判例検索β > 平成28年(行ウ)第63号
労災保険遺族補償給付等不支給処分取消請求事件
事件番号平成28(行ウ)63
事件名労災保険遺族補償給付等不支給処分取消請求事件
裁判年月日令和元年6月14日
法廷名福岡地方裁判所
裁判日:西暦2019-06-14
情報公開日2019-07-11 16:00:13
戻る / PDF版
主1文
宇和島労働基準監督署長が原告に対してした労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の平成27年3月30日付け各処分並びに療養補償給付を支給しない旨の同月31日付け処分をいずれも取り消す。

2
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求
主文同旨

第2

事案の概要
本件は,亡Aの妻である原告において,養殖業者に対する魚薬の営業販売等に従事していた亡Aが急性心不全を発症し,これにより死亡したのは,取引先からのストレスに晒されながらの長時間の過重労働や海上での過酷な消毒業務に従事したことによるものであるにもかかわらず,原告の労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付等の請求について処分行政庁がいずれも不支給とする
決定をしたことから,同不支給決定は違法である旨主張して,被告に対し,これら不支給決定の取消しを求めた事案である。
1
前提事実(当事者間に争いがない事実等)


当事者等

亡Aは,昭和▲年▲月▲日生(死亡当時47歳)の男性であり,平成12年3月,株式会社B(以下本件会社という。
)に中途入社し,平成
20年4月以降,K営業所(以下本件営業所という。
)において,養
殖業者に対する魚薬等の営業販売に従事していた。


原告は,亡Aの妻であり,亡Aの死亡当時,亡Aの収入によって生計を維持していた者である。



亡Aの死亡
亡Aは,
平成▲年▲月▲日午前7時頃,
出勤後の営業車内において意識不
明の状態で発見され,
宇和島市立K病院に救急搬送されたが,
同日午前8時
18分,心室細動を原因とする急性心不全により死亡した。


原告の労災保険請求等

原告は,処分行政庁に対し,平成26年8月28日,労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料を請求し,また,同年11月25日,同法に基づく療養補償給付を請求した。
処分行政庁は,平成27年3月30日付けで遺族補償給付及び葬祭料について不支給とする決定をし,同月31日付けで療養補償給付について不支給とする決定をした(以下,これらの決定を併せて本件不支給決定という。。本件不支給決定の理由は,亡Aが短期間又は長期間にわた)
る過重な業務に就労したとはいえず,長時間労働等による疲労の蓄積があったともいえないので,亡Aの急性心不全が労働基準法施行規則35条別表第1の2第8号に定める業務上の疾病に該当するとは認められないというものである(甲4の1ないし3。なお,同各書証には別表1の2第9号との記載があるが,別表1の2第8号の誤記であると考え
られる。。


原告は,
本件不支給決定について,
平成27年5月22日付けで審査請
求をしたが,愛媛労働者災害補償保険審査官は,同年9月9日,同審査請求を棄却した。


原告は,平成27年10月28日,再審査請求をしたが,労働保険審査会が裁決をしないまま3か月が経過した。なお,労働保険審査会は,平成28年11月30日付けで,再審査請求を棄却する旨の採決を行った。



原告は,平成28年8月30日,本件訴えを提起した。
虚血性心疾患等の業務起因性に関する行政解釈
厚生労働省労働基準局長は,
医学及び法学の専門家からなる脳・心臓疾患
の認定基準に関する専門検討会が平成13年11月16日に取りまとめた脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告書の内容を踏まえ,都道府県労働局長に宛てて,
同年12月12日付けで

脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について

(基発第10
63号通達。
平成22年5月7日付け基発0507第3号により改正。
以下
認定基準という。
)を発したが,その概要(本件に関係する部分の抜粋
である。
)は次のとおりである。

基本的な考え方
脳血管疾患及び虚血性心疾患等(以下脳・心臓疾患という。
)は,
その発症の基礎となる動脈硬化等による血管病変又は動脈瘤,心筋変性
等の基礎的病態(以下血管病変等という。
)が長い年月の生活の営み
の中で形成され,
それが徐々に進行し,
増悪するといった自然経過をたど
り発症に至るものとされている。
しかしながら,
業務による明らかな過重負荷が加わることによって,

管病変等がその自然経過を超えて著しく増悪し,
脳・心臓疾患が発症する

場合があり,そのような経過をたどり発症した脳・心臓疾患は,その発症に当たって,
業務が相対的に有力な原因であると判断し,
業務に起因する
ことの明らかな疾病として取り扱うものである。
このような脳・心臓疾患の発症に影響を及ぼす業務による明らかな過重負荷として,
発症に近接した時期における負荷のほか,
長期間にわたる

疲労の蓄積も考慮することとした。
また,業務の過重性の評価に当たっては,労働時間,勤務形態,作業環境,精神的緊張の状態等を具体的かつ客観的に把握,検討し,総合的に判断する必要がある。

認定要件
次の①ないし③の業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症した脳・心臓疾患は,
労働基準法施行規則別表第1の2第8号に該当す
る疾病として取り扱う。


発症直前から前日までの間において,発生状態を時間的及び場所的
に明確にし得る異常な出来事(以下異常な出来事という。
)に遭遇
したこと



発症に近接した時期において,特に過重な業務(以下短期間の過重業務という。)に就労したこと



発症前の長期間にわたって,著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重
な業務(以下長期間の過重業務という。
)に就労したこと
過重負荷とは,医学経験則に照らして,脳・心臓疾患の発症の基礎とな
る血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ得ることが客観的に認められる負荷をいい,業務による明らかな過重負荷と認められるものとして,
異常な出来事短期間の過重業務及び長期間の過重業,務に区分し,認定要件としたものである。ここでいう自然経過とは,加齢,一般生活等において生体が受ける通常の要因による血管病変等の形成,進行及び増悪の経過をいう。

異常な出来事について
異常な出来事とは,具体的には次に掲げる出来事である。


極度の緊張,興奮,恐怖,驚愕等の強度の精神的緊張を引き起こす突発的又は予測困難な異常な事態



緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的又は予測困難な異常

な事態


急激で著しい作業環境の変化
評価期間

異常な出来事と発症との関連性については,
通常,
負荷を受けてから
24時間以内に症状が出現するとされているので,発症直前から前日までの間を評価期間とする。
過重負荷の有無の判断
異常な出来事と認められるか否かについては,①通常の業務遂行過程においては遭遇することが稀な事故又は災害等で,その程度が甚大であったか,②気温の上昇又は低下等の作業環境の変化が急激で著し
いものであったか等について検討し,
これらの出来事による身体的,

神的負荷が著しいと認められるか否かという観点から,客観的かつ総合的に判断する。

短期間の過重業務について
特に過重な業務
特に過重な業務とは,
日常業務に比較して特に過重な身体的,
精神的
負荷を生じさせたと客観的に認められる業務をいうものであり,日常業務に就労する上で受ける負荷の影響は,血管病変等の自然経過の範囲にとどまるものである。
ここでいう日常業務とは,
通常の所定労働時

間内の所定業務内容をいう。
評価期間
発症に近接した時期とは,発症前おおむね1週間をいう。
過重負荷の有無の判断
a
特に過重な業務に就労したと認められるか否かについては,業務

量,業務内容,作業環境等を考慮し,同僚労働者又は同種労働者(以下同僚等という。
)にとっても,特に過重な身体的,精神的負荷
と認められるか否かという観点から,客観的かつ総合的に判断する。ここでいう同僚等とは,
当該労働者と同程度の年齢,
経験等を有する
健康な状態にある者のほか,基礎疾患を有していたとしても日常業
務を支障なく遂行できる者をいう。
b
短期間の過重業務と発症との関連性を時間的にみた場合,医学的
には発症に近いほど影響が強く,発症から遡るほど関連性は希薄となるとされるので,次に示す業務と発症との時間的関連を考慮して,特に過重な業務と認められるか否かを判断する。


発症に最も密接な関連を有する業務は,発症直前から前日まで

の間の業務であるので,
まず,
この間の業務が特に過重であるか否

かを判断する。


発症直前から前日までの間の業務が特に過重であると認められ

ない場合であっても,発症前おおむね1週間以内に過重な業務が
継続している場合には,業務と発症との関連性があると考えられ
るので,この間の業務が特に過重であるか否かを判断する。なお,
発症前おおむね1週間以内に過重な業務が継続している場合の継
続とは,この期間中に過重な業務に就労した日が連続していると
いう趣旨であり,必ずしもこの期間を通じて過重な業務に就労し
た日が間断なく続いている場合のみをいうものではないから,発
症前おおむね1週間以内に就労しなかった日があったとしても,

このことをもって直ちに業務起因性を否定するものではない。
c
業務の過重性の具体的な評価に当たっては,以下に掲げる負荷要

因について十分検討する。


労働時間
労働時間の長さは,業務量の大きさを示す指標であり,また,過

重性の評価の最も重要な要因であるので,
評価期間における労働時
間については,十分に考慮する。例えば,発症直前から前日までの間に特に過度の長時間労働が認められるか,
発症前おおむね1週間
以内に継続した長時間労働が認められるか,
休日が確保されていた
か等の観点から検討し,評価する。



