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在外日本人国民審査権確認等請求事件
事件番号平成30(行ウ)143
事件名在外日本人国民審査権確認等請求事件
裁判年月日令和元年5月28日
法廷名東京地方裁判所
裁判日:西暦2019-05-28
情報公開日2019-07-09 18:00:12
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令和元年5月28日判決言渡

同日原本領収

平成30年(行ウ)第143号

在外日本人国民審査権確認等請求事件(第1事件)

平成30年(ワ)第11936号
口頭弁論終結日

裁判所書記官

国家賠償請求事件(第2事件)

平成31年2月5日
判1決主文
第1事件原告らの各訴えのうち,地位確認請求に係る各訴え及び違法確認請求に係る各訴えをいずれも却下する。

2
被告は,第1事件原告ら及び第2事件原告に対し,各金5000円及びこれに対する平成29年10月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払え。
3
第1事件原告ら及び第2事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4
訴訟費用は,第1事件原告らに生じた費用の100分の99及び被告に生じた費用の100分の97を第1事件原告らの負担とし,第2事件原告に生じた費用の2分の1及び被告に生じた費用の100分の1を第2事件原告の負担と
し,その余の費用を被告の負担とする。
事実及び理由
第1

請求

1
第1事件


(主位的請求)
日本国外に住所を有する第1事件原告らが,次回の最高裁判所の裁判官の任命に関する国民の審査において,審査権を行使することができる地位にあることを確認する。
(予備的請求)

被告が,第1事件原告らに対し,日本国外に住所を有することをもって,次回の最高裁判所の裁判官の任命に関する国民の審査における審査権の行使をさせないことは違法であることを確認する。


被告は,第1事件原告らに対し,各金1万円及びこれに対する平成29年10月22日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2
第2事件
被告は,第2事件原告に対し,金1万円及びこれに対する平成29年10月
22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2

事案の概要
本件は,⑴日本国外に住所を有する日本国民(以下在外国民という。)である第1事件原告らが,①主位的に,憲法15条1項,79条2項及び3項等により最高裁判所の裁判官の任命に関する国民の審査(以下国民審査と
いう。)における審査権が保障され,最高裁判所裁判官国民審査法(以下国民審査法という。)4条によりその行使が認められているにもかかわらず,被告がその行使の機会を与えなかったとして,第1事件原告らが次回の国民審査において審査権を行使することができる地位にあることの確認を求め,②予備的に,
被告が第1事件原告らに対し,
日本国外に住所を有することをもって,

次回の国民審査において審査権の行使をさせないことが違法であることの確認を求め,また,⑵第1事件原告ら及び第2事件原告(以下原告らという。)が,平成29年10月22日執行の国民審査(以下前回国民審査という。)について,中央選挙管理会が在外国民であった原告らに投票用紙を交付せず,又は原告らが現実に審査権を行使するための立法を国会がしなかった結果,審
査権を行使することができず,精神的苦痛を受けたとして,国家賠償法1条1項に基づき,各金1万円の損害賠償及びこれに対する同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。(以下,上記⑴①の請求に係る訴えを本件地位確認の訴えといい,上記⑴②の請求に係る訴えを本件違法確認の訴えという。)
1
関係法令の定め
関係法令の定めは,
別紙2
関係法令の定め
に記載のとおりである
(なお,
同別紙中で定義した略称等は,
以下の本文においても同様に用いるものとする。。

2
前提事実(証拠等を掲げていない事実は当事者間に争いがない。)⑴

第1事件原告X1は,肩書住所地に居住する在外国民であり,平成12年9月2日,同住所地に住所を有する在外国民として,栃木県足利市の在外選
挙人名簿に登録された(甲1)。


第1事件原告X2は,肩書住所地に居住する在外国民であり,平成28年5月25日,同住所地に住所を有する在外国民として,東京都新宿区の在外選挙人名簿に登録された(甲2)。



第1事件原告X3は,肩書住所地に居住する在外国民であり,平成22年6月2日,ブラジル連邦共和国内に住所を有する在外国民として,埼玉県川口市の在外選挙人名簿に登録された(甲3)。



第1事件原告X4は,肩書住所地に居住する在外国民であり,平成28年8月19日,同住所地に居住する在外国民として,名古屋市港区の在外選挙人名簿に登録された(甲4)。



第2事件原告X5は,平成28年3月2日,アメリカ合衆国内に居住する在外国民として,
横浜市神奈川区の在外選挙人名簿に登録された。
同原告は,
現在,日本国内の肩書住所地に居住している(以上につき,甲5,弁論の全趣旨)。



原告らは,いずれも平成29年10月22日執行の衆議院議員総選挙の投票をすることはできたが,同日執行の前回国民審査については,投票用紙が交付されず,投票をすることはできなかった。

3
争点


本件地位確認の訴えが適法か否か



本件違法確認の訴えが適法か否か



在外国民に対する国民審査における審査権(以下国民審査権ということがある。)の行使制限が違憲,違法であるか否か

4
原告らの国家賠償請求の成否
争点に関する当事者の主張


本件地位確認の訴えが適法か否か(争点⑴)
(第1事件原告らの主張)

在外国民は国民審査権を行使することができる地位にあること
国民審査権は,憲法15条1項,79条2項及び3項等によって国民に保障された権利であり,国民審査について,

審査に関する事項は,法律でこれを定める。

とした憲法79条4項の規定を受けて,国民審
査法4条は,

衆議院議員の選挙権を有する者は,審査権を有する。

と規定し,衆議院議員の選挙権を有する者,すなわち満18歳以上の全ての日本国民に国民審査権を行使させることを確認しており,在外国民であっても,満18歳以上であれば,国民審査権を行使することができる地位にある。

国民審査法8条は,

審査には,公職選挙法(昭和25年法律第100号)に規定する選挙人名簿で衆議院議員総選挙について用いられるものを用いる。

と規定するが,この規定を在外国民の国民審査権の行使を制限するものと解することはできない。
国民審査法8条は,国民審査権の行使の手続を定める規定であり,在
外国民の権利行使の機会を奪うものではない。国民審査権は,憲法によって国民に保障され,国民審査法4条がその権利行使の主体を規定して具体的な権利として付与したものであり,同法のその他の規定はこの権利を行使するための手続を定めるものであって,
権利自体を剥奪したり,
その行使の機会を一切奪ったりするような規定を置くことは原則として
許されない。仮にそのような規定を定めることが許容されるとすれば,そのような制限をすることなしには審査の公正を確保しつつ審査権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合でなければならない。しかるところ,在外国民の権利行使を制限する理由はなく,同法8条が在外国民の権利行使を制限するものであると解することは憲法に反し,許されない。
国民審査法4条が,衆議院議員の選挙権を有する者は審査権を有すると定め,同法8条が,審査には衆議院議員総選挙について用いられる選挙人名簿を用いる旨規定することからすれば,国民審査法は,少なくともその制定当時,衆議院議員総選挙における選挙権の行使の主体と国民審査における審査権の行使の主体とを同一のものとして定めていたこと
は明らかである。これは,憲法15条1項が公務員の任命と罷免とを並列に定めて国民固有の権利であるとしているのと整合するものであり,憲法も,衆議院議員の選挙権を有する者は当然に国民審査権を行使することができると考えていたのであって,国民審査法8条はこのことを具体化したものにすぎない。

平成10年法律第47号による公職選挙法の改正によって,それまでの選挙人名簿に加えて,在外選挙人名簿が整備されるに至ったところ,これ以降の国民審査法8条の規定についても,憲法の趣旨等を十分に踏まえた上で,条文を丁寧に解釈すべきである。憲法は選挙権と同等のものとして国民審査権を保障し,国民審査法もその趣旨に沿って両者に差
を設けないという理念に基づいて設計されており,憲法の趣旨に沿った国民審査の実施の在り方という観点から解釈すれば,国民審査法8条の選挙人名簿とは,衆議院議員総選挙に用いる名簿,すなわち公
職選挙法上の選挙人名簿(同法19条)及び在外選挙人名簿(同法30条の2)の双方を指すと解すべきである。既に在外国民に国政選挙にお
ける選挙権の行使を認める制度(以下在外選挙制度という。)が実施されていること,立法者が在外国民に国民審査権の行使を認める制度(以下在外審査制度という。)を導入しない理由を技術上の問題にすぎないと説明していることからすれば,その技術上の問題がなくなった今日では,このような解釈が立法者意思に反するとみる理由はない。したがって,在外選挙人名簿に登録されている在外国民の国民審査権の行使が否定されることはない。


法律上の争訟性について
本件地位確認の訴えは,
実質的当事者訴訟
(行政事件訴訟法4条後段)
のうちの公法上の法律関係に関する確認の訴えである。国民審査権を行使することができる第1事件原告らの地位は国民審査法4条に基づく法
的地位であり,立法を待たずにその存否を確定することができる法律関係である。また,紛争の対象は,次回の国民審査における法的地位である。第1事件原告らが特定の国民審査においてその権利を行使し得る地位にあるか否かという具体的な権利の存否に関する現実の紛争であるから,
観念的で抽象的な争いではなく,
政治的,
経済的問題や技術,
学術,

宗教上の争いでもない。前提問題として裁判所の判断に適さない問題についての争いがあるわけでもない。国民審査権を有するのであれば,当然の帰結として,国民審査権を行使することができる地位にあることも認められなければならず,本件地位確認の訴えは,憲法及び国民審査法の解釈論によって解決されるべき問題であり,第1事件原告らが国民審
査権を有することを裁判所が審査することができるのは当然である。本件地位確認の訴えは裁判所法3条1項の法律上の争訟に当たる。
被告は,名簿等の手続規定が整備されていないから,本件地位確認の訴えは法律上の争訟には当たらない旨主張する。
しかしながら,本件地位確認の訴えは,確認の訴えであり,あくまで
第1事件原告らと被告との間の法律関係を確定しようとするものであって,被告は,ここで確定した法律関係を前提に法制度を整備し,執行する義務を負うことになるにすぎない。一定の法律関係の確認がされた後で,具体的にどのような制度を整備するかは被告の裁量に委ねられており,第1事件原告らの請求が認容されても,被告の立法裁量が害されることはない。実施方法の細目について定まっていないとしても,国会や行政庁において定めればよく,第1事件原告らの法的地位それ自体が存
在することの妨げにはなり得ず,給付の訴えとは異なり,実施手続の細目が定まっていないとしても法律関係それ自体の確認をすることは当然に許される。
本件地位確認の訴えに係る請求が認容されることによって,
被告は第1事件原告らを排除した国民審査制度を存続させて執行することは許されなくなるが,被告には違憲の法制度を維持する裁量はないか
ら,このことは被告の立法裁量を害するものではない。

確認の利益について
国民審査権は,それを行使することができなければ意味がない。国家賠償請求訴訟により慰謝料を得たところで権利行使の実質を回復することは
できず,このままでは次回の国民審査においても同様の権利侵害が続くことは確実である。本件地位確認の訴えに係る請求が認容されると,被告には,第1事件原告らの参加を許さない国民審査制度を存続させ,執行する裁量がないことが確定し,被告は国民審査制度を拡充する義務を負うことになるところ,これによって,在外国民の国民審査権の制限が憲法と国民
審査法に違反するのではないかという本件の本質的な紛争は抜本的に解決することになる。また,第1事件原告らは,国民審査権一般の確認を求めているのではなく,次回の国民審査時に国外に住所を有する場合に限って国民審査権を行使することができることの確認を特に求めているものであり,確認の対象は適切に選択されている。さらに,第1事件原告らは,前
回国民審査においてその権利を行使することができなかった。このままでは,遅くとも令和3年10月までに執行される国民審査において第1事件原告らが投票することができないことは確実であり,即時確定の利益がある。
したがって,本件地位確認の訴えについては,確認の利益がある。(被告の主張)

