判例検索β > 平成25年(ワ)第6653号
損害賠償請求事件
事件番号平成25(ワ)6653
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日平成31年3月15日
法廷名大阪地方裁判所
裁判日:西暦2019-03-15
情報公開日2019-04-15 14:00:22
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主文1
原告の請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1
1
請求
主位的請求
被告は,原告に対し,3744万円及びこれに対する平成25年7月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
予備的請求
被告は,原告に対し,2600万円及びこれに対する平成25年7月26日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2
1
事案の概要
本件は,B型肝炎の患者である原告が,被告が実施した種痘,ツベルクリン反応検査及び各種の予防接種(以下集団予防接種等という。)を受けた際,注射器の連続使用によってB型肝炎ウィルス(HepatitisBvirus。以下HBVということもある。)に持続感染したとして,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,主位的には,重度の肝硬変の発症を理由に,3744万円(包括一律請求としての損害額3600万円及び弁護士費用144万円)及びこれに対する不法行為後(訴状送達日の翌日)である平成25年7月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,予備的には,
軽度の肝硬変の発症を理由に,2600万円(包括一律請求としての損害額2500万円及び弁護士費用100万円)及びこれに対する不法行為後(訴状送達日の翌日)である平成25年7月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2
前提事実(争いのない事実,後掲各証拠〔以下,特記しない限り,書証は枝番を含む。〕及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

B型肝炎について

HBVは,主として感染者の血液を介して感染し,感染態様としては,感染後一定期間の後にウィルスが生体から排除されて治癒する一過性の感染と,ウィルスが長年にわたって生体(主として肝臓)の中に住みついてしまう持続感染(HBVキャリア状態)があり,後者の主な感染
経路は,HBワクチンによる母子感染防止事業が開始される前の出産時の母子感染
(垂直感染)
と乳幼児期の水平感染である
(甲A76・637頁)


HBVに感染すると,
HBVに関連する抗原及び抗原に対応する抗体が,
順を追って血中に出現する。抗原及び抗体の臨床的意義は,次のとおりであり,HBV-DNA(量)を加えて,ウィルスマーカーと呼ばれる
(甲A61・5~6頁,甲A62・112~117頁,甲A65の3・55~63頁)。
HBs抗原陽性
HBs抗体陽性

HBVにかつて感染したことがある

HBc抗体陽性

高値

HBVに感染している

低値

HBVに感染している状態にある

HBVに一過性で感染したことがある

HBe抗原陽性

血中のHBV量が多く感染力が強い

HBe抗体陽性

血中のHBV量が少なく感染力が弱い

HBV-DNA量

高値

HBVが多い

低値

HBVが少ない


肝機能に関する血液検査の基準値は,概ね以下のとおりである(甲A62・104~107頁)。
血清酵素
AST(GOT)

10~40U/L

ALT(GPT)

5~40U/L

血清ビリルビン

TBil(総ビリルビン値)

0.3~1.2mg/dl

アルブミン等
TP(総蛋白)

6.7~8.3g/dl

ALB(アルブミン値)

4.0~5.0g/dl

血中アンモニア

アンモニア

30~80μg/dl

プロトロンビン時間等
PT(プロトロンビン時間)

11~13秒,80~130%

HPT(ヘパプラスチンテスト)

70~130%

AT(ATⅢ,アンチトロンビンⅢ)

79~121%

HBV持続感染者の病期(甲A61・10~11頁,甲A62・207頁,甲A63・1124~1126頁,甲A64・1~3頁,甲A73・63~67頁,甲A74,76~78,乙B1761の8・1~3頁)
HBV持続感染者の病態は,宿主の免疫応答とHBV-DNAの増殖の状態により,主に以下の4期に分類される。

免疫寛容期
乳幼児期はHBVに対する宿主の免疫応答が未発達のため,HBVに感染すると持続感染に至る。その後も免疫寛容の状態(HBe抗原陽性かつHBV-DNA増殖が活発)であるが,ALT(GPT)値は正常で肝炎の活動性がほとんどない状態が続く
(無症候性キャリア)感染力は強い。


多くの例では乳幼児期における感染後,免疫寛容期が長期間持続するが,その期間は数年から20年以上まで様々である。

免疫応答期
成人に達するとHBVに対する免疫応答が活発となり,免疫応答期に入
って活動性肝炎となる。HBe抗原の消失・HBe抗体の出現(HBe抗原セロコンバージョン)に伴ってHBV-DNAの増殖が抑制されると肝
炎は鎮静化する。しかし,肝炎が持続してHBe抗原陽性の状態が長期間続くと肝病変が進展する(HBe抗原陽性慢性肝炎)。

低増殖期
セロコンバージョンが起こると,80~90%の症例において,肝炎は鎮静化し,HBV-DNA量は低値となる(非活動性キャリア)。しかし,
10~20%の症例では,セロコンバージョン後,HBe抗原陰性の状態でHBVが再増殖し,肝炎が再燃する(HBe抗原陰性慢性肝炎)。また,4~20%の症例では,HBe抗体消失及びHBe抗原の再出現(リバースセロコンバージョン)を認める。

寛解期
セロコンバージョンを経て,一部の症例ではHBs抗原が消失し,HBs抗体が出現する。寛解期では,血液検査所見,肝組織所見ともに改善する。HBV持続感染者での自然経過におけるHBs抗原消失率は年率約1%と考えられている。
以上のとおり,HBV持続感染者はその自然経過においてHBe抗原陽性
の無症候性キャリアから,HBe抗原陽性又は陰性慢性肝炎を経て,肝硬変へと進展し得る。肝硬変まで病期が進行すれば年率5~8%で肝細胞がんが発生する。一方,自然経過でセロコンバージョンが起こった後にHBV-DNA量が減少し,ALT値が持続的に正常化したHBe抗原陰性の非活動性キャリアでは,
病期の進行や発がんのリスクは低く,
長期予後は良好である。
肝臓の機能,肝硬変の病態及び重症度分類等

肝臓の主な機能は,①物質の代謝(糖質,タンパク質・脂質の代謝等),②解毒
(アンモニアの解毒等)③排泄

(胆汁の生成とビリルビンの代謝)

④生体防御機構(免疫)があり,胃腸管に対する生体防御システムの要と
して,全身の自然免疫に中心的な役割を担っている(甲A91・199~202頁)。

肝臓の流入血流として,栄養血管である肝動脈と,腹部臓器の静脈血を集めた門脈があり,門脈に血行障害(門脈圧亢進症)が起きると,食道静脈瘤,側副血行路,肝性脳症等を招来する(甲A57・70~71頁,甲A90・2~3頁,甲A91・196~197頁)。

肝硬変とは,HBV等様々な病因で生じた慢性肝障害の終末像であり,肝細胞が線維で置換され,本来の肝小葉は改築され,偽小葉が形成された病態をいい,機能的分類として,代償性肝硬変(肝硬変に進行しているが肝予備機能が比較的保たれている状態で,多くの場合日常生活に支障を来さない状態)
と非代償性肝硬変
(肝障害が進行し肝予備機能の低下により,

黄疸,腹水,肝性脳症等の肝不全症状が出現し,日常生活に支障を来す状態)がある(甲A61・58~61頁,甲A62・227~230頁,甲A63・1134~1139頁,乙B1761の7・1134頁)。B型肝炎による肝硬変は,宿主の免疫機構がHBV感染肝細胞を完全には排除できず,肝細胞の持続的な傷害・破壊と再生が繰り返されることに
より肝繊維化が進展し,肝小葉構造の破壊と再生結節が形成されて生じる(甲A95・77頁)。
肝硬変となり,
肝機能が低下するなどした場合,
①肝臓が血糖の維持,
グリコーゲン・アミノ酸や乳酸からの糖新生,脂肪酸からのケトン体産生などエネルギー代謝に深く関与しているための多彩な栄養・代謝障害によ
る低栄養,②低アルブミン血症による血漿膠質浸透圧の低下,門脈圧亢進による腸間膜静脈のうっ滞,有効循環血漿量減少による二次性高アルドステロン血症などが関与する腹水,
③門脈圧亢進症による側副血行路の中で,
破裂による出血がしばしば致命的となる食道・胃静脈瘤,④腸管等で生じるアンモニア等の神経毒性物質が肝臓で解毒されずに大循環に流入し,血
液関門を介して脳内に達して様々な神経症状を引き起こす肝性脳症,⑤門脈圧亢進により脾臓に血流が流れ込むことによる脾機能亢進(脾腫大)に
よると考えられる血小板減少等の様々な合併症が生じる(甲A63・1134~1136頁,乙B1761の7・1137~1138頁,乙B1761の9・167~168頁)。
上記⑤(門脈圧亢進)が持続すると,門脈と大静脈に接続する静脈を結ぶ側副血行路が形成され,門脈血と体循環の短絡等が要因となって,肝性
脳症等を引き起こす(甲A99・訳文3~4頁)。

肝硬変の重症度分類としては,臨床所見(肝性脳症と腹水)と肝機能検査(総ビリルビン値,アルブミン値,プロトロンビン時間)を組み合わせたChild-Pugh分類(以下CP分類という。)が広く用いられているところ,肝性脳症,腹水,アルブミン値,プロトロンビン時間,総ビリルビン値,の5つの評価項目につき,1点から3点の3段階に分けて評点が付され,
5項目の合計点で,
5~6点が
A

7~9点がB,10~15点がCに分類される(甲A61・68
頁,甲A62・81頁,乙B1761の7・1134頁)。

国立病院機構長崎医療センターに通院した肝硬変患者267例について,観察開始時点におけるCP分類A~Cごとに3年目累積生存率を調査したところ,Aは93.5%,Bは71%,Cは30.7%であり,また,観察開始時点でBの患者が3年後にAに改善した頻度は12.8%,Cに悪化した頻度は20.5%,死亡した頻度は30.8%であった(甲A59)。

