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特許権侵害差止等請求控訴、同附帯控訴事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成31(ネ)10001等
事件名特許権侵害差止等請求控訴,同附帯控訴事件
裁判年月日令和元年6月26日
法廷名知的財産高等裁判所
原審裁判所名大阪地方裁判所
原審事件番号平成28(ワ)4356
裁判日:西暦2019-06-26
情報公開日2019-07-12 10:00:26
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令和元年6月26日判決言渡
平成31年(ネ)第10001号,同年(ネ)第10021号

特許権侵害差止

等請求控訴,同附帯控訴事件(原審・大阪地方裁判所平成28年(ワ)第4356号)
口頭弁論終結の日

平成31年4月24日
判決
控訴人兼附帯被控訴人

株式会社ファイブスター
(以下控訴人という。)

同訴訟代理人弁護士

冨宅恵西村啓
同補佐人弁理士

高山
被控訴人兼附帯控訴人

株式会社MTG

嘉成
(以下被控訴人という。)

同訴訟代理人弁護士


同訴訟代理人弁理士

小主健林一徳夫文1
本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却する

2
控訴費用は控訴人の,附帯控訴費用は被控訴人の各負担とする。
事実及び理由

第1
1
当事者の求めた裁判
控訴の趣旨


原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。


2
上記の部分につき,被控訴人の各請求をいずれも棄却する。

附帯控訴の趣旨


原判決主文第2項を次のとおり変更する。(なお,附帯控訴の趣旨第1項に

原判決を次のとおり変更する。

とあるのは,上記の趣旨であると善解した。)



控訴人は,被控訴人に対し,●●●●●●●●●円及びうち●●●●円に対する平成28年5月15日から,うち金●●●●●●●●●円に対する平成29年10月17日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2
1
事案の概要等(略称は,特に断らない限り原判決に従う。)
本件は,名称を美容器とする各発明に係る各特許権(特許第5791844号及び特許第5791845号。本件特許1及び2)を有する被控訴人が,控訴人が業として販売等する原判決別紙被告製品目録記載の製品(被告製品)は,本件発明1及び2の技術的範囲に属するとして,控訴人に対し,特許法100条1項に基づく同製品の製造・販売等の差止め,同条2項に基づく半製品及び金型等の廃棄,並びに,平成27年8月14日から平成28年7月末日までの不法行為に基づく損害賠償として,民法709条により,●●●●●●●●●円及びうち●●●●円に対する不法行為の日以後である本訴状送達日の翌日(平成28年5月15日)から,うち●●●●●●●●●円に対する不法行為の日以後である訴えの変更申立書送達日の翌日(平成29年10月17日)から,それぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

2
原判決は,被控訴人の上記各請求のうち,差止請求を全部認容し,損害賠償請求の一部を認容した上で,その余をいずれも棄却した。

3
控訴人は,原判決中その敗訴部分を不服として控訴し,被控訴人の請求の全部棄却を求めた。これに対し,被控訴人は,原判決中損害賠償請求を棄却
した部分の一部を不服として,平成27年8月14日から平成28年7月末日までの不法行為に基づく損害賠償として,民法709条により,●●●●●●●●●円及びうち●●●●円に対する不法行為の日以後である本訴状送達日の翌日(平成28年5月15日)から,うち●●●●●●●●●●円に対する不法行為の日以後である訴えの変更申立書送達日の翌日(平成29年10月17日)から,それぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うよう求めて,附帯控訴した。
4
前提事実
前提事実は,次のとおり補正するほか,原判決事実及び理由第2の1(原判決3頁3行目から7頁20行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。


原判決3頁10行目の(甲1,3)を(甲1ないし4)と改め
る。



原判決3頁14行目の『細書2」という。)。』の後に

本件特許1と本件特許2とは,いずれも特願2013-108438を原出願とする分割出願に係る特許である。

を加える。


原判決4頁12行目から18行目までを次のとおり改める。

控訴人は,同年8月2日,本件特許1及び2につき,それぞれ特許無効審判請求(無効2016-800094,同2016-800095。以下,順に「本件無効審判請求1

,本件無効審判請求2という。)をした。
被控訴人は,本件無効審判請求1及び2において,同年10月17日,本件特許1及び2の各特許請求の範囲及び明細書につき,それぞれ訂正請求(以下,各訂正請求を併せて本件訂正請求という。)を行ったところ,平成29年5月15日,上記各無効審判請求について,本件訂正請求をいずれも認め,無効審判請求は成り立たない旨の各審決
(以下,順に本件審決1,本件審決2という。)がされた。
控訴人は,本件審決1及び2について,いずれも審決取消訴訟を提起せず,上記各審決はいずれもその頃に確定した。」


原判決7頁9行目の末尾にことを特徴とすると加える。



原判決7頁12行目のを,をを輸入した上で,と改める。



原判決7頁15行目から16行目にかけて,及び18行目の各支持軸の先端部分を支持軸の先端部とそれぞれ改める。
5
争点及び争点に関する当事者の主張
本件における当事者の主張は,次のとおり補正し,後記6のとおり当審における主張を付加するほかは,原判決事実及び理由第2の2(原判決7頁21行目から8頁13行目まで)及び第3(原判決8頁14行目から34頁26行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。


原判決8頁5行目の末尾に改行の上,次のとおり付加する。
ウエ乙104を主引例とする進歩性欠如本件において乙17の1及び乙18の1を主引例として無効を主張できるか


原判決8頁8行目の末尾に改行の上,次のとおり付加する。
ウエ乙104を主引例とする進歩性欠如本件において乙17の1及び乙18の1を主引例として無効を主張できるか


原判決8頁17行目,9頁15行目,10頁25行目及び11頁10行目の各支持軸の先端部分を支持軸の先端部とそれぞれ改める。



原判決21頁17行目及び22頁9行目の各隣接する一対の前記ローラの間隔を隣接する一対のローラの間隔とそれぞれ改める。


原判決24頁17行目の相違点1及び2を相違点1ないし3と
改める。



原判決24頁18行目から19行目にかけての相違点1及び3を
相違点1,3及び4と改める。



原判決24頁21行目及び22行目から23行目にかけての各相違点3ないし5を相違点4及び5と改める。


原判決27頁17行目●●●●●●●●●●●●円を●●●●●●●●●●●●円と改める。

6
原判決31頁25行目従業用品を事務用品と改める。
当審における当事者の付加主張



争点⑴(被告製品は本件発明1の技術的範囲に属するか。)についてア
ローラについて
(被控訴人の主張)
原判決が認定するとおり,本件発明1のローラは,使用者がこれ
に肌を押し当てて回転させたときに肌を押圧したり摘み上げたりするためのものであり,これらの動作が可能な形状であれば特定の形状に限定されない。
また,原判決が認定するとおり,被告製品のローリング部の形状をもってしても,その先端側も含まれる全体でのマッサージ等は可能である。よって,被告製品のローリング部は,本件発明1のローラに当た
り,構成要件B,C,D,F,Gのローラを充足する。
(控訴人の主張)
本件発明1及び本件発明2に関する被控訴人の主張及び明細書の記載を前提とすると,本件発明1のローラとは,使用者がこれに肌を押し当てて回転させたときに肌を押圧したり摘み上げたりするためのものであり,かつ,先端でマッサージが可能な形状を有するローラということになる。
被控訴人は,乙33及び乙34の各発明のローラの先端部が扁平して
いるため先端部においてマッサージすることができないと主張するのであるから,本件発明1のローラには,先端部が扁平しているローラは含まれない。
そして,被告製品のローリング部は,その先端が扁平形状であるため,先端部においてマッサージを行うことができないから,本件発明1のローラには当たらず,構成要件B,C,D,F,Gのローラを
充足しない。