在外国民は国民審査権を行使することができる地位を有しないこと憲法は,国民審査の内容につき,79条3項において

投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは,その裁判官は,罷免される。

とのみ規定し,同条4項において

審査に関する事項は,法律でこれを定める。

と規定しており,国民審査の制度を具体的にどのような内容の制度とする
かの決定を広く立法政策に委ねている。そして,国民審査法は,審査は全都道府県の区域を通じて行うとし(3条),審査には公職選挙法に規定する選挙人名簿で衆議院議員総選挙について用いられるものを用いるものとし
(8条)罷免を可とする投票の数が過半数を占める場合であっても,,
投票の総数が公職選挙法22条1項又は3項の規定による選挙人名簿に
登録されている者の総数の100分の1に達しないときは,その効力を生じないとする(32条)等の規定を置く一方,公職選挙法の在外選挙人名簿に相当する選挙人名簿に係る規定を設けていないことを総合すれば,国民審査法は,我が国の領域主権の及ばない国外における審査を予定していないものというほかなく,在外国民は,国民審査権を行使することがで
きる地位を有しない。
第1事件原告らは国民審査法4条に基づく権利を主張するものの,同条は衆議院議員の選挙権を有する者が審査権を有する旨定めるものであり,審査人の資格を定めるものにすぎず,同法が別に審査人の名簿や投票の方式等について規定を設けていることからしても,同条を根拠に審査権を行
使できる地位,すなわち国民審査において投票することができる地位があるとはいえない。また,第1事件原告らは,同法8条にいう選挙人名簿は,衆議院議員総選挙に用いる名簿を意味し,これに在外選挙人名簿が含まれる旨主張するものの,公職選挙法が選挙人名簿と在外選挙人名簿とを区別して規定していることは明らかであるから,法律の文言に反する解釈であって誤りである。仮に,国民審査法8条の選挙人名簿に公職選挙法の在外選挙人名簿が含まれると解したとしても,
在外審査制度について詳細な規定が設けられていない以上,この解釈のみをもって直ちに在外国民が国民審査において投票することができることにはならない。

法律上の争訟性について
上記のとおり,憲法は,国民審査の具体的な制度の在り方の定めを広く国会の立法政策に委ねており,これを受けた国民審査法は,我が国の領域主権の及ばない国外における審査を予定せず,在外選挙人名簿に関する規定も設けていない。したがって,第1事件原告らが本件地位確認の訴えにおいて確認を求める地位は,新たな立法によって,我が国
の領域主権の及ばない国外においても国民審査権の行使を可能とする制度が採用されない限りはおよそ存在し得ないものであり,本件地位確認の訴えに係る紛争は,当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争とはいえないし,法令の適用により終局的に解決できるものでもない。そして,本件地位確認の訴えは,法律上の地位の確認と
いう形式によっているが,その実体は,国会によって立法措置が講じられておらず,
自己の主張に沿う制度が実現されていないにもかかわらず,
国会の立法行為をいわば先取りして,裁判所に対して,新たな制度の創設を求めるに等しいものである。そのような新たな制度の創設は,立法作用に属する事項であって,
司法審査に適しない事情があるともいえる。

第1事件原告らは,国民審査権自体に,その行使をすることができる地位が含まれているとした上で,国民審査法4条に基づく法的地位の確認を求める本件地位確認の訴えは,憲法及び国民審査法の解釈論によって解決されるべき問題であり,国民審査権を有することを裁判所が審査することができるのは当然である旨主張する。
しかしながら,憲法は,国民審査制度を具体的にどのような制度とするかの決定を広く立法政策に委ねているのであるから,法律による制度
の具体化を待った上で権利行使が可能になるものと解されるのであり,国民審査制度があるからといって,あらゆる場合に審査権を行使することができる地位があるということにはならない。また,国民審査法4条は,衆議院議員の選挙権を有する者が審査権を有するとして,審査人の資格を定めるものにすぎず,同法が別に審査人の名簿や投票の方式等に
ついて規定を設けていることからしても,同条を根拠に国民審査において投票することができる地位の確認を求めることはできない。さらに,同法は,国外における審査を予定せず,公職選挙法の在外選挙人名簿に相当するような規定も設けていないのであるから,国民審査法の解釈によっても存在しない地位の確認を求めることはできない。

したがって,本件地位確認の訴えは,裁判所法3条1項の法律上の争訟に当たらないことが明らかであり,不適法というべきである。

確認の利益について
第1事件原告らが確認を求めている次回の国民審査において審査権を行使することができる地位は,仮に国民審査法8条が違憲無効であったとしても,新たな立法措置がない限り存在し得ない地位である。第1事件原告らは,本件地位確認の訴えの認容により,被告が国民審査制度を拡充する義務を負うと主張するが,正に,具体的立法がない以上,国民審査において投票することはできないことを自認するものであり,結局,第1事
件原告らが求めているのは,法律により具体化される以前の抽象的な権利の確認にすぎない。また,第1事件原告らは,同法4条に基づく法律関係の確認を求める旨主張するものの,上記イのとおり,これは審査人の資格の有無についての法律関係にほかならず,同条を根拠に国民審査において投票することができる地位の確認を求めることはできない。
したがって,第1事件原告らが主張している,在外国民の国民審査権に関する法的紛争の解決にとって,本件地位確認の訴えを提起することが有
効・適切とはいえないし,このような訴訟物が確認の対象として有効・適切ともいえないから,確認の利益がないことは明らかである。


本件違法確認の訴えが適法か否か(争点⑵)
(第1事件原告らの主張)

法令の規定を新たに定めなければ原告の主張する法的地位が実現されない場合や,立法機関が原告の法的地位を認めるか否か,あるいは認める程度・態様について裁量を残している場合には,原告の法的地位を侵害する点で法令の規定が違法であることについての消極的確認が認められる。仮に,本件地位確認の訴えが不適法である場合には,消極的確認としての本件違法確認
の訴えが適法とされなければならない。
本件違法確認の訴えは,第1事件原告らとの関係で,次回の国民審査において,審査権の行使をさせないことが違法であることの確認を求めるものであり,特定の個人との間の個別具体的な法律関係の確認を求めるものであって,抽象的な法令の違法・違憲確認や立法不作為の違法確認を求めるもので
はない。
本件違法確認の訴えは,
裁判所法3条1項の法律上の争訟に当たる。
(被告の主張)
本件地位確認の訴えが,新たな立法措置がない限り存在し得ない地位の確認を求めるものであり,国民審査制度に関し,第1事件原告らと被告との間において,他に確認の対象となり得る当事者間の具体的な権利義務ないし法
律関係が存在しないことからすれば,本件違法確認の訴えは,要するに,国民審査法が違法であることの確認,あるいは立法不作為の違法確認を求めるものと解されるところ,このような訴えは,当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争とはいえないから,裁判所法3条1項の法律上の争訟に当たらず,不適法というべきである。

在外国民に対する国民審査権の行使制限が違憲,違法であるか否か(争点⑶)
(原告らの主張)

公務員の選定及び罷免は国民固有の権利であり(憲法15条1項),国民は国会議員を選挙により選任し,同時に,最高裁判所の裁判官を審査により罷免するとされるところ(憲法79条2項,3項),これらは
国民主権の原理(憲法前文,1条)を具体化する規定である。憲法が最高裁判所の裁判官(以下,単に裁判官ということがある。)について特に国民審査による罷免の制度を設けたのは,役割と権限が極めて大きい最高裁判所を国民による民主的統制の下に置くこととしたものであり,国民審査は,司法制度の正当性を確保するために不可欠な仕組みで
ある。国民審査権の保障が国民主権の原理に基づくことから,選挙権に関する憲法の規定(憲法15条3項,44条ただし書)及び投票の機会の平等の要請(憲法14条1項参照)の趣旨は国民審査にも及ぶ。満18歳以上の在外国民に国民審査権を行使する機会を与えないことは,国民審査権を国民固有の権利として保障し,その行使の機会の平等
を規律する憲法14条,15条1項及び3項,44条ただし書並びに79条2項及び3項に違反する。また,海外に居住することのみを理由として権利を制限することになるから,外国に移住する自由を保障する憲法22条2項にも違反する。
さらに,満18歳以上の在外国民に国民審査権を行使する機会を与え
ないことは,満18歳以上の全ての日本国民に国民審査権の行使を認めた国民審査法4条にも違反する。
憲法15条1項は,公務員の選定及び罷免を国民固有の権利として定めている。裁判官も公務員であり,しかも違憲立法審査権等の強大な権限を持つ公務員である。こうしたことを考慮して,国民主権を定める同項を具体化し,特に裁判官に対して民主的統制を及ぼすために定められたのが,憲法79条2項の国民審査制度である。国民審査制度が解職の
制度と解されていることは,国民審査権の重要性と何ら関係がない。そして,憲法が現に国民主権の実現の一環として国民に国民審査権を保障している以上,やむを得ない事由もないのに権利を事実上はく奪することが国会の裁量に委ねられているとは解されない。在外国民の選挙権についての最高裁判所判決(最高裁平成13年(行ツ)第82号,第83
号,同年(行ヒ)第76号,第77号同17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁。以下平成17年大法廷判決という。)では,選挙権の行使の制限について,やむを得ない事由の審査基準が用いられているところ,審査権の行使を制限する場合も,選挙権の行使を制限する場合と変わらない審査基準による必要があり,やむを得ない事
由の審査基準が用いられるべきである。しかるに,在外国民について審査権の行使を制限するやむを得ない事由はないから,在外国民がこれを行使することが