予後に関する臨床判断により,以下の5つの病期(ステージ)に分類することが提唱されているとする見解もある。
ステージ1は,代償性肝硬変にとどまり食道静脈瘤がない状態であり,推定死亡率は年間1%とされる。ステージ2は,代償性肝硬変にとどまるが食道静脈瘤が発現している状態であり,推定死亡率は年間3.4%とさ
れる。ステージ3は,非代償性肝硬変に至り腹水が発現している状態であり,推定死亡率は年間20%である。ステージ4は,非代償性肝硬変に至
り消化管出血が発現している状態であり,
推定死亡率は年間57%である。
ステージ5は,更に感染症と腎不全を発症した状態であり,推定死亡率は年間67%である。(以上につき,甲A99・翻訳5~6頁)
そして,観察開始時から1年後の生存率につき,代償性肝硬変であった者については約95%,非代償性肝硬変であった者については約65%と
する報告,また,観察期間中に代償性あるいは非代償性を維持した者の10年後の生存率につき,前者は約80%,後者は約10%とする報告がある(甲A100・翻訳5頁)。

平成27年末までに日本国内で実施された生体肝移植手術7862例について,手術後1年間の累積生存率が85.1%(死亡率約14.9%)
であったとの報告がある(乙B1761の4・154頁・表13-1)。肝硬変の合併症としての肝性脳症の概要等

肝硬変進行に伴う合併症の一つとして,肝壊死や門脈大循環シャントのため肝機能が不全状態となり,アンモニア等の血中毒素を解毒できなくなることによる肝性脳症があり,便秘,消化管出血,感染,脱水,向精神病
薬服用などが契機になり生じることが多い。肝性脳症は,劇症肝炎等による急性型と,肝硬変による慢性型があり,慢性型は肝細胞障害の要因が強いタイプ(末期型もしくは末期昏睡型)と門脈-大循環短絡の要因が強いタイプ(慢性再発型)に分類される。(以上につき,甲A62・235~238頁,甲A63・1094~1096頁,乙B1761の2)

肝性脳症の程度は,肝性脳症の昏睡度分類により判断され,CP分類で3点とされているグレードⅢ以上については,グレードⅢは,しばしば興奮状態または譫妄状態を伴い,反抗的態度をみせる,嗜眠状態(ほとんど眠っている),外的刺激で開眼しうるが,医師の指示に従わない,または従えない(簡単な命令には応じる)等の,グレードⅣは,昏睡(完全な意識の消失),痛み刺激に反応する,刺激に対して払いのける動作,顔をしかめるなどがみられる等の,グレードⅤは,深昏睡,痛み刺激にも全く反応しない等の状態と分類される(甲A61・62頁,甲A62・237頁,乙B1761の3・60頁)。ウ
慢性再発型の肝性脳症の初回発症時の覚醒率は76%,累積生存率は,1年で約60%,3年で約20%,4年で約10%とされる(甲A63・1
095~1096頁,甲A98・320頁)。

肝硬変診療ガイドラインは,予後不良因子である合併症として,肝性脳症の他に,難治性腹水,肝腎症症候群,静脈瘤出血,突発性細菌性腹膜炎を挙げ,
その他の因子として,
肝硬変の成因,
血清アルブミンと血小板数,

血清ヒアルロン酸,インスリン抵抗性,肝静脈圧較差(門脈圧),肝の硬さ等を挙げている(乙B1761の11)。
労災保険における治癒の概念とは,症状が安定し,治癒効果が認められない場合を指すとされる(乙B1761の10・52頁)。厚生労働省の平成17年9月30日付け胸腹部臓器の障害認定に関する専門検討会報告書は,胸腹部臓器の障害認定基準を検討し,その際の視点として,慢性肝炎の原因となったウィルスを排除できない場合にはウィルスに持続的に感染している状態となり,肝炎が沈静化しない場合,徐々に肝機能の低下等をもたらすことから,どのような状態となった場合に慢性肝炎を治ゆとすることが適当かについて検討した,
腹水,肝性脳症,食道静脈瘤等の合併症を併発している場合には,積極的な治療が必要であるので,治ゆとすることは適当でなく,いったん治ゆとした場合には,再発として取り扱うことが適当であるとの記載がある(甲A88の1,甲A88の2・73,78頁,乙B1761の10・73,78頁)。

厚生労働省が労災医療を担当する医師に向けて作成したリーフレット労災保険における傷病が「治ったときとは…」において,再発

は,
傷病がいったん症状固定
(治癒)
したと認められた後に再び発症し,
①その症状の悪化が,当初の傷病と相当因果関係があると認められること,②症状固定時の状態から見て,明らかに症状が悪化していること,③療養を行えば,その症状の改善が期待できると医学的に認められることの3つの要件を満たす場合であるとの記載がある
(甲A89・4頁)



身体障害者福祉法による身体障害者手帳認定基準における肝機能障害の認定基準等級表1級に該当する障害は,従前はCP分類の合計点数が10点以上であって,血清アルブミン値,プロトロンビン時間,血清総ビリルビン値の項目のうち,1項目以上が3点以上の状態が,90日以上の間隔をおいた検査において連続して2回以上続くものとされていたが,前
7点以上であって,肝性脳症,腹水,血清アルブミン値,プロトロンビン時間,血清総ビリルビン値の項目のうち肝性脳症又は腹水の項目を含む3項目以上が2点以上の状態が,90日以上の間隔をおいた検査において連続して2回以上続くもの」
と改定された。
なお,
1級に該当するためには,
上記基準に加え,次の項目(a~j)のうち,5項目以上に該当しなければならない。具体的には,a
上,b

血中アンモニア濃度が150μg/dl以上,c

万立方mm以下,d
血清総ビリルビン値が5.0mg/dl以

治療の既往,f

原発性肝がん治療の既往,e

胃食道静脈瘤治療の既往,g

肝炎ウィルスの持続的感染,h

血小板数が5

突発性細菌性腹膜炎

現在のB型肝炎又はC型

1日1時間以上の安静臥床を必要とする

ほどの強い倦怠感又は易疲労感が月7日以上ある,i
嘔吐あるいは30分以上の嘔気が月に7日以上ある,j

1日に2回以上の
有痛性筋けいれ

んが1日に1回以上ある,の10項目のうち,5項目に該当することが必要であり,2級に該当するためには,a~jのうち,a~gまでの1つを含む3項目以上に該当しなければならない。
(以上につき,
甲A60の1)

脾臓の機能,脾臓摘出手術の影響等

脾臓は,身体全体のリンパ組織の約25%を構成し,肺炎球菌,髄膜炎菌等の特定の種類の細菌に対する防御機能があるため,摘出すると免疫機能が低下して感染リスクが高くなるところ,脾臓が失われても,他の臓器(主として肝臓)が感染に対する防御能力を高めることによりその機能を
補うため,生存に欠かせない臓器であるとはされていない(甲A83,84)。

肝硬変の合併症である門脈圧亢進に対する治療の一つとして脾臓摘出手術があるところ,脾臓を摘出した患者は免疫低下による脾摘後重症感染症(OPSI)
として,
敗血症や血管内凝固症候群を併発する場合がある
(甲

A84,乙B1761の5・205,210頁)。

非代償性肝硬変症例における細菌感染症の頻度が14.5~34%であるとする報告があるところ,肝硬変症例で脾臓を摘出した252例中,術後にOPSIで死亡したのは1例(頻度0.4%)であるとする報告がある(乙B1761の5・211頁)。

なお,脾摘後の感染症の対策として,脾摘術前あるいは術後(できるだけ術前)に肺炎球菌ワクチンを接種することとされている(乙B1761の5・211頁)。

肝硬変に対する脾臓摘出手術の効果として,CP分類グレードB及びCの患者については,術後1年でTBil,ALB,CP分類の点数が有意
に改善し,肝容量が有意に増大するなど,肝機能を改善したとの報告がある(乙B1761の6・138~139頁)。
原告のHBV感染,慢性肝炎の発症及び治療経過等

HBV感染
原告(昭和46年5月生まれ)は,HBV持続感染者であるところ,満7歳になるまでの間に集団予防接種を受けた(甲B1761の3)。

慢性肝炎の発症
原告は,昭和63年11月,献血の際に肝機能異常とHBs抗原陽性を指摘され,同年12月19日,A病院に入院し,慢性活動性肝炎と診断された(甲B1761の8,17)。


肝硬変の発症
原告は,平成3年3月29日,A病院を受診したところ,軽度の黄疸を伴う肝機能異常が認められ,同年4月11日に入院し,代償性肝硬変と診断され,同年5月9日に退院した(甲B1761の8,17)。


肝性脳症の発症
原告は,平成18年7月からB病院に通院し,非代償性肝硬変と診断さ
れ,同年8月25日には肝性脳症を伴う肝不全と診断されて,投薬が開始され,就労については,
通常の机上勤務以外は不可,
内勤・外勤ともに可,深夜勤務,残業は不可との就業条件が必要と判断された(甲B1761の20,26)。
原告のB病院における平成22年6月3日の血液検査の結果は,(%)PT

52.3,TBil2.2,ALT24,ALB2.8,アンモニア87であり,エコー検査では,脾門部に拡張蛇行する多数の血管と肝周囲の腹水の存在を指摘された(甲B1761の21)。
原告のB病院における同年8月5日の血液検査の結果は,PT(%)52.5,TBil2.0,ALT27,ALB2.7,アンモニア141で
あった(甲B1761の21)。

救急搬送と脾臓摘出術
原告は,平成22年10月1日,自宅で意識朦朧としている状態で発見され,B病院に救急搬送され,同月5日,肝硬変のために門脈圧亢進症と
なり脾臓シャントにより肝性脳症が生じたとして,脾臓摘出が必要であると診断され,同月13日に一旦退院し,同年11月4日,脾臓等摘出手術
(以下本件手術という。)を受けるために再入院し,同月8日,術前診断においてCP分類7点でグレードBと診断された後,本件手術を受けて脾臓とともにシャントが除去され,同月24日退院した(甲B1761の10,11,21~23,25,27,28,31)。
被告の過失責任