不規則な勤務
不規則な勤務については,
予定された業務スケジュールの変更の
頻度・程度,事前の通知状況,予測の度合,業務内容の変更の程度等の観点から検討し,評価する。


拘束時間の長い勤務
拘束時間の長い勤務については,拘束時間数,実労働時間数,労

働密度(実作業時間と手待時間との割合等)
,業務内容,休憩・仮
眠時間数,休憩・仮眠施設の状況(広さ,空調,騒音等)等の観点から検討し,評価する。


出張の多い勤務
出張については,出張中の業務内容,出張(特に時差のある海外

出張)の頻度,交通手段,移動時間及び移動時間中の状況,宿泊の有無,宿泊施設の状況,出張中における睡眠を含む休憩・休息の状況,出張による疲労の回復状況等の観点から検討し,評価する。


交替制勤務・深夜勤務
交替制勤務・深夜勤務については,勤務シフトの変更の度合,勤

務と次の勤務までの時間,
交替制勤務における深夜時間帯の頻度等
の観点から検討し,評価する。


作業環境
作業環境については,
脳・心臓疾患の発症との関連性が必ずしも

強くないとされていることから,
過重性の評価に当たっては付加的
に考慮する。


温度環境
温度環境については,寒冷の程度,防寒衣類の着用の状況,一
連続作業時間中の採暖の状況,暑熱と寒冷との交互の曝露の状

況,
激しい温度差がある場所への出入りの頻度等の観点から検討
し,評価する。なお,温度環境のうち高温環境については,脳・
心臓疾患の発症との関連性が明らかでないとされていることか
ら,
一般的に発症への影響は考え難いが,著しい高温環境下で業
務に就労している状況が認められる場合には,
過重性の評価に当
たって配慮する。


騒音
騒音については,おおむね80デシベルを超える騒音の程度,
その曝露時間・期間,
防音保護具の着用の状況等の観点から検討
し,評価する。



時差
飛行による時差については,5時間を超える時差の程度,
時差

を伴う移動の頻度等の観点から検討し,評価する。


精神的緊張を伴う業務
精神的緊張を伴う業務については,
別紙1
精神的緊張を伴う業務
に掲げられている具体的業務又は出来事に該当するものがある
場合には,負荷の程度を評価する視点により検討し,評価する。ま
た,精神的緊張と脳・心臓疾患の発症との関連性については,医学的に十分な解明がなされていないこと,
精神的緊張は業務以外にも
多く存在すること等から,
精神的緊張の程度が特に著しいと認めら
れるものについて評価する。

長期間の過重業務について
疲労の蓄積の考え方
恒常的な長時間労働等の負荷が長期間にわたって作用した場合に
は,
疲労の蓄積が生じ,これが血管病変等をその自然経過を超えて
著しく増悪させ,その結果,脳・心臓疾患を発症させることがある。こ
のことから,
発症との関連性において,
業務の過重性を評価するに当た
っては,
発症前の一定期間の就労実態等を考察し,
発症前における疲労
の蓄積がどの程度であったかという観点から判断することとする。特に過重な業務
特に過重な業務の考え方は,
短期間の過重業務における
特に過重な業務の場合

と同様である。

評価期間

発症前の長期間とは,発症前おおむね6か月間をいう。なお,発症前おおむね6か月より前の業務については,疲労の蓄積に係る業務の過重性を評価するに当たり,付加的要因として考慮する。
過重負荷の有無の判断
a
著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したと認めら
れるか否かについては,業務量,業務内容,作業環境等を考慮し,同僚等にとっても,
特に過重な身体的,
精神的負荷と認められるか否か
という観点から,客観的かつ総合的に判断する。

b
業務の過重性の具体的評価に当たっては,疲労の蓄積の観点から,
⒢)について十分に検討する。
その際,
疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる労働時
間に着目すると,
その時間が長いほど,
業務の過重性が増すところで
あり,
具体的には,
発症日を起点とした1か月単位の連続した期間を
みて,


発症前1か月間ないし6か月間にわたって,
1か月当たりおおむ
ね45時間を超える時間外労働が認められない場合は,
業務と発症
との関連性が弱いが,
おおむね45時間を超えて時間外労働時間が
長くなるほど,
業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できる
こと



発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ない
し6か月間にわたって,
1か月当たりおおむね80時間を超える時
間外労働が認められる場合は,
業務と発症との関連性が強いと評価
できること
を踏まえて判断する。
ここでいう時間外労働時間数は,
1週間当たり
40時間を超えて労働した時間数である。
また,
休日のない連続勤務

が長く続くほど業務と発症との関連性をより強めるものであり,逆に,
休日が十分確保されている場合は,
疲労は回復ないし回復傾向を
示すものである。

認定基準の運用上の留意点等に関する行政解釈(乙2)
厚生労働省労働基準局労災補償部補償課長は,都道府県労働局労働基準部長に宛てて,平成13年12月12日,基労補発第31号事務連絡

脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準の運用上の留意点等について

を発した。上記事務連絡は,厚生労働省労働基準局長通達平成13年基発第1063号の具体的運用に当たっての留意点を
連絡したものであり,
リスクファクターの評価について,
次のとおりの記載
がある。
脳・心臓疾患は,主に加齢,食生活等の日常生活による諸要因等の負荷により,
長い年月の生活の営みの中で極めて徐々に血管病変等が形成,
進行及
び増悪するといった自然経過をたどり発症するもので,
その発症には,
高血

圧,飲酒,喫煙,高脂血症,肥満,糖尿病等のリスクファクターの関与が指摘されており,
特に多数のリスクファクターを有する者は,
発症のリスクが
極めて高いとされている。このため,業務起因性の判断に当たっては,脳・心臓疾患を発症した労働者の健康状態を定期健康診断結果や既往症等によって把握し,
リスクファクター及び基礎疾患の状態,
程度を十分検討する必

要があるが,
認定基準の要件に該当する事案については,
明らかに業務以外
の原因により発症したと認められる場合等の特段の事情がない限り,業務起因性が認められる。


医学的知見

虚血性心疾患・動脈硬化の概要(乙1・63頁)
虚血性心疾患とは,血液を供給する導管としての冠状動脈の異常によ
って,
心筋の需要に応じた酸素の供給不足が生じ,
その結果心筋が酸素不
足(虚血)に陥り,心筋機能が障害される疾患である。
動脈硬化とは,動脈壁の病的な硬化・肥厚の病態を総称し,それに基づく導管としての機能不全をいう。

心筋梗塞(乙1・64~65頁)
概要

突然の冠血流途絶により生じた心筋壊死を心筋梗塞と定義する。致死率は30~50パーセントであり,死亡例の大半は発症から2時間以内に,致死的不整脈や心原性ショックによって死亡する。
成因
冠状動脈硬化病変の脂質に富むプラーク
(血管内膜の限局性肥厚)

突然破たんし,それに伴う血栓形成で冠状動脈内腔の閉塞を来し血流が途絶する。
その持続により心筋代謝の維持が不可能となり,
心筋壊死
が生じ発症してくる。心室細動や心原性ショックで非常に早期に死亡した例では,剖検でも梗塞巣が検出されないことがある。
急性心筋梗塞,不安定狭心症,心臓性突然死は,プラーク破たんと血
栓形成という共通の基礎病態から発症し,血管内腔の狭窄度と血流遮断持続時間等の違いによる虚血の程度差が臨床病型を決めているとの考えがあり,一括して急性冠症候群として扱うことが一般的となっている。

心停止(心臓性突然死を含む。(乙1・72~74頁)

概要
心停止とは,心拍出が無となり循環が停止した状態を指す。多くは,心電図上,心室静止,心室細動のいずれかを示す。何らの前兆なしに突然心停止を来す場合,救急蘇生が速やかに行われないと突然死に至る。基礎心疾患としては冠状動脈疾患が多く,
我が国の剖検では,
心血管
疾患によると思われる突然死のうち,冠状動脈疾患が76パーセント
を占める。
我が国の調査でも,
本邦においても突然発症する心停止の多
くは心室頻拍・心室細動が直接の原因であり,
その基礎心疾患としては
虚血性心疾患,次いで心筋症が多いと考えられる。
心室細動の成因
心室細動は,心室が不規則で無秩序な電気的興奮を示す状態であり,
梗塞,線維化,変性,肥大などの器質的心筋異常,心筋虚血,電解質異常,
アシドーシス,
低酸素などの心筋を取り巻く環境の異常を背景に発
生する。心室期外収縮を契機に突然発生する場合と持続性心室頻拍から移行する場合がある。
前者は急性心筋虚血時にしばしばみられる。

者は心筋梗塞慢性期や心筋症によくみられる発生様式である。

2
争点
本件の争点は,
亡Aの急性心不全が業務により生じたといえるか
(業務起因
性の有無)であり,その判断要素として,①短期間の過重業務の有無,②長期間の過重業務の有無,③業務以外の要因の有無が具体的な争点である。