被告は,国民審査の在外投票制度を設けないことは,在外投票制度に係る技術上の問題があるからであり,少なくとも国会の裁量権の行使として著しく不合理と評価できない旨主張する。
投票用紙の送付等の点について,平成28年法律第49号による国民審査法の改正(平成28年5月27日施行。以下平成28年改正という。)の前においては,被告は審査の告示以前に投票用紙を印刷する
ことは不可能としていたが,実際には,衆議院議員の任期満了又は衆議院の解散の時点で審査が必要な裁判官は判明しており,審査の告示を待つことなく投票用紙を印刷することは十分可能で,在外審査制度を実施することについての技術上の問題は存在していなかった。さらに,平成28年改正後には,衆議院議員の任期満了の日前60日に当たる日又は衆議院の解散の日のいずれか早い日以後直ちに審査に付されることが見込まれる裁判官の氏名等を選挙管理委員会に通知しなければならないこととされ,投票用紙も直ちに印刷されることとなったのであるから,被告の主張を前提としても,裁判官が確定しないことによって技術上の問題が生じるのは,任期満了の日前60日に当たる日又は衆議院の解散の日から審査の告示の日までの間に新たな裁判官が任命された例外的な場
合に限られる。
なお,被告は,上記例外的な場合が発生すると,在外国民が投票に参加した国民審査と参加しない国民審査の両方が生じる可能性があり,国民審査法はこのような制度内での不整合を許容しているとはいえない旨主張する。しかしながら,疾病や障害の程度,投票期日における用務等
によりいまだに投票することができない人もおり,公職選挙法も国民審査法も,このような不整合を前提に成り立っているところ,このような不整合をできる限り解消することは,投票の機会を増やすことによって果たされるべきである。被告の主張は,そのために,一律に在外国民から国民審査権の行使の機会を奪おうとするものであり,許されない。そ
もそも現行の国民審査法が在外審査制度を認めていないとする解釈は違憲であって,同法を憲法適合的に解釈しなければならないとする原告らの主張に対し,憲法適合的解釈を法が許容しないというのは筋違いである。
また,被告の主張する技術上の問題は,投票用紙に裁判官名を印刷し
て行う現行の方式を前提としている。
しかしながら,憲法は審査の投票についてどのような方法を用いるのかについても法律にこれを委ねているのであって(79条4項),あらかじめ裁判官名を印刷した投票用紙を用いるという現行の方式以外の方法を用いることも許容されている。例えば,国民審査においても衆議院議員の選挙と同様に,点字による投票が認められ,その際には,罷免を可とする裁判官の氏名を投票用紙に記載すべきこととされている(国民審査法16条1項)。また,ブラジル連邦共和国においては,1989年に初めて電子投票機を利用した投票が行われ,2000年以降全国で電子投票が行われている。このような方法を用いれば,投票用紙の印刷及び配布に伴う問題はなくなる。さらに,公職選挙法は,ファクシミリ
による洋上投票を認めており
(49条7項)類似の制度を導入すれば,

被告の主張する弊害は完全に回避することができる。投票用紙の印刷に厳正さを期すことが公正な審査の実施のために必要であるとしても,例えば,投票用紙に1から15までの番号をあらかじめ印刷し,審査の対象となる裁判官の氏名と番号を対応させた用紙を投票所内に掲示して,
投票用紙には各番号の欄に×の記号を記載する方式(以下分離記号式投票ということがある。)によることができる。この方法によれば,投票用紙について選挙と国民審査との相違点は全くなくなる上に,投票の方式においても国内と国外との差異はほとんどなくなる。
このように,
簡便かつ公正さを確保した在外審査制度を設けることは十分に可能であ
り,その実現は容易である。なお,第1事件原告らのうち2名は,平成29年10月22日執行の衆議院議員総選挙の際,日本国内の投票所で投票をしたにもかかわらず,国民審査の投票をすることができなかったが,国内で投票する場合には,技術上の問題は全く存在しない。
被告は,在外審査制度について,自書式投票(投票用紙に罷免を可と
する裁判官の氏名を自書する投票方法)を採用すると,投開票に時間がかかる旨主張するものの,投開票に時間がかかるからといって,公平な国民審査が実施できないということにはならない。投開票の時間を短縮するための方策を講じることは十分可能である。被告は,自書式投票によって疑問票が増えることをも開票作業の遅滞の原因として主張するものの,そもそも国政選挙は,自書式投票で行われており,多数の疑問票を生んでいる。疑問票が生じるから開票作業ができないということはあ
り得ない。また,被告は,投票用紙に番号を付すなどする投票方式について,過誤投票が増える旨主張するものの,自書式投票は多数の無効票を生んでおり,有権者の意思を正確に反映する投票方式とは言い難く,分離記号式投票は,自書式投票よりもよほど過誤投票の危険の少ない優れた投票方式である。そもそも,過誤投票があり得るからといって,在
外審査制度が公平に行われないということにはならない。さらに,自書式投票又は分離記号式投票について,被告の主張する懸念を払しょくするには,国民審査法4条の2第1項に基づき,当初通知した審査予定裁判官については,記号式投票とし,その後任命された裁判官がある場合には,その裁判官についてだけ自書式投票とする方式も考えられる。審
査の公正を害さない投票方式を用いて,在外審査制度を実施することは可能である。
以上によれば,技術上の問題があるから在外国民に国民審査権を行使させないことはやむを得ないとする被告の主張は理由がない。
(被告の主張)

在外審査制度を設けないことが憲法の諸規定に違反しないこと
国民審査は,裁判官に対する国民罷免手続又は国民解職手続であ
り,選任ではなく,リコール(国民解職)の性質を有するものである。憲法15条1項は,あらゆる公務員の終局的任免権が国民にあると
いう国民主権の原理を表明したもので,国民が全ての公務員を直接に罷免すべきであるとの意味を有するものではない。そして,国民審査についても,憲法79条2項において,最高裁判所の裁判官の任命は,その任命後初めて行われる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し,その後10年を経過した後初めて行われる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し,その後も同様とすると規定するのみであり,選挙権に関する諸規定(憲法15条3項及び4項,44条)と規定ぶりが異なっており,在外国民を含めた成年者に投票資格があることが規定されているものでもない。また,選挙については,公職選挙法において選挙運動に関する詳細な規定が設けられている一方で,国民審査は,裁判官に対する解職の制度であり,国民審査法には公職選挙法における選挙運動に関する規定と
類似の規定が設けられていないことからしても,国民審査は,選挙とは異なる性質のものであることは明らかである。
さらに,国民審査は,国民主権の観点から重要な意義を持つものではあるが,国民主権原理や議会制民主主義を採用している諸外国においても,最高裁判所や憲法裁判所の裁判官に対する国民審査制度を採用して
いる国家は少数であることからみても,議会制民主主義の根幹を成す選挙権とは位置付けが相当異なることは明らかである。
選挙制度の合憲性は,国会に与えられた裁量権の行使として合理性を有するといえるか否かによって判断され,国会がかかる選挙制度の仕組みについて具体的に定めたところが,憲法上の要請に反するため,上記
の裁量権を考慮してもなおその限界を超えており,これを是正することができない場合に,初めて憲法に違反することになるものと解すべきである。このような判断枠組みは,選挙制度と同様,憲法が法律でこれを定めるものとし(79条4項),仕組みの決定については国会に広範な裁量が認められている国民審査制度についても同様に当てはまるもので
あるところ,前記の国民審査の憲法上の位置付け,取り分け,国民審査がリコール(国民解職)の性質を有するものであり,選挙権とは相当位置付けが異なること,憲法上も,国民審査に関する規定と選挙権に関する規定の規定ぶりが異なっていることからすれば,国民審査制度の仕組みの決定においては,選挙制度の場合と比較して,更に国会に広範な裁量が認められるというべきである。
したがって,国会が国民審査制度の仕組みについて具体的に定めたと
ころが憲法上の要請に反する場合というのは,例えば思想や出自を理由に国民審査権を行使させない場合など,国会の裁量権の行使が著しく不合理と評価される場合に限られるというべきである。
a
衆議院議員及び参議院議員の選挙については,いずれも自書式投票(投票用紙に候補者の氏名や政党名を自書する投票方法)が採用され
ているのに対し,国民審査は,15名それぞれに任期の異なる裁判官を対象とし,衆議院議員総選挙の機をとらえ,記号式投票(あらかじめ候補者名等が記載された投票用紙に所定の記号を記載する投票方法)を用いて行うこととされている点で,衆議院議員及び参議院議員の選挙とは全く異なる技術上の問題がある。

b
平成28年改正の前後を問わず,国民審査においては,投票用紙に審査に付される裁判官の氏名が印刷され,罷免を可とする裁判官に×の記号を記載する投票方法が採用されているところ,このような記号式投票が採用された趣旨は,国民審査が,各候補者が氏名を宣伝して
投票を得る選挙とは異なる性質の制度であることから,審査人に審査対象の裁判官全員の氏名を知らせるとともに,なるべく簡易な方法で投票できるようにしたものであり,解職制度という国民審査制度の趣旨に合致するものである。
国民審査において記号式投票が採用されず,
自書式投票が採用された場合,衆議院議員及び参議院議員の選挙と異
なり,連記投票となることが想定される国民審査において,審査人が裁判官の氏名を自書するのは時間及び手間を要し,投票所における投票が滞ることになりかねないばかりか,記載の趣旨が不分明であるなどの疑問票が増加し,開票事務が滞ることになりかねない。
c
平成28年改正前の国民審査法の下では,中央選挙管理会は,国民審査の期日前12日までに,審査の期日及び審査に付される裁判官の
氏名を官報で告示しなければならないとされ(5条),国民審査は衆議院議員総選挙と同日に行われることから,選挙の公示日を待って裁判官の氏名等の告示を行っていた。この点,衆議院議員総選挙の期日は,少なくとも期日の12日前に公示しなければならないが(公職選挙法31条4項),実務上は,期日前12日に公示されるのが通常で
ある。そして,投票用紙の調製の時期については,平成28年改正前の国民審査法上定められていなかったものの,審査の告示の前に審査に付されることが見込まれる裁判官を通知する制度もなかったことから,投票用紙は審査に付される裁判官の告示を待って印刷していた。この点において,自書式投票を採用し,あらかじめ投票用紙の印刷及
び在外公館への送付が可能である衆議院議員及び参議院議員の選挙の場合と相違があり,以上の取扱いは合理的なものであった。
そうすると,在外国民が在外公館において国民審査に投票するためには,審査に付される裁判官の告示(期日前12日),各裁判官の氏名等の印刷,裁断及び発送準備,各地の在外公館への配布準備,東京
国際郵便局への送付,在外公館への送付,到着後の各在外公館における整理,
審査,
(審査後の)
在外公館から外務省への投票用紙の送付,
外務省から各投票所への送付の各過程を経るところ,上記の在外公館から各投票所への投票用紙の送付だけでも原則として5日から6日,地域によってはそれ以上の郵送期間を要する状況であり,一定期間の
審査期間を確保しつつ,国民審査の期日までに作業を完了して開票に間に合わせることは実際上不可能である。
そのため,平成10年法律第47号により公職選挙法が一部改正され,在外選挙制度が創設された際に,在外審査制度を認めるか否かについても政府内で検討されたが,上記のとおり主として投票用紙の調製,送付等に関する技術上の問題により十分な投票期間を確保することができないなどの理由があることなどから,在外審査制度の創設は
見送られた。平成17年大法廷判決を受け,平成18年法律第62号により公職選挙法が一部改正され,在外選挙制度の対象が衆議院小選挙区選出議員及び参議院選挙区選出議員の選挙に拡大された際も,国民審査の投票について上記の技術上の問題が解消されるものではないことから,在外審査制度は創設されなかった。

