判例検索β > 平成30年(行コ)第50号
戒告処分取消等請求控訴事件
事件番号平成30(行コ)50
事件名戒告処分取消等請求控訴事件
裁判年月日令和元年5月23日
法廷名大阪高等裁判所
原審裁判所名大阪地方裁判所
原審事件番号平成27(行ウ)224
裁判日:西暦2019-05-23
情報公開日2019-06-27 12:00:11
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主1文
控訴人gの本件控訴に基づき,原判決中,控訴人gに関する部分を次のとおり変更する。
大阪府教育委員会が控訴人gに対してした平成26年6月17日付け戒告処分を取り消す。
控訴人gのその余の請求を棄却する。

2
控訴人gを除くその余の控訴人らの本件各控訴をいずれも棄却する
3
訴訟費用のうち,
控訴人gと被控訴人との間に生じたものについては,
第1,
2審を通じてこれを17分し,その1を同控訴人の,その余を被控訴人の各負担とし,同控訴人を除くその余の控訴人らと被控訴人との間に生じたものについては,控訴費用を同控訴人らの負担とする。
事実及び理由

第1

控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
大阪府教育委員会が控訴人aに対してした平成24年3月27日付け戒告処分及び平成26年3月27日付け戒告処分をいずれも取り消す。

3
大阪府教育委員会が控訴人bに対してした平成24年3月27日付け戒告処分を取り消す。

4
大阪府教育委員会が控訴人cに対してした平成24年3月27日付け戒告処分を取り消す。

5
大阪府教育委員会が控訴人dに対してした平成24年4月25日付け戒告処分を取り消す。

6
大阪府教育委員会が控訴人eに対してした平成25年3月12日付け戒告処分を取り消す。

7
大阪府教育委員会が控訴人fに対してした平成25年3月27日付け戒告処分を取り消す。

8
主文1項

に同じ

9
被控訴人は,控訴人aに対し,10万円及びこれに対する平成27年7月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

被控訴人は,控訴人bに対し,10万円及びこれに対する平成27年7月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

被控訴人は,控訴人cに対し,10万円及びこれに対する平成27年7月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

被控訴人は,控訴人dに対し,10万円及びこれに対する平成27年7月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

被控訴人は,控訴人eに対し,10万円及びこれに対する平成27年7月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

被控訴人は,控訴人fに対し,10万円及びこれに対する平成27年7月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

被控訴人は,控訴人gに対し,10万円及びこれに対する平成27年7月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2
1
事案の概要等
本件事案の概要
本件は,大阪府立学校の教員である,又は教員であった控訴人らが,入学式・卒業式の国歌斉唱時に起立して斉唱すべき旨を命ずる職務命令(以下,控訴人らに対する個別の各職務命令を併せて本件各職務命令という。)に違反したことなどを理由に,大阪府教育委員会(以下府教委という。)からそれぞれ戒告処分(以下,控訴人らに対する各戒告処分を併せて本件各戒告処分という。)を受けたことにつき,本件各戒告処分は違法であると主張して,これらの取消しを求めるとともに,本件各職務命令や本件各戒告処分等により精神的苦痛を被ったと主張して,
被控訴人に対し,
国家賠償法1条1項に基づき,
慰謝料の一部請求として各10万円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日で
ある平成27年7月23日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原審が控訴人らの請求をいずれも棄却したため,控訴人らは,これを不服として控訴した。
2
前提事実,本件の争点及び争点に対する当事者の主張は,次のとおり補正するほかは,原判決の事実及び理由の第2本件の争点及び第4事案の概要等の2,第3争点に対する当事者の主張(原判決1頁24行目
~43頁10行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。原判決3頁4行目から5行目にかけての地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下「地教行法という。)」を

