁の溝の内側について,隠匿物が隠された状態で
ないときの写真が証拠として提出されていないが,それを撮影するには数秒で足りるはずである上,丙警部も,A地点の梁の溝の内側に隠匿物がなかったことを立証することの重要性を理解していたのであるから,写真撮影を行わなかったはずがない。その写真が証拠として提出されていないのは,写真撮影をしなかったからではなく,写真撮影はしたが,本件キーケースが既に張り付けられている写真しか存在していないからではないか。以上のように考えると,警察官らが当初からA地点に特別な関心
を示していたのは,同地点に既に本件キーケースが張り付けられていたからであるとすれば,説明がつく。すなわち,警察官らは,そのことに気付いていたからこそ,本件各カメラでA地点を撮影録画し,さらに,本件キーケースが何者かに持ち去られていないかを確認するために同地点を繰り返し確認していたのだと考えられる。
4
そこで,弁護人の上記主張の当否を検討する。
まず,本件カメラ1によって撮影された映像を見ると,その撮影

範囲は,A地点に限定されておらず,より広い範囲であったことが認められ,この本件カメラ1の撮影範囲の広さに鑑みれば,同カメラが設置された2月23日の時点において,警察官らがA地点に特別な関心を抱いていたとはうかがわれず,むしろ,できる限り広い撮影範囲を確保して,被告人が本件車庫に出入りする場面を撮影したいと考えていたと推認される。他方,本件カメラ2は,A地点を中心とした部分を拡大して撮影できるものであって,同カメラが設置された4月16日の時点においては,警察官らが同地点に特別な関心を抱くに至っていたことが明らかである。このような本件各カメラの撮影範囲の違いに着目すれば,警察官らがA地点に特別の関心を抱くに至ったのは,2月23日から4月16日までの間のいずれかの時点であったことが明らかである。
そうしたところ,丙警部,戊巡査部長及び丁警部補は,いずれも,要旨

本件カメラ1による3月5日午前0時15分頃の映像に,不審者が本件車庫内に立ち入ってA地点付近で立ち止まっている様子が撮影されていたことが,A地点に特別な関心を抱くに至った理由である。

と供述しているが,これらの供述は,上記認定と符合しているばかりでなく,上記映像の内容に照らしても,納得でき,信用できる。
これに対し,弁護人は,3月5日午前0時15分頃のカメラ映像は不鮮明であって,そこで撮影されている者が具体的にどの場所で梁の溝の内側に手を差し入れているのかを認識することは著しく困難であるとして,丙警部らの供述の信用性を争うが,同映像を見る限り,当該不審者がA地点を探っていると断定することはできないにせよ,同人が同地点付近に何かを隠匿しているのではないかとの疑いを生じさせるには十分であり,それを見た警察官らがA地点周辺の梁の溝の内側を度々確認するようになったことや,丙警部がA地点を中心とした部分をより拡大して撮影できる本件カメラ2の設置をしようと考えたことには,何ら不自然,不合理はない。したがって,警察官らが当初からA地点に特別な関心を示していたのは不自然であるとの弁護人の主張は,採用できない。
さらに,弁護人は,A地点の梁の溝の内側を撮影するには数秒で
足りるはずであるのに,隠匿物が隠された状態でないときの写真が証拠として提出されていないのは不自然であるなどと主張するが,弁護人が指摘する写真撮影行為は,犯罪捜査の密行性に抵触しかねないものであり,このことに鑑みれば,警察官らが,被告人が本件車庫内に立ち入った4月24日午前0時以前に,A地点の中段の梁の溝の内側の写真撮影を行わなかったのはやむを得ないといえ,この点をもって不自然であるとする弁護人の主張は,当たらない。
以上のとおりであるから,警察官らが当初からA地点に特別な関
心を示していたのは,同地点に既に本件キーケースが張り付けられていたからであるという弁護人の主張は,その前提を欠き,採用の限りでない。5
以上の検討によれば,4月23日午前2時5分頃から午前2時15
分頃までの時点で,A,B及びCの各地点を含めて本件車庫の梁の溝の内側には本件キーケース6個が張り付けられていなかった上,A地点については,同月24日午前0時頃の時点においても,中段の梁の溝の内側に本件キーケースは張り付けられていなかったところ,被告人が,4月24日午前0時頃,本件車庫内に立ち入ってA地点に近づき,さらにB及びCの各地点に近づいたというのであり,かつ,被告人が本件車庫内に立ち入ってから本件キーケース等が差し押えられた同月26日午前9時2分までの間に警察官ら以外の者が本件車庫の梁に近づくことはなかったというのであるから,理的に見て,地点に本件キーケース2個を張り付けたのは,論
A
被告人以外の者ではあり得ない。
また,B及びCの各地点に張り付けられていた本件キーケース4個については,れらの地点が本件各カメラの撮影範囲に含まれておらず,つ,そ

