判例検索β > 平成30年(ワ)第578号
損害賠償請求事件
事件番号平成30(ワ)578
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日平成31年4月23日
法廷名福岡地方裁判所
結果その他
裁判日:西暦2019-04-23
情報公開日2019-05-20 14:00:21
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主1文
被告らは,原告に対し,連帯して4824万6080円及びこれに対する平成26年5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2
原告のその余の請求をいずれも棄却する。

3
訴訟費用は,これを50分し,その21を原告の負担とし,その余を被告らの負担とする。

4
この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由

第1

請求
被告らは,
原告に対し,
連帯して8365万9412円及びこれに対する平

成26年5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。第2

事案の概要
本件は,

の幹部の子息である原告が,指定暴力団五代目工藤會

(以下工藤會という。
)の構成員であったF(以下Fという。
)により
刃物で複数回刺突されるという襲撃行為(以下本件襲撃という。
)を受けて
負傷したところ,①被告らは,工藤會の幹部として構成員であるFを指揮監督して工藤會の威力を利用した資金獲得活動に係る事業に従事させており,本件襲撃は

の関わる工事の利権獲得を目的に上記事業の執行として行われ

たものであると主張して,使用者責任(民法715条)に基づき,又は②被告A及び同Bについて,工藤會を代表し又はその運営を支配する地位にあるところ,構成員であるFが威力利用資金獲得行為を行うについて他人である原告の生命及び身体を侵害したと主張して,暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(以下暴対法という。
)31条の2に基づき,被告らに対し,連帯
して損害賠償金8365万9412円及びこれに対する不法行為の日である平
成26年5月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1
前提事実(当事者間に争いがないか,掲記の証拠(枝番があるものは特に断らない限り枝番全てを含む。
)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)


当事者
原告は,本件襲撃(平成26年5月26日)当時29歳であり,

として勤務していた(甲17,24)


工藤會は,
暴対法3条所定の指定暴力団に指定された暴力団であり,
被告
Aが総裁を,被告Bが会長を,被告Cが理事長をそれぞれ務めていた。五代目田中組(以下田中組という。
)は,工藤會傘下の暴力団であり,被告
Cが組長を務めていた(甲5)



本件襲撃
田中組本部長であったE(以下Eという。
)は,本件襲撃の前,田中

組構成員であったFに対し,原告を刃物で襲撃するよう指示した。Fは,平成26年5月26日,原告の勤務先の駐車場近くで待ち伏せ,原告の運転する車が同駐車場に到着し,原告が運転席から降車して助手席のドアを開けて荷物を扱っている際に,その背中を用意していた刃体の長さ
約12センチメートルの包丁様の刃物で突き刺し,更に正対して抵抗する原告の胸部,下腹部及び大腿部を合計7回突き刺した(本件襲撃)。
原告は,
Fから刃物で突き刺されたことにより,
左大腿部刺創,
腹部刺創,
胸壁刺創及び背部刺創の各傷害を負った。
(甲17~22,24)

2
争点及び争点に関する当事者の主張



被告らの本件襲撃に対する責任の有無
【原告の主張】

被告らの使用者責任(民法715条)
被告らは工藤會の幹部として,Fら構成員を直接ないし間接に指揮監督する者であるところ,本件襲撃は,暴力団の資金獲得活動として,(以下あるいはということがある。
)の幹部で

ある原告の父を畏怖させることによって,原告の父や

の関わる工

事による利権を獲得することを目的として行われたものであるから,暴力団の事業の執行あるいはこれと密接に関連する行為といえる。
したがって,
被告らは,Fによる不法行為である本件襲撃について使用者責任を負う。

被告A及び同Bの暴対法31条の2に基づく責任
被告Aは,工藤會の代表者として意思決定を行う総裁の地位にあり,被告Bは,総裁に次ぐ会長の地位にあって工藤會の運営を支配していたものであるから,いずれも暴対法3条3項の代表者等に該当するところ,本件襲撃は工藤會の威力を維持し資金獲得を容易ならしめるために行われ
たものであるから,暴対法31条の2に基づき,原告の生命及び身体の侵害による損害を賠償すべき責任を負う。
【被告らの主張】
いずれも否認ないし争う。