札幌高等裁判所平成16年1月16日判決は,以下の内容を判示した。すなわち,集団予防接種等は,被告による伝染病予防行政上の公権力の行使に当たるところ,集団予防接種等において注射器(針又は筒)が連続使用された場合,先行する被接種者にHBV感染者がいる場合には,後行の被接種者に感染する危険性があるといえるところ,被告は,遅くとも昭和26年には,集団予防接種等の際,注射器(針又は筒)を連続使用すれば,被接種者間にHBVが感染するおそれがあることを予見できたから,被告は,原告に対し集団予防接種等を実施するに当たっては,注射器(針及び筒)の被接種者1人ごとの交換又は徹底した消毒の励行等を各実施機関に指導してHB
V感染を未然に防止すべき義務があった。
ところが,被告は,原告が集団予防接種等を受けた昭和46年から昭和53年までの間,実施機関に対して,注射器の交換又は徹底した消毒の励行を指導せず,注射器の連続使用の実態を放置し,上記義務を怠った過失がある(なお,
原告が集団予防接種等の際にHBVに感染したものであるか否か
〔因

果関係があるか否か〕については,後記3のとおり争いがある。)。特別措置法の施行

全国B型肝炎訴訟原告団・弁護団及び被告は,平成23年6月28日,札幌地方裁判所において,基本合意書を交わし,B型肝炎訴訟に関する和解の手続及び内容等については,
基本合意書(案)
(以下基本合意書1という。)のとおりとすること等を合意した。基本合意書1では,和解の内容(病態等の区分に応じた和解金の支払)
として,次のとおり記載されていた。
死亡,肝がん又は肝硬変(重度)

3600万円

肝硬変(軽度)

2500万円
1250万円

慢性肝炎
(発症後提訴までに20年を経過したと認められる者のうち,

現に治療を受けている者等)

300万円

慢性肝炎
(発症後提訴までに20年を経過したと認められる者のうち,
150万円
600万円
無症候性キャリア(一次感染者又は出生後提訴までに20年を経過し
た二次感染者)

50万円

なお,弁護士費用相当額として,平成23年1月11日よりも後に提訴された場合には上記各和解金に対する4%の割合による金員を支払うものとされた。

全国B型肝炎訴訟原告団・弁護団及び被告は,平成27年3月27日,基本合意書1に定めのなかった,
死亡又は発症から20年を経過した死亡・
肝がん・肝硬変の患者及び遺族に対する和解金の金額等に関する基本合意書(その2)(以下基本合意書2という。)を交わした。

基本合意書1を受けて,特定B型肝炎ウィルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法(以下特措法という。)が制定され,平成24年1月13日施行された。また,基本合意書2を受けて,多中心性の肝がん(過去に発症した肝がんの根治後における非がん部〔治療後の残存肝〕から発生した新しい肝細胞がん)を再発した場合は,過去に発症した肝がんとは異なる肝がんの発生であることから,除斥期間の起算点を別にするとした
同法の一部を改正する法律が制定され,平成28年8月1日施行された。特措法は,社会保険診療報酬支払基金が,特定B型肝炎ウィルス感染者
に対し,特定B型肝炎ウィルス感染者給付金を支給すること(3条),基本合意書に沿って,支給金を同条所定の区分に応じて定めた額とすること(6条),訴訟手当金を支払うべきこと(7条)等を定める。なお,非代償性肝硬変の内CP分類が10点以上の状態が90日以上継続しているものが特措法における肝硬変(重度),それ以外の非代償性肝硬変及び
代償性肝硬変が同法における肝硬変(軽度)に当たる。
本件に関係する区分及び支給金の額は,以下のとおりである。
6条1項1号ハ

HBVに起因して,肝硬変(重度のものに限る。)

にり患した者(同号イ及びロ並びに2号に掲げる者を除く。)
3600万円

6条1項3号

HBVに起因して,肝硬変(重度のものを除く。)に

り患した者(1号,2号,4号及び5号に掲げる者を除く。)
2500万円
6条1項4号

HBVに起因して,肝硬変(重度のものを除く。)に

り患した者のうち,当該肝硬変を発症した時から20年を経過した後に
された訴えの提起等に係る者であって,現に当該肝硬変にり患しているもの又は現に当該肝硬変にり患していないが,当該肝硬変の治療を受けたことのあるもの(1号及び2号に掲げる者を除く。)

600万円

特措法施行規則7条1項3号ロは,肝硬変(重度)の認定基準として,90日以上の間隔をおいて2回の医師の診断を受けた結果,いずれの診断においても,以下の表(CP分類)の合計点数が10点以上であったことを定める。なお,特措法施行規則7条2項は,前項各号に掲げる基準のほか,同項各号に掲げる病態については,診療録,診断書その他の記録に基づき,一般に認められている医学的知見を踏まえて総合的に判断され
るものとすると定めている。

項目

状態等

点数

肝性脳症

なし

一点

軽度(Ⅰ・Ⅱ)

二点

昏睡(Ⅲ以上)

三点

なし

一点

軽度

二点

中程度以上

三点

三・五g/dl超

一点

腹水

血清アルブミン値

二・八g/dl以上三・五g/二点
dl以下
二・八g/dl未満

一点
二点

四〇%未満
血清総ビリルビン酸

七〇%超
四〇%以上七〇%以下

プロトロンビン時間

三点

三点

二・〇㎎/dl未満

一点

二・〇㎎/dl以上三・〇㎎/二点
dl以下
三・〇㎎/dl超

三点

本件訴訟提起及び和解協議の不調

原告は,平成25年6月28日,肝硬変(重度)にあたるとして本件訴訟を提起した。


被告は,原告につき,肝硬変(軽度)にとどまるところ,遅くとも平成3年4月19日頃には肝硬変を発症しており,提訴日までに20年の除斥期間を経過しているとして,特措法6条1項4号にあたるとする和解
を提案した。

行った平成22年11月8日までに肝硬変(重度)の状態に至ったと認定されるべきであり,また,仮に肝硬変(軽度)の状態にとどまるとしても,その除斥期間の起算点は上記の日とすべきであると主張し,和
解協議は不調に終わった。
3
被告の集団予防接種等と原告のHBV感染の因果関係の有無(争点1)
(原告の主張)
原告は,0歳から6歳頃までにHBVに感染した持続感染者であるところ,原告は乳幼児期に集団予防接種等を受け,その際,注射器(針又は筒)が連続
使用されていたこと,原告の母親は持続感染者ではなく,原告は乳幼児期に輸血を受けたこともないことに照らせば,集団予防接種等における注射器等の連続使用によってHBVに感染した蓋然性が高いというべきであり,集団予防接種等とHBV感染との間には,因果関係がある。
(被告の主張)
原告が集団予防接種等によりHBVに感染した可能性があることは認める。4
原告の症状が肝硬変(重度)に当たるか否か(争点2)

(原告の主張)
原告のCP分類は,肝性脳症の程度がグレードⅢ以上であったのであり,平成22年6月3日の時点で10点,同年8月5日の時点で11点であり,特措法施行令7条1項3号ロの肝硬変(重度)の認定基準を形式的には満たしていないが,63日間にわたって10点以上であり,基礎疾患である肝硬変とそれに伴う脾臓シャントへの根本的治療がされていなかったことに照らせば,遅くとも本件手術を受けた平成22年11月8日までに総合的にCP分類10点以
上の状態にあったと判断すべきである。
特措法施行規則7条2項が各種資料に基づく総合的判断を認めていること,
厚生労働省通達が治療による一時的な症状改善にかかわらずに身体障害等級認
いた2時点におけるCP分類の検査結果がなくとも,総合的判断により肝硬変(重度)と認定することは可能である。
(被告の主張)
争う。
平成22年6月3日の時点では,
脳症はなく,
軽度の腹水が指摘されており,
TBil2.2,ALB2.8,PT(%)52.3であることから,CP分類は最大9点である。同年8月5日の時点では,脳症はなく,TBil2.0,
ALB2.7,PT(%)52.5であることから,仮に同日の時点で軽度の腹水があったとすると,CP分類は最大10点となるが,同年10月1日の時点では,軽度の肝性脳症を発症したものの,腹水の所見はなく,TBil1.6,ALB2.8,PT(%)52.5であったから,8点にとどまり,10点以上が継続していたとはいえない。なお,原告自身,当初は,同年6月3日の
時点のCP分類を9点であったと主張していた。
また,同年10月1日時点で,原告に羽ばたき振戦が見られたものの,意識清明であり,
頭がボーっとする程度の意識状態であったことから,
グレードⅡと評価すべきである。原告は,同年9月30日には自ら自転車を運転でき,自動車にぶつかった後も自力で帰宅できたこと,同年10月1日に目
が覚めずにいたという時間帯も朝であって,健康な者でも目を覚まさずに寝ていることがあり得る時間帯であることなどからすれば,これらは上記評価を左右するほどの事情とはいえない。そして,原告は,救急搬送先で投薬治療を受けたことにより全身倦怠感が改善し,入院中に明らかな脳症の出現もなかったのであり,和解協議に際して提出した診断書(甲B1761の15)において
も,肝性脳症の程度は同月7日の時点で軽度(グレードⅠ及びⅡ相当)であったとされている。
加えて,
同年11月8日の本件手術の術前診断において,

CP分類7点とされている(
以上の重篤なものであったとはいえない。
さらに,原告が主張するように肝性脳症の程度がグレードⅢ以上の重篤なものであったのであれば,その旨が医療記録に記載されるものと考えられるが,これを窺わせる記載はないから,かかる事態がなかったことが推認される。
以上によれば,本件手術後の原告の病態が肝硬変(重度)に進展したとすることはできない。
5
原告の症状が肝硬変(軽度)に当たるとして,除斥期間が経過したか否か(争点3)

