判例検索β > 平成30年(ワ)第358号
損害賠償請求事件
事件番号平成30(ワ)358
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日令和元年5月23日
法廷名水戸地方裁判所
裁判日:西暦2019-05-23
情報公開日2019-06-25 03:32:23
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令和元年5月23日判決言渡
平成30年(ワ)第358号
口頭弁論終結日

同日原本領収
損害賠償請求事件

平成31年3月1日
主1文
被告らは,連帯して,原告Aに対し,363万円及びこれに対する平成28年8月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
被告らは,連帯して,原告Bに対し,242万円及びこれに対する平成28年8月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3
原告A及び原告Bのその余の請求並びに原告Cの請求をいずれも棄却する。
4
訴訟費用は,原告Aに生じた費用の10分の1及び被告らに生じた費用の30分の1を原告Aの負担とし,原告Bに生じた費用の10分の1及び被告らに生じた費用の30分の1を原告Bの負担とし,原告Cに生じた費用及び被告らに生じた費用の3分の1を原告Cの負担とし,原告Aに生じた費用の10分の9,原告Bに生じた費用の10分の9及び被告らに生じた費用の5分の3を被告らの負担とする。

5
この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。事実及び理由

第1
1
請求
被告らは,連帯して,原告Aに対し,385万円及びこれに対する平成28年8月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
被告らは,連帯して,原告Bに対し,275万円及びこれに対する平成28年8月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3
被告らは,連帯して,原告Cに対し,55万円及びこれに対する平成28年8月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2

事案の概要
本件は,Fが主導したグループにより,被害者の親族になりすまし親族が現
金を至急必要としているかのように装って被害者から金員をだまし取る詐欺の被害を受けた原告らが,被告D及び被告Eに対し,Fは,指定暴力団G会H会I一家に所属しており,Fが指定暴力団G会の威力を利用して上記グループを構成し,上記グループが原告らから金員を詐取した行為は,暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成20年法律第28号による改正後のもの。以下暴対法という。)31条の2にいう威力利用資金獲得行為に該当し,G会の会長である被告D及び同会の特別相談役である被告Eは,G会の代表者等に該当するから,原告らに生じた損害を賠償する義務があると主張して,同条に基づき,連帯して,原告らが上記グループに交付した金員相当額,慰謝料及び弁護士費用並びにこれらに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1
前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)


当事者等

原告ら
原告A,原告B,及び原告Cは,平成28年7月31日から同年8月8日までの間に,後記⑵のとおり,詐欺行為により金銭を詐取又は詐取されそうになった者らである。


被告ら
被告Dは,平成26年4月から現在に至るまで,J公安委員会により暴対法3条の規定による指定を受けた指定暴力団であるG会の会長職にある者であり,被告Eは,G会の会長職を務めた後,平成26年4月に会長職を退き,以降,現在に至るまでG会の特別相談役の地位にある者である。


原告らに対する詐欺行為
Kは,氏名不詳者等と共謀し,他人の親族になりすまし,その親族が現金を至急必要としているかのように装って現金をだまし取ろうと考え,以下の
ア~ウのとおりの詐欺行為を行った。

平成28年7月31日から同年8月2日までの間,氏名不詳者が,複数回にわたり,原告A方に電話を掛け,原告A(当時73歳)に対し,電話の相手が原告Aの親族であるかのように装い,電話の相手が,原告Aの姪の子である旨誤信した原告Aに,原告Aの姪の子が現金300万円を至急必要としているので,上記姪の子の代わりに行く郵便局員のLに現金を渡してもらいたい旨嘘を言い,さらに,同日午前11時30分頃,同所において,Kが,原告Aに対し,上記Lになりすまして,上記姪の子のために現金を預かるものと装い,原告Aにその旨誤信させ,よって,その頃,同所において,原告Aから現金300万円の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させた(以下本件詐欺行為1という。)。