d
平成28年改正後の国民審査法においては,中央選挙管理会は,衆議院議員の任期満了の日前60日に当たる日又は衆議院の解散の日のいずれか早い日以後直ちに,同日以後初めて行われる衆議院議員総選挙の期日に審査予定裁判官の氏名等を都道府県の選挙管理委員会に通
知しなければならないとされ(4条の2第1項),当該通知の後,審査の告示までの間に裁判官が任命された場合には,
中央選挙管理会は,
直ちに,その旨及びその時における審査予定裁判官の氏名等を都道府県の選挙管理委員会に通知しなければならないものとされている(同条2項)。そして,平成28年改正後は,実務上,同条1項の通知を
待って投票用紙の印刷が行われるようになったが,同通知後,審査の告示の前までに新たに裁判官が任命された場合には,同条2項の通知を待って改めて投票用紙の印刷を行わなければならないなど,審査に付される裁判官は審査の告示の日にならないと最終的に確定しないため,投票用紙の内容も審査の告示の日にならないと最終的に確定しな
い。投票用紙の調製は,どんなに早くとも国民審査の実施が確定する衆議院解散の日から始めるしかなく,投票用紙の調製に要する期間や在外公館への投票用紙の送付に要する期間等を考慮すると,在外公館によっては,一定の審査期間を確保しつつ国民審査の期日までに作業を完了して開票に間に合わせることが実際上不可能という状況に変わりはない。そのため,平成28年改正によっても,在外審査制度に係る技術上の問題は解消されず,在外審査制度は創設されなかった。
e
以上のとおり,在外審査制度を設けないことは,平成28年改正の前後を問わず,技術上の問題という合理的な理由によるものであり,少なくともこれを国会の裁量権の行使として著しく不合理と評価することができないことは明らかである。
これに対し,原告らは次のとおり主張するが,いずれも理由がない。
a
原告らは,平成28年改正前の国民審査法の下でも,審査の告示を待つことなく投票用紙を印刷することは十分可能であり,在外審査制度の実施について技術上の問題は存在していなかった旨主張する。しかしながら,国民審査法上,衆議院議員の任期満了の日の60日前か衆議院解散の日のいずれか早い日から衆議院総選挙の公示の日の
間に新たに裁判官が任命されるという例外的事態が生じることが予定されている以上,投票用紙の送付が間に合わないという技術上の問題が解消されていないことは変わりない。にもかかわらず,在外審査制度を実施した場合,一たびこのような例外的事態が生じれば,当該国民審査については,在外国民への投票用紙の送付が間に合わず,在外
国民が投票に参加できないことになることで,在外国民が投票に参加した国民審査と投票に参加しない国民審査の両方が生じることとなり,制度内で不整合が生じる結果となるが,国民審査法がこのような不整合が生じることを許容しているとはいえない。
b
原告らは,国民審査において,現在の投票用紙を用いる方法以外の方法を用いることも許容されている旨主張する。
しかしながら,国民審査法16条1項が点字による投票を認めているのは,短期間で点字により記号式投票の投票用紙を調製するのが難しいことに加え,点字には×といった記号がないところ,記号式
投票の
審査に付される裁判官
の欄に点字で氏名が打たれた場合に,
その意思を表示すべき箇所に審査人が点字により正確に記載することが難しいという事情があるからであり,記号式投票の趣旨及び自書式投票が採用された場合の弊害からすれば,点字による投票が認められているからといって,それ以外の場合に自書式投票が許容されるということにはならない。

また,公職選挙法49条7項のいわゆる洋上投票制度は,衆議院議員の総選挙と参議院議員の通常選挙の不在者投票を対象として制度化されたものであり,現行の公職選挙法の体系の中で極めて例外的な制度である。そして,在外国民にファクシミリ装置を用いて送信する投票を認めるには,投票の確実な送受信を確保し,適正に管理執行する
観点から,それぞれ時差が異なる世界各地から送信された投票を受信する全国の市町村の選挙管理委員会において,投票の送受信の都度,送信者と連絡できるようにしておく必要があるが,こうした措置を講じることは現実には不可能と考えられる。
さらに,ブラジル連邦共和国において電子投票機を利用した投票が
行われていることや,投票用紙に1から15までの番号をあらかじめ印刷し,審査の対象となる裁判官の氏名と番号を対応させた用紙を投票所内に掲示して,投票用紙には各番号の欄に×の記号を記載するという方式も,
国民審査法が公製公給主義
(13条,
14条)
を規定し,
一人一票の原則に反した不正の投票を防止し,投票の秘密を保持し,
もって審査の公正を確保しようとする趣旨を放棄するものである。加えて,投票用紙に番号を記載するなどする方式によった場合,番号と対応する裁判官を誤って認識するなどして過誤投票が増加する可能性があり,簡明な投票方法を採用することで過誤投票を防ぐなどの記号式投票を採用した趣旨に反することになる。
c
原告らは,在外国民が日本国内の投票所で投票する場合には,技術上の問題は存在しない旨主張する。

しかしながら,
在外選挙人名簿に登録されている選挙人については,
衆議院議員又は参議院議員の選挙において,日本国内における投票が認められているところ(公職選挙法49条の2第3項,4項),これは,在外選挙制度を前提として,国外で投票できる選挙人が一時帰国した際等に国内で投票できないとすることは均衡を欠くことから設け
られたものであり,そもそも国外における投票が認められていない国民審査とは何ら関係のない事情である。
したがって,在外審査制度を設けないことは,平成28年改正の前後を問わず,憲法の諸規定に違反するものではない。

在外国民の国民審査権の行使制限が国民審査法に違反しないこと
国民審査法4条は,在外国民が国民審査において投票することを認めたものではなく,在外国民が国民審査権を行使することができないことは,同条に違反するものではない。


原告らの国家賠償請求の成否(争点⑷)
(原告らの主張)
前記⑴(第1事件原告らの主張)アのとおり,在外国民は国民審査権を行使することができる地位にあり,前記⑶(原告らの主張)のとおり,これを行使することができないことは違憲,違法であることから,被告は,原告らに対し,次のとおり,国家賠償責任を負う。


投票用紙の不交付が国家賠償法上違法であること
憲法は原告らの国民審査権を保障し,国民審査法4条はその行使を認めている。また,同法には,原告らの国民審査権の行使を制限する規定はない。にもかかわらず,前回国民審査において,中央選挙管理会は,原告らが審査権を行使できるよう,投票用紙を原告らに交付しなかった。中央選挙管理会は,国民審査権を有し,その行使を希望する全ての者が平等にその権利を行使することができるよう,原告らに投票用紙を交付する職務上
の法的義務を負っていた(同法9条,10条,14条)にもかかわらず,この法的義務に違背し,原告らが国民審査権を行使することを事実上制限した。これは国家賠償法1条1項の適用上違法である。

立法不作為が国家賠償法上違法であること
国会議員の立法不作為は,立法内容が違憲であることが明白であり,かつ,国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠った場合に,国家賠償法1条1項の適用上違法となる。
国民審査法を始めとする現行法の解釈により在外国民の国民審査権の行使が実現できないとするならば,その行使を制限してよい憲法上の理
由はないから,その行使を実現する法制度を整備しない立法不作為は,憲法14条,15条1項及び3項,22条2項,44条ただし書並びに79条2項及び3項に違反する。
また,在外選挙が繰り返し実施されてきたこと,通信手段が目覚ましい発達を遂げていること,在外国民に選挙権行使の機会を与えなかった
選挙制度について立法不作為の国家賠償を認める平成17年大法廷判決が言い渡されていることからすれば,遅くとも同判決の時点で,在外国民に国民審査権の行使を認めないことが違憲であることは,国会にとっても明白となった。平成17年大法廷判決に係る訴訟において問題とされた在外選挙制度は,平成10年の公職選挙法改正によって創設された
ものであるが,この改正に当たっての国会の議論においても,在外審査制度が同時に検討されていないことの問題性が指摘されていた。
そして,
その答弁に立った政府委員は,国民審査は衆議院議員選挙に連動するものであり,在外国民が衆議院議員選挙において選挙権の行使が認められていない以上,国民審査権の行使ができないのもやむを得ない旨の答弁をしている。さらに,日本弁護士連合会は,平成14年7月30日,内閣総理大臣,総務大臣,外務大臣,法務大臣並びに衆議院及び参議院の各議長に対し,在外国民に対して国民審査権の行使を許さないのは人権侵害に該当するという勧告をするなどしており,このような経緯からしても,国会は,在外国民に等しく国政選挙権の行使が認められていないことを違憲とした平成17年大法廷判決が出た時点において,在外国民
に対する国民審査権の制限についても違憲であることを明白に認識していた。
その後,平成22年に公布された日本国憲法の改正手続に関する法律では,憲法改正についての国民投票において在外国民の権利行使が保障されていること,平成23年には,在外国民に国民審査権の行使を認め
ない現行の国民審査制度について違憲状態と判断する地方裁判所の判決がされていること(東京地裁平成23年4月26日判決・判例時報2136号13頁。以下平成23年東京地裁判決という。)に照らせば,国会が違憲性を知りながら,長期にわたって改正を怠り続けてきたことは明らかである。仮に,国会にとって在外国民に対する国民審査権の行
使の制限が違憲であることが明白になったのが同判決の時点であったとしても,前回国民審査は,同判決により違憲状態であると指摘された国民審査の時点から既に8年以上が経過した後に行われたのであるから,やはり国会が長期にわたって改正を怠り続けてきたことは明らかである。したがって,原告らが現実に国民審査権を行使するために新たな立法
が必要であるとした場合,国会は,在外審査制度の実施に必要な諸規定を整備する法改正をする義務があったのに,
これを怠ったのであるから,
当該立法不作為は,国家賠償法1条1項の適用上違法である。

原告らの損害
原告らは,被告の違法行為により,前回国民審査において審査権を行使することができず,国の意思決定に対し民主的統制を及ぼすことのできる重要な機会を失った。国民審査は,司法に対して国民に認められた唯一の
民主的な関与方法であり,しかも,国民審査においては,全ての最高裁判所の裁判官について審査権を行使することができ,民主的統制への影響力は,自らの選挙区についてのみ投票権を行使できる選挙権に比べても大きい。さらに,国民審査は,一度その機会を逃せば,同一の裁判官について10年間は審査権を行使することができなくなる。このような重大な権利
である国民審査権を剥奪された原告らの精神的苦痛は,1人当たり金1万円を下るものではない。

被告の主張について
被告は,選挙権と国民審査権の権利の性質の相違,在外選挙制度と在外
審査制度についての議論・経緯の相違を指摘し,国会にとって,平成17年大法廷判決によっては,在外審査制度を設けないことの違憲性が明らかになったとはいえない旨主張する。
しかしながら,国民審査権も国民主権を具現化する制度であり,憲法15条1項の公務員の選任及び罷免権の一部を成す重要な制度である。平成
17年大法廷判決が選挙権そのものにしか適用されず,国民審査権には関係ないと国会が認識したというのは不合理である。
また,平成17年大法廷判決は,在外選挙制度についての法律案の提出という事実自体を重視しているというよりも,法律案が提出されたことをもって,解決が可能であったことが推認され,その事実が重要であること
を指摘しているのであるから,在外審査制度についても,いつの時点でその技術上の問題が解決可能であったかが検討されるべきである。
在外審査制度については,
平成17年大法廷判決が言い渡された直後に,
平成28年改正と同様の改正をすることによって,
前記⑶
(原告らの主張)
のとおり,少なくとも衆議院議員の任期満了の日前60日又は衆議院の解散の日のいずれか早い日から衆議院総選挙の公示までの日の間に新たに裁判官が任命されるという例外的な事態が生じた場合以外の場合におい
て,在外審査制度を実施することに何らの技術上の問題があったとはいえない。そして,このような例外的な事態は,最高裁判所の裁判官の任命の実務的な運用からは考え難いものであり,国民審査の歴史の中で生じたことは一度もない。さらに,このような法改正を経なくとも,電子メール等の送信技術を使用して地域の主要な在外公館において投票用紙を印刷す
ることや,点字投票の際に認められるように自書式投票を採用することなど様々な代替案を採用することも可能であった。
そもそも違憲状態が発生していても,国会が怠慢によってその問題を取り上げず,十分な討議や検討をしなかった場合に,国家賠償が認められなくなるというのは不合理である。被告は,平成10年や平成18年に政府
内で検討されたという技術上の問題の解消や代替案の採用について,具体的にどのような調査,検討等をしたのか,それがなぜ実現されなかったのかといった具体的な理由を明らかにすることなく,単に国会に法律案が提出されなかったことのみを指摘するが,これは,具体的な調査,検討等を進めることなく,長期間にわたってこれを放置したからにすぎない。
(被告の主張)