(被告の主張)
原告は,遅くとも平成3年4月19日頃に肝硬変を発症しており,発症時点から提訴日までに20年を経過しているから,肝硬変発症による損害に係る損害賠償請求権は既に消滅した。
民法724条後段所定の除斥期間の起算点は,加害行為時がその起算点と
なるところ,じん肺事案のように蓄積進行性又は遅発性の健康被害のように加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には,例外的に,当該損害の全部又は一部が発生した時(損害発生時)が除斥期間の起算点となる(最高裁平成16年4月27日第三小法廷判決)。すなわち,損害の一部が発生していれば,たとえ最初に発生した損害がそ
の後進行・拡大したときであっても,最初の損害発生時に将来の損害を含む全損害が発生し,その時点で全損害につき1個の損害賠償請求権が成立しているため(最高裁昭和42年7月18日第三小法廷判決),最初の損害発生時から将来の損害を含む全損害について除斥期間が進行するのが原則である。そして,最初に発生した損害がその後進行・拡大した場合に,別個独立の新
たな損害の発生が法的に認められ,例外的に当該時点が新たな除斥期間の起算点となるのは,客観的に見て,質的に異なる新たな損害が発生し,その時
点で別個独立の新たな損害賠償請求権が成立したと評価できる場合,すなわち,法令等により症状等に基づく損害に対する評価が異なってしかるべき例外的な事情が認められる場合に限られる(最高裁平成6年2月22日第三小法廷判決)。
B型肝炎訴訟においては,除斥期間の起算点は損害発生時が原則であるところ(最高裁平成18年6月16日第二小法廷判決),その例外となる質的に異なる新たな損害が発生した場合とは,上位の病態又は死亡に進展した場合を指すと解すべきである。
すなわち,
特措法は,
肝硬変を
肝硬変(軽度)
又は肝硬変(重度)の病態に区分した上で,各病態発症後の経過や合併
症の有無及びその程度等の具体的事情を一切問わず,各病態ごとに一律に同額の給付金を支給しているのであり,それぞれ肝硬変(重度)又は死亡に進展しない限り,追加給付は一切行われない。また,特措法が,当該各病態等の発症時を除斥期間の起算点と規定していることも併せ考えれば,特措法の規定も,HBVに起因する肝硬変を発症したことによる損害につい
ては,当該肝硬変の発症後に合併症が生じた場合も含めて,原則として肝硬変の発症時が除斥期間の起算点となり,その例外である質的に異なる新たな損害が発生した場合とは上位の病態又は死亡に進展した場合を指すものであることを前提にしている。
したがって,HBVに起因する肝硬変を発症したことによる損害について
は,肝硬変発症時に将来の損害を含む全損害が発生していることから,その後,肝硬変の症状が悪化したり,あるいは,一旦その症状が軽快した後に再度悪化したりした場合であっても,その損害がHBVに起因する肝硬変の範囲内である限りは,質的に異なる新たな損害が発生したとは評価し得ないから,肝硬変を発症した時から20年が経過した時点で除斥期間が完成するこ
とになる。
特措法は,CP分類を用いて,肝硬変を肝硬変(重度)と肝硬変(軽度)に区分し,肝硬変(軽度)から肝硬変(重度)に病態が進行・拡大した場合には,損害に対する評価が異なってしかるべき例外的な事情があることから,各病態の支給金額及び除斥期間の起算点を別異に取り扱っているところ,合併症である肝性脳症はCP分類の一要素にすぎないものであり,その発症及び重症度のみをもって,既に生じた損害が進行・拡大したといえることはあっても,法的評価が異なる質的に異なる新たな損害が発生したとはいえない。
また,特措法は,肝硬変が症状の進行し得る病態であることや,その過程で合併症を発症する場合があることを当然の前提とした上で,死亡や肝がん
と同程度と評価されるほど重度に至った肝硬変を肝硬変(重度)と分類して死亡や肝がんと同額の給付金を支給することとし,その程度に至らない肝硬変については,症状の進行や合併症の有無及び程度にかかわらず肝硬変(軽度)と分類して給付金を支給することとしており,肝硬変に基づく損害に対する法的評価が合併症の有無やその程度によって直ちに異なるもの
ではないことを前提としているのであって,肝硬変(軽度)に相当する症状に基づく損害自体には,その後重症化して新たな合併症に罹患することによる損害を含まないものとしている。
原告は,平成3年4月19日までに肝硬変(軽度)を発症していたところ,その後,肝硬変の病態が進展し,肝硬変(重度)に進展した事情は
窺われないから,質的に異なる新たな損害が発生したとはいえない。
②胸腹部臓器の障害認定に関する専門検討会報告書は,肝性脳症を含む肝硬変の合併症を併発した場合には,いったん治癒とした場合は再発として
手帳認定基準において肝

カ)


④脾臓の免疫機能を補う肝臓の機能が低下している中で,死亡率が高く危険
の大きい脾臓摘出手術を受けることにより健康被害の程度は増大するところ,原告については,実際に本件手術を受けて脾臓を失い免疫機能が低下する状態となったこと,⑤平成22年当時において,原告には簡易な労務以外の労務に服することができない就労制限が課されており,平成3年当時との健康被害の差異は明らかであること,⑥平成22年10月には,昏睡度ⅢないしⅣに至る重い肝性脳症を発症していたことことに照らせば,原告は,本件手術を受けた平成22年11月8日の時点で健康被害の程度が大きく損害が質的に異なる程度に至った(質的に異なる新たな損害が発生した)と法的に評価できる旨主張する。

しかし,①については,原告の依拠する文献中の図(甲A63・1096頁・図9-1-9)は,肝性脳症を発症した者の累積生存率を示したものにすぎず,肝硬変患者の中で,肝性脳症を発症した者と,発症していない者を比較したものではないし,肝硬変患者の累積生存率は,肝性脳症の発症の有
根拠となり得ない。
②については,労災保険における治癒は,医学的な治癒ではなく,
の記載は,肝性脳症等の合併症を併発している場合は積極的な治療が必要であるため,治癒とすることは適当ではなく,いったん治癒とした場合に療養補償給付等の支給を可能とするために記載されたものにすぎないから,根拠となり得ない。
③については,原告の依拠する身体障害手帳認定基準の改正以前から,肝臓機能障害の認定基準にはCP分類が用いられていたところ,肝性脳症と腹水はCP分類における判定要素であったのであり,当該改正で新たに重症度
の判定要素として追加されたわけではないから,根拠となり得ない。④については,本件手術の死亡率が高いこと(3~5%であったこと)を
裏付ける客観的な根拠はなく,生体肝移植手術1年後の累積生存率が約8
れば,本件手術が特に危険性の高い手術であり,生体肝移植手術に準ずるような危険な手術であったとはいえない。また,脾臓摘出後においては,非代償性肝硬変症例における細菌感染症の頻度を14.5~34%とする報告も
重症例は,OPSIとされ,細菌感染症とは区別して論じられており,肝硬変症例で脾臓を摘出した252例中,
術後にOPSIで死亡したのは1例
(頻
度0.4%)にとどまると報告されていること(同上)に照らせば,細菌感染症が,OPSIにまで至り,死亡するという場合が多いとはいえない。かえって,グレードB及びCの肝硬変患者については,脾臓を摘出した1年後のCP分類が有意に改善し,肝容量が有意に増大するなど,脾摘が肝機能を改善

),実際に,原告についても,

本件手術後に脳症は消失したと診断されている。
⑤については,そもそも平成3年当時,原告は学生であり,未だ就労して
の有無及び程度を比較できないこと,原告に対する就労制限は,平成18年8月18日,平成21年7月30日には制限が強められたものの,平成22年12月24日には制限が緩和され,平成26年9月2日には就業条件見直と,原告

の指摘する就労制限の程度によって,質的に異なる状態に至ったものとはいえない。
⑥については,前記4(被告の主張)のとおり,原告の昏睡度はグレードⅡにとどまっていた。
したがって,原告が肝硬変を発症したことによる損害は,遅くとも平成3年4月19日には発生しているのであり,同日が除斥期間の起算点となる。
(原告の主張)
争う。
仮に,原告が肝硬変(軽度)であることを前提とするとしても,除斥期間の起算点は,以下のとおり,原告が肝性脳症を発症しその治療のために脾臓摘出手術を受けた平成22年11月8日であると解すべきである。すなわち,HBVの持続感染による肝硬変は進行性の疾病であるが,その後重症化し,それに対応した損害が発生するかどうかは未確定であるという特質を持つところ,特措法は,長期間にわたり被告が実施した集団予防接種等という施策により発生した大量の被害者を迅速に救済すべく基本合意書1
に沿って制定されたものであり,同法制定後も基本合意書2により改正されたものであり,B型肝炎訴訟における質的に異なる損害概念は何ら固定・確立されたものではないばかりか,一般不法行為上の質的に異なる損害の解釈が同法が定めた病態の区分に限定されるものではないから,特措法の病態区分内であっても,一般不法行為法の解釈により,発症当初とは質的に
異なる損害が生じたと法的に評価できる場合には,その時点が除斥期間の起算点となる。
質的に異なる損害が生じたか否かは,健康被害の程度が大きいか否かにより判断されるべきであり,法令等による裏付けの有無はその判断要素の一つにすぎない。

これを本件についてみると,①肝硬変に罹患した患者が肝性脳症を発症した場合には,発症がなかった場合と比べて死亡率が高まりその予後に格別の違いをもたらすものであり,肝硬変の代償期,非代償期の分類の指標となっ
省の報告書の記載が,肝性脳症等の合併症の併発により明らかに症状が悪化して積極的な治療が必要となり,健康被害の程度が大きく異なることを認め逆
的であることを踏まえて,身体障害者手帳認定基準が肝性脳症の発症を肝硬
④脾臓の免疫機能を補う肝臓の機能が低下している中で,死亡率が高く危険の大きい脾臓摘出手術を受けることにより健康被害の程度は増大するところ,原告については,実際に本件手術を受けて脾臓を失い免疫機能が低下する状
態となったこと,⑤平成22年当時において,原告には簡易な労務以外の労務に服することができない就労制限が課されており,平成3年当時との健康被害の差異は明らかであること,⑥平成22年10月には,グレードⅢないしⅣに至る重い肝性脳症を発症していたことことに照らせば,原告は,平成3年4月に肝硬変と診断された時点では,合併症である肝性脳症を発症する
ことを前提に損害賠償を求めることは不可能であって,かかる一連の事態は予め確定できなかったものであるから,本件手術を受けた平成22年11月8日の時点で健康被害の程度が大きく損害が質的に異なる程度に至った(質的に異なる新たな損害が発生した)と法的に評価できるというべきである。6
原告の損害額(包括一律請求の可否等)(争点4)