地方教育行政の組織及び運営に関する法律(平成26年法律第76号による改正前のもの。以下「地教行法

という。)」に改める。原判決5頁8行目の教員を職員に改める。
原判決6頁19行目の配布され,の次に本件通達により教育長から教職員に対して職務命令が出されたことを告知されるとともに,を加え,20行目から21行目にかけての(乙Aイ1)を(甲A2,乙Aイ1)に改める。
原判決7頁2行目及び23行目の国歌斉唱の際にの次に着席し,
を,同頁6行目及び8頁3行目の国歌斉唱時にの次に着席し,をそれぞれ加える。
原判決8頁11行目の配布され,の次に本件通達により教育長から教職員に対して職務命令が出されたことを告知されるとともに,を加える。原判決8頁14行目から15行目にかけての
国歌斉唱の際に
の次に
着席し,を,19行目の国歌斉唱時にの次に着席し,をそれぞれ加える。
原判決8頁末行の配布され,の次に本件通達により教育長から教職員に対して職務命令が出されたことを告知されるとともに,を加える。原判決9頁3行目から4行目にかけての国歌斉唱の際にの次に着席し,を,8行目の国歌斉唱時にの次に着席し,をそれぞれ加える。原判決9頁16行目の口頭で,の次に本件通達により教育長から職務命令が出されたことを告知され,を加え,17行目の斉唱すること並びにを斉唱し,に,20行目の(乙D1の①,③)を(甲D2,乙D1の①,③)にそれぞれ改める。原判決10頁3行目の国歌斉唱時にの次に着席し,を加える。
原判決10頁10行目の配布され,の次に

本件通達により教育長から教職員に対して職務命令が出されたことを告知されるとともに,を加える。

原判決10頁13行目から14行目にかけての国歌斉唱の際にの次に着席し,を,18行目の国歌斉唱時にの次に着席し,をそれぞれ
加える。
原判決10頁末行の配布され,の次に本件通達により教育長から教職員に対して職務命令が出されたことを告知されるとともに,を加える。原判決11頁3行目から4行目にかけての国歌斉唱の際にの次に着席し,を,9行目の国歌斉唱時にの次に着席し,をそれぞれ加える。
原判決11頁15行目の国歌斉唱時にの次に着席し,を加え,20行目から21行目にかけての国歌斉唱時にから22行目の地公法32条に反しまでを教育長及び校長からの職務命令に違反して,国歌斉唱時に着席し,起立して斉唱しなかった行為は,地公法32条に反しに改める。
原判決12頁9行目の自由権規約を市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「自由権規約という。)」に改める。原判決13頁1行目末尾に,改行して次のとおり加える。
職務命令があったといえるか否かについて職務命令の対象者の認識や
理解を問題とすることは,その対象者の主観により職務命令の効力が左右されることになり,法的安定性を害するため許されない。」
原判決13頁21行目末尾に,改行して次のとおり加える。

地公法上の職務命令は,職務命令を受ける側にとって,その違反が懲戒処分など重大な法的効果を発生させるものであるから,客観的に明らかなものでなければならない。

原判決16頁21行目の「慣例上の儀礼的所作とはいえず,」の次に次
のとおり加える。
特に,大阪府立の高等学校においては,平成5年3月実施の卒業式における君が代斉唱の実施率は0%(全国の高等学校では73%),平成11年3月実施の卒業式における君が代斉唱の実施率は58.1%にとどまっており,君が代斉唱時の起立斉唱行為を慣例上の儀礼的所作と評価すべき実態や実情はなかったのであるから,原判決17頁21行目の敬意の表明に当たり,の次にキリスト教を信仰する控訴人bを始めとして,を加える。原判決20頁14行目から15行目にかけての保障されるとは別にを保障されるのとは別にに改める。
原判決25頁18行目末尾に,改行して次のとおり加える。
府職員基本条例27条1項の文書による職務命令は,個別的・具体的なものが想定されており,本件通達のように一般的・抽象的に発出されたものはこれに含まれない。」
原判決26頁21行目末尾に,改行して次のとおり加える。
オ控訴人gに対する本件戒告処分Gについて前記1(争点1)において被控訴人が主張したとおり,h校長は控訴人gに対して口頭による職務命令を発したのであるから,同職務命令がないことを前提とする控訴人gの主張は,失当である。
原判決27頁末行の起立したくない生徒をを起立したくない生徒に対しに改める。原判決31頁23行目の