同月3日,氏名不詳者が,複数回にわたり,原告B方に電話を掛け,原告B(当時90歳)に対し,電話の相手が原告Bの親族であるかのように装い,電話の相手が原告Bの孫である旨誤信した原告Bに,原告Bの孫が現金400万円を至急必要としているので,上記孫のために代わりに行く郵便局員のMに現金を渡してもらいたい旨嘘を言い,さらに,同日午前11時30分頃,同所東側路上において,Kが,原告Bに対し,上記Mになりすまして,上記孫のために現金を預かるものと装い,原告Bにその旨誤信させ,よって,その頃,同所において,原告Bから,現金200万円の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させた(以下本件詐欺行為2という。)。

同月8日,氏名不詳者が,複数回にわたり,原告C方に電話を掛け,原告C(当時66歳)に対し,電話の相手が原告Cの息子であり,原告Cの息子が現金300万円を至急必要としているので,上記息子のために代わりに行く郵便局員のNに現金を渡してもらいたい旨嘘を言って原告Cにその旨誤信させ,さらに,同日午前11時20分頃,同所において,Kが応
対した原告Cの親族に対し上記Nになりすまして,上記息子のために現金を預かる者と装って現金の交付を求め,その交付を受けようとしたが,原告Cに嘘を見破られていたため,その目的を遂げなかった(以下本件詐欺行為3といい,本件詐欺行為1ないし3を併せて本件各詐欺行為と総称する。)。


K,F,Oの刑事処分

Kは,原告らに対する詐欺詐欺未遂被告事件(水戸地方裁判所平成28年

第412号,第489号)において,平成28年11月25日,本
件各詐欺行為に関し,原告らから直接現金を受け取る役割を担った者として,懲役2年の実刑判決の宣告を受けた。同判決において認定された罪となるべき事実の要旨は,前記⑵ア~ウのとおりである(甲7)。イ
Fは,原告A,原告B及び他の被害者に対する詐欺詐欺未遂被告事件(水戸地方裁判所平成29年

第591号,平成30年

第105号)に

おいて,平成30年5月23日,本件詐欺行為1及び2に関し,他の犯罪事実と併せて懲役4年の実刑判決の宣告を受けた(甲3)。

Oは,原告Aに対する詐欺幇助被告事件(水戸地方裁判所平成29年第238号)において,本件詐欺行為1に関し,平成29年8月24日,詐欺幇助の犯罪事実により,懲役2年,執行猶予4年,猶予期間の保護観察付の判決の宣告を受けた(甲4)。

2
関係法令などの定め


暴対法2条1号は,暴力的不法行為等を別表に掲げる罪のうち国家公安委員会規則で定めるものに当たる違法な行為と定めるところ,別表2号は刑法第2編第5章,第7章,第22章,第23章,第26章,第27章,第31章から第33章まで,第35章から第37章まで及び第40章に規定する罪を掲げている。なお,暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律施行規則(国家公
安委員会規則第4号。(以下本件規則という。))は,暴対法2条1号の国家公安委員会規則で定める罪のうち,刑法第37章(詐欺及び恐喝の罪)に係るものとしては,刑法249条(恐喝)及び250条(未遂)(249条に係る部分に限る。)のみを定め,刑法246条(詐欺),246条の2(電子計算機使用詐欺),247条(背任)及び248条(準詐欺)については定めていない。


暴対法2条2号は,暴力団を

その団体の構成員(その団体の構成団体の構成員を含む。)が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体

と,同条3号は,指定暴力団を同法3条の規定により指定された暴力団と,同条6号は,暴力団員を暴力団の構成員と定めている。


暴対法3条は,都道府県公安委員会は,暴力団が同条各号のいずれにも該当すると認めるときは,当該暴力団を,その暴力団員が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれが大きい暴力団として指定するものとする旨を定める。
同条1号は,名目上の目的のいかんを問わず,当該暴力団の暴力団員が当該暴力団の威力を利用して生計の維持,財産の形成又は事業の遂行のための資金を得ることができるようにするため,当該暴力団の威力をその暴力団員に利用させ,又は当該暴力団の威力をその暴力団員が利用することを容認することを実質上の目的とするものと認められることを定める。
同条3号は,当該暴力団を代表する者又はその運営を支配する地位にある者(以下代表者等という。)の統制の下に階層的に構成されている団体であることを定める。