(原告の主張)
包括一律請求の可否
原告の被った損害は,肉体的,精神的なもののみならず,家庭的,社会的,経済的損害まで多岐にわたり,これらが相互に影響し合い,複雑かつ深刻な影響をもたらしているばかりか,現在の健康被害にとどまらず,今後更に重い病変に進行する可能性があり,その場合には生活が全面的に破壊されることに照らせば,原告の損害額の算定に当たっては,個別積上方式ではなく,包括一律請求方式によるべきである。
そして,B型肝炎が進行性の病気で症状の段階毎に被害の程度が異なるこ
とからすれば,病態毎に異なる評価をすべきである。
主位的主張(肝硬変〔重度〕)


肝硬変に罹患すると,死に至る蓋然性が高まり,身体的苦痛も飛躍的に大きくなり,入院治療の必要性を含めた経済的,精神的被害は極めて大きく,闘病のため通常の生活を送ることは極めて困難になる。
原告は,B型慢性肝炎,肝硬変と診断され,抑制した生活と勤務を余儀なくされた上,平成22年には重度の肝性脳症を発症し,本件手術を受け
ることとなり,多大な肉体的・精神的苦痛及び経済的損害を被ったものであるから,原告の損害としては,治療費,入院雑費,逸失利益,慰謝料等の損害が認められるべきであり,
その損害額は3600万円を下回らない。
個別積み上げ方式により算出される損害を考慮するとしても,代償性肝硬変につき労災保険の障害等級9級,脾臓摘出につき同13級として,併
合8級(労働能力喪失率45%)となり,その逸失利益は上記額を優に上回る。
(計算式)
基礎収入612万7800円(賃金センサス平成22年大学・大学院卒35~39歳)×0.45(労働能力喪失率)×14.8981(本件
手術から67歳までのライプニッツ係数)=4108万1659円イ
原告は,被告の不法行為により被った損害賠償を求めるために本件訴訟提起を余儀なくされたところ,そのために必要な弁護士費用は損害額の4%である144万円が相当である。


合計3744万円
予備的主張(肝硬変〔軽度〕)


原告が肝硬変(重度)に当たらないとしても,肝硬変(軽度)に当たるものであり,その損害額は2500万円を下回らない。


原告は,被告の不法行為により被った損害賠償を求めるために本件訴訟提起を余儀なくされたところ,そのために必要な弁護士費用は損害額の4%である100万円が相当である。


合計2600万円

(被告の主張)
否認ないし争う。
第3
1
当裁判所の判断
認定事実
前記前提事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告のHBV感染,慢性肝炎の発症及び治療経過等について,以下の事実が認められる。HBV感染
原告(昭和46年5月生まれ)は,HBV持続感染者であるところ,満7
歳になるまでの間に集団予防接種等を受けた(甲B1761の3)。HBe抗原陽性慢性肝炎の発症,A病院への入通院(昭和63年~平成2年)
原告は,昭和63年11月1日,献血の際に肝機能異常とHBs抗原陽性を指摘され,C医院を受診して血液検査を受けたところ,異常値(AST2
27,ALT248)であったため,A病院を紹介された。
原告は,同年12月19日,A病院に入院し,検査結果は,AST141,ALT138,TBil1.5,PT15.4秒であり,肝生検により慢性活動性肝炎と診断され,
主治医からインターフェロン療法の説明を受けたが,
高校通学があり治療は待ってほしいとして,これを受けなかった。
原告は,昭和64年1月4日にA病院を退院した後は,同病院へ外来通院していたが,平成元年5月25日以降は受診せず,放置していた。(以上につき,甲B1761の8・2枚目,甲B1761の17・3頁)
肝硬変の発症,A病院への入通院(平成3年)
原告は,平成2年4月から神戸市内の予備校に入学して寮生活を送ってい
たが,この頃より長時間の起立後などに,下腿や足背に皮下出血,紫斑が生じ,色素沈着を残すようになり,平成3年3月28日に再び下腿に紫斑が出
現して色素沈着を残すようになったことから,同月29日,A病院を受診したところ,軽度の黄疸を伴う肝機能異常が認められ,同年4月11日に入院した。
入院時の血液検査の結果は,TBil2.7,ALT61,アンモニア87,TP6.7であった。
入院後の腹部エコーでは巨脾を伴う肝硬変症で,肝内部エコーでは腹水は認めず,内視鏡検査では下部から中部食道にまで及ぶ軽度の静脈瘤で,肝生検では活動性肝炎を伴う肝硬変とそれぞれ診断された。また,タンパク合成能の低下,ビリルビン上昇を認めるものの,腹水,浮腫はなく,脳症の症状もみられず,現時点ではCP分類Aの肝硬変症と診断された。担当医の退院時の考察によれば,現時点では自覚症状に乏しいが,生命予後はpoorと判断され,1~2年以内に肝不全症状が発現してくる可能性が高いと思われるとされ,今後対症的な治療を行っていかざるを得ない状態とされたところ,家族から,大学に入学したため可能な限り学生生
活を送らせてやりたいとの申し出があり,
同年5月9日に同病院を退院した。
退院時の血液検査の結果は,TBil2.2,AST22,ALT34であった。(以上につき,甲B1761の8・2~3枚目,甲B1761の17・3~4頁)
D病院への通院(平成3~6年)

原告は,神奈川県相模原市に居住して東京都内の大学に通っていたことから,平成3年5月18日,A病院から紹介されたD病院を受診し,代償性肝硬変と診断され,同年6月22日の血液検査の結果は,ALT66,TBil1.7,ALB3.9であった(甲B1761の17・1,5,20頁,甲B1761の31・2頁)。

平成4年2月29日の腹部エコー検査では,典型的な肝硬変パターンで著明な脾腫の所見があり,脾門部近傍にシャントが出現しており門脈圧亢進症
と診断された(甲B1761の17・47頁)。
平成5年2月13日,平成6年2月5日及び同年10月1日の腹部エコー検査では,少量の腹水が見られたが,担当医はこれを異常な量とは判断しなかった(甲B1761の17・15,48~50頁)。
平成5年2月13日の血液検査の結果は,ALT39,TBil2.2,ALB3.
8であり,
平成6年10月1日の血液検査の結果は,
ALT20,
TBil3.1,ALB4.1であった(甲B1761の17・33,43,45頁)。
E病院への入通院(平成7~8年)

原告は,平成7年4月,埼玉県内で建設企業に就職した。その後,同年12月,鎖骨を骨折してF病院に入院した際,肝硬変と食道静脈瘤を指摘されたため,同年12月12日,E病院を受診した。上記同日の血液検査の結果は,ALT32,TBil3.6,ALB3.8,PT(%)44.6であり,同月18日の腹部エコー検査では肝硬変であり脾臓は極めて腫大してお
り脾静脈の拡張や脾腎シャントが見られるとされ,同月20日の内視鏡検査では下部から中部食道にまで及ぶ食道静脈瘤と診断され,同月26日には静脈瘤の治療方法の一つである内視鏡的静脈瘤結紮術は施術しなくてよいと診断された。(以上につき,甲B1761の18・1~3,9,10,17~19,39頁,甲B1761の31・2頁)

平成8年2月13日には,ALT47,TBil2.6,ALB3.8,PT(%)43.8等の血液検査の結果から,進行した肝硬変と診断された(甲B1761の18・3~6頁)。
同年4月18日の内視鏡検査では,食道・胃静脈瘤出血の代表的な危険因子である発赤所見が陽性となり,同年7月9日の内視鏡検査の結果,内視鏡
的静脈瘤結紮術の適応ありと診断された(甲B1761の18・20~22頁)。

原告は,同年9月18日,E病院に入院し,二度にわたって内視鏡的静脈瘤結紮術を受け,同月30日には静脈瘤が認められない状態となったことから,同年10月1日に退院したところ,担当医の退院時考察では,肝硬変の静脈瘤に対して上記施術は有効であるが,ALB3.6,PT(%)43等で,肝硬変はほぼ完成されていると診断されている(甲B1761の18・25頁)。
Gクリニックへの通院(平成8~17年)
原告は,神戸市に転勤した後の平成8年10月25日から,就職先の産業医の紹介でGクリニックに通院した。
同日の血液検査の結果は,
ALT26,

TBil2.3であった(以上につき,甲B1761の19・1,52頁)。平成9年1月13日から平成13年7月9日まで,リーバクト(低アルブミン血症を呈する非代償性肝硬変患者に対して同症の改善のために処方される薬剤)の処方が継続された(甲B1761の19・5~8,10~13,17~19,23~26頁)。

平成11年2月6日,CT検査が行われた結果,肝臓は全体に萎縮し,著明な脾腫があり,脾門部には拡張した脾静脈と側副静脈と思われる管腔構造があり,典型的な肝硬変の所見であり,血栓形成により,脾静脈から上腸間膜静脈にかけて石灰化があると診断された
(甲B1761の19・15頁)

原告は,平成11年3月30日,Gクリニックから紹介されたH病院を受
診し,特に外科的には治療することがない旨の説明を受けた(甲B1761の19・16頁)。
同年5月15日の血液検査の結果は,ALT21,TBil4.0,ALB3.1であった(甲B1761の19・42頁)。
原告は,その後,平成14年5月まではGクリニックにほぼ毎月通院して
いたが,同年11月6日及び平成17年4月2日の受診を最後に通院しなかった(甲B1761の19・17~19,23~27,30~32頁)。
B病院への通院(平成18年)
原告は,転職して職場から近いB病院を平成18年7月7日から受診したところ,同日の血液検査の結果は,HBs抗原(±),HBs抗体(-),HBe抗原(-),HBe抗体(+),HBV-DNA基準値(2.6m/l)未満,ALT24,TBil2.5,ALB2.9,PT(%)50,AT51であった(甲B1761の20・6,8,14,16頁)。
同月25日に腹部エコー及び内視鏡検査が,同年8月16日にCT検査が行われた結果,非代償性肝硬変で脾腎短絡路があると診断され,就労については,勤務先への回答には,通常の机上勤務以外は不可とあり,就業に関する主治医意見書では,内勤・外勤とも可とした上で,深夜勤務,残業は不可との就業条件が必要と判断された(甲B1761の20・10,12,17~20頁)。
同年8月18日の血液検査では,アンモニア159であった(甲B1761の20・14頁)。