に減額された。

減額された。

に改める。原判決38頁22行目の原告eの人事委員会の場にを控訴人eに関する人事委員会における口頭審理の場にに改める。原判決41頁8行目冒頭から9行目のあったとはいえないが,までを次のとおり改める。
前記1(控訴人gの主張)のとおり,h校長の控訴人gに対する職務命令があったとはいえないところ,入学式や卒業式における君が代の起立斉唱に関する校長の職務命令がなかったにもかかわらず,教職員が着席し,起立斉唱しなかったことを理由に処分された例はない。」原判決41頁12行目末尾に,改行して次のとおり加える。
また,前記8(控訴人らの主張)のとおり,本件通達は有効な職務命令ではないが,仮に本件通達が教職員に向けた職務命令として一般的には有効であったとしても,控訴人gにおいて,本件通達の写しの配布を受けた後,本件通達の効力が式典や年度を超えて継続するものであるとの説明を受けたことはなかったこと,前記1(控訴人gの主張)で述べた平成26年4月8日の入学式に関するh校長の言動や,同入学式を迎えるに当たり控訴人gほかの教職員に対して本件通達は配布されなかったことに照らせば,本件通達は,控訴人gに対する関係では有効ではなくなったか,控訴人gがその有効性について疑問を持つことに十分な合理性があったというべきである。さらに,本件通達はその内容が不明確であり,本件通達に違反したことのみによる戒告処分は,文書による職務命令違反を戒告事由と定めた府職員基本条例27条の趣旨に反する。原判決42頁7行目の以下の各事情を以上の各事情に改める。
原判決42頁18行目の(原告の主張)を(控訴人らの主張)に改
める。
原判決42頁20行目の侵害するものとして,の次にまた,裁量権の逸脱・濫用がある場合にも,客観的法規範に対する違反として,を加える。第3
1
争点に対する当裁判所の判断
争点1(h校長の控訴人gに対する職務命令の有無)について
認定事実
後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。ア
府教委は,平成24年1月17日付けで本件通達が発出されたことを踏まえ,平成23年度の卒業式以降,校長及び准校長に対し,府立学校の入学式及び卒業式における国歌斉唱に係る指導の流れ及び職務命令の発令に関する手続について指導を行っていた。その指導は,校長又は准校長は全教職員に対し,入学式又は卒業式の約1週間前までに,本件通達の写し,役割分担表(校長又は准校長名で作成し,式場内外にいる教職員の役割が分かるもの)及び会場図を配布した上,通達により教育長から職務命令が出されました。(中略)式場内の教職員は,国歌斉唱の際に起立して斉唱してください。これは,わたくしからの職務命令です。双方の職務命令に従わない場合は,服務上の責任が問われることとなります。と口頭で述べて職務命令を発すること,校長又は准校長が職務命令を発したことを職員会議等の議事録に記録すること,起立斉唱をしないことが予想される教職員がいるなどの指導状況に応じて,府教委に相談し,教職員個人宛てに校長又は准校長から職務命令書及び座席表を手交することなどを内容とするものであった。(甲4,10,11)


h校長は,平成24年12月からv高校の校長を務めていたところ,平成26年度の入学式より前の同校における入学式及び卒業式の際には,職員に対し,本件通達の写しを配布した上,
職務命令である旨を口頭で明
示して国歌斉唱時に起立斉唱をするよう命じていた(証人h(原審。以下
同じ))。平成25年度の卒業式においても,h校長は,書面による個人宛ての職務命令は発出しなかったものの,国歌斉唱時における起立斉唱に関し,職員会議では教職員に対して

これは職務命令です。職務命令に従わない場合は,服務上の責任が問われることになります。

との文言を使用して職務命令を発したところ,同卒業式の場で起立斉唱しなかった教員が懲戒処分を受けたことがあった(証人h12頁)。

控訴人gは,平成26年4月1日,v高校に着任した。h校長は,控訴人gも出席した同日の職員会議において,
同年度の入学式の運営に関し,
国旗
掲揚及び国歌斉唱を含めた当日の式次第,会場図及び役割分担表を配布したが,
その際に配布された役割分担表は,
府教委の指導に従った内容のもの
ではなく,
校長名で作成されておらず,
式場内外にいる教職員の役割も明記
されていなかった。この職員会議において,控訴人gが