支持軸の先端部に回転可能に支持されたについて

(被控訴人の主張)
控訴人は,支え持つという概念を登場させて,支え持つためには
キャップ部材が必須であると主張するが,論理の飛躍があるといわざるを得ない。
本件発明1に係る技術的思想は,原判決も認定するとおり,軸の先端で隣接する一対のローラの配列方向と交差する方向及び同一対のローラの配列方向と交差して隣接する一対のローラの配列方向と交差する方向のいずれに移動しても,先行する一対のローラが支持軸の先端部で回転するという技術思想に関するものであり,そこでキャップ部材が必須となるような限定解釈をする必要性も合理性もない。
よって,被告製品は,構成要件Bの支持軸の先端部に回転可能に支持されたとの要件を充足する。(控訴人の主張)
支持とは,支え持つことを意味し(乙14),支えた上で,
かかる状態を保持する状態でなければならない。したがって,4本の支持軸の先端部に回転可能に支持されたとは,4個のローラが,4本の支持軸の先端部に回転可能に支えられた上で,その状態が保持されていることを意味する。本件明細書1の図8から図10には,いずれ
も,キャップ部材(原判決が凹部と表現した部材)が軸受を支え,保持されている状態が開示されており,当該キャップ部材が存在しなければ,ローラを支え持つことができない。
本件明細書1において,支持軸がローラを支え持つ構造が開示さ
れているのは,このようにキャップ部材が存在するものに限られる。他に,4本の支持軸が4個のローラを支え持つ構造は開示されておらず,他の構造が存在することにつき示唆すらされていない。
したがって,本件発明1において,4個のローラはキャップ部材を必須構成として含むものと解される。
そして,被告製品のローリング部には,キャップ部材はないから,本件発明1の構成要件Bの支持軸の先端部に回転可能に支持されたとの要件を充足しない。


争点⑵(被告製品は本件発明2の技術的範囲に属するか。)について(被控訴人の主張)
前記⑴ア及びイの被控訴人の主張と同旨。被告製品は,構成要件J,K,M,N,Oのローラ及び構成要件Jの支持軸の先端部に回転可能に支持されたとの各要件を充足する。(控訴人の主張)
前記⑴ア及びイの控訴人の主張と同旨。被告製品は,構成要件J,K,M,N,Oのローラ及び構成要件Jの支持軸の先端部に回転可能に支持されたとの各要件を充足しない。


争点⑷(本件特許1に無効理由があるか。)についてア
乙17の1を主引例とする進歩性欠如
(控訴人の主張)
本件発明1と乙17発明の移動方向に関する相違点(相違点4)の存在を認める。その上で,本件発明1と乙17発明のローラの貫通状態に
関する相違点(相違点3)及び上記相違点4の容易想到性につき,次のとおり主張する。
(ア)

ローラの貫通状態に関する相違点(相違点3)の容易想到性
ローラの間隔や一対のローラが鋭角に形成されていることと,肌面
に接したローラの回転容易性は無関係である(乙21,45,101,104)。そして,デバイスの移動方向が一定方向に制約されるという問題点は,支持軸がローラを貫通することによってローラ先端部に凸状物が存在し,当該凸状物が肌面と接触することによって発生するものであって,かかる問題点は,ローラを支持軸先端側において非貫通とする,すなわち,ローラ先端部に肌と接触する凸状物を設けないことによって解消する。
そして,支持軸がローラを貫通しないことによる技術的効果はローラの個数によって異なることはなく,2個のローラに用いられている非貫通のローラを,4個のローラに適用することについての阻害要因も存在しない。
なお,乙104で開示されたマッサージローラは,貫通状態であることを除けば,本件発明1のローラに該当するところ,乙104
のマッサージローラを用いて2個,4個及び8個のローラ式マッサージ器を構成することは,優先日の技術水準においても可能であったのであるから(乙104の図3ないし9),この点からも,2個のローラに用いられている非貫通のローラを,4個のローラに適用することは容易であったといえる。
したがって,乙17発明に非貫通のローラを適用することは容易であったから,ローラの貫通状態に関する相違点について容易に想到することができた。
(イ)

移動方向に関する相違点(相違点4)の容易想到性

また,乙17発明に非貫通のローラを適用すれば,自ずと,適用した後の発明は,上下及び左右に移動可能な器具となるのであるから,移動方向に関する相違点についても容易に想到することが可能である。(被控訴人の主張)
争う。

乙18の1を主引例とする進歩性欠如
(控訴人の主張)
本件発明1と乙18発明の移動方向に関する相違点(相違点5)の存在を認める。本件発明1と乙18発明の相違点の容易想到性に関する主張は,本件発明1と乙17発明の相違点の容易想到性に関する前記アの控訴人の主張と同旨。
(被控訴人の主張)
争う。


乙104を主引例とする進歩性欠如(当審における追加主張)
(控訴人の主張)
本件発明1は,乙104の請求項6で開示された発明(以下乙104発明という。)に,乙104の請求項4で開示された発明,乙42及び優先日の周知技術を適用することにより,容易に想到することができたものであるから進歩性を欠く。本件特許1は,特許法29条2項,123条1項2号に基づき特許無効審判により無効とされるべきものであるから,同法104条の3第1項により,被控訴人は本件特許1につき権利を行使することができない。
(ア)

本件発明1に対応する乙104発明の構成
本件発明1に対応する乙104発明の構成は,(a)支軸となる4つの分岐部16-1~16-4が,2組,合計8つ設けられており,2組が向かい合って対になっており,(b)2組の4つの分岐部16-1~16-4の先端に,それぞれ,マッサージ用の4個のマッサージローラ1が回転可能に支持されており,合計8個のマッサージローラ1が回転可能に支持されており,マッサージローラ1は,ローラ本体2の外周に押圧部材5を突設しており,(c)一方の組の4つの分岐部16-1~16-4に連結された連結部15に連なるアーム12Lと,他方の組の4つの分岐部16-1~16-4に連結された連結部15に連なるアーム12Rとを取り付けているグリップ11を有しており,(d)2組の4個のマッサージローラ1は,それぞれ,4つの分岐部16-1~16-4を貫通しており,(e)2組の4つの分岐部16-1~16-4は,それぞれ,一方向からの側面投影において,二対が先広がり傾斜状であるとともに,90度異なる他方からの側面投影において他の組み合わせの二対が先広がり傾斜状に延びており,(f)マッサージローラ1を,マッサージを受ける人に転がしながら押しつけ,マッサージローラ1でマッサージ部位を間に挟み,この状態でローラ式マッサージ器10を進退させてマッサージローラ1を転がして,マッサージを行うことができる,(g)ローラ式マッサージ器というものである。(イ)

一致点
本件発明1と乙104発明は,次の点で一致する。
i
4本の支持軸と,

ii

これら4本の支持軸の先端部に回転可能に支持されたマッサー
ジ用の4個のローラと,

iii

4本の前記支持軸は,一方向からの側面投影において,二対が

先広がり傾斜状であるとともに,90度異なる他方からの側面投
影において他の組み合わせの二対が先広がり傾斜状に延びており,iv

4個の前記ローラを肌に押し当ててマッサージする

v
(ウ)

美容器
相違点

本件発明1と乙104発明は,次の点で相違する。
i
相違点1
本件発明1においては,4本の支持軸と4個のローラで一組の
美容器が構成されているのに対して,乙104発明においては,
4つの分岐部と4個のマッサージローラが一組となっており,二
組の分岐部とマッサージローラが向かい合って,対になっている
点。

ii

相違点2
乙104発明は,ローラを同一水平面上に載置した状態で,上方から見た平面視において,各前記ローラの一部分に重なるように形成されたハンドルを備えていない点。
iii

相違点3
本件発明1のローラは,基端側にのみ穴を有し,各ローラはそ

の内部に前記支持軸の先端が位置する非貫通状態であるのに対し
て,乙104発明のマッサージローラは,貫通状態である点。
iv

相違点4
本件発明1においては,4個の前記ローラを肌に押し当てて隣接する一対の前記ローラの配列方向と交差する方向に沿って移動させると,先行する隣接状態の一対の前記ローラ間で肌を押圧し,後行する隣接状態の一対の前記ローラ間で肌を摘み上げ,かつ,4個の前記ローラを肌に押し当てて前記隣接する一対の前記ローラと交差して隣接する一対の前記ローラの配列方向と交差する方向にそって移動させると,先行する隣接状態の一対の前記ローラ間で肌を押圧し,後行する隣接状態の一対の前記ローラ間で肌を摘み上げるのに対して,乙104発明では,同様の作用効果が得られるか明らかでない点。
(エ)