同月25日には,アミノレバンEN(肝性脳症を伴う慢性肝不全患者の栄養状態を改善する効能又は効果があるとされる薬剤)及びラクツロース(高アンモニア血症に伴う精神神経障害,脳波異常,手指振戦を改善する効能・効果があるとされる薬剤)の処方が開始された(甲B1761の20・20頁,甲B1761の26・2頁)。

同年11月24日の血液検査の結果は,ALT27,ALB2.9,TBil2.5,アンモニア215,PT(%)58であり,上記各薬剤が処方されているにもかかわらず,アンモニアの改善が見られないため,きちんと薬を飲むように指導を受け,飲まないと自動車の運転をしてはいけないと注意された(甲B1761の20・14,16,20頁)。

B病院への通院(平成19年)
原告は,平成19年5月18日,腹部エコー検査で脾腎短絡路著明と診断
され,残薬があったことから,医師の指示どおり服薬するよう指導を受けた(甲B1761の20・21,25頁)。
同日の血液検査の結果は,ALT24,TBil3.0,ALB2.9,アンモニア106であった(甲B1761の20・15頁)。
同年10月5日の血液検査では,アンモニア201であり,未だ改善していなかったところ,原告は,ラクツロースを飲むと下痢をするため朝夕しか服用していないと述べたことから,アルギU(血中アンモニアの上昇を抑制する効能・効果を有する薬剤)が追加処方された(甲B1761の20・15,21頁)。

B病院への通院(平成20年)
原告は,平成20年4月15日,CT検査を受け,脾腎短絡路著明と診断された(甲B1761の25・1頁)。
同年12月26日の血液検査の結果は,ALT32,ALB3.1,TBil1.9,アンモニア152,HBs抗原(-),HBs抗体(+)とな
り,HBs抗原のセロコンバージョンとなったが,アンモニアは改善が見られず,原告が薬(アルギU)は余り飲んでないと述べたことから,ビタメジン(ビタミンB1製剤)が追加処方された(甲B1761の21・10~11頁)。
B病院への通院(平成21年中)

平成21年2月20日,アンモニアが66と大きく改善したところ,医師は薬をきちんと飲んだためと推測した(甲B1761の21・11頁)。同年4月10日の血液検査では,HBV-DNA不検出となり,アンモニアが69に安定していた(甲B1761の21・12~13頁)。同年6月5日,アンモニアが137と上昇したところ,原告は,薬を半分
くらいしか飲んでいないと述べた(甲B1761の21・13~14頁)。同年7月24日の血液検査の結果は,PT(%)47.4,ALT36,
TBil3.2,ALB3.0,アンモニア123であった(甲B1761の21・14頁)。
同月30日には,就業上の注意として服薬を守ることとした上で,内勤のみ可,深夜勤務,残業,宿泊を伴う出張勤務は否との条件付きの就業が可と判断され,制限が強められた(甲B1761の27・2枚目)。同年10月9日の血液検査の結果は,ALT44,TBil3.1,ALB2.7,アンモニア83であり,腹部エコー検査では,脾腎短絡路著明で,肝表面にごく少量の腹水の存在を指摘されたが,医師からは少し安静にするようにとの指示があったにとどまり,腹水を減らすための治療(利尿剤の処
方等)は行われなかった(甲B1761の21・16~17頁,甲B1761の25・11頁)。
B病院への通院(平成22年)
原告の平成22年2月5日の造影CT検査では,腹水は確認されなかった(甲B1761の25・16頁)。

同年6月3日の血液検査の結果は,PT(%)52.3,TBil2.2,ALT24,ALB2.8,アンモニア87であり,エコー検査では,脾門部に拡張蛇行する多数の血管と肝周囲の腹水の存在を指摘された(甲B1761の21・22~23頁,甲B1761の25・17頁)。
同年8月5日の血液検査の結果は,PT(%)52.5,TBil2.0,
ALT27,ALB2.7,アンモニア141であった(甲B1761の21・25頁)。
B病院への入通院(平成22年10月1日~同年11月3日)
原告は,平成22年9月28日頃から便が出ておらず,同月30日の夕方から食事がとれず,帰宅後にかかりつけの病院に自転車を運転して行こうと
したところ,停車していた自動車に衝突したため帰宅し,遅くとも翌10月1日午前から全身倦怠感,右側腹部痛が出現し,少量の胃内容物を嘔吐(黒色でもろもろした)したとして,心配して訪ねてきた勤務先の者が救急車を呼び,同日午後4時頃にB病院に救急搬送され,肝性脳症,消化管出血疑いで緊急入院した。搬送直後の原告の意識状態は,JCS(ジャパン・コーマ・スケール)I-1,覚醒良いがまだ清明とはいえない,見当識:名前○,年齢○,生年月日何とか正解,月日△,場所何とか正解,人○,主訴として10/1嘔吐したら黒かった,意識朦朧となり,昨日は何とか人に連れられて病院来たことしか覚えていないというものであった。(以上につき,甲B1761の10・1枚目,甲B1761の21・28~29頁,甲B1761の22・12,41頁,甲B1761の27・
3~4枚目,甲B1761の31・4~6頁)
同年10月1日の血液検査の結果は,TBil1.6,ALT23,ALB2.8,アンモニア172,PT(%)52.5であり,CT検査では,腹水の所見はなかった(甲B1761の21・26~27,甲B1761の28)。

外来で処方されていた内服薬は中止とされ,アルギメート(高アンモニア血症に対する点滴),ファモチジン(上部消化管出血等に対する薬剤)を含む輸液が開始された(甲B1761の22・9頁)。
同月2日の意識状態はやや眠そうであるものの受け答えはしっかりでき,下血は認めなかったため,活動性出血は否定的と判断され,ラクツロースの
内服が再開された(甲B1761の22・19~20頁,甲B1761の23・3頁)。
同月3日は,受け答えはしっかりできる状態であった(甲B1761の22・22頁)。
同月4日の血液検査の結果は,PT(%)50.6,TBil1.8,AL
T20,ALB2.3,アンモニア160であり,アンモニア高値の原因については,排便コントロールの不良も一因であるが脾腎シャントの影響が強
いと考えられるとされており,排便を促すため,ラキソベロン及びマグミット(いずれも緩下剤)の処方が開始された(甲B1761の22・20~25頁)。
同月5日,医師は,肝硬変→門脈圧亢進症→S-R(脾腎)シャントを肝性脳症の原因と判断した上で,脾腎シャントに対するバルーン下逆行性経静脈的塞栓術の適応を検討した結果,脾静脈の石灰化が高度であり脾腎シャントの原因となっている可能性があること,CT上,一部脾梗塞と思われる低吸収域(色の階調が低く黒めになった領域)が認められること,シャント径が大きすぎて塞栓術をするにはまず脾動脈を閉塞させて血流量を減らさ
なければならないことから,脾臓を摘出するのが良いと判断し,低栄養状態の改善を期待してアミノバクト(低アルブミン血症改善のための分岐鎖アミノ製剤)の処方を開始し,アンモニア値のコントロールを目的としてアルギメートの点滴を増量した(甲B1761の22・27~30頁)。上記同日の血液検査の結果は,TBil1.8,ALT21,ALB2.
3,アンモニア211であった(甲B1761の22・24頁)。同月6日,造影CT検査が行われたが,腹水の所見はなく,全身状態は良好であり,腹痛もなく,食事摂取も良好であった(甲B1761の22・32頁,甲B1761の25・22頁)。
同月12日の血液検査の結果は,アンモニア233であったが,本人に自
覚症状はなく,一旦退院して外来でフォローすることとされた(甲B1761の22・39頁)。
同月13日,全身倦怠感もアンモニア値も改善し,入院中明らかな脳症の出現もないことから,経過は良好であるとして,退院した(甲B1761の22・42頁)。

退院後は,
外来を定期的に受診し,
アルギメートの点滴を継続していた
(甲
B1761の21・29~35頁)。

同年11月1日の外来受診時は,振戦はなく,脳症コントロールもできている状態であった(甲B1761の21・35頁)。
B病院での脾臓摘出手術(平成22年11月4~24日)
原告は,平成22年11月4日,脾臓等摘出手術(本件手術)を受けるためにB病院に再入院した(甲B1761の22・42頁)。
同日,内科医師から,
根本治療しえる肝性脳症と診断されたことから,

今後も元気に過ごしてもらうためにも手術の方がbetterと考える。(手術することでshunt血流低下と肝機能改善を見込める)

旨の説明が行われ,原告は,

手術のリスクはあるのは分かっています。元気になる方法を提案頂きそれを受けようと考えています

と回答した(甲B1761の22・52~53頁)。
同日の血液検査の結果は,TBil1.4,ALT31,ALB2.9,アンモニア198であり,同月5日は,PT(%)51.4であった(甲B1761の22・46,50頁)。

同月6日,外科医師から,肝臓は肝硬変は進んでいますが形・容積から考えると肝臓が働けなくなって肝性脳症が出てくる状態ではないと考えられるため,肝性脳症の原因は肝臓の機能低下ではなく,脾腎シャント(短絡路)が太くなり,蛇行していることから,肝臓というフィルターを通らずに全身に解毒されない血流が回る為,一番影響を受けやすい脳に脳症が生じた結果であり,肝硬変の合併症として珍しくないこと,本件手術の危険性としては,手術による死亡のリスクは約3~5%と考えられ,統計上,肝胆膵癌での高難度手術での死亡率が約1%なので,危険性の高い手術であると考えられることが説明された(甲B1761の22・56~57頁)。