国家賠償法1条1項にいう違法とは,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背することをいう。したがって,公務員の職務行為が同項の適用上違法の評
価を受けるのは,当該公務員が,職務上通常尽くすべき注意義務を果たすことなく,漫然と当該行為をしたと認め得るような事情がある場合に限られる。

投票用紙の不交付が違法でないこと
前記⑴(被告の主張)のとおり,国民審査制度について,憲法は,その具体的な在り方の定めを広く国会の立法政策に委ねており,これを受けた国民審査法は,
我が国の領域主権の及ばない国外における審査を予定せず,

在外選挙人名簿に関する規定も設けていない。したがって,国民審査法上,在外国民が国民審査において投票することは認められておらず,前回国民審査において中央選挙管理会が原告らに審査用紙を交付しなかったことは,同法に基づく取扱いとして誤りがなく,その職務上通常尽くすべき注意義務に違反したということはできないから,国家賠償法1条1項の
適用上違法となる余地はない。

立法不作為が違法でないこと
前記のような国家賠償法1条1項の意義からすれば,国会議員の立法行為(立法不作為も含む。)が同項の適用上違法となるかどうかは,国会議
員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって,当該立法等の内容の違憲性の問題とは区別されるべきものである。そして,国会議員は,立法に関しては,原則として,国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり,個別の国民に対応した関係での法的義務を負うものではない。したがって,国会
議員の立法行為は,立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず,あえて当該立法を行うというごとき,容易に想定し難いような例外的な場合でない限り,同項の適用上,違法の評価を受けないものというべきである。具体的には,例えば,立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な
場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などの極めて例外的な場合に限り,国会議員の立法行為又は立法不作為は,同項の適用上違法の評価を受けるものというべきである。
前記⑶(被告の主張)のとおり,在外審査制度を設けないことは,平成28年改正の前後を問わず,憲法の諸規定に違反するものではないから,
国家賠償法1条1項の適用上違法となる余地はない。

原告らの主張について
原告らは,平成17年大法廷判決の存在を根拠に,同判決の時点において在外審査制度を設けないことの違憲性が明らかになった旨主張する。
そもそも在外審査制度を設けないことは,憲法の諸規定に違反しないものであるが,この点を措くとしても,平成17年大法廷判決で問題とされた国政選挙における選挙権は,国民主権に立脚する我が国において,国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利であり,議会制民主主義の根幹を成す権利であるのに対し,国民審査は,最高裁判所の裁判官に対する
国民罷免手続又は国民解職手続であり,選任ではなく,
リコール(国民解職)の性質を有するものである。なお,原告らは,平成10年の公職選挙法改正の審議の際に,政府委員が選挙権と審査権を完全に連動したものとする見解を示した旨主張するものの,政府委員は,在外国民が衆議院議員の選挙に参加できないことの結果として国民審査にも参加できな
い旨述べたにすぎず,選挙権と国民審査権を完全に連動したものとする見解は採っていない。したがって,平成17年大法廷判決の事案と本件とでは,問題とされた権利についての憲法上の位置付けが異なる。
また,平成17年大法廷判決は,その判示に照らし,昭和59年に在外国民の選挙権行使を可能とするための法律案が内閣によって国会に提出
されながら廃案となり,しかも,その後10年以上の間,何らの立法措置も講じられなかったという経緯を非常に重視して,国家賠償法1条1項の適用上,違法の評価を受ける例外的な場合に当たると判断したことは明らかである。これに対し,在外審査制度については,平成10年の公職選挙法改正の際の審議において,在外審査制度を認めることとはしない理由についての質疑が若干されたことはあるが,国民審査の執行について責任を負う内閣が,在外国民の審査権の行使を認める上での問題の解決が可能で
あることを前提に,在外国民の投票を可能にするための法律案を提出したことはなく,そのような法律案が国会で審議されたことは一度もない。さらに,政府・国会関係以外を見ても,日本弁護士連合会による要望書の末尾において,在外審査制度を設けるべきである旨の指摘がされたことなどはあるが,在外選挙制度と比べて世論等の動向は明らかに乏しい。かかる
経緯を比較しても,本件は平成17年大法廷判決の事案とは全く異なっている。
したがって,平成17年大法廷判決の存在を根拠に,同判決の時点において在外審査制度を設けないことの違憲性が明らかになったとは到底いうことができず,原告らの主張は理由がない。

第3

当裁判所の判断

1
本件地位確認の訴えが適法か否か(争点⑴)について⑴

第1事件原告らは,本件地位確認の訴えを公法上の法律関係に関する確認の訴え(行政事件訴訟法4条)として提起しているところ,このような訴え
が適法であるというためには,その対象が,裁判所法3条1項にいう法律上の争訟に当たることを要する。そして,ここにいう法律上の争訟とは,当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって,それが法令の適用により終局的に解決することができるものをいうと解すべきである(最高裁昭和39年(行ツ)第61号同41年2月8日第三小法廷
判決・民集20巻2号196頁,最高裁昭和51年(オ)第749号同56年4月7日第三小法廷判決・民集35巻3号443頁,
最高裁平成10年
(行
ツ)第239号同14年7月9日第三小法廷判決・民集56巻6号1134頁等参照)。
⑵ア

憲法は,天皇が,内閣の指名に基づいて,最高裁判所の長たる裁判官を任命し(6条2項),最高裁判所の長たる裁判官以外の裁判官は,内閣でこれを任命する旨(79条1項)定める一方,最高裁判所の裁判官の任命
は,その任命後初めて行われる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し,その後10年を経過した後初めて行われる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し,その後も同様とする旨定め(同条2項),最高裁判所の裁判官について国民審査の制度を設け,国民審査において,投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは,その裁判官は,罷免される旨定めている(同条
3項)。これらの定めからすれば,国民審査は,最高裁判所の裁判官の解職の制度であると解される(最高裁昭和24年(オ)第332号同27年2月20日大法廷判決・民集6巻2号122頁,最高裁昭和39年(行ツ)第107号同40年9月10日第二小法廷判決・裁判集民事80号275頁,
最高裁昭和46年
(行ツ)
第6号同47年7月25日第三小法廷判決・

裁判集民事106号633頁等参照)。

また,憲法は,主権が国民に存することを宣言し(前文,1条),その上で,公務員の選定及び罷免の権利を国民固有の権利としている(15条1項)。そして,解職の制度である国民審査制度は,最高の司法機関であり,一切の法律,命令,規則又は処分が憲法に適合するかしないかの終局
的な決定をするという重要な権限を有する最高裁判所の裁判官の任命に民主的統制を及ぼす趣旨の制度であることは明らかであり,国民審査権は,憲法15条1項の定める国民固有の権利である公務員の選定及び罷免の権利のうちの一つというべきである。
⑶ア

次に,憲法は,前記⑵アのとおり,最高裁判所の裁判官の任命を国民審査に付す場合と,投票の結果裁判官が罷免される場合を定めるほかは,審査に関する事項は,法律でこれを定める旨規定する(79条4項)にとどまり,上記の各場合を除き,国民審査を具体的にどのような制度とするかについては,広く立法政策に委ねているものと解される。

憲法79条4項の規定を受けて国民審査に関する事項を定めた国民審査法は,衆議院議員の選挙権を有する者は審査権を有する旨定めている(4条)。この定めは,審査権が憲法15条1項にいう国民固有の権利である公務員の選定及び罷免の権利の一つであることを受けて規定されたものとはいえるものの,その文言や,国民審査法に他に投票の方法等に関する定めがあることからすれば,あくまで審査権を有する者の資格について定
めたものにすぎず,同法4条により直ちに具体的な審査権を行使することができる地位が発生するものと解することはできない。
そして,国民審査法は,投票の方法等に関する定めの一つとして,国民審査には公職選挙法に規定する選挙人名簿で衆議院議員総選挙について用いられるものを用いる旨定める(8条)ところ,同法は,選挙人名簿と
在外選挙人名簿を異なるものとして明らかに区別しており(30条の2第1項),在外選挙人名簿は選挙人名簿の一部ではなく,国民審査法8条の選挙人名簿に在外選挙人名簿が含まれると解する余地がないことは明らかである。さらに,同法の他の規定をみても,審査は,全都道府県の区域を通じて行い(3条),罷免を可とする投票の数が罷免を可としない投票
の数より多い裁判官は,罷免を可とされたものとするが,投票の総数が公職選挙法22条1項又は3項の規定による選挙人名簿の登録が行われた日のうち審査の日の直前の日現在において国民審査法8条の選挙人名簿に登録されている者の総数の100分の1に達しないときは,この限りではないとしている(32条)一方,選挙人名簿に登録されない在外国民の
国民審査に関する規定は見当たらないことからすれば,同法は在外審査制度を想定していないといわざるを得ない。
このようなことからすれば,国民審査法は,在外国民につき,公職選挙法の定める在外選挙人名簿を用い,又はこれに相当するものを調製して用いることにより国民審査権を行使することを認めるという立法政策を採るものでないことは明らかである。そして,憲法79条4項によれば,在外審査制度を創設する場合に,在外選挙人名簿を用いたものとするか否か
といった制度の枠組みについて,国会の判断に委ねられていることにも鑑みれば,特定の条項を違憲無効とすることも含め,国民審査法その他の法令を解釈することによって,在外国民について国民審査権を行使することができる具体的な地位を導き出すことはできないというべきである。ウ
以上によれば,第1事件原告らが確認を求める次回の国民審査において審査権を行使することができる地位は,現行の法令の解釈によって導き出すことのできるものではなく,国会において,在外国民について審査権の行使を可能とする立法を新たに行わなければ,具体的に認めることのできない法的地位であるといわざるを得ない。
そうすると,本件地位確認の訴えに係る紛争は,法令の適用により終局
的に解決できるものではなく,裁判所法3条1項にいう法律上の争訟には当たらない。


