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損害賠償請求事件
事件番号平成29(ワ)131
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日平成31年3月22日
法廷名鳥取地方裁判所
裁判日:西暦2019-03-22
情報公開日2019-04-23 20:00:15
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平成31年3月22日判決言渡

同日原本領収

裁判所書記官

平成29年(ワ)第131号
平成29年(ワ)第149号

損害賠償請求事件(乙事件)

平成29年(ワ)第150号
損害賠償請求事件(甲事件)

詐害行為取消請求事件(丙事件)

口頭弁論終結日

平成30年12月26日

判主1決文
被告B1有限会社及び被告B2は,別紙2-1認容額目録1(甲事件,乙事件)の原告欄記載の各原告に対し,連帯して,同金額欄記載の各金員
及びこれらに対する平成28年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2
被告B1有限会社が被告B3に対してした別紙3詐害行為目録記載1の3900万円の弁済はこれを取り消す。

3
被告B1有限会社が被告株式会社B4に対してした別紙3詐害行為目録記載5の5511万7672円の債務免除はこれを取り消す。

4
被告B3は,別紙2-2認容額目録2(丙事件・被告B3関係)の原告欄記載の各原告に対し,同金額欄記載の各金員及びこれらに対する平成29年11月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5
原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

6
訴訟費用は,原告らに生じた費用の5分の2と被告B1有限会社及び被告B2に生じた費用の2分の1を被告B1有限会社及び被告B2の負担とし,原告らに生じた費用の10分の1と被告B3に生じた費用の5分の3を被告B3の負担とし,その余を原告らの負担とする。

7
この判決は,第1項及び第4項に限り,仮に執行することができる。事実及び理由
第1
1
請求
被告B1有限会社及び被告B2は,別紙4-1請求額目録1(甲事件・乙事件)の原告欄記載の各原告に対し,連帯して,同金額欄記載の各金員及びこれらに対する平成28年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
被告B1有限会社が被告B3に対してした別紙3詐害行為目録記載1ないし3の合計6639万6780円の各弁済はいずれもこれを取り消す。
3
被告B1有限会社が被告B2に対してした別紙3詐害行為目録記載4の1200万円の弁済はこれを取り消す。

4
被告B1有限会社が被告株式会社B4に対してした別紙3詐害行為目録記載5の5511万7672円の債務免除はこれを取り消す。

5
被告B3は,別紙4-2請求額目録2(丙事件・被告B3関係)の原告欄記載の各原告に対し,同金額欄記載の各金員及びこれらに対する平成29年11月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6
被告B2は,別紙4-3請求額目録3(丙事件・被告B2関係)の原告欄記載の各原告に対し,同金額欄記載の各金員及びこれらに対する平成29年11月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7
被告株式会社B4は,別紙4-4請求額目録4(丙事件・被告株式会社B4関係)の原告欄記載の各原告に対し,同金額欄記載の各金員及びこれらに対する平成29年11月24日から支払済みまで年5分の割合による金員
を支払え。
第2
1
事案の概要等
事案の概要
本件は,平成28年12月14日早朝に美保関灯台北方沖で発生した漁船
大福丸の転覆事故(以下本件事故という。)により死亡した同船の乗組員のうちの5名の相続人計14名及び同居親1名からなる原告らが,①大福
丸の所有者であり,上記乗組員の使用者である被告B1有限会社に対し,商法690条又は雇用契約に基づく安全配慮義務違反に基づき,被告B1有限会社の代表取締役(当時)である被告B2に対し,民法715条2項若しくは会社法429条1項又は民法709条に基づき,損害賠償金(別紙4-1請求額目録1(甲事件・乙事件)の金額欄記載の各金員。合計5億1151万63
82円)及びこれらに対する本件事故の日である平成28年12月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案(甲,乙事件),②上記各損害賠償債務を負うため無資力となった被告B1有限会社が上記転覆事故後にした,被告B3に対する退職慰労金,取締役報酬の各支払及び債務弁済,被告B2に対する取締役報酬支払,被告株式会社B
4に対する債務免除の各行為がいずれも債権者である原告らを害する詐害行為に当たるとして,㋐被告B3に対し,同被告に対する上記各支払及び債務弁済の取消しを請求するとともに,別紙4-2請求額目録2(丙事件・被告B3関係)の金額欄記載の各金員(合計6639万6780円)の返済及びこれに対する丙事件の訴状送達日の翌日である平成29年11月24日から支
払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,㋑被告B2に対し,同被告に対する上記報酬支払の取消しを請求するとともに,別紙4-3請求額目録3(丙事件・被告B2関係)の金額欄記載の各金員(合計1200万円)の返済及びこれに対する上記㋐と同様の遅延損害金の支払を求め,㋒被告株式会社B4に対し,上記債務免除の取消しを請求するとともに,
別紙4-4請求額目録4(丙事件・被告株式会社B4関係)の金額欄記載の各金員(合計5511万7665円)の返済及びこれに対する上記㋐と同様の遅延損害金の支払を求める事案(丙事件)である。
2
前提事実(証拠を掲記しない事実は,当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨から容易に認められる。)
当事者


原告ら
原告らは,いずれも,本件事故当時,大福丸の乗組員として同船に乗船していたC機関員,D甲板員,E甲板員,F甲板員,G機関長(以下,上記各乗組員を併せて本件乗組員という。)の相続人ないし同居親
である(争いがない)。
原告A1(昭和24年3月生,法定相続分2分の1)は,C機関員(昭和52年6月27日生,本件事故当時39歳)の父,原告A2(昭和26年10月生,法定相続分2分の1)は,C機関員の母である(甲A54)。

原告A3(昭和33年9月生,法定相続分2分の1)は,D甲板員(昭和32年5月3日生,本件事故当時59歳)の妻,原告A4(平成4年4月生,法定相続分6分の1),原告A5(平成5年7月生,法定相続分6分の1)
及び原告A6
(平成11年11月生,
法定相続分6分の1)
はD甲板員の子である(甲A56)。

原告A7(平成2年7月生,法定相続分2分の1)は,E甲板員(昭和63年8月21日生,本件事故当時28歳)の妻,原告A8(平成23年5月生,法定相続分4分の1)及び原告A9(平成24年9月生,法定相続分4分の1)は,E甲板員の子である(甲A58)。
原告A11(平成3年4月生,法定相続分3分の1),原告A12(平
成7年9月生,法定相続分3分の1)及び原告A13(平成10年10月生,法定相続分3分の1)は,F甲板員(昭和46年1月21日生,本件事故当時45歳)の子である(甲A60,62)。
原告A10(昭和21年11月生)は,F甲板員の実母であり,本件事故当時,同人と同居していた(甲A63)。

原告A14(昭和59年5月生,法定相続分3分の1)及び原告A15(昭和62年1月生,法定相続分3分の1)は,G機関長(昭和32
年10月2日生,本件事故当時59歳)の子である(甲A65)。本件乗組員は,被告B1有限会社とそれぞれ雇用契約を締結していた(争いがない)。

被告ら
被告B1有限会社は,大福丸の所有者である(甲A2)。

被告株式会社B4は,化粧品,生鮮魚介類,野菜,果物の販売等を目的とする株式会社である(甲B2)。
被告B2は,
被告B1有限会社の取締役
(本件事故当時は代表取締役)
であり,被告株式会社B4の代表取締役である(甲B1,2)。
被告B3は,被告B2の母であり,本件事故当時,被告B1有限会社
の取締役であったが,平成29年7月31日,同社の取締役を退任した(甲B1)。
本件事故の発生(甲A18,乙A1の1[3,4,7,50,52頁])ア
発生日時

平成28年12月14日午前5時15分頃


発生場所

松江市美保関灯台北方沖
美保関灯台から真方位018°1700メートル付近(以下
本件事故現場という。)

ウ概要
大福丸が,平成28年12月8日に境港(鳥取県境港市)
を出港し,島根県浜田市沖の漁場で7日間のずわいがに漁を

終え,境港に向けて帰航(以下本件航海という。)中の
同月14日午前1時54分頃,主機が停止し(以下,主機が
停止した時刻を主機停止時点といい,主機が停止した場
所を主機停止現場という。),漁船第二共福丸によって
えい航されていた最中の同日午前5時15分頃,本件事故現

場付近で転覆し,後に沈没した。
大福丸には,本件乗組員のほかに,H船長,I甲板員,J

機関員,
K甲板員
(以下,
この4名を
訴外乗組員
という。

の合計9名が乗船していた。


乗組員の死亡

平成28年12月15日午後0時50分頃,沈没した大福丸の甲板室でG機関長が発見され,同日死亡が確認された(甲A18)。


G機関長以外の本件乗組員は,その遺体がいずれも発見されず,平成29年6月30日から7月3日までの間に,それぞれ平成28年12月14日午前5時30分頃に死亡したものと認定された(戸籍法89条。甲A54,56,58,60)。


訴外乗組員のうち,I甲板員は,同月14日午前10時頃に海上で発見され,同日死亡が確認され,H船長は,同月15日午後に現場付近で発見され,同日死亡が確認され,J機関員は,同月18日午前中に大福丸の機関室内で発見され,同日死亡が確認され,K甲板員は,その遺体が発見されず,行方不明である(甲A18)。
本件事故により被告B1有限会社が得た保険金等

被告B1有限会社は,平成29年7月31日までに,本件事故に関し,全国広域漁船保険組合から漁船保険金(62万7900円),全国共済水産業協同組合連合会から漁船保険金及び共済金(合計1億5300万円),鳥取県沖合底曳網漁業協会から漁船保険金(50万円),日本漁船保険組合から漁船保険金(5300万円),全国合同漁業共済組合鳥取県事務所から休業
補償共済金(1583万2980円),岩美町及び三朝町から見舞金(計30万円)の合計2億2326万0880円の支払を受けた(甲B11[70枚目])。

被告B1有限会社における役員報酬
被告B1有限会社が支払った第53期(平成27年8月1日から平成28年7月31日まで)の取締役報酬は総額1200万円,第54期(平成28
年8月1日から平成29年7月31日まで)の取締役報酬は総額1800万円
(被告B2の報酬が年額1200万円,
被告B3の報酬が年額600万円)
であった(甲B11[43,68枚目],乙B2の1)。


被告B1有限会社による被告B3に対する退職慰労金の支給決議
被告B1有限会社は,平成29年7月31日,被告B1有限会社の全株主
(被告B2,被告B3及び被告B2の妻であるL)が出席して臨時株主総会を開催し,同日付けで取締役を退任する被告B3に対し,同年9月30日までに役員退職慰労金3900万円を支払うことを内容とする株主総会決議をした(甲B11[12,68枚目],乙B2の2)。


被告B1有限会社による被告株式会社B4に対する債務免除
被告B1有限会社は,平成29年7月31日,被告B1有限会社の被告株式会社B4に対する5511万7672円の債権
(以下
本件債権
という。

について,被告株式会社B4に対する債務免除(以下本件債務免除という。)をした(甲B11[19枚目],乙B3[2,3頁])。



本件訴訟

原告A14及び原告A15を除く原告らは,平成28年9月29日,甲事件を提起した。


原告A14及び原告A15は,平成29年11月1日,乙事件を提起した。


原告らは,平成29年11月1日,丙事件を提起し,同月23日,丙事件の訴状が被告らに送達された。

3
争点
商法690条に基づく船舶所有者に対する損害賠償請求について
H船長が大福丸の船長として負う以下の注意義務に違反した結果,本件事
故が発生したか(争点1)

大福丸を出港させる際の堪航能力等検査義務違反の有無(争点1⑴)

主機停止時点以降,速やかに,海上保安庁に通報し,錨泊等しながら救助を待つべき義務違反の有無(争点1⑵)


本件事故当日午前3時頃の時点で,僚船に本件乗組員を移乗させるべき義務違反の有無(争点1⑶)


遅くとも本件事故発生時点までに,本件乗組員に対し,救命胴衣を着用させるべき義務違反の有無(争点1⑷)



被告B1有限会社が本件乗組員に対して負う安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求について(争点2)

被告B1有限会社の本件乗組員に対する以下の安全配慮義務違反の有無(争点2⑴)

大福丸が航行するルートにおいて最悪の気象・海象においても航行できる水準の堪航性を保持する義務違反の有無
大福丸の運航責任者であるH船長に対し,
非常事態に直面した場合に,
本件乗組員の生命の安全を確保するための措置を取れるように指導訓練する義務違反の有無


被告B1有限会社の安全配慮義務違反と本件事故との因果関係の有無
(争点2⑵)


被告B2に対する損害賠償請求について(争点3)
アイ
役員の第三者に対する損害賠償責任(会社法429条1項)の有無

代理監督者責任(民法715条2項)の有無

不法行為責任(民法709条)の有無



原告らの損害について(争点4)



詐害行為取消請求について(争点5)

本件債務免除が被告B1有限会社の財産を減少させる行為に該当するか(争点5⑴)


被告B1有限会社が被告B2に対する報酬支払,被告B3に対する報酬
及び退職慰労金支払並びに債務弁済(以下本件支払等という。)を行った際,被告B1有限会社に他の債権者を害する意思があったか(争点5⑵)

被告B3が被告B1有限会社から報酬及び退職慰労金の支払を受けた際,これらが詐害行為となることについて善意であったか(争点5⑶)
4
争点に関する当事者の主張
⑴ア

争点1⑴(大福丸を出港させる際の堪航能力等検査義務違反の有無)について
(原告らの主張)

船長は,船舶の安全運航について全権を担っており,発航前の船舶について,航海に支障がないか否かその他航海に必要な準備が整っているか否かを検査する義務(堪航能力等検査義務)を負う(船員法8条,同法施行規則2条の2)。
本件航海は,厳しい気象・海象にさらされ,船舶の転覆の危険が大き
い冬季の日本海で約1週間にわたって行われる予定のものであったところ,①大福丸は,船齢31年の超高齢船であり,本件航海前にも,外板に穴が開いて浸水したり,電気系統の故障が発生したりするなど多くのトラブルが発生していたこと,②平成28年12月8日当時,大福丸には,燃料油タンクその他の燃料油貯蔵,輸送経路においてさび等の異物
が存在することがうかがわれること,③同船には,老朽化により右に傾く傾向があること,④同船は,一般配置図から構造物等が追加されたことで復原力(傾いた船が元に戻ろうとする力)が乏しい状態にあることなど,航海に際して支障となる問題点が多岐にわたって存在していた。このような大福丸の特性を踏まえると,主機の停止はおよそ予想し得
ないことではなかったから,H船長は,基本的な動力源である主機や発電機に異常がないか,復原力が十分にあるかを本件航海前に確認する義
務があったにもかかわらず,これを怠り,十分な堪航能力等の検査を行わなかった。
(被告らの主張)
堪航能力等検査義務とは,船舶が出港する前に,航海に堪えられるだけの準備,装備等が整っているか否かを検査すべき義務である。

平成28年12月8日当時,大福丸は,特に多くのトラブルはかかえておらず,主機に機能的欠陥はなかった。
大福丸の復原力は,進水時との相対的比較では低下していたが,進水時には存在していなかった装備・備品を増設・搭載することはあらかじめ想定されていることであり,安全航行に支障をきたすようなものでは
なかった。実際にも,大福丸は,進水時よりも復原力が低下した状態で長年にわたって運航しており,その間,時化の場合も含め,安全運航に支障をきたしたことはなかった。大福丸は,本件航海への出航時,いまだ乾舷(上甲板上面から喫水線までの垂直距離)に十分な余裕があり,乾舷が満載喫水線を維持していたことから,堪航能力に問題が生じるよ
うな危険な状態ではなく,時化の海での操業にも十分に耐えることができた。
よって,平成28年12月8日当時,H船長に,堪航能力等検査義務違反はない。

争点1⑵(主機停止時点以降,速やかに,海上保安庁に通報し,錨泊等しながら救助を待つべき義務の有無)について
(原告らの主張)
海上保安庁への通報義務について
a
船長は,自己の指揮する船舶に急迫した危険があるときは,人命の救助等に必要な手段を尽くすべき義務を負っている
(船員法12条)