同月8日,
術前診断において,
CP分類7点でグレードBと診断された
(甲
B1761の11・2枚目,甲B1761の22・110頁)。

上記同日,本件手術が行われ,脾臓とともにシャントが除去され,術後,外科医師から原告の家族に対し,CTで見えていた全てのシャントを採ることができたこと,輸血量が大量になったので,1週間くらいは黄疸が強く出ると思われること,黄疸の数値が上がり続けた場合には肝臓がやられて命に関わる場合もあることが説明された(甲B1761の22・73頁)。
同月9日の血液検査の結果は,PT(%)32.4,TBil5.5,ALT17,ALB4.0,アンモニア88であった(甲B1761の22・50~51頁)。

同月10日の血液検査の結果は,PT(%)45.5,TBil6.1,ALT35,ALB3.8,アンモニア99であった(甲B1761の22・80~81頁)。
同月15日からバイアスピリン錠(抗血小板剤)の内服が開始された(甲B1761の23・15頁)。

同日の血液検査の結果は,TBil1.4,ALT28,ALB3.0,アンモニア33であった(甲B1761の22・51頁)。
同月16日の腹部CT検査では,上腸間膜静脈合流部から中結腸静脈付近にまで血栓があることを指摘されているほか,腹水の所見があった(甲B1761の22・102頁)。

同月24日の血液検査の結果は,PT(%)69.9,TBil0.9,ALT24,ALB3.2,アンモニア53であり,経過が良好であることから,同日,原告は退院した(甲B1761の22・106~110頁)。B病院の退院後の状況(平成22年12月以降)
原告は,退院後の初回の外来受診である平成22年12月3日,ズキズキ
とした腹痛があり,夜間37.5℃程度の微熱があったことから,血栓症に対してのワーファリン(プロトロンビン時間活性値を下げる作用がある抗凝
固剤)の投与が開始された(甲B1761の21・37頁)。
同月10日,ワーファリンを増量し,同月24日に再診することとなった(甲B1761の21・39頁)。
同月24日の造影CT検査では腹水は消失し,同日以降,CT検査及びエコー検査で腹水の所見は現れていない(甲B1761の21・42,49,
52,65頁,甲B1761の26・5,14頁)。
上記同日の造影CT検査では,上腸間膜静脈合流部から中結腸静脈付近の血栓はほぼ消失するなどしたことから,外科は終診となった(甲B1761の21・42頁)。
上記同日の血液検査の結果は,TBil0.5,ALT16,ALB3.
4,PT(%)57.1であった(甲B1761の21・38~39頁)。上記同日,就業上の注意として,内勤・外勤とも可とされ,宿泊を伴う出張勤務は可と判断されたものの,深夜業務,宿直(月1~2回)は否と判断され,制限は弱まった(甲B1761の27・6枚目)。平成23年11月22日,ワーファリンを含む全ての内服薬が中止となった
(甲B1761の21・57~58頁)。
原告は,
平成24年2月24日,
門脈血栓症の増悪と診断されて再入院し,
ヘパリン(抗凝固剤)の点滴を行うとともに,ワーファリンの服薬を再開することで,症状の改善が徐々にみられたことから,同年3月2日に退院し,その後もワーファリンの投与が継続され,
3か月に一回程度通院している
(甲

B1761の2164~66頁,

甲B1761の22・135~137頁)

平成26年9月2日,就業上の注意として,平成22年12月24日と同様の制限が付されたものの,
就業条件を見直す時期は36か月後とされた
(甲
B1761の27・12枚目)。
2
争点1(被告の集団予防接種等と原告のHBV感染の因果関係の有無)について

て注射器が連続使用された場合に先行する被接種者にHBV感染者がいる場合
を指摘できるところ,本件全証拠によっても,集団予防接種等の他にHBV感
染の原因となり得る事情があったとは認め難い。
かかる事実に照らせば,原告は,集団予防接種等によってHBVに持続感染したものと推認するのが相当である。
3
争点2(原告の症状が肝硬変(重度)に当たるか否か)について
原告は,
本件手術を受けた平成22年11月8日当時の病態が特措法上の
肝硬変(重度)に該当することを前提とした主張をするところ,同法施行規則7条1項3号ロは,肝硬変(重度)の認定基準として,90日以上の間隔をおいて2回の医師の診断を受けた結果,いずれの診断においても,CP分類の合
記1の原告の症状に照らして,原告の主張する各時点のCP分類を検討する。
があること(2点),TBil2.2(2点),ALB2.8(2点),PT(%)52.3(2点)であること,肝性脳症が発症した所見が見当たらないこと(1点)を指摘できるから,CP分類は合計9点となる。
(2点),ALB2.

7(3点),PT(%)52.5(2点)であること,肝性脳症が発症した所見が見当たらないこと(1点)を指摘できるから,CP分類は合計8点となる(なお,所見は見当たらないが,仮に同日の時点で軽度の腹水が存在していた〔2点〕とすると,CP分類は合計10点となる。)。
に伴う意識レベルの低下の程度は,JCSI-1(刺激しないでも覚醒し
ている・だいたい意識清明だが今ひとつはっきりしない),覚醒良いがまだ清明とはいえないと受入病院において判断され,見当識については,名前,年齢,生年月日を言えるものであったことに照らすと,昏睡度は最大でもグレードⅡにとどまると評価されること(2点)(なお,原告は,この時点で昏睡の⑥〕,この点についての判断は上記のとおりとなる。),TBil1.6(1点),ALB2.8(2点),PT(%)52.5(2点)であることを指摘できるから,CP分類は7点となる。
,C
P分類7点と評価されたことを指摘できる。

以上によれば,特措法7条2項の趣旨を踏まえても,原告について特措法施行規則7条1項3号ロ所定の90日以上の間隔をおいて2回の医師の診断を受けた結果,いずれの診断においても,CP分類の合計点数が10点以上であったことを認めるに足りない。したがって,本件手術(平成22年11月8日)の時点で,原告が特措法所
定の肝硬変(重度)の病態にあったとの原告の主張は採用できず,特措法所定の肝硬変(軽度)の病態にとどまっていたこととなる。
4
争点3(原告の症状が肝硬変(軽度)に当たるとして,除斥期間が経過したか否か)について

民法724条後段所定の除斥期間の起算点は,加害行為時がその起算点となるところ,じん肺事案の蓄積進行性又は遅発性の健康被害のように加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には,損害の発生を待たずに除斥期間が進行することを認めることは,被害者にとって著しく酷であるだけでなく,加害者としても,自己の行為により生じ得る損
害の性質からみて,相当の期間が経過した後に損害が発生し,被害者から損害賠償の請求を受けることがあることを予期すべきであると考えられること
から,例外的に,当該損害の全部又は一部が発生した時(損害発生時)が除斥期間の起算点となると解される(最高裁平成16年4月27日第三小法廷判決民集58巻4号1032頁,同年10月15日第二小法廷判決民集58巻7号1802頁)。
肝炎発症から本件手術に至る経緯等(前記1)にも照らせば,B型肝炎を発症したこと等による損害は,
その損害の性質上,
加害行為
(集団予防接種等)
が終了してから相当期間が経過した後に発生するものと認められるから,上記と同様,除斥期間の起算点は,損害発生時となると解される(最高裁平成18年6月16日第二小法廷判決民集60巻5号1997頁,以下,上記各判決を総称して平成16年,18年最判という。)。
この点,被告は,じん肺罹患について雇用者に対する損害賠償請求権の消滅時効の起算点が問題となった最高裁判決(最高裁平成6年2月22日第三小法廷判決民集48巻2号441頁,以下平成6年最判という。)を基
に,最初に発生した損害がその後進行・拡大した場合に,別個独立の新たな損害の発生が法的に認められ,例外的に当該時点が新たな除斥期間の起算点となるのは,客観的に見て,質的に異なる新たな損害が発生し,その時点で別個独立の新たな損害賠償請求権が成立したと評価できる場合であるところ,これは,法令等により症状等に基づく損害に対する評価が異なってしかるべ
き例外的な事情が認められる場合に限られると主張する。
そこで検討するに,平成6年最判は,じん肺法が,じん肺に関して適正な予防及び健康管理その他必要な措置を講ずることにより労働者の健康を保持すること等を目的として(同法1条),じん肺健康診断(エックス線写真像と肺機能障害の組合せ)の結果に基づいて健康管理の区分(管理一~四)が
行政上の手続により決定され,事業者は当該労働者の管理区分に応じて従事させる作業内容を配慮すること等を定めていること(同法4,21~23条
等)を前提として,じん肺による雇用者の安全配慮義務違反を理由とする損害の消滅時効について,じん肺に罹患した患者の症状が進行し,より重い行政上の決定を受けた場合において,重い決定に相当する病状に基づく損害を含む全損害が,最初の行政上の決定を受けた時点で発生していたものとみることはできず,各管理区分の行政上の決定に相当する病状に基づく各損害は質的に異なるものであって,重い決定に相当する病状に基づく損害は,その決定を受けた時に発生し,その時点からその損害賠償請求権を行使することが法律上可能となるものとして,最終の行政上の決定を受けた時から進行すると解したものであるところ,このような解釈は除斥期間についても同様に
あてはまると解される。
しかるに,平成6年最判が,じん肺について,客観的に見て質的に異なる新たな損害が発生し,その時点で別個独立の新たな損害賠償請求権が成立したと評価できる場合は,重い行政上の決定を受けた場合のように法令等により症状等に基づく損害に対する評価が異なる場合以外には存しないとまで断
じたものであるかは疑問の余地がある上,B型肝炎の場合には,特措法が支給金額を定める病態区分として肝硬変の重度・軽度等を定めるところ(前記
付金を支給する特措法上の和解をするに当たっての区分であるにとどまり,じん肺法に基づく管理区分のように,粉じん作業に従事する労働者に対する健康診断の方法の定め(3条),区分に従った健康管理(4条),管理区分の決定手続(12,13条),管理区分決定等に対する審査請求(18条),事業者の作業転換努力義務(21条)及び転換手当支払義務(22条)といった,決定に当たっての実体的・手続的要件と多岐にわたる効果が定められたものと同等の概念とは直ちにはいえない。