短期間の過重業務の有無
【原告の主張】
亡Aの労働時間及び業務内容は次のとおり長時間かつ過酷な業務であり,亡Aは心臓疾患を発症させるような短期間の過重業務に従事していた。ア
発症前1週間の労働時間
労働時間に関する被告の主張を前提としても,亡Aは発症前1週間で27時間52分もの時間外労働をしており,1か月当たり100時間を超えるものであるから,過重性は明らかである。

発症直前2日間の業務内容
亡Aは,発症直前2日間(平成▲年▲月▲日及び▲日)
,取引先の有限会
社(以下Cという。
)において,海上の養殖魚の生け簀の上に乗って投
薬作業を,午前7時頃から午後5時頃まで行っていた。

投薬作業は,夏場は月に3~4回,冬場は月に1~2回しか行われないものであり,Cの従業員と異なり,営業職であった亡Aにとっては日常的な業務とはいい難いものである。当日は気温が急激に低下し,早朝の最低気温は3~4度,
日中の最高気温も6~7度で,
日照時間もほとんどなく,
亡A自身海が大しけであったと表現するような寒風の中での過酷な作
業を一日中行っていたものであり,日常的に海上での業務に従事しているわけではない亡Aにとっては,肉体的な疲労は大きい。また,亡Aは,生け簀の上でライフジャケットを着用しておらず,寒冷の海に転落する危険もあった上,営業担当者への当たりが厳しいCのD社長から投薬時間の管理を任されていたことから,精神的な緊張も大きいものであった。このよ
うに,発症直前2日間の業務は肉体的・精神的疲労を蓄積させるものであった。
【被告の主張】
争う。亡Aの労働時間及び業務内容は次のとおり評価すべきであり,認定基準におけるその他の負荷要因を検討しても,短期間の過重業務があったとはいえない。

発症前1週間の労働時間
発症前1週間(平成▲年▲月▲日から同年▲月▲日まで)の時間外労働時間は27時間52分であるところ,1日間(同年▲月▲日)の休日も確保され,継続した長時間労働があったとはいえない。


発症前2日間の業務内容
発症前2日間に行われたCにおける投薬作業について,Cからの報告や気象データによれば,海は荒れていたとは認められず,気温は低いものの通常の作業環境と判断される。また,作業内容も亡Aの日常の業務の範囲内であり,亡Aにおいて熟知していた内容であるから,精神的緊張を伴う業務とはいえず,負荷があったとはいえない。



長期間の過重業務の有無
【原告の主張】
亡Aは,次のとおり長時間労働,過酷な業務に従事していたのであり,心臓疾患を発症させるような長期間の過重業務に従事していたといえる。

発症前6か月間の業務内容
亡Aは,
大口取引先であるCを中心として多数の取引先を担当しており,
単に養殖魚用の魚薬の営業販売を行うだけでなく,投薬作業を手伝い,養殖魚に魚病が発生したり死んだりすれば,本件会社から支給されていた携帯電話によって緊急連絡を受けて直ちに取引先に赴き,魚を検査に出して
原因を分析し,その対策となる魚薬を納入していた。
特に,
Cとの関係では,
同社のD社長が営業担当者への当たりが厳しく,
養殖魚に魚病が発生したり死んだりすれば理不尽な叱責を受け,これによって競業他社の営業員が出入り禁止を言い渡されている場面を目撃しており,
生け簀内の養殖魚の数量の確認,
Cの従業員への魚病や投薬の指導,

県や水産試験場の調査への立会い,告別式の受付など,魚薬の営業販売には直接含まれない業務も指示され,取引を継続するためにこれに従っていた。さらに,平成25年7月頃に競合他社が出入り禁止を言い渡され,本件会社との取引量が増加したため,繁忙期である夏場を過ぎても業務量が落ち着かなかったことから,亡Aは本件営業所のE所長に対してCの担当
営業員を増やすよう求めたが,E所長は応じず,亡Aの業務過多に対する配慮はされなかった。
亡AがCのD社長からのストレスに耐え,肉体的・精神的に過酷な営業活動を行っていたことは,亡Aが本件営業所の3割の売上を占め,営業員2人分(本件営業所の営業員は7人であった。
)の働きをしていたことや,
亡Aの死亡からわずか3日後にCとの取引が代替の営業員を確保できずに打ち切られていることからも裏付けられている。このような,亡Aの発
症前6か月にわたる業務上の負荷は十分に考慮されるべきである。イ
発症前6か月の労働時間
本件会社が亡Aの労働時間を管理していなかったことから,亡Aの始業時刻および終業時刻は,生前の亡A本人による勤務記録(甲7・178~186頁)及び本件営業所の入退館記録(甲7・361~392頁)によ
って認定されるべきである。
休憩時間については,亡Aは本件会社から携帯電話を支給され,養殖魚が死んだ等の緊急の連絡があれば常に電話に出ることのできる状態にあり,現に土曜日の午前中に取引先から薬の注文が入った際もすぐに対応していた一方,本件会社の上司や取引先から携帯電話がつながらないとの苦
情を受けたとの記録は一切ないから,亡Aが携帯電話への連絡をして1時間の休憩時間を確保できていたとは認められない。
したがって,休憩1時間を確保できていないことを踏まえると,亡Aの実労働時間は,別紙2のとおりとなり,月平均80時間を超える時間外労働がある。

【被告の主張】
争う。

発症前6か月間の業務内容
原告の主張アは争う。生前の亡A本人が作成した勤務記録(甲7・17
8~186頁)及び営業員週報(同296~345頁)によれば,亡Aは,取引先の訪問,養殖魚用の魚薬の販売,投薬作業のサポート等を行っており,その他の原告が営業販売と無関係であると主張する業務も,営業に付随するものとして亡Aの日常業務の範囲内といえる。

発症前6か月間の労働時間
原告の主張イは争う。生前の亡A本人が作成した勤務記録(甲7・178~186頁)には一定の信憑性が認められるから,管理表(甲7・34
6~352頁)
,営業員週報(同296~345頁)
,運転日報(同353
~359頁)及び入退館記録(同362~392頁)により修正し,また,市立K病院及びL医院に通院している日については,下記の休憩1時間とは別に労働時間から控除した。なお,休日出勤については,終業時刻が午後3時以降とならない日については,休憩時間を取らずに帰宅したと認定
できる。
休憩時間について,本件営業所のE所長や取引先の関係者の供述によれば,亡Aは,勤務時間中に私病のため通院するなど,ある程度自己の裁量で時間調整をすることができ,営業の合間に昼食を取ったり昼寝したりするなどしていたから,少なくとも1時間の休憩は確保されていた。
したがって,亡Aの時間外労働時間は,別紙3のとおりであり,発症前1か月目が71時間33分,発症前2か月目が36時間27分,発症前3か月目が63時間57分,発症前4か月目が77時間12分,発症前5か月目が105時間20分,発症前6か月目が67時間であるところ,発症前5か月目は養殖魚に魚病が発生する繁忙期であったためであり,月平均
は70時間15分であって,80時間には至っていない。

認定基準におけるその他の負荷要因を検討しても,長期間の過重業務があったとはいえない。


業務以外の要因の有無
【被告の主張】
亡Aの救急搬送時における心電図記録は,通常12の誘導で計測すべきところを1つの誘導でしか計測しておらず,心筋梗塞の波形が検出されていないことをもって,急性心筋梗塞が原因で心室細動を発症した可能性を否定することはできない。
そして,亡Aには,高トリグリセライド血症,喫煙及び肥満というリスクファクターを有し,急性心筋梗塞の要因となる動脈硬化が相当に進展してい
たとうかがわれる上,健康診断で指摘を受けて平成25年4月以降高トリグリセライド血症の治療を開始したにもかかわらず,平成26年1月下旬まで自己判断で投薬を中止しているから,
心筋梗塞の発症率を高めていた。
また,
心筋梗塞は自宅以外の場所で午前8時から午前12時までに発症する例が多いとされるところ,亡Aが出勤後の午前7時頃に車で意識を失っているのを
発見されており,上記状況と類似している。
したがって,亡Aは基礎疾患により心停止を発症した可能性が高く,業務起因性は認めらない。
【原告の主張】
争う。

亡Aの基礎疾患については,本件不支給決定において,複数の専門医が死亡との因果関係は確定することができないとしており(甲7・249~256頁)
,業務起因性は否定されない。
第3
当裁判所の判断

1
認定事実
前提事実に加え,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。



本件営業所の営業員の所定労働時間及び労働時間管理の有無
本件営業所は,愛媛県宇和島市abc番地dに所在し(甲7・428頁),

営業員は7名であり(同395頁)
,本件営業所長が,約150件の取引先を
当該地域の取引先の数,会社の規模,性格,営業員の経験や能力を踏まえて同営業員に割り振り,分担させていた(同195~206頁)