損害額
【原告の主張】

治療費

62万7231円

原告は,本件襲撃によって左大腿部刺創,腹部刺創,胸壁刺創及び背部刺創の各傷害を負い,平成26年5月26日から同年6月9日までの入院治療及び同日から平成27年2月27日(症状固定日)までの通院治療を
余儀なくされ,治療費62万7231円の損害を被った。

入院雑費・付添看護費

17万2500円

原告は,本件襲撃によって平成26年5月26日から同年6月9日までの15日間入院しており,入院中に要した諸雑費は1日当たり1500円(合計2万2500円)を下らない。
また,原告は生命の危機に瀕し家族の付添いを必要としたから,付添看護費は1日当たり1万円(合計15万円)を下らない。

休業損害

592万4458円

原告は,本件襲撃当時,


として勤務して

おり,収入は777万8600円(1日当たり2万1311円)であったが,本件襲撃により平成27年2月27日まで(278日間)の欠勤を余
儀なくされたから,592万4458円(2万1311円×278日間)の休業損害が発生した。

傷害慰謝料

2000万0000円

Fは殺意をもって原告の背中や胸部という人体の枢要部を刃物で攻撃しており,原告は大量出血を起こして短時間で死に至る危険の高い状態に陥
り,長期間の入通院を余儀なくされた。本件襲撃は,被告らが不正に利益を得るべく原告の父を畏怖させようとしたもので,極めて自己中心的かつ身勝手な動機に基づくものであり,被告らからの謝罪はない。原告が本件襲撃により人生設計を狂わされ,今後も自らや家族が工藤會に狙われるのではないかとの恐怖を感じていることからすれば,原告の傷害慰謝料は2
000万円を下らない。

逸失利益

3039万1988円

原告は,
本件襲撃により左大腿部の筋断裂,
神経切断による知覚過敏・
知覚鈍麻による痛み,痺れにより左足で身体を支えられず,長時間の立位が困難な状態にあり,自動車損害賠償保障法施行令別表第2所定の後遺障害等級(以下,単に後遺障害等級という。
)の局部に頑固な神経症状を残すものとして12級13号に相当する後遺障害がある。また,左大腿部の外側,膝上外側,膝上正面,内側部に損傷があり,左大腿部痛,多関節運動,筋の協調性の低下,廃用による筋力低下など
により,大腿部の周径は右足よりも数センチメートル低値で,左膝が十分に曲がらず,正座ができない状態にあるから,膝関節の可動域制限は1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すものとして後遺障害等級12級7号に相当する後遺障害がある。
さらに,原告は,本件襲撃の手術により胸部,下腹部,大腿部等に非常に目立つ瘢痕,線状痕を残存し,
外貌に醜状を残すものとして後遺
障害等級12級14号に相当する後遺障害がある。

加えて,原告は,生命の危機にさらされるという本件襲撃に遭遇し,本件襲撃の場面を不意に思い出してしまうことで入眠困難や周囲の物音への過剰反応を引き起こし,駐車の際には周囲に不審者がいないと確認せざるを得ない状態に陥っているから,
PTSDに罹患したものといえ,
後遺障害等級12級に相当する後遺障害がある。これら後遺障害は併合
11級に相当するものといえるから,原告の労働能力喪失率は20パーセントを下らない。
原告は

として勤務していたところ,

の全年齢平均年

収は909万3408円であり,原告は

を持って

いたから,基礎収入は同金額を下回らない。

原告は,症状固定時である平成27年2月27日,30歳であり,労働能力喪失期間は37年間となる。
したがって,原告の逸失利益は,3039万1988円(909万3408円×0.2×16.711(37年間のライプニッツ係数))であ
る。