国旗・国歌を強制的に教育の場に持ち込むのは反対である。入学式において国歌斉唱について職務命令を発出しないでほしい。

と発言したのに対し,h校長は

御意見として伺っておきます。

と回答した。h校長は,この日,前年度までとは異なり,教職員に対して本件通達の写しの配布及び職務命令を発する旨の明確な発言をせず(証人h2頁),上記のように起立斉唱に対して異論を唱える控訴人gについて,
府教委に相談したり,
個人宛ての職務命令書を手
交したりすることもしなかった。(甲G9,乙G3の①)

h校長は,同月3日,校長会に出席し,教育長から,

職員が入学式における国歌斉唱時の起立斉唱を実際にしているかどうかの確認をどの程度行うかについては,各校の状況に応じて,各校長の責任と裁量において,考えてほしい。

旨説明されたのを聞き,教職員に対する事前の指導について,校長の判断でこれまでの指導方法を変えることが可能であり,本件通達の写しや役割分担表等を事前に教職員に配布するかどうかについても,校長に裁量が与えられたものと理解した(甲G8,乙G15,証人h)。

h校長は,同月4日,校長室において控訴人gと面談し,同控訴人に対して本件通達の写しを示しながら,
職務命令であるとの認識を伝えた上で,
入学式における国歌斉唱時には起立してほしい旨伝えた。その際,控訴人gから

悩んでいる。

との返答があったため,h校長は,同控訴人に対し,

実際にどうするかは任せます。

と告げるとともに,同月7日に行う職員会議では職務命令の文言を使用しない予定である旨伝えた。この面談の後,h校長は,同月1日の職員会議の場における発言と同様に起立斉唱に対して異論を唱える控訴人gについて,府教委に相談したり,個人宛ての職務命令書を同控訴人に手交したりすることをしなかった。(甲G9,11,乙G16,証人h,控訴人g(原審。以下同じ))


h校長は,同月7日に開催された職員会議において,控訴人gを含む教職員に対し,

平成24年1月17日の教育長通達のとおり,式場内の教職員は起立斉唱をお願いします。

又は

起立斉唱してください。

とのいずれかの表現を用いて,入学式における国歌の起立斉唱に関する連絡を行った。その際,h校長は,
職務命令との文言は使用せず,本件通達の写
しや役割分担表の配布もしなかった。h校長は,この職員会議の後も,控訴人gについて府教委に相談したり,個人宛ての職務命令書を同控訴人に手交したりすることをしなかった。(証人h,控訴人g)


平成26年4月7日の職員会議の会議録には,h校長から職務命令が発出された旨記録された(乙G18)。

検討

とおり,h校長は,本件通達を踏まえて府教委が定め
た入学式及び卒業式における国歌斉唱に係る指導の流れ及び職務命令の発令に関する手続に従うことなく,控訴人gも出席していた平成26年4月1日及び同月7日の各職員会議において,前年度までとは異なり,教職員に対し,本件通達の写しを配布せず,

これは,わたくしからの職務命令です。双方の職務命令に従わない場合は,服務上の責任が問われることとなります。

との発言も職務命令の文言の使用もせずに,同月7日の職員会議では

起立斉唱をお願いします。

又は

起立斉唱してください。

との発言をするにとどまっていた。また,h校長は,同月4日に控訴人gと面談した際,同控訴人に対して本件通達の写しを示しながら,本件通達が職務命令であるとの認識を伝えたものの,校長として職務命令を発する旨の発言をしなかっただけでなく,

実際にどうするかは任せます。

と,起立斉唱をするかどうかを同控訴人の判断に委ねるような発言をするとともに,職員会議では職務命令の文言を使用しない予定である旨をも伝えていた。さらに,h校長は,府教委の指導内容に反し,起立斉唱に対して異論を唱える控訴人gについて府教委に相談したり,個人宛ての職務命令書を同控訴人に手交したりすることもしなかったものである。なお,前記前7日付けの教育長から府立学校の
校長及び准校長に対する通達には,入学式及び卒業式等において国歌斉唱を行う際は起立により斉唱するよう教職員に対し通達を行ったが,校長又は准校長からこの趣旨を徹底するよう職務命令を行うことを命ずる旨が明記されている。