営業員の所定労働時間は,始業時刻が午前8時30分,終業時刻が午後5時30分,休憩時間が1時間の8時間とされ,土曜日及び日曜日は休日とされていた(乙6・36条,41条)
。本件会社は,タイムカードや出勤簿によ
る労働時間管理をしておらず,本件営業所のE所長に提出されていた会社支
給のパソコン上の勤務表も,平成25年初め頃からは,実際の労働時間にかかわらず所定労働時間どおりに入力することとされ,
営業員に対して月20.
5時間のみなし残業手当が支給されていた(甲7・195~206頁)。
営業員に対しては,1台ずつ営業車が割り当てられ,出勤すると本件営業所内に入ることなく直ちに営業車に乗って営業に出掛け,営業が終わった後
は本件営業所に戻り,営業車を置いて帰宅していた(同195~206頁)。
また,
営業員は,
各日ごとの訪問取引先や面談内容を記載した営業員週報
(同
296~345頁)を作成し,E所長に提出していた(同261頁)。
本件営業所による労働時間管理がされていなかったことから,亡Aは,平成25年6月1日から平成26年2月1日までの間,自ら会社支給のパソコ
ンで勤務記録(同178~186頁)を作成して出退勤時刻を記録し,これを自宅のパソコンに転送して保存していた(同121~133頁)。


亡Aの取引先の訪問頻度,滞在時間及び業務内容

亡Aが割り当てられた取引先は,いずれも愛媛県南宇和郡e町のf町地区に所在するC,有限会社F(以下Fという。,G有限会社(以下G)
という。,有限会社H(以下Hという。,I有限会社(以下Iと


いう。
)及び有限会社J(以下Jという。
)の6件を主とし,それぞれ
次のとおり魚薬等の営業販売や投薬作業を行っていた。
亡A先の取引先は,いずれも同一地域にあり,取引先間の移動距離,移
動時間が短く,特にCの取引額が突出して多かった。
(甲7・195~217頁)

Cについて
亡Aは,Cを平日毎日訪問し,同社のD社長が朝礼に出席する午前8時頃に平均して1時間程度滞在し,また,同社の従業員の仕事が終わる午後5時頃に再び訪問することもあり,概ね30分程度滞在していた。朝方の訪問の際には,魚薬等の発注の確認や出荷時に養殖魚の状態を確
認していた。夕方の訪問の際には,養殖魚の数を確認するとともに,他の養殖業者への訪問によって収集した養殖魚の状態や魚病に関する情報をD社長に伝えていた。亡Aの収集した情報により,Cでは魚病への対策を前もって行うことができていたことなどから,D社長は亡Aを気に入り,取引量を伸ばしていた。

Cは,投薬作業において,亡Aに立ち会ってもらい,投薬時間などを計測していた。養殖魚が死んだ際には,D社長や担当者が亡Aに急ぎの連絡をし,急遽魚薬を搬入させたり,対策をともに考えさせたりすることもあった。そのため,養殖魚の状態が悪いときには,土曜日に訪問することもあった。日曜日はCが休みなので,亡Aが訪問することはなかった。
なお,亡AのCにおける業務内容の詳細は後記⑸のとおりである。(甲7・220~224頁)

Fについて
亡Aは,Fを週4~5日訪問し,概ね作業場での業務が終わる午後4時
頃から20~30分程度滞在していた。
その他,亡Aは,投薬を行う際には,午前8時から昼頃までの間,船に乗って沖に出て海上でFの従業員とともに作業していた。夏場は,午前7時30分から午前8時頃の養殖場の確認で死んだ魚がときどき発見され,そのような場合には亡Aの携帯電話に連絡があり,亡Aは,短時間訪問し
て検体となる死んだ魚を受け取り,外部の検査機関(e町水産課水産振興室)に持ち込んで検査を依頼し,検査結果を電話で伝えていた。
土曜日に訪問することは原則としてなかったが,魚薬がなくなった際に電話がかかり,午前中に届けることがあった。日曜日はFの休日なので,亡Aが訪問したり,携帯電話に連絡があることはなかった。
(甲7・225~226頁)

Gについて
亡Aは,Gを二,三日に1回程度訪問し,午前9時頃から昼頃の間に,10分以内ないし長くても30分程度滞在し,魚薬等の注文・納品や他業者における養殖魚の状態や魚病について話をしていた。
Gにおいて,魚薬等の注文・納品以外に,投薬作業の手伝いなどは行っていない。土曜日に訪問することはほとんどなく,Gの休日である日曜日
に訪問することはなかった。
(甲7・227~228頁)

Hについて
亡Aは,Hを1週間に1回程度訪問し,午前10時前後に15分程度ないし長くても30分程度滞在し,魚薬等の注文・納品のほか,養殖魚の状
態や投薬の状況を確認し,投薬の方法等について助言を行っていたが,実際に投薬作業を手伝っていたことはない。また,土曜日と日曜日に訪問したことはなかった。
(甲7・229~230頁)

Iについて
亡Aは,
Iを平日のほぼ毎日訪問し,
午前中に15~30分程度滞在し,

従業員と話をして出荷状況等の情報収集を行っていた。魚薬の注文を受けて納品するのは,1~2か月に1回程度しかなく,投薬作業を依頼されたこともない。
(甲7・231頁)

Jについて
亡Aは,本件会社がJにとって主たる取引先ではないため,月1~2回程度しか訪問せず,午前10~11時頃に10~15分ないし長くとも1時間程度滞在した。主たる取引先が扱っていなかった栄養剤のみ納入しており,養殖の方法や魚薬に関する話をしていたこともあったが,投薬作業を行ったことはなかった。
(甲7・232~233頁)


亡Aの取引先の所在地及び本件営業所からの移動距離・時間
亡Aの取引先の所在地は,Cが愛媛県南宇和郡e町g,Gがe町ij,H
がe町kl,Iがe町mn,Jがe町ko-p,Fがe町iqであり,本件営業所(愛媛県宇和島市abc番地d)からCまでは車で1時間ないし1時間30分程度(約50キロメートル)
,各取引先の間は車で10分以内(二,
三キロメートル)の移動であった(甲7・97頁,408~414頁,乙13,14)


なお,亡A以外の営業員の担当する取引先は,各取引先間の距離が離れており,移動に要する負担は亡A以外の営業員の方が大きかった(乙22)。


亡Aの休憩等の状況
本件営業所の営業員は,各取引先への訪問の合間などに,各自の判断で休
憩を取ることとされていたところ,E所長は,亡Aが営業車の中で30分ないし1時間程度寝ていたのを目撃したり,取引先から亡Aが頻繁に営業車の中で寝ていた旨を聞いたりしていた。月曜日から金曜日までは妻である原告の作った弁当を持参し,営業の合間にこれを食べていた。亡Aが使用していた営業車の中には,営業の合間に読んでいたと思われる雑誌類が置かれてい
た(甲7・121~133頁,乙11)

亡Aは,脂質異常症等の既往症により,業務時間中に市立K病院に通院しており,平成26年1月22日の午後0時30分頃から午後1時19分頃までの間,同月24日の午後3時16分頃から午後4時19分頃までの間,診療を受けた(甲7・239頁)
。また,亡Aは,取引先と同一地域内(愛媛県

南宇和郡e町)にあるL医院に,業務時間中に通院しており,平成25年11月25日の午前10時30分頃から午後0時30分頃までの間,同月29日の午前10時15分頃から午前11時15分頃までの間,平成26年1月10日の午前11時頃から午後0時頃までの間,同月17日の午前10時頃から午前11時頃までの間,同月24日の午前10時40分頃から午前11時40分頃までの間,同月31日の午前11時頃から午後0時頃までの間,それぞれ診療を受けた(同240頁)
。なお,上記各日の診療に要した時間に

ついて,初診日は1時間以上を要するものの,その他は1時間程度である。⑸

亡AのCとの取引状況

営業員週報の記載
亡Aの平成25年3月から平成26年1月までの間の営業員週報の中に
は,Cの面談内容,特にD社長の様子等について,要旨として別紙4のような記載があるところ(甲7・296~345頁)
,その大要は次のとおり
である。
Cにおける亡Aの業務内容
亡Aは,複数の取引先から養殖魚に発生した魚病や出荷の状況につい
て情報収集を行い,D社長に報告して対策としての魚薬を提案し,その了解を得て魚薬を納入するだけでなく,投薬作業に立ち会ってCの従業員を指導していた。
また,D社長の指示を受け,Cの従業員に対して魚薬の投薬方法について指示するだけでなく,養殖魚の尾数把握や給餌管理についても委任
され,各養殖魚の担当者が交替した際には投薬,給餌,尾数把握について指導を行っていた。
こうした労苦に対し,亡Aは,D社長から信頼している旨の言葉を掛けられていた。
D社長の従業員や取引業者に対する接し方
へいし