暴対法9条は,指定暴力団等の暴力団員(以下指定暴力団員とい
う。)は,その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団
体となり,又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して同条所定の行為をしてはならないと規定する。


暴対法31条の2(平成20年法律第28号により新設)本文は,指定暴力団の代表者等は,当該指定暴力団の指定暴力団員が威力利用資金獲得行為(当該指定暴力団の威力を利用して生計の維持,財産の形成若しくは事業の遂行のための資金を得,又は当該資金を得るために必要な地位を得る行為をいう。以下この条において同じ。)を行うについて他人の生命,身体又は財産を侵害したときは,これによって生じた損害を賠償する責任を負う旨を定める。

3
争点及び争点に関する当事者の主張



争点1(FがG会の暴力団員であるか。)

原告らの主張
Fは,G会H会I一家に所属する指定暴力団員である。


被告らの主張
否認する。Fは,G会に所属しておらず,被告らは,Fの存在及び名前を知らないし,会ったこともない。



争点2(被告Eが暴対法31条の2の代表者等に当たるか。)

原告らの主張
暴対法31条の2の代表者等とは,当該暴力団を代表する者又はその運営を支配する地位にある者をいう(同法3条3号)。運営を支配する地位にある者とは,団体を統制している者を意味し,暴力団の最高幹部がこれに当たる。被告Eは,平成26年にG会の特別相談役となり,本件各詐欺行為が行われた間も特別相談役であった。特別相談役は,G会の最高幹部であるから,G会の運営を支配する地位にある者である。したが
って,被告Eは,同法31条の2の代表者等に該当する。

被告らの主張
被告Eは,本件各詐欺行為が発生した日において,既にG会の会長を退いており,特別相談役であったにすぎない。特別相談役とは,重大な事項又は紛議などに適当な助言又は調停などをする役であって,G会の決定機関でも最高幹部でもない。したがって,G会の運営を支配する地位にある者とはいえず,被告Eは,暴対法31条の2代表者等に該当しない。


争点3(本件各詐欺行為が暴対法31条の2の威力利用資金獲得行為に該当するか。)

原告らの主張
暴対法31条の2の趣旨は,民法715条の使用者責任の特則として被害者の立証責任を軽減し,暴力団が資金獲得を目的とする組織であること及び威力を用いて社会全体に害悪を与える組織であることに鑑みて,広く威力を利用した資金獲得活動を規制することにある。上記趣旨に照らせば,暴対法31条の2にいう威力を利用してとは,指定暴力団員が,当該指定暴力団に所属していることにより資金獲得活動を効果的に行うための影響力又は便益を利用することをいい,当該指定暴力団の指定暴力団員としての地位と資金獲得活動とが結びついている一切の場合をいう。
同条が規定する威力を利用してとは,同法9条が規定する威力を示してとは異なり,威力を相手方(被害者)に認識させることは不要であって,威力を示してよりも広い概念であることは明らかである。
要するに,生計の維持,財産の形成若しくは事業の遂行のための資金を得,又は当該資金を得るために必要な行為(以下資金獲得行為という。),本件でいえば,詐欺行為そのものに威力が利用されている必
要はなく,詐欺行為に向けて共犯者らを組織する際に威力が利用されていれば,同法31条の2が規定する威力利用資金獲得行為に該当する。Fは,同法3条に基づき指定を受けた暴力団であるG会H会I一家の組員である。Fが主導して詐欺グループを構成し,本件各詐欺行為が行われたところ,上記グループの非暴力団員であるメンバーは,Fが指定暴力団に所属していることを恐れており,かつFはそのことを知っていた。
Oは,FがG会の暴力団員であることを認識し,Fの求めを断れば自分や交際相手の身に危険が及ぶかもしれないとの恐怖心から,被害者から金銭を直接受け取る役割(以下受け子という。)をする人物の勧誘を取り仕切る役割を担うに至った。また,Kは,上記グループに暴力団員が関与していることを認識し,断ったら何をされるかわからないという恐怖心から,受け子をすることを断ることができなかった。
Fは,上記非暴力団員メンバーが暴力団に対する恐怖心から自身の指示・命令に従わざるを得ないことを認識した上で,上記非暴力団員メンバーが断ることのできない状況を利用し,本件各詐欺行為に向けて,受け子の勧誘等の指示・命令を出し,本件各詐欺行為が実行されたのであり,本件各詐欺行為は,指定暴力団員Fが,指定暴力団G会に所属していることによる威力を利用して,上記グループを指揮・統制して効果的に資金獲得行為を行ったものであり,同法31条の2の威力利用資金獲得行為に該当する。イ
被告らの主張
原告らに対する本件各詐欺行為において,指定暴力団に所属していることを示すなどの威力は用いられておらず,本件各詐欺行為は,暴対法31条の2に規定する威力利用資金獲得行為には該当しない。すなわち,同条の規定する指定暴力団の威力の利用は,資金獲得行為そのものについてさ
れていなければならず,詐欺行為に向けて共犯者を組織する際に指定暴力団の威力が利用されている場合は含まれない。