したがって,その余の点について判断するまでもなく,本件地位確認の訴えは,不適法であるといわざるを得ない。

2
本件違法確認の訴えが適法か否か(争点⑵)について第1事件原告らは,本件違法確認の訴えをいわゆる無名抗告訴訟として提起しているものと解されるところ,上記1で検討したところに照らせば,第1事件原告らに国民審査権の行使をさせないことが違法であることを確認したとしても,これによって国民審査権を行使することができる法的地位が具体的に認
められるわけではない。そうすると,本件違法確認の訴えは,要するに,具体的な紛争を離れ,国民審査法が在外国民に国民審査権の行使を認めていない点が違法であることについて抽象的に確認を求めるものと解され,当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争を対象とするものとはいえないから,本件違法確認の訴えに係る紛争は,裁判所法3条1項にいう法律上の争訟には当たらない。
これに対し,第1事件原告らは,本件違法確認の訴えは,あくまで次回の国
民審査において,在外国民である第1事件原告らに国民審査権の行使をさせないことが違法であることの確認を求めるものであり,抽象的に法令の違法・違憲や立法不作為の違法の確認を求めるものではない旨主張する。
しかしながら,
国民審査法を始めとする国民審査制度の関係法令は,広く一般的に適用されるものであり,次回の国民審査を迎えていない現時点において,第1事件原告ら
との関係でのみ違法性の有無を判断しようとしても,当該法律の違法性を抽象的に判断することと実質において異ならないこととなるから,上記主張は理由がない。
したがって,本件違法確認の訴えは不適法であるといわざるを得ない。3
在外国民に対する国民審査権の行使制限が違憲,
違法であるか否か
(争点⑶)
及び原告らの国家賠償請求の成否(争点⑷)について⑴

認定事実
証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

在外選挙制度に関する立法の状況等
平成10年法律第47号による公職選挙法の改正前においては,在外国民は選挙権の行使ができない状態に置かれていたところ,昭和58年3月24日,衆議院内閣委員会において,海外に在留する邦人が選挙権の行使ができるよう,早急に適切な措置を講ずることという附帯決議がされた(乙5)。

内閣は,第101回国会に対し,昭和59年4月27日,在外選挙制度の創設に係る公職選挙法の一部を改正する法律案を提出したが,同法律案は,
昭和61年6月2日の衆議院の解散により廃案となった
(乙
5)。
内閣は,平成9年6月10日の閣議決定を経て,第140回国会に対し,在外選挙制度の創設に係る公職選挙法の一部を改正する法律案を提出した。同法律案は,審議の過程で一部修正された後,最終的に平成10年4月24日に第142回国会の参議院本会議において可決され,法律として成立し,同年5月6日,平成10年法律第47号として公布され,平成12年5月1日までに全て施行された。この法律により,在外選挙人名簿が調製され,在外国民が衆議院及び参議院の各議員選挙に
つき投票できるようになったが,平成18年法律第62号による改正前の公職選挙法附則8項により,在外選挙制度の対象となる選挙については,当分の間衆議院及び参議院の比例代表選出議員の選挙に限定することとされていた(以上につき,甲10の1,乙5,顕著な事実)。最高裁判所は,平成17年9月14日,①平成8年10月20日に施
行された衆議院議員の総選挙当時,公職選挙法が,在外国民が国政選挙において投票するのを全く認めていなかったことは,憲法15条1項及び3項,43条1項並びに44条ただし書に違反する,②平成18年法律第62号による改正前の公職選挙法附則8項の規定のうち,在外国民に国政選挙における選挙権の行使を認める制度の対象となる選挙を当分
の間衆議院及び参議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は,遅くとも,本判決言渡し後に初めて行われる衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の時点においては,憲法15条1項及び3項,43条1項並びに44条ただし書に違反する旨の判決
(平成17年大法廷判決)
を言い渡した(顕著な事実)。

平成17年大法廷判決を受けて行われた平成18年法律第62号による公職選挙法の改正により,衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙についても,在外選挙制度の対象とされた(甲10の1,顕著な事実)。

在外審査制度に関する議論の状況等

,平成10年4月23日の参議院地

方行政・警察委員会において,在外審査制度について質疑があり,政府委員の1人は,国民審査は,選挙人名簿に基づいてやるということになっており,在外邦人は,衆議院選挙に今参加できていないことの結果として国民審査にも参加できないということになっているが,どちらかというと選挙権の行使ができないというところに原因があり,その限りに
おいてはやむを得ない旨答弁した。また,政府委員の1人は,国民審査は記号式投票で行われており,在外国民に投票を認めるとすると,審査の告示後,投票用紙を印刷して国外に交付することになる一方,有権者の方は,投票日の5日前までには投票用紙を送付しなければならず,ほとんど審査期間が確保できず,技術的に実施不可能に近いというような
状況であり,現段階では見送ることにした旨答弁し,これに対し,質問をした委員は,できる限り速やかに改正すべきであるとの意見を表明した(甲6)。
日本弁護士連合会は,平成14年7月30日付けで,衆議院及び参議院の各議長,
内閣総理大臣,
法務大臣,
外務大臣並びに総務大臣に対し,

在外国民が国民審査権を全く行使することができないことが人権侵害に当たるとして,法改正等の措置を執るよう勧告した(甲9)。
東京地方裁判所は,平成23年4月26日,在外国民である原告らが国民審査の投票をすることができる地位の確認等を求めた事案において,当該在外国民らの訴えを一部却下し,その余の請求を棄却する判決を言
い渡した。同判決は,理由中の判断において,当該事案で問題とされた国民審査が行われた平成21年8月30日時点で,在外審査制度の創設に係る立法措置を執らないという不作為によって在外国民が国民審査権を行使することができないという事態を生じさせていたことの憲法適合性については,重大な疑義がある旨判示した上で,憲法上要請される合理的期間内に事態の是正がされなかったものとまでは断定することができないとして,憲法に違反するものとまではいえない旨判示した(平成
23年東京地裁判決。顕著な事実)。
日本弁護士連合会は,平成24年3月28日付けで,衆議院及び参議院の各議長,
内閣総理大臣,
法務大臣,
外務大臣並びに総務大臣に対し,
在外国民が国民審査権を行使することができないことが著しい人権侵害に該当するとして,法改正等の措置を執るよう勧告した(甲10の1か
ら7まで)。
現在まで,在外審査制度の創設に係る法律案が国会に提出され,審議されたことはない(弁論の全趣旨)。

在外国民に対する国民審査権の行使制限の憲法適合性等について

前記1⑵のとおり,憲法79条2項及び3項に根拠を有する解職の制度である国民審査制度は,最高の司法機関であり,一切の法律,命令,規則又は処分が憲法に適合するかしないかの終局的な決定をするという重要な権限を有する最高裁判所の裁判官の任命に民主的統制を及ぼそうとしたものであることは明らかであり,国民審査権は,憲法15条1項の定める国
民固有の権利である公務員の選定及び罷免の権利のうちの一つというべきであるから,公務員の選挙についての成年者による普通選挙の保障(同条3項),両議院の議員の選挙人の資格についての差別の禁止(憲法44条ただし書)及び投票の機会の平等の要請(憲法14条1項)の趣旨は,国民審査(憲法79条2項,3項)についても及ぶものと解される。したが
って,憲法は,国民に対し,国民審査において審査権を行使する機会,すなわち投票をする機会を平等に保障しているものと解するのが相当である。以上のような憲法の趣旨にかんがみれば,国民の審査権又はその行使を制限することは原則として許されず,これを制限するためには,そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならないというべきである。そして,そのような制限をすることなしには国民審査の公正を確保しつつ審査権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困
難であると認められる場合でない限り,上記のやむを得ない事由があるとはいえず,このような事由なしに国民の審査権の行使を制限することは,憲法14条1項,15条3項及び44条ただし書の趣旨に反することとなり,審査権を認めた憲法15条1項並びに79条2項及び3項に違反することとなるものといわざるを得ない。また,このことは,国が審査権の行
使を可能にするための所要の措置を執らないという不作為によって国民が審査権を行使することができない場合についても,同様である。

そこで,国民審査法が,前回国民審査当時,在外国民の審査権の行使を認めていなかったことが,憲法の上記各規定に違反するか否かについて検
討する。
被告は,衆議院議員及び参議院議員の選挙と異なり,国民審査は,15名それぞれに任期の異なる裁判官を対象とし,衆議院議員総選挙の機をとらえ,記号式投票を用いて行うこととされており,平成28年改正の前後を問わず,投票用紙の調製の問題や在外公館への投票用紙の送付
に要する期間等を考慮すると,一定の審査期間を確保しつつ国民審査の期日までに作業を完了して開票に間に合わせることは実際上不可能であり,在外審査制度を設けないことについて技術上の問題という合理的な理由がある旨主張する。そして,このほかに,在外国民に国民審査権の行使を認めないことについて,やむを得ないと認められる事由に該当し
得るような事情は見当たらない。
確かに,都道府県の選挙管理委員会の調製した,審査に付される裁判官の氏名が印刷された投票用紙を使用し,罷免を可とする裁判官に×の記号を記載するという現行の記号式投票(国民審査法14条2項,15条1項)を前提とする限りにおいては,審査の告示前に投票用紙を印刷することが可能となった平成28年改正後においても,被告が主張するような技術上の問題が解消されたとはいえない。すなわち,平成28年改正後は,中央選挙管理会が,衆議院議員の任期満了の日前60日に当たる日又は衆議院の解散の日のいずれか早い日以後直ちに,審査予定裁判官の氏名等を都道府県の選挙管理委員会に通知しなければならないこととなり(同法4条の2第1項),その通知後,投票用紙の調製をする
ことが可能となったものの,その後審査の告示までの間に裁判官が任命される可能性がないとはいえず,審査の告示の日に近接して任命された場合,審査の告示後に投票用紙の調製をしていた平成28年改正前と同様に,投票用紙の調製や送付について技術上の問題がないとまではいえないことになる。

しかしながら,憲法は,国民審査権の行使につきどのような方法を用いるかについて,法律に委ねており(79条4項),現行の記号式投票以外の方法を採用することも可能である。記号式投票は,審査人に審査対象の裁判官全員の氏名を知らせるとともに,なるべく簡易な方法で投票ができるようにする点で,合理性を有するものの,国民審査権が憲法
15条1項の定める公務員の選定及び罷免の権利の一つであり,司法に対する民主的統制の方法として憲法上認められた重要な権利であることに鑑みれば,他の投票方法を採用し,又は併用することにより在外審査制度の実施が可能となるにもかかわらず,記号式投票による投票が不能ないし著しく困難であるという理由により一切投票を認めないことは,
不合理であるといわざるを得ない。
実際にも,
国民審査法16条1項は,
点字による審査の投票を行う場合においては,審査人は,投票所において,投票用紙に,罷免を可とする裁判官があるときはその裁判官の氏名を自ら記載し,罷免を可とする裁判官がないときは何等の記載をしないで,これを投票箱に入れなければならない。として,点字による審査につき自書式投票を採用しており,既に同法の下においても,現行の記号式投票を維持することにより審査権の行使が技術的に不能ないし著しく困難となるような場合において,他の合理的な投票方法を用いることにより審査権の行使が可能となるときには,その方法を採用している例が存在しているのである。
このようなことに加えて,通信手段が地球規模でますます著しい発達
を遂げ,在外国民に対して情報を適正に伝達することについての困難がより少なくなったこと,衆議院議員及び参議院議員の選挙について在外選挙制度が導入され,何度も繰り返し実施されてきたことなど,在外国民をめぐる社会の状況が国民審査制度の創設当時と大きく変化したことをも考慮すれば,国民審査の公正な実施に留意しつつ,在外国民による
国民審査の実施を可能とする立法措置を執ることが事実上不能ないし著しく困難であったとはいい難い。少なくとも,現行の記号式投票の実施に係る技術上の問題を解消するという観点からは,例えば,点字による国民審査の投票方法として採用され,在外選挙制度においても創設以来多数回の選挙において行われてきた投票方法である自書式投票を採用す
るなどの方法により,在外審査制度を実施することは可能であったというべきである。
これに対し,被告は,国民審査において自書式投票が採用されると,連記投票となることが想定され,審査人が裁判官の氏名を自書するのに時間及び手間を要し,投票所における投票が滞ることになりかねないば
かりか,記載の趣旨が不分明であるなどの疑問票が増加し,開票事務が滞ることになりかねないといった弊害がある旨主張する。
しかしながら,
審査人が時間及び手間を要し,投票所における投票が滞ることがあり得るとしても,例えば,投票所における投票用紙の記載場所を多数設けることなどにより対処することが可能と考えられ,
また,
疑問票が増加し,
開票事務が滞るとの点については,自書式投票が採用されている国政選挙の場合と比較して,投票用紙に記載する氏名等の数の多寡はあるもの
の,問題状況が大きく変わるとは考えにくい。したがって,被告の主張を踏まえても,在外国民の国民審査権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であったということはできない。
以上によれば,前回国民審査において在外国民が審査権を行使することを認めないことについて,やむを得ない事由があったとは到底いうこ
とができないから,国民審査法が,前回国民審査当時,在外国民であった原告らの審査権の行使を認めていなかったことは,国民に対して審査権を認めた憲法15条1項並びに79条2項及び3項に違反するものであったというべきである。

