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道路交通法違反被告事件
事件番号平成29(あ)67
事件名道路交通法違反被告事件
裁判年月日令和元年6月3日
法廷名最高裁判所第一小法廷
裁判種別判決
結果破棄自判
原審裁判所名大阪高等裁判所
原審事件番号平成28(う)734
原審裁判年月日平成28年12月6日
判示事項交通反則告知書の受領を拒否したことにつき道路交通法130条2号に当たると解するのは信義に反するなどとして同号該当性を否定した原判決には法令の解釈適用を誤った違法があるとされた事例
裁判日:西暦2019-06-03
情報公開日2019-06-25 03:32:07
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平成29年(あ)第67号
令和元年6月3日

道路交通法違反被告事件

第一小法廷判決

主文
原判決を破棄する
本件控訴を棄却する。
理由
検察官の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
しかしながら,所論に鑑み,職権をもって調査すると,原判決は,刑訴法411条1号により破棄を免れない。その理由は,以下のとおりである。第1
1
本件公訴事実,第1審判決及び原判決の要旨
本件公訴事実の要旨は,被告人は,平成27年7月12日午後8時11分頃,大阪府内の道路において,信号機の表示する信号を確認し,これに従うべき注意義務があるのにこれを怠り,過失により,信号機の表示する赤色の灯火信号を看過してこれに従わないで,停止線を越えて普通乗用自動車を運転して進行したというものである。
2
被告人は,公訴事実を争わず,第1審判決は,公訴事実どおりの犯罪事実を
認定し,被告人を罰金9000円に処した。
3
被告人が,第1審判決に対して訴訟手続の法令違反,量刑不当を理由に控訴
したところ,原判決は,控訴理由に対する判断に先立ち,職権で,本件公訴の提起は,道路交通法130条各号に掲げる場合でないのに,同条に掲記された手続が行われることなくされたもので無効であるから,第1審裁判所は不法に公訴を受理したものであるとして,刑訴法397条1項,378条2号により第1審判決を破棄し,同法338条4号により本件公訴を棄却した。第2

当裁判所の判断

しかしながら,原判決の上記判断は是認することができない。その理由は,以下のとおりである。
1
(1)

原判決の認定及び記録によると,本件の事実経過は,次のとおりである。被告人は,平成27年7月12日午後8時11分頃,大阪府内の道路にお
いて,赤色の灯火信号を看過してこれに従わないで,停止線を越えて普通乗用自動車(以下被告人車両という。)を運転して進行した。同所付近で交通取締りに従事していた警察官らは,上記事実を現認したことから,直ちにパトカーを発進させて追跡を開始し,被告人車両を停止させた。警察官らは,被告人に対し,赤色信号無視を現認したなどと告げて降車するように求めたが,被告人が,黄色信号だったと主張して違反の事実を認めず,降車を拒否し,運転免許証も提示しなかったことから,被告人を道路交通法違反(信号無視)の現行犯人として逮捕した。(2)

被告人は,交通取締りの現場や逮捕後に引致された警察署で,警察官らに
対し,対面信号機が赤色であったことを示すパトカーの車載カメラの映像(以下本件車載カメラ映像という。)の提示を求めたが,警察官らは,その映像が存在するにもかかわらず,そのようなものはないと言って拒否した。警察官らは,被告人を釈放した後,交通反則切符を作成し,被告人に対し,交通反則告知書の記載内容及び交通反則通告制度について説明したが,被告人が信号は黄色やなどと上記主張を繰り返し,交通反則告知書の受領を拒否したことから,本件を受領拒否事件として処理することとした。
(3)

被告人は,検察官から取調べを受けた際も,対面信号機は黄色であったと
主張したが,その後,本件車載カメラ映像を見せられると,赤色の灯火信号を看過した事実を認め,交通反則通告制度の適用を求めた。検察官は,平成28年4月5日,被告人を起訴し,第1審裁判所は,公判期日を開いて審理した上,同年6月14日,公訴事実どおりの事実を認め,被告人を罰金9000円に処する判決を言い渡した。2