容易想到性
上記相違点1については,乙104の請求項4の発明及び図6(別
紙参照)において,4つのアームそれぞれにマッサージローラを回転可能に支持するローラ式マッサージ器が開示されており,これを乙104発明に適用すると,乙104発明で組み合わせられた4つの分岐部のうち,片方だけを用いて,4つの分岐部それぞれにマッサージローラを回転可能に支持したローラ式マッサージ器を構成することは容易である。
次に,上記相違点2については,乙104の請求項4の発明及び図6において,グリップが各マッサージローラの一部分に重なることが許容されており,乙104発明に対し,マッサージローラの一部分に重なるグリップを,4つの分岐部に連結された連結部に代えて設けることは容易である。
そして,上記相違点3については,乙42に記載された事項(内部に支持軸の先端が位置する非貫通状態で,ハンドルの二股部に回転可能に支持されたローラ。以下乙42事項という。)を,乙104
発明に適用して,乙104発明のマッサージローラを非貫通状態のものとすることは容易である。
上記相違点4については,上記相違点1及び上記相違点2に想到した当業者であれば,乙104の図9(別紙参照)の上下方向にローラ式マッサージ器を移動させてもよいと容易に想到することができる。かかる開き角度によっても,マッサージが可能であり,摘み上げ作用が発揮される(乙19,45)。
(被控訴人の主張)

争う。
(ア)

本件発明1に対応する乙104発明の構成
本件発明1に対応する乙104発明の構成は,(a)弾性変形して互いに離反可能な対(2本)のアームの先端にそれぞれ連結部を介して4方に分岐して組をなし,2組が向かい合った8本の分岐部と,(b)これら8本の分岐部の先端部に回転可能に支持されたマッサージ用の8個の,ローラ本体の外周を規則的に波打ちながら1周するエンドレスに形成されたゴム板製の押圧部材を設けたローラと,(c)これらローラのうち一つのアームから分岐する分岐部に支持されたローラを同一水平面上に載置した状態で,上方(乙104の図9の状態)から見た平面視において,前記2本のアームの基端であって,各前記ローラの一部分とは重ならないように形成されたグリップと,を備えており,(d)8個のローラは先端側から基端側に貫通した軸孔を有し,各ローラは前記分岐部が貫通する貫通状態であり,(e)8本の前記分岐部は,乙104の図8(別紙参照)図示方向からの側面投影において,各アームの二対が先広がり傾斜状であるとともに,90度異なる他方からの側面投影において各アームの他の組み合わせの二対が先広がり傾斜状に延びており,(f)8個の前記ローラの押圧部材を肌に押し当てて隣接する一対の前記ローラの配列方向と交差する方向である乙104の図8中の左右方向に沿って移動させると,各アームにおける先行する隣接状態の一対の前記ローラの押圧部材で肌を押圧し,後行する隣接状態の一対の前記ローラの押圧部材で肌を押圧する,(g)ローラ式マッサージ器と認定すべきである。(イ)

相違点
本件発明1と乙104発明の相違点は,次のとおりである。
i
相違点1(控訴人主張の相違点1に対応)

本件発明1は,4本の支持軸とこれら支持軸に支持された4個
のローラを有するのに対して,乙104発明は,2本のアームそ
れぞれに4本の分岐部,合計8本の分岐部と,これら分岐部に支
持された8個のローラを有する点。
ii

相違点2(控訴人主張の相違点2に対応)
本件発明1は,平面視において,ハンドルが,各ローラの一部
分に重なるように形成されているのに対して,乙104発明は,
乙104の図9の状態から見て,グリップが,2本のアームの基
端に,各ローラの一部分とは重ならないように形成されている点。
iii

相違点3(控訴人主張の相違点3に対応)
本件発明1は,各ローラは,基端側にのみ穴を有し,その内

部に支持軸の先端が位置する非貫通状態であるのに対して,乙1
04発明は,各ローラは,先端側から基端側に貫通した軸孔を有
し,分岐部が貫通する貫通状態である点。
iv

相違点4(控訴人主張の相違点4の前段に対応)
本件発明1は,4個のローラを肌に押し当てて隣接する一対の
前記ローラの配列方向と交差する方向に沿って移動させると,先
行する隣接状態の一対の前記ローラ間で肌を押圧し,後行する隣
接状態の一対の前記ローラ間で肌を摘み上げるのに対して,乙1
04発明は,8個のローラを肌に押し当てて乙104の図8中の
左右方向に移動させると,各アームにおける先行する隣接状態の
一対のローラの押圧部材が肌を押圧し,後行する隣接状態の一対
のローラの押圧部材が肌を押圧するがローラ間で肌を摘み上げる
かどうかは不明な点。

v
相違点5(控訴人主張の相違点4の後段に対応)
本件発明1は,4個のローラを肌に押し当てて前記隣接する一

対のローラと交差して隣接する一対のローラの配列方向と交差す
る方向に沿って移動させると,先行する隣接状態の一対のローラ
間で肌を押圧し,後行する隣接状態の一対のローラ間で肌を摘み
上げるのに対して,乙104発明は,乙104の図8中の上下方
向への移動については開示がない点。
(ウ)

容易想到性に対する反論
上記相違点1につき,控訴人は,4つの分岐部のうち片方だけを用
いて構成することは容易であるなどと主張する。しかしながら,乙104発明に控訴人が主張するような変更を行うことには動機付けがなく,また阻害要因も存在するものであり,そのような変更は当業者にとって容易ではない。
すなわち,乙104の請求項4の発明及び図6は,アームを対(2本)で設けることを前提として,この対のアームを二組設けた構成であり,対のアームの片方だけ,すなわちアームを1本だけ使用することを開示するものではない。このため,乙104請求項4の発明及び図6に基づき,乙104発明の対(2本)のアームのうち,片方
(1本)のみのアームを使用して,4本の支軸とこれらに支持された4個のローラを有する構成とする動機付けは存在しない。また,乙104発明は,弾性変形して互いに離反可能な対のアームの先端にそれぞれ4つのローラを配置して1組とし,2組を向かい合わせてその間にマッサージ部位を挟んでマッサージ可能とするものであり(乙104【0042】),アームの片方(1本)のみを用いると,2組のローラでマッサージ部位を挟んでマッサージすることができなくなる。したがって,対(2本)のアームを有し8つの支軸と8つのローラを有する乙104発明を,一つのアームからなる4つの支軸と4つのローラを有する構成とすることは,乙104発明の技術的意義を没却す
ることとなり,阻害要因が存在することは明らかである。よって,乙104発明を,相違点1に係る本件発明1の構成とすることは当業者にとって容易想到ではない。
上記相違点2につき,乙104の請求項4の発明及び図6は,グリップから2対(4本)のアームが反対方向に延びる構成であり,アームの対数やグリップから延びるアームの方向は乙104発明と全く相違し,4つのローラを1組とし,2組のローラを向かい合わせる構成ではない。しかも,乙104の請求項4の発明及び図6のローラ式マッサージ器において,ハンドルから四方に延びるのは,弾性変形して互いに離反可能なアームである一方,乙104発明の連結部に接続されて四方に延びるのは分岐部であり,この分岐部それ自体が
弾性変形して互いに離反可能である(アームの機能を有する)との記載はない。また,乙104発明の連結部に代えてグリップを形成すると,新たなグリップによって4つのローラに力を加えることとなるため,乙104発明が有していた対のアームとグリップはもはや何の用も果たさない不要物となるが,そのような構成は,グリップと弾性変形して互いに離反可能な対のアームを備えるという乙104発明の技術的意義を完全に没却することとなる。以上のとおり,乙104発明において,弾性変形して互いに離反可能な対のアームとグリップとの構成を捨ててまで,上記のような変更を行う動機付けが存在しないことはもちろん,同変更には乙104発明の技術的意義を没却する点で阻害要因が存在する。したがって,乙104発明を相違点2に係る本件発明1の構成とすることは当業者にとって容易想到ではない。
上記相違点3につき,乙104発明は,ローラ本体の外周を規則的に波打ちながら1周するエンドレスに形成されたゴム板製の押圧部材を有するところ,この構成は,発明の課題を解決する手段であり,
発明の効果を奏する構成であることから,乙104発明において必須の構成である。他方,乙42事項のローラは球状であるから,課題解決のために上記の押圧部材を必須の構成とする乙104発明のローラについては,当該構成を備えない乙42事項のローラを適用する動機づけはなく,むしろ組み合わせの阻害要因がある。したがって,乙104発明を相違点3に係る本件発明1の構成とすることは当業者にとって容易想到ではない。
上記相違点4につき,乙104発明のローラは,ローラ本体の外周を規則的に波打ちながら1周するエンドレスに形成されたゴム板製の押圧部材を有する。このような波打つゴム板製の押圧部材を備えたローラを肌に当てるとゴム板製の押圧部材のみが肌を押圧することになり,また,肌を押圧した場合,ゴム製の押圧部材自体も弾性変形する。さらに,押圧部材の形状は規則的に波打つ形状に形成されているから,肌への押圧の軌跡も同様に波打ち形状にならざるを得ない。このため,そのような押圧部材が形成されたローラに押圧された肌がどのような挙動を示すか,すなわち,控訴人が主張するような摘み上げ効果
を奏するかは不明といわざるを得ない。したがって,乙104発明を,相違点4に係る本件発明1の構成とすることは当業者にとって容易想到とはいえない。
上記相違点5につき,控訴人は,上記相違点1及び上記相違点2に想到した当業者であれば乙104の図9の上下方向に移動させることは容易である旨主張する。しかしながら,上記相違点1及び上記相違点2はいずれも当業者に容易想到ではない。また,乙104発明のローラは,グリップや対のアーム構造からも,乙104の図8の左右方向にのみ移動させるものであって同図の上下方向に移動させるものではないことは明らかである。したがって,乙104発明を上記図8中
の上下方向へ移動させて相違点5に係る本件発明1の構成とすることは当業者にとって容易ではない。