丁警部補は,月23日午後11時11分頃に本件車庫に立ち入った際に,4
それらの地点につき隠匿物の有無を確認しなかったというのであるが,他方,前記のとおり,被告人が,同月24日午前0時頃に本件車庫に立ち入った際,A地点だけでなく,B及びCの各地点に近づいたこと,同月23日午前2時5分頃から午前2時15分頃までの時点では,それらの地点にも本件キーケースは張り付けられていなかったこと,A地点に張り付けられていたキーケース2個と,B及びCの各地点に張り付けられていたキーケース合計4個と

同種,同色のものであること,

本件キーケースの中にもチャック付きビニール袋入り覚せい剤が隠匿されていたこと,

A地点に張り付けられていた本件キーケースの中のビニー

ル袋1枚と,C地点に張り付けられていた本件キーケースの中のビニール袋1枚とに同一の図柄が描かれていたことなど,強い共通性が見受けられることからすると,B及びCの各地点に張り付けられていた本件キーケース4個についても,被告人が4月24日午前0時頃に本件車庫に立ち入った際に張り付けたものと強く推認できる。
以上に加えて,その後の捜査において,被告人居室,被告人使用車両及び被告人使用に係る倉庫という被告人の支配領域から電子秤2台,チャック付きビニール袋15袋,未開封の注射器1万0550本という被告人が覚せい剤の密売に関与していることを強くうかがわせる物品が数多く発見されたばかりでなく,本件キーケースと同種,同色のキーケース7個も発見されたこと,さらに,本件覚せい剤が合計60グラムを超える大量のものであった上,チャック付きビニール袋に小分けにされていたことからすれば,本件覚せい剤は,警察官らが,本件キーケース6個の中を確認し,それらの中から覚せい剤様の白色結晶粉末を発見した4月25日の時点において,被告人の事実上の支配下にあったこと,本件キーケースの内容物が覚せい剤である旨の認識を被告人が有していたこと,及び,被告人の本件覚せい剤の所持が営利を目的とするものであることは,いずれも優に認定できる。
これに対し,被告人は,公判廷において,要旨4月24日午前0時頃に本件車庫内に立ち入ったのは,自分に宛てられた現金や貴金属がキーケースの中に入れられて梁の溝の内側に張り付けられているかどうかを確認するとともに,他人から預かった無尽のお金を同様にキーケースに入れて張り付けようとしたからである。そのような手段を用いたのは,警察に行動を監視される中で,取引相手を安心させるためであった。そして,本件車庫に立ち入って,まず,B及びCの各地点の梁の溝の内側を確認したところ,複数個のキーケースが既に張り付けてあったが,それらのキーケースには自分宛てのものに付けられているはずの目印がなく,誰が貼り付けたのかも分からなかったので,そのまま放置した。また,無尽のお金を入れたキーケースを張り付けようとしてA地点を確認したところ,そこにも既にキーケースが張り付けられていたので,取り違えがあると困ると思い,持参したキーケースをそのまま持ち帰った。などと供述する。しかしながら,関係証拠によれば,被告人は,捜査段階においては,本件キーケース6個を張り付けたのは自分であることを自認しつつ,それらは他人から預かったものである旨供述していたことが認められ,捜査段階における供述と公判供述との間に大きな供述の変遷が認められるところ,その理由について,被告人は何ら説明していない。また,キーケースの中に現金や貴金属を入れて授受していたという点については,そのような手段を用いた理由についての被告人の説明は,他人に持ち去られる危険のある手段をあえて選んだ理由としては,たやすく納得できない。さらに,他人から預かった無尽のお金をキーケースに入れて張り付けようとしたとの点についても,被告人は,その現金を被告人に預けた者の身元を明らかにしておらず,あいまいな供述にとどまっている。さらに,被告人は,自らの支配領域において発見された電子秤や未開封の注射器に関して,あれこれ説明しているが,その説明もあいまいであり,納得できない。
以上のとおりであるから,被告人の前記公判供述は,信用しない。6
続いて,被告人に対する捜査には令状主義の精神を没却する重大な
違法性が認められるから,当該捜査によって直接得られた証拠及びこれと密接な関連性を有する証拠は,証拠能力が認められないという弁護人の主張についての当裁判所の判断を説明する。この点に関する弁護人の主張は,警察官らが,①令状の取得及び被告人の事前承諾なく,被告人使用車両にGPS測位機及びGPSロガーを取り付け,位置情報を検索・取得した捜査(以下,被告人使用車両に取り付けられたGPS測位機を本件測位機と,GPSロガーを本件ロガーという。また,上記捜査を包括して本件GPS捜査という。を行ったこと,②令状の取得及び管理)
者の事前承諾なく,本件車庫を本件各カメラで撮影録画したこと(以下本件監視捜査という。,③令状の取得及び管理者の事前承諾なく,本)
件車庫内に立ち入り,梁の溝の内側に不審物がないか確認したこと(以下本件立ち入り捜査という。はいずれも違法であるとして,これらの)
捜査によって直接に得られた証拠及びこれらと密接に関連する証拠の証拠能力が否定されるというものである。そこで,まず,本件GPS捜査の点から説明する。
関係証拠によると,本件GPS捜査に関し,次の各事実が認めら
れる。