CのD社長は,養殖魚の斃死が増えたり,出荷量が伸び悩んだ際に機嫌が悪くなり,従業員や亡Aら取引業者に対して叱責することがあり,必ずしも従業員や取引業者に落ち度がないと思われる場合や多年にわたりCに貢献してきた場合も少なくなかったにもかかわらず,従業員に降格を示唆したり取引業者を出入り禁止とするなどしたが,亡Aが出入り禁止となったことはなかった。
平成25年3月から同年6月までの間
養殖魚に寄生虫が付着している等と連絡を受けて,急きょ消毒作業を実施することがあり,その際には自ら生け簀において投薬を指導した。また,養殖魚の斃死が生じた際には,D社長の指示を受けて沖に出て状況を確認し,検体を検査室(e町水産課水産振興室)に持ち込んで検査
結果を伝えた上,対策となる投薬を提案して,魚薬の単独受注につなげるなどした。
D社長は,養殖魚の出荷前の時期であるため大きさや餌食い等について敏感となっており,これらが芳しくないと知ると激怒して責任者を叱責し,亡Aに命じて給餌日程を計画させたり,養殖魚の状態を記入する
表を作成させたり,新たな責任者に対して投薬や給餌について指導させたりした。亡Aも,尾数把握が不十分であるとして,D社長から叱責されたことがあり,信頼回復に向けて努力していた。
Cに対して魚薬等を納入していた業者は,本件会社のほかMであったところ,Mの担当者が他社での投薬作業に従事するため投薬に立ち会え
ないが商品だけ納入してよいか尋ねたが,
D社長はこれを拒絶していた。
平成25年7月から同年9月までの間
養殖魚の出荷時期に入り,D社長の機嫌が出荷量や斃死数によって頻繁に変わり,出入り禁止を言われる業者も増加していた。
平成25年7月初め頃,出荷量が少ないことから,D社長が,Mの担
当者に対し,情報を持って来ない営業担当者はいらないとして出入り禁止とした。これにより,魚薬の納入が本件会社の単独受注となり,D社長から亡Aに対して営業担当の増員を求められたほか,投薬指導,尾数管理,給餌量管理を一任された。同年8月に入ると,Mの担当者の出入り禁止は解除されたが,同担当者は,従業員の退職が増えたことをもって再び出入り禁止とすることもあり得るなどとD社長から言われ,情報を上げようと必死となって法令違反と思われるような提案をすることも
あった。
フォークリフト業者や飼料業者なども,多年にわたりD社長の要求に応えてきたにもかかわらず,故障が多いことや出荷量が少ないことなどから,D社長から取引停止を告げられたり,出入り禁止を予告されるなどした。

平成25年10月から平成26年1月までの間
Mの担当者の出入り再開後も,平成25年10月頃は消毒薬の納入が本件会社の単独受注のままであったため,投薬作業への立会いはMの担当者は来ず,亡Aのみで行っていた。亡Aは,Mの担当者が投薬作業に立ち会わないことについてD社長から尋ねられたものの,消毒薬を納入
できず売上がないから立ち会わないという理由をそのまま伝えると再び出入り禁止となるおそれがあるため,自らの投薬実施日の伝達不足と伝えていた。
D社長から,養殖魚の責任者が交替したため,出荷について亡Aが指示を出すように言われたことから,同責任者と密に連絡を取り合って養
殖尾数や出荷尾数を確実に把握して指導していくこととした。

M担当者の認識
C等において亡Aと競業していたM担当者のNは,自身や亡Aの業務について,次のとおり認識していた(甲7・236~238頁)


Mは本件会社と同じく魚薬等の営業販売を行っており,自らと亡AとはCなど一部の業者について競合していた。
亡Aは,自身と異なり,九州内の魚の価格帯や出荷状況等の魚薬と直接関係のない情報まで収集し,D社長に報告していた。自らはこうした情報収集が不得手であったため,D社長にもっと情報を持ってくるよう怒られ,平成25年夏頃には今後会わないなどと言われた。
D社長と面会できなくなったことで,Cの訪問回数は週2~3回と半
減し,売上も1~2割程度となったが,本件会社が扱っていない商品等の納入は継続していたため,完全に取引停止となったものではない。D社長は気分屋であったため,怒られたり怒鳴られたりすることがあったが,他の養殖業者においても同様である。特に魚病が発生して斃死した場合には,魚薬の納入業者が怒りの矛先になることが多い。

消毒作業を行うのはCの従業員らであり,魚薬納入業者が必ず立ち会わなければならないものではないが,養殖魚の状態が確認できるため立ち会うことが多い。
自らにとってCは主たる取引先の一つにすぎなかったが,亡Aにとっては最大の取引先であったので,プレッシャーはより大きかったものと
思われる。

亡Aの営業成績
亡Aの平成25年4月から平成26年1月までの本件営業所(営業員7名)における営業成績は,下表のとおりであり,この期間中の亡Aの本件
営業所における売上に占める割合は22.
5パーセントとなるが
(乙24,
25)そのうちCに対する売上は66パーセントを占めている

(乙22)

時期

売上

構成比率

ノルマ達成率

24.
6%

63.6%

平成25年4月

527万6800円

平成25年5月

1034万6150円

19.
5%113.7%

平成25年6月

1099万9900円

11.
6%100.0%

平成25年7月

1790万1150円

30.
4%245.2%

平成25年8月

583万3000円

18.
9%

78.8%

平成25年9月

799万9000円

13.
9%

73.4%

平成25年10月

1112万2000円

25.
1%158.9%

平成25年11月

1015万1000円

32.
0%145.0%

平成25年12月

1214万4350円

43.
5%139.6%

810万6400円

35.
0%115.8%

平成26年1月
期間計

9987万9970円

22.
5%

(ただし,売上合計額につき,乙25号証には上記金額の記載があるが,正確な合計額は,9987万9750円である。


亡AのE所長に対する営業員増員の要望
平成25年7月初め頃にMの担当者がCを出入り禁止となったことから,亡AはE所長に対して今後の対応について相談し,売上を選ぶのであ
れば訪問せざるを得ないので営業員を増やせないかと尋ねたが,E所長は現状で増員は難しく,負担となるようであれば売上が落ちても訪問回数を減らしてよい旨伝えた(甲7・205~206頁)


亡Aの生け簀上での転倒事故
平成23年6月22日,亡AはCにおける作業中に生け簀から落ちて背
中を強打し,腰に近い背骨を骨折したが,業務中の事故であると報告するとCや本件会社に迷惑を掛けると考え,骨折の原因を病院に告げずに通院していた(甲17の3・6~9頁,甲18)


亡Aの死亡前2日間の業務内容
亡Aは,平成26年2月5日及び同月6日,Cにおいて消毒作業に立ち会い,沖に出て生け簀の上に乗って投薬時間を管理していたほか,従業員と同じく作業着を着てライフジャケットは着用せず,足場が不安定な中で従業員とともに網を引く作業を行っていた。
同2日間は,同月4日まで日中に6~9度台であった気温が低下し,気温3~7度台となり,同月6日には日照時間もほぼ皆無となった。
しけ
亡Aは妻である原告に対して,海がとても時化ており,日没も早くなっていたが,翌日以降に持ち越すとD社長の機嫌を損ねるため,従業員とともに懸命に網を引く作業を行っていたと述べていた。亡Aは,同月6日の帰宅後
は,夕食をほとんど取らず,疲れた様子で就寝した。
(甲7・415~427頁,甲17の3・12~13頁,甲19)2
業務起因性の判断基準
労働者の死亡等を業務上のものというためには,当該労働者が当該業務に従事しなければ当該結果(死亡等)は生じなかったという条件関係が認められる
だけでは足りず,両者の間に法的に見て労災補償を認めるのを相当とする関係(相当因果関係)があることを要し,死亡等の結果が当該業務に内在する危険の現実化と認められることが必要である。
そして,認定基準は,医学及び法学の専門家で構成される専門検討会が脳・心臓疾患に関する最新の医学的知見を多数収集し,分析・検討を加えて取りま
とめた報告書を踏まえて作成されたものであり,医学的根拠に基づく信頼性の高いものであるから,業務起因性の判断に当たって十分に尊重されるべきものである。
そこで,認定基準において示されている判断枠組みを参考にして,亡Aの急性心不全が業務により生じたものといえるかを判断することとする。
3


争点⑴(短期間の過重業務の有無)について
労働時間
亡Aの発症前1週間(平成26年1月31日から同年2月6日)の時間外労働時間は,後記4の認定のとおり27時間52分であるところ,平成25
年9月から11月までに複数の週にわたって同程度の時間外労働をしていたものであるから(例えば,平成25年9月19日から同年10月9日の3週間にわたって,23時間ないし31時間50分の時間外労働をしている。,)
他の時期と比較して特に過度の長時間労働をしていたものとはいえない。また,発症5日前の平成26年2月2日には休日が確保されていたことも併せ考慮すると,継続した長時間労働があるとも認められない。