なお,原告らは,国民審査法が,在外国民であった原告らの審査権の行使を認めていなかったことが,外国移住の自由する事由を保障する憲法22条2項にも違反する旨主張するものの,在外国民に審査権の行使を認めないことは,直接外国移住の自由を制限するものではないから,同項に違反するとはいえない。
また,国民審査法4条があくまで審査権を有する者の資格について定め
たものにすぎないことは前記1⑶イのとおりであるから,前回国民審査当時,在外国民であった原告らの審査権の行使が認められなかったことが,同条に違反するということはできない。

原告らの国家賠償請求の成否

国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定するものと解される(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁参照)
。そして,職
務上の法的義務に違背していると認められるには,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為をしたと認め得るような事情が
ある場合であることが必要である(最高裁平成元年(オ)第930号,第1093号同5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁参照)


審査用紙不交付が違法か否か
中央選挙管理会は,前回国民審査において,在外国民であった原告らに
対し,投票用紙を交付していない(弁論の全趣旨)。しかしながら,前回国民審査当時,国民審査法その他の関係法令において,在外国民が国民審査権を行使することは認められておらず,中央選挙管理会が原告らに対し投票用紙を交付しなかったことは,法律に従ったものであり,中央選挙管理会の職員らがその職務上通常尽くすべき注意義務に違反したとはいえ
ないから,国家賠償法1条1項の適用上違法とはいえない。

立法不作為の適否等
国会議員の立法行為又は立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法となるかどうかは,国会議員の立法過程における行動が個々の国民に
対して負う職務上の法的義務に違反したかどうかの問題であり,立法の内容の違憲性の問題とは区別されるべきものである。そして,上記行動についての評価は原則として国民の政治的判断に委ねられるべき事柄であって,仮に当該立法の内容が憲法の規定に違反するものであるとしても,そのゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに国家賠償法
1条1項の適用上違法の評価を受けるものではない。
もっとも,法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などにおいては,国会議員の立法過程における行動が上記職務上の法的義務に違反したものとして,例外的に,その立法不作為は,国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けることがあるというべきである(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁,平成17年大法廷判決,最高裁平成25年(オ)第1079号同27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2427頁参照)。

在外国民も国民審査において投票する機会を与えられることを憲法上保障されていたのであり,この権利行使の機会を確保するためには,在外審査制度を設けるなどの立法措置を執ることが必要不可欠である。しかるに,このような措置が講じられなかった理由については,平成10年4月23日の参議院地方行政・警察委員会において,政府委員が,在
外国民が国民審査権を行使することができないのは,衆議院議員の選挙権の行使ができないところに原因があり,その限りにおいてはやむを得ないなどと答弁する一方,他の政府委員は,記号式投票を前提とする技術上の問題を理由に在外審査制度の導入を見送ることとした旨答弁しており,この問題に関する当時の政府の認識は上記のとおりであったと認
められる。
しかしながら,
在外国民の国政選挙における選挙権の行使については,
平成10年法律第47号による公職選挙法の改正により,在外選挙制度が創設され,当初は限定的であったとはいえ,在外国民も衆議院議員の総選挙において選挙権を行使することが可能となったところである。ま
た,国民審査権の行使の方法として,記号式投票が唯一の方法でないことは明らかであり,在外選挙制度が創設された平成10年当時においても,国民審査法は点字による投票の場合に自書式投票で行う旨規定していたほか,新たに創設された在外選挙制度の下においても,両議員の比例代表選出議員について,自書式投票による選挙が繰り返し実施されてきたものである。さらに,平成14年には,日本弁護士連合会により,両議院の議長等に対し,在外審査制度を創設しないことは人権侵害である旨の勧告がされていた事実も存する。
このような状況の下で,平成17年大法廷判決は,平成8年10月20日に施行された衆議院議員の総選挙当時,公職選挙法が,在外国民が国政選挙において投票するのを全く認めていなかったことは,憲法15
条1項及び3項,43条1項並びに44条ただし書に違反する旨判示したのであるから,国会としては,同判決が言い渡された平成17年9月14日の時点において,在外国民に対し,公務員の選定及び罷免の権利の一つであり,司法に対する民主的統制の方法として憲法上認められた重要な権利である国民審査権を行使するのを認めていないことについて,
技術上の問題を解消する方法(前記⑵イ参照)を見いだし得る状況にあったことを併せ考えれば,憲法に違反するに至っていたものといえることについて,十分に認識し得たものというべきである。
もっとも,この点に関し,被告は,平成17年大法廷判決が,平成8年の衆議院議員総選挙当時,在外選挙制度が設けられていなかったこと
について,昭和59年に在外国民の選挙権行使を可能とするための法律案が内閣によって国会に提出されながら廃案となり,その後長期にわたり何らの立法措置も講じられなかったという経緯を重視して,国家賠償法上違法と判断したのに対し,在外審査制度については,内閣が在外国民の審査権行使を認める上での問題の解決が可能であることを前提に,
在外国民の投票を可能にするための法律案を提出したことや,そのような法律案が国会で審議されたことはないことを指摘するほか,国政選挙における選挙権と国民審査権の性質や憲法上の位置づけの相違を指摘した上で,平成17年大法廷判決の存在を根拠に,同判決の時点において在外審査制度を設けないことの違憲性が明らかになったとはいえない旨主張する。
そこで検討すると,平成17年大法廷判決の後,平成23年東京地裁判決(前記

)は,現行の記号式投票を前提とした場合に,在外審

査制度の創設に当たって解決すべき技術上の問題がなお存することを認めつつも,上記のような自書式投票が解決方法の一つであることを指摘した上で,一定の程度における対処は可能であるとして,少なくとも当該事案で問題とされた国民審査が行われた平成21年8月30日の時点において在外国民が審査権を行使することができないことの憲法適合性につき重大な疑義があった旨判示している(なお,同判決は,結論において憲法に違反するものとまではいえないと判示しているが,同日の時点においては,憲法上要請される合理的期間内に是正されなかった
ものとまでは断定することができないことをその根拠としており,同日の時点以前に憲法の規定に適合しない状態に至っていたことを実質的に含意するものと理解される。)。在外選挙制度を認めないことを違憲とする平成17年大法廷判決が言い渡された時点で,衆議院議員総選挙の際に行われる国民審査を在外国民に認める場合の技術上の問題について
解消方法を見いだし得る状況にあった以上,国会において,在外審査制度を設けないことが憲法に違反するに至っていたものといえることについて十分に認識し得たというべきであるが,その後,平成23年東京地裁判決において,在外審査制度の実施における技術上の問題点と,それが解消され得るものであることを具体的に明らかにした上で,平成21
年8月30日の時点で在外審査制度が認められないことの憲法適合性について上記のとおり判示する司法判断が示されたこと(ちなみに,同判決は確定し,これと異なる司法判断はその後現れていない。)により,遅くとも同判決が言い渡された平成23年4月26日の時点においては,在外審査制度を創設しないことが憲法に違反するに至っていたことは明白となっていたものということができる。そして,このことは,内閣が在外審査制度の創設に係る法律案を提出したり,国会においてそのような法律案が審議されたりしたことがなかったことを考慮しても,異なるものではないというべきであり,また,国民審査権が国政選挙の選挙権と性質や位置付けを異にすることも,上記の結論を左右するものではないというべきである。

次に,在外審査制度を創設するに当たっては,制度の基本的な枠組みとして在外選挙人名簿への登録を基礎とする方式を採用するか否か,また,在外審査制度における技術上の問題を踏まえて,どのような投票方法を採用するのが最も適切であるかといった,多くの事項について検討する必要があることから,一定の期間を要することは否定し得ないとこ
ろである。しかしながら,平成17年大法廷判決後,平成23年東京地裁判決が,平成21年8月30日時点で在外審査制度の創設に係る立法措置を執らないという不作為によって在外国民が国民審査権を行使することができないという事態を生じさせていたことの憲法適合性について,重大な疑義がある旨判示した上に,その後平成24年にも,日本弁護士
連合会が衆議院及び参議院の各議長等に対し,在外審査制度の創設を勧告したことがあったにもかかわらず,国会において,在外審査制度の創設について何らの措置も執らないまま,平成23年東京地裁判決から約6年半,平成17年大法廷判決からは約12年もの期間が経過する状況の下で,前回国民審査を迎えたことから,原告らが国民審査権を行使す
ることができない事態に至っているところ,そのことについて正当な理由があることはうかがわれない。そうすると,このような長期間にわたる立法不作為は,前記のような例外的な場合に当たり,国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるというべきであり,また,この立法不作為について,過失が認められることも明らかである。

損害について
上記の違法な立法不作為の結果,原告らは,前回国民審査に際して,実
際に国民審査の投票を行う意向の下に在外公館又は投票所に赴き,あるいは郵便投票の方法により衆議院議員選挙の投票を行ったにもかかわらず,国民審査の投票をすることができず(甲1から5まで,弁論の全趣旨),精神的苦痛を被ったものと認められる。そして,本件訴訟において在外国民の国民審査権の行使を制限することが違憲であると判断され,それによ
って,前回国民審査において投票をすることができなかったことにより原告らが被った精神的苦痛は相当程度回復されるものと考えられることなどの事情を総合勘案すると,原告らが被った精神的苦痛を慰謝するには,それぞれ金5000円を下らないというべきである。
4
結論
以上の次第で,第1事件原告らの本件地位確認の訴え及び本件違法確認の訴えはいずれも不適法であるから,これらを却下することとし,原告らの国家賠償請求は,主文2項の限度で理由があるからその限度で認容し,その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第2部

裁判長裁判官


裁判官

小英明弘持川
裁判官

三貫納有子
(別紙1)
指定代理人目録
松本亮一,齋藤聡史,中尾正英,松尾淳一
以上
(別紙2)
関係法令の定め
第1

憲法の定め

1
14条1項
すべて国民は,法の下に平等であって,人種,信条,性別,社会的身分又は
門地により,政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない。2
15条