このように,h校長は,本件通達と併せて,校長及び准校長に対し国歌斉唱の際には起立して斉唱すべき旨を教職員に徹底するよう口頭による職務命令を発すべき旨を命じた通達があること,府教委から府立学校の入学式及び卒業式における国歌斉唱に係る指導があることを知りながら,平成26年度の入学式において控訴人gのように国歌斉唱の際に起立斉唱をしない教職員が出ることが容易に予想される状況下で,校長会における教育長の説明を聞く前から,府教委が定めた入学式及び卒業式における国歌斉唱に係る指導に従うことなく,前年度までとは異なって,教職員に対し,本件通達の写しを配布することをせず,府教委の指導内容に沿った職務命
令の発令に係る発言はもとより,そもそも職務命令の文言すら使用しなかったものである。
以上の点に照らせば,h校長は,平成26年度の入学式における国歌斉唱時の起立斉唱に関し,控訴人gを含む教職員に対して,校長からの口頭による職務命令であると理解することが可能な発言をしたとは認められないのであり,むしろ,校長会における教育長からの説明とも相まって,上記入学式における国歌斉唱の際に起立して斉唱すべき旨を校長による職務命令として明確に命ずる必要はないものと理解していたと認めるのが相当である。そうすると,v高校の平成26年度の入学式における国歌斉唱に関し,h校長が控訴人gに対して国歌斉唱時に起立斉唱すべき旨の口頭による職務命令(以下本件職務命令Gという。)を発したとは認められない。
この点に関し,

平成26年4月7日の職員

会議の会議録にはh校長から職務命令が発出された旨が記録されているが,同月1日及び同月7日の各職員会議におけるh校長の具体的な言動は前記認定のとおりであるから,上記会議録の記載をもって直ちに,h校長が職務命令を発したものと認めることはできない。

被控訴人は,職務命令があったといえるか否かについて職務命令の対象者の認識や理解を問題とすることは,その対象者の主観により職務命令の効力が左右されることになり法的安定性を害すると主張する。
校長の口頭による職務命令があったか否かは,校長による具体的な発言内容及びその際における他の言動のほか,その場の状況や前後の経緯等に基づき客観的に認定・判断されるべきものであるところ,h校長が本件職務命令Gを発したとは認められないとの上記認定・判断は,h校長の平成26年4月1日及び同月7日の職員会議における具体的な発言内容とその際における言動,同月4日の校長室における控訴人gとの面談内容等を基
にしたものであって,対象者である控訴人gの認識や理解に基づくものではない。被控訴人の上記主張は失当である。
2
争点2から争点9までに対する当裁判所の判断は,次のとおり補正するほかは,原判決の事実及び理由の第5争点に関する当裁判所の判断の2か
ら9まで
(原判決45頁21行目~80頁9行目)
に記載のとおりであるから,
これを引用する。
原判決48頁5行目の高等学校教育の目的としてを義務教育,特別支援教育,高等学校教育の目的としてに改める。原判決48頁7行目の慈養を削る。
原判決48頁15行目の慈養を涵養に改める。
原判決48頁21行目の小学校や高等学校のを高等学校や支援学校のに改める。原判決48頁23行目の卒業式を入学式又は卒業式に改める。
原判決49頁11行目末尾に,改行して次のとおり加える。
控訴人らは,大阪府立の高等学校においては,平成5年3月実施の卒業式における君が代斉唱の実施率は0%(全国の高等学校では73%),平成11年3月実施の卒業式における君が代斉唱の実施率は58.1%にとどまっており,君が代斉唱時の起立斉唱行為を慣例上の儀礼的所作と評価すべき実態や実情はなかったと主張する。確かに,証拠(甲14,15)によれば,大阪府立の高等学校において控訴人らが主張するような事情があったことは認められる。しかし,他方で上記証拠によれば,平成5年や平成11年当時にも,全国の公立学校の卒業式において君が代(国歌)斉唱が広く行われていたことが認められ,府国旗国歌条例が公布,施行された平成23年当時にも,その後の本件通達や本件各職務命令発令当時においても,全国の公立学校における卒業式等の学校行事において国歌としての君が代の斉唱が広く行われていたことも明らかというべきである。国歌斉唱に係る慣例上の儀礼的所作が都道府県ごとに大きく異なるというべき理由はなく,大阪府立の高等学校において控訴人ら主張のような事情があったからといって,そのことが本件当時において国歌斉唱が慣例上の儀礼的所作であったことを否定する根拠になるということはできない。原判決51頁20行目から21行目にかけての本件通達及び本件各職務命令はから23行目の目的とするものでありまでを本件通達及び本件各職務命令は,前記認定説示のとおり,君が代が国歌と定められていることを踏まえ,また,入学式や卒業式等の儀式的行事の意義,在り方等を定めた関係法令等の諸規定の趣旨に沿って,生徒等への配慮を含め,教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに当該式典の円滑な進行を図る目的を有するものということができに改める。原判決52頁7行目から8行目にかけての教師が公権力によって特定の意見のみを教授されないという意味においてを教師が公権力によって特定の意見のみを教授することを強制されないという意味においてに改める。
原判決52頁11行目の認めなければならないを認められなければならないに改める。原判決54頁2行目の右規定を上記規定に改める。
原判決54頁18行目の慈養を涵養に改める。
原判決57頁1行目から2行目にかけての平成26年法律第76号による改正前のを削る。原判決57頁8行目末尾に,改行して次のとおり加える。
控訴人らは,
府職員基本条例27条1項の
文書による職務命令
は,
個別的・具体的なものが想定されており,本件通達のように一般的・抽象的に発出されたものは同条項の職務命令には含まれないと主張する。しかし,本件通達は,府立学校の入学式や卒業式等における国歌斉唱時に式場内の全ての教職員が起立して斉唱すべき旨を内容とするもので
あって,対象も行為も具体的に特定されており,府職員基本条例27条1項の職務命令に含まれるというべきである。控訴人らの主張は採用できない。」
原判決57頁11行目の原告らを

