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殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反被告事件
事件番号平成24(た)3
事件名殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反,火薬類取締法違反被告事件
裁判年月日平成31年3月28日
法廷名熊本地方裁判所
裁判日:西暦2019-03-28
情報公開日2019-05-07 12:00:11
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平成31年3月28日宣告
平成24年(た)第3号

殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反,火薬類取締法違反

被告事件


被告人A

主文
本件公訴事実中殺人の点については,被告人は無罪
昭和61年12月22日熊本地方裁判所が言い渡した判決の判示第2の罪につき,被告人を懲役1年に処する
原審における未決勾留日数中,その刑期に満つるまでの分をその刑に算入する。
熊本地方検察庁で保管中のけん銃1丁(昭和60年領第217号符号5)及び熊本銃砲火薬株式会社で保管中のけん銃実包5発(同号符号6の2ないし4並びに符号7の3及び4)を没収する。

第1
1由
再審開始事由があるとされた公訴事実
本件再審開始決定において,再審開始事由があるとされたのは,昭和61年
12月22日,熊本地方裁判所が言い渡した判決の判示第1の罪であり,これに対応する公訴事実は,被告人は,昭和60年1月5日午後11時30分頃,熊本県下益城郡松橋町のB(当時59歳)方において,B,Cらと飲酒した際,前記Bの高慢な発言を被告人がしたものと誤解した前記Cから,押し倒されたり,あるいは殴りつけられるなどの暴行を受けたので,平素の前記Bに対する憤まんの念が一挙に爆発し,激高の末,同人を殺害しようと決意し,同町の被告人方から,刃体の長さ約11センチメートルの切出小刀1本を持ち出し,同月6日午前1時30分前後頃,前記B方において,前記切出小刀で同人の左頸部を目がけて10数回突き刺し,よって,そのころ,同所において,同人を左総頸動脈切損等にもとづく失血により死亡させて殺害したというものである(地名は,以下においても確定判決当時のものを用いる。以下,この事件を本件という。)。
2
本件再審公判に至る経緯



本件発生から判決確定まで

本件の被害者であるB(以下被害者という。)は,昭和60年1月8日午前9時30分頃,熊本県下益城郡松橋町所在の被害者方室内において,刃物で頸部を多数回刺されて死亡しているのを発見された。警察は,同月8日夜から同月19日にかけて被告人を取り調べ,同月20日に被害者殺害を認める供述をするに至った被告人を逮捕した。その後,被告人は被害者殺害を認める供述を続け,同年2月10日本件で起訴された。なお,被告人は,本件の捜査の過程で被告人方から発見されたけん銃1丁及び実包10発を所持していたとの事実(以下別件という。)でも起訴された。
被告人は,第1回公判期日において,本件について認めた後,公判途中から本件を否認するようになったが,熊本地方裁判所は,昭和61年12月22日,被告人の自白の任意性,信用性を肯定して,本件及び別件について,被告人をいずれも有罪と認定し,懲役13年に処する旨の判決を言い渡した。控訴,上告はいずれも棄却され,平成2年2月14日,第1審の熊本地方裁判所判決(以下確定判決という。)が確定し,その後,被告人は刑の執行を受け終えた。


再審請求から再審開始まで

被告人の法定代理人成年後見人は,平成24年3月12日,本件について無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したとして,本件再審請求をした(平成27年9月17日,被告人の長男も,同様の理由で再審を請求したが,同人は,後述する本件再審開始決定に対する即時抗告が福岡高等裁判所に係属していた平成29年9月1日頃死亡しており,同人からされた再審請求の手続は終了している。)。熊本地方裁判所は,平成28年6月30日,要旨,被告人の自白以外に本件犯行と被告人を結びつける決め手となる証拠はなく,確定判決は,特に被告人の捜査段階の自白に依拠して有罪を認定しているが,Cの鑑定などの新証拠によると,被告人が本件犯行の凶器であると自白した切出小刀(以下本件切出小刀という。)では被害者の創傷は成傷し得ないのではないかとの合理的な疑義が生じ,また,被告人の自白では,シャツの左袖から切り取った布きれを本件切出小刀に巻き付けて犯行に使用し,その後燃やしたとされているが,シャツの左袖が現存し血液付着も認められなかったから,布を巻き付けたとの被告人の自白は事実ではない疑いがあり,本件切出小刀は本件犯行の凶器ではないという強い疑いが生じ,結局,被告人の自白の重要部分に客観的事実との矛盾があるとの疑義が生じ,自白全体の信用性を動揺させた結果,そのほかの自白の信用性を担保するとされた各補助事実についても,証明力や証拠価値に疑義が生じるから,被告人の自白について,有罪認定を維持し得るほどの信用性を認めることはできなくなったとして,再審開始を決定した。
検察官が即時抗告をしたが,福岡高等裁判所は,平成29年11月29日,要旨,前記Cの鑑定によると被害者の死体に残された創傷は本件切出小刀の形状と相当に矛盾しており,また,本件切出小刀に布を巻き付けた事実自体が虚偽である可能性があり,確定判決が被告人を被害者殺害の犯人とする理由の主要な部分が相当に疑わしくなったというほかなく,被告人が被害者殺害の犯人であることを示す唯一の証拠である被告人の捜査段階の自白全体の信用性が大きく揺らぐことになるから,原決定が,使用された凶器と巻き付けられた布切れに関する新証拠によって,被告人が被害者殺害の犯人ではないという合理的な疑いが生じたとするのは相当であるなどとして,即時抗告を棄却した。検察官の特別抗告は棄却され(平成30年10月10日最高裁判所第二小法廷決定),再審開始が確定した。