平成25年4月当時,特捜1係の捜査主任官であった壬警部

は,その頃,被告人が海外から覚せい剤を密輸入し,自車の中に多量の覚せい剤を隠匿所持している旨の情報を入手したことから,被告人の行動確認等を行い,立ち寄り場所等を割り出し,多量の覚せい剤を隠匿している場所(なお,その場所を警察官らは倉庫と呼んでいた。を突き止め)
るべく,捜査に着手した。そして,過去に自ら被告人に対する捜査を行った際,被告人が執拗に尾行の有無を確認していたため,その行動確認に苦慮した経験を有していたことなどから,同年5月頃,本件GPS捜査を行うことを決め,同月29日以降,これを実施した。なお,本件測位機は,取り付けられたものの位置情報をほぼ即時にスマートホン等の通信端末のディスプレイ上に表示することを可能にするものであり,本件ロガーは,内部メモリーに位置情報を記録し続け,後にパソコン等でその情報を解析することにより,取り付けられたものが移動した軌跡を事後的に認識することを可能にするものであった。
そして,警察官らは,被告人方駐車場や北海道千歳市内の民間駐車場において,駐車中の被告人使用車両に2台の本件測位機を交互に取り付け,継続的に被告人使用車両の位置情報を取得できるようにした。また,本件ロガーについては,本件測位機と同様に被告人使用車両に取り付け,5日から1週間程度の期間を経過した時点で取り外し,充電及び情報の解析を行った上で再度被告人使用車両に取り付けていた。

本件GPS捜査は,途中に中断した時期をはさんで,平成25年5月から平成26年6月まで実施され,その間,警察官らは,被告人使用車両を追尾するに当たり,失尾した場合などに適宜本件測位機を用いて,被告人使用車両の所在を再び把握し,追尾を続行するなどしていた。そして,本件測位機による位置情報の取得は,1日に100回を超えることもあるなど,多数回に及んだ。

本件GPS捜査が実施された当時,警察庁により,GPS測位

機を使用する捜査に関し,移動追跡装置運用要領」以下本件要領と(いう。が定められていた。同要領は,移動追跡装置とは,捜査対象車両)「等に取り付け,GPS等を使用することにより,当該車両等の位置情報を取得する装置をいう。と定義し,移動追跡装置を用いた捜査を任意捜査と位置付けた上,組織的な薬物関係犯罪等の対象犯罪の捜査について,犯罪の嫌疑,危険性の高さなどにかんがみ速やかに被疑者を検挙することが求められる場合であって,他の捜査によっては対象の追跡を行うことが困難であるなど捜査上特に必要があること被疑者の使用車両等を対,
象に,犯罪を構成するような行為を伴うことなく(中略)取り付けることなど,移動追跡装置の使用要件を定めていた。また,使用手続等については,所属長は,中略)あらかじめ,警察本部捜査主管課長(以下(「主管課長という。に申請してその承認を得なければならない。捜)査主任官は,所属長に対し,毎日の移動追跡装置の運用状況を報告しなければならない。所属長は,主管課長に対し,移動追跡装置の運用状況を1週間に1回以上報告しなければならない。捜査主任官,所属長及び主管課長は,捜査の状況を踏まえ,移動追跡装置の運用について必要な見直しを行い,使用の継続の必要性がなくなったときは直ちにその使用を終了する措置をとらなければならない。などと定められ,さらに,保秘の徹」
底が求められていた。
しかるところ,壬警部は,本件測位機を用いて捜査を実施することについては,本件要領が定める使用手続を履践したが,本件ロガーは移動追跡装置に当たらないとして,それを用いて捜査を実施することについて,直属の上司等の事実上の承認は得たものの,上記手続を厳格に履践することはなかった。なお,本件測位機のレンタル料は公費により支出されたが,本件ロガーについては,当初はレンタル料が公費により支出されていたものの,その後,壬警部と上司が私費で購入したものが使用された。ウ
警察官らは,本件GPS捜査を伴う被告人の行動確認の結果,