本件において乙17の1及び乙18の1を主引例として無効を主張できるか(当審における追加主張)
(被控訴人の主張)
控訴人は,原審係属中に,乙17の1及び乙18の1を主引例とする進歩性欠如を主張して本件無効審判請求1を行ったが請求不成立審判を受け,同審判を確定させているのであるから,その後になって,再度,無効の抗弁を提出するようなことは,信義則に反し許されない。
(控訴人の主張)
特許法167条の趣旨は,同一当事者間における紛争の一回的解決にあるのではなく,特許権を無効にすることを求めて無効審判を請求する者の利益と,特許権の安定を求める特許権者の利益との調整を図るところにある。
無効審判手続と特許権侵害訴訟における特許権者が置かれている立場の質的な相違を前提にする限り,無効審判手続に関する同条の趣旨を,特許権侵害訴訟手続に及ぼす素地がない。
また,同条は,第三者が,先の審判手続と同一事実及び同一証拠に基づいて審判請求することまでは制限していないところ,このように第三者の無効審判請求により特許が無効とされるべき場合にまで特許権者による権利行使が許されることになると,特許権者が不当な利益を得る一方で,当該特許発明を実施する者が不利益を被る事態となり,最高裁判所平成12年4月11日第三小法廷判決(民集54巻4号1368頁参照)が示した衡平の理念に反する結果となる。したがって,同条の趣旨を特許権侵害訴訟手続に及ぼすことはできない。
特許法167条と上記最高裁判決の関係は,同条と同法104条の3
との関係においても敷衍されるから,同法167条の趣旨を同法104条の3に及ぼすこともできない。


争点⑸(本件特許2に無効理由があるか。)についてア
乙17の1を主引例とする進歩性欠如
(控訴人の主張)
本件発明2と乙17発明のローラ間隔の相違点(相違点4)の存在,及び,本件発明2と乙17発明の移動方向に関する相違点(相違点5)の存在を認める。
上記相違点4については,乙104の図6において,隣接する一対のマッサージローラの間隔を,これらマッサージローラの配列方向と交差する方向で隣接する一対のマッサージローラの間隔よりも狭くする技術が開示されており,4個のローラを用いるマッサージ器具において,ローラの間隔を相違させる程度の技術は,優先日の技術水準を構成していた。かかる優先日の技術水準を考慮すれば,乙17発明及び乙18発明におけるローラの間隔を相違させるように構成することは容易である。本件発明2と乙17発明の相違点の容易想到性に関するその余の主張は,本件発明1と乙17発明の相違点の容易想到性に関する前記⑶アの控訴人の主張と同旨。
(被控訴人の主張)
争う。


乙18の1を主引例とする進歩性欠如
(控訴人の主張)
本件発明2と乙18発明のローラ間隔の相違点(相違点4)の存在,及び,本件発明2と乙18発明の移動方向に関する相違点(相違点5)の存在を認める。本件発明2と乙18発明の相違点の容易想到性に関する主張は,本件発明2と乙17発明の相違点の容易想到性に関する前記
アの控訴人の主張と同旨。
(被控訴人の主張)
争う。

乙104を主引例とする進歩性欠如(当審における追加主張)
(控訴人の主張)
本件発明2は,乙104発明に,乙104の請求項4の発明,乙42及び優先日の周知技術を適用することにより,容易に想到することができたものであるから進歩性を欠く。本件特許2は,特許法29条2項,123条1項2号に基づき特許無効審判により無効とされるべきものであるから,同法104条の3第1項により,被控訴人は本件特許2につき権利を行使することができない。
(ア)

本件発明2に対応する乙104発明の構成
本件発明2に対応する乙104発明の構成は,(i)支軸となる4つの分岐部16-1~16-4が,2組,合計8つ設けられており,2組が向かい合って対になっており,(j)2組の4つの分岐部16-1~16-4の先端に,それぞれ,マッサージ用の4個のマッサージローラ1が回転可能に支持されており,合計8個のマッサージローラ1が回転可能に支持されており,マッサージローラ1は,ローラ本体2の外周に押圧部材5を突設しており,(k)2組の4個のマッサージローラ1は,それぞれ,4つの分岐部16-1~16-4を貫通しており,(l)2組の4つの分岐部16-1~16-4は,それぞれ,一方向からの側面投影において,二対が先広がり傾斜状であるとともに,90度異なる他方からの側面投影において他の組み合わせの二対が先広がり傾斜状に延びており,(m)隣接する一対のマッサージローラ1の間隔が,これらマッサージローラ1の配列方向と交差する方向で隣接する一対のマッサージローラ1の間隔よりも狭いか否かは不明であり,(n)マッサージローラ1を,マッサージを受ける人に転がしながら押しつけ,マッサージローラ1でマッサージ部位を間に挟み,この状態でローラ式マッサージ器10を進退させてマッサージローラ1を転がして,マッサージを行うことができる,(o)ローラ式マッサージ器というものである。(イ)

一致点
本件発明2と乙104発明の一致点は,前記⑶ウ控訴人の主張(イ)
にみた本件発明1と乙104発明の一致点と同様である。
(ウ)

相違点
本件発明2と乙104発明の相違点のうち,相違点1,3及び4は,
前記⑶ウ控訴人の主張(ウ)にみた本件発明1と乙104発明の相違点1,3及び4と同様である。本件発明2と乙104発明の相違点2は,次のとおりである。
ii

相違点2
本件発明2においては,隣接する一対の前記ローラの間隔が,
これらローラの配列方向と交差する方向で隣接する一対の前記ロ
ーラの間隔よりも狭くなっているのに対して,乙104発明にお
いては,隣接する一対のマッサージローラの間隔が,これらマッ
サージローラの配列方向と交差する方向で隣接する一対のマッサ
ージローラの間隔よりも狭いか明らかでない点。