大福丸は,船齢31年の超高齢船であり,これまでに外板に穴が開
いて浸水するなど多くのトラブルを経験していた。また,主機停止時点当時,約1週間にわたってかに漁に取り組み,帰港の途についていた大福丸のエンジン・電気系統への負荷や本件乗組員らの精神的・肉体的疲労はピークに達していた。このような状況の下,大福丸は,厳しい気象・海象にさらされ転覆の危険が大きい冬季の日本海の海上に
おいて,主機が停止して自航能力を失い,傾き,灯火が消えた状態にあった。主機停止現場は,陸岸からわずか約3海里という至近距離にあることから,海上保安庁による本件乗組員らの救助が短時間のうちに実施される蓋然性は高かった。
他方,
えい航という救助手段は非常に専門的なものであり,
荒天下,

えい航の素人である僚船にえい航してもらう行為はかえって危険を招く自殺行為である。
b
よって,H船長には,人命救助義務の具体的内容として,携帯電話で118番通報することで容易に行使することができる海上保安庁へ
の通報義務があったことは明白である。
錨泊等をする義務について
主機停止現場から境港に帰港する場合,周辺海域よりも波高が高い本件事故現場付近を航行せざるを得ず,僚船のえい航を受ける場合,船体が傾くなどの危機的状態にあった大福丸をさらに危険にさらすことは明
らかであった。他方,主機停止現場で錨泊した場合,大福丸は船首方向から風浪を受けることができ,
横波を受けづらくなるため,
より長時間,
海上保安庁の救助を待つことができた。本件事故当時,大福丸の左舷にある座錨台の先端部には,
ストックを刺した状態で錨が固定されており,
十分な光源もあったことから,(漁労用ロープ)
錨鎖
を錨に接続した上,

ロープ等による錨の固縛を解き,船首前方に押し出すだけで投錨することが可能であった。仮に,錨が海底をかかずに走錨状態になったとして
も,海底に障害物を引きずった状態となり,漂ちゅうと同じ状態となって船首が風に立ち船体が安定することになる。
よって,H船長には,主機停止時点において,人命救助義務の具体的内容として錨泊等を行う義務があった。
僚船にえい航依頼したことの誤り

えい航はえい航船と被えい航船の協同作業である。被えい航船の船長は,救助を要請した側で,かつ,えい航に不可欠な自船の安定性に関する情報を最も有している側であるから,積極的にえい航船に自船の状況を伝えながら,適切な措置を指示すべき立場にある。
そして,H船長は,最終的にえい航索を出した第二共福丸と電話で連
絡を取り合える状況にあり,えい航索の長さが安全にえい航できる長さに不足していたことは容易に把握できたはずである。
また,
えい航速度,
えい航ルート等についても,情報共有しながら,適切な指示をすることは可能であった。さらに,H船長が,適切なえい航方法等を知らなかったのであれば,えい航をなし得る専門的知見を有していないのであるから,いち早く海上保安庁に通報し,その指示を仰ぐべきであった。以上の事実に加え,えい航依頼した僚船が荒天でのえい航経験を持たない素人であったことや当時の気象海象などを考慮すると,

H船長が,
上記の情報共有や指示を怠り,また,海上保安庁への通報をせずに第二
共福丸にえい航を依頼したことは,明らかな誤りである。
よって,H船長は,主機停止時点以降,速やかに,海上保安庁に通報し,錨泊等しながら救助を待つべき義務を怠り,もって人命救助のために必要な手段をとる義務を怠ったものである。
(被告らの主張)
海上保安庁への通報義務について

a
仮に,主機停止時点において,大福丸の周囲にえい航可能な僚船が
存在しなかった場合には,海上保安庁への救助要請通報をすることが適切な判断である。
しかしながら,本件では,大福丸の周囲にえい航可能な大型の僚船が存在していたのであるから,えい航を依頼したH船長の判断が誤っていたとはいえない。海上保安庁に通報したとしても,巡視船が現場
に到着するまでには,通報から5時間以上かかることが予想された。また,深夜に海上保安庁のヘリコプターが主機停止現場に駆け付けたとしても,大福丸は,座礁,転覆等をして人命が危険にさらされている状況になかった以上,暗闇,強風及び時化の最中に,海上保安庁のヘリコプターが吊上げ救助などするはずがない。

b
よって,一般論としての海上保安庁への通報義務については認めるが,本件においては,H船長に海上保安庁への通報義務はない。
錨泊等をする義務について

a
大福丸は,
主機停止時点において,
陸地にかなり近い場所に位置し,
主機の回復を試みていた作業中にも北北東の強風により陸地側へ流さ
れており,他方で,大福丸の発電機が故障していたため,GPSも使えず,陸地との正確な位置関係を確認するすべもなかったことから,むやみに錨泊した場合,座礁や陸地からの反射波の影響により,転覆の危険があった。
b
主機停止時点において,大福丸は電源を喪失していた上,時化により船体の動揺が激しい状態にあった。このような状態の中,重量210キログラムにも及ぶ錨を漁労用ロープに結び直した上,船員らの手探りの作業により投錨することは極めて困難かつ危険な作業であった。
c
しかも,主機が停止していた本船では,動力による錨の引揚げができず,やり直しが利かなかったから,仮に投錨を試みても上手くいかずに把駐力が生じなかった場合には,荒天下で走錨を起こして操船不
能となり,船体を風に立てることができず,横波を受けて転覆する危険性が高かった。
d
よって,
主機停止時点に大福丸が置かれた状況において,
H船長に,
その場に錨泊して,巡視船の救助を待つ義務はない。

僚船によるえい航を選択したことの合理性
確かに,えい航の結果として本件事故に至ったものであるが,自然条件以外に転覆の人為的原因があるとすれば,それは専らえい航の仕方(えい航索の長さとえい航速度)やえい航ルートの選択(美保関を避けて沖ノ御前島を迂回するルートを選択しなかったこと)といったえい航
船側にあり,H船長の過失ではない。
そもそも本件で安全にえい航できるえい航索の長さがどれくらいのものであるのか,それに比して本件のえい航索の長さがどうなのかについて,当時,H船長が認識し得たはずもない。また,被えい航船側の船長であるH船長にとって,適切でないえい航方法がとられるかどうかな
ど予見することができるはずもない。いわゆる魔の海域を避けるため,美保関を迂回するルートもとり得たもので,同ルートを選んだのはえい航船側の問題である。原告らの指摘は,いずれも結果論である。えい航の際,被えい航船としては,えい航中に異常があれば,えい航船に状況を報告し,適宜適切な対応を求めることに注意を払えばよいの
であって,午前5時10分の変針後,自船がえい航船に追随できずに大きく振れ回った時点で,異常が発生したとして,H船長がえい航船側に連絡を入れて状況を告げ,その後間もなく転覆したという経緯からすれば,H船長が異常報告を漫然怠って転覆を招いたわけではないというべきである。

よって,本件では,主機停止時点において,大福丸が置かれた状況において,
その場に錨泊し,
巡視船の救助を待つことは困難であったから,

他に選択肢がなかった以上,えい航の結果として本件事故に至ったものとしても,H船長の判断に誤りなどない。

争点1⑶(本件事故当日午前3時頃の時点で,僚船に本件乗組員を移乗させるべき義務の有無)について
(原告らの主張)

本件事故当日午前3時頃の時点において,第二共福丸及び宝生丸が大福丸の救助に駆け付けていたのであるから,H船長には,人命救助義務の具体的内容として,僚船に本件乗組員を移乗させるべき義務がある。(被告らの主張)
時化の海で船同士が必要以上に近づくことは自殺行為であって,絶対に
やってはならないことである。本件事故当日午前3時頃の時点で,大福丸は,高度の危険を冒してまで僚船に本件乗組員を移乗させなければならない状況にはなく,H船長には,僚船に本件乗組員を移乗させるべき義務はなかった。

争点1⑷(遅くとも本件事故発生時点までに,本件乗組員に対し,救命胴衣を着用させるべき義務の有無)について
(原告らの主張)
本件乗組員が落水した場合,救命胴衣を着用していれば,救命胴衣による浮力を得ることで溺死の可能性は格段に減少するし,
海上に浮くことで,

僚船によって迅速に救助されることも可能となる。大福丸は,冬の日本海で主機が停止し,傾斜する緊急事態に陥っていたのであるから,H船長には,人命救助義務の具体的内容として,本件乗組員が落水する場合のことを考え,本件乗組員に対し,救命胴衣を着用させるべき義務がある。(被告らの主張)

本件乗組員が救命胴衣を着用していたとしても,真冬の時化の海という本件事故現場の状況では,落水後数十分で死亡することから,救命の可能
性は著しく低かった。
よって,
救命胴衣の不着用と本件乗組員の死亡との間に因果関係はなく,
H船長に,本件乗組員に対して救命胴衣を着用させるべき義務はない。⑵ア
争点2⑴(被告B1有限会社の本件乗組員に対する安全配慮義務違反の有無)について
(原告らの主張)
安全配慮義務の内容
a
使用者は,被用者に対し,報酬支払の義務を負うほか,業務の遂行に当たって生じる危険から被用者の生命及び健康等を保護すべき安全配慮義務を負う。本件乗組員が主に労働の場とする大福丸は,その特
質として海上を航行するものであるので,危険に遭遇する度合いも陸上の交通機関よりもはるかに高い。そのため,船舶は,航行中における船内の人命の安全を保護するために十分な堪航性を備えなければ,船舶を航行の用に供してはならないとされている
(船舶安全法1条)

また,船長は,自己の指揮する船舶に急迫した危険があるときは,人
命の救助に必要な手段を尽くさなければならない(船員法12条)。さらに,船長には,非常配置表の作成及び操練を行うことも義務付けられている(同法14条の3)が,これは緊急時における船長の救命措置を現実に準備させるためである。
以上のように,船上労働において乗組員らの安全性を確保すること
は法律上も強く要請されており,このことは,被告B1有限会社が負っていた安全配慮義務の内容を決定するに当たっても前提とすべきである。
b
大福丸が航行するルートにおいて最悪の気象・海象においても航行できる水準の堪航性を保持する義務を負うこと
大福丸の操業する冬季の日本海は,風浪が激しいため,航行する船
舶の動揺も激しく,船舶の復原力を上回る動揺に見舞われ,転覆することも容易に想定される。そして,船舶が転覆した場合,乗組員は海中に投げ出され,低い海水温による低体温症や波浪によって海中に没することで短時間のうちに死に至る可能性が非常に高い過酷な環境である。大福丸は,本件乗組員にとって,その生命を長時間にわたって
全面的に預ける最も重要かつ基本的な設備であるから,使用者である被告B1有限会社は,
上記のような労働環境の危険性を考慮した上で,
継続的かつ確実に本件乗組員の生命の安全を確保できるよう十分な堪航性を備えた船舶を操業に供する義務がある。具体的には,被告B1有限会社は,大福丸が航行するルートにおける最悪の気象・海象にお
いても航行できる水準の堪航性を保持する義務を負っていた。
c
大福丸の運航責任者であるH船長に対し,非常事態に直面した場合に,乗組員らの生命の安全を確保するための措置を取れるように指導訓練する義務を負うこと
被告B1有限会社は,大福丸の物的施設の整備が不十分な場合,物
的施設が不十分であることを前提に,労働者への指導教育などの面で十分な対策を行い,被用者の生命に危険が及ばないように配慮する義務があり,具体的には,H船長に対し,非常事態に直面した場合,①海上保安庁へ通報する,②本件乗組員を僚船へ移乗させる,③救命いかだ及び救命胴衣を準備するなど本件乗組員の生命の安全を確保する
ための措置(以下本件安全確保措置という。)を確実にとれるよ
うに,日頃から,指導訓練を徹底する義務があった。
安全配慮義務違反
a
大福丸が航行するルートにおいて最悪の気象・海象においても航行できる水準の堪航性を保持する義務違反について
大福丸は,復原力や発電機系統に問題がある状態のまま,本件航海
に出ており,
被告B1有限会社の堪航性保持義務違反は明らかである。
b
大福丸の運航責任者であるH船長に対し,非常事態に直面した場合に,乗組員らの生命の安全を確保するための措置を取れるように指導訓練する義務違反について
H船長は,冬季の日本海で,大福丸の主機の停止,船体の傾斜及び
灯火の消失という非常事態に遭遇しながら,基本的で容易かつ確実な本件安全確保措置を怠り,不用意に僚船に大福丸をえい航させた。このように,同措置はいずれも極めて基本的な事項であるにもかかわらず,H船長がそのいずれの措置も取らなかったことからすれば,被告B1有限会社は,H船長に対し,非常事態に直面した場合に,乗
組員らの生命の安全を確保するための措置を取れるように指導訓練する義務を懈怠していたことは明白である。
(被告らの主張)
a
大福丸が航行するルートにおいて最悪の気象・海象においても航行できる水準の堪航性を保持する義務違反について

大福丸の堪航能力に問題はなく,時化の海での操業にも耐えることができたのであるから,被告B1有限会社に堪航性保持義務違反はない。
b
大福丸の運航責任者であるH船長に対し,非常事態に直面した場合に,乗組員らの生命の安全を確保するための措置を取れるように指導訓練する義務違反について


被告B1有限会社は,H船長に対し,運輸局主催の研修への参加
を励行し,指導訓練義務を果たしていた。


H船長のえい航判断等に誤りはなく,被告B1有限会社の指導訓
練義務違反はない。そもそも,本件のように諸条件が複雑に重なり合う中での船長としての高度な判断について,日頃から具体的に指
導訓練することは困難である。


よって,被告B1有限会社に,H船長に対する指導訓練義務違反
はない。


争点2⑵(被告B1有限会社の安全配慮義務違反と本件事故との因果関係の有無)について

(原告らの主張)
被告B1有限会社が堪航性保持義務を果たしていれば,そもそも大福丸に主機停止は起きず,また,十分な乾舷,復原力,操船能力を有した状態で航行できていたはずである。このことは,ほぼ同規模・同型の宝生丸及び第二共福丸が,同時期に,同じ気象・海象のもと,境港に帰港
する直前まで問題なく航行できていたことからも明らかである。
H船長が,基本的で容易かつ確実な本件安全確保措置を取ってさえいれば,本件乗組員が犠牲にならずに済んでいた。
よって,被告B1有限会社の安全配慮義務違反と本件事故との間には因果関係がある。

(被告らの主張)
争う。


争点3(被告B2に対する損害賠償請求(民法715条2項,会社法429条1項,民法709条)について)

(原告らの主張)

代理監督者責任(民法715条2項)の有無について
民法715条2項の代理監督者は,使用者に代わって選任・監督の一方又は双方を行う者を指す。
被告B1有限会社は,本件乗組員を雇用して操業に当たらせ,漁獲物
の販売等による利益を得ていたが,現場の乗組員以外のいわゆる経営層は被告B2及びその家族である。また,被告B1有限会社の取締役は,
被告B2及び被告B3であった。さらに,大福丸は,もともと被告B2の父が所有し漁業経営事業を行っていたものを被告B2が相続し,平成25年に被告B1有限会社に贈与したものである。
これらの事情に照らせば,被告B2が被告B1有限会社の安全管理,人事管理等の大福丸運航実務を取り仕切る実務レベルの責任者であり,
使用者に代わって選任・監督の両方を行う者であったことは明らかであり,被告B2には代理監督者責任がある。

役員の第三者に対する損害賠償責任(会社法429条1項)の有無について
被告B2は,被告B1有限会社の取締役であり,安全管理の責任者の立
場にあったことから,被用者であるH船長の過失ないし被告B1有限会社の安全配慮義務違反によって,本件乗組員の生命・健康を損なう事態を招くことのないよう注意する任務を負っていた。
しかるに,被告B2は,本件航海前に大福丸の安全管理対策を講じず,本件事故直前においても,H船長に対し,本件安全確保措置を講じるよう
指示しなかった。
よって,被告B2には,任務懈怠があり,任務懈怠について重大な過失があることから,会社法429条1項の責任がある。