後遺障害慰謝料

1260万0000円

原告が前記オの後遺障害を負うに至った経緯に加え,原告が今後も工藤會から自身あるいはその家族がいつ狙われるか分からないとの恐怖の下に日常生活を送り続けなければならないこと,前記オの後遺障害については逸失利益をもってしても原告の損害を評価しつくせないことなどを考慮すると,原告の後遺障害慰謝料は1260万円を下らない。

弁護士費用

1394万3235円

被告らが本件襲撃について任意の賠償金支払をしないため,原告は弁護士に依頼せざるを得ず,被告らが特定危険指定暴力団の構成員であって複数の弁護士を必要としたことなどの事情に照らせば,弁護士費用は,前記アないしオの合計6971万6177円の2割に当たる1394万32
35円が相当である。

合計

8365万9412円

【被告らの主張】
いずれも否認ないし争う。
第3

当裁判所の判断

1
争点⑴(被告らの本件襲撃に対する責任の有無)について⑴

認定事実
前提事実に加え,後掲の証拠(枝番があるものは枝番全てを含む。以下同じ。
)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。


工藤會の指揮命令系統及び被告らの地位
工藤會は,総裁の被告Aを頂点とし,会長の被告Bのもとに,直若(被告Bとの間で擬制的親子関係を結んだ工藤會構成員をいう。
)である田中
組ら下部組織の組長及び同下部組織に属する構成員から構成されるピラミッド型階層組織となっており,工藤會の決定事項は理事長の被告Cらによって構成される執行部によってなされて末端構成員まで周知されるこ
ととなっていた。工藤會には毎月構成員から運営費が上納されていたが,その使途は会長の被告Bが決定し,誰を直若にするかも同人が決定しており,被告Bが工藤會の予算や人事の決定権を有し,被告Cら執行部,さらには下部組織の組長及び構成員らはその決定に従っていた。
(甲5,弁論の全趣旨)


原告の親族と工藤會との関係
における原告の親族らの立場
原告の祖父である

(以下という。
)は,北九州市a区

(以下という。
)の

また,砂利採取・販売業等を営む
を設立して代表取締役を

務めていたことから,北九州市一帯における
業界に強い影響力を有していた。
原告の父である

(以下平成19年,あるはいずれもが合併してにはの弟でという。)が就いた。合併前の

には

」という。
)が務めている。

」という。
)が成立し,

(以下就き,のの代表取締役は,その後,を含む7つの(以下「を務め,となり,の甥であるの(以下「にはがという。)が就い

ていた。
(甲6,弁論の全趣旨)
と北九州市内における大規模工事との関係

北九州市においては,

に影響を及ぼす工事を行おうとする企業に

対し,工事に先立って地元

の同意を得るように指導されており,

ないし
もある
では,

一人当たり数千万円に上ること

補償金をまとめて受け取って各

に分配していただけで

なく,同意に当たって特定の業者を下請にするよう口利きをすることも不可能ではなかったため,マスコミなどによって

が大規模工事に関

し利権を有しているかのように報道されることもあった。
平成25年10月以降,


の同意を要する火力発電事業,配当金を
た洋上風力発電事業,

を有する地域において,
に渡す予定となってい

補償金の発生する廃棄物処理場設置のための

埋立事業が相次いで立ち上がり,新聞等を通じて公にされていた。(甲6,弁論の全趣旨)
工藤會は,自らと関係のある企業を北九州市及びその周辺における工事の下請に入れ,地元対策費と称した本来の工事費用の上乗せを利得していたところ,北九州市a区内の工事においても同様の利得を得ようと考え,平成8年頃から


であった

に対し,同区内

における工事において工藤會と関係のある業者を下請にするよう口利きなどを求めたものの,

は工藤會の申出を断った。その後,

は,

平成▲年▲月▲日に工藤會の構成員によって殺害された。
さらに,平成●年●月●日には,

と同様に工藤會や関係する業者

との取引を拒絶する姿勢を示していた,

のの
が何

者かによって殺害された。
は,工藤會と関係を有し,被告Bとも面識があったところ,後記

Bから数回にわたり呼び出された際,北九州市a区

で行われる解体工事について,
特定の業者を下請として紹介されたため,
に対して口利きを依頼したが,

工事は,

はこれを断った。なお,同解体

とは無関係の工事であったため,

するものではなく,


の同意を要

が口利きできるものでもなかった。

(甲6,9,10,12,弁論の全趣旨)