控訴人ら(ただし,控訴人gを除く。以下,9項において同じ)

に改める。原判決57頁21行目の原告らの行動は,を削る。
原判決60頁3行目から4行目にかけての的確な証拠は認められずを的確な証拠はなくに改める。
原判決60頁末行の国歌斉唱時にから61頁2行目の「言い難い。」までを次のとおり改める。
相応の厳粛性が保たれていた上記卒業式の国歌斉唱時に,控訴人bが,生徒の介助をするなどして起立斉唱することができない状況にあったとは認められないにもかかわらず,着席していたことを正当化できるような事情があったということはできない。原判決62頁3行目の原告を控訴人dに改める。
原判決64頁4行目の生徒の模範となるべきから5行目の及ぶこと自体までを当該行事の主催者側の立場にあり,また,生徒の模範ともなるべき教職員があえて着席したままでいること自体に改める。原判決64頁8行目末尾に次のとおり加える。
仮に入学式や卒業式における国歌斉唱時に着席し,起立して斉唱しない控訴人らの行為やその背景にある信条等に感銘を受けるなどした生徒がいたとしても,控訴人らの上記行為により学校の儀式的行事としての式典の秩序や雰囲気が損なわれたとの評価を左右するものではない。原判決64頁9行目冒頭から13行目末尾までを削る。
原判決66頁8行目の責められるべきことである自体を責められるべきことであること自体に改める。
原判決66頁22行目の本件懲戒処分A1を本件戒告処分A1に改める。
原判決70頁8行目の各考慮事情との観点を各考慮事情の観点に改める。
原判決71頁6行目の秩序や雰囲気をを秩序や雰囲気がに改める。原判決71頁18行目の密接不可分に基づくを密接不可分なに改める。
原判決73頁12行目から13行目にかけての

的確な証拠は認められない。

的確な証拠はない。

に改める。原判決73頁18行目冒頭から74頁25行目末尾までを削り,同頁末行のサをコに改める。
原判決75頁4行目の被告を府教委に改める。
原判決75頁12行目の職務違反行為を職務命令違反行為に改め
る。
原判決75頁21行目から22行目にかけての本件各戒告処分を本件戒告処分Gを除くその余の本件各戒告処分に改める。原判決75頁25行目冒頭から末行末尾までを次のとおり改める。

控訴人aは,本件戒告処分A2について,手続上の違法がある旨主張す原判決77頁16行目冒頭から78頁末行末尾までを削る。原判決79頁2行目,24行目及び80頁5行目の各「及び原告g