不法行為責任(民法709条)の有無について
被告B2は,被告B1有限会社において安全管理責任者として,本件事
故を事前及び直前の段階で防止すべき注意義務を負っていたにもかかわらず,これらの措置を全く取らなかった結果,本件事故が発生し,原告らに損害が生じた。
よって,被告B2には,不法行為責任(民法709条)がある。
(被告らの主張)

代理監督者責任(民法715条2項)の有無について

H船長に過失はなく,被告B1有限会社が使用者責任を負わない以上,被告B2に民法715条2項の責任はない。
仮に,H船長に何らかの過失が認められたとしても,H船長の過失は,深夜の時化の海における主機,発電機の停止という極限状態で判断を迫られた結果によるものであって,
もはや使用者ないし代理監督者による選任


指導・監督の及ぶ領域ではなく,H船長に関する選任,指導,監督の過失はない。

役員の第三者に対する損害賠償責任(会社法429条1項)の有無について
被告B2は,大福丸の保守管理には万全を期しており,安全対策を怠っ
た事実はない。本件事故は,第二共福丸が変針した本件事故当日午前5時10分頃を境に事態が急変したものであり,本件事故直前に被告B2が対策を講じることは不可能であった。
よって,被告B2には,任務懈怠がない。

不法行為責任(民法709条)の有無について
被告B2には,何らの注意義務違反もなく,民法709条の不法行為責任はない。



争点4(原告らの損害)について
(原告らの主張)


本件乗組員は,本件事故により別紙5請求乗組員損害額一覧記載の各損害を被った。
基礎収入について
漁船員の収入は時期により上下することから,C機関員,D甲板員及びG機関長については,直近3年間の年収の平均を基礎収入とすること
が相当である。
労働能力喪失期間について

漁船員に定年はないことから,70歳まで就労が可能である。
生活費控除率について
漁船員は船上で過ごす時間が長いため,生活費の負担は,他の職業に比べて大幅に小さいことから,生活費控除率は30パーセントとするのが相当である。

慰謝料について
本件乗組員は,
いずれも一家の支柱であり,
極寒の海中に投げ出され,
多大な精神的苦痛を受けて亡くなったことからすれば,慰謝料は3500万円が相当である。

原告A10を除く原告らは,別紙6請求損害額内訳の相続額のとおり,本件乗組員の被告B1有限会社及び被告B2に対する損害賠償請求権をその法定相続分(1円未満切捨て)により相続したほか,固有の慰謝料(自身の最愛の本件乗組員が極寒の海中に投げ出され,遺体も見つからなかったことによる精神的苦痛)及び弁護士費用相当額の損害を被った。

原告A10について
被扶養利益相当額

1000万円

F甲板員の実母である原告A10は,老年で持病もあるため働くことができず,F甲板員と同居し,F甲板員の収入に支えられ扶養を受けてきたが,本件事故により,原告A10はF甲板員による扶養を受けることができなくなった。これによる逸失利益を金銭で換算すれば,1000万円は下らない。
葬祭料

250万円

原告A10固有の慰謝料

500万円

高齢の原告A10にとっては,F甲板員は経済的にも,精神的にもほぼ唯一の支えであり,本件事故により同人を失った精神的苦痛に対しては,上記金額の慰謝料が相当である。

弁護士費用

170万円
について,弁護士

費用として相当因果関係が認められる。

被告B1有限会社及び被告B2の損益相殺に関する主張のうち,遺族特別支給金が損益相殺の対象となることについては争う。遺族特別支給金は,
労働者災害補償保険法の社会復帰促進等事業としての特別支給金の一種であり,あくまで,遺族の援護を目的とするものである。
(被告らの主張)
被告B1有限会社及び被告B2の損害賠償義務の存在を争う。仮に,被告B1有限会社及び被告B2に損害賠償義務があるとしても,下記のとおり,弁済充当及び損益相殺がなされるべきである。

弁済充当
被告B1有限会社は,原告らに対し,本件乗組員1人当たり1050万円の見舞金を支払っており,同額については弁済充当されるべきである。

損益相殺
原告らには,本件乗組員1人当たり200万円の船員保険行方不明手当金が支払われており,これについては損益相殺の対象となる。
原告らには,葬祭料,遺族補償年金,遺族厚生年金,遺族特別支給金及び遺族特別年金が支給されており,これらについても損益相殺の対象となる。

⑸ア

争点5⑴(本件債務免除が被告B1有限会社の財産を減少させる行為に該当するか)について
(原告らの主張)
債権が回収不可能か否かは,短期的な債務状況だけで判断できるもので
はなく,被告B1有限会社の被告株式会社B4に対する貸金債権が回収不能であったとは認められない。

よって,本件債務免除は,被告B1有限会社の財産を減少させる行為に該当する。
(被告らの主張)
本件債権は,被告株式会社B4が多額の債務超過状態にあって収益力もなく,実質的に返済不能であることから,財産的価値はない。

よって,本件債務免除は,被告B1有限会社の財産を減少させる行為に該当しない。

争点5⑵(被告B1有限会社が本件支払等を行った際,被告B1有限会社に他の債権者を害する意思があったか)について

(原告らの主張)
原告らは,平成28年12月14日時点で被告B1有限会社に対する損害賠償請求権を取得した。
本件事故直後,
本件乗組員の生存可能性は極めて厳しい状況であった。
本件事故当時の気象は,荒天ではあったものの,異常気象とまでは到底
いえず,各種新聞報道において大福丸の老朽化等が本件事故の原因として指摘されていたことも踏まえると,H船長の何らかの過失又は被告B1有限会社の安全配慮義務違反によって本件事故が生じたことを断定的に否定できる状況ではなかった。
被告B1有限会社の主たる事業は漁業経営であったところ,本件事故
により,被告B1有限会社が唯一所有する大福丸は全損となり,本件事故以降,売上高は皆無となった。本件事故の時点で被告B1有限会社が有していた財産は非常に限られたものとなっており,本件事故によって受領できることが見込まれる各種保険金を踏まえても,被告B1有限会社が,本件支払等をしたことによって,被告B1有限会社の資産の総額
が総債務の弁済をするに不十分となることは明らかである。現に,被告B1有限会社が,
本件支払等をした結果,
平成29年9月28日時点で,

被告B1有限会社のめぼしい資産としては,3つの金融機関に対する預金,残高合計5500万円を残すのみとなっている。
よって,被告B1有限会社が,本件支払等をした時点では,被告B1有限会社には原告らの債権を満足させることができる財産はなく,被告B1有限会社は,このことを認識していたのであるから,被告B1有限
会社には,原告らを害する意思があった。
(被告らの主張)
平成29年7月31日時点において,未だ運輸安全委員会の報告書は出されておらず,本件事故の原因は不明だったのであり,被告B1有限会社において,被告B1有限会社が原告らに対して損害賠償債務を負っている
という認識はなかった。各種新聞報道は,本件乗組員らが全員死亡ないし行方不明という状況のもとで推測に基づいて書かれたものであり,H船長の何らかの過失又は被告B1有限会社の安全配慮義務違反によって本件事故が生じたことを被告B1有限会社が認識する根拠にはならない。よって,被告B1有限会社が,本件支払等をした時点において,被告B
1有限会社には,原告らを害する意思はなかった。

争点5⑶(被告B3が被告B1有限会社から報酬及び退職慰労金の支払を受けた際,これらが詐害行為であることについて善意であったか)について

(被告らの主張)
被告B3は,被告B1有限会社から退職慰労金の支払を受けた際,原告らの一部に弁護士が就任している程度の認識しかなかった。
よって,被告B3が被告B1有限会社から報酬及び退職慰労金の支払を受けた際,これらが詐害行為であることについて被告B3は善意であった。
(原告らの主張)
被告B3は,本件事故発生当時,被告B1有限会社の取締役であったこ
と,被告B1有限会社は,小規模家族経営企業であり,被告B1有限会社に関する事項について取締役が知らないことはないこと,実際に,被告B3は,本件事故の対応・交渉にも参加していたことからすれば,本件事故によって,原告らに対する債務を含む巨額の損害賠償債務を被告B1有限会社が負うであろうこと,被告B1有限会社が,被告B3に対する報酬及
び退職慰労金支払をした時点では,被告B1有限会社には原告らの債権を満足させることができる財産がなかったことを知っていたことは明らかである。
よって,被告B3が被告B1有限会社から報酬及び退職慰労金支払を受けた際,これらが詐害行為であることについて被告B3は悪意であった。
第3
1
当裁判所の判断
前提事実,後掲各証拠(乙A1の1については,頁数のみ記載する。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
大福丸について


船体等
大福丸は,昭和61年6月に進水した総トン数76トン,長さ34.05メートル,幅5.80メートル,深さ2.30メートルのディーゼル機関1基を装備する漁船である(13頁。甲A2,16)。


構造
大福丸には,船首側から順に,甲板倉庫,船首デリック(支柱),甲板室,漁労設備であるロープリール3台,船尾デリックがあり,船首部に1番から4番までの魚倉,甲板室の上には操舵室,下には機関室,船尾デリックの下には船員室が配置されていた(14頁)。
機関室には,中央部に主機,右舷側には船首から順に,発電機が3台
(1号補機,2号補機及び停泊用補機),燃料用サービスタンクが配置されていた(15頁)。

大福丸は,6個の燃料油タンク(船首船底部に前から1番燃料油タンク及び2番燃料油タンク,中腹船底部に3番燃料油タンク(左舷)及び3番燃料油タンク(右舷),船尾船底部に4番燃料油タンク(左舷)及び4番燃料油タンク(中央)),2個の潤滑油タンク,2個の清水タンク及び2個の船底タンクを備えていた(16,17頁)。

大福丸は,通常の航海時,1番燃料油タンク及び2番燃料油タンクのみを使用しており,航海が長くなるときや船体の横傾斜を修正したい場合のみ,3番燃料油タンク(左舷)を使用していた。また,4番燃料油タンク(左舷及び中央)を使用した場合,船尾トリム(静止状態で船尾喫水が船首喫水より大きい状態)になることから,使用せず,空の状態
であった(17頁)。

燃料油系統
大福丸の燃料油は,機関室前部にある燃料油タンク切替バルブで6個の燃料油タンクからの燃料油を手動で切り替えることができ,燃料油サービスタンクを介して,主機と発電機にそれぞれ供給されていた(17頁)。
燃料油サービスタンクは,設定した油量まで減少すれば,センサが感知し,警報が鳴る構造になっていたが,センサの故障で警報が鳴らず,燃料切れで主機等が停止したことがあった。燃料切れを起こすと,初めに主機が停止し,しばらくして発電機も停止する。(17頁,被告B2の7頁)エ
構造物等
大福丸は,本件事故当時,一般配置図から次の項目について変更されていた(かっこ内は変更の原因と推定重量(増減数量)であり,△は撤去等に伴う減算重量である。16頁)。
レーダー1台(追加。0.1トン)

救命いかだ(交換。重量に変更なし)
ブルワーク(かさ上げ。0.42トン)

ブルワークとは,暴露甲板の舷側に沿って設けられた波よけの側壁のことである。
揚網機2台(追加。合計3.34トン)
門型マスト(追加。2.8トン)
船尾デリック(短縮。△0.06トン)


漁労設備及び漁具
大福丸には,本件事故当時,操舵室後方及び門型マストの2か所の揚網機にずわいがに漁用の漁網が,船尾甲板のロープリール2か所に引き網用ロープが,操舵室の頂部及び船尾甲板に引き網用灯標が,4番魚倉の上部に予備の網がそれぞれ設置されていた(18頁)。

同引き網用ロープ(漁労用ロープ)は,ワイヤーロープ約1500メートル,化繊ロープ約200メートルからなる(甲A93)。
大福丸は,本件事故当時,活がに用の水槽(1000ないし1700リットル。ポリエチレン等製)を上甲板船首部に7個,4番魚倉の中に2個備え,いずれもロープ等で船体に固定していた。上記水槽は,漁場
から帰港する際,海水で上部まで満たされ蓋がされた状態となる。同船は,水槽に低温の海水を供給する目的で,上甲板左舷船首部に冷海水製造装置を備えていた。上記水槽及び冷海水製造装置の推定重量(海水及び漁獲物の重量を含む。)は合計16.7トンであった。(18頁)カ

大福丸は,本件事故当時,左舷船首部の座錨台先端部に固定された鉄製の錨を搭載していた(甲A20,94)。
同錨は,約210キログラムの重量で,これを投錨するためには,船尾甲板のロープリールに巻かれている引き網用ロープ(漁労用ロープ)を引
き出して錨の短鎖とつなぐ必要がある。錨泊には,比重が重く,海水中に沈下しやすい化繊ロープが適している。(甲A93,95[7頁])


大福丸の安全管理について

平成25年7月,大福丸について,中国運輸局鳥取運輸支局により,5年に一度の定期検査が実施され,その際は,船体,機関,排水設備,操舵設備,係船揚錨設備,救命消防設備,航海用具,電気設備,復原性検査,満載喫水線表示の検査などの法定検査項目に関し,救命胴衣の新替,復原
性計算の修正履歴を加えることなどがされた上で合格した(甲A13)。その後平成30年7月に予定された定期検査までの間,平成27年7月に定期検査と同様の法定検査項目(ただし,復原性検査はなし。)に関し中間検査が実施され,海難による損傷のため右舷船底外板の切替え,一部部品の新替がされた上で合格した。平成28年11月に実施した臨時検査
は,機関室へ通じる扉を撤去し,溶接して塞ぐ修理を行ったことに伴うもので,その他の個所の検査は実施していない。(甲A11,13)イ
大福丸の船主である被告B2は,船体の修繕などの船舶管理についてはH船長及びG機関長に一任していた。上記アを含め,大福丸について,本件事故前の定期検査において,法定検査項目の不備を指摘されたことはな
い。(28頁,甲A13,乙A14)

H船長は,6級海技士(航海)の資格を有し,昭和61年の大福丸就航時から甲板員として乗船し,機関長を経て平成23年頃から船長職に就いていたもので,乗船経験は約30年間であった(12頁)。


被告B2は,田後漁業協同組合(以下田後漁協という。)が主催する生存対策講習会にH船長らを参加させていた(乙A20の1ないし3,A22,被告B2の7,24頁,弁論の全趣旨)。



荒天時における田後漁協所属の沖合底引き網漁船の対応
田後漁協所属の沖合底引き網漁船は,目安として波高4メートル以上の場
合,船長又は漁労長の判断で漁を中止して避難し,航行ができない場合,投錨するか,水深が深い場合は船尾から網を流して漂泊するようにしていた。
また,航行できる場合であっても,横揺れが大きい場合,揚網機の網を甲板上におろすなどして,横揺れを軽減させるようにしていた。(28頁)⑷

本件事故発生までの大福丸の状況

大福丸は,平成28年12月8日午後6時頃,境港を出港し,島根県浜田市沖の漁場でずわいがに漁を行った(3,4頁)。

H船長は,同月13日午後5時頃,水産仲買業者に対し,同日夜に漁を終え,同月14日午前2時頃,境港に入港する予定であること,水揚げ予定の漁獲物は,ずわいがに雄900ないし1000枚,雌450パックなどであると電話で連絡した(4,19頁)。

大福丸の僚船である宝生丸の甲板員は,同月13日午後11時頃,大福丸が宝生丸の後方約1海里を航行していることをレーダーで確認した(5頁)。


宝生丸の船長は,同月14日午前1時54分頃,H船長から,大福丸の主機が停止したとして,
大福丸のえい航の依頼を船舶電話で受けた
(5頁)

主機停止現場は,陸岸から3海里強の位置にあり,主機停止現場付近の
水深は50ないし60メートル,底質は粗い砂や貝殻であった(甲A95別紙3,証人M10頁)。
宝生丸の船長は,同船を反転させ,大福丸の方向に向けて航行させていたところ,しばらくして大福丸の甲板上の照明が消えたことを確認した。宝生丸の船長は,大福丸の後方を航行していると想定される第二共福丸の
方が位置的に大福丸に近く,また,荒天下であったことから,より大きな船でえい航したほうがよいと考え,同日午前2時30分頃,第二共福丸の漁労長兼機関長Nに対し,大福丸のえい航を要請し,同船から約1海里離れた海上に宝生丸を待機させた。(5頁)