原告の経歴等
原告は,小学校卒業とともに福岡県外で生活を始め,大学院入学のために平成22年4月から北九州市に戻り,平成26年3月に大学院を卒業した以降,

として

に勤務していた。原告は,


の役職に就いたり北九州市で行われる工事に関係したりした
ことはなく,工藤會と関係を持ったり工藤會の関係者から接触を受けたこともなかった。
(甲10,13,17,弁論の全趣旨)

本件襲撃に至る経緯
被告Bによる
は,

への接触

であった

の殺害から約1か月経っ

た平成26年1月末ないし2月初め頃,工藤會の会長であった被告Bから呼び出され,一対一で面会した。被告Bは,

が殺害されたことに

触れ,
あんなになっとるのに,何も変わらんのかなどと

の工藤會

に対する態度に変化がないことに不満を示したり,

のや
における発言力の大きさを尋ねた。これに対し,

がのの
の発言力が大きいといった説明をし

た。
また,
被告Bは,
同年2月中旬頃にも
荒い口調で,

の殺害後も

を呼び出して一対一で会い,

が工藤會を恐れる様子がないことに強

い不満を露わにするとともに,自分も
から

に危害を加えたくはないが,

に対してその旨伝えても態度に変化がなければ,単なる脅

しではなく行くとこまで行くしかないと伝え,これは俺の考えではなく,會としての方針であると述べた。また,被告Bは,

をやったらいいなどと,その後押しをするような発言をした。
は,工藤會が

や自身に危害を加えようとしているものと受け止め,

に対して被告Bの言葉を伝えると約束した。
は,同年2月26日,
出し,工藤會が


を呼び

に危害を加えようとしているので工藤會との関係を

持つように強く説得したが,

はこれを拒絶した。

被告Bは,同年3月上旬,

を呼び出し,自らの言葉を

たことを確認し,その際の
の折をみて

の様子を問い質した。

が,

に伝え
は動

揺していたが,その後連絡はない旨伝えると,被告Bは,言葉を荒くしてせっかく警告しとるのに,いままでお前に何も言うてこんというのは,舐めとるんかなどと述べた。(甲9,10)
Fらに対する本件襲撃の指示及び準備状況
工藤會の下部組織である田中組は,総裁の被告Aや会長の被告Bの出身母体であるところ,同組本部長のEは,平成26年3月頃,田中組の
構成員に対し,
本件事件現場となった駐車場を利用する黒いセルシオ
(原
告が通勤に使用していた車両)の動きを観察するよう指示し,同構成員からの報告を受け,本件事件の1週間前頃,構成員のG(以下Gという。
)に対して仕事がある旨伝え,本件事件の数日前,GとFを本
件事件現場となる駐車場に同行し,同駐車場に駐車した黒いセルシオに
乗った若い男を襲うよう,
仕事の内容を明らかにした。また,Eは,
本件事件の1週間前頃,田中組の構成員のH(以下Hという。
)に対
し,バイクを1台用意した上で,それを運転すること,詳細はGに確認することを指示し,その後,Hは,Gから上記仕事の詳細を聞くとともに,バイクを1台盗んで準備した。

(甲14~16)
本件襲撃
Fは,平成26年5月26日,Hの運転するバイクで本件駐車場付近まで行って,原告が運転する黒いセルシオの到着を待ち伏せ,同セルシオが到着し,原告が降車したのを見計らって本件襲撃に及んだ。本件襲
撃後,FはHの元に戻り,Hの運転するバイクで逃走した。
(甲15,17)

本件襲撃後の被告Bの言動
は,本件襲撃前に別件刑事事件で逮捕勾留され,その最中に本件襲
撃が発生したことを知って工藤會による仕業でないかと疑い,保釈された際に工藤會の構成員に直接確認しようと考えた。
は,保釈中であった平成26年7月23日,被告Bの付き人に対して架電して被告Bの居場所を突き止め,同付き人を通じて面会を申し入れ,被告Bはこれを了承した。