争点4(原告らの損害額)

原告らの主張
本件各詐欺行為により,原告らには次のとおりの損害が発生した。なお,本件各詐欺行為は,原告らの親族になりすますことによって親族の非常事態を偽装し,親族を案じる原告らから多額の金員を詐取し又は詐取しようとしたものであり,犯行態様として極めて悪質である。このような事案の悪質性及び被害金額を考慮したとき,原告らが被った精神的損害を金銭的に評価するとそれぞれ50万円を下らない。
原告A
a
財産的損害

300万円

b
精神的損害

50万円

c
弁護士費用

35万円

d
合計

385万円

原告B
a
財産的損害

200万円

b
精神的損害

50万円

c
弁護士費用

25万円

d
合計

275万円

原告C
a
50万円

b
弁護士費用

5万円

cイ
精神的損害

合計

55万円

被告らの主張
前記アはいずれも不知。

第3

当裁判所の判断

1
争点1について
証拠(甲1,2,13,15,16)によれば,P県警察本部は,本件各詐欺行為当時(平成28年7月31日~同年8月8日),Fを指定暴力団G会H会I一家(以下I一家という。)に所属する指定暴力団員と認定していたこと,Fは,詐欺詐欺未遂被疑事件において,検察官に対し,暴力団に所属していることを自認し,組員としてはQと名乗っていた旨を供述していること,Oは,詐欺被告事件(水戸地裁平成29年(わ)第591号等)の公判廷において,FがI一家に所属している旨を供述していることが認められるから,Fは,本件各詐欺行為当時,I一家に所属するG会の指定暴力団員であると認められ,これを覆すに足りる証拠はない。

2
争点2について
前提事実,証拠(甲19,20,乙2,4)及び弁論の全趣旨によれば,G会は,歴代のR一家総長を重んじる組織であること,被告Eは,平成10年頃,G会の会長職に就き,平成17年4月,R一家六代目総長の指名によりR一家七代目総長となり,平成26年4月,G会の会長職を退いて特別相談役となり,被告Dが会長職に就いたこと,被告Eは,本件各詐欺行為当時(平成28年7月31日~同年8月8日)においても特別相談役であったことが認められる。


暴対法31条の2の代表者等とは,当該暴力団を代表する者又はその運営を支配する地位にある者(同法3条3号)をいい,当該暴力団を代表する者すなわち会長,総長等と称する暴力団の首領のほか,その運営を支配する地位にある者すなわち暴力団特有の階層的構成においてその運営を支配する立場にある者も含まれる。
被告Eの役職は特別相談役であるところ,相談役とは,一般に,会社などにおいて,第一線を退いた社長等が,重大な事項等について,現経営陣
に対する指導や助言を行う役職をいい,前記⑴によれば,被告Eは,長期にわたりG会の会長職を務めたほか,R一家七代目総長でもあり,G会が歴代のR一家総長を重んじる組織であることや暴力団特有の階層的支配服従関係に照らすと,G会の会長職を辞してなお,G会の特別相談役として,G会の会長等に指導や助言をすることを通じ,その運営に強い影響力を有するものと推認され,これを覆すに足りる的確な証拠はない。したがって,被告Eは,G会の運営を支配する地位にある者として同法31条の2の代表者等に該当すると認めるのが相当である。3
争点3について