第二共福丸は,宝生丸からのえい航の要請を受け,レーダーで大福丸の位置を確認した上,前方にいる大福丸の方へと向かい,同月14日午前3
時頃,
大福丸付近に到着した。
N漁労長は,
大福丸の電源が喪失しており,
無線交信ができなかったことから,H船長の携帯電話に連絡し,えい航索の接続作業を開始することとなった。(4頁)
第二共福丸は,大福丸の40メートル付近まで接近したものの,波が高くそれ以上接近できなかった。そこで,大福丸から引き網用灯標(引き網
を展開する際に,目印となるように最初に投入する明かりのついた灯標)にえい航索を結び付けて流し,それを第二共福丸が受け取ることとし,実際に,第二共福丸は引き網用灯標を受け取ってえい航索を引き揚げたものの,途中でえい航索が絡まり引き寄せることができなくなった。(4頁)上記作業中,大福丸及び第二共福丸が風浪の影響により陸岸に向け流さ
れていたことから,第二共福丸は,船倉に積まれていた長さ約200メートルのえい航用ロープを取り出す時間的余裕がなく,第二共福丸の甲板上にあった長さ約100メートルの係船用のロープをえい航索とすることとし,同日午前4時頃,えい航索の接続作業を完了させた。えい航索の接続作業が完了するまでの間,大福丸は約1海里,陸岸に向けて流されてい
た(4,10頁。甲A95別紙3,証人M10頁)。
えい航時,第二共福丸の船尾と大福丸の船首との距離は約130メートルあり,えい航索の長さは約100メートル,第二共福丸の引き網ロープが約30メートル,大福丸のロープが約7.5メートルであった(42,43頁)。

上記えい航索の取付作業中,大福丸の発電気が復旧し,その甲板上の照明が点灯し,以後,第二共福丸と大福丸との間で無線交信を行えるようになった(4,41頁)。
なお,第二共福丸は,総トン数117トン,長さ37.70メートル,幅6.25メートル,深さ2.58メートルの漁船である(13頁)。

第二共福丸は,平成28年12月14日午前4時頃,境港に向けて大福
丸のえい航を開始し,船位を通常の航路に戻すため,陸岸から離れる針路をとった。宝生丸は,第二共福丸によって大福丸のえい航が開始されたのを確認した後,先に境港に向かった。(4,5頁)
N漁労長は,同日午前4時30分頃,船位が通常の航跡上になったことを確認し,針路を100°に設定してえい航を続け,同日午前5時頃,美
保関に近づいてきたことから,揺れが大きくならないように小刻みに変針しながら境港の方角に針路を向けた。第二共福丸の同日午前4時から午前5時15分までの航行経路は,別紙9のとおりであり,同日午前4時10分1秒から同日午前5時15分30秒までの速度は,4.6ないし6.0ノットであった。(2,3,6頁)

第二共福丸が大福丸をえい航していた際,大福丸は主に第二共福丸の右舷側に位置していたが,正船尾方向やや左舷側に位置することもあった。N漁労長は,
大福丸が右舷側に触れ回っているように感じていた。
(5頁)

大福丸をえい航中,N漁労長は,H船長に対し,荒天下でえい航索が切断してしまうおそれがあること,陸岸が近いことから不測の事態に備え,
アンカーを準備するよう伝えた。また,N漁労長は,H船長に対し,大福丸の主機が停止した原因について質問したところ,H船長は,調べてみないと分からないが,燃料油タンクのエア抜き管が損傷して燃料油タンクに海水が流入した可能性があり,
以前にも同じことがあったと答えた。
(5,
6頁)

N漁労長は,5級海技士(機関)の資格を有し,平成18年頃から漁労長となり,第二共福丸では日頃から操船指揮を行っていた。同人は,本件事故前の2年間で1回程度えい航を経験したことがあるが,荒天下でのえい航の経験はなかった。(11,12頁)。

被告B2は,平成28年12月14日午前5時8分頃,水産仲買業者に連絡したところ,同人から,大福丸が海上で故障し,境港への入港が遅れ
ると伝えられた。同日午前5時10分頃,被告B2が大福丸の船舶電話に電話したところ,H船長は,大福丸の傾きを戻す目的で,甲板上の水槽の海水を抜く作業をしていると聞かされたが,その後,H船長は,異常な雰囲気で電話を切った。(乙A22,被告B2の1ないし3頁)
N漁労長は,同日午前5時13分頃,H船長から,無線で,まだケツ押
し(船尾から波を受ける状態)にならないかとの連絡を受け,その一,二分後,船がとても傾いてきた,もう駄目だなどとの言葉を聞いたのを最後に,大福丸との交信が途絶え,大福丸を見失った。(6頁,甲A10)⑸
本件事故当時の大福丸の船体の状況

大福丸には,就航時にはなかった約6.6トンの構造物等が甲板上に追加されていたほか,甲板上に水槽が設置されていたことにより,復原性が低下し,また,乾舷が減少していた(42頁)。


大福丸の燃料油タンクエア抜き管に損傷はなく,燃料油タンクに海水は流入していなかった。燃料油は,通常使用されていなかった3番燃料油タンク
(左舷)
から供給され,
主機には燃料油が供給されている状態であり,

発電機は2号補機が稼働していた。また,舵板は右舵約20度の状態であった。(22,23,41頁)
大福丸の甲板後方にある漁労用ウインチにはロープが巻かれていた。同ウインチは,電源喪失状態においても,ロープの一方を座錨台先端部に固定された鉄製の錨に取り付け,もう一方を船首楼甲板の支柱に結び付けた
上,電動ウインチのクラッチを外せば,リールを手動で回すことが可能となり,
錨を海中に投下することができる構造であった。
(甲A93,
94)

大福丸のえい航索のサグ量(えい航索の両支点を結ぶ直線とえい航索との鉛直距離を支点間の中央位置で測った値)は,1.5ないし1.8メー
トルであり,えい航索が海面まで達していなかったことから,索張力の急激な増加が大福丸に伝わりやすい状態であった(43頁)。


大福丸の喫水線下に損傷は確認されず,外板に破口も生じていなかった(39,40頁)。



大福丸の僚船による本件乗組員らの捜索状況

N漁労長は,既に境港に入港していた宝生丸に無線連絡をし,海上保安庁への通報を依頼した。他方,宝生丸は,大福丸が大きく傾いてきたとの
無線交信を傍受し,水産仲買業者に対し,海上保安庁への通報を依頼した上で,大福丸の救助に向かった。(7頁)

第二共福丸は,旋回して,大福丸を捜索するとともに,落水者がつかまることのできるよう漁獲物を入れる発泡スチロールを海上に投げ入れた。第二共福丸の乗組員は,大福丸を見失ってから約10ないし15分後,船
底を上にして浮いている大福丸を発見し,付近に展開した状態の膨張式救命いかだがあるのを確認したが,本件乗組員らの乗船を確認することはできなかった。第二共福丸は,引き続き落水者を捜索していたところ,かっぱを着用してうつ伏せ状態で浮いているI甲板員を発見し,引き揚げを試みたものの,波が高かった上,I甲板員が陸岸方向に流される状態であっ
たことから断念した。(7頁)


海上保安庁による本件乗組員らの捜索状況

海上保安庁は,平成28年12月14日午前5時22分,鳥取県漁協から,エンジントラブルでえい航されていた大福丸が島根県美保関沖で転覆したとの118番通報を受けた(甲A83)。

海上保安庁美保関航空基地所属のヘリコプター(アグスタ式AW139型)(以下アグスタという。)は,同日午前6時55分頃,同基地を発進し,同日午前7時5分頃,本件事故現場付近で大福丸の乗組員の捜索を開始した(甲A72,83)。

アグスタは,同日午前10時24分,第二共福丸から位置を指図されてI甲板員を発見し,同日午前10時37分,I甲板員を救助したが,同日
午前10時59分,同人の死亡が確認された(7頁,甲A18)。ウ
海上保安庁境海上保安部所属の巡視船(おき)は,本件事故当時,隠岐諸島付近にて荒天避泊していたが,本件事故発生の一報を受け,直ちに揚錨し,約30分後には航行を開始して,航行開始後約2時間30分で本件事故現場に到着し,行方不明者の捜索に加わった(甲A69)。

海上保安庁は,同日,巡視船4隻,巡視艇3隻で本件乗組員らの捜索に当たった(甲A83)。

海上保安庁らによる本件乗組員らの捜索は,平成28年12月21日まで行われた。特殊救難隊による潜水捜索により,同月15日に大福丸の甲板室(上甲板左舷側)でG機関長が,操舵室でH船長が,同月18日に機
関室でJ機関員がそれぞれ発見され,いずれも死亡が確認された。死亡が確認されたI甲板員,G機関長,H船長及びJ機関員は,発見時,いずれも救命胴衣を着用していなかった。(8頁,甲A18)

本件事故当時の気象状況等

気象
本件事故当時,本州の東方海上を低気圧が急速に発達しながら通過していた。松江地区には,平成28年12月13日午前10時から同月14日午後4時まで波浪注意報
(発表基準

有義波高3.
0メートル)
が,

同月13日午後4時から同月16日午後6時まで強風注意報(発表基準海上風速15メートル)
がそれぞれ発令されていた。
(25,
40頁)

第二共福丸のえい航経路上における波高及び風速の推計値は,次のとおりであった(26頁)。
a
波高3.4メートル

風速11.9メートル

b
午前4時20分
午前4時40分

波高3.4メートル

風速11.8メートル

c
午前5時00分

波高3.5メートル

風速11.7メートル

本件事故現場の南方約1.7キロメートルに位置する美保関灯台にお
ける風向,風速の観測値は,午前4時55分時点で,北北東の風秒速14メートル,午前5時25分時点で北北東の風秒速16メートルであった(24,25頁)。

波浪状況等
平成28年12月14日午前5時13分の本件事故現場付近の有義波
高は3.6メートル,有義波周期は7.4秒であり,北東(強風による吹送流),北北東(隠岐諸島の地形による屈折効果),西南西(美保関からの反射波)の3方向からの波の合成波(いわゆる三角波)が発生していた(26,40頁,証人M5頁)。
本件事故現場付近は,隠岐諸島が北北東の風による波を遮蔽する領域
から外れており,美保関からの反射波に加えて,沖ノ御前島とその周辺の浅水域の影響により,周辺海域よりも波高が高くなり,また,波の周期が長くなる傾向がある(40頁,甲A27)。
ある地点の波を連続して観測したとき,波高の高い方から順に全体の3分の1の個数の波を選び,これらの波高を平均したものを有義波高,
これらの周期を平均したものを有義波周期といい,目視観測による値に近いことが知られている。実際の海面には有義波高よりも高い波や低い波が存在し,
統計学的には,
100個の波を観測した時の最も高い波は,
有義波高の約1.6倍になり,同様に1000個の波を観測した場合の最大波高は,有義波高の2倍近い値と見積もられる。(25,26頁)

海水温度
本件事故現場付近の本件事故当日の水温は17.5度であった。通常衣服着用時,
同水温での水中における生存可能時間は,
個人差はあるものの,
12時間以下とされている。(25頁)



船舶事故調査報告書(乙A1の1)

運輸安全委員会は,本件事故の直後から平成29年5月8日までの間,
関係者に対して事情聴取を行い,また,事故発生海域付近の波浪状況に関する調査を株式会社エコーに委託し,大福丸の復原性及び転覆に至る状況に関する調査を海上技術安全研究所に委託するなどして,その調査結果を得たほか,同月4日に引き揚げられた大福丸を現地にて調査するなどし,同年11月15日付けで,本件事故の原因,その他判明した安全に関する
事項及び再発防止策等を報告する船舶事故調査報告書を作成した(乙A1の1,2,A2)。

船舶事故調査報告書は,本件事故の原因について,①夜間,大福丸が,復原性が低下し,また,乾舷が減少していた状態で主機が停止し,第二共福丸によってえい航され美保関灯台北方沖を南東進中,横傾斜角がブルワ
ーク水没角(船舶のブルワーク(側壁)が完全に海水に浸かる角度)を超えたため,復原しにくい状態となり,引き続く波を受けて転覆した可能性があると考えられる,②横傾斜角がブルワーク水没角を超えたのは,風によって定常傾斜したこと,波によって大きく動揺したこと及び索張力による傾斜モーメント(物体を回転させる力の大きさを表す量)が増大したこ
とによる可能性があると考えられる,③索張力による傾斜モーメントが増大したのは,えい航索の長さが不十分で索張力の急激な増加が大福丸に伝わりやすい状態となり,横引き角度が増大したことによる可能性があると考えられる,
④大福丸の復原性が低下し,
また,
乾舷が減少していたのは,
構造物等を追加していたこと,甲板上に水槽を設置していたことによるも
のと考えられると報告した(46頁)。

また,同報告書は,その他判明した安全に関する事項として,①本件事故現場付近は,隠岐諸島の遮蔽域から外れており,美保関からの反射波に加えて,冲ノ御前島とその周辺の浅水域の影響により周辺海域と比べて波
高が高くなっていたものと考えられる,②第二共福丸がえい航速力を4ノットに減速した場合,触れ回りはなくなって索張力は一定となり,また,
えい航索を200メートルとした場合,触れ回りによる索張力変動が小さくなるものと考えられる,③本件事故時の気象,海象等の状況を考察すると,救命胴衣を着用していなかった甲板員が,救命胴衣を着用することにより,救助されるまで生存することができたかどうかは不明であるが,救命胴衣を着用して浮力を確保することにより,生存時間をより長くする効
果はあったものと考えられる,④荒天時,陸岸に近い海域において主機が停止し,航行ができない場合は,投錨して漂流を防止する,僚船にえい航を依頼する,海上保安庁に通報して救助を依頼するなど,その時の状況に応じて最善の措置を取ることが望ましいと指摘した(46,47頁)。エ
そして,同報告書は,同種事故の再発防止策として,上記イの事故原因及びウの事項を踏まえ,沖合底引き網漁船の船舶所有者に対し,船舶の復原性を考慮し,構造物等を追加する場合は十分に検討する必要があること,船長及び乗組員に対し,①甲板上の水槽は,荒天時は海水を入れないことが望ましく,また,自由水影響にも考慮すること,②荒天時,陸岸に近い
海域において主機が停止し,航行ができない場合は,投錨して漂流を防止する,僚船にえい航を依頼する,海上保安庁に通報して救助を依頼するなど,その時の状況に応じて最善の措置を取ることが望ましいこと,③外洋でえい航するときは,㋐えい航索は,えい航船と被えい航船の全長の和の3倍の長さを目安とし,えい航索のなすカテナリーカーブの最低部が水面
に付く状態にすること,㋑えい航船は,見張り員を配置し,被えい航船が追従し,また,振れ回りによる横引き角度が大きくならないよう確認し,必要に応じて減速及び進路の変更を行うこと,㋒被えい航船は,操舵が可能な場合,えい航船に追従するような操舵をとること,④暴露甲板上においては,常時救命胴衣を着用すること,⑤本件事故現場付近である美保関
北方沖は,周辺海域と比べて波高が高くなる傾向があるので航行時は注意すること,以上の事項を遵守するよう指導及び支援することを指摘した
(47,48頁)。

海上保安庁による救助体制

海上保安庁は,海難の際の人命及び船舶の救助やその他救済を必要とする場合における援助をその任務とし(海上保安庁法5条3号),実際に海難が発生したときは,早期に救助勢力を投入して迅速な救助活動を行って
いる(甲A38参照)。
平成27年には,船舶事故に対し,巡視船延べ1978隻,航空機延べ470機を出動させ,1152隻に対し救助活動を行った。同年中,事故船舶である要救助船舶(自力入港したものを除く。)1462隻のうち1299隻を救助した実績を有する。(甲A38)