平成26年5月頃,被告人使用車両が本件駐車場北側路上に止まっている状況,及び,被告人が本件車庫の方に向かい,間もなく戻ってくる状況を現認し,さらに,被告人がその場を立ち去った後,本件車庫内に立ち入って,梁の溝の内側に,目測で10グラム程度の量の覚せい剤様の白色結晶粉末が入れられた黒色プラスチックケースが張り付けられていることを発見した。また,警察官らは,同様の行動確認により,旭川市内において,その当時における立寄り先を複数箇所把握するとともに,それらの場所においても,上記と同様の黒色プラスチックケースが張り付けられていることを確認していた。なお,壬警部は,それらの黒色プラスチックケースが発見された場所は,被告人が小分けした覚せい剤の隠匿場所として利用しているのではないかと考えていた。

そうしたところ,平成26年6月頃,被告人が,被告人使用車

両に本件測位機及び本件ロガーが取り付けられていることに気付いてそれを取り外し,一方,警察官らも,被告人方駐車場において,被告人使用車両から本件測位機及び本件ロガーを取り外そうとした際,それらがすでに取り外されていることを確認したことから,壬警部は,被告人が本件GPS捜査を察知したのではないかと考え,同捜査の実施を中止した。以上のとおりである。
車両に使用者らの承諾なく秘かにGPS端末を取り付けて位置情
報を検索し把握するGPS捜査は,個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって,合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であり,個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして,刑訴法上,特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たる(最高裁昭和50年(あ)第146号同51年3月16日第三小法廷決定・刑集30巻2号187頁参照)とともに,一般的には,現行犯人逮捕等の令状を要しないものとされている処分と同視すべき事情があると認めるのも困難であるから,状がなければ行うことのできない処分と解すべきである最令