認定事実
前提事実,掲記の証拠(ただし,後記認定に反する部分は採用しない。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

Oについて
Oは,暴力団員ではなかったが,平成27年頃,I一家で使い走りをするなどしており,I一家の暴力団員であるFと知り合った。Oは,平成28年7月頃には19歳であったが,I一家の者が始めたダーツバーで店長として働くようになっていたところ,Fは,頻繁に同店を訪れていた。(甲1,2,14,16・2,3,11,14頁)
Oは,FがI一家所属の暴力団員であることを認識しており,Fに対し恐怖心を抱いていた(甲16・2頁)。


本件各詐欺行為の経緯
Oは,平成28年7月頃,前記ダーツバーにおいて,Fから,詐取金額の一定割合の報酬を渡すことを条件として,被害者の親族等になりすまし,親族等の非常事態を偽装することによって被害者から金員を詐取する詐欺(以下本件特殊詐欺という。)に関して,受け子を担うことを複数回にわたって要求されたが,自らが逮捕される危険があること
から,これを断っていた。すると,Oは,Fから,O自身が受け子をしない代わりに他に受け子をする人物を探してくるよう要求された。Oは,Fが毎日のように前記ダーツバーを訪れ,しつこく上記要求をすることもあり,Fの要求を断ったら何かされるのではないかと考えるとともに,報酬を受け取ることもできることから,受け子をする人物を探すこととした。(甲14・1頁,甲15・1~4頁,甲16・2~4頁)Oは,同月下旬頃,地元の後輩の一人であるS(当時18歳の大学生である。)に受け子をする人物がいないかと話を持ち掛けた。Sは,地元の同級生からK(当時22歳の大学生である。)の弟を紹介され,Kの弟と連絡を取り合い,本件特殊詐欺の受け子の勧誘をしたところ,Kの弟は,Kに対し,本件特殊詐欺の受け子の話を持ち掛け,Kはこれを引き受けた。(甲5,6,14~18)
Oは,SからKが受け子をすることができる旨の連絡を受け,同年8月初め頃,Sから,Kの携帯電話番号を聞き,直ちにFに伝えた。なお,当時,Oは,Kとの面識はなかった。(甲13~18)
前記

の経緯により,本件特殊詐欺を行うグループ(以下本件詐欺グループという。)が組織され,本件詐欺行為1及び2が行われた(前提事実⑵ア,イ)。
Kは,本件詐欺行為1及び2によって詐取した被害金を,回収役の男に渡したところ,同人の両腕に入れられた和柄の刺青を見て同人はヤクザであると恐怖を感じた(甲18)。
Kは,本件詐欺行為1及び2を終えた後,本件詐欺行為3の受け子を依頼されたが,これ以上詐欺の仕事はしたくないと考えて断ろうとしたところ,本件詐欺行為3の依頼をしてきたTと名乗る男から,本部にも伝えており断れないと怒鳴られたことや,前記

のとおり回収役の男が

ヤクザであると恐怖を感じ,詐欺の受け子を断れば何をされるかわから
ないと考えたことから,本件詐欺行為3を行うことを決意した。(甲18)
本件詐欺行為3は原告Cが嘘を見破っていたため,未遂に終わった(前提事実⑵ウ)。


暴対法31条の2の威力利用資金獲得行為の範囲

原告らは,G会の指定暴力団員であるFが,G会に所属していることによる威力を利用して本件詐欺グループを構成し,同グループを指揮・統制して効果的に本件詐欺行為を行ったと主張し,このような場合にも,暴対法31条の2の定める威力利用資金獲得行為に該当すると主張するので,この点について検討する。