また,同年中,事故船舶のうち1117隻から118番による海難等の発生情報が提供され,うち913隻が携帯電話からの情報であったものであり,海難時に海上保安庁に118番通報を行う方法は船舶関係者に広く認知されている(甲A38)。

第八管区海上保安本部の美保航空基地には,2機のアグスタが配備されており,24時間,常時出動可能な体制となっていて,出動命令から1時間弱で離陸できることとされている。同機は,夜間であれば,照明弾を使用しながら,吊上げを行うことができる。(甲A46,72,84)

アグスタによる漁船からの船員の吊上げ救助は,
海上保安庁の基準では,
通常時,最大35ノット(秒速18.8メートル)の風まで行うことがで
きるが,海難救助などやむを得ない場合,機長の判断で,これを超えて行うこともでき,アグスタの機体性能上は,50ノット程度の風まで行うことができる(甲A72)。

主機停止時の滞留方法について
主機停止時に船舶が海上である程度一定の位置を保つための方法には,次のものがある。


錨泊
錨泊とは,錨を投下して海底に定着させ,錨が定着した場所を支点として,
風浪の方向に船首が向かう状態にすることをいう
(甲A95
[7頁]

証人M40頁)。


漂ちゅう
漂ちゅうとは,シーアンカー(海中に投下するパラシュート様の設備)又は海水との抵抗となる物(ロープ,網など)を船首から流し,船首を風浪の来る方向に向かせて,横波による横揺れや海水の船内への打込みを防止することをいう(甲A95[8頁],100,証人M9頁)。


ちちゅう
ちちゅうとは,主機の停止した船舶において錨泊あるいは漂ちゅうが実施できない場合,
自船や僚船の推進力を用いて,
船首を風浪の方向に向け,
その場にとどまることをいう(甲A95[6,8頁],証人M11頁)。

えい航の際の留意点について

えい航には,機関故障船等を目的港までえい航する一般的なえい航と緊急事態を回避するための応急的なえい航とがある。応急的なえい航の場合,遭難船舶等に危険が切迫しているため,えい航の可否,方法等について判断するため,被えい航船からえい航船に対し,被えい航船の状態について詳細な情報を提供する必要がある。(甲A80[3-158])
また,えい航の開始後も,被えい航船の船長において,被えい航船の状
態を調査し,必要な手直しを施し,えい航に耐え得る状態とするよう点検し,えい航索の張り具合,擦れ止めの効き具合,被えい航船の振れ具合等を監視し,えい航船に報告する必要がある(甲A80[3-208])。イ
被えい航船の復原性の良否は,えい航速力,荒天対策等のえい航計画に大きく影響する。復原性に関係する重量物の移動の可否,船内遊動水の状況等を調査し,
必要な措置を講ずる必要がある
(甲A80[3-160])



えい航索には,急張を緩和するために必要なカテナリーを与える必要があり,波浪がある海面においても,えい航索の全部が水面に露出しないように伸出することが肝要である。えい航索は,長ければ長いほど急激な張力に対して安全であるが,余り長くなると必要以上にカテナリーが深くなり,えい航索が海底に接触して損傷するおそれがあるほか,えい航抵抗が
増加して操縦性が悪くなることがある。えい航索の長さは,海域の広狭,水深,えい航速力,えい航索の強度・重さ,海面状況などによっても影響されるが,目安としては,洋上えい航の場合,えい航船と被えい航船の全長の和の2.5ないし3.5倍の長さで決定することとされている。普通えい航の場合は1.5ないし2.0倍とされている。(11頁,甲A80
[3-167])
荒天時に船舶をえい航する場合には,波浪の影響等により,えい航船及び被えい航船の動揺が増大し,その分衝撃荷重がえい航索に加わることとなって,えい航索の破断につながるおそれがあるから,十分な耐航性のあるえい航方法でなければならない。また,現在のみならず,その後の気象・
海象の推移を予測した操船が必要となる。(甲A80[3-229])エ
えい航中,変針は小刻みに行い,20度以上の大角度変針は行わない方がよい。また,被えい航船側で操舵可能な場合は,被えい航船の転舵点付近に至って変針して常にえい航船の航跡を追従するように努めることとされている。えい航速力の増減速も徐々に行い,0.5ノット以上の大幅
な増減速は行わない。(甲A80[3-210])
被告B1有限会社に対する損害賠償請求

C機関員,D甲板員,E甲板員及びF甲板員の遺族は,平成29年7月31日,被告B1有限会社に対し,本件事故に関する損害賠償金の支払を
請求した(甲B9)。
しかし,被告B1有限会社は,同年8月10日頃,賠償には応じられな
いと回答した(争いがない)。

上記遺族らは,平成29年9月4日,被告B1有限会社に対し,改めて賠償金の支払を請求した(甲B10)。
これに対し,被告B1有限会社は,同月25日,法的責任を書面で認めることはできないが,謝罪し,わずかだが示談金を支払う用意はある,示
談できなければ,被告B1有限会社は破産に移行する可能性が十分にあると回答した(争いがない)。
被告B1有限会社及び被告株式会社B4の財務状況等

被告B1有限会社の財務状況等
役員報酬の支払について

a
被告B1有限会社は,
平成28年8月2日付け臨時株主総会決議
(乙
B2の1)に基づき,同月から平成29年7月まで,取締役報酬として,被告B2に対し月額100万円を,被告B3に対し月額50万円を支払った(乙B2の1,3[4頁])。

b
被告B1有限会社は,平成29年8月以降,被告B2に対する取締役報酬の支払をしていない(証人O5頁)。
退職慰労金の支払について

a
被告B1有限会社には,被告B3に対する退職慰労金の支給決議を行った平成29年7月31日当時,退職慰労金規程はなく,退職慰労金の支給は節税目的から発案されたものであった。被告B3の退職慰
労金額は,同月当時の被告B3の報酬月額(50万円),勤続年数(39年),功績倍率(2倍)を基準として算定されたものである。(証人O8,9,11ないし13頁)
b
被告B1有限会社は,同年9月30日までに,被告B3に対し,退職慰労金3900万円を支払った(乙B3,証人O4頁)。

c
被告B1有限会社が,被告B3に対し,平成28年12月14日以
降,上記bの退職

2139万678

0円の債務弁済を行った事実はない。
被告B1有限会社は,第54期(平成28年8月1日から平成29年7月31日まで)中,被告株式会社B4から,利息として合計136万9600円を受け取った(甲B11)。

被告B1有限会社は,本件事故後,船を失って営業ができない状態に陥り,平成29年9月28日時点の資産としては,預金残高約5500万円があるにとどまった。また,同被告は,貸借対照表上,これまで原告らに対する損害賠償債務を計上していない。(甲B12,被告B2の13,19頁,弁論の全趣旨)


被告株式会社B4の財務状況等
被告株式会社B4の第11期(平成28年6月1日から平成29年5月31日)の売上金額は約2億9900万円,当期利益は630万5147円であった(乙A23)。

平成29年5月31日時点における被告株式会社B4の流動資産は4361万9915円(現金及び預金1009万5648円を含む。),長期借入金(被告B1有限会社からの借入金を含む。)は合計1億0583万9000円であり,貸借対照表上,負債が資産を6526万5113円上回る債務超過の状態であった(乙B1)。

また,被告株式会社B4は,同年7月31日時点で,被告B1有限会社に対し,5511万7672円の債務を負っていた(甲B11,乙B3[2頁])。
被告株式会社B4は,平成29年8月以降,被告B2の生活費が不足していることを理由に,被告B2に対する金銭の貸付けを行った(証人
O6頁,被告B2の15頁)。
被告株式会社B4は,平成30年5月以降,被告B2に対する取締役
報酬を月額10万円から月額50万円に変更した(被告B2の15頁,弁論の全趣旨)。
被告株式会社B4は,平成29年6月1日から平成30年5月31日の期において,本件債務免除による債務の低減効果もあって,630万円の利益を出し,
現在も経営が継続されており,
倒産等の予定はない
(被

告B2の30,39頁)。
本件事故当時の本件乗組員の生活状況

C機関員
C機関員は,独身であった(甲A54)。


D甲板員
D甲板員は,原告A3,原告A4,原告A5及び原告A6を扶養していた(弁論の全趣旨)。


E甲板員
E甲板員は,原告A7,原告A8及び原告A9を扶養していた(弁論の全趣旨)。


F甲板員
F甲板員は,妻があり,当時未成年の子が2人いた中の平成25年12月,妻子が暮らす松江市内から実母である原告A10(昭和21年11月生)が暮らす島根県出雲市内の実家に1人で転居し,同原告と二人暮らしを始め,本件事故当時までの約3年間同居を続けた(甲A63)。
原告A13(本件事故当時18歳)は,現在,姉である原告A12(当時21歳)と松江市内で同居しているが,同市内に住む母とは同居していない(弁論の全趣旨)。
原告A11は,平成25年2月に婚姻した(甲A61)。

G機関長
G機関長は,原告A14及び原告A15と同居していた(甲A65,弁
論の全趣旨)。
しかし,本件各証拠によっても,G機関長が原告A14及び原告A15を扶養していたとは認められない。
被告B1有限会社における本件乗組員の収入状況

C機関員(甲A52の1ないし3)
平成25年
平成26年

年額540万1213円

平成27年

年額501万7689円

年額554万6533円

D甲板員(甲A55の1ないし3)
平成25年

年額918万3196円

平成27年

年額910万8729円

平成26年

年額604万4625円

E甲板員(甲A57)
平成27年


年額529万2545円

F甲板員(甲A59の1ないし3)
平成25年
平成26年

年額493万4788円

平成27年

年額101万8525円

年額531万3910円

G機関長(甲A66の1ないし3)
平成25年

年額616万8980円

平成26年

年額656万3790円

平成27年

年額668万7564円

原告らに対する遺族年金等の支給状況
下記原告らは,本件事故に伴い,下記のとおり,遺族年金等の支給を受けた。

原告A1

葬祭料

127万2480円(甲A73の2)

遺族特別支給金

376万7000円(甲A73の1)

原告A3
葬祭料

127万2480円(給付日額2万1208円×給付日数6

0日)(甲A74の1)

遺族厚生年金(平成29年7月15日から平成30年12月15日までの間)(甲A74の2,A101の1)
合計380万7270円
遺族特別支給金
遺族補償年金

300万円(甲A74の3)
619万3013円(甲A74の4,A101の2)

(計算式)
a
平成29年1月分から平成30年3月分まで
月額28万4187円(年額341万0246円)×15
=426万2805円

b
平成30年4月分から同年11月分まで
(平成30年12月支給分)
月額24万1276円(年額289万5312円)×8
=193万0208円

c
合計
426万2805円+193万0208円=619万3013円


原告A7
葬祭料
118万2840円
(給付日額1万9714円×給付日数60日)
(甲
A75の4)
遺族厚生年金(平成29年7月15日から平成30年12月15日ま
での間)(甲A75の2,A102の1)
合計343万0040円

遺族補償年金

483万5380円(甲A75の3,A102の2,

3)
(計算式)
a
平成29年8月支給分
145万0064円

b
平成29年10月から平成30年8月までの支給分
42万3224円×6回分=253万9344円

c
平成30年10月及び同年12月支給分
42万2986円×2回分=84万5972円

d
合計
145万0064円+253万9344円+84万5972円
=483万5380円
遺族特別支給金


原告A10
葬祭料


300万円(甲A75の1)

138万6370円(甲A76)

原告A14
葬祭料

163万5780円(争いがない)

遺族特別支給金

370万6000円(甲A77)

船員保険行方不明手当金の請求
原告A1,原告A2,原告A3,原告A7及び原告A10は,平成29年
3月15日,平成28年12月15日から平成29年3月4日までの期間の船員保険行方不明手当金の支給を申請した(乙A11の1ないし4)。被告B1有限会社による見舞金の支払

被告B1有限会社は,原告らに対し,原告A14及び原告A15を除く原告らとの間では確認書を取り交わし,原告A14及び原告A15との間では同被告から送付した連絡文書に同意を得た上で,後記イないしクのと
おり,それぞれ金員を支払った(乙A6の1ないしA10の3,A12の1ないしA13の3)。
上記確認書において,上記金員の趣旨は見舞金とされ,あくまで本件の状況がいまだ完全に解明されていない状況において同被告が原告らの生活を支援するためのものであると明示されたものの,後日,本件に関して,最終的な損害賠償責任の有無や賠償額が示談又は裁判等により確定した場合には,当該確定金額から本件見舞金は控除されるものとする旨の合意もされた(乙A6ないし10の各枝番1)。
また,上記連絡文書においても,上記と同趣旨の記載がされた(乙A1
2の1,A13の1)。

原告A1及び原告A2
平成29年3月21日
同年7月7日


400万円(乙A9の1,2,A9の3の1)

原告A3,原告A4,原告A5及び原告A6
平成29年3月21日

同年7月7日

原告A7,原告A8及び原告A9

同年7月7日

原告A10


550万円(乙A8の1,2)

原告A10,原告A11,原告A12及び原告A13
平成29年7月12日

100万円(乙A7の2)

原告A11,原告A12及び原告A13
平成29年5月26日


650万円(乙A6の1,2)

400万円(乙A9の1,2,A9の3の3)

平成29年3月30日

650万円(乙A6の1及び2)

400万円(乙A9の1,2,A9の3の2)

平成29年3月21日

650万円(乙A6の1,2)

400万円(乙A10の1ないし3)

原告A14,原告A15及びP

平成29年4月12日
同年6月28日
2⑴

650万円(乙A12の1ないし3)

400万円(乙A13の1ないし3)

争点1⑴(大福丸を出港させる際の堪航能力等検査義務違反の有無)について


本件事故の原因
運輸安全委員会作成に係る船舶事故調査報告書(乙A1の1,A2),その作成資料の一つとなった報告書(乙A1の2),M作成に係る意見書(甲A95)
及び同人の証人尋問の結果を総合すれば,
本件事故の原因は,
主機が停止し,自航能力を失った大福丸が,構造物等の追加や甲板上の水
槽設置により復原性が低下し,また,乾舷が減少した状態であり,かつ,えい航索の長さが不十分で索張力の急激な増加が大福丸に伝わりやすい状態になっていたにもかかわらず,美保関からの反射波に加えて,沖ノ御前島とその周辺の浅水域の影響により周辺海域と比べて波高が高くなっていたものと考えられる本件事故現場付近をえい航速力5ノット(航行可能と
考えられる4ノットを上回る速力)以上で南東進したため,横傾斜角がブルワーク水没角を超える状態となり,引き続き波を受けて転覆したものと認められる。
この点に関し,原告らは,①大福丸が船齢31年の超高齢船であり,本件航海前にも,外板に穴が開いて浸水したり,電気系統の故障が発生した
りするなど多くのトラブルが発生していたこと,②燃料油タンクその他の燃料油貯蔵,輸送経路においてさび等の異物が存在すること,③老朽化により右に傾く傾向があることが本件の転覆原因を構成するものと主張し,原告らが提出した意見書にはこれに沿う記載が認められる
(甲A8[12な
いし15頁])。しかし,大福丸の引揚げ後,タンクへの海水浸入は認めら
れず,燃料油タンクのエア抜き管にはいずれも損傷がないことが確認されたこと(乙A1の1[23頁]),大福丸の主機は,本件事故発生時,燃料
油が供給されている状態となっていた可能性があり,主機停止の原因として,燃料油系統に不具合を生じていた可能性があると考えられるが,その原因を明らかにすることができなかったこと(同41頁)などを踏まえると,上記①,②の事実があったとしても,これをもって本件事故の原因であったと認めることはできない。
また,
上記③の事実について,
原告らは,

沈没時に舵が右いっぱいに切られていたこととの関連性を指摘するようであるが,
えい航開始前には大福丸の発電機が復旧していたことからすると,沈没時の舵の向きを殊更重視することはできない。よって,上記意見書の記載は採用できず,原告らの上記主張は理由がない。