は,被告Bのもとを訪れ,車内で面会

した。
被告Bが保釈中の別件刑事事件に関して労いの言葉を掛けたのに対し,
は,本件襲撃について警察から聞かれたが何であんな事件を起こしたんですかと質問したのに対し,被告Bは自身や工藤會が関与したことを否定せず,

が言うことをきかんけんたいなどと答え,更に息子もあんなになっとんのにまだ何も言うてこんのかなどと
への不満

を述べた。

(甲11)


本件襲撃が工藤會の事業の執行について行われたものといえるか
本件襲撃が不法行為を構成するところは明らかであるところ,原告は,本件襲撃が工藤會の事業の執行について行われたものであるとして,被告らが
使用者責任を負う旨主張する。
そこで検討するに,前提事実並びに前記⑴ア及びイに認定した事実関係からすれば,工藤會は,構成員にその威力を利用して資金を得ることをさせている暴対法3条指定の暴力団であり,その運営は,構成員が上納する運営費のほか,北九州市内及びその周辺において行われる工事について,自らと関
係のある業者を下請として参加させることで地元対策費名目で工事費用の一部を不正な資金として得ることで維持されていたものと認めるのが相当である。
そして,工藤會の重要事項の決定権限を有していた被告Bは,北九州市内で行われる工事に際して

補償金を取りまとめ,工事の際の下請業者の口

利きなどの利権を有するなどと言われることもあった
であった

に対し,


を介するなどして繰り返し工藤會との関係を迫っ
ていた事実に照らせば,工藤會の意向に沿って,自らと関係のある業者を下請として工事に参加させるよう口利きさせたり,

補償金の一部を不正に

分配させたりすることによって,工藤會の資金を不正に得ようとしていたものと考えられるのである。
また,前記⑴ウないしオの認定のとおり,被告Bは,上記のような働き掛
けにもかかわらず

が工藤會と関係することを拒絶していたことに強い不

満を示し,
會の方針として同人に危害を加えかねない気勢を示した後,下
部組織で被告Bの出身母体でもあった田中組の構成員により
原告に対する本件襲撃が実行され,

の子である

からの被告Bも関与したことを前提

とした追及に対しても,自らや工藤會の関与を一切否定せず,かえって本件
襲撃によっても

の態度に変化がないことに強い不満を示していたという

のである。
このような諸事情に加え,原告自身には


との関係が

ないばかりか,工藤會との関係もないことや,本件襲撃に直接関わったEやFら田中組の構成員に原告を襲う動機がみられないことも踏まえれば,本件
襲撃は,
被告Bの指示の下,
工藤會の資金獲得を目的として

を畏怖させ,

に関わる利権や金員を得ようとしてなされたものと認めるのが相
当であり,ひいては,工藤會の運営に不可欠な資金獲得のため,すなわち,その事業の執行について行われたものであるというべきである。


被告らが工藤會の事業の執行における使用者といえるか。

被告A
前提事実並びに前記⑴ア及びエの認定によれば,被告Aは,工藤會の総裁であり,工藤會内において唯一被告Bよりも上位の地位にあったものであり,相応の権限を有するものと認められるものである(被告Bが
介して


に働き掛ける際,
俺の考えではなく,會としての方針である

と述べていたことなどは,自らよりも上位の決定権者である被告Aの存在をうかがわせるものとみることができる。。そうすると,被告Aは,被告)
Bを含めた工藤會の構成員をその指示のもとに資金獲得活動に従事させていたと認めるのが相当であるから,使用者の立場にあったものということができる。

被告B
前提事実及び前記⑴アの認定によれば,被告Bは工藤會の会長として重要事項を決定し,現に下部組織の田中組の構成員らに本件襲撃を実行させるなど,工藤會の構成員をその指示のもとに資金獲得活動に従事させていたものと認められるから,使用者の立場にあったものということができる。