(エ)

容易想到性
上記相違点1,3及び4についての主張は,前記⑶ウ控訴人の主張
(エ)と同旨。
次に,上記相違点2については,乙104発明に,前記ア控訴人の主張で述べた技術(乙104の請求項4の発明及び図6)を適用することで,容易に想到することができる。

(被控訴人の主張)
争う。
(ア)

本件発明2に対応する乙104発明の構成
本件発明2に対応する乙104発明の構成は,(i)弾性変形して互いに離反可能な対(2本)のアームの先端にそれぞれ連結部を介して4方に分岐して組をなし,2組が向かい合った8本の分岐部と,(j)これら8本の分岐部の先端部に回転可能に支持されたマッサージ用の8個の,ローラ本体の外周を規則的に波打ちながら1周するエンドレスに形成されたゴム板製の押圧部材を設けたローラと,を備えており,(k)8個のローラは先端側から基端側に貫通した軸孔を有し,各ローラは前記分岐部が貫通する貫通状態であり,(l)8本の前記分岐部は,乙104の図8図示方向からの側面投影において,各アームの二対が先広がり傾斜状であるとともに,90度異なる他方からの側面投影において各アームの他の組み合わせの二対が先広がり傾斜状に延びており,(m)各アームにおいて隣接する一対のローラの間隔が,これらローラの配列方向と交差する方向で隣接する一対のローラの間隔よりも狭いか否かは不明であり,(n)押圧部材を肌に押し当てて隣接する一対の前記ローラの配列方向と交差する方向である乙104の図8中の左右方向に沿って移動させると,各アームにおける先行する隣接状態の一対の前記ローラの押圧部材で肌を押圧し,後行する隣接状態の一対の前記ローラの押圧部材で肌を押圧する,(o)ローラ式マッサージ器と認定すべきである。(イ)

相違点
本件発明2と乙104発明の相違点のうち,相違点1,3ないし5
は,前記⑶ウの被控訴人の主張(イ)にみた本件発明1と乙104発明の相違点1,3ないし5と同様である。本件発明2と乙104発明の
相違点2は,次のとおりである。
ii

相違点2(控訴人主張の相違点2に対応)
本件発明2は,隣接する一対の前記ローラの間隔が,これらロ
ーラの配列方向と交差する方向で隣接する一対の前記ローラの間
隔よりも狭いのに対して,乙104発明は,各アームにおいて隣
接する一対のローラの間隔が,これらローラの配列方向と交差す
る方向で隣接する一対のローラの間隔よりも狭いか否かは不明な
点。

(ウ)

容易想到性に対する反論
上記相違点1,3ないし5についての主張は,前記⑶ウ被控訴人の
主張(ウ)と同旨。
上記相違点2につき,乙104の請求項4の発明及び図6は,グリップから二対(4本)のアームが反対方向に延びる構成であり,グリップを把持して2つ又は4つのローラをマッサージ部位に押し付けてマッサージするものである。乙104発明と乙104の請求項4の発明及び図6は,アームの対数(本数)やグリップからのアームの延びる態様,方向,ローラを使用したマッサージ方法が全く相違する。乙104の請求項4の発明及び図6に,大きさの異なるローラは配置されているとしても,その構成を乙104発明に適用する動機づけはない。

本件において乙17の1及び乙18の1を主引例として無効を主張できるか。(当審における追加主張)
(被控訴人の主張)
前記⑶エの被控訴人の主張と同旨。ただし,本件無効審判請求1は,本項において本件無効審判請求2と読み替える。
(控訴人の主張)

前記⑶エの控訴人の主張と同旨。


争点⑻(原告の損害額)について
(控訴人の主張)
被告の譲渡数量について,販売することができないとする事情(特許法102条1項)として5割の控除しか認めなかった原判決の判断には誤りがある。
すなわち,原告製品は,主に,大手通販会社,百貨店,大手家電量販店,原告によるオンラインモールにおいて販売されている(乙65,68ないし82)のに対し,被告製品は,大型ディスカウントストア,雑貨店への卸販売が中心である(甲10,乙85)。
大手通販会社,百貨店,大手家電量販店等において取り扱われている高額な商品を購入する者は,大型ディスカウントストアや雑貨店において約8分の1の価格で販売されている競合品を購入することがなく,大型ディスカウントストアや雑貨店において安価な商品を購入する者は,大手通販会社,百貨店,大手家電量販店等において約8倍の価格で販売されている競合品を購入することがない。
また,原告製品には,ソーラーパネルによって発生されたマイクロカレント(微弱電流)がローラを介して身体に通電するという,被告製品にはない効果がある。原告製品を購入する者は,マイクロカレントの美容効果を期待して,原告製品を選択するのであって,マイクロカレントによる美容効果を期待して商品選択をする者が,マイクロカレントの効果が存在しない被告製品を選択することなど通常あり得ない。
(被控訴人の主張)
被告製品の譲渡数量が3365個であることは争わない。
しかしながら,原判決の販売することができないとする事情についての判断には,次のとおり,誤りがある。

原判決の認定事実のうち,実勢の販売価格の相違,実店舗における販売流通経路,ブランド力,ソーラーパネルの有無という点は,本来,本件発明1及び2に関係するものではない。原告製品及び被告製品にソーラーパネルが付されていようがいまいが,いずれにせよ,被告製品は本件特許1及び2により販売できないものであったから,かかる点は考慮要素にならない。
被告製品は,本件特許1及び2により市場に流通できなかったものである。価格差をもって販売することができないとする事情とすることは特許法102条1項の解釈にそぐわない。価格にかかわらず,本来流通し得ないはずの被告製品が市場になければ,その需要は,原告製品に向かったものである。
また,近時の消費者が商品を購入するに際しては,実店舗での購入のほか,インターネット上でのネット販売(いわゆるEコマース)が大きな割合を占めている。実店舗の販売流通経路が相違する商品であっても,Eコマースという販売流通経路においては,原告製品と被告製品とは大きく競合している。したがって,実店舗での販売流通経路の相違を一事情として,販売することができない事情を判断した原判決の判断には誤りがある。ソーラーパネル(マイクロカレント機能)の有無という点は,本来,本件発明1及び2に関係するものではなく,原告製品及び被告製品へのソーラーパネルの有無にかかわらず,被告製品は本件特許1及び2により販売できないものであったから,かかる点は考慮要素とはならない。
原判決は,原告製品と被告製品との間にはブランド及び価格の差異があるとした上で,ブランド品に属さない被告製品を購入するような需要者は,原告製品にそもそも手を出さないという判断をしているように見える。しかしながら,本来市場に流通し得なかった被告製品がなければ,その需要者は,原告製品に向かっていた,市場機会はその分喪失されたというのが
特許法102条1項の考え方である。
したがって,本件において,販売することができないとする事情はない。
第3

当裁判所の判断
当裁判所も,被告製品は,本件発明1及び2の技術的範囲に属し,控訴人に
対する差止め及び損害賠償を認めるべきと判断する。その理由は,次のとおりである。
1
本件発明1及び2の意義
この点に関しては,原判決事実及び理由第4の1及び2(原判決35頁2行目から36頁6行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決36頁5行目のは本件発明1の分割出願であり,そを削除する。)。

2
争点⑴(被告製品は本件発明1の技術的範囲に属するか。)について⑴

原判決の引用
次のとおり補正し,後記⑵のとおり当審における当事者の主張に対する判断を付加するほかは,原判決事実及び理由の第4の3(原判決36頁7行目から40頁11行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。

原判決36頁10行目のを備えを削除する。


原判決36頁16行目の根本を根元と改める。


原判決37頁22行目から23行目にかけての本件発明1のローラに当たるを本件発明1の構成要件B,C,D,F,Gの「ローラを充足する」と改める。


原判決38頁6行目の抜け止めを防止しを抜け止めしと改め
る。


原判決38頁8行目のローリング部をローリング部材と改め

る。

原判決38頁10行目から12行目を,次のとおり改める。
すなわち,被告製品において,ローリング部材は,支持軸の先端自体には接していないものの,支持軸の先端より手前にある軸受及び円筒部材を介して,支持軸の先端部を覆う形で支持軸に回転可能に設置されていると認められる。