1項
公務員を選定し,及びこれを罷免することは,国民固有の権利である。


3項
公務員の選挙については,成年者による普通選挙を保障する。

3
22条2項
何人も,外国に移住し,又は国籍を離脱する自由を侵されない。

4
44条
両議院の議員及びその選挙人の資格は,法律でこれを定める。但し,人種,
信条,性別,社会的身分,門地,教育,財産又は収入によって差別してはならない。
5
79条


2項
最高裁判所の裁判官の任命は,
その任命後初めて行われる衆議院議員総選

挙の際国民の審査に付し,
その後10年を経過した後初めて行われる衆議院
議員総選挙の際更に審査に付し,その後も同様とする。


3項
前項の場合において,投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは,その裁判官は,罷免される。



4項
審査に関する事項は,法律でこれを定める。
第2

国民審査法の定め

1
2条


1項
審査は,各裁判官につき,その任命後初めて行われる衆議院議員総選挙の
期日に,これを行う。


2項
各裁判官については,最初の審査の期日から10年を経過した後初めて行われる衆議院議員総選挙の期日に,更に審査を行い,その後も,また同様とする。

2
3条
審査は,全都道府県の区域を通じて,これを行う。

3
4条
衆議院議員の選挙権を有する者は,審査権を有する。

4
4条の2


1項
中央選挙管理会は,衆議院議員の任期満了の日前60日に当たる日又は衆議院の解散の日のいずれか早い日以後直ちに,同日以後初めて行われる衆議院議員総選挙の期日に審査に付されることが見込まれる裁判官(以下この条において審査予定裁判官という。
)の氏名その他政令で定める事項(審査

予定裁判官がない場合には,その旨)を都道府県の選挙管理委員会に通知しなければならない。この場合において,審査予定裁判官が二人以上あるときは,中央選挙管理会がくじで定めた順序により,通知しなければならない。⑵
2項
前項又はこの項の規定による通知をした後次条1項の規定による告示(以下審査の告示という。
)までの間に裁判官が任命された場合には,中央選
挙管理会は,直ちに,その旨及びその時における審査予定裁判官の氏名その他政令で定める事項を都道府県の選挙管理委員会に通知しなければならない。(以下略)


5項
前各項の規定は,中央選挙管理会が衆議院議員の任期満了の日前60日に
当たる日以後に1項の規定による通知をした場合において,当該通知をした後衆議院議員の任期満了の日までの間に衆議院が解散されたときについて準用する。この場合において,同項中衆議院議員の任期満了の日前60日に当たる日又は衆議院の解散の日のいずれか早い日とあるのは,
衆議院の解散の日と読み替えるものとする。

5
6条1項
審査は,投票によりこれを行う。

6
7条
審査の投票区及び開票区は,衆議院小選挙区選出議員の選挙の投票区及び開票区による。

7
8条
審査には,公職選挙法(昭和25年法律第100号)に規定する選挙人名簿で衆議院議員総選挙について用いられるものを用いる。

8
9条
審査に関する事務は,中央選挙管理会が管理する。

9
14条


1項
投票用紙には,審査に付される裁判官の氏名として通知裁判官の氏名を4条の2第1項の規定による通知の順序により印刷するとともに,審査に付さ
れる裁判官としてその氏名を印刷する者のそれぞれに対する×の記号を記載
する欄を設けなければならないものとし,都道府県の選挙管理委員会は,別記様式に準じて投票用紙を調製しなければならない。


2項
前項の規定にかかわらず,4条の2第2項に規定する場合には,投票用紙
には,審査に付される裁判官の氏名として新通知裁判官の氏名を同項の規定による通知(当該通知が二以上あるときは,その直近のもの)の順序により印刷するとともに,審査に付される裁判官としてその氏名を印刷する者のそれぞれに対する×の記号を記載する欄を設けなければならないものとし,都道府県の選挙管理委員会は,別記様式に準じて投票用紙を調製しなければな
らない。
15条1項
審査人は,投票所において,罷免を可とする裁判官については,投票用紙の当該裁判官に対する記載欄に自ら×の記号を記載し,罷免を可としない裁判官については,投票用紙の当該裁判官に対する記載欄に何等の記載をしないで,
これを投票箱に入れなければならない。
16条1項
点字による審査の投票を行う場合においては,審査人は,投票所において,投票用紙に,罷免を可とする裁判官があるときはその裁判官の氏名を自ら記載し,罷免を可とする裁判官がないときは何等の記載をしないで,これを投票箱
に入れなければならない。
32条
罷免を可とする投票の数が罷免を可としない投票の数より多い裁判官は,罷免を可とされたものとする。ただし,投票の総数が,公職選挙法22条1項又は3項の規定による選挙人名簿の登録が行われた日のうち審査の期日の直前の
日現在において8条の選挙人名簿に登録されている者の総数の100分の1に達しないときは,この限りでない。
第3

公職選挙法の定め

1
9条1項
日本国民で年齢満18年以上の者は,衆議院議員及び参議院議員の選挙権を有する。

2
19条


1項
選挙人名簿は,永久に据え置くものとし,かつ,各選挙を通じて一の名簿とする。



2項
市町村の選挙管理委員会は,選挙人名簿の調製及び保管の任に当たるもの
とし,毎年3月,6月,9月及び12月(22条及び24条1項において登録月という。)並びに選挙を行う場合に,選挙人名簿の登録を行うものとす
る。
3
21条


1項
選挙人名簿の登録は,当該市町村の区域内に住所を有する年齢満18年以上の日本国民(11条1項若しくは252条又は政治資金規正法(昭和23年法律第194号)28条の規定により選挙権を有しない者を除く。次項において同じ。で,
)その者に係る登録市町村等
(当該市町村及び消滅市町村
(そ

の区域の全部又は一部が廃置分合により当該市町村の区域の全部又は一部となった市町村であって,当該廃置分合により消滅した市町村をいう。3項において同じ。
)をいう。以下この項及び次項において同じ。
)の住民票が作成
された日(他の市町村から登録市町村等の区域内に住所を移した者で住民基本台帳法(昭和42年法律第81号)22条の規定により届出をしたものに
ついては,当該届出をした日。次項において同じ。
)から引き続き3箇月以上
登録市町村等の住民基本台帳に記録されている者について行う。


2項
選挙人名簿の登録は,前項の規定によるほか,当該市町村の区域内から住所を移した年齢満18年以上の日本国民のうち,その者に係る登録市町村等の住民票が作成された日から引き続き3箇月以上登録市町村等の住民基本台帳に記録されていた者であって,登録市町村等の区域内に住所を有しなくな
った日後4箇月を経過しないものについて行う。
4
30条の2


1項
市町村の選挙管理委員会は,選挙人名簿のほか,在外選挙人名簿の調製及び保管を行う。



2項
在外選挙人名簿は,永久に据え置くものとし,かつ,衆議院議員及び参議院議員の選挙を通じて一の名簿とする。



3項(平成28年法律第94号による改正前)
市町村の選挙管理委員会は,
30条の5第1項の規定による申請に基づき,

在外選挙人名簿の登録を行うものとする。
5
30条の4(平成28年法律第94号による改正前)
在外選挙人名簿の登録は,在外選挙人名簿に登録されていない年齢満18年以上の日本国民(11条1項若しくは252条又は政治資金規正法28条の規定により選挙権を有しない者を除く。次条1項において同じ。
)で,在外選挙人

名簿の登録の申請に関しその者の住所を管轄する領事官(領事官の職務を行う大使館若しくは公使館の長又はその事務を代理する者を含む。
以下同じ。の管

轄区域(在外選挙人名簿の登録の申請に関する領事官の管轄区域として総務省令・外務省令で定める区域をいう。同条1項及び3項において同じ。)内に引き
続き3箇月以上住所を有するものについて行う。

6
30条の5第1項(平成28年法律第94号による改正前)
在外選挙人名簿に登録されていない年齢満18年以上の日本国民で,在外選挙人名簿の登録の申請に関しその者の住所を管轄する領事官の管轄区域内に住所を有するものは,政令で定めるところにより,文書で,最終住所の所在地の市町村の選挙管理委員会(その者が,いずれの市町村の住民基本台帳にも記録されたことがない者である場合には,申請の時におけるその者の本籍地の市町
村の選挙管理委員会)に在外選挙人名簿の登録の申請をすることができる。7
30条の6第1項(平成28年法律第94号による改正前)
市町村の選挙管理委員会は,前条1項の規定による申請をした者が当該市町村の在外選挙人名簿に登録される資格を有する者である場合には,遅滞なく,当該申請をした者を在外選挙人名簿に登録しなければならない。

8
42条1項
選挙人名簿又は在外選挙人名簿に登録されていない者は,投票をすることができない。
(以下略)

9
44条1項
選挙人は,選挙の当日,自ら投票所に行き,投票をしなければならない。
46条


1項
衆議院(比例代表選出)議員又は参議院(比例代表選出)議員の選挙以外の選挙の投票については,選挙人は,投票所において,投票用紙に当該選挙の公職の候補者一人の氏名を自書して,これを投票箱に入れなければならな
い。


2項
衆議院(比例代表選出)議員の選挙の投票については,選挙人は,投票所において,投票用紙に一の衆議院名簿届出政党等(86条の2第1項の規定
による届出をした政党その他の政治団体をいう。以下同じ。)の同項の届出に係る名称又は略称を自書して,これを投票箱に入れなければならない。⑶

3項
参議院(比例代表選出)議員の選挙の投票については,選挙人は,投票所において,投票用紙に公職の候補者たる参議院名簿登載者(86条の3第1項の参議院名簿登載者をいう。以下この章から第8章までにおいて同じ。)
一人の氏名を自書して,これを投票箱に入れなければならない。ただし,公職の候補者たる参議院名簿登載者の氏名を自書することに代えて,一の参議院名簿届出政党等(同項の規定による届出をした政党その他の政治団体をいう。
以下同じ。の同項の届出に係る名称又は略称を自書することができる。)
49条の2第1項

在外選挙人名簿に登録されている選挙人(当該選挙人のうち選挙人名簿に登録されているもので政令で定めるものを除く。
以下この条において同じ。で,

衆議院議員又は参議院議員の選挙において投票をしようとするものの投票については,48条の2第1項及び前条1項の規定によるほか,政令で定めるところにより,44条,45条1項,46条1項から3項まで,48条及び次条の
規定にかかわらず,次の各号に掲げるいずれかの方法により行わせることができる。
1号

衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙にあってはイに掲げる期
間,衆議院議員又は参議院議員の再選挙又は補欠選挙にあってはロに掲げる日に,自ら在外公館の長(各選挙ごとに総務大臣が外務大臣と協議して指定する在外公館の長を除く。以下この号において同じ。)の管理する投票を記載する場所に行き,在外選挙人証及び旅券その他の政令で定める文書を提示して,投票用紙に投票の記載をし,これを封筒に入れて在外公館の長に提出する方法

当該選挙の期日の公示の日の翌日から選挙の期日前6日(投票の送致に日数を要する地の在外公館であることその他特別の事情があると認められ
る場合には,あらかじめ総務大臣が外務大臣と協議して指定する日)までの間(あらかじめ総務大臣が外務大臣と協議して指定する日を除く。)ロ
当該選挙の期日の告示の日の翌日から選挙の期日前6日までの間で,あらかじめ総務大臣が外務大臣と協議して指定する日

2号

当該選挙人の現在する場所において投票用紙に投票の記載をし,
これを

郵便等により送付する方法
以上
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