平成26年2月5日及び6日の業務の作業環境,精神的緊張の程度等ア
前記1⑹の認定事実によれば,平成26年2月5日及び6日のCにおける消毒作業は,前日までに比べて冷え込み,日照も乏しい中での作業であり,営業車に乗って取引先を回ることが大半の営業職の亡Aにとっては厳しい作業環境であったものと考えられる。そして,これまでも海上での消
毒作業に従事したことがある亡Aが,海が時化ていたと述べていたことは,養殖業者にとってはさほどではないにせよ,亡Aにとっては,これまでの消毒作業に比べて作業環境が過酷であると感じていたものということができる。また,消毒作業においては,亡Aも従業員とともに網を引く作業を行うが,亡Aにとっては肉体的負担の大きいものといえる上,寒冷
の海に転落する危険もあり,前記1⑸オに認定したとおり,過去に生け簀から転落して骨折した経験もある中でライフジャケットを付けずに作業していたことは,精神的緊張も要するものであったということができる。また,前記1⑸アの営業員週報の記載や同⑹の認定事実によれば,亡AはD社長から消毒作業における従業員に対する立会指導を任され,平成2
6年2月5日及び6日のうちに作業を終えるよう指示を受けており,これを達成できなかった場合にはD社長の信用を損ねるおそれがあったものであり,ひいては,自らの営業成績のみならず,本件営業所の売上にも影響を与えかねないものであったと考えられるのであり,消毒作業においては養殖魚の状態や投薬量によって厳密な時間管理が求められること(甲1
7の1・6頁)も踏まえると,上記2日間の消毒作業は,その点においても平素より精神的緊張が大きい面があったと認められるのである。以上のように,亡Aの平成26年2月5日及び6日の消毒作業は,営業職の亡Aにとって,厳しい作業環境の下で行われた,肉体的疲労や精神的緊張が大きい面があったものということができる。

他方,平成26年2月5日及び6日の消毒作業は,客観的にみると,作業が困難であるほどの時化た天候とはいえなかったものと認められ(甲
7・223頁)
,頻繁にではないにせよ,亡Aが月に数回は消毒作業に立ち
会っていたことからすれば,普段の業務と全く異質の業務とはいえず,精神的緊張が大きい面があるにせよ,同業務自体について特に作業環境が過酷であったり,精神的緊張が著しいものとまでは認め難い。


小括
前記⑴の労働時間や,前記⑵の業務の負荷によれば,亡Aが短期間の過重業務をしていたとは認められない。

4
争点⑵(長期間の過重業務の有無)について


労働時間

始業及び終業時刻
亡Aの始業及び終業時間は,同人作成の勤務記録(甲7・178~186頁)を基本として,管理表(甲7・346~352頁)
,営業員週報(同
296~345頁)
,運転日報(同353~359頁)及び入退館記録(同
362~392頁)を加味すれば,別紙3のとおりであると認めるのが合理的であり,相当である。


休憩時間
前記1⑵に認定のとおり,亡Aが取引先を訪問するのは主に午前中に集中しており,CやFなど午後にも訪問する取引先も存在したが,前記1⑶認定のとおり,取引先がいずれも愛媛県南宇和郡e町に所在し,各
取引先間が車で10分以内の距離にあった。そして,前記1⑷に認定のとおり,亡Aは営業車の中で30分ないし1時間程度寝ているのを目撃されたり,業務時間中に1時間程度の通院を行っていたこともあったことなどからすれば,亡Aは,取引先を訪問する合間に少なくとも平均1時間の休憩時間を取っていたものと認めるのが相当である。
また,上記の休憩時間に加えて,前記1⑷に認定事実のとおり,亡Aは,業務時間中に約1時間にわたり市立K病院やL医院で診療を受けて
いるから,これを別途休憩時間として労働時間から控除するのが相当である(なお,控除すべき時間は,各日とも1時間として算定した。。)
したがって,
これらを考慮した結果は,
別紙3記載のとおりである
(別
紙3の1日の拘束時間数欄の時間数から上記休憩時間を控除した結果が1日の労働時間数欄の時間数となる。。


この点,原告は,亡Aが本件会社から携帯電話を支給され,時間帯や休日にかかわらず取引先や本件会社から緊急の連絡に対応していたから,休憩時間を確保することはできなかったと主張する。
確かに,亡AはCら取引先において養殖魚の斃死などが発生した際には,緊急に連絡を受けて確認に赴いたり対策となる魚薬を納入したりし
ていたものと認められるが,そのような事態が頻発していたとは認められないし,一日中緊急の連絡に備えなければならない状態にあったものとは認め難く,現に,亡Aが営業車の中で休憩したり,病院で診療を受けていたことなどを踏まえると,亡Aは,平均して午後の少なくとも1時間は労働から解放された状態にあったものというべきである。

したがって,原告の主張を採用することはできない。

以上によれば,亡Aの時間外労働時間数は別紙3のとおりと認められ,これによれば,発症前1か月間が71時間33分,発症前2か月間が36時間27分,発症前3か月間が63時間57分,発症前4か月間が77時
間12分,発症前5か月間が105時間20分,発症前6か月間が67時間であり,月平均70時間15分であったと認められる。


精神的緊張の程度等

前記1⑸認定のとおり,亡Aの営業成績は,比較的良好なものであったが,その大部分をCからの売上に依存しており,それはCのD社長からの信頼を得て売上を伸ばしてきたものであった。その反面,D社長からの信
頼を損なうことになれば,自らの営業成績ばかりか本件営業所の売上にも大きな影響を与えかねない状況にもあったものでもある。
すなわち,亡Aは,1日2回程度の割合でCを訪問し,D社長の求めに応じて,魚薬に関する情報提供や投薬指導のみならず,競合業者における出荷状況等に関する情報提供,養殖魚の管理及びこれらに関する従業員の
指導など,Cの業務全般に対するサポートを行っていた。他方,D社長は,むら気が多く,取引業者や従業員等に対して理不尽とも思えるような叱責をしたり,出入り禁止を告げて取引量を大幅に減らすようなことがあり,亡Aもそのような場面を目の当たりにしていたのである。
確かに,亡Aは,D社長から理不尽な叱責を受けていたような事情まで
はうかがわれないし,むしろ,気に入られて業務を依頼されていたものと見受けられ,亡AもD社長のことが好きであるといった発言をしていたようである。
しかし,そのような状況は,亡Aの日頃の営業努力の成果等に依るものであり,実際には,恒常的に,D社長の要求に応え,その信頼を損ねない
ように努めて行動しなければならなかったものと考えられるのである。加えて,平成25年7月初めにM担当者が出入り禁止を言い渡された以降,亡AのCに対する魚薬の販売量が増加して投薬指導などの負担が増加するとともに,M担当者からの助力も期待できない状態となる一方,D社長から営業員の増員を求められたにもかかわらず,E所長は,亡Aに対し,
営業員増員ができないのでCの訪問回数を減らしてよいなどと指示しているが,Cから多くの営業成績を上げている亡Aが,その訪問回数を減らすなどということはおよそ考え難いことであったというべきであり,これらの状況からすれば,亡Aの精神的緊張は,例年に比して,相当大きくなっていたものと認められるのである。

この点,被告は,亡Aの上記業務状況は日常業務の範囲内といえると主張するが,亡Aの業務が営業職としての範囲に含まれるとしても,Cとの
取引の重要性やD社長との関係性に対する考慮に乏しいものといわなければならず,採用することはできない。


小括
以上によれば,亡Aの発症前6か月間の業務は,例年と異なり繁忙期を過ぎても70時間前後の長時間の時間外労働が認められるものであるところ,
認定基準にいう発症前2か月間ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合には当たらないものの,相当な長時間労働が継続していたというべきであり,さらには,死亡直前の平成▲年▲月▲日及び▲日に厳しい作業環境での消毒業務を行ったことを併せ考慮すると,業務と発症とは相当程度の関連性があるものというべき
である。
これに加えて,その時期の亡Aの業務内容は,例年と比較しても,重要な取引先に対する精神的緊張の相当大きいものであったと認められ,亡Aは,肉体的・精神的負荷の大きい業務を長期間にわたり継続していたものであるから,亡Aの業務は心臓疾患を発症するような過重性があったものというべ
きである。
そうであれば,亡Aに発症した急性心不全については,明らかに業務以外の原因により発症したと認められる場合等の特段の事情がない限り,業務起因性を認めるのが相当である。
5
争点⑶(業務以外の要因の有無)について


被告は,亡Aには急性心筋梗塞の複数のリスクファクターを有し,救急搬送時の心電図記録でこれを否定するには足りないから,基礎疾患により心停止を発症した可能性が高く,業務起因性は認められないと主張するところ,これに沿うO医師作成の意見書(乙16。以下O意見書という。
)が存す
る。


この点,O意見書によれば,亡Aは,高トリグリセライド血症(脂質異常症)
,内臓脂肪蓄積型肥満,1日20本を30年以上続けてきた喫煙歴があり,複数のリスクファクターを抱えていたことが認められる上,高トリグリセライド血症を指摘されて投薬を勧められたにもかかわらず自己判断で中止しているから,動脈硬化が相当に進展していたとうかがわれる。さらに,我が国における心筋梗塞発症事例の33.3パーセントは自宅以外であり,発
症のピークは午前8時から午後0時まで,最初に失神を呈する例は2ないし5パーセントであるから,亡Aの発症に類似する状況である。したがって,亡Aが車を運転中に心筋梗塞を発症して心室細動を合併した可能性が高いこと,救急搬送時の心電図で心筋梗塞を示す所見は認められないが,この事実によって亡Aが心筋梗塞を発症していた可能性を否定することはできないこ
と,亡Aの死因は心停止(心臓突然死)であり,その直接原因である心室細動,心室細動をもたらした原因疾患について急性心筋梗塞の発症を心電図によって確認できないが,亡Aが複数以上のリスクファクターを有すること,突然の発症であること,重篤な不整脈である心室細動を発症する他の器質的心疾患は否定できることなどの臨床及び発症状況からすると急性心筋梗塞で
ある可能性が高いことなどが指摘されている。