をいずれも削り,79頁2行目及び18行目の各原告ら,同頁10行目の上記原告2名並びに同頁末行及び80頁2行目の各同原告両名をいずれも控訴人aに改め,79頁4行目及び7行目から8行目にかけての各大阪府職員の懲戒に関する手続及び効果に対する条例をいずれも大阪府職員の懲戒の手続及び効果に関する条例に改め,同頁6行目の,弁護士の立会いはから7行目の「主張する。」までを

旨主張する。

に改め,同頁9行目から10行目にかけて及び80頁4行目の各及び本件戒告処分Gをいずれも削り,同頁8行目の原告a及び原告gに係るを控訴人aのに改める。
原判決80頁9行目末尾に,改行して次のとおり加える。
本件戒告処分Gについてア前記教委は平成26年6月17日付けで,控訴人gに対し,同年4月8日に実施されたv高校の平成26年度の入学式において,教育長及び校長からの職務命令に違反して,国歌斉唱時に着席し,起立して斉唱しなかった行為は,地公法32条に規定する上司の職務上の命令に従う義務に違反するものであり,同法29条1項1号及び3号に該当するものとして,本件戒告処分Gを行ったことが認められる。イしかしながら,前記1で認定・判断したとおり,本件戒告処分Gが地公法32条違反に該当するとする控訴人gの職務命令違反行為のうち,校長からの職務命令(本件職務命令G)違反の点については,本件職務命令Gの発令があったと認められないのであるから,前記8のとおり本件通達が有効な文書による職務命令であり,控訴人gが本件通達に違反したものと認められるとしても,本件戒告処分Gは,同処分において懲戒事由とされた職務命令違反行為のうち一つを欠いていたものである。ウ前記1アで認定した事実によれば,府立学校の入学式等における国歌斉唱に係る職務命令の発令に関する手続について,府教委は,校長及び准校長に対し,校長又は准校長から全教職員に対して本件通達により教育長から職務命令が出されていることを伝えた上,校長又は准校長自らが「これは,わたくし(校長又は准校長)からの職務命令です。双方の職務命令に従わない場合は,服務上の責任が問われることとなります。と口頭で述べて職務命令を発するよう指導していたことが認められ,被控訴人の府立学校の校長及び准校長は,このような府教委の指導に沿って教職員に対する自らの職務命令を発していたものと推認することができる。
そして,本件戒告処分G当時,被控訴人において,本件通達とは
別に校長又は准校長自らが職務命令を発した事実がないにもかかわらず,入学式等において国歌斉唱時に起立斉唱をしなかった教職員が,本件通達による職務命令のみに違反したとの理由によって懲戒処分を受けた事例があることを認めるに足りる証拠はなく,弁論の全趣旨によれば,
むしろそのような事例はなかったことが窺われる。
上記のような府教委の指導内容とこれに基づく府立学校の校長等
による説明及び職務命令発令の状況,校長等による職務命令がない場合における過去の処分状況等に照らせば,本件戒告処分G当時,入学式等における国歌斉唱時の起立斉唱に関する府教委の指導方針ないし運用は,府立学校の教職員に対し,本件通達による職務命令のほかにこれを踏まえた校長等の発する職務命令が存する場合において,これらに従わないときに初めて懲戒処分を受けるものであるとの認識ないし予測を抱かせるものであったといわざるを得ない。また,そのことは,府教委においても容易に予測することができたものというべきである。
h校長は,控訴人gに対して本件職務命令Gを発しなかったばか
りでなく,かえって,入学式の4日前の校長室における同控訴人との面談の際には,国歌の起立斉唱をするかどうか悩んでいる旨返答した同控訴人に対し,実際にどうするかは任せる旨や職員会議では職務命令の文言を使用しない予定である旨を伝えており,実際

に,入学式前日の職員会議では,府教委の指導内容とは異なって,職務命令との文言を使用せず,本件通達の写しや役割分担表の
配布もしなかったものである(前記1

オ,カ)。さらに,府教委

は,校長及び准校長に対し,起立斉唱をしないことが予想される教職員がいるなどの指導状況に応じて,府教委に相談し,教職員個人宛てに校長又は准校長から職務命令書及び座席表を手交する
ことも指導していたが