したがって,このような管理区分概念を基とする平成6年最判の解釈がB型肝炎の場合に当てはまるとは必ずしもいえず,B型肝炎による損害につい
て質的に異なる新たな損害が発生した場合を,法令等により症状等に基づく損害に対する評価が異なってしかるべき例外的な事情が認められる場合,すなわち,特措法上の肝硬変(軽度)であったHBV感染者が同法上の上位の病態である肝硬変(重度)又は死亡に進展した場合のみを指すものと解すべきであると直ちにはいえない。
原告は,前記3の認定・説示のとおり平成22年11月8日の本件手術の時点で平成3年4月19日までに発症していた特措法所定の
肝硬変(軽度)
の病態にあったところ,同病態の範囲内においても,肝性脳症の発症とその治療としての本件手術によって平成22年11月8日の時点で平成16年,
18年最判にいうところの損害が新たに生じたといえるか否かについてさらに検討する。

原告は,肝硬変に罹患した患者が肝性脳症を発症した場合には,発症がなかった場合と比べて死亡率が高まりその予後に格別の違いをもたらすものであり,肝硬変の代償期,非代償期の分類の指標となっていると主張す
る。
確かに,慢性再発型の肝性脳症の初回発症時の覚醒率は76%,累積生存率は,1年で約60%,3年で約20%,4年で約10%とされていること(
しかし,累積生存率の点は,あくまで肝性脳症を発症した者の累積生存
率を示したものにすぎず,肝硬変患者の中で,肝性脳症を発症した者と,
ウ),肝硬変の合併症としての肝性脳症それ自体の危険度や,肝性脳症それ自体が死亡に寄与する程度を具体的に示すものとは必ずしもいえないところ,肝硬変患者の中での累積生存率は,肝性脳症の発症の有無のみによってではなく,CP分類のグレードにより調査・分析され,グレードによ
変の予後不良因子としては,
肝性脳症の他にも複数の合併症があること
(前

て,発症がなかった場合と比べて死亡率が高まりその予後に格別の違いをもたらすものであるとまでは認められないから,上記主張は採用し難い。イ
原告は,労災保険における障害認定に関する厚生労働省の報告書の記載が,肝性脳症等の合併症の併発により明らかに症状が悪化して積極的な治療が必要となり,健康被害の程度が大きく異なることを認めていると主張する。
確かに,労災保険における障害認定に関する厚生労働省の報告書に,肝
性脳症等の合併症を併発した場合には積極的な治療が必要であるので肝炎の治癒とすることは適当でなく,一旦治癒した場合には再発として取り扱
労災医療を担当する医師に向けて作成したリーフレットに,再発の定義として,傷病がいったん症状固定した後に再び発症し,症状固定時の状態から見て,明らかに症状が悪化していること等の要件を満たす場合であると
労災保険における障害認定においては,慢性肝炎が症状固定した後に肝性脳症を発症した場合には,症状固定時から明らかに症状が悪化したものとして再発と取り扱う事案があることが認められる。
しかし,労災保険における治癒概念は,いわゆる症状固定の状態を
な保護をするために必要な保険給付を行うとの労働者災害補償保険法の趣旨・目的に照らせば,上記記載は,肝性脳症等の合併症を併発している場合は積極的な治療が必要であるため,
治癒と扱うことは適当ではないとし,
いったん治癒したと扱った場合においても同法に基づく保険給付を可能とするために記載されたものと解されるし,少なくとも同法の下での傷病の
取扱いをもって,趣旨・目的を異にする国家賠償法上の損害の発生の有無を画することが相当であるとはいえないから,上記主張は採用し難い。ウ
原告は,CP分類のグレードB,Cの病態が不可逆的であることを踏まえて,肝性脳症の発症を肝硬変の重症度を判断する重要な要素とするように身体障害者手帳認定基準が改正されたと主張する。

確かに,身体障害者福祉法による身体障害者手帳認定基準における肝機能障害の認定基準等級表1級に該当する障害は,従前はCP分類の合計点数が10点以上であって,血清アルブミン値,プロトロンビン時間,血清総ビリルビン値の項目のうち,1項目以上が3点以上の状態が,90日以上の間隔をおいた検査において連続して2回以上続くものとされてい
たものが,平成28年4月1日,CP分類の合計点数が7点以上であって,肝性脳症,腹水,血清アルブミン値,プロトロンビン時間,血清総ビリルビン値の項目のうち肝性脳症又は腹水の項目を含む3項目以上が2点以上の状態が,90日以上の間隔をおいた検査において連続して2回以上しかし,上記のとおり,改定前後を通じて,肝機能障害の認定基準にはCP分類が用いられているところ,CP分類においては肝性脳症の状態の有無及び程度がかねてから評価要素とされていたものであること(前記第発症を肝硬変の重症度の判定要素として新たに追加したということはできず,肝性脳症の発症それ自体によって,肝硬変につき質的に異なる新たな損害が発生したということはできないから,上記主張は採用し難い。エ原告は,脾臓の免疫機能を補う肝臓の機能が低下している中で,死亡率が高く危険の大きい脾臓摘出手術を受けることにより健康被害の程度は増大するところ,原告については,実際に本件手術を受けて脾臓を失い免疫機能が低下する状態となったと主張する。そこでまず,本件手術の危険性の程度について検討するに,確かに,脾臓を摘出した患者は免疫低下によるOPSIとして,敗血症や血管内凝固を受ける際に,医師から手術による死亡のリスクは約3~5%であり危険摘できるから,術後合併症の発症を含む本件手術の死亡率,危険性は一定程度高いことが認められる。もっとも,脾臓摘出後の非代償性肝硬変症例における細菌感染症の頻度を14.5~34%とする報告もあるが,肝硬変症例で脾臓を摘出した252例中,術後にOPSIで死亡したのは1例(頻度0.4%)にとどま脳症を治癒して退院した後は,血栓症に対して二つの時期にわたる投薬治療は行われたものの,手術は奏功し,その後は肝性脳症を再発することはきるから,本件手術を受けたこと自体をもって健康被害が増大したとまではいえない。次に脾臓摘出による免疫機能の低下の程度について検討するに,確かに,肝臓は,胃腸管に対する生体防御システムの要として,全身の自然免疫に類の細菌に対する防御機能があるため,摘出すると免疫機能が低下して感染リスクが高くなるが,主として肝臓が感染に対する防御能力を高めることによりその機能を補うため,生存に欠かせない臓器であるとはされてい能が低下している中で脾臓を摘出されると,免疫機能が低下して細菌の感染リスクが一定程度高くなることが認められる。しかし,肝硬変に対する脾臓摘出手術の効果として,CP分類グレードB及びCの患者については,術後1年でTBil,ALB,CP分類の点数が有意に改善し,肝容量が有意に増大するなど,肝機能を改善したとの),加えて,本件手術後は,原告は肝性脳症を再発することはなく,認定可能な直近(平成22年12月24日)のCT検査と血液検査の結果によれば,腹水の所見はなく,TBil0.5,ALT16,ALB3.4,PT(%)57.1であり,CP分類7点(肝性脳症なし1点,腹水なし1点,血清アルブミン値2点,プロトロンの施術前である同年6月3日,同年8月5日,同年10月1日,同年11月8日の各時点のCP分類点数と比べて肝硬変の症状は改善している又は悪化していない状態にあること(前記3),認定可能な直近(平成26年9月2日)の医師による就業制限は,内勤・外勤,宿泊を伴う出張勤務と肝性脳症を発症したものの,本件手術を受けたことにより肝硬変の症状と肝機能を相応に改善させたものということができる。そして,上記の状態にある原告について,本件手術を受けて脾臓を摘出されたことによる免疫機能の低下の程度を的確に認定することは困難であり,本件手術を受けたこと及び脾臓を摘出されたことによって,肝硬変につき質的に異なる新たな損害が発生したということはできないから,上記主張は採用し難い。オ原告は,平成22年当時において,簡易な労務以外の労務に服することができない就労制限が課されており,平成3年当時との健康被害の差異は明らかであると主張する。確かに,原告は,平成18年8月に,医師による勤務先への回答として「通常の机上勤務以外は不可,就業に関する主治医意見書として内勤・外勤とも可とした上で,深夜勤務,残業は不可との就業条件が必要
注意として内勤のみ可,
深夜勤務,残業,宿泊を伴う出張勤務は否

限が段階的に強められた状態にあったことが認められる。

しかし,
本件手術後の平成22年12月24日には就労制限が緩和され,
平成26年9月2日には就業条件見直しの時期が36か月に延長されたこ
進展によって様々な合併症が生
肝機能の状態や合併症の症状に応じて医師による一定の就業制限が課され
うることは,肝硬変を発症した時点で想定し得るものであることも考慮すれば,上記主張は採用し難い。

原告は,平成22年10月には,グレードⅢないしⅣに至る重い肝性脳症を発症していたと主張する。
しかし,前記3のとおり,原告が救急搬送された同月1日の時点では,
昏睡度は最大でもグレードⅡにとどまると評価されるものであり,その前後の時点でグレードⅢ以上の昏睡度であったことを認めるに足りる客観的証拠はないから,上記主張は採用し難い。

以上によれば,平成3年4月に肝硬変と診断された時点で,肝硬変の合併症である肝性脳症の発症,それへの対処としての本件手術の施術による脾臓摘出,医師による就労制限等を具体的に予見することができなかったものであるにしても,
上記時点では既に肝硬変を発症していたものであり,
上記事態の進展をもって,本件手術を受けた平成22年11月8日の時点で,肝硬変について,質的に異なる新たな損害が発生したと法的に評価で
きるとまではいえず,平成16,18年最判にいう損害が発生したと認めることはできない。

したがって,原告の肝硬変発症による損害賠償請求権にかかる除斥期間の起算点は,遅くとも肝硬変を発症した後の平成3年4月19日となるから,平成25年6月28日に提起された本件訴訟は20年の除斥期間の経過後に提起されたものである。
第4

結論
以上によれば,その余の点(争点4)につき判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないこととなるから,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第11民事部
裁判長裁判官

菊地浩明
裁判官

世森亮次
裁判官

島﨑航
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