当審における当事者の主張に対する判断

ローラについて
控訴人は,本件発明1のローラには先端部が扁平しているローラは含まれず,先端部が扁平している被告製品は本件発明1のローラには当たらないと主張する。
しかしながら,本件発明1の特許請求の範囲,本件明細書1の記載をみても,ローラにつき,控訴人が主張するような限定解釈をすべき根拠は見当たらない。また,被告製品のローリング部の形状によっても,ユーザがこれを肌に押し当てたときに回転して肌を押圧したり摘み上げたりすることができることは,既に判示したとおりである(前記⑴で引用した原判決第4の3⑵ウ)。
したがって,控訴人の上記主張は採用できない。


支持軸の先端部に回転可能に支持されたについて
控訴人は,支持軸がローラを支え持つ構造が開示されているのは
キャップ部材が存在するものに限られるから,同部材は本件発明1における必須の構成であるなどとし,被告製品には同部材がないから,被告製品のローリング部は,本件発明Bの上記要件を充足しないと主張する。しかしながら,本件発明1の特許請求の範囲の文言上,ローラの取り付け構造は限定されていない。また,本件明細書1では,支持構成として図8から図10を開示し,【0013】等で説明を加えているが,控
訴人のいうキャップ部材で回転体を支持することを必須の構成とするような記載は存在しない。その他,控訴人が主張するように限定して解釈すべき根拠はない。
したがって,控訴人の主張は採用できない。

結論
以上によれば,被告製品が,本件発明1の技術的範囲に属するとの結論は左右されない。

3
争点⑵(被告製品は本件発明2の技術的範囲に属するか。)について本件特許1と本件特許2とは,いずれも特願2013-108438を原出願とする分割出願に係る特許である。本件明細書2の記載は,本件明細書1と同一であるから,本件発明2の構成要件J,K,M,N,Oのローラ及び構成要件Jの支持軸の先端部に回転可能に支持されたは,本件発明1に関して述べた前記2と同様に解される。
したがって,被告製品は,本件発明2の上記構成要件をいずれも充足し,同発明の構成要件のその余の部分の充足に争いはない。
よって,被告製品は,本件発明2の技術的範囲に属する。

4
争点⑶(本件訂正請求に訂正要件違反(請求の範囲の拡張・変更)があるか)について
控訴人の訂正要件違反の主張は,被控訴人による訂正の再抗弁が許されないことを根拠づけるために行われているものと解されるが,本件審決1及び2において訂正を認める判断がされ,それが確定していることは既に認定したとおりである。このように,訂正を認める審決が確定し,訂正の実体的効力が生じている以上,訂正要件違反の主張をし,訂正の効力を争おうとしてももはや意味がないものといわざるを得ない。この点に関する控訴人の主張は失当である。
なお,念のため,訂正要件違反の有無について判断してみても,要件違反
が認められないことは原判決第4の5(原判決40頁22行目から41頁1行目まで。ただし,40頁26行目いないのでの後に(甲7の1ないし3,8の1ないし3)を付加する。)に記載のとおりである。5
争点⑷(本件特許1に無効理由があるか。)について事案に鑑み,まず,乙104発明を主引例とする進歩性欠如の主張について検討する。


乙104を主引例とする進歩性欠如(当審における追加主張)

当事者双方の主張する相違点に争いはあるものの,少なくとも,双方が主張する相違点1については,乙104発明の構成が,4本の分岐部それぞれにローラが支持されており(合計4個のローラ),かかる分岐部が2つ組み合わされている(8本の分岐部,合計8個のローラ)というものであることにつき当事者間に争いがない。控訴人は,乙104発明の構成の中で,各4つの分岐部が連結部に連結されてアームに連なっていると主張するところ,かかる主張は,乙104発明の特許請求の範囲及び明細書の記載に照らすと,結局,4本の分岐部が,それぞれ連結部を介して,対となった2本のアームに設けられていることを意味するものと認められる。
したがって,当事者双方が主張する相違点1については,本件発明1は,4本の支持軸とこれら支持軸に支持された4個のローラを有するのに対し,乙104発明は,4本の分岐部とこれら分岐部に各々支持された4個のローラとを有し,かかる分岐部が,それぞれ連結部を介して2本のアームに設けられている点(合計8本の分岐部に合計8個のローラ)(以下相違点①という。)と認定できる。

相違点①について
控訴人は,相違点①につき,乙104の請求項4の発明及び図6に記載された事項を適用し,組み合わせられた4本の分岐部のうち,片方だ
けを用いて,4本の分岐部それぞれにローラを回転可能に支持したマッサージ器を構成することは容易であると主張する。
しかしながら,証拠(乙104)によれば,乙104発明は,グリップに弾性変形して互いに離反可能な左右一対のアームを設け,各アームに,それぞれ連結部を介して設けられた4本の分岐部で,各アーム4個,合計8個のローラを支持するものであり,その使用方法は,上記グリップを片手で持ちながら先端のローラをマッサージ部位に押し付けるというもので,この押付けは,上記一対のアームの先端のローラでマッサージ部位を間に挟み,この状態でマッサージ器を進退させてローラを転がす方法で行ってもよいとされる。(【0013】【0014】【0042】【図8】【図9】)
そして,乙104の特許請求の範囲や明細書の記載においては,控訴人が主張する乙104の請求項4の発明及び図6を含め,上記アームについて,対で用いることのみが開示されており(乙104の請求項4の発明及び図6は,一対のアームを2組,合計4本のアームを用いるものである。),アームの片方だけを用いることは何らの示唆もされていない。
そうすると,上記の乙104発明の構造,使用態様に照らし,乙104発明において,左右一対のアームを,片方だけにすることは想定し難く,これに,控訴人が主張する乙104の請求項4の発明及び図6の構成を併せ考慮しても,4本の分岐部それぞれに4個のローラを支持したマッサージ器を構成する動機づけはないというべきである。
したがって,当業者が,乙104発明において,本件発明1のローラの支持構造及び個数の相違点に係る構成とすることを容易に想到することができたとはいえない。

結論

以上により,その余の相違点につき判断するまでもなく,本件発明1は,乙104発明に基づいて容易に発明することができたものとは認められない。
よって,乙104発明を主引例とする進歩性欠如の無効の抗弁は認められない。


本件において乙17の1及び乙18の1を主引例として無効を主張できるか。(当審における追加主張)

特許法167条が同一当事者間における同一の事実及び同一の証拠に基づく再度の無効審判請求を許さないものとした趣旨は,同一の当事者間では紛争の一回的解決を実現させる点にあるものと解されるところ,その趣旨は,無効審判請求手続の内部においてのみ適用されるものではない。そうすると,侵害訴訟の被告が無効審判請求を行い,審決取消訴訟を提起せずに無効不成立の審決を確定させた場合には,同一当事者間の侵害訴訟において同一の事実及び同一の証拠に基づく無効理由を同法104条の3第1項による特許無効の抗弁として主張することは,特段の事情がない限り,訴訟上の信義則に反するものであり,民事訴訟法2条の趣旨に照らし許されないものと解すべきである。
控訴人は,無効審判手続と特許権侵害訴訟における特許権者が置かれている立場の質的相違等から,特許法167条の趣旨は,侵害訴訟に適用されないと主張するが,上記説示したところに照らし採用できない。また,控訴人は,第三者の無効審判請求により特許権が無効とされるべき場合にまで侵害訴訟において無効の抗弁を主張できないのは不当であるという趣旨の主張もしているが,控訴人自身は,無効審判手続において無効主張をする機会を十分に与えられ,かつ無効不成立審判に対して審決取消訴訟を提起する機会も与えられていたのであるから,審決取消訴訟を提起せずに無効不成立審決を確定させた結果,もはや当該審判手
続において主張していた特許の無効事由を主張できないこととなったとしても,その結果を不当ということはできない。