指定暴力団は,当該暴力団の暴力団員が当該暴力団の威力を利用して生計の維持,財産の形成又は事業の遂行のための資金を得ることができるようにするため,当該暴力団の威力をその暴力団員に利用させ,又は当該暴力団の威力をその暴力団員が利用することを容認することを実質上の目的とし(暴対法3条1号),当該暴力団を代表する者又はその運営を支配する地位にある者の統制の下に階層的に構成されている団体という性質を有する(同条3号)。
すなわち,指定暴力団の代表者等は,配下の指定暴力団員が資金獲得のために当該指定暴力団の威力を利用することを容認しているところ,このような威力を利用して行う資金獲得行為は他人の権利利益を侵害する可能性が高く,また,指定暴力団の代表者等の統制は末端の指定暴力団員にまで及んでいるから,指定暴力団の代表者等は,指定暴力団員の資金獲得行為による権利侵害を防止し得る立場にあるといえる。加えて,指定暴力団員による資金獲得行為は,当該指定暴力団の威力の維持拡大に資するとともに,指定暴力団の代表者等は,上納金システムにより指定暴力団員による資金獲得行為による利益を享受する立場にあるといえる。これらのこと
から,同法31条の2は,指定暴力団の代表者等に配下の指定暴力団員の威力利用資金獲得行為に係る損害賠償責任を負わせるものとし,民法715条の規定を適用して代表者等の損害賠償責任を追及する場合において生ずる被害者側の立証の負担の軽減を図ることとしたものである。

暴対法31条の2は,威力利用資金獲得行為について,当該指定暴力団の威力を利用して生計の維持,財産の形成若しくは事業の遂行のための資金を得,又は当該資金を得るために必要な地位を得る行為と定義するところ,威力を利用するとは,威力を示す(同法9条参照)とは
異なり,より幅の広い行為態様を意味するものと解される。指定暴力団の縄張りであることを認識させてみかじめ料を徴収する行為などの資金獲得行為それ自体に指定暴力団の威力を利用する場合が,同条の適用対象となることは明らかであるが,上記定義の文言からは,直ちに,威力利用資金獲得行為が,指定暴力団の威力を資金獲得行為それ自体に利用する場合に限定されると解することはできない。
そして,指定暴力団の威力が資金獲得行為それ自体,すなわち資金獲得行為の被害者たる相手方に対し直接利用されていなくとも,例えば,指定暴力団員がその威力を利用して詐欺グループのメンバーを集めて同グループを構成し,同メンバーを利用して詐欺を行って資金を獲得する場合においては,暴力団の威力を利用することによって詐欺という権利侵害行為を実現させていることに照らすと,前記イの同法31条の2の立法趣旨及び根拠が妥当するのであって,指定暴力団の威力が資金獲得行為のそれ自体に利用される場合と異なるところはないというべきである。
そうすると,同条にいう威力利用資金獲得行為には,当該指定暴力団の指定暴力団員が,資金獲得行為それ自体に当該指定暴力団の威力を利用する場合のみならず,当該指定暴力団員が指定暴力団の威力を利用して共犯者を集める場合など,資金獲得行為の実行に至る過程において当該指
定暴力団の威力を利用する場合も含まれると解するのが相当である。エ
なお,指定暴力団とは,公安委員会が,当該暴力団員が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれが大きい暴力団として指定するものであるところ(暴対法3条),本件規則は,暴力的不法行為等として詐欺罪を規定していないが(第2の2⑴),同法31条の2は,威力利用資金獲得行為について暴力的不法行為等に係るものとの限定を付していないのであって,詐欺行為が暴力的不法行為等に含まれないからといって,威力利用資金獲得行為に該当しないと解することはできない。



Kとの関係で威力を利用したといえるか
Kは,OからFを紹介された際,同人が指定暴力団である旨聞かされることもなく,これを知らなかったところ,本件詐欺行為1及び2を終えた後,詐取した被害金を回収役の男に渡す際,同人の腕に刺青があったことから,本件各詐欺行為にヤクザが関与していると考えたにすぎず(認定事実イ),本件詐欺行為1及び2について,G会の威力によって受け子を引き受けたものとは認められない。そうであれば,Kとの関係において,本件詐欺行為1及び2が,G会の威力を利用されたことによる資金獲得行為であると認めることはできない。
また,Kは,本件詐欺行為1及び2の後に,本件各詐欺行為には,ヤクザの関与があると思い,そのことが,少なくとも本件詐欺行為3の受け子を断れない要因の一つとなったものと認められるが(認定事実イ