堪航能力等検査義務の内容
船長は,発航前の船舶について,①船体,機関,排水設備,操舵設備,係船設備,揚錨設備,救命設備及び無線設備その他の設備が整備されていること,②積載物の積付けが船舶の安定性を損なう状況にないこと,③喫水の状況から判断して船舶の安全性が保たれていることなど,航海に支障がないか否かその他航海に必要な準備が整っているか否かを検査する堪航
能力等検査義務を負う(船員法8条,同法施行規則2条の2)。
上記義務は,発航の当時に尽くされるべきものである。すなわち,船長は,検査の結果堪航能力等の欠如が判明したときは,航海の安全のためにこれを整備すべきであることは当然であり,上記の準備が整わないまま船舶を出港させることは許されないものと解される。


本件航海の発航時の状況について
上記
定期検査,
中間検査といった法定検査において,
船体,
機関,
排水設備,
操舵設備,係船設備,揚錨設備,救命設備及び無線設備その他の設備の
整備に関し,その都度修理や新替が行われた上で合格となっていて,未修理箇所,不具合箇所を残すなどの経過はなかったことが認められ,本
件各証拠によっても,本件航海直前の出港前検査等で主機を含む何らかの船体異常があったことをうかがわせる事情は見当たらない。
また,①喫水の状況について,就航時にはなかった約6.6トンの構造物等が甲板上に追加されていた事実は,大福丸の復原性の低下に影響を与えていた可能性がある事情ではあるが,その状態で行われた上記各
検査において問題として指摘されたことはないこと,
②上記アのとおり,
本件事故の原因の一つとなったと認められる復原性の低下には,
出港後,
漁を終え,甲板上に海水が入った7個の水槽(1個1000ないし1700リットル)が設置されていたことによる重量増加が影響していた可能性があると考えられること,③本件事故の発端となった主機停止の原
因については,上記アのとおり,運輸安全委員会の調査によっても,燃料油系統に不具合を生じていた可能性があると考えられるとされたが,その原因を明らかにすることができなかったことなどの各事情を踏まえれば,本件航海の発航前に,大福丸の堪航能力等の欠如が判明していたとか,不十分である疑いがあったとまでいうことはできない。

また,原告らは,大福丸が超高齢船で,これまでに外板に穴が開いて浸水するなど多くのトラブルを経験していたことなどから,相当程度海水が浸入しやすい劣化状況になっていたことが推察されるとする意見書(甲A8[7頁])を援用するが,船舶事故調査報告書によれば,引き揚げられた大福丸について,喫水線下に損傷は確認されず,外板に破口も
生じていなかった
上記の推察は当たらず,上記意見書の記載は採用できない。

以上の諸事情を考慮すれば,H船長が,本件航海の発航に際し,堪航能力等検査義務を怠ったものと認めることはできない。



争点1⑵(主機停止時点以降,速やかに,海上保安庁に通報し,錨泊等しながら救助を待つべき義務の有無)について


船舶に危険がある場合における船長の義務
船員法12条の義務の内容
船員法は,12条に

船長は,自己の指揮する船舶に急迫した危険があるときは,人命の救助に必要な手段を尽くさなければならない。


定め,船長が同規定に違反したときは,5年以下の懲役に処するとの定めをおく(123条)。
そして,同法12条の急迫した危険とは,その文言から,四囲の
状況からみて,当該時点で救助手段を尽くさなければ,自船が沈没又は滅失するおそれがあるといった船舶共同体にとって重大な事態が差し迫
っていることをいうものと解される。また,必要な手段とは,その文言から,自船の沈没又は滅失を避け,あるいは,その沈没又は滅失が避けられない場合には同船にある人員を退避させる等,人命救助のために必要な一切の手段をいうものと解される。
船長が船内にある人員に対して負う義務

船員法第二章は,海上航行の安全保持のため,船長に対し,厳格な義務と強力な権限を与えている。この職権は,海上航行という特殊な状態において,人命,船舶,積荷の安全を図るという公益を確保するために定められたもので,
船舶所有者,
荷主等の意思に左右されることはない。
同法12条も,
その一環で船長の公法上の義務を定めたものであるから,

船長が被用者として使用主に対して負う義務とは異なる。
しかしながら,船長の指揮監督権その他の強力な権限が,船内にある者全てに対して行使し得るものであること
(同法7条,
25条,
26条)
からすれば,船長が負う同法上の厳格な義務は,公法上の義務にとどまらず,少なくとも船長が船内にある人員に対して負う職務上の注意義務
の内容をも構成するものと解すべきである。
そうすると,船長は,自船に急迫した危険があるときは,乗組員を含
む人命の救助に必要な手段を尽くすべき任務を有する以上,自船に急迫した危険がある状況にあって,人命の救助に必要な手段を尽くさなかったと認められる場合には,当該人命との関係で,船長に求められる業務上必要な注意を怠ったものと認めざるを得ない。

本件におけるH船長が負う義務
大福丸に急迫した危険が生じたとき
大福丸は,平成28年12月14日午前1時54分頃までに,波浪注意報及び強風注意報が発表されているなどの荒天にあって,陸岸から3海里強の位置で主機が停止し,波高約3メートル,北ないし北北東の強
風にさらされていたから,自力航行不能となり,何らの手段を講じなければ,そのまま漂流することを余儀なくされ,いずれ陸岸に近づいて座礁し,沈没するおそれがあったものと認められる。
そうすると,本件航海の場合,大福丸の主機停止時点において,人命救助に向けた手段を尽くさなければ,自船が沈没又は滅失するおそれが
あるといった船舶共同体にとって重大な事態が差し迫っているものと解すべきであり,もって急迫した危険があったものと認められる。
H船長がとるべき人命救助のための必要な手段
を踏まえれば,H船長は,大福丸の主機停止時点において,自
船の沈没又は滅失を避け,あるいは,その沈没又は滅失が避けられない
場合には同船にある人員を退避させる等,本件乗組員に対し,人命救助のために必要な一切の手段をとる義務を負うものと解される。
ただし,これは,上記の時点において,H船長が負う義務の内容であるから,同時点でとり得る選択肢が複数ある場合には,そのいずれをとるかは同船長の裁量の範囲内に委ねられるべきであり,
後方視的にみて,

最良であったかどうかを問うことは許されない。
そこで,以下,本件において,人命救助のために他にとり得る必要な
手段があるかどうか,H船長が実際に選択した僚船によるえい航依頼の方法をもって,とり得る必要な手段であったといえるかを検討し,必要な手段を尽くす義務に違反するかどうかを検討する。

海上保安庁への通報は本件においてとり得る必要な手段であるか

あるような海難等が発生した際の人命救助のための手段としては,まず,
118番により海上保安庁に通報し,その救助又は援助を要請することが考えられる。
そして,大福丸の主機停止時点では電源が維持されていたこと,その後しばらくして電源を喪失し,船舶電話が使用できない状態となったものの,H船長は携帯電話機を所持しており,当初から携帯電話による通信が可能であったことなどを踏まえると,H船長にとって,速やかに118番通報を行い,海上保安庁に救助又は援助を要請することは,主機停止時点ないしその後にあっても,容易かつ可能な手段であったと認め
られる。
また,

等で認定したとおり,①主機停止現場は,沿岸

から3海里強の距離であり,境海上保安本部や第八管区海上保安部美保航空基地とも近距離であったこと,②主機停止時点の気象・海象の状況からは,荒天であったが,海上保安庁の巡視船や航空機の出動には何ら支障がないこと,③現に,美保航空基地には常時対応可能なアグスタが2機待機し,本件事故直後の118番通報から約1時間40分後には本件事故現場に到着していること,④同じく当時,隠岐諸島付近に巡視船(おき)が待機しており,上記通報から約3時間後には本件事故現場に到着できていること,⑤大福丸が転覆した午前5時15分頃までは,主
機停止時点から3時間以上の間隔があること,
以上の事実が認められる。
これらの事情を考え併せると,H船長において,主機停止時点ないし
その後間もなく,海上保安庁に通報し,その救助又は援助を要請していたとすれば,その状況に応じて,アグスタによる吊上げ救助,巡視船の指示に基づく錨泊ないしその指示・援助を受けながらのえい航など,人命救助に向けた相当な手段がとられたものと認めることができる。したがって,H船長において,主機停止時点ないしその後間もなく,
海上保安庁に通報し,その救助又は援助を要請することは,人命の救助に必要な手段に当たり,かつ,容易にとり得る手段に当たるものと解すべきである。
これに対し,被告らは,本件では,周囲にえい航可能な僚船が存在したこと,仮に海上保安庁に通報しても,巡視船の到着まで5時間以上を
要することが予想されるし,アグスタが駆け付けても,深夜,時化の最中に吊上げ救助などするはずがないことなどから,海上保安庁への通報義務はないと主張する。
しかしながら
げたとおりであり,巡視船やアグスタに関する上記主張は当たらない。
また,周囲にえい航可能な僚船が存在したことは,それ自体海上保安庁への通報を妨げる事由とはならない。
よって,被告らの上記主張は理由がない。

錨泊等は本件においてとり得る必要な手段であるか

にあって,しかも当時の風向きから,そのまま漂流すれば,いずれ陸岸に近づいて座礁するおそれがあるという場合,人命救助のための手段としては,その場に自船を滞留させる方法が考えられる。
そして,上記1
カ,

⑸イで認定したとおり,錨は左舷船

首部の座錨台先端部に取り付けられ,固定されていたこと,大福丸は電源喪失状態でも漁労用ウインチを手動で操作できること,十分な長さの
漁労用ロープ(化繊ロープ)を搭載していたこと,第二共福丸との間でえい航索の受渡し作業を始めた時点では,電源喪失していたがそれでも当該作業が可能な程度の光源を確保していたと認められること,上記の座錨台にある錨に甲板後方の漁労用ウインチから引き出した漁労用ロープを接続することで錨泊設備を整えることができたことなどの各事実を踏まえれば,錨の重量が210キログラムに及ぶことを考慮しても,主機停止時点ないしその後電源喪失に至った状態において,投錨することに特段の支障があったとは認められない。
また,主機停止現場付近は,水深が50ないし60メートルであり,
底質が粗い砂,貝殻であったこと

大福丸には約200

メートルという十分な長さの漁労用ロープ(化繊ロープ)が搭載されていたこと

からすれば,錨を海底に定着させて大福丸を錨

泊させることは十分期待できる状況にあったものと認められる。
これに対し,
被告らは,
仮に投錨を試みても上手く行かない場合には,
荒天下で走錨を起こして操船不能となり,転覆する危険性が高かったと主張するが,錨が海底に定着せず走錨状態となった場合であっても,錨及びロープが海中で抵抗となることによって,船首が風浪の来る方向に向くことにより,何もしない状態に比べ,船体は比較的安定することが期待できること,同時に,漂流の速度を低下させ,陸地に近づくまでの
時間を延ばすことができ,座礁,転覆の危険性を低下させることが期待できること,主機停止現場が陸岸から3海里強離れた海上であり,近くに船舶がいる状況ではないこと(証人M9ないし11,19頁,甲A95[7,8頁])などの各事実を総合すれば,被告らの上記主張は理由がない。

したがって,H船長において,主機停止時点ないしその後間もなく,主機停止現場付近において,錨を投下して海底に定着させ,もって大福
丸を錨泊させることは,人命の救助に必要な手段に当たり,かつ,十分とり得る手段に当たるものと解すべきである。

僚船によるえい航依頼は,本件においてとり得る必要な手段であったか海上で主機が停止して自力航行ができない場合,人命救助のための手
段として,僚船にえい航を依頼することが考えられ,実際,H船長は,平成28年12月14日午前1時54分頃である主機停止時点において,大福丸から約1海里離れた位置を航行していた宝生丸にえい航を依頼し,更に同船船長の判断により,同日午前2時30分頃,同船より大きな第二共福丸にえい航依頼をし,同日午前3時頃,同船が大福丸付近に到着
したものである(上記1

ウ,エ)。

そして,①同日午前3時頃の時点では,大福丸が電源を喪失していたものの,
第二共福丸との間で,
携帯電話により通話可能であったこと
(上
,②その頃,大福丸は,就航時にはなかった構造物等(約6.6トン)のほか,活がに用の水槽(海水が上部まで満たされた状態)及び冷海水製造装置等を載せていたこと(推定合計約16.7トン。海水及び漁獲物の重量を含む。

③当時,波高は約3.5メ

ートル,風速は約11.7メートルの荒天であったこと



④本件事故現場付近の海域である美保関沖では,3方向からの波の合成波が発生し,周辺海域よりも波高が高くなり,波の周期が長くなる傾向⑤第二共福丸が大福丸に合流した地点から
境港までの航路について,通常の航路に戻してえい航する場合には,美
M5頁),⑥第二共福丸を操船指揮するN漁労長は,過去に荒天下でのえい航を経験したことがないこと
,以上の事実が認めら

れ,上記⑥以外の情報は,全てH船長が自ら認識しており,上記⑥の経験値についても,N漁労長から容易に聞き出すことができたものである
から,H船長において,第二共福丸にえい航依頼を行うのであれば,N漁労長との間で,
上記①ないし⑥の情報を共有した上で,えい航の可否,
方法等について判断し,更にえい航依頼の当否を判断しなければならなかったものである。
しかるに,㋐上記②の船体の状況から,大福丸が構造物等の追加や甲板上の水槽設置などにより復原性が低下し,乾舷が減少した状態であったことを容易に認識し得たこと,㋑上記④及び⑤の情報から,第二共福丸が大福丸に合流した地点から,船位を通常の航路に戻して境港までえい航する場合には,特に迂回しない限り,三角波が発生する美保関沖を
通過することとなることも容易に認識し得たこと,㋒上記③及び⑥の情報から,荒天時に船舶をえい航する場合には,その後の気象・海象も予測した上で,
十分な耐航性のあるえい航方法としなければならないのに,
N漁労長に荒天時のえい航の経験がないことも認識し得たこと,以上の諸事情を踏まえれば,一般に,機関故障船について僚船へのえい航依頼
が推奨されるとしても,H船長において,大福丸の主機停止時点ないしその後第二共福丸が合流した時点では,第二共福丸にえい航を依頼することが,海上保安庁に通報し,錨泊しながら救助を待つ方法(上記ウ,エ)に比べ,相当高度の危険を伴うものであることも十分に認識し得たもので,あえてえい航依頼の方法をとることには疑問の余地があったも
のと言わざるを得ない。
そのうえ,H船長が,合流した第二共福丸にえい航依頼した後,えい航索の接続作業中に,大福丸側のえい航用ロープが途中で絡まってしまい,引き寄せることができなくなり,急遽第二共福丸側のロープを使用することとなったこと,その際,第二共福丸では,船倉に積まれていた
長さ約200メートルのえい航用ロープを取り出す時間的余裕がないとして,長さ約100メートルの係船用のロープをえい航索とすることに
したこと

,以上の事実が認められる。

これに加え,えい航索の長さの目安としては,洋上えい航の場合,えい航船と被えい航船の全長の和の2.5ないし3.5倍の長さで決定すの場合,およそ18
0ないし250メートルが必要であったから,長さ約100メートルの短いロープをえい航索として用いることにより,索張力の急激な増加が大福丸に伝わりやすい状態となったことが認められ,それ自体転覆の危険を高める事由であるほか,そうした状態のまま,荒天の中を三角波が発生する美保関沖を通過することには,大きな危険が伴い,えい航を実
施する場合には,気象・海象についての詳細な情報と極めて高度な操船技術が求められることが容易に想定されるから,荒天下でのえい航経験に乏しいN漁労長が操船するえい航船によるえい航は,一層危険性が高いものであったというべきである。

すると,遅くとも本件事故当日午前3時過ぎ頃の時点において,H船長が,同日午前1時54分頃にしたえい航依頼を維持し,そのまま第二共福丸にえい航してもらうこととしたことは,合理性を欠き,本件乗組員の人命の救助に必要な手段であったと解することはできず,船長に求められる業務上必要な注意を怠ったものと言わざるを得ない。