被告C
前提事実及び前記⑴アの認定によれば,被告Cは,工藤會の理事長として,被告Bの意を受けるなどして執行部で決定した事項を下部組織の末端構成員にまで周知させていたと認められ,また,田中組の組長として被告Bの意を受けてEらに指示して本件襲撃を行わせていたものと推認され
るから,使用者の立場にあったものといえる。
以上からすれば,被告らは,使用者責任に基づき,後記損害を賠償すべき責任を負うものというべきである。
2
争点⑵(損害額)について


治療費

62万7231円

前提事実及び証拠(甲24)によれば,原告は,本件襲撃によって左大腿部刺創,腹部刺創,胸壁刺創及び背部刺創の各傷害を負い,平成26年5月26日から同年6月9日までの入院治療及び同日から平成27年2月27日(症状固定日)までの通院治療を余儀なくされ,治療費62万7213円を要したものと認められる。



入院雑費・付添看護費

12万0000円
証拠(甲24)によれば,原告は,本件襲撃によって平成26年5月26日から同年6月9日までの15日間入院したことが認められるところ,入院中に要した諸雑費は1日当たり1500円が相当であるから,その合計額は2万2500円と認められる。
また,証拠(甲24,25)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件襲
撃直後に救急搬送されて緊急手術を受け,その後入院治療を継続しており,その間,家族の付添看護が行われたことが認められるところ,原告の症状や治療の経過等(特に,PTSDの治療のためとして精神科への受診もしている。からすれば,

その入院中には家族の付添いを必要としたということがで
きる。そして,付添看護費は1日当たり6500円が相当であると認められ
るから,その合計額は9万7500円である。
以上によれば,入院雑費と付添看護費の合計額は,12万円である。⑶

休業損害

592万4458円

証拠(甲17,32)によれば,原告は,本件襲撃当時,


として勤務していたこと,前年の年収は777万8600円であったこ
と,本件襲撃により平成27年2月27日まで(278日間)の欠勤を余儀なくされたことが認められる。
したがって,原告には,592万4458円の休業損害が生じたと認められる。
(計算式)

777万8600円÷365日=2万1311円(1円未満切り捨て)2万1311円×278日間=592万4458円


傷害慰謝料

800万0000円

本件襲撃は,原告の父の業務ないし
との関係がなく,ましてや工藤

會とも何らの関係のない原告に対して,被告らが不正に利益を得るべく原告の父を畏怖させようとしたという極めて自己中心的かつ身勝手な動機に基づき,Fにおいて,原告の背中や胸部という人体の枢要部を刃物で複数回にわたり攻撃したという残忍なものであり,これによって,原告は大量出血を起こして短時間で死に至る危険の高い状態に陥り,長期間の入通院を余儀なくされるなど,本件襲撃及びその後の治療経過において受けた原告の精神的苦痛は極めて大きい。そして,これらの事情に加え,本件に顕れた一切の事情
を総合するならば,原告の傷害慰謝料は800万円が相当である。⑸

逸失利益

2127万4391円

後遺障害の有無及び内容
疼痛等の神経症状について

証拠(甲28,29)によれば,原告は,本件襲撃により左大腿部の筋断裂,神経切断による知覚過敏・知覚鈍麻による痛み,痺れにより左足で身体を支えられず,長時間の立位が困難な状態にあることが認められ,後遺障害等級の局部に頑固な神経症状を残すものとして12級13号に相当する後遺障害を負ったと認められる。

下肢の可動域制限について
証拠(甲28,29,35)によれば,原告は左膝が十分に曲がらず正座ができない旨訴え,多関節運動,筋の協調性の低下,廃用による筋力低下がみられ,左股関節の可動域制限があり,大腿部の周径は右足よりも数センチメートル低値であるものの,左膝(患側)の可動域は自覚
所見・他覚所見ともに右膝(健側)の可動域の3/4以下に制限されているとは認められないから,1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