,h校長は,起立斉唱に対して

異論を唱える控訴人gについて府教委への相談も職務命令書の手交もしなかった。
控訴人gは,原審における本人尋問において,平成26年度の入
学式における国歌の起立斉唱について,h校長が職務命令を発したとは認識していない旨供述するが,上記の事実経過に照らせば,そのような認識を前提に控訴人gが懲戒処分まで受けることはないと考えたとしても,そのことには相応の理由があるものというべきである。

以上によれば,本件戒告処分Gは,懲戒事由の一部に誤りがあるばかりでなく,当時の府教委の指導方針ないし運用にも沿わないものであり,また,懲戒事由に関する被処分者の認識・予測とも異なっているものといわざるを得ない。そうすると,本件戒告処分Gは,府教委の裁量権を逸脱・濫用してされた違法なものと認めるのが相当であり,取り消されるべきである。」

3
争点10(国家賠償請求の成否)について
控訴人gを除くその余の控訴人らに関しては,
原判決を引用して認定・説示
したとおり,同控訴人らに係る本件各職務命令及び本件各戒告処分が違法なものであるとは認められず,
また,
同控訴人らに係る本件各戒告処分に至る手
続経過等において,同控訴人らが主張するような管理職らによる嫌がらせや
パワーハラスメント等の違法行為があったとも認められない。
控訴人gに対してされた本件戒告処分Gが違法であって,取り消されるべきであることは,既に説示したとおりである。もっとも,行政処分が違法であるからといって,直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるわけではなく,同条項所定の違法があったと評価されるのは,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさなかったと認め得るような事情がある場合に限られる(最高裁平成5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁参照)。そこで検討すると,証拠(甲G9,乙G15,18)によれば,府教委は,平成26年6月17日付けで控訴人gに対する本件戒告処分Gを行った同日,h校長に対する訓戒を行っているところ,その理由は,h校長が控訴人gに対して府教委が定めた入学式等における国歌斉唱に係る指導の流れ及び職務命令の発令に関する手続に従った方法で職務命令を発しなかったことにあるというものであり,
府教委としては,
h校長が控訴人gに対して職務命令
(本
件職務命令G)を発した事実自体はあるとの認識を有していたこと,この訓戒を行う前提として,府教委は,同年4月10日付けでh校長から顛末書を提出させて調査を行っているところ,h校長は府教委に対し,校長としての職務命令(本件職務命令G)自体は発出した旨の弁解を行っていたこと,v高校における同月7日の職員会議の会議録には,h校長から職務命令が発出された旨記録されていたことが認められる。また,控訴人gが同年度の入学式における国歌斉唱時に着席し,
起立して斉唱しなかったことに争いはなく,
同年6月17日付けで本件戒告処分Gがされた当時,入学式や卒業式における国歌斉唱時に起立斉唱すべきことを教職員に命ずる条例や職務命令が憲法に違反するなど違法であるとは認められないとの最高裁判所の判例が存在することは公知の事実であった。これらの事情によれば,府教委が必要な調査を経て,h校長による本件職務命令Gの発令があったことを前提に控訴人g
に対して本件戒告処分Gをしたことについて,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさなかったとまでは認めるに足りず,本件全証拠によっても,他にこれを認め得るような事情があるとは窺われない。
以上によれば,本件戒告処分Gが国家賠償法上故意又は過失に基づく違法なものであるとまでは認め難い。また,本件通達が違法なものでないことは既に説示したとおりであり,本件戒告処分Gに至る手続経過等において,控訴人gが主張するような管理職らによる嫌がらせやパワーハラスメント等の違法行為があったとも認められない。
よって,被控訴人が控訴人らに対して国家賠償法に基づく賠償責任を負うとは認められず,控訴人らの被控訴人に対する損害賠償請求はいずれも理由がない。
第4

結論
以上によれば,控訴人gの請求のうち,本件戒告処分Gの取消しを求める部分は理由があるから認容すべきであり,その余は理由がないから棄却すべきところ,これと異なる原判決は一部不当であるから,控訴人gの本件控訴に基づき原判決を上記の趣旨に変更し,控訴人gを除くその余の控訴人らの請求はいずれも理由がないから,これらを棄却した原判決は相当であって,同控訴人らの本件各控訴はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第12民事部

裁判長裁判官


裁判官

井林寛明潤
裁判官小倉真樹は,転補につき署名押印することができない。

裁判長裁判官

石井寛明
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