確かに,亡Aは平成25年4月から市立K病院で脂質異常症(高トリグリセライド血症)の内服治療を開始したが,自己判断で服薬を中止し,CPKも高値であったため,平成26年1月22日受診時に再度内服を再開するよ
う指示していたこと(甲7・239,250,252,253頁),1日20
本の喫煙を30年間続けていたこと(乙17)など,O意見書の指摘する急性心筋梗塞のリスクファクターが存在したことが認められ,1日20本もの喫煙を30年にわたり継続していた上,平成25年4月からは,脂質異常症(高トリグリセライド血症)について,経過観察や健康指導にとどまらず,投薬治療が開始されていたことからすれば,その頃までには,亡Aの生活習慣等が血管病変を形成し,進行させる有意な要因になっていたであろうことは,一定程度うかがわれるものである。これに加え,虚血性心疾患は心停止(心室細動)を引き起こす主な基礎疾患として理解されていること(乙1・72頁)亡Aは自己判断で脂質異常症の投薬を中止しており,

平成26年1
月22日には医師から再度内服を再開するよう指示されていたことからする
と,亡Aが死亡した時期には,亡Aの血管疾患はさらに進行していて,これが原因となって急性心筋梗塞を発症し,これにより心室細動を引き起こした可能性は決して小さいものとはいえなかったということができる。しかし,地方労災医員であるP医師作成の意見書(甲7・254~256頁,12。以下P意見書という。
)には,上記リスクファクターによって

心筋梗塞を発症した可能性は否定することができないものの,これらが亡Aの死因である心室細動の発症に与えた具体的影響は不明であるとし,また,定期健康診断における心電図でST異常がみられCPK高値もあったため心筋症に罹患していた可能性はあるものの,市立K病院における心臓エコー検査でみられた一部心筋の肥厚の可能性の所見のみから心筋症であるとは診断
できないから,心室細動と私病との関連は不明であるとされている。また,Q医師の意見書(甲7・250頁)にも,心室細動の原因について心筋梗塞などの心疾患が考えられるが,確定は得られなかった旨のP意見書に沿う記載があるのであって,帰するところ,亡Aが急性心筋梗塞を発症したと認めるには至らないものといわざるを得ないのである。加えて,O意見書は,亡
Aの業務の過重性を評価していない点でも疑義があり,仮に,亡Aが急性心筋梗塞を発症していたとしても,亡Aの業務に関する負荷等及び血管病変に関する前記の認定説示からすれば,それが明らかに業務以外の原因により発症したとすることはできないと考えられるのである。
以上からすれば,亡Aの急性心不全について,明らかに業務以外の原因により発症したなどの事情は認められず,業務起因性を否定することはできない。

6
結論
以上の次第であるから,亡Aの急性心不全は,業務に起因して発症したものと認められ,労働基準法施行規則別表第1の2第8号所定の

長期間にわたる長時間の業務その他血管病変等を著しく増悪させる業務による…心停止(心臓性突然死を含む。

に当たるところ,業務起因性がないとした本件不支給決定)
にはその判断を誤った違法があるというべきであるから,いずれも取消しを免れない。
よって,主文のとおり判決する。
福岡地方裁判所第5民事部

裁判長裁判官

鈴木
裁判官

酒井博直樹
裁判官横山寛は,転補のため,署名押印することができない。

裁判長裁判官

鈴木博
(別紙1)精神的緊張を伴う業務
日常的に精神的緊張を伴う業務
具体的業務
負荷の程度を評価する視点
常に自分あるいは他人の生命,財産が危険性の度合,業務量(労働時間,労働密度),就労期間,
脅かされる危険性を有する業務
経験,適応能力,会社の支援,予想される被害の程度等

危険回避責任がある業務
人命や人の一生を左右しかねない重大
な判断や処置が求められる業務
極めて危険な物質を取り扱う業務
会社に多大な損失をもたらし得るよう
な重大な責任のある業務
過大なノルマのある業務
決められた時間
(納期等)
どおりに遂行
しなければならないような困難な業務
顧客との大きなトラブルや複雑な労使
紛争の処理等を担当する業務
周囲の理解や支障のない状況下での困
難な業務
複雑困難な新規事業,会社の建て直し
を担当する業務

ノルマの内容,
困難性強制性,業務量

(労働時間,
労働密
ペナルティの有無等
度)
,就労期間,経験,適
阻害要因の大きさ,
達成の困難応能力,会社の支援等
性,ペナルティの有無,納期等
の変更の可能性等
顧客の位置付け,損害の程度,
労使紛争の解決の困難性等
業務の困難度,
社内での立場等
プロジェクト内での立場,
実行
の困難性等

発症に近接した時期における精神的緊張を伴う業務に関連する出来事出来事
負荷の程度を評価する視点
労働災害で大きな怪我や病気をした。
被災の程度,後遺障害の有無,社会復帰の困難性等
重大な事故や災害の発生に直接関与した。
事故の大きさ,加害の程度等
悲惨な事故や災害の体験(目撃)をした。
事故や被害の程度,恐怖感,異常性の程度等
重大な事故(事件)について責任を問われた。事故
(事件)
の内容,
責任の度合,
社会的反響の程度,
ペナルティの有無等
仕事上の大きなミスをした。
失敗の程度・重大性,損害等の程度,ペナルティの有
無等
ノルマが達成できなかった。
ノルマの内容,
達成の困難性,
強制性,
達成率の程度,
ペナルティの有無等
異動(転勤,配置転換,出向等)があった。業務内容・身分等の変化,異動理由,不利益の程度等上司,顧客等との大きなトラブルがあった。トラブル発生時の状況,程度等
(別紙4)営業員週報
H25.3.12
H25.3.18

H25.3.26

H25.4.1

H25.4.16
H25.5.7

H25.5.21

H25.5.27
H25.6.3

H25.6.6
H25.6.7

H25.6.10

H25.6.14

社長から自宅に何度も電話をされ,Cを営業に訪れた種苗場について質問を受けたため,ネットで検索した上で予め説明をしていたところ,社長は同種苗場との取引を断った。カンパチに寄生虫が付着していたため,急遽消毒を実施し,16台の生け簀への投薬を立会指導した。1週間延ばすと危険な状態にあったことを社長に報告した。創業者である社長の父親が死亡したため,同月20日の告別式の受付を依頼された。寄生虫がひどくなっているとの報告を受け,
カンパチに急遽消毒を実施し,
17台の生け簀
への投薬を立会指導した。
社長から様子を見るよう依頼され,
1週間延ばすとスレや斃死が
出ていた可能性があったと報告した。
競合業者のMの担当者が,他の取引先での投薬があり来られないが消毒薬だけ持ってきて良いかと尋ねたところ,
社長は,
立会に来られないのに商品だけ置いていくのは勝手すぎる
として,断固として断り,本件会社から納入した。
社長から稚魚責任者へスズキのサイズや餌食いを聞かれ,5kgで餌食いも悪いと答え1.
たところ,
社長が激怒する。
6月の出荷開始前までに2kgができないのであれば責任者を
降格。
昨年もスズキの出荷サイズが小さく,
今年は社長も気にしていたが,
サイズに関して
は責任者も大き目で報告してきて下方修正したのが社長の逆鱗に触れる。社長と作業班責任者とともに話合いを行い,
日曜を含む週7日の給餌日程を立て,
自ら自宅で給餌日程を作
成し,翌朝に社長に報告。
消毒薬の納入順番がMの担当であったが,
他社での投薬があり立ち合えないため,
前日に持
って来て良いか尋ねたが,社長は立ち合えないなら商品をこちらで準備すると突っぱねた。社長や夫人から体調には十分に気を付けて無理をしないように言われ,夫人からは社長からのストレスで病気になったのではないかと本気で心配されたので,ストレスよりも自分の食生活によるものですと説明する。今週末の社長と漁協参事との懇親会を欠席することを詫びた。
新たに定期投与が決定した魚薬について,
自らの提案にもかかわらず,
半分がMからの納入
となる。
社長は,
養殖魚の出荷前で餌代や栄養剤等の使用金額がMAXになり,
毎年のことだが機嫌
が悪い。
カンパチに対するワクチン投与が決定し,社長からワクチンの段取りを責任者と打ち合わせて行うよう指示される。
カンパチに対するワクチン投与を,一台当たり1.2時間×7台の生け簀について実施した。
社長に接種状況や魚の状態を説明したところ,
もっと選別を厳しくして欲しかったとの
こと。一応,撥ねる魚は全て撥ねたと説明した。
他業者での消毒作業に立ち合って得られた養殖魚の状態を社長に説明し,選別を提案。カンパチ稚魚導入と船上での消毒作業に立ち合い,下船後,社長に状況を説明する。Mが7日,
8日に他業者のワクチン接種で不在のため,
消毒薬に加え,
翌日から新たに魚薬
を追加することで社長の了解を得,
受注することができ,
自身が入院中のロスを取り戻すこ
とができた。
カンパチ稚魚の魚病検査で異常が見られたため,
検査室に持ち込んで原因を聴取し,
社長に
報告して魚薬投与を勧めて受注につなげた。
社長から,
スズキの斃死が増加しているため沖に出て確認するよう依頼され,その結果を報
告する。
社長が従業員からの報告が遅れがちであると激怒し,給餌班の従業員が魚の状態を毎日記入するための表の作成を依頼される。
カンパチの斃死は減少したものの,
検体にて魚病が確認されたため,
社長に報告して新たに
魚薬の投与を了解され,これを本件会社が単独受注する。
スズキの斃死の増加に伴い,
給餌者の怠慢であるとして担当者が変更されたため,
魚薬や栄
養剤の投与について一から説明する。