高裁判所平成28年(あ)第442号同29年3月15日大法廷判決・刑集71巻3号13頁参照)
。したがって,本件GPS捜査は,本件ロガーを
使用した点を含め,任意捜査として行われた点において違法である。そして,GPS捜査が,一般に,個人の意思を制圧し,憲法の保障する重要な法的利益を侵害する性質を有していることに加え,本件GPS捜査の具体的な状況をみても,途中に中断した時期をはさんだにせよ,1年を超える長期にわたって実施され,その間,本件測位機により,多数回にわたって被告人使用車両の位置情報の取得が行われた一方,被告人のプライバシーに対する配慮がなされていたことをうかがわせる事情は見当たらない。
また,本件GPS捜査は,壬警部が公判廷において供述するとおり,被告人の立ち寄り場所等を割り出し,量の覚せい剤を隠匿している倉庫」多
を突き止めることに主たる目的があったものと認められるところ,これはまさに,被告人の行動を網羅的・継続的に把握し,合理的に推認される被告人の意思に反してその私的領域に侵入するものであるから,被告人のプライバシーを大きく侵害したことが明らかである。さらに,本件GPS捜査にあたっては,私物である本件ロガーが用いられている上,これが本件要領にいう移動追跡装置に該当することは明らかというべきであるにもかかわらず,壬警部は,これについて正式な手続を履践せずに使用していたというのであって,この点も本件GPS捜査の違法性を高めている。加えて,本件要領が保秘の徹底を求めている点は,GPS捜査に対する司法審査を困難にする運用を招来しており,それ自体,令状主義の精神に反するきらいがある。これらのことからすると,本件GPS捜査の違法の程度は,令状主義の精神を潜脱,没却するような重大なものであると評価せざるを得ず,本件GPS捜査によって直接得られた証拠及びこれと密接に関連する証拠については,その証拠を許容することは将来における違法捜査の抑止の見地からも相当ではないから,その証拠能力を否定すべきである。しかるところ,まず,弁護人は,別紙1記載の各証拠につき,本件GPS捜査によって直接得られた証拠として,証拠排除されるべき旨主張するので検討すると,これらは,本件測位機による位置情報履歴を印字した捜査報告書(甲86),本件ロガーにより取得したデータの解析結果に関する捜査報告書(甲88),及び本件GPS捜査を伴う被告人の行動確認の結果を記載した捜査報告書(甲92ないし98及び100)であって,いずれも本件GPS捜査によって直接得られた証拠であると認められるので,証拠から排除する。さらに,弁護人は,丙警部が本件駐車場を本件各カメラにより撮影することを決めたのは,本件GPS捜査によってはじめて可能になったものであるとして,別紙2記載の各証拠は,本件GPS捜査によって直接得られた証拠と密接に関連する証拠として,証拠排除されるべきである旨主張する。なお,これらの証拠は,4月24日に本件車庫から本件キーケースを発見した際の状況に関する捜査報告書(甲1),4月25日に本件病院事務局長立会いの下で本件キーケースの内容物を確認した際の状況に関する捜査報告書(甲4),本件キーケース6個を差し押さえた後,証拠分離をしたことに関する捜査報告書(甲8),本件覚せい剤に関する鑑定嘱託書謄本及び鑑定書(甲9,10)本件覚せい剤(甲11ないし46)本件,,キーケース及び本件覚せい剤を撮影した写真撮影報告書(甲47),本件カメラ画像に関する捜査報告書(甲48ないし50,61,116),本件駐車場の張り込み捜査に関する捜査報告書甲121ないし123,25)(1,本件カメラ画像のデータを収めたハードディスク1台(甲115),被告人使用車両に関する捜査報告書(甲65,79)及び捜索差押調書(甲78)並びに被告人使用に係るレンタル倉庫に関する捜査報告書甲66,3)(7,関係者の供述調書謄本(甲67)写真撮影報告書(甲68,69)検証,,調書(甲71)及び捜索差押調書(甲72)である。以下,検討する。まず,関係証拠によると,本件GPS捜査が終了してから,本件車庫を撮影対象として本件カメラ1が設置されるに至るまでの経緯につき,以下の各事実が認められる。ア壬警部は,本件GPS捜査を中止した後,被告人の海外渡航時の行動確認や,周辺者身辺捜査等を続け,被告人が覚せい剤の密売等に関与していることをうかがわせるいくつかの事情を把握するに至ったが,被告人を検挙するには至らなかった。イ平成28年4月,丙警部が,壬警部の後任者として捜査1係の主任捜査官を務めるようになり,被告人に対する捜査を引き継ぐことになった。なお,丙警部は,被告人に対して本件GPS捜査を実施していたことを壬警部から伝えられておらず,本件の起訴後までその事実を知ることもなかったが,平成26年5月頃に被告人が本件車庫付近に立ち寄り,その後に同車庫から覚せい剤様の白色結晶粉末が入れられた黒色プラスチックケースが発見されたとの事実(以下「本件捜査情報という。)について
は,何らかの機会に,壬警部の下で被告人に対する捜査に従事していた警察官らから聞き知っていた。