),G会の

暴力団員が関与しているとの認識があったとは認められず,また,Fにおいても,Kが,暴力団員が関与していることを恐れて本件詐欺行為3の受け子を引き受けたと認識していたと認めるに足る証拠はない。そうすると,Kとの関係においては,本件詐欺行為3についても,G会の威力が利用されたことによる資金獲得行為であると認めることはできない。



Oとの関係で威力を利用したといえるか
Oは,平成28年7月頃,Fから受け子を探すよう要求された際,Fからの要求を拒否すれば,何かされるのではないかと考え,これを引き受けたものである(認定事実イ

)。そして,Oは,I一家で使い走りをしていた関

係でFと知り合っており,FがG会の暴力団員であることを認識し,同人を恐れていたと認められ(認定事実ア),Fも,当然にOの上記認識を了知していたと推認される。そうすると,Oは,Fの所属するG会の威力に恐れて本件各詐欺行為の受け子を探すことを引き受け,受け子としてKをFに紹介したことにより本件詐欺グループが構成され,本件詐欺グループにより本件各詐欺行為が実行されたという関係にあると認められる。したがって,G会の指定暴力団員であるFが,G会の威力を利用して,G会の暴力団員ではないOに受け子を探させOが紹介した受け子と本件詐欺グループを構成したことにより実行された本件各詐欺行為は,暴対法31条の2にいう威力利用資金獲得行為に該当すると認めるのが相当である。⑸

よって,被告D及びEは,連帯して,本件各詐欺行為を行うについて原告らに生じた損害を賠償する責任を負う。

4
争点4について


財産的損害について
前提事実⑵ア及びイによれば,原告A及び原告Bは,それぞれ,以下のとおりの現金を詐取され,同額の損害が生じたと認められる。

300万円




原告A
原告B

200万円

精神的損害について
本件において,原告A及び原告Bは,本件詐欺グループにより,親族が現金を至急必要な状態にあると虚偽の情報による不安な心理状態を利用されて金銭を詐取されたものであり,Fらの不法行為により相応の精神的苦痛を被
ったものと認められる。
そして,Fらによる詐欺行為が,親族の非常事態を装い高齢の原告A及び原告Bが親族の身を案じる心情につけこむ卑劣な手口であり,被害額は多額に及んでいることなど,本件に現れた一切の事情を総合すれば,原告A及び原告Bの被った精神的苦痛は,財産的損害の賠償をもって完全に慰謝されるものとはいえないから,慰謝料として,財産的損害の額の1割の賠償を認めるのが相当である。したがって,原告Aには30万円,原告Bには20万円の限度で精神的損害に対する慰謝料の請求が認められる。
他方で,原告Cは,本件詐欺グループの嘘を見破り,金員の詐取をされるには至っておらず,損害賠償をもって慰謝されるべき精神的損害を被ったものとは認められない。


弁護士費用について
原告A及び原告Bが要した弁護士費用のうち,各原告らの被った財産的損害(前記⑴ア,イ)及び精神的損害(前記⑵)の合計額の1割に相当する,原告Aにつき33万円,原告Bにつき22万円の限度で本件詐欺行為1又は2と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
なお,原告Cは,前記のとおり,本件詐欺行為3によって何らかの損害が生じたものとは認められないから,弁護士費用についても相当因果関係のある損害とは認められない。

第4

結論
以上によれば,原告Aの請求は,363万円及びこれに対する平成28年8月2日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で,原告Bの請求は,242万円及びこれに対する同月3日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度でそれぞれ理由があるからこれを認容し,原告A及び原告Bのその余の請求並びに原告Cの請求は理由がないからこれを棄却することとして,訴訟費用の負担について民訴法61条,64条本文,6
5条1項本文を,仮執行の宣言について同法259条1項をそれぞれ適用し,主文のとおり判決する。
水戸地方裁判所民事第2部

裁判長裁判官

前田英子
裁判官

山本隼人
裁判官塚田奈保は転補のため署名押印することができない。

裁判長裁判官

前田英子
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