H25.6.20

H25.6.26

H25.7.1

H25.7.4
H25.7.11

H25.7.22
H25.7.25

H25.7.29
H25.8.2
H25.8.5
H25.8.9
H25.8.12

H25.8.23

H25.8.26

カンパチの出荷2日目にて4200尾いるはずの生け簀が3400尾しかおらず,社長が激怒し,
責任者クラスの従業員を呼びつけて事情を聴取。
自分も呼ばれて消毒作業に立ち合
っているに尾数を把握していないことを叱責される。日々の斃死数は台帳に記録しているので情報の記入漏れはないと説明するが,
社長から,
スズキの投薬は勝手にやっておけと言
われる。夕方,出張先の社長に架電して,従業員にしっかりと伝え,投薬の予定を説明した。
投薬,給餌,作業内容を責任者クラスと話し合い社長の信頼を得るべく誠心誠意対応していきます。
昨日のカンパチの消毒(生け簀3台)に続き,急遽マダイ稚魚7台の消毒を立会指導した。養殖魚の取引業者の一社が,
鯛の出荷が少なくカンパチばかり欲しがるとして,
取引停止と
なる。
また,
電動フォークリフトが雨で度々修理するも故障するため,
業者が出入り禁止と
なり,他社のフォークリフトに変更となる。
昨日出荷したカンパチの尾数が少なく,
朝一から社長が激怒し,
Mの担当者が出入り禁止と
なる。
自分が出入り禁止となってもおかしくなかったと思うが,
社長は,
情報も持って来ず
話を聞いているだけの営業はいらん,
と一喝されていた。
Mの担当者が出入り禁止を言い渡
されたのは3回目。社長から,投薬指導,尾数把握,給餌量管理を一手に任せると言われる。
来週月曜,
火曜のワクチン接種が決定し,
Mが出入り禁止中のため全量を本件会社が単独で
納入するよう,社長からも念を押される。単独納入のため,社長から増員を要請される。カンパチの消毒作業を実施するとともに,マダイ稚魚に寄生虫が付着していたため急遽消毒を実施し,ギリギリであったと社長に報告する。
稚魚班責任者が病気欠勤したため,交替した責任者への魚病や投薬の指導を依頼される。カンパチの消毒を立会指導し,午後5時30分まで生け簀13台を実施した。カンパチの消毒を急遽土曜日に実施するよう求められる。稚魚担当の新たな責任者へ魚病説明し,
魚の状態や餌食い等を報告するよう依頼する。
社長から投薬量を担当者に指示する
よう言われる。
カンパチ稚魚の斃死が増加し,
社長から急遽消毒を指示される。
本件営業所に魚薬の配達を
早急に依頼し,午前10時30分から午後6時までかけて消毒を行った。稚魚責任者に抜擢されていた従業員が家庭の事情でボーナス支給日に突然辞めると言ったため,社長が激怒し,責任者クラスの従業員に当たり散らす。
タイ班の責任者が欠勤し突然辞めるとメールしたため,
社長が激怒し,
引継ぎのなされない
給餌量等を新責任者に伝達した。
寄生虫が付着しており,
社長に進言して,
7日から9日にかけて,
カンパチとマダイの消毒
を実施した。
カンパチの消毒を実施し,盆前の消毒作業を完了した。
Mの出入り禁止は解除となったものの,解除した途端に従業員が2名退職したため,社長が,
不幸を運んできたみたいだとして,
退職者が更に1名出れば再び出入り禁止にすると述
べる。完全にとばっちりだが,明日は我が身。
14日から16日まで盆休みで帰省すると伝えると,社長から担当者へ投薬を間違えずに指示するよう言われる。
飼料業者の担当者が,
ブリの出荷数が少ないなどと激怒され,
出荷数が伸びなければ出入り
禁止にすると言い渡す。
フォークリフトのメーカー担当者も20年以上にわたり何時であろうと何曜日であろうと修理で呼び出されて対応していたにもかかわらず,業者を変更され,目も当てられない。出荷時期は出荷量や斃死数に関し社長の機嫌がころころ変わり,出入禁止業者が増える。日曜日に消毒を依頼されたが,立ち会えない旨説明する。
カンパチの出荷終了後から消毒を実施したが,カンパチの出荷尾数が合わないことを斃死の付け間違いだと断定され,逐一報告するよう命じられ,翌年の出荷前(6月末)に生け簀
H25.9.6
H25.9.18

H25.10.3

H25.10.7

H25.10.11
H25.10.21

H25.10.25

H25.10.28
H25.11.6

H25.11.14

H25.11.19
H25.11.29
H25.12.2
H25.12.27
H26.1.8
H26.1.14

ごとの出荷可尾数を提出するよう言われる。
Mの担当者は,
情報を上げなければ首になると必死となり,
薬事法違反となるのではないか
と思われる投薬を進言していた。
カンパチの2歳魚に寄生虫の付着が多く,スレが出ていると報告を受け,急遽消毒を実施。生け簀6台について実施したが,
うち4台は消毒が間に合ったものの,
残り2台はスレが多
く見える。
社長に報告すると,
翌日で2歳魚の10台を完了し,
続けて1歳魚の20台も消
毒を指示される。消毒薬は全て本件会社の納入だが,Mも立ち会っている。他業者でカンパチの大量斃死があったため,社長に提案して消毒を実施する。マダイの出荷量が少ないことなどから,社長が取引業者に激怒して縁を切ると言い出したため,説得して思いとどまらせたが,従業員に矛先を向けて仕事が遅いと激怒する。カンパチの消毒を実施したが,Mの担当者は売上がないため立ち会わなくなった。マダイ新物の出荷が開始し,
色揚げも全て本件会社からの納入分となっているが,
社長が色
がきれいだと販売先に触れ込んでいるので,明日が正念場となる。飼料業者が社長から変更されそうになり,担当者が継続をお願いしていた。新入従業員が2日連続で休んだため,1か月持たずに社長からクビと言われた。ブリの斃死を確認し,
社長から投薬指示が出たため,
急遽配達してもらい午前中に投薬。

長から,お前(亡A)にハマチ投薬しとけと言えば何台で薬剤は何をやるか把握しているので助かる,と言われる。
話の流れから薬剤を特定して投薬指導したが,ハッと思い社長に確認不足を謝罪したところ,
確認しなくても信頼しているので必要ないと言われたが,今後は確認を怠らない。昨日の消毒立会いにM担当者が来ていなかったことについて社長から聞かれ,実際には声を掛けたものの用事があって来られないと連絡あったが,声を掛けていないので次からは声を掛けると説明する。
実際のことを言うと完全に出入り禁止となるので,
今後のことも考
えて慎重に発言していく。
マダイの出荷について,責任者が交替したばかりなので亡Aが指示を出すように言われたが,
生け簀の放養尾数,
日々の出荷尾数,
ハネの尾数を確実に把握しないと対応できないた
め,責任者と密に連絡をとり指導していく。
カンパチの生け簀13台の投薬立会指導。
寄生虫の付着等が増加していたため,
社長に報告
し,次回の消毒日程を早めるように指示される(2~3週間)

社長は同業他社の出荷状況が気になるらしく,毎日報告するよう求められる。スズキの斃死が増加しているが,
検査室に持ち込んでも原因が不明であったので,
自ら捌い
た結果,
産卵の影響であると考え,
社長に説明して産卵後に対応した魚薬の導入を決定して
もらった。
カンパチの消毒を実施したが,寄生虫の付着のため,スレや斃死が多い。社長に報告すると,1歳魚は明日までに全て終わらせるよう指示される。2歳魚を3.5週,1歳魚を2週の間隔で消毒を行っていく。
スズキの産卵後に対応した魚薬の投与を行っているが,斃死は変わらない。カンパチ2歳魚の消毒を実施したが,
4週間隔では思ったより寄生虫が多く,
社長に3週間
後の消毒を提案する。
スズキの導入に立ち会う。
EU輸出向けの検査が入り,ハマチの導入から出荷までの投薬履歴を見せ,倉庫を案内。社長が出張のため年末の挨拶をしたところ,斃死など異常あれば連絡するよう依頼される。年末年始にマダイの出荷が思うように出ず,社長は不満の様子であった。機械故障により,直ぐに修理に来なかった鉄工所を出入り禁止とし,業者を変更。カンパチを3週間隔で消毒を実施したため,寄生虫の付着は少量であると社長に伝えるが,社長から失敗できないので早めに消毒を実施するよう意見を受ける。
トップに戻る

saiban.in