丙警部は,被告人に対する捜査を引き継いだ当初,覚せい剤の

密輸ルートの解明を目指したものの,海外に向けて捜査を進めることが困難であったことから,平成29年2月上旬頃,捜査方針を変更し,国内ルートの解明,すなわち,数百グラムから数キログラムと想定される多量の覚せい剤の隠匿場所,すなわち倉庫を突き止めるとともに,覚せい剤の仕入れ先の解明を目指すこととなった。
ところが,丙警部は,倉庫」ではないかと疑っていた被告人の関係先を撮影対象とする監視カメラを設置できないかと検討したものの,設置に適した場所がなかったため,これを断念し,その代わりに,まずは小分けした覚せい剤の隠匿場所を突き止めて,そこから捜査の進展を図ろうと考えるに至り,監視カメラの撮影対象となる場所を選定することにした。エところで,警察官らは,平成28年4月以降,旭川市内において被告人の行動確認を行うに当たり,捜査車両で被告人使用車両を追尾して被告人住居近くまで達し,被告人がそのまま帰宅するものと予測される場合には,その段階で追尾を打ち切り,被告人住居近くで待機中の警察官にその旨を連絡し,その後は当該待機中の警察官が被告人の行動観察を引き継ぐという方法を採っていたところ,それを繰り返すうちに,被告人使用車両の到達が予想よりも5分ほど遅れる,言い換えれば,被告人使用車両が被告人住居に到達するまでの時間が,通常想定される所要時間よりも5分ほど長くなることがあることに気付いた。そして,丙警部は,そのような事態が生じるのは,追尾を打ち切った後,被告人が住居に戻る前に途中のどこかに立ち寄っているからではないか,そこが覚せい剤の隠匿場所ではないかと考えるようになった。そうしたところ,前記のとおり,捜査方針の変更により,まずは被告人が小分けした覚せい剤を隠匿している場所を突き止めることが当面の捜査目標となり,かつ,隠匿場所と疑われる場所を監視カメラで撮影することも予定されていたことから,丙警部は,警察官らに対し,被告人住居の近隣において,小分けした覚せい剤の隠匿に適し,かつ,監視カメラによる撮影にも適している場所を探索するよう指示した。そして,警察官らがその指示に従って丙警部に報告した監視カメラの設置場所の候補は複数箇所あったが,件車庫は,の中でも有力な候補として丙警部に報告された。本そオ警察官らの報告を受けた丙警部は,平成28年4月以降の行動確認により被告人使用車両が本件駐車場周辺を走行している状況が複数の捜査員によって目撃されていたこと,本件車庫の梁が覚せい剤の隠匿に適したU字鋼であったこと,本件車庫が被告人住居から約300メートルという近距離に位置していたことなどの事情に加え,本件捜査情報をも勘案し,とりあえず本件車庫を監視カメラの撮影対象にして1か月程度撮影してみて,成果がなければ別の場所を探そうと考え,上記の複数個所の候補の中から,本件車庫を監視カメラの撮影対象とすることに決め,平成29年2月23日に本件カメラ1が設置されるに至った。以上のとおりである。そこで,上記認定に基づき,別紙2記載の各証拠が,本件GPS捜査によって直接得られた証拠と密接に関連する証拠に当たるかどうかを検討すると,前記認定によれば,丙警部は,本件車庫を監視カメラの撮影対象として選定するに当たり,本件捜査情報をも勘案したというのであるがそもそも,本件捜査情報は,本件GPS捜査を伴う被告人の行動確認の結果により得られた情報であったのであるから,本件GPS捜査によって直接得られた証拠と本件各カメラによって得られた証拠との間に一定の関連性が存することは明らかである。しかしながら,前記認定によれば,丙警部は,本件各カメラを設置した当時,かつて被告人に対し本件GPS捜査が行われたことを知らなかったというのであり,さらに,監視カメラの設置場所の選定に当たっては,本件捜査情報のみならず,警察官らが被告人住居の近隣を探索した結果を踏まえ,被告人使用車両が本件駐車場周辺を走行している状況が複数の捜査員によって目撃されていたことなどの事情も考慮されたというのであるから,本件捜査情報は,本件車庫を撮影対象として本件カメラ1が設置されるに至った唯一の理由であったわけではない。なお,弁護人は,要旨,被告人住居の近隣には監視カメラの撮影対象はほかにもあったのであるから,本件捜査情報がなければ,本件車庫を監視カメラの撮影対象として選択することは不可能であったと主張するが,前記認定によると,丙警部は,とりあえず本件車庫を監視カメラの撮影対象にして,1か月程度撮影してみて成果がなければ別の場所を探そうと考えたというのであって,本件車庫以外の候補を退けて,本件車庫のみを監視カメラの撮影対象としたわけではなく,単に,本件車庫は他の候補よりも優先順位が高かったというにすぎない。また,他に監視カメラの撮影対象の候補が挙げられていた以上,本件捜査情報がなかったとしても,丙警部が本件車庫を監視カメラの撮影対象として選定したことは確実であったとはいえないとしても,他方,本件車庫は有力な候補として報告されたというのであるから,仮に本件捜査情報がなかったとしても,監視カメラの撮影対象として本件車庫が選定された可能性は決して小さくなかったといえる。したがって,弁護人の上記主張は,当たらない。さらに,前記認定によれば,丙警部は,被告人に対する捜査を引き継いだ後,当初は,覚せい剤の密輸ルートの解明を目指したが,思うような成果が挙げられなかったため,捜査方針を変更して国内ルートの解明を目指すことにし,さらには,数百グラムから数キログラムと想定される多量の覚せい剤の隠匿場所,いわゆる「倉庫を突き止めるために監視カメラを設置しようとしたものの,それを断念し,まずは小分けした覚せい剤の隠匿場所を突き止めることを当面の捜査目標としてカメラの設置場所を選定することにしたというのであって,このような監視カメラ設置場所の選定に至るまでの捜査経緯に照らしても,丙警部が本件捜査情報を当初から殊更に利用しようとしていたとはうかがわれない。
以上の諸事情を総合考慮すると,別紙2記載の各証拠は,本件GPS捜査によって直接得られた証拠と密接に関連する証拠であるとは認められないから,その証拠能力は否定されないというべきである。したがって,この点に関する弁護人の主張は,採用しない。
7
次に,本件監視捜査について説明する。
この点につき,弁護人は,本件各カメラによる撮影行為は,必要