当裁判所の判断

本件再審公判で取り調べた証拠によれば,被害者は,昭和60年1月6日頃,熊本県下益城郡松橋町所在の同人方において,左総頸動脈の切損により失血死しており,その顔面,頸部等に認められた複数箇所の創傷状況から,被害者は,何者かによって刃物様の凶器を使用して殺害されたものと認められる。しかし,被告人が被害者殺害の犯人であることを示す証拠はなく,被告人が被害者を殺害したとは認められない。
なお,検察官は,被告人の自白を含めて,確定審で取調べ済みの証拠及び再審請求審で提出された証拠のうち,検察官が請求した証拠を中心として数多くの証拠を本件再審公判でも証拠請求した。しかし,本件再審公判における検察官請求証拠のうち,被告人の自白については,再審請求審における数年にわたる審理の中で,確定審が認めた自白の任意性,信用性の弾劾を目的とする詳細な弁護人の主張を踏まえ,前記Cの証人尋問を含む多くの事実取調べの結果,自白の重要部分に客観的事実との矛盾があるとの疑義が生じたことなどから,その信用性が否定されたのである。そして,本件再審公判に際し,検察官は,被告人の自白を含む確定審及び再審請求審において取り調べられた多くの証拠を請求する一方で,再審請求審における裁判所の上記判断が確定したことや,その手続における一連の経緯,本件の証拠構造等を踏まえ,本件につき被告人が有罪である旨の新たな主張・立証は行わない旨を宣明したのである(なお,検察官は,確定審で取調べ済みの証拠及び再審請求審で提出された証拠に基づいて,適切な判断を求めるとしながら,再審請求審で提出された証拠の中でも最も重要性の高い証拠の一つである,犯行に使用した後で燃やしたとされる前記布きれなどは請求していない。)。すでに述べた本件再審公判に至った経緯等を十分に念頭に置くなら,仮に,被告人の自白を,他の確定審で取調べ済みの証拠及び再審請求審で提出された証拠等と共に採用し,相当の時間を掛けて改めてその信用性を検討したとしても,検察官による新たな立証がされない以上,客観的事実と矛盾する疑いがあることを根拠とする再審請求審の判断と異なる結論に至ることは想定し得ない。しかも,弁護人は,確定判決宣告から約30年という月日が経過しており,被告人の年齢や体調などを考慮して,本件再審公判の迅速な審理及び判決を求めている。このような再審開始までの経緯や再審請求審の判断,本件再審公判の進行に関する当事者の意見に加え,確定判決から非常に長い年月が経過していることなどを踏まえると,被告人の自白を,本件再審公判で採用し,その信用性について改めて検討を加える必要性があるとは考えられず,可能な限り速やかに判決を言い渡すことが最も適当である。このように考えて,検察官が請求した証拠のうち,被告人の自白などを却下した。
よって,本件公訴事実については,犯罪の証明がないから,刑訴法336条により,被告人に無罪を言い渡すこととする。
第2

別件の公訴事実について

本件再審公判の審理対象は,併合罪の関係にある本件及び別件の公訴事実であるが,実質的な審判の対象となるのは再審開始事由があるとされた本件の公訴事実についてのみであり,その余は形式的に審判の対象となっているに過ぎない。そこで,別件の公訴事実について,確定判決が認定した事実を前提として,その宣告当時の法令を適用し,当時認められた諸般の量刑事情(所持に至る経緯等からして,本件けん銃や実包が真正品と同等の性能を備えているとはいえず,組織的背景等もうかがえないとはいえ,被告人は,自宅にあったけん銃を修理し,実包を自作して,人の生命や身体,社会生活の平穏を害する危険性がある状況を,安易かつ能動的に作出した上,これらを相当期間自宅で隠匿保管していたこと,見るべき前科がないことなど)を基礎として,当時であればどのような量刑がされたのかを想定して刑を定めた。
(法令の適用)
省略
(検察官武藤雅光,同粉川知也,補佐人衛藤二男,私選弁護人別紙弁護人一覧のとおり

各公判出席)

(求刑

懲役2年,けん銃1丁及びけん銃用実包5発の没収)

平成31年3月28日
熊本地方裁判所刑事部
裁判長裁判官

溝國

禎久
裁判官

船戸宏之
裁判官

清水俊貴
(別紙)
弁護人一覧
主任弁護人

三角恒
弁護人

齊藤誠同武村
二三夫

同西同吉井秀広同国宗直子同野嶋真人同藤本卓司同大熊裕起同菅一雄同村山雅則同松村尚美同吉野雄介同益子清次郎

覚以上
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