この点に関し,被告らは,本件事故の原因につながる人為的原因があるとすれば,全てえい航船側にあり,被えい航船側であるH船長の過失とは言えないと主張するが,そもそもえい航依頼をするかどうかは,被えい航船側の船長が判断すべき事項である上,えい航の可否,実施に向けては,被えい航船側からえい航船に対し,被えい航船の状態の詳細な
情報を提供する必要があること,えい航船が民間船舶であるから,両船の間での協議が不可欠で,その判断をえい航船に一方的に委ねることは
できないものと解されることなどに照らせば,被告らの上記主張は,不合理であり,理由がない。
また,船舶事故調査報告書によれば,本件事故の原因を子細に解析すると,第二共福丸がえい航速力を4ノットに減速した場合には,索張力が許容範囲にとどまり,触れ回りはなくなるといった分析もされている
が(乙A1の1[46頁]),これは結果論であり,当時えい航に関わった者において,本件事故現場付近における最適なえい航速力を測定し,あるいは認識することは困難である。これを上回る5ノットで航行させたことをもって,えい航船側の過失と認めることはできない。

人命救助に必要な手段を尽くす義務について
以上のとおり,H船長は,本件事故当日午前1時54分頃の主機停止時点において,大福丸に急迫した危険が生じたと認められるから,当時の状況を踏まえ,直ちに海上保安庁に通報し,主機停止現場付近に滞留すべく錨泊等の措置をとる義務があったのに,これを怠り,これらの措置を全くとらないまま,近くを航行する宝生丸にえい航依頼を行い,その後合流し
た第二共福丸にえい航してもらうことが極めて危険性の高い手段であったことを認識しあるいは認識し得たから,他の手段を選択すべきであったのに,同日午前3時過ぎ頃に,そのままえい航依頼を維持し,その後えい航を開始させたものである。
よって,H船長は,本件乗組員との関係で,人命の救助のために必要な
手段を尽くす義務に違反したものと解するのが相当である。


争点1⑶(本件事故当日午前3時頃の時点で,僚船に本件乗組員を移乗させるべき義務の有無)について
原告らは,本件事故当日の午前3時頃の時点において救助に駆けつけてい
た僚船である第二共福丸及び宝生丸に本件乗組員を移乗させる義務があったと主張するが,第二共福丸が大福丸のえい航のために主機停止現場付近に到
着した本件事故当日午前3時の時点において,
主機停止現場付近の波は高く,
第二共福丸が大福丸の40メートル付近までしか近づけない状況にあったここのような状況において,H船長が第二共福
丸や宝生丸に本件乗組員を安全に移乗させる方法をとり得たとは認めることができない。

よって,原告らの上記主張は,理由がない。


争点1⑷(遅くとも本件事故発生時点までに,本件乗組員に対し,救命胴衣を着用させるべき義務の有無)について
主機停止時点において,
大福丸には急迫した危険があったこと,
水温17.
5度での水中における生存可能時間について,個人差はあるものの,12時
間以下とされていること,救命胴衣の着用は本件乗組員が落水した場合における生存可能性を高める効果を有することからすれば,H船長において,その後の落水に備え,甲板での作業を行う乗組員に対しては,直ちに救命胴衣を着用させるべきであったが,同船長はこれを怠った。


H船長の義務違反と結果との因果関係
これまで説示したとおり,H船長は,①本件事故当日午前1時54分頃の主機停止時点において,大福丸に急迫した危険が生じたと認められるから,当時の状況を踏まえ,直ちに海上保安庁に通報し,主機停止現場付近に同船を滞留させるべく錨泊等の措置をとる義務があったのに,これを怠り,いず
れの措置もとらなかったこと,②同日午前3時過ぎ頃,当時の状況から,上記①の手段を選択すべき義務があったのに,これを怠り,第二共福丸に対するえい航依頼を維持し,その後えい航を開始させたこと,③主機停止時点以後,本件乗組員に対し,救命胴衣の着用を命じなかったこと,以上の義務違反が認められるところ,上記①及び②の義務の違反の結果,本件事故を発生
させ,本件乗組員の死亡の結果をもたらしたものと認めざるを得ない。また,上記③の義務違反は,それが本件事故の発生をもたらすものではな
いが,本件事故により落水した乗組員の生存可能時間及び海上に浮揚していられる時間を延ばすことができるものであったと認められるから,上記①及び②の義務違反と相まって,本件乗組員の死亡との間に因果関係があるものと認められる。
よって,H船長は,本件乗組員との関係で,人命の救助のために必要な手
段を尽くす義務に違反し,もって船長としての業務上の注意を欠いたものと認められるから,被告B1有限会社は,商法690条(船舶所有者の責任)に基づき,原告らに対する損害賠償責任を負う。
安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求について(争点2に関し)原告らは,被告B1有限会社に対し,商法690条に基づく損害賠償請求
と雇用契約上の安全配慮義務に基づく損害賠償請求とを選択的に請求しているから,前者が認められる以上,後者について判断する必要はないことになる。
3
被告B2に対する損害賠償請求について(争点3に関し)
代理監督者責任(民法715条2項)について

被告B2は,被告B3ら家族で経営する被告B1有限会社の代表取締役であり,かつ,被告B2が経営実務を全て担当していたところ,操業に当たってもH船長に各種指示を行う立場にあって,同人を具体的に監督していたと認められることから,民法715条2項の代理監督者に該当する。また,被告B1有限会社及び被告B2は,大福丸の船舶管理など安全に関
する事項についてはH船長らに一任し,大福丸の安全管理に関する具体的な指示や対策を行っていたなどの事情は認められず,H船長の監督について,相当の注意を払っていたとは認められない。

したがって,
被告B2は,
民法715条2項
(代理監督者責任)
に基づき,
原告らに対する損害賠償責任を負う。
原告らは,被告B2に対し,民法715条2項に基づく損害賠償請求と会
社法429条1項に基づく損害賠償請求と民法709条に基づく損害賠償請求とを選択的に請求しているから,民法715条2項に基づく損害賠償請求が認められる以上,その余について判断する必要はないことになる。4
本件乗組員の損害について


葬祭費について
F甲板員を除く本件乗組員の葬祭費については,150万円と認めるのが相当である。
F甲板員については,原告A10が葬祭費の請求をし,労災保険の葬祭料を受給していることからすれば,F甲板員の葬祭費については,原
告A10の損害と認められ,F甲板員固有の損害とは認められない。イ
所持品損害について
所持品損害については,原告らの主張を認めるに足りる証拠はない。

逸失利益について
基礎収入について

a
C機関員,D甲板員,G機関長及びF甲板員について
本件乗組員の給与は歩合給(甲A4)であり,収入に変動があると認められることから,C機関員,D甲板員及びG機関長の基礎収入については,平成25年から平成27年の年収の平均額とするのが相当
である。
よって,C機関員の基礎収入は,年額532万円,D甲板員の基礎収入は,
年額811万円,
G機関長の基礎収入は,
年額647万円
(1
万円未満切捨て)と認める。
一方,F甲板員については,平成25年分の年収が約101万円に
とどまり,平成26年分が約493万円,平成27年分が約531万円であるなど年毎の変動が大きいところ,原告らが平成26年分の金
額をもって基礎収入と主張することにはそれなりに合理性があるから,年額493万円(1万円未満切捨て)と認める。
b
E甲板員について
本件乗組員の給与は歩合給(甲A4)であり,収入に変動があると認められること,3年間の収入状況が安定しているC機関員及びG機
関長の上記認定にかかる基礎収入が各人の平成27年の年収の約96ないし97パーセントであることなどから,E甲板員の基礎収入は,平成27年の年収の約96パーセント相当額である年額510万円と認めるのが相当である。
労働能力喪失期間について

漁船員の労働内容に照らし,就労可能年数は,67歳までと認める。生活費控除率について
生活費控除率については,本件乗組員が一家の支柱であった場合,被扶養者が1人であれば40パーセント,被扶養者が2人以上であれば30パーセント,本件乗組員に被扶養者がいない場合,50パーセントと
認めるのが相当である。
C機関員及びG機関長には,被扶養者がなく,D甲板員及びE甲板員には,2名以上の被扶養者があった。F甲板員には,少なくとも原告A13(本件事故当時18歳)及び原告A12(本件事故当時21歳)のエ
慰謝料について
本件乗組員の生活状況,本件事故の内容その他本件に顕れた一切の事情を考慮すれば,本件乗組員の死亡慰謝料は別紙7認容乗組員損害額一覧の慰謝料欄記載のとおりとするのが相当である。


損益相殺(葬祭料)
原告A1,原告A3,原告A7及び原告A14は,労災保険として葬祭
料を受給している。この給付の対象となる損害と同一の事由の関係にある葬祭費については,支給額の範囲内で填補がされたものと認められ,被告B1有限会社及び被告B2は賠償責任を免れる。

損害合計
別紙7認容乗組員損害額一覧の損害額合計欄記載のとおりとなる。


原告A10を除く原告らの損害

相続額
原告A10を除く原告らは,別紙8認容損害額内訳の相続額欄記載のとおり,本件乗組員の被告B1有限会社及び被告B2に対する損害賠償請求権をその法定相続分(1円未満切捨て)により相続した。


固有の慰謝料
原告A10を除く原告らと本件乗組員の関係,本件事故の内容その他本件に顕れた一切の事情を考慮すれば,原告A10を除く原告らの固有の慰謝料は別紙8認容損害額内訳の固有慰謝料欄記載のとおりとするのが相当である。


損益相殺
遺族厚生年金及び遺族補償年金について
原告A3及び原告A7は,労災保険として,別紙8認容損害額内訳の損益相殺(年金)欄記載のとおり遺族厚生年金及び遺族補償年金を
受給している。この給付の対象となる損害と同一の事由の関係にある逸失利益については,上記受給に係る支給額の範囲で填補がされたものと認められ,被告B1有限会社及び被告B2は賠償責任を免れる。
遺族特別支給金について
原告A1,原告A3,原告A7及び原告A14が受給した遺族特別支
給金は,労災保険法29条に規定する労働福祉事業の一環として行われるものである。同支給金は,その性質上,遺族の生活の援護等によりそ
の福祉の増進を図るためのものであるから(同条1項2号及び2項,労働者災害補償保険特別支給金支給規則),損害填補の性質を有するものとは認められず,損益相殺の対象とはならない。
船員保険行方不明手当金について
a
被告らは,原告らに対し,死亡した乗組員1人当たり200万円の船員保険行方不明手当金が支払われていると主張するものの,支給額が200万円であるとの被告らの主張を認めるに足りる証拠はない。
b
もっとも,原告A1,原告A2,原告A3及び原告A7は,平成28年12月15日から平成29年3月4日までの90日間の船員保険
行方不明手当金の支給を申請したことが認められるから,その後,これを受給したものと推認される。船員保険行方不明手当金は,船員保険法の規定に基づき,被被扶養者に対し,1日につき,被保険者の標準報酬日額に相当する金額を,
3か月を限度として支給されるもので,
被保険者の所得補償の性質を有すると解されることから,この給付の
対象となる損害と同一の事由の関係にある逸失利益については,支給額の範囲で填補がされたものと認められる。標準報酬日額は,C機関員及びD甲板員については2万1208円,E甲板員については1万9714円と認められ,
別紙8認容損害額内訳の
損益相殺(手当金)
欄記載の範囲で被告B1有限会社及び被告B2は賠償責任を免れる。
(甲A73の2,A74の1,A75の4,乙A11の1ないし3)(計算式)


原告A1及び原告A2
2万1208円×90日÷2人=95万4360円
(1人当たり)



原告A3
2万1208円×90=190万8720円



原告A7

1万9714円×90=177万4260円

損害の填補
被告B1有限会社は,原告らに対し,確認書及び連
絡文書をもって見舞金の趣旨であると合意した上で,本件乗組員1人当たり1050万円を支払った。しかし,上記確認書及び連絡文書には,被告
B1有限会社の損害賠償責任が認められた場合には上記見舞金を控除するとの留保がされていたこと及び上記見舞金の額が本件乗組員1名当たり1000万円を超える高額であることを考慮すれば,上記見舞金は,本件乗組員が被った損害を填補する趣旨で支払われたものと認められる。そして,上記見舞金の分配方法について,本件各証拠によっても,原告らの
間に特段の合意があるとは認められないから,原告らが受けた支払のうち,複数人が受領者となっているものについては,損害の填補の関係では,均等に受領したものとして扱うのが相当である。
よって,原告らに対する既払金の額は,別紙8認容損害額内訳の既払金(見舞金)欄記載のとおりとなり,当該金額について損害額から控除
される。

弁護士費用
本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は,別紙8認容損害額内訳の弁護士費用欄記載のとおりであると認める。


認容される損害額
別紙8認容損害額内訳の認容損害額欄記載のとおりとなる。



原告A10の損害

被扶養利益相当額について
①原告A10は,平成25年12月からF甲板員と同居していたが,期
成25年のF甲板員の年収は約100万円にとどまること(上記

),

③原告A13は,平成25年12月当時15歳,本件事故当時18歳であり,原告A12は,平成25年12月当時18歳,本件事故当時21歳であり,上記の同居期間中の全部ないし相当期間は同原告らが未成年者であって,父であるF甲板員の扶養を要する状況であったとうかがわれること(上記

A10が,F甲板員から

いくらの扶養料を受けていたかが明らかでないことなどからして,F甲板員は,原告A10との同居開始前及び開始当初に同原告を扶養する経済能力を持ち合わせていたとは認められないし,平成26年以降も,少なくとも,未成年者である実子の原告A13及び原告A12の扶養をすべき立場にあったから,同年からF甲板員の年収額が500万円近い金額になった
からといって,同居の母である原告A10を当然に扶養していたとまで認めることはできない。
そうすると,F甲板員の原告A10に対する扶養の具体的状況が明らかでない以上,同原告がF甲板員の死亡により将来の被扶養利益を喪失したとまで認めることはできない。

よって,原告A10の被扶養利益相当額に関する請求は理由がない。イ
葬祭料について
F甲板員の葬祭費として,150万円を認めるのが相当である。


固有の慰謝料について
原告A10はF甲板員の母であること,本件事故の前約3年間は同居し
ていたこと,本件事故の内容その他本件に顕れた一切の事情を考慮すれば,原告A10の固有の慰謝料は100万円とするのが相当である。

損益相殺
葬祭料

138万6370円

原告A10は,労災保険として葬祭料138万6370円を受給している。この給付の対象となる損害と同一の事由の関係にある葬祭費につ
いて,支給額の範囲内で填補がされたものと認められ,被告B1有限会社及び被告B2は賠償責任を免れる。
船員保険行方不明手当金

0円

原告A10は,平成28年12月15日から平成29年3月4日までの90日間の船員保険行方不明手当金の支給を申請したことが認められ
る(乙A11の4)。
しかしながら,上記アで説示したとおり,F甲板員の原告A10に対する扶養の具体的状況が明らかでなく,同原告がF甲板員の死亡により将来の扶養利益を喪失したとまでは認められないことからすれば,そもそも同原告が上記手当金を受給したかどうかは明らかでない。また,仮
に受給したとしても,同手当金が被保険者の所得補償の性質を有することからすれば,船員保険行方不明手当金の給付の対象となる損害と同一の事由の関係にある被扶養利益相当額についての損害は認められないから,損益相殺は認められない。

損害の填補

200万円

原告A10は,被告B1有限会社から見舞金として合計200万円(同
原告が単独で支払を受けた100万円と同原告,原告A11,原告A12及び原告A13が連名で支払を受けた400万円の1人分100万円の合計)の給付を受けており,当該金額のうち,損益相殺後の原告A10の損害額である111万3630円の限度で損害額から控除される。
カ5
0円