性,緊急性,相当性がなく,任意処分として許容される範囲を超えており,無令状で行うことが許されない捜査であったから,これを無令状で行った上記撮影行為は,令状主義の精神を没却する重大な違法があるとして,本件カメラ映像を収めたハードディスク1台(甲115)は,証拠排除されるべきである旨主張する。
そこで,検討すると,関係証拠によれば,丙警部は,本件各カメ
ラを設置するに当たり,本件病院の管理者に事前の承諾を得ていなかったこと,及び,本件各カメラによる撮影が無令状により実施されたことが認められる。
本件車庫は,その内部を本件駐
車場の外部から観察すること,及び,病院関係者以外の者がその内部に事実上立ち入ることが,いずれも容易な状況にあるというのであるから,本件駐車場は,本件車庫を含めて,病院の利用者や病院関係者に限られない様々な人物が立ち入りうる場所であったと認められる。そうすると,本件監視捜査は,通常人から容ぼう等を観察されること自体は受忍せざるを得ない地点の撮影録画にとどまるものだったといえるから,刑訴法上,特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たるとはいえない。また,これまでに認定したとおり,被告人に対しては,平成25年以降,覚せい剤の密輸入や営利目的所持等の嫌疑が継続的に存在しており,さらには,被告人が覚せい剤の密売等に関与していることをうかがわせるいくつかの事情も把握されていたのであるから,その嫌疑は具体的なものであったといえる。しかも,関係証拠によれば,本件カメラ1により,3月5日,同月10日,同月20日及び同月25日に,それぞれ不詳の人物が本件車庫に立ち入り,本件車庫の東側の壁付近を通行する様子が撮影された(なお,被告人自身,公判廷において,3月5日を除き,本件車庫に立ち入ったのが自分であることを自認している。
)ことからすれば,上記の嫌疑
は,本件カメラ1が設置された後,一層強まったといえる。
そして,かねてからの被告人の行動確認の実施状況に鑑みれば,被告人の本件車庫への立ち入り状況を,目視での確認のみで把握することは極めて困難であったことは明らかであって,これらの事情に照らせば,本件各カメラによる撮影行為については,必要性があったものと認められる。さらに,本件カメラ映像を見ると,本件カメラ1による撮影録画は,約2か月に及んだものの,被撮影者の顔貌を鮮明にとらえることはできず,また,停車されていた自動車のナンバープレートも撮影されていなかったこと,他方,本件カメラ2による撮影録画には,本件車庫を利用する職員等の顔貌が本件カメラ1より鮮明に映っているものの,病院利用者等の顔貌等までは撮影されておらず,撮影期間も1週間程度にとどまったことが認められ,加えて,前記のとおり,通常人から容ぼう等を観察されること自体は受忍せざるを得ない地点の撮影であったことも考え併せると,本件監視捜査については,相当性も認められる。
したがって,本件監視捜査は,任意捜査としてみても,相当な範囲のものであり,適法であると認められる。
なお,弁護人は,本件監視捜査が適法であるといえるためには,証拠獲得の緊急性が認められることを要すると解すべきであるのに,本件監視捜査にはそれが認められない旨主張するが,いかなる場合に捜査機関によるビデオカメラ等による撮影を用いた捜査が許容されるかは,犯罪の嫌疑の有無及び程度を含む当該捜査が行われるに至った経緯,当該捜査によって証拠を獲得すべき必要性の有無及び程度,当該捜査の態様等の諸事情に照らして,事案ごとに個別に判断されるべきものであるところ,本件においては,被告人が本件車庫において継続的に覚せい剤の営利目的所持等の犯罪を行っている具体的な嫌疑が存在していたことから本件各カメラによる撮影が行われたのであって,このような場合に,ビデオカメラ等による撮影を用いた捜査が許されないとは到底解されないから,弁護人の主張は採用しない。
以上のとおりであるから,本件各カメラによる撮影行為には令状
主義の精神を没却する重大な違法があるとして,本件カメラ映像を収めたハードディスク1台(甲115)につき,証拠排除を求める弁護人の主張は,採用しない。
8
最後に,本件立ち入り捜査について説明する。
弁護人は,警察官らは,本件カメラ1による撮影が開始された2