認定事実
(ア)

本件無効審判請求1において,控訴人は,本件発明1は,①乙1
7の1に記載された発明(乙17発明)に,乙18の1に記載された発明(乙18発明),乙19又は23,42ないし45,33,34に記載された技術事項及び従来周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明することができたものである,②乙18発明に,乙17発明,乙19又は23,42ないし45,33,34に記載された技術事項及び従来周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明することができたものである,とそれぞれ主張した。(甲14)(本件審決1における甲1,2,3,7ないし13は,順に本件訴訟における乙17,18,19,23,42ないし45,33,34に対応する。)このほか,控訴人は,乙20ないし22も証拠として提出していた。(イ)

しかしながら,本件審決1は,主引例である乙17の1及び乙1

8の1には,ローラの直交2方向への移動(及び移動に伴う肌の摘み上げと押圧)という技術思想が存在せず,また,控訴人が提出した各種証拠から認められる技術事項及び周知技術を考慮しても,この点を容易に想到することができるとはいえないとして,上記無効理由のいずれも認めず,本件発明1は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものとはいえないと判断した。(甲14)

乙17の1又は乙18の1を主引例とする進歩性欠如の無効主張の可否
本件訴訟において,控訴人は,乙17の1,乙18の1をそれぞれ主引例とした上,これに,乙17発明(乙18の1を主引例とする場合)又は乙18発明(乙17の1を主引例とする場合),及び乙19ないし
23,33ないし35,42ないし45,101及び104に記載の副引例又は周知技術を併せれば,本件発明1は容易想到であると主張している。
しかしながら,乙17の1及び乙18の1は,本件審判請求1においても主引例とされていたもの,乙19,23,33,34及び42ないし45は,副引例又は周知技術を認定する証拠として提出されていたものであり,乙20ないし22も,明示的には主張されていないものの,周知技術を認定する証拠等として提出されていたものと認められるから,結局,本件審決1と本件訴訟における控訴人の主張立証との間では,主引例は全く共通である上,副引例又は周知技術,証拠もほとんど共通し,両者で共通していないのは,副引例ないし周知技術の証拠である乙35,101及び104のみである(しかも,乙101は,乙35から分割出願された発明であるから,両者は極めて類似している。)ことになる。そして,乙35,101及び104は,いずれも4個のローラの直交2方向への移動ということはおよそ想定していないものであるから,本件審決1が認定した本件発明1と乙17発明及び乙18発明との相違点を埋めるものであるとはおよそいい難いものである。
このように,本件訴訟独自の証拠である乙35,101及び104は価値の乏しいものであるから,結局,本件訴訟における控訴人の主張は,本件審判1と実質的に同一の事実及び同一の証拠(特許法167条)に基づくものと評価されるべきものである。
そして,本件審決1は,控訴人による審決取消訴訟が提起されることなく確定している上,本件において,前記アの特段の事情も窺われない。したがって,本件訴訟において,控訴人が,乙17の1又は乙18の1を主引例とする進歩性欠如の無効を主張することは,信義則に反し,許されないといわざるを得ない。



結論
よって,控訴人の乙17の1又は乙18の1を主引例とする無効の抗弁の主張はいずれも許されず,乙104発明を主引例とする無効の抗弁には理由がない。

6
争点⑸(本件特許2に無効理由があるか。)
事案に鑑み,まず,乙104発明を主引例とする進歩性欠如の主張について検討する。


乙104を主引例とする進歩性欠如(当審における追加主張)
当事者双方の主張する相違点に争いはあるものの,前記5⑴アと同様,少なくとも,本件発明2と乙104発明とにつき,前記5⑴アにみた相違点①に相当する相違点が存在することが認められる。したがって,前記5⑴イで本件発明1につき判示したところと同様,当業者が,乙104発明において,本件発明2のローラの支持構造及び個数の相違点に係る構成とすることを容易に想到することができたとはいえない。
以上により,その余の相違点につき判断するまでもなく,本件発明2は,乙104発明に基づいて容易に発明することができたものとは認められないから,乙104発明を主引例とする進歩性欠如の無効の抗弁は認められない。



本件において乙17の1及び乙18の1を主引例として無効を主張できるか。(当審における追加主張)

認定事実
(ア)

本件無効審判請求2において,控訴人は,本件発明2は,①乙1
7発明に,乙18発明,乙19又は乙23,42ないし45,33,34に記載された技術事項及び従来周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明することができたものである,②乙18発明に,乙1
7発明,乙19又は23,42ないし45,33,34に記載された技術事項及び従来周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明することができたものである,とそれぞれ主張した。(甲15)(本件審決2における甲1,2,3,7ないし13は,それぞれ,乙17,18,19,23,42ないし45,33,34に対応する。)
このほか,控訴人は,乙20ないし22も証拠として提出していた。(イ)

しかしながら,本件審決2は,主引例である乙17の1及び乙1

8の1には,ローラの直交2方向への移動(及び移動に伴う肌の摘み上げと押圧)という技術思想が存在せず,また,控訴人が提出した各種証拠から認められる技術事項及び周知技術を考慮しても,この点を容易に想到することができるとはいえないとして,上記無効理由のいずれも認めず,本件発明2は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものとはいえないと判断した。(甲15)

乙17の1又は乙18の1を主引例とする進歩性欠如の無効主張の可否
本件訴訟において,控訴人は,乙17の1,乙18の1をそれぞれ主引例とした上,これに,乙17発明(乙18の1を主引例とする場合)又は乙18発明(乙17の1を主引例とする場合),及び乙19ないし23,33ないし35,42ないし45,101及び104に記載の副引例又は周知技術を併せれば,本件発明2は容易想到であると主張しており,無効事由の根拠となる主引例,副引例及び公知技術(その根拠となる証拠)は,本件発明1の場合と同様である。
そうすると,前記5⑵ウで判示したのと同様の理由により,控訴人が,乙17の1又は乙18の1を主引例とする進歩性欠如の無効を主張することは信義則に反し許されないものというべきこととなる。



結論

よって,控訴人の乙17の1又は乙18の1を主引例とする無効の抗弁の主張はいずれも許されず,乙104発明を主引例とする無効の抗弁には理由がない。
7
争点⑹(権利不行使の抗弁が成立するか。)及び争点⑺(過失の推定)について
これらの点の判断は,原判決事実及び理由第4の9及び10(原判決51頁4行目から52頁14行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決51頁12行目末尾に(甲12)を付加する。)。

8
争点⑻(原告の損害額)について


被告製品の譲渡数量及び原告製品の単位数量当たりの利益額
控訴人は,特許法102条1項による損害額を主張するので,被告製品の譲渡数量及び原告製品の単位数量当たりの利益額について検討する。ア
被告製品の譲渡数量
まず,本件特許1及び2の設定登録日(平成27年8月14日)から平成28年7月末までの間の被告製品の卸売販売数が合計3365個であることについては争いがない(なお,被控訴人は,当審において,平成27年8月以降の被告直営店又は被告ウェブサイトでの小売販売に係る被告製品の販売数量に関する主張を撤回した。)。
したがって,本件において損害賠償の対象となる被告製品の譲渡数量は3365個である。


原告製品の単位数量当たりの利益額
次に,原告製品の単位数量当たりの利益額については,原判決53頁24行目2万1467個を2万1267個と改め,原判決54
頁3行目00137を0.0137と改め,同頁5行目末尾に
(甲24)を付加し,同頁9行目●●●●●●●●●●●●円

を●●●●●●●●●●●●円と改めるほか,原判決事実及び理由の第4の11⑵(原判決53頁21行目から54頁25行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。
したがって,原告製品の単位数量当たりの利益額は,●●●●円と認められる。


販売することができないとする事情(特許法102条1項ただし書)控訴人は,上記の譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を被控訴人が販売することができないとする事情があると主張するので,この点について検討する。