原判決は,被告人が交通反則告知書の受領を拒んだのは,本件車載カメラ映
像が存在するにもかかわらず,そのようなものはないと言って提示を拒否した警察官らの不誠実な対応が一因を成しているというべきであるから,そのことを棚に上げ,一旦交通反則告知書の受領を拒んだ以上その効果は覆せないなどとして,道路交通法130条2号に当たると解するのは,信義に反するものであり,被告人が本件車載カメラ映像を見せられた後,速やかに交通反則告知書受領の意思を示した本件のような場合は,被告人が一旦交通反則告知書の受領を拒むという事態があったとしても,同号に当たらないと解するのが相当であるとする。
しかしながら,上記の事実経過のとおり,被告人は,警察官らが交通反則告知書の記載内容及び交通反則通告制度について説明をした際,赤色の灯火信号を看過した事実を否認して交通反則告知書の受領を拒否したのであるから,道路交通法130条2号に該当する事由があることは明らかである。なお,被告人が赤色の灯火信号を看過したことを示す証拠である本件車載カメラ映像の提示を求めたことに対し,それが存在するにもかかわらず,警察官らがそのようなものはないと述べたことがあったとしても,交通反則通告制度においては,同号該当性を否定する事情とはならないというべきである。したがって,第1審裁判所が不法に公訴を受理したものということはできない。
3
以上によれば,道路交通法130条2号に当たると解するのは信義に反する
などとして,同号該当性を否定した原判決には,法令の解釈適用を誤った違法があり,これが判決に影響を及ぼすことは明らかであって,原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められる。
よって,刑訴法411条1号により原判決を破棄し,なお,上記の検討によれば,法令違反及び量刑不当を主張する被告人の控訴は理由がないから,同法413条ただし書,414条,396条によりこれを棄却し,原審及び当審における訴訟費用につき同法181条1項ただし書を適用することとし,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官池上政幸の補足意見がある。裁判官池上政幸の補足意見は,次のとおりである。私は,法廷意見に賛同するとともに,次のとおり,その理由を補足して意見を述べておきたい。
交通反則通告制度は,道路交通法に違反する罪に当たる行為のうち一定の軽微なものについて,警察官による告知及び警察本部長による通告により,反則者に反則金納付の機会を与え,これに応じて任意に反則金を納付した者は,当該行為について公訴を提起されないこととして,事件の簡易迅速な処理を図ろうとする行政上の措置として設けられたものである(最高裁昭和55年(行ツ)第137号同57年7月15日第一小法廷判決・民集36巻6号1169頁参照)。
このような制度であることから,警察官は,反則者があると認めるときは,その者の居所又は氏名が明らかでない場合等を除き,書面により,反則行為となるべき事実の要旨,反則行為の種別等を告知すべきものとされ(道路交通法126条1項),同書面には,交通反則通告制度の手続を理解させるため必要な事項を記載するものとされている(同条2項)が,その交付に当たり,上記の範囲を超えて,反則者の求めに応じて反則行為となるべき事実を証する資料・証拠等を提示ないし教示することは求められていない。また,同事実及びその犯人の確定は同法違反の罪についての捜査として行われるものであるが,捜査の手続上,司法警察職員としての警察官が被疑者である反則者に収集された証拠等を提示ないし開示する必要があるとする理由を見いだすことはできない。その他,当審弁護人が指摘する警察法等の関係法令を検討しても,上記提示等を必要とする法的な根拠があるということはできない。
そうすると,本件の事実経過の下において,被告人が赤色の灯火信号を看過したことを示す本件車載カメラ映像の提示を求め,それが存在するにもかかわらず,警察官がそのようなものはないと述べたことがあったとしても,交通反則通告制度の手続について誤解を招くようなものでもなく,警察官は,道路交通法の上記規定に従い,被告人に交通反則告知書の記載内容等を説明してこれを交付しようとしたところ,被告人が反則行為となるべき事実を否認して受領を拒否したというのであるから,同法130条2号にいう書面の受領を拒んだ場合に該当することは明らかであり,これを否定すべき事情はないということができる。
したがって,本件公訴提起の手続がその規定に違反したため無効である(刑訴法338条4号)とはいえず,第一審裁判所が不法に公訴を受理した(同法378条2号)ということはできないものと考えられる。
検察官西谷隆
(裁判長裁判官
山口


公判出席
木澤克之

裁判官

裁判官

池上政幸

深山卓也)
裁判官

小池


裁判官

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