を負ったとは認

められない。
外貌醜状について
証拠(甲29)によれば,原告の胸部,腹部,大腿部等には,本件襲撃による刺切創や手術創が残っており,腹部に二,三センチメートルから最大12センチメートルの瘢痕が5か所あり,その範囲は上肢の4分の1程度の範囲に及ぶものであり,また大腿部に一,二センチメートルから最大12センチメートルの瘢痕が7か所あることが認められる。もっとも,原告は
ついては,

として稼働していたところ,胸部や腹部に
を行う際には通常は衣服により覆われている個所で

あり,その個所に刺切創や手術創があるからといって直ちに原告の労働能力に影響するとは認め難い。また,原告の職業に照らせば,大腿部についても,直ちに就職等に影響を及ぼすとも考え難く,原告が労務を提供する上で支障を生じるとも認められない。
したがって,外貌醜状については,後記のとおり慰謝料において一定
の考慮をすべきであると考えられるが,後遺障害による逸失利益を認めることはできない。
PTSDについて
証拠(甲29,35)によれば,原告は本件襲撃により視覚外からの物音に対して過敏に反応するようになり,事件当時のことを思い出し,
恐怖を感じて寝付けないことがあるなどの症状を呈して,PTSDとの診断を受けている。この点,DSM-ⅣやICD-10による診断基準(甲30,31)によれば,本件襲撃は原告の生命を危険にさらすものであったから,PTSDを発症するに足りるようなストレス要因は認められるが,全証拠によっても,原告が本件襲撃をどの程度追体験しているのかは明
らかではなく,また,持続的に入眠困難な症状やその他の覚醒亢進の症状が認められるかも定かでないから,直ちに上記診断基準を満たすとはいえず,PTSDを発症していたとまでは認められない。

労働能力喪失率
前記アの後遺障害の内容からすれば,原告の労働能力喪失率を14パーセントと認めるのが相当である。

基礎収入
証拠(甲34)によれば,原告は

として勤務していたところ,

の全年齢平均年収は909万3408円であり,本件襲撃がなけ
れば今後も

として稼働できたものと認められるから,上記金額を

基礎収入として逸失利益を算定するのが相当である。


労働能力喪失期間
原告は,症状固定時(平成27年2月27日)において30歳であり,証拠(甲28)によれば,原告の左大腿部の神経は断裂しており,将来にわたり知覚過敏や知覚鈍麻の完全な回復を見込めないことから,労働能力喪失期間は37年間(ライプニッツ係数・16.711)となる。

小括
以上によれば,原告の後遺障害逸失利益は,2127万4391円(909万3408円×0.14×16.711。1円未満切り捨て)と認められる。



後遺障害慰謝料

800万0000円

原告は,本件襲撃によりその後の就労に影響する後遺障害を負い,身体に残った瘢痕も本件襲撃の恐怖を想起させるものである上,人生設計を狂わされ,今後も自らや家族が工藤會に狙われるのではないかとの恐怖を感じるなど,症状固定後にも精神的苦痛を受け続けているものである。そして,これらの事情に加え,本件に顕れた一切の事情を総合するならば,原告の後遺障
害慰謝料は800万円が相当である。


小計
4394万6080円



弁護士費用

430万0000円

本件事案の内容,本件訴訟に至る経緯,原告の立証活動及びこれに対する被告らの対応等に照らせば,弁護士費用は430万円が相当である。


合計
4824万6080円
3
小括
以上の次第であるから,被告らは,原告に対し,使用者責任に基づき,連帯して損害賠償金4824万6080円及びこれに対する不法行為の日である平成26年5月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。

なお,以上の認定説示からすれば,原告の暴対法31条の2に基づく請求の認容額は,これと選択的併合の関係にある使用者責任に基づく請求についての認容額を超えないことが明らかである。
第4
結論
以上によれば,原告の請求は,主文の限度で理由があるから,これを認容すべきである。
よって,主文のとおり判決する。
福岡地方裁判所第5民事部

裁判長裁判官

鈴木
裁判官

酒井博直樹
裁判官横山寛は,転補のため,署名押印することができない。

裁判長裁判官

鈴木博
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