この点,特許法102条1項ただし書の規定する上記販売することができないとする事情は,侵害者が主張立証責任を負うものであり,侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると解される。例えば,①特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること(市場の非同一性),②市場における競合品の存在,③侵害者の営業努力(ブランド力,宣伝広告),④侵害品の性能(機能,デザイン等特許発明以外の特徴)などの事情を上記事情として考慮することができるものと解される。


控訴人は,原告製品と被告製品との流通形態及び価格等の相違,原告製品における付加機能の存在などを主張する。
原告製品は,いわゆるブランド品に位置付けられるものであって,主に,直営店,百貨店,認定美容室,認定エステティックサロン,大手家電量販店,大手オンラインモール(被控訴人が出店するものも含む。)等において,いずれも,3万5400円(税込)から3万5640円(税込)で販売されていたものである(甲16,18の1,乙63ないし65,67ないし84,96ないし98)。他方,被告製品は,ブランド品ではなく,総合ディスカウントストアや雑貨店への卸売販売を中
心として,3980円(税抜)から4800円(税込みか否かは不明である。)で販売されていたものである(甲10,乙85,95)。なお,控訴人の公式サイト等(甲5,6)には,被告製品につき2万1000円(税抜)との記載があるが,実際にかかる価格で販売されていたことを裏付ける証拠はない。
また,原告製品には,ハンドルにソーラーパネルが設けられており,同パネルが微弱電流(マイクロカレント)を発生するとされている上,原告製品の販売に当たって,かかる機能は原告製品の特長として強調されている(甲16,乙64,65,67,68,79ないし82,96)。他方,被告製品には,このような機能はない(甲6)。

もっとも,大手オンラインモールの被告製品紹介ページを表示すると,この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしていますとして原告製品の案内も表示されており(甲18の1),原告製品と被告製品とが,競合商品ないし関連商品として認識されていたこともうかがわれる。
両者の製品に対する一般の評価等をみると,原告製品が属するリファシリーズと,被告製品が属するゲルマミラーボールシリーズとを比較するインターネット上のウェブページが存在し,その冒頭では形が似ているのに価格には大きな差がありネットでも話題になっているのをご存知ですか?と記載された上で,本文が続いている。同ページには,購入者の口コミも紹介されており,そこでは,例えば,ゲルマミラーボールについて,

リファカラットを買おうと思っていましたが,韓国コスメショップでゲルマミラーボールを見つけました。(略)リファよりかなり安いのが嬉しいです!

リファが欲しかったのですが高すぎるので,安いゲルマミラーボールを買いました。(略)

,リファについて,

とにかく値段が高いので,4か月ほどじっくり悩んでから購入しました。(略)類似商品もありますが,マイクロカレント機能だとか防水機能だとか保証だとかを考えると,やっぱりリファがおすすめです。

高額だなーと思っていましたが,口コミに惹かれて小顔目的で買いました。(略)

お高めですが,『高い美容ローラーをせっかく買ったんだから使わなきゃ!』という気持ちから面倒くさがりの私でもケアを続けられています。(略)

などと評価されている。(甲18の2)
他にも,インターネット上には,上記リファのローラが欲しかったが,値段が高く手が出せずにいたところ,ゲルマミラーボールというローラを発見し,使用感がリファとあまりかわらず値段が安いことから購入を決意したなどと記載した購入者の書き込みが存在する。(甲18の3)また,マイクロカレントについて,これが美肌効果を有していることなどについて解説をするインターネット上の記事や口コミが複数存在する(乙66,83,86ないし94)。他方,原告製品の購入者の口コミの中には,マイクロカレントに全く言及していないものも複数存在し(乙80),マイクロカレントに言及する口コミ等であっても,4個のローラ,角度を変えられるハンドル,スパイラルニーディングと呼ばれるローラの動作,防水性能についても併せて言及しているものも複数存在する(乙89ないし92)。

原告製品は,本件発明1及び2の実施品であって(甲16,17),被告製品は,本件発明1及び2の技術的範囲に属するものであり,いずれも4個のローラで構成されたマッサージ用の美容器である。4個のローラで構成されたマッサージ用の美容器の需要者を想定すると,両者が市場において競合することは明らかである。このことは,前記ウ冒頭の関連商品に関する記載等からも裏付けられる。したがって,被告製品の販売がなければ,その需要が,原告製品に向かったであろうと考えるこ
とができる。
しかしながら,前記イにみた各事情に照らすと,被告製品の販売がない場合に,その需要の全てが,原告製品に向かうものではないと認められる。すなわち,上記の原告製品と被告製品との価格の相違,流通形態の相違,機能の相違に照らすと,上記に見た4個のローラで構成されたマッサージ用の美容器の需要者について,更に,被告製品に近い価格帯の美容器のみを欲する需要者,百貨店や大型家電量販店を主に利用する需要者,逆に主としてディスカウントストアを利用する需要者,マイクロカレントを含む付加機能を備えたブランド品である原告製品のみを欲する需要者といった者らの需要に応じた各市場も想定することができ,原告製品と被告製品との市場が完全に重なり合うものではないことが認められる。
そして,需要者の購買行動における価格の重要性を考慮すると,原告製品と被告製品との価格差がおよそ7倍から8倍程度と大きいことは,原告製品と被告製品との市場の重なりの程度を検討するにあたっても重視せざるをえない。
このように原告製品と被告製品との市場が競合しつつも完全に重なりあうものではないことについては,前記ウにみた各事実の存在からも裏付けられているといえるのであって,これに反する被控訴人の主張を採用することはできない。もっとも,前記ウにおいて認定した消費者の評価等からすると,原告製品の美容効果等を高く評価し,仮に低額の被告製品が存在しなかったのであれば,高い代金を支払ってでも原告製品を購入したであろうと考えられる消費者層も存在したであろうことは十分にうかがわれるところであり,上記のような事情を考慮したとしても,両者の市場が完全に分離していたということもできないのであって,両者が完全に分離していたかのように主張する控訴人の主張も採用するこ
とはできない。
以上の事情を総合考慮すると,被告製品の譲渡数量のうち5割については,被控訴人においてこれを販売することができないとする事情があったというべきである。


特許法102条1項に基づく損害額
したがって,特許法102条1項に基づく損害額は,被告製品の譲渡数量3365個から5割を控除し,原告製品の単位当たりの利益額●●●●円を乗じた●●●●●●●●●円と認められる。



弁護士費用
被控訴人は,本件訴訟の提起,追行を,弁護士に委任し,その費用を負担するものであるところ,本件に現れた一切の事情を考慮すると,前記⑶の損害額と相当因果関係のある弁護士費用は,●●●●円と認められる。
9
差止めの必要性
差止めの必要性については,原判決事実及び理由第4の12(原判決56頁15行目から22行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

10

結論
以上によれば,被控訴人の本件特許1及び2に係る特許権に基づく請求の
うち,特許法100条1項に基づき,被告製品の製造,使用,譲渡等の差止めを求める請求,及び,民法709条に基づき,損害賠償金●●●●●●●●●円及びうち①●●●●●●●●円に対する訴状送達日の翌日(平成28年5月15日)から,うち②●●●●●●●円に対する最終の不法行為日(被告製品の販売終了日である平成28年7月31日)から,うち③●●●●●●●●円に対する訴えの変更申立書送達日の翌日(平成29年10月17日)から,それぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し(なお,①の金額は,特許法102条1項に
基づく損害額●●●●●●●●●円のうち,平成28年5月15日までに販売された被告製品に係る分を日割計算によって算出したもの,②の金額は,原審における当初の請求額920万円と①の金額の差額(これについては,遅延損害金の起算日が平成28年7月31日となる点で一部認容となる。),③の金額は,原審における請求拡張分のうち,認容された金額である。),その余の請求はいずれも理由がないとして棄却した原判決は相当である。したがって,控訴人による本件控訴及び被控訴人による附帯控訴は理由がないから,いずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官
鶴岡高稔橋彦
裁判官

裁判官
菅洋輝
別紙

乙104の図6,図8及び図9

【図6】

【図8】

【図9】

以上

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