詐害行為取消請求について


被告株式会社B4に対する請求について(争点5⑴に関し)ア
認容損害額

本件債務免除の詐害行為取消請求について
被告株式会社B4は,平成29年5月31日時点で,現金及び預金合計1009万5648円を含む4361万9915円の流動資産を有して
いたこと,直近の売上金額が年額約2億9900万円程度あること,同年7月までに本件債権ないし本件債権を含む借入金に関する利息として合計136万9600円を支払っていたこと,貸借対照表上,負債が資産を上回る額約6500万円に対し被告B1有限会社からの借入金債務が約5500万円であったこと,本件債務免除後の同年8月以降,630万円
の利益を出し,被告B2に対する金銭の貸付けを行ったこと,本件各証拠によっても,同月以降に特に経営状況が好転したような事情は見当たらないにもかかわらず,平成30年5月以降は同被告に対する役員報酬を増額させていることなどが認められるから,本件債務免除時点においても,少なくとも本件債権に対する利息の支払能力を有し,被告B1有限会社に対
する借入金債務を除けば黒字が出る状況にあったことがうかがわれるほどであり,およそ倒産を検討しなければならないような財務状態ではなかったものと認められる。
一方,被告B1有限会社は,本件事故により船を失い営業ができない状態となって,預金額が約5500万円にとどまるにもかかわらず,本件乗
組員の遺族である原告らから数億円に上る損害賠償債権を主張されていたもので,無資力であったと認められる。
そうすると,本件債務免除は,当時財産的価値があった本件債権を放棄するものであると認められ,被告B1有限会社から被告株式会社B4に対する財産移転行為と同視できるから,被告B1有限会社の財産を減少させ
る行為に当たるものと解すべきである。
よって,
本件債務免除を詐害行為として取り消すことを求める原告ら
(た
だし,原告A10を除く。)の請求は理由がある。

免除債権相当額の金銭請求について
原告らは,本件債務免除の詐害行為取消しに加え,被告株式会社B4に対し,免除債権相当額の受益の返還として,金銭支払請求をしている。
しかしながら,債務免除のように,債権者の意思表示のみによって効力を生じ,かつ,債権者による給付行為がない場合にあっては,受益者に対してその取消しを求めれば,債務免除がない原状に復せしめることができ,詐害行為取消の訴えの目的を全て達することができるものと解される。そうすると,原告らは,被告株式会社B4に対し,本件債務免除の取消
しに加え,免除債権相当額の受益の返還を求めることはできない。よって,原告らの同被告に対する金銭請求は理由がない。
被告B2及び被告B3に対する請求について(争点5⑵ア
債務の弁済が詐害行為となる場合
債権者が弁済期の到来した債務の弁済を求めることは当然の権利行使
であり,債務者も債務の本旨に従った履行をなすべき義務を負っていることからすれば,弁済期にある債務の弁済については原則として詐害行為とならず,一部債権者と通謀し,他の債権者を害する意思をもって弁済したような場合にのみ詐害行為となると解するのが相当である(最高裁昭和33年9月26日第二小法廷判決・民集12巻13号3022頁参照)。

被告B2及び被告B3に対する報酬支払について
被告B1有限会社が平成29年7月末までに支払った被告B2及び被告B3に対する各1年分の報酬は,いずれも本件事故前の平成28年8月2日付け株主総会決議に基づくものであること,取締役報酬は委任契約の対価としての性質を有するものであることから,被告B1有限会社が業務
を遂行する上での義務的経費(一般管理費)であると認められる。よって,上記各報酬支払について,債権者との通謀や債権者を害する意思を問題とする余地はなく,原告らがこれを詐害行為に当たるとする主張は,その前提を欠き,理由がない。

被告B3に対する退職慰労金の支払について
被告B1有限会社の詐害意思

上記1

被告B3に対する退職慰労金の支払は,本件

事故後である平成29年7月31日付け株主総会決議に基づくものであること,被告B1有限会社に退職慰労金規程が存在しないこと,その支給が節税目的から発案されたものであったことに照らすと,当該支払について,被告B1有限会社の義務的経費と解することはできない。また,被告B1有限会社は,被告B3に対する退職慰労金支払期限である同年9月30日当時,原告らの一部から損害賠償金の支払請求を受け,原告らの一部が請求する損害賠償金の支払能力が被告B1有限会社にないことについては認識していた一方,原告らの一部の損害賠償金の
支払請求が法律上の根拠を欠くものであると被告B1有限会社が確信するような事情があったとは認められない。
このような状況でされた被告B3に対する退職慰労金の支払は,これが税法上正当な経費と認められるものであったとしても,被告B1有限会社と被告B3との通謀に基づく,他の債権者を害する意思による弁済
であったと解すべきであり,同支払の際,被告B1有限会社に他の債権者を害する意思があったものと認められる。
被告B3は善意と認められないこと
被告B3は,平成29年7月31日に退任するまで29年以上の長年にわたり被告B1有限会社の取締役であり,本件事故の発生及び乗組員
の死亡という重大な結果を十分認識していたこと,その後一部の遺族ともやり取りを行ってきたこと,被告B1有限会社の財務状況や原告らの一部が被告B1有限会社に対する損害賠償請求をしていたことについて認識していたと推認されることに照らせば,被告B1有限会社の被告B3に対する報酬支払が詐害行為に該当することについて善意であったと
は認められない。
よって,被告B1有限会社の被告B3に対する退職慰労金支払につい
て,これを詐害行為として取り消すことを求める原告ら(ただし,原告A10を除く。)の請求は理由がある。

退職慰労金相当額の返還請求について
原告ら(ただし,原告A10を除く。)が被告B3に対してした,同被告が支払を受けた退職慰労金相当額の支払請求については,まず本件乗組
員ごとに均等に按分した上,按分された額を,F甲板員以外の遺族については相続割合に按分し,F甲板員の遺族については均等に按分して請求していることから,原告らの請求する割合に基づいて支払を命ずるのが相当である。
よって,被告B3に対する,原告A10を除く原告らの詐害行為取消権
に基づく支払請求の認容額は別紙2-2認容額目録2(丙事件・被告B3関係)のとおりとなる。
第4

結論
以上によれば,原告らの請求は主文第1項ないし第4項掲記の限度で理由が
あるからこれを認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
鳥取地方裁判所民事部

裁判長裁判官

藤澤裕介
裁判官

姥迫浩司
裁判官

木内悠介
(別紙2-1)
認容額目録1(甲事件,乙事件)

原告

金額

原告A1

―27,196,260

原告A2

―27,196,260

原告A3

―19,718,105

原告A4

―9,014,336

原告A5

―9,014,336

原告A6

―9,014,336

原告A7

―34,643,669

原告A8

―20,368,658

原告A9

―20,368,658

原告A11

―23,439,354

原告A12

―23,439,354

原告A13

―23,439,354

原告A10

―0

原告A14

―12,249,765

原告A15

―12,249,765

合計

―271,352,210

(別紙2-2)
認容額目録2(丙事件・被告B3関係)

請求按分割合

原告
原告A1

金額

1/2

―3,900,000

原告A2

1/2

―3,900,000

原告A3

1/2

―3,900,000

1/6

―1,300,000

原告A5

1/6

―1,300,000

原告A6

1/6

―1,300,000

原告A7

1/2

―3,900,000

1/4

―1,950,000

原告A9

1/4

―1,950,000

原告A11

1/4

―1,950,000

1/4

―1,950,000

原告A13

1/4

―1,950,000

原告A10

1/4

―0

1/2

―3,900,000

1/2

―3,900,000

1/5

原告A4
1/5

1/5

原告A8

原告A12
1/5

原告A14
1/5
原告A15
合計

―37,050,000

(別紙3)
詐害
1行為目録
債務者

被告B1有限会社

受益者

被告B3


平成28年12月14日から現在に至るまで


対象行為
金2
取締役退職金名目での弁済
3900万円


債務者

被告B1有限会社

受益者

被告B3


平成28年12月14日から現在に至るまで


対象行為
金3
取締役報酬名目での弁済
600万円


債務者

被告B1有限会社

受益者

被告B3


平成28年12月14日から現在に至るまで


対象行為
金4
債務弁済
2139万6780円


債務者

被告B1有限会社

受益者

被告B2


平成28年12月14日から現在に至るまで


対象行為
金5
取締役報酬名目での弁済
1200万円


債務者

被告B1有限会社

受益者

被告株式会社B4


平成28年12月14日から現在に至るまで


対象行為
債務免除


5511万7672円


(別紙4-1)
請求額目録1(甲事件,乙事件)

原告

金額

原告A1

―56,043,677

原告A2

―56,043,677

原告A3

―50,084,062

原告A4

―16,694,687

原告A5

―16,694,687

原告A6

―16,694,687

原告A7

―59,674,574

原告A8

―29,837,287

原告A9

―29,837,287

原告A11

―32,895,095

原告A12

―32,895,095

原告A13

―32,895,095

原告A10

―19,200,000

原告A14

―31,013,236

原告A15

―31,013,236

合計

―511,516,382

(別紙4-2)
請求額目録2(丙事件・被告B3関係)

請求按分割合

原告
原告A1

金額

1/2

―6,639,678

原告A2

1/2

―6,639,678

原告A3

1/2

―6,639,678

1/6

―2,213,226

原告A5

1/6

―2,213,226

原告A6

1/6

―2,213,226

原告A7

1/2

―6,639,678

1/4

―3,319,839

原告A9

1/4

―3,319,839

原告A11

1/4

―3,319,839

1/4

―3,319,839

原告A13

1/4

―3,319,839

原告A10

1/4

―3,319,839

1/2

―6,639,678

1/2

―6,639,678

1/5

原告A4
1/5

1/5

原告A8

原告A12
1/5

原告A14
1/5
原告A15
合計

―66,396,780

(別紙4-3)
請求額目録3(丙事件・被告B2関係)

請求按分割合

原告
原告A1

金額

1/2

―1,200,000

原告A2

1/2

―1,200,000

原告A3

1/2

―1,200,000

1/6

―400,000

原告A5

1/6

―400,000

原告A6

1/6

―400,000

原告A7

1/2

―1,200,000

1/4

―600,000

原告A9

1/4

―600,000

原告A11

1/4

―600,000

1/4

―600,000

原告A13

1/4

―600,000

原告A10

1/4

―600,000

1/2

―1,200,000

1/2

―1,200,000

1/5

原告A4
1/5

1/5

原告A8

原告A12
1/5

原告A14
1/5
原告A15
合計

―12,000,000

(別紙4-4)
請求額目録4(丙事件・被告株式会社B4関係)

請求按分割合

原告
原告A1

金額

1/2

―5,511,767

原告A2

1/2

―5,511,767

原告A3

1/2

―5,511,767

1/6

―1,837,255

原告A5

1/6

―1,837,255

原告A6

1/6

―1,837,255

原告A7

1/2

―5,511,767

1/4

―2,755,883

原告A9

1/4

―2,755,883

原告A11

1/4

―2,755,883

1/4

―2,755,883

原告A13

1/4

―2,755,883

原告A10

1/4

―2,755,883

1/2

―5,511,767

1/2

―5,511,767

1/5

原告A4
1/5

1/5

原告A8

原告A12
1/5

原告A14
1/5
原告A15
合計

―55,117,665

(別紙5)
請求乗組員損害額一覧

乗組員名

葬祭費

所持品損害

逸失利益

基礎収入

C機関員

D甲板員

E甲板員

F甲板員

G機関長

―2,500,000

―2,500,000

―2,500,000

―2,500,000

―2,500,000

―500,000

―500,000

―500,000

―500,000

―500,000

―58,087,354―47,168,125―64,549,149―48,685,286―37,639,710
―5,321,181

―8,112,183

―5,292,545

―4,934,788

―6,473,444

労働能力
喪失期間
(年)

生活費
控除率

30%

30%

30%

30%

30%

慰謝料

―35,000,000―35,000,000―35,000,000―35,000,000―35,000,000
損害額合計

―96,087,354―85,168,125―102,549,149―86,685,286―75,639,710
(別紙6)
請求損害額内訳

原告

相続額

固有
慰謝料

弁護士
費用

請求
損害額

原告A1

―48,043,677

―3,000,000

―5,000,000

―56,043,677

原告A2

―48,043,677

―3,000,000

―5,000,000

―56,043,677

原告A3

―42,584,062

―3,000,000

―4,500,000

―50,084,062

原告A4

―14,194,687

―1,000,000

―1,500,000

―16,694,687

原告A5

―14,194,687

―1,000,000

―1,500,000

―16,694,687

原告A6

―14,194,687

―1,000,000

―1,500,000

―16,694,687

原告A7

―51,274,574

―3,000,000

―5,400,000

―59,674,574

原告A8

―25,637,287

―1,500,000

―2,700,000

―29,837,287

原告A9

―25,637,287

―1,500,000

―2,700,000

―29,837,287

原告A11

―28,895,095

―1,000,000

―3,000,000

―32,895,095

原告A12

―28,895,095

―1,000,000

―3,000,000

―32,895,095

原告A13

―28,895,095

―1,000,000

―3,000,000

―32,895,095

原告A14

―25,213,236

―3,000,000

―2,800,000

―31,013,236

原告A15

―25,213,236

―3,000,000

―2,800,000

―31,013,236

(別紙7)
認容乗組員損害額一覧

乗組員名

葬祭費

C機関員

D甲板員

E甲板員

―1,500,000

―1,500,000

―1,500,000

―0

―1,500,000

―0

―0

―0

―0

―0

所持品損害

逸失利益

基礎収入

F甲板員

G機関長

―39,628,946―36,691,586―60,750,690―45,425,513―20,908,452
―5,320,000

―8,110,000

―5,100,000

―4,930,000

―6,470,000

労働能力
喪失期間
(年)

ライプニッツ
係数

14.8981

6.4632

17.017

13.163

6.4632

生活費
控除率

50%

30%

30%

30%

50%

慰謝料

―20,000,000―22,000,000―23,000,000―24,000,000―20,000,000
小計

―61,128,946―60,191,586―85,250,690―69,425,513―42,408,452
損益相殺
(葬祭料)
損害額合計

―1,272,480

―1,272,480

―1,182,840

―0

―1,500,000

―59,856,466―58,919,106―84,067,850―69,425,513―40,908,452
(別紙8)
認容損害額内訳

原告

相続額

固有損益相殺損益相殺既払金
慰謝料(年金)(手当金)(見舞金)

小計

弁護士認容
費用損害額

原告A1
法定相続分
2分の1

―29,928,233―1,000,000

―0―954,360

―5,250,000―24,723,873―2,472,387―27,196,260
原告A2
法定相続分
2分の1

―29,928,233―1,000,000

―0―954,360

―5,250,000―24,723,873―2,472,387―27,196,260
原告A3
法定相続分
2分の1

―29,459,553―3,000,000―10,000,283―1,908,720―2,625,000―17,925,550―1,792,555―19,718,105
原告A4
法定相続分
6分の1

―9,819,851―1,000,000

―0

―0

―2,625,000―8,194,851

―819,485

―9,014,336

原告A5
法定相続分
6分の1

―9,819,851―1,000,000

―0

―0

―2,625,000―8,194,851

―819,485

―9,014,336

原告A6
法定相続分
6分の1

―9,819,851―1,000,000

―0

―0

―2,625,000―8,194,851

―819,485

―9,014,336

原告A7
法定相続分
2分の1

―42,033,925―3,000,000―8,265,420―1,774,260―3,500,000―31,494,245―3,149,424―34,643,669
原告A8
法定相続分
4分の1

―21,016,962―1,000,000

―0

―0

―3,500,000―18,516,962―1,851,696―20,368,658
原告A9
法定相続分
4分の1

―21,016,962―1,000,000

―0

―0

―3,500,000―18,516,962―1,851,696―20,368,658
原告A11
法定相続分
3分の1

―23,141,837―1,000,000

―0

―0

―2,833,333―21,308,504―2,130,850―23,439,354
原告A12
法定相続分
3分の1

―23,141,837―1,000,000

―0

―0

―2,833,333―21,308,504―2,130,850―23,439,354
原告A13
法定相続分
3分の1

―23,141,837―1,000,000

―0

―0

―2,833,333―21,308,504―2,130,850―23,439,354
原告A14
法定相続分
3分の1

―13,636,150―1,000,000

―0

―0

―3,500,000―11,136,150―1,113,615―12,249,765
原告A15
法定相続分
3分の1

―13,636,150―1,000,000

―0

―0

―3,500,000―11,136,150―1,113,615―12,249,765
(別紙9)

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