月23日以降,10回以上にわたり,本件駐車場に無断で立ち入って,本件車庫の梁の溝の内側を確認していたところ,これらの行為は,刑事訴訟法上の検証であり,必要性,緊急性,相当性をいずれも欠き,違法性の認識もあるから,警察官らが本件車庫の梁の溝の内側を五官の作用をもって認識した結果は,公判供述を含め,すべて違法収集証拠として証拠排除すべきである旨主張する。
そこで検討すると,前記のとおり,本件駐車場は,本件車庫を含
め,病院関係者のみならず様々な人物が立ち入り得る場所であって,このような場所への立ち入り自体は,人がプライバシーの保護について合理的な期待を持つ場所への立ち入りには当たらず,類型的に見て,特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たるとは評価できない。た,ま
本件車庫の梁の溝の内側は,もとより人がプライバシーの保護について合理的な期待を持つ場所とはいえず,捜査機関が本件車庫の梁の溝の内側を目視または手を差し入れて隠匿物の有無を確認した捜査もまた,強制の処分に該当するとはいえない。
また,本件立ち入り捜査は,本件監視捜査において本件車庫に不詳の人物が立ち入る様子が撮影されたことを契機になされたものであり,被告人に対する覚せい剤の営利目的所持の嫌疑が一層強まっていた状況の下で行われたものであった。
そして,本件監視捜査では,梁の溝の内側に隠匿物があるか否かについては判別することができなかったのであるから,実際に捜査員が梁の溝の内側を確認する必要性もあった。
さらに,捜査の具体的な態様をみても,目視または手を差し入れて隠匿物の有無の確認がなされた対象は,車庫の梁の溝の内側という,人のプライバシーに対する合理的な期待が存在するとはいえない地点にとどまっていた上,立ち入り及び梁内部の確認の時間も,長くとも10分程度にとどまっていたから,相当性も認められる。
以上に鑑みれば,本件立ち入り捜査は,相応の嫌疑及び証拠獲得の必要性の存在を前提に,相当な態様で行われていたものであって,任意捜査としてみても,相当な範囲のものであり,適法であると認められるから,弁護人の前記主張は,採用しない。
9
なお,弁護人は,本件GPS捜査の終了後に捜査に加わった捜査員による被告人の行動確認の結果を記載した捜査報告書(甲102)並びに本件キーケースの内容物の確認及び差押え等に関する関係者の供述調書(甲127)についても,違法収集証拠として証拠排除されるべき旨の証拠意見を述べているが,いずれも証拠から排除すべきものであるとはいえない。
10

以上のとおりであるから,違法収集証拠として,証拠から排除す

べきものは,別紙1記載の各証拠に限られるところ,判示事実は,その余の関係証拠によって証明十分であると認められる。
(法令の適用)
(略)
(量刑の理由)
被告人は,覚せい剤営利目的譲渡又は所持に係る同種前科2犯を有するにもかかわらず,60グラムを超える多量の覚せい剤を営利目的で所持する判示犯行に及んだものであり,規範意識の鈍麻が著しく,その刑事責任は重大である。
その上で,被告人が不合理な弁解に終始しており反省の姿勢がうかがわれないことなども考慮し,被告人に対しては主文の刑を科すことが相当であると判断した。
(求刑

懲役7年及び罰金150万円,覚せい剤の没収)

(検察官田中隆士,弁護人足立敬太(主任)伊藤淳各出席)

平成31年3月28日
旭川地方裁判所刑事部

裁判長裁判官

佐藤英彦
裁判官

田岡薫征
裁判官

久田皓士
(別紙1)略)

